BBS2 2009/11 過去ログ



Beginning  第4話
古川さとし 11/30(月) 06:18:21 No.20091130061821 削除


「どうしたの?」

「優子のヤツ、風呂に、風呂に一緒に入るって」

 どうしよう、と遠藤は狼狽えるしかない。おろおろする遠藤に、志織は近づいて、こともあろうに下から抱きしめてきた。

「ちょっ、ちょっ、志織さん!」

 遠藤はとっさに動けない。

 車に乗ってきた時に感じたのと同じ匂い。

『確か、シャネルのなんだとか……』

 香水には詳しくなくとも、男の腹の底をくすぐる匂いだと実感させられる。しかも、その柔らかな肉体が、遠藤の胸に、抱きついてきているのだ。

 抱きしめてしまいそうな自分を抑えるのは、今、この瞬間、優子が相沢と何をしているのか、思い出すしかない。

「ふふ、優子、相変わらず、暴走するなあ、あ、さすがあ、やっぱり、すごい筋肉」

 苦笑いの表情を作りつつ、その指先が、シャツの上から、大胸筋を撫でてくる。まさしく、誘惑されでもしているかのようだ。
 もちろん、その姿は、エロスそのもので、普段なら、クラッと来るかもしれない、しかし、今は、事態が急だった。

『妻が、男と風呂に!』

 そう思えば、志織の柔らかな身体の魅力も、ときめいている場合じゃない。

「そう言う場合じゃ!」

 ようやくの思いで、志織から離れると、部屋をぐるぐる歩きまわった。

「でも、部屋番号もわからないんじゃ、手の打ちようがないわよね」

 ベッドに、ちょんと腰掛ける。
 まるで、そのまま押し倒して良いよと、言っているようだった。
 そんな無防備な人妻の姿から、遠藤は無理矢理、目を引きはがす。

「しかし、何か方法が…… そうだ!フロントに」

「ムダだと思うわ」

 ベッドサイドの受話器を取り上げたが、フックを、志織はカチャリと指で切りながら言った。

「どうして」

「相澤なら、口を封じるくらいします。それより、今動いたら、連絡が来た時に動けなくなるわ。少し待ちましょ」

「それは、そうかもしれないけど、でも」

「ね、二人ともいい大人なんですもの。たかだか、ブラを見せた見た、くらいの復讐なんて、たいしたことないわ、きっと」

 それより、これじゃ、私もお風呂に入った方が良いのかしらと、遠藤をどきりとさせるセリフ。
 遠藤は聞かないフリをして、部屋を、またぐるぐると歩きまわる。

「動物園の熊さんよ、それじゃ」

 冷やかすような言葉を掛けられても、足が止まったのは一瞬だ。受話器をにらみ、ドアをにらみ、部屋をぐるぐる歩きまわるしかない。
それから、きっちり10分後だった。
 苦悶の10分を過ごした遠藤は、内線が鳴った次の瞬間、受話器を取り上げていた。

「あなた。今、私、どこにいるかわかる?」

 怒りの入った、トゲのある声が、反響しながら聞こえる。
 背景に、シャワーの音が盛んに聞こえる。
 間違いなく、バスルームに付いている内線からだ。

「おまえ、まさか……」

「なによ、悪いの?探しもしないなんて。良いのね。本当に、これからよ」

「本当にって、これから何をするつもりだ」

「あら、シャワーを浴びたら、することなんて一つしかないでしょ。男と女が一つの部屋なんですもの」

「なに!や、止めろ、優子!やめろ!ブラを見ただけで、何もそこまですることないだろ!」

「あら、他人の奥さんのブラを見た腹いせだとでも?」
 一瞬の間。

「いやあねぇ、私がしているのは、オトコの人と二人っきりでホテルの部屋にいるのに、その奥さんを捜しもしない冷たい夫に、復讐してるってことだけ。じゃ、忙しくなるから、切るわ」

「おい!おい!!」

 切れた電話のフックをガチャガチャとたたいた後、遠藤は、決意を込めて、志織を振り返った。

「そんな顔しないで、大丈夫よ。すぐ冷静になるに決まってるわ」

 チラリと時計を見た志織は、なぜか、恥ずかしそうに顔を染めて、それからニッコリと微笑んでから、遠藤に言った。

「じゃあ、どうしても我慢できないなら、まず、元の部屋に行ってみたらどうかしら?」

「そ、そうだな、君は?」

 腰を浮かしながら遠藤は、尋ねたが、志織の返事を聞く余裕はもう残ってなかった。
 部屋を飛び出す遠藤。

「私は後から行くから〜」

 背中越しに、志織はベッドの上に座り込んだまま、声をかけてきたが、遠藤はもう聞いていなかった。
 さして広くないリゾートホテル。 
まして、代理店を通して一緒に取ったから、実は同じフロアの反対にある。近すぎず、遠すぎずの絶妙の注文だった…… ハズだったのだ。

 遠藤は走る。

「Don't disturb」の札がかけられている、その部屋を、慌ててノックしても、返事はない。

「優子!優子!ゆうこぉ!」

 ドンドンドンドン。

 ドアを破ろうかという勢いでたたいた拍子に、その札についている、小さな紙片に気がついた。

「1201?」

 最上階だ。
 このホテルのご自慢のスイートルームだと、たしか、ここに来る前、優子からガイドブックを見せられていたのを思い出した。
 グランドピアノまで置いてある、贅沢さだという。

「クソ!金持ちめ!」

 遠藤は、吐き捨てて、エレベータホールに走り寄る。
 そこには、志織が待っていた。
 エレベータを押さえてくれていたのだ。

「さんきゅ。一番上。12階だ!」 

 駆け込んだ遠藤を見て、ボタン操作をした志織は、なぜか、下を向いている。少し恥ずかしそうな表情だが、もちろん、遠藤には気がつく余裕など無い。
 ドアが開くのももどかしく飛び出した遠藤が左右を見渡す必要もなかった。

 真っ正面に、ドアが開いている部屋がある。

 豪華な絨毯が見えていた。

「優子!」

遠藤は、何も考えずに、ただ、妻の名前を呼びながら飛び込んでいった。

知られたくない遊び12
道明 11/29(日) 14:01:46 No.20091129140146 削除

 その頃翔子の夫、松田哲平は倒産した会社の弁護士との交渉がヤマ場を迎えていた
 交渉は、倒産会社の債務弁済の第一順位が公租公課と従業員への債務に充てられることとなり、政府からの保障制度もあって哲平たちの真摯な姿勢と努力の成果が報われたのである

 哲平は、このことを翔子に伝え、少しでも、妻の不安を和らげようと、昼間に携帯に電話を入れたが電源が切られていた
 夕刻に電話をすると、呼び出しはするものの翔子は電話には出なかった

 哲平の携帯に翔子からの着信のメロディが鳴ったのは午後7時である



「あなた、翔子です・・・ごめんなさい、何度も電話があったみたいで」

「いいんだよ、翔子は研修中だったんだから・・・・
 喜んでくれ、今日の交渉で目途がついた、それを早く知らせて安心させようと思ってね」



「そうだったの・・・それで」

「その後の交渉で大筋、会社とは合意に扱ぎつけたよ・・・
 こちらも譲歩はしたが、いつまでも引き伸ばしてはおれないからね」



「それじゃ・・・・あなた、こちらに早く帰ってこれるのね!」

「ああ、そうだな・・・・今月いっぱいでこちらを引き払って、来月から就活だ」



「あっ!・・あぁぁぁ・・」

「おいおい、急に大きな声だすなよ・・・・嬉しい気持ちはわかるけど」



「うっ!・・ごめんなさい・・・でも、本当に嬉しくて・・・あなた、早く帰ってきて」

「勿論だ・・・できるだけ早く帰れるように頑張るよ」

「はぁっ!・・・あなた、それじゃ私、待ってるから」



翔子から電話を切った


(翔子のやつ・・・気が動転しているな・・・まあ、心配をかけたからな
 家に帰ったら・・これからは俺の方から・・・・・)


哲平は、携帯電話に優しくキスをした
目の前のパソコンの画面の中で、自慰に耽っている妻の翔子が自分を見つめている


(もう直ぐ帰れる・・・そうしたら、翔子・・・)


哲平は心身とも疲労しているというのに、今夜も一人で男根を・・・・


――――――――――――――――――――――

こちらは、空港近くのホテルの一室
岩井が泣きじゃくる翔子の裸の背を擦っている
翔子が哲平と電話をしているというのに、岩井がお構い無しに悪戯をしていたのだ


「翔子、優しい旦那じゃないか・・・・
 とても、俺とこんな関係になったなんて、話せないよなぁ」

「どうしよう・・今日の私、どうかしていた・・・・・夫に申し訳なくて」



「なんだ、またそんなことを?・・・あんなに、俺のもので善がり狂ったくせに」

「私、今日の私・・・何時もと違う、少し、変なんです」

「少し、変!・・ね・・・まあいい
 変であろうと無かろうと、お前から俺の一物にしゃぶりついて善がり捲くったのは事実
 翔子、あれだけ喘いだら喉が渇いたろう?・・・これを飲むといい、すっきりする」



翔子は、岩井の差し出すドリンクを一気に飲み干す
その様子を満足げに笑いながら眺めている岩井・・・ドリンクはもちろん媚薬入りだ


(翔子・・・もう一度、今度はきっちりと引導をわたしてやる
 ・・それで昇天、成仏だ、お前と旦那との糸を切ってやる
 さぁ、今夜のうちにお前は生まれ変わるんだよ、翔子・・・・俺好みの女にな) 


悪魔のような容赦のない責めは明け方近くまで続く
そして、生贄の女の善がり声は部屋中に響き渡り、止むことはない・・・

Beginning  第3話
古川さとし 11/29(日) 08:44:23 No.20091129084423 削除

「どうします?」

 志織が無邪気な表情で聞いてくれるのは、いっそ、救いなのかもしれないと、遠藤はチラリと思う。

 美貌の人妻とホテルの部屋に二人っきり。
 おまけに、まるで遠藤の心をザワザワと、ワザとかき回しでもするように、手を伸ばせば届く距離で、見上げてくる。
 首を右に傾けるようにして見上げるから、切りそろえられた髪が右側に集まっている。コケティッシュな黒目がちの目は、まるで潤んでいるように、カーテン越しの光を反射している。
 まるで不倫のカップルがホテルの部屋に落ち着いた直後の風情だが、遠藤は、誘惑されている場合じゃない。

 もちろん、志織だって、誘惑しているつもりもないだろう。
 相澤は、本来なら夫婦で入る部屋に優子と二人で入ってしまった。追いかけようとした二人の目の前でドアは閉じられてしまったのだ。

 元はと言えば、軽いノリのイタズラのつもりでブラウスを開けて見せたのが原因だ。志織を、責める気になれないが、自分が悪いとも思えないだけに複雑だった。

 妻が、男と部屋に入ってしまった。そして、妻は、怒ると何をするかわからない性格で、つかの間の夫の「不義」に、怒っているはずだった。

 さてさて、どうしたものか。

 かくいうわけで、部屋に入っても落ち着くわけがない。
 豪華な装飾品の数々も、目に入るどころではない。
 ドア越しに騒ぐわけにも行かないが、いくら内線で呼んでも、返答は全くない。

「やっぱり、もう一度、直接行った方が」

「ダメよ、もうちょっと待って」

 部屋を出ようとすると、白い両手を遠藤の胸にあてて、通せんぼ。無理に通ろうとすれば、志織ごと抱きかかえるように動かねばならない。
 さすがに、よその人妻に、そんな動きもできず、立ち止まる遠藤。

「しかし、ね」 

「だけど、ほら、まあ、主人も、子どもじゃないんだし。ちょっとブラを見せたくらい、ねえ」

 そうは言っても、部屋に入ってから、早くも1時間はたとうとしている。
 こちらから掛けても受話器を取らないし、どれだけ待っても内線一本かかってこない。それに、なんと言っても遠藤が気になるのは、優子の気の強さだ。
 普段は、夫に気も使うし、人一倍優しい優子も、一度怒ると、とんでもないことをしでかしかねない強硬な向こうっ気の強さを持っているのだ。

『まさかとは思うけどなあ〜』

 いくら考えないようにしても、自然と浮かんできてしまう光景を、遠藤は、慌てて打ち消した。
 さっきから、浮かべては消す、浮かんできては放り出す。それを何度やったか、わからないほどだ。
 と、そこへ内線がかかってきた。
 一瞬、見合って、遠藤が受話器を取り上げた。

「あ、あなた?あのさ、さっき、なによ。鼻の下を伸ばしちゃって」

「いや、あれは、えっと、あ〜、えっと」

 一瞬、志織が勝手にやったんだ、と言い掛けて、それは言い訳になってしまうと思い直す。第一、志織だって、嫉妬深いという夫との関係もあるはずだ。
 そう考えると、遠藤の口も鈍ろうというものだ。ビジネスなら、どんなときでも、誰とでも渡り合うが、こんな時に言葉はなかなか出てこない。

「あれは、お、あ、お、お前が先に、車の中で着替えたりするから」

「私は、ワザと見せたりしません。第一、相澤さんは紳士だから、後ろを見たりしませんでした。それが、なによ。私が、ワザと他の人に下着姿を見せるとでも?」

「いや、そういうんじゃなくて……」

 やはり、優子は怒りモードらしい。一番恐れていた事態だ。
 旅先のせいか、それとも、今までにないほどの怒りを見せているためなのか、少し雰囲気は違がう気もするが、怒っているらしい。

「ともかく、まず、部屋に集まろうじゃないか」

「あのね、相澤さん、ショックを受けてるの。奥さんの胸を見た男なんて見たくないって。だから、この後、あなたに代わって私がお詫びをします。お互い様だもの。あ、部屋を変えてもらってるから、来てもムダよ」

「え?オイ!お詫びって!お互い様って!どうするつもりだ!おい、おい、おい!」

 遠藤の言葉など聞いちゃあいない。
 ガチャリと切られた電話は、もはやつながらなかった。
 そして、優子の言葉通り、向こうの部屋にいくらかけても、電話は取られることがなかった。

「困ったわねぇ」

 そのくせ、かしげた顔は、ちっとも困った表情に見えない。
 太い眉を曇らせた志織は、ふうっと一つため息をついた後、おもむろに、オープンハートのイヤリングを外し始めた。

「な、なにを……」

 びっくりした顔に、かえって、志織は驚いたらしい。手に取ったイヤリングと遠藤を一瞬見比べてから、恥ずかしそうに笑う。

「え?あ、や、やあね、勘違いしないでね。イヤリングが痛かったの。今度ピアスにしたいんだけど、相澤はダメだって言うし」

 ピアスの方が、流行っていたが、優子達のS女子短大では禁止されていた。お嬢様学校ならではの時代錯誤だ、と優子も言っていたが、卒業生は、その影響か、ピアスをあまりしたがらないのだ。

 だから、今流行している大きめの飾りのついたイヤリングは、どうしても重たくて痛くなるらしい。

『優子は今頃、同じようにイヤリングを外しているのだろうか』

 遠藤の胸が苦しくなる。「お詫びをします」優子の声が耳にリフレインしている。

 カチ、カチ、カチ、時計の音だけが響く中、5分もしないうちに、優子から電話だ。

「あなた、やっぱり、私、これからお風呂、入るわね」

「風呂?え、お、おい、まさか……」

「そうよ、子どもじゃないんだし。そのくらいのことをあなたはしたんだわ、じゃ」

 またも、ガチャリと電話が切られた。

「優子、優子、優子!」

 ツーという虚しい音だけが、遠藤の耳に響いていた。



知られたくない遊び11
道明 11/28(土) 10:09:25 No.20091128100925 削除
朝の通勤時間帯の空港ロビー

 (チィ・・糞面白くも無い・・・一億円が塩漬けのままか)


 経済新聞の株価の動向を食い入るようにサングラスの男が読みふけっている
 岩井惣一はフランチャイズの喫茶店を経営する傍らで、株式投資にも手を出した
 あのリーマン・ショックで下落した株価は漸く、7割程度まで回復したものの
 プロでも予想だにしなかった暴落に保有している株式は塩漬け状態が続いている
 この男に喫茶店経営の才はあるが、投資についてはまだまだ授業料が必要だ

 予定の時刻に待ち女はいまだ、現れず・・・・・・イライラがつのる



 「オ・・オーナー・・・遅れてすみません」

 「おっ!・・なんだ、その服装は?とても、旅行に行く・・まあいい、俺のあとについて来い」



 「あの・・私・・・・」

 「いいから、ついておいで・・・」



 岩井の足は、空港近くの女性ファッションの店の前で立ち止まる

 「いいか・・・口答えは許さんぞ」



 1時間後、店の前で女性オーナーが深々と頭を下げ、二人の客を送り出した


 (まあ、可哀そうに・・・翔子さんて言ったかしら、気の良さそうないい人なのに
  これまでの人と同じように、暫くの間、惣一ちゃんのオモチャにされるのね)



 その視線の先では
 岩井が情夫気取りで、翔子の肩を抱き、新調のワンピースの腰に手を回している
 翔子が嫌がり立ち止まると、岩井が耳元で何か囁いている
 そして、岩井の手がいやらしく翔子のヒップを撫で回す


 (惣一ちゃん・・・いい加減にしておかないと・・・今に天罰が下るわよ・・本当に)



 岩井は、この期に及んでまだ覚悟を決めない翔子に手を焼いていた
 このままでは、楽しみにしていた旅にはとても発てそうにない
 岩井は、翔子を近くの公園のベンチに座らせた



 「翔子・・・まだ、決心がつかないのか!」

 「オーナー、お願いです・・・私には夫がいます、写真を返してください」

 「だから、言う事を聞いてくれたら返すって、言ってるだろが!」



 翔子は縋るような視線を岩井から、ベンチの正面に見える大きな楠の木にふる
 大木の根元から幹、そして力強い枝振りを眺めながら・・


 「でも、それって・・・脅迫?強要?
  ・・・・・・・・それなら・・私、警察に相談するしか方法 が・・・」

 「えぇぇ!ちょっと待ってよ、しょうがないなぁ・・そんな風に考えてるの?」



 「・・・・夫も相談できる状態じゃないし・・・警察にしか・・・」

 「はぁ・・・?そんなに深刻に思わないで、俺は気軽な遊びのつもりなんだよ
  折角、手助けしてやろうと思っているのに・・・
  しかたがない、もう、わかったよ・・・・ほれ写真と記録したメモリだ」

 「そ、これが・・・」



 翔子の顔に安堵の喜色が広がっていく



 「ああ、プリントした写真はその1枚だけ、データはすべてそのメモリの中だ」

 「あ、有難うございます・・・オーナー、分かって頂けたんですね」



 翔子は純粋だ、それに予想した以上の上手く運んだ顛末に、気が緩んでしまう


 『喉が渇いたろう?』と、親切げに自動販売機の珈琲を手渡す岩井に、素直に応じてしまう、疑ることなど今はできない
 狙った女を騙すために作戦を変更した男の本心など、とても翔子に読める筈がない
 そうだ、この男のとっておきの裏強行策・・即効性の睡眠剤と高価だが性欲を高める薬が仕込んである・・・
 岩井は時間稼ぎに、翔子に語りつづける

 

 「オーナー・・・私、昨日、心配でよく眠っていないの・・何だか少し、眠く・・」

 「そうなんだ・・俺は翔子にそんなに心配をさせたんだ
もう安心しただろう、ここで少し眠るといい・・・・もう終わりだよ、翔子」



公園のベンチに座っている男と女

周囲の人目など気にもせず、男は腕の中で眠っている美しい獲物に舌を這わしていく・・・・・・

Beginning  第2話
古川さとし 11/28(土) 06:37:18 No.20091128063718 削除


「あら、私じゃご不満かしら。そりゃ、キャンギャル候補にまでなった優子にはかなわないけど、私だって、それなりに、のつもりよ」

 優子の輝かしき過去だった。

 最終審査、ギリギリの段階で学校にバレてしまった。一説には、ライバルが、最有力の優子を蹴落とすためと囁かれたほど。
 もちろん、お嬢様女子短大が、現役学生の「はしたない」行為を認めるわけがない。
 退学か、キャンギャル最終審査か、を選んだ結果、優子は涙を呑んだのだ。親を泣かせるわけにはいかないのだ。
 世が世なら、今ごろ、世をときめくキャンギャルとして、映画の一つにも、出ていたかも知れない。
 優子は、結婚後、この話を一度だけ教えてくれたこともあったが、滅多に自分から話したことはない。まあ、それを知っているのは、志織だからと言うより、同窓生には有名な話ということだろう。

 優子が、志織夫婦の経済力にコンプレックスを感じるなら、志織は、オンナとしての経歴にコンプレックスを感じているのかもしれない。
 志織は、優子の美貌とプロポーションをことあるごとに褒める。
 だが、優子と比べるのはともかくとして、一人の女としてみれば、志織は、並、どころか、群を抜いている。

 チラリと、横目で志織を見ると、ワンレングスの髪をさっと、後ろに流した横顔が見えた。くっきりとした目鼻立ちも、細いアゴも、遠藤の好みだった。

『パイオツも、でかいんだよな』

 ふと、思い出していた。
 あの、バッティングした結婚式のせいで、志織は、メーン会場でウエディングドレス姿を披露することになった。その志織に向かって、カメラ小僧達が、群がった。
 おそらくは、どこかの女優かと思ったんだろうと、後から友人から聞かされたのだ。
 また、ちらりと、志織を見ると、すました顔で、ウインドウの枠に肘を突いている。くっきりと黒々とした眉毛の下は、吸い込まれそうな黒目がちの瞳。
 ふと視線を、そのまま落とす。
 くっきりと、胸が突き出ている。
 ボディコンスーツなど着なくても、そのバストがロケットの先端のように、細身から飛び出しているのを遠藤は知っていた。去年、一緒にグアムに行った時、大胆な水着姿の実物を拝ませてもらっていたのだ。

『いい女だよなあ』

 しかし、遠藤は、落ち着かない。
 志織が助手席に乗るのは良い。しかし、優子が向こうに乗っているのは、たとえ、あと5分の道だと言っても何となく嫌な感じだった。

『第一、着替えったって、一度も止まらなかったってコトは車内で着替えたんだろ。それも、ブラウスまで、それを……』

朝、着替えていた優子を思い出していた。 
 しなやかな裸体に、ピンクの上下を着けていた姿を覚えていた。ブラウスの下は、そのブラだけしか着けてない。
 志織ほどのロケットバストではないが、弾力と、そして敏感さは天下一品だと、遠藤は思っている。
 その見事なバストを包んだピンクのブラを、相澤は見たのか、と遠藤は嫉妬の炎がメラメラと燃えてしまうのだ。
 その雰囲気を察したのか、志織がハンドルを持つ左手をそっとさすってきた。

「大丈夫よ。ほら、つづら折りのカーブだったし。見る余裕なんて無いわ。それに一瞬だもの。それとも、おあいこにする?」

 え?っと思った時には、志織の手が動いていた。

「ほら、こっち、見る?でも、事故はいやよ、運転はちゃんとね」

 海岸沿いの道。つかの間の見通しが良い直線が続く場所。
 すばやく遠藤の目が動いた。
 思いっきり、ブラウスごとはだけられていた。
 その目に飛び込んできたのは、はだけた白いブラウスに縁取られるようにして、紫のブラ。
 あの、ロケットバストが、なまめかしくブラに包まれて、手の届きそうな距離にあったのだ。

「ふふ。お終い」

 パッと、ブラウスを閉じていく志織だ。
 とっさに目を前に戻す。

『うわっ』

 遠藤は内心、悲鳴を上げた。
 遠藤の心の悲鳴にも気がつかず、志織はなまめかしく囁いた。

「これで、おあいこってコト。でも、遠藤さん、相澤にはナイショよ。結構、ヤキモチ焼きなんだから」

「え?相澤さんが?信じられないな」

 遠藤の顔は余計に引きつった。
 ヤキモチ焼き……

「もう全然よ。いっつも、旅行が終わる度に、あなたとのこと、ここをほめてた、アソコをほめてた、ここで手が触れたって。もう、大変なんだから」

「触ったことなんかないよね」

「ま、偶然触れても、相澤には、そう見えないってコトでしょ。私も覚えてないこと、すっごくネチネチちくるんだもの。やっぱり遠藤さんの方が若くて格好いいからかな」

確かに、スーツでも車でも負けても、学生時代に水泳をやった遠藤は、たくましい筋肉と、そして、精悍な顔立ちは優子が友達に自慢するだけあって、密かに自信はある。
 特に、日焼けしたたくましい肌に、白い歯は、見栄えがするはずだ。
 と言っても、学生時代と違って、日焼けは、日焼けサロンのおかげだったが。
 その点、相澤は、中年太りこそしてないが、既に、腹はたるんでいるし、筋肉など申し訳程度。
 優子との会話を何気なく耳にしていた。
 志織が口悪く、自分の夫のコトを「あんパンにマッチ棒を刺したような身体」と言ったのが、まるで聞こえでもしたのか、グアムでも、2日目にはビーチでTシャツを脱がなくなってしまった。
やはり、それなりに、誰しもコンプレックスがある、と言うことかもしれない。

「まあ、じゃあ、部屋についたら、もっと、いじめられるよきっと」

「え?どうして?」

「だって、さっき、見てたモノ。相沢さん」

「え?ウソ!今、見せてた所を?」

 うん、と肯いて、顔は引きつったまま、言葉を出す。

「ウソじゃないよ。ミラーの中と、目があったモノ」

「うそぉ、どうしよ」

 両手で口を押さえる志織。
 その瞬間、車はホテルのエントランスに入っていた。
 遠藤が、車から急いで出た瞬間、相澤の声が聞こえてきた。
 駆け寄ってきたベルボーイにチップの札を渡しながら相沢は大声を出した。

「後ろの車の女性の荷物をオレの部屋に。こっちの荷物をあちらの部屋へ。よろしく」

 いつの間にか掛けたレイバンで隠れた目。
 表情は、よくわからなかったが、相澤が強い怒気を放っていることだけはよくわかった。
 遠藤は、ベルボーイが押し殺そうとしても隠しきれない不思議そうな顔をして近寄ってくるのを止める気力もなくしてしまったのだ。
 そこへ、恭しく相澤が開けて見せたドアから、優子が、優雅な身のこなしで降りてくる。
 ツンという表情で、遠藤を見てから、わざとらしく相澤の腕にもたれながら歩き出す。
 普段は優しくても、一度怒ると、とことん厳しい優子の性格を、近頃わかってきたところだ。
 怒った優子は何をやるかわからないところがあるのだ。

「ふう〜どうやら、ひと騒動ってコトか」

「ごめんなさい、こんな事になるとは」

「いや、いいって。こっちも油断したんだから」

 遠藤は、手を合わせる志織と一度目を合わせてから、やれやれ、と苦笑いを浮かべるしかなかった。

鎖縛 12
BJ 11/28(土) 01:32:06 No.20091128013206 削除
【自宅で、携帯に出たAの第一声は『ご主人さま…』というものでした。
 震えを帯びたそのマゾ声を聞いただけで、Aの肢体がいまどのような情態にあるか、どれほど性の喜悦に飢えているかが感じ取れ、私はほくそ笑みました。】

【Aはその夜、友人の家族の通夜に行くことになっていました。
 『股の間に貞操帯をぶら下げたままで行くのか?』とせせら笑ってやると、Aはか細い声で『そんな風に言わないでください…』と言います。
 『重度のマゾの癖に嘘をつくな。本当はもっと酷くなじられたいんだろう?』
 受話器の向こうで絞り出すようなAの吐息が聞こえました。】


 簡潔な文章でありながら、『砂漠の住人』とAの淫靡なやりとりがありありと思い浮かぶ。
 それにしても。
 友人の家族の――通夜?
 ごく最近…、そうした場に出掛けた人間が、自分の身近にいなかっただろうか。
 考えるまでもない。
 瑛子だ。

「4×歳」
「専業主婦」
「高校生の娘が一人」


 Aは――


 いや、そんなはずはない。和洋は脳裏に描いた妄想を早々に打ち消した。

 妄想――そう、ただの妄想だ。

 それでも、それなのに、和洋の胸をひやりとさせたのは、Aの境遇と瑛子のそれとの共通点もさることながら、トップページにあった一枚目の写真が念頭にあったからだ。写っていた上品な奥様風の女――Aの、無駄な肉のないほっそりした体型は、20年近く連れ添った妻の肢体によく似ていた。

 ただ――それだけだ。

 しかし和洋は、冷えた胸の高鳴りを抑えられぬまま、ブログを読み進めた。


【私はAに週末は土日の2日とも空けておくように命じました。もちろん、ひさしぶりに外へ連れ出して、じっくり調教をしてやろうという腹積もりです。
 Aは弱々しく抵抗しました。娘をほったらかしにして2日も家を空けられないというのです。
『せっかくお前の好きなことをしてやろうというのに、いやというのか。残念だな。私も忙しいんだ。次に連絡を寄こすのがいつになるのか分からないぞ。それまでずっとあそこに鍵をかけたままでいたいんだな』
『……………』
 呆れたような声で私が言うと、Aは黙りこみます。】

【『もう電話を切るぞ。それじゃあな』と私は冷たく告げました。Aは心底動揺したように『あっ…』と情けない声をあげます。
 『何が「あっ」だ。お前、自分がどんな存在か忘れているんじゃないのか。言ってみろ、お前はいったい何なんだ?』
 Aは小さな声で、『ご主人さま、の、ペットの、牝犬です…』と切れ切れにつぶやきました。すでにこのマゾ女の呼吸はかなり乱れています。
『もう一度言え』
『わたしはご主人さまのペットの牝犬です』
 今度は一息に言いました。】

【Aは結局、週末の調教旅行を承知しました(もとより拒否権などないのですが)。
 それとは別に、私は喪服姿のAを辱めてみたいという衝動に駆られて、その夜、通夜が行われるという式場の近くに車を停め、Aを呼び出すことにしました。】

【焼香を終えて式場を出たAは、周囲を気にしながら小走りに指定した場所へとやって来ました。通夜の席上でも、その後の私とのプレイのことを考えていたのでしょう。Aの瞳は潤み、頬は上気して、すっかりマゾ顔になっています。】

Beginning 第1話
古川さとし 11/27(金) 18:10:49 No.20091127181049 削除
 既に、アスファルトはじりじりとした日差しに焼け始めている。
 海老名インターでの待ち合わせ。
 相澤の車に積んでいる自動車電話に連絡しようと公衆電話を探した矢先に、鉢合わせた。

「あ!」

「まあ!」

 優子は、パッチリした瞳を見開いて、両手を口に当てた。
 志織は、長いまつげをパタパタ、音がするんじゃないかと思うほど瞬きをしてみせ、口が、アルファベットのオーの形のまま。
 ワンレングスの髪が、ふわりと顔を半分覆った。
 それは全くの偶然。
 志織は緑色の有名ブランドのボディコンスーツを見事に着こなし、流行し始めたワンレングス。
 夫の相澤は志織と14歳離れているが、お調子者のファッション誌が取り上げ始めたアルマーニのスーツを渋く着こなしている。 
 この間、丸井で買ったばかりの夏物のスーツ姿を着た遠藤は、ソバージュヘアの妻を振り返った。
偶然、というのは、先週、優子も同じブランドのスーツを買ってきたのだ。
 それも、色違いの紫。
 おそらくは、いち早く流行を取り入れたのは志織を意識してのことだったのだろう。しかし、いくら景気が良くなったとは言え、遠藤の給料では、かなり無理な値段だった。
 超一流会社の出世組筆頭にいる遠藤でも、メーカー勤務では、証券マンの、それも一回りも年上の相澤とは、給料の格差はしかたない。
 なにしろ、いまや、証券、銀行にあらずば人にあらずの世の中だった。
 証券会社の高卒の窓口嬢のボーナスが、遠藤のものより高いという現実があったのだ。
 おそらく、優子は、逆にそれを意識しての奮発だったのだろうが、普段から着こなしているのであろう志織とは、持っている雰囲気が違ってくるのも当然なのだ。
 相澤夫妻との夫婦旅行が、すっかり定着していた。
 冬はスキー。夏は海。
 ただし、遠藤は流行り初めのスノーボードにこだわるから、近場だと、苗場あたりに限られる。初めは奇異の目で見られたスノボも、厄介者としてあちこちから閉め出され、許されているスキー場は少ない。

「あなたさえこだわらなければ、もっと空いているところもあったのに」

 怒って見せた優子をなだめるのは志織のいつものこと。

「いいじゃないの、優子。苗場なら、アフターも良いし、食事も良いわ。」

 志織と優子は、お嬢様で有名なS女子短大の同級生。
 大学時代は、ごく普通のクラスメイトであったのだ。
 二人は、同級生の大半と同じように、就職してすぐに親が持ち込んだ。縁談相手は、年上だが、釣書は文句ない。背も、学歴も、そして、収入も言うこと無し。
 多少の年の差など、出会ってみれば、あまり関係なくなるモノらしい。とんとん拍子に結婚が決まったまでは、お互い、相手のことを知るよしもない。
 それが何の偶然か、ホテルの手違いで結婚式場がバッティングした。その相手が、元同級生だと気がついた時から、二人の仲は、絶妙に息が合ったのだ。
 ちなみに、手違いを認めたホテルは、芸能人が披露宴をするようなメインのフロアを相澤夫妻に提供し、その代わり、遠藤は、会場代をタダにしてくれた。
 まあ、優子のうらやましそうな顔は仕方がないが、400万からの会場代がタダになったのだから、その分を派手な海外旅行にするカタチで納得させられたのだ。 
 とはいえそれ以後も、経済力の差をなにかと意識せずにはいられないのが女心というモノだろう。
 だから、くっきりした眉と、やや肉厚の整った形の唇が美しい、志織に会うのも遠藤は楽しみだったし、優子も旅行を楽しみにしていたのだが、微妙な女心は、痛し痒しだったのだ。
 今日だって、相澤は、愛車のBMWでやってきた。
 遠藤は、高級化して出たばかりの新車だとはいえ、カローラ。
 その差は歴然としていた。
 もちろんこんな時は、志織も無神経ではないから、ちゃんと「新車」をありがたがって、高速を降りるまでは、二人で遠藤の後部シートに乗っておしゃべりを楽しむ。
 その間、相澤は、一人、先導して運転しているのだ。
 その代わり、高速を降りれば、二人は、BMWの後部シートへ行ってしまった。
 これから、ホテルまでは一人で運転することになる。

「なんだかなあ」と一人つぶやく遠藤なのだ。

 もっとも、海に続く道のりは、気分が良い。山道を緩やかなカーブで抜ける有料道路で、新車を運転するのも格別だ。
 日差しがまぶしい。

「よ〜し、ホテルに着いたら、さっそくスクーバでもやるか」

 最近やっとライセンスを取ったばかりの遠藤は、海に向かって快調に車を走らせている。
 しかし、あと5分でホテルに着く、というあたりで、急にビーエムがハザードを点けて停車した。
 紫のスーツが走り寄ってくる。

「どうしたんだ、ゆう……? 志織さん!」

 遠藤の横に乗ってきたのは、なんと、優子のスーツを着た志織だった。
 妻とは違うコロンの香りが、たちまち新車の匂いを圧倒した。
 仰天しながらも、あっさりと先に発車してしまったBMWを追いかけて発進する。なにしろホテルまでの道は、相澤しか知らないのだ。地図を見ながらの運転はやっかいだった。

「それにしても、いったい何を」

「ああ、あのね、ちょっとしたイタズラよ。盛り上がっちゃって。ふふふ、ほら、こっちも」

 なんと、スーツを車内で取り替えたのだという。スーツをちらりと開けるから、言われてよく見ると、ご丁寧に、下のブラウスまで取り替えている。

「あのね、スワッピングって言うの、最近、アメリカで流行っているんですって」

「スワッピング?スワップって言うと、え〜と、交換とか、そんな意味だったよね」

 素早く、それが夫婦交換という意味に使われているのだと推測して、ドキリとする。

「そう。夫婦交換ってコト。これで、私たちのこと、当然ホテルの人たちは夫婦だと思うじゃない?でも、明日の朝、お互い別々のカップルになって帰ると、ホテルの人たちは、私たちがスワッピングしたんだと思ってくれるわ」

 遠藤には、それが、なぜ良いんだか、さっぱりわからなかった。第一、それなら、何も服まで取り替えなくても良いじゃないか。
 そんな苦情をモゴモゴと言うと、志織は、いつものイタズラな表情のままで、まあ、ノリよノリ、と笑ってみせる。
 遠藤は、わけもわからず、口ごもるしかなかった。

知られたくない遊び10
道明 11/25(水) 19:55:17 No.20091125195517 削除
その夜、翔子の携帯が鳴る

「翔子か・・・岩井だ、来週の月曜日の朝9時、伊丹空港のロビー、行き先は十和田
 3泊の日程だ・・・・・来れば、返してやる・・あの恥ずかしい写真もデータも
 俺はお前のように騙したりはしない・・・翔子・・・・・・待っているぞ」



岩井からの電話は一方的に切れた


(あぁぁ・・・どうしよう・・・こんな写真のデータがあんな男の手に)



岩井がプリントした1枚の写真
A4版の光沢紙に恍惚の表情をした浴衣の女が写っている
両脚をM字に開脚し、自らの手で乳房と女陰を慰めている
乱れた浴衣から覗く豊満な乳房に手を添え、濡れ光る女陰の入り口には細い指が重なっている
空ろな女の視線はカメラのレンズと焦点が合っている
それは・・・・・・あの夫婦旅行での翔子の大胆な自慰姿だ


(私・・・なんて、大胆なことをしたのかしら・・・)




その時、固定電話の呼び出し音が響く



「はい、松田です・・・あっ、あなた!」

「翔子、本当に心配かけてすまない・・・
 会社の弁護士との交渉は難航しているが、なんとか退職金の一部は貰えそうだ
 ただ、従業員で結成した組合の幹部に推薦されてしまって、しばらく帰れそうにない」



「そんな・・あなた」

「今は辛抱してくれよ・・子どもたちのことは、翔子・・君が頼りだ
 頑張って、できるだけお金を持って帰れるようにするから、頼むよ、翔子」



電話の向こうで、夫が咳をする様子が窺える



「咳をしているの?あなた、大丈夫?・・・くれぐれも健康には気をつけてね」

「分かってる・・・家に帰ったら職探しだ、病気なんかになっておれるもんか」



「そうよ、あなた・・・健康であれば、何度でもやり直せる、私も頑張るから」

「有難う、翔子」



「あなた・・淋しくない?一人で頑張れるの?・・私が側にいなくても大丈夫?」

「心配しなくてもいいよ・・翔子、あの時の写真、今パソコンで開いて見ているんだ
 身体が疲れ切っているというのに、不思議なもんだ・・何故か、あそこが元気なんだ
 こんなことでもして、気を紛らわせていないと・・・とても、やっていけない」



「あなた、写真!!って、あの旅行の時、撮った写真?」

「ああ、そうだよ・・・我ながら上手く撮れてる、いやモデルがいいのかもな
 翔子も見たらいい・・自分の綺麗なヌードを・・・カメラに消さずに残しているから」

「馬鹿!!馬鹿よ・・あなた・・・どうして消さなかったの・・馬鹿」

「どうしたんだ・・・そんなに怒るなよ、他人に見せなきゃいいんだから」




「・・・・あなた・・・私、私どうしたら・・・」

「翔子ごめんよ、心配をかけて・・・毎日、電話するから・・我慢してくれ」



「ああぁぁ・・・・あなた・・
 私・・私、まだどうするかは決めてないんだけど、来週はバイト先で宿泊研修があるの・・・」

「へぇぇ・・このご時世なのに、アルバイトの人に宿泊研修を?
 そりゃいいじゃないか、行って来いよ、気晴らしにもなる
 それじゃ来週は携帯に電話するよ・・・・・じゃぁな、翔子」



受話器を置く翔子の腕が震えている
会社が倒産し、咳をしながら頑張っている夫に、とてもこちらの苦境を話せない
もう、自分で解決するしかないと翔子は心に決めた


(あぁぁ・・もう一度、あのオーナーの横暴を何とかして跳ね返すしかない)

知られたくない遊び9
道明 11/24(火) 20:02:17 No.20091124200217 削除

あれから1ヶ月が過ぎた
再び、喫茶「羽衣」の岩井オーナーの巡回の日が廻ってきた
チーフ以下、女性店員の動きは機敏そのものだ



何時もの時刻に、岩井オーナーが車から降りてくる

「オーナー、お疲れ様です・・・・今日は、厨房に入られますか?」

「やぁ、チーフ、出迎え有難う・・今日も一人のお客として対応してくれればいい」



前回の巡回の時と異なり、岩井は一番奥の席に座る
ここの席は店全体を見渡せる位置にはなく、観葉植物の飾りで囲まれている
他のお客さんに話声を聴かれる恐れがないため、商談などによく利用される場所であった



「ご注文は何にされますか?」

翔子が岩井の前に水を差し出す



「翔子か・・・変わりがないようで、良かった・・・まあ、座れ」

「オーナー!ご注文を」



「その態度は、俺と話しをしたくないようだな
 それなら、これ、この間の忘れ物だ、お前のハンドバッグだろ?
 相当慌てて飛び出したようだな・・・・くくくっ」

「・・・・・はい、身に危険が迫っていましたから」

「よく、言うねぇ・・中身を確認してくれないか、何も盗んだりはしていないが・・・念のためだ」



そのバッグは翔子の愛用の物、中身は夫のカメラが入っていた
翔子はそのカメラを手にしてハッとして、身が固まる
カメラの下に一枚のプリント・・・・・・



「俺も驚いたよ・・・翔子と旦那、そんな趣味を持ってたんだ」


翔子の顔がみるみる赤面し、からだが震えだした



「折角だから、全部コピーさせてもらったよ
 それにしても、良く撮れてるね・・色彩といい、あそこの毛も鮮明だ、それにこの顔の表情・・
 大胆なんだ、翔子は・・・・・それで、俺もころっと騙されちゃったのかもな
 俺が後で連絡できるように・・お前の携帯のナンバーを紙に書いて、ホットと一緒に持ってきて」

「あの・・・」



「返して欲しけりゃ、言ったとおりにしろ!」

「でも・・・」

「今度、俺を馬鹿にしたら承知しないぞ・・・・早く珈琲を持って来い!」



肩を落とし、うな垂れて厨房に戻る翔子
この男には、上等の尻肉が左右に揺れて、まるで雄を誘っているように映り、堪らず倅が頭を上げる


(・・・・・・倅よ、我慢だ・・もう暫くだ・・・)

知られたくない遊び8
道明 11/21(土) 17:13:26 No.20091121171326 削除
善人面をした遊び人に暴力で犯され、愛する夫との絆を断ち切られる
貧しいながらも、夫と二人で築いてきた明るい家庭が壊される
人生はお金だけじゃない!もっと大切なものを、なんとしても守らねばならない
だが、翔子は今・・・・・強姦寸前、絶体絶命の大ピンチだ


(どうしよう・・・・・・このままでは犯される!何か、何か手立ては?)


「翔子ちゃん・・・良い匂いだよ、この香り、この柔らかな感触・・うっは堪らん」


岩井は翔子の女陰に鼻先を近づけ、今にもしゃぶり始めようとした時
それまでの翔子の激しい抵抗が止んだ

(ふふふふふ・・・こいつ・・・漸く、諦めやがったか・・・うはははは)


「あの・・オーナー・・・・こんなふうに犯されるように抱かれるの、私は嫌
 せめて最初だけでも、優しく抱いてください・・・ねぇ、お願い
 オーナーが約束を守って下さるのなら・・・私、私・・・・・・」

「ほうう・・・それじぁ、お前のからだを担保に出すと言うんだな・・・
 それに、甘い恋人チックなのがご希望か?嘘じゃないだろうな!」



「嘘なんかじゃありません・・今の生活は苦しいし、夫の就職など願っても無いこと
 それに・・オーナーの想像どおり、夫とのセックスでは満足できていないのも事実
 だから、こんなにからだが感じてしまって・・・
 その代わり、オーナー・・・約束は必ずお願いしますね」

「はっきり言うねぇ・・・・旦那が気の毒だ、それにその変わり身の早さ」



「まあ、酷い!・・・真綿で首をしめ、私のからだに火をつけたのはオーナーじゃない」

「それはそうだが・・」



「ねぇ・・お金持ちなんでしょう!
 お願い、最初だけでも私が行ったことのないような高級ホテルでロマンチックに・・・・ねぇ」

「そうまで言われちゃ、俺も男だ、此処ではやるわけにはいかないか・・・分かった!
 翔子ちゃんがビックリするような高級ホテルへ連れてってあげる、そこで・・はっはっ」



そう言って、嬉々として岩井が翔子の肢体から離れると
翔子は自分の衣服に早速、着替え始める
それを眺める岩井には、今からホテルへ連れ込む女の仕草が妙に色っぽく見える


「ねぇ・・・ブラの後のホックを留めてくださる?」

「あっ、ああ・・・いいよ」



岩井の顔は崩れっぱなしだ、にたにた笑いながら女の要請に応じていく


「あぁぁ、あん!・・もう」


情夫きどりの岩井が、翔子の豊満な乳房を背後から握り締めたのだ
しばらく、乳房を揉みしだくと項に舌を這わす
岩井は、翔子を改めて抱きしめ唇を奪うと舌を絡めてくる・・・もう、俺の女だ


「ねぇ・・・車の中で待っててくださる?・・・私、少し化粧を直しますから」

「ああ、早く来いよ」


車のキーを持って館を出て行く岩井
怒りの三角まなこで睨みつける女の視線など、有頂天の岩井にはわかるはずもない


・・・・車の中で待つこと5分
2本目のタバコに火をつけようとして、気が付いた
まさか!・・・・いや、やはり素直過ぎる・・・遣りやがったな翔子のやつ!






知られたくない遊び7
道明 11/19(木) 19:15:09 No.20091119191509 削除
翔子は、岩井の魂胆にようやく気が付き悲鳴をあげた
上半身は身動きすることもできないほど、固められている
何と愚かで何と無防備な姿を晒していたのか・・・・・だが、もう遅い


「翔子ちゃん・・・これは、俺が約束を履行するための担保だよ
 絶対に悪いようにはしないから・・・ね、だから・・これくらいは当たり前なんだよ」


それだけ言うと、岩井は翔子の唇に己が唇を強引に重ねていく
堅く口元を閉ざす女の抵抗をあざ笑うかのように、舌をねじ込もうとする
パンティの上から愛撫を繰り返していた右手が、素早くブラウスのボタンを外し始めた



「翔子ちゃんが黙ってさえすれば、旦那にも知られることはないし
 それで、お金のことは間違いなく解決するんだ・・・・いい話じゃないか」

「あぁぁぁん!」


ブラウスのボタンを外し終えた右手が、ブラジャーの中に入り込み乳房を握り締めた
そして、仰け反る首筋に男の舌が這い回る


イヤイヤと首を振り続ける翔子の表情に、岩井の口元は緩み
左腕の中に翔子の頭部をしっかりと抱え込むと、甘露な女の舌を吸い出す
右手はブラジャーを押し上げ、剥き出しになった豊満な乳房の頂を甚振っている


(それにしても、思った以上に良い肢体をしていやがる・・この女
 表情もいいし・・・この泣き声は辛抱堪らん・・・・さぁ、もう一押しだ)


「翔子ちゃん・・・これ以上の言いようの無い、助け舟をだしてあげよう
 旦那を雇ってあげる・・・今のこの不景気じゃ、就職先を見つけるのは大変だぞ」

「夫を・・・夫を雇って下さる?」



「ああ、そうだ・・・夫婦揃ってうちに勤める・・・いい話だろ?」

「はい・・・そうしていただければ、大変有難いことです」



「うーん・・そうだよね・・・しかし、それには俺のコレとご対面してもらわないと」

「ああぁぁ・・嫌、嫌・・」



翔子の乳房を弄っていた岩井の右手が、パンティの中に滑り込む
絹草を撫で上げ、女の源泉を甚振りだす


「それは、それだけはできません・・・主人を裏切ることなどできません」

「泣かせるねぇ!旦那のために操を守るか、しかし今の時代そんな観念は捨てたほうがいい
 これは、裏切りなんかじゃない、妻の内助の功だよ・・生活防衛のためだろ・・・翔子ちゃん」



「嫌です、できません・・・絶対に・・・・いやぁーん」

「ふん・・・そうは言っても、下の口の方はもっと、もっとって誘っているぞ・・えっ、翔子ちゃん」



「あっあっ・・・あん・・・やめてぇ!」

「うおっ!いい声だねぇ・・ほれ、ほれ、俺の指をこんなに締め付けてくる
 ははぁーん・・・この様子じゃ、翔子ちゃん、ひょっとして旦那とはご無沙汰なんだろ?違うか・・」



「嫌、いやぁーん」

「図星か・・・はははは、当たりか・・・・翔子ちゃん
 なんと勿体無いことをするのか、今の若い夫婦は・・・・・」



蜜汁をたっぷりと浴びた男の指が、女陰の中を激しく暴れまわる
頃合い良しと、岩井は翔子のパンティを降ろしにかかった


岩井は十分に心得ている・・・
貞淑で初心な翔子のような妻ほど、犯ってしまえば・・・・旦那に話すことなどできずに、後は言いなりと

花  濫  5
夢想原人 11/19(木) 13:16:26 No.20091119131626 削除
異常な契約




 あの時すでに夫と田宮の間では、ある契約がすでに成立していたに違いない、と冴子は考えていた。
自分の妻をほかの男に抱かすという異常な夫の心理も、今では理解出来るが、あの頃は、もし夫が田宮を唆したのだと
すれば、夫が発狂したとしか思えなかった。だからまさか夫が承知の上で田宮に自分を与えたとは思いもよらなかったから、
田宮と自分のあのときの行為は、単に二人の中に沈潜していた、圧せられた欲望が、あの異常な場所と踊りに触発されて、
噴出し、抗し難い状況のなかで起きた出来事だったと、冴子はその後もそう信じて、夫に対して背信のおののきがしばらく
消えなかった。                
 横で夫のすこやかな寝息が規則正しく続いている。眠れぬ苦しさは、躯をじっとの横にしているだけで、関節にしだいに
痛みがあらわれ、躯全体が運動を要求してくる。その悶々とした思苦しさをやわらげようと、冴子は俯伏せに寝返りをうって、
枕に顔を埋めた。目を閉じているだけのことが苦痛なほど頭が冴え、躯が火照ってくる。口も枕にくっつけているので、自分
の熱い呼吸が頬にねばっこくあたる。その生暖かさの中で、田宮に初めて犯された、あの夜のことが鮮明に思い出されてく
る。
 田宮に連れられて、杉林の奥にわけ入ったと思うと、林は奥がなくて、その向こうには自然石造りの大きな池のような温泉
の浴槽があり、まわりいは樹木が植えられていて、庭園のようになっている。
その奥にはまた杉の林があって、林の下に白い麻の天蓋を持った大きなベットが備え付けられている。
まるで森の中のキャンプ場に来たような気分にさせる。池の縁にある簀の子の板の上に上がった田宮が、         
 「僕、ひと風呂浴びますよ」                       
 冴子の視線にも動じることなく、田宮が丹前と浴衣を思いきりよく脱ぎ、さすがに下穿だけは冴子に背を向けて脱ぐと、水
泳の格好で勢いよく池に飛び込んだ。かなりの深さがあるのか、湯のなかにしばらく潜って、冴子から随分と離れた八手の
茂みの下にぽっかりと浮上り、子供のような笑顔をほころばせながら、   
 「一緒に入りませんか? あのベットの中で脱いでくるといい。バスタオルもあの天蓋の中に用意してありますよ」                   
 「いやよ! どこから見られているかわからないもの」           
 「この広い温室に居るのは奥さんと僕だけですよ。先程の女中も、あと何かあったら電話で読んで下さいと言って帰ってい
ったから、もう誰も居ません。さあ、入りましょうよ。誰にも遠慮することはない」                
 「だって、貴方がいるじゃないの。あたし恥ずかしいわ」         
 「僕は眼鏡を外したから、ほとんど見えません。安心して下さい」     
 冴子の気持が揺れた。酔いのせいかも知れないが、この広い温室の中に、若い男とふたりだけ閉じ込められている現実が、
妙に心の昂揚を促し、高い崖縁に立って、真下の大海に飛び込めと、どこかで呪詛されているような誘惑を押え切れないよう
な心境になっていた。それは若さの押え切れない冒険心の誘惑であり、冴子の熟した肉の潜在的な需めのようでもあった。              
 「あたしに触らないことと、お湯に入るまで向こうを見ていて下さると、約束する?」                                
 「ええ約束します」                          
 「本当よ…………」                          
 冴子は心を決めて天蓋のベットに入り着衣を脱ぎ、大きなバスタオルで躯を包んでから池に向かった。
田宮は隠れん坊をしているいたずら子のように、八手の大きな葉の下で、向こうを向いて立っていた。
 痩せて貧弱な肉体を想像していたが、痩身には、思いもかけず、隆々とした筋肉の膨らみが、帯を巻きつけたように、腕
から肩や胸、大腿部にあって、躯の動きに、それが別の生き物のように躍動している。                              
 池の縁でバスタオルを外して、肩足を湯入れた瞬間、田宮がふいにこちらを帰り見た。八手の向こうの昏がりに温室の硝子
があり、さきほどから冴子のバスタオルに包まれ躯が映っていた。池の縁で冴子が、そのタオルを開いて裸身を露わした。
 鏡の中でも、真っ白に映っているその裸身は、小柄ながら起伏の多い女の躯の特長を豊かに現わしている。股間の翳りと
両の乳房は手で隠しているが、
 豊かな乳房の裾は隠しようもなく溢れ出し、蜂のような胴のくびれや、張り切った腰の線など、全体に一つの崩れもなく熟
しきって匂い立っていた。
 前にマッサージをした時想像した通りの柔和な中に弾力を持った肉置きの豊かさが泛かび上がっていて、羞恥を全身にた
たえているその姿態は、田宮には甘美な美食がそこにあるような誘惑に、思わず生唾を嚥み込むような激しい誘惑をおぼえ
ていた。
 田宮はゆっくりと湯の中に身を沈めると、水中を潜り泳ぎしながら冴子に近付いた。濁りのない湯の中に、冴子の下肢が
白く揺れていた。折った片方の足の上に豊満な臀を載せ、もう一方の足は閉じるように膝でまげて立て上にタオルを乗せて
陰部を隠している。わりあい深い池で、しゃがんむと冴子の顎まで湯がくる。潜った田宮の目に、水面を警戒して片腕で乳
房を覆っている冴子の大きな乳房と幅厚の脇腹、ぬめった柔らかそうな下腹のあたりが、大きな深海魚の白い腹のように輝
いて見える。                           
 冴子は夢中で湯に入り、ふと田宮の姿が消えているのに気が付いて、どこに隠れたのかと湯気の靄の奥を探していると、
突然、目の前の湯が盛り上がり、黒い髪に次いで褐色の田宮の裸身が目と鼻の先に浮かび上がった。思わず悲鳴を上げ
てタオルで胸を覆った冴子の前で、垂れて水滴を流している髪を振り上げた田宮の顔がいたずら小僧のように笑っていた。                 
 「びっくりするじゃないの。ああ、驚いた…………」            
上気して薄桃色に目許が染まった顔に掛かった湯を掌で拭いながら、怒った表情で田宮を見上げる冴子に、                       
 「ごめんごめん。奥さんの美しい裸は湯の中からでもないと、ゆっくり拝ませていただけないと思って、思い切って潜って
みたんです。いやあ奇麗でした。まるで人魚のようでした」                         
 「いやーん。そんなこと言って。本当は見ちゃいないんでしょう。お湯の中なんかで見える筈ないじゃないの」                      「普通伊香保の湯は、ここの夕食の前に入った湯のように鉄分を含んだ茶色い湯なんだけど、これは地下四百ネートルま
でボーリングして汲み出している鉱泉を沸かしたので、濁りの全くない透明な湯なんです」            
 「もう言わないで………恥ずかしい。田宮さんて、そんな不良先生でしたの?」 
「美しい女性の躯をめでるためには、どんな危険でも冒すのが男というものです。私も男のはしくれですから、奥さんの美
しさには以前から惹かれていましたから、この際つぶさに拝見させて貰おうと決心したわけです。本当は触れたいし奥さんが
欲しいけど、それをすると奥さんの言われる不良になりますから我慢して止めました」                             
 悪びれる様子もなく言う田宮に、冴子は今更慌てて全身を湯の中で縮じめて、羞恥の顔をタオルで隠した。長い髪をたくし
上げた青白いうじなにほつれ毛が数本絡んでいるのが、田宮の男心をそそった。                 
 「湯に暖まった直後に、例のマッサージをすると効果がとてもいいんです。僕は上がっていっぱいやってますから、ゆっく
り暖まって、あの天蓋のベットで待っていて下さい」                            
 冴子の目の前で、漲ぎった男の象徴を隠そうともせず揺らめかせて、平然とした態度で大股に、身体中の筋肉をきしませ
ながら、岸の縁に足をかけて上がって行った。
 少し背を前に屈めて小さな臀を見せ、肩にタオルを巻いて遠ざかる男の無防備な後ろ姿に、冴子は田宮の抑制に耐える苦
しさを秘めた男の憔悴を感じて、ふとあわれさを感じた。                         

 天蓋のベットで着衣した田宮が杉林の中に消えて行くのを確認してから、冴子は急いで湯から上り、天蓋のベットに走り込
むように潜った。また田宮が悪戯心を起こして、杉の幹の向こうに隠れて覗いているような気がしたからである。 
 冴子が着終るのを待っていたように田宮が現われ、天蓋の片方を巻き上げ、外からでも内部がよく見えるようにした。この
温室にはふたり以外誰も居ないが、天蓋を上げたのは冴子の警戒心を和らげるためであろうか。ベットの縁に腰を下ろしてい
る冴子に近付き、                         
 「その丹前は脱いで横になって下さい」                 
 先程の子供っぽい表情とは違った真剣な顔で命じるように言うと、自分も丹前を脱ぎ両腕の袂を巻き上げて、マッサージ
の準備にかかったと思って、仰向けに寝て、両手を腹のあたりで組んで、田宮の手がマサージを始めるのを、やや緊張し躯
を硬直させて待っていたいた冴子に近づいた田宮は、やにわに冴子の浴衣の胸に両手を添えたかと思うと、強い力で胸をは
だけにかかった。       
 「あっ! 止めて! 」                        
 驚いて飛び起きようとした冴子の肩を、片手の強い力で押え付けたまま、田宮は冴子の浴衣の前を大
きく広げ乳房を露わにすると、押え付けている手と広げた浴衣の端を掴んだ手を器用に使って冴子を俯
きに転がせた。
その際に浴衣は冴子の肩から皮を剥ぐように、くるりと脱げて、上半身が露わになった。冴子は俯い
たまま両手で乳房をかばっていた。                    
 田宮がどうして突然狂ったような凶暴さで、浴衣を脱がせにかかったのかと気が動転しているうちに、いつの間に浴衣の細
帯を解いていたのか、田宮の手が猛烈な力で腰までずり下がっていた浴衣を上に引いた。一瞬、冴子の腰が宙に浮いたと思
った瞬間、浴衣は冴子から抜け出て、田宮の手に残った。
 小さな下穿だけにされた冴子が、再び起き上がろうともがいたが、田宮が上から肩に掛けた手をに力を込めて俯いた冴子
をそのまま押え付けたので、冴子は枕に顔を押し付け、腰を持ち上げた奇妙な格好になった。その盛り上がった臀部をわず
かに隠していた下穿を、臀に手を当てた田宮が、果物の皮を剥くように、するりと膝までずり下げた。                                 
 「御免なさい。この前言ったと思いますが、裸にならないと壷がよくわからないんですよ。奥さんに言っても脱いでくだっさ
らないと思って強硬手段に出ました。心配しないで下さい」                        
 冷静に言う田宮の声を上で聞きながら、冴子はどうしたらいいのか迷っていた。ともかく顔を枕に押し付けて羞恥を隠し、両
足をきつく合せて、全身を硬直させていた。                                
 「さあ、力を抜いて下さい。こうすると、骨の位置と筋肉の状態がよくわかります」                                 
 田宮の掌が、後頸の肩の付け根の左右に置かれ、背骨に沿って何かを探るような微妙な指の動きをさせながら、しだいに
下がっていく。腰骨のあたりから指は左右に別れ、腰の側面を撫でさすりながらさらに下がっていった。冴子の四肢が次第に
硬直の度を増し、躯が小さく痙攣しはじめていた。腰から太腿の外側を下がっていた田宮の掌が、突然尾底骨付近にかかり、
菊門を撫でた。      
 「止めて! どうしてそんなことをするの………」            
 返辞がなく、腰を振って田宮の掌をかわそうとする冴子の臀を、両手で上から布団に押し付けた。その力の入れ方にこつ
があるのか、急に腰のあたりの筋肉が溶けたように力を失い、代りに躯の奥から痺びれるような快感が腰部に奔る。ああ、
と枕に押えた口から声が出た。白く滑らかに盛り上がった臀のふくらみを突くように田宮の指が押していくと、それが壷とでも
言うのか、押された部分から電撃のような快感が冴子の躯を貫き、思わず嗚咽が出そうになる。指は微妙な強弱を含んで、
臀の膨らみから太腿へ移り、内腿へと進んで来る。早く止めさせなければと冴子は思いながら、起き上がろうと身をよじよと
する瞬間、次の指が思わぬ躯の場所を突いて、全身の力が抜ける。                
 何時の間に俯向きから仰向けにされたかわからなかったが、乳房からも股間からも、我慢出来ない快感の放射が躯の内部
に向かって無数に突き刺さっていた。閉じた目の中に、閃光がはしり火花が散っていた。

  ただの愛撫ではない。電流が通じているか強烈な媚薬でも塗布しているとしか考えられないような田宮の指が、冴子の躯
のどこかに触れるたびに、そこから耐えられない快感が爆発する。十本の指先が冴子の躯を縦横無尽に動き回り、その箇所
から次々と絶え間なく湧き起こる快感に冴子は完全に忘我になっていた。もう抵抗する気力も失われ、朦朧とした意識の中で、
ただ無数の官能の稲妻だけが鋭く鮮明な矢光となって眼底を交錯していた。                              
 その魔法の指が冴子の敏感な陰核に触れ、もう一つの指が体液のあふれ続けている冴子の膣に挿入された。膣の奥の方
にどんな感受性を備えた場所があるのか、田宮の指が奥深く侵入し探り当てた場所を
ゆっくりと撫でると、そこで激しい官能の放電が音を立ててが起こり、冴子の躯が痙攣を起こして弓なりに引きつった。
 「あっ、いい………。もう、どうなっているのかわからない。………わからない」                                  
 うわごとのように言う冴子に、                     
 「いいから、心配しないで任せていればいいんですよ。なにも考えなくて、もっと気持よくしようと、そればかり考えなさい」              
 田宮の低い力強い言葉が遠くから余韻を含んで呪詛のように、かすんでいく冴子の耳に聴えていた。
杉林の陰から夫が、自分達の様子を充血した目で、盗視していようとは識るよしもなかった。                    



異常な契約





 惣太郎は田宮が急ぎ帰って来て告げた通りの時間と場所に、杉林にはいったい。 杉林の端からは、天蓋のベットの薄青
の麻のカーテンの編目の一つ一つがはっきりと見えるほどの近さだっから、田宮にいたぶられている妻の白い躯は、毛穴から
吹き出た汗の粒まで見えた。斜め向こうに向いて仰向けに寝ている妻の裸体は、上体をやや横に曲げて妻の横で片肘を付い
いる田宮の頸を上げた両腕でしっかりと抱いている。
上げた腕の付け根から汗ばんだ脇腹が乳房の側面の厚みと重さを含んで、激しく喘いでいる。その脇腹につくほど大きく曲
げて開いた白鳥の羽ばたきのように見える白く輝く脚の中心の翳りでは、田宮の指がせわしなく動き続けている。妻の右足の
踝に田宮が脱がせかけた下穿が白いリボンのように引っ掛かって田宮の掌の動きを誘うように揺れていた。           
 田宮の浴衣が剥れかかって、筋肉質の下半身が剥き出しになっている。男らしい締まった堅い肉質の田宮の右脚が、冴子
のしなやかな左脚に絡んで冴子が腿を閉じるのを防いでいる。一体田宮の指は妻の体内でどんな動きをしているのだろう。
妻の躯が時々、強烈な電流を流されたように突然痙攣してのたうち、それと同時に耐えられない嬌声が、嗚咽のように聞こ
える。            
 田宮の掌が頸に掛かっている冴子の片手を取った。あまり懸命にしがみつく冴子に苦しくなったのかなと惣太郎が思ったが、
それは間違いであることがすぐにわかった。田宮はその掌を自分の股間に導いたからだ。よく目を据えて見ると、陰になった
昏い田宮の股間に何か太い木根の切株でも挟んだと見間違うほどの太さと長さの陰茎が隆々と聳えていた。
惣太郎は今まで見たこともない巨大な陰茎に思わず息を呑んだ。冴子の白い掌がおびえたようにそれにおずおずと巻き付い
ていったが、わずかに亀頭とその下部を覆っただけで、大部分は冴子の小さな掌からはみ出している。それでもけなげに冴
子の掌はその巨大な黒々と聳え立つ陰茎をゆっくりとさすりはじめた。青筋を浮かべて濃茶色の硬さに漲ぎる陰茎に廻し切れ
ない冴子の真っ白い指が絡んで、亀頭溝部の襞のあたりを人さし指の腹で撫でている。新婚の頃、惣太郎が教えた愛撫の
方法を忠実に守っている。
惣太郎は自分が今冴子にそうされているような錯覚を感じていた。冴子の白い五本の指が隠微な動きで陰茎をゆっくりと上
下させる。その手が陰茎から離れると、こんどは陰茎の腹側を二本の指の腹で、上からゆっくりとなどるように陰嚢に向かっ
て撫で降ろしていく。慣れた動作である。
 だが惣太郎は妻のそんな動きを今まで見たことがないし、教えたこともない。一体いつ妻はそんなテクニックを誰に教わっ
たのだろうか。                           
 思いがけぬ妻の動作に、突然水中に墨のどす黒い汁が垂れ落ち広がっていくような疑念が、惣太郎の胸の奥からわきあ
がってきた。田宮と妻との間を今まで疑ったこともないが、実は今日のことも、自分が田宮をそそのかして企んだことと思っ
ていたが、本当はふたりの間には前から関係があって、自分の方がふたりの共謀にうまく載せられたのだろうか。                  
 しかし先月末、田宮の夫婦でマッサージをしてもらった時に、恍惚とした冴子の表情となまめいた冴子の肢体に衝撃をう
けているうちに、ふと呪詛のように田宮に冴子を犯させることを思い付き、学校の帰りに田宮を居酒屋に誘って、この計画を
打ち明けた時の田宮の驚愕の表情と拒否を表明したあの態度は、どう考えてみても自分を騙すための虚偽とは思えない。
 またあのマッサージをしている時の、田宮の紅潮した表情や冴子の困惑した態度にも、既に情を通じ合った男と女の慣れ
合いは微塵も感じられなかった。
 第一大学の学生時代から知り抜いている田宮の一本気で清廉潔白な性格が、自分という恩師の妻を寝取るようなことが出
来る筈がない。
 万一、なにかの弾みでふたりがそうなり、妻が必死に隠すことを求めたとしても、田宮は今の社会的地位を捨てて妻を連れ
て自分の前を去るか、独り消え去るかしなければおさまらない性格である。            
 酒場で酔わせて田宮をくどいた時も、自分が酔っていると思い、全く相手にしなかったのを、もう自分は老いて妻を楽しませ
てやることが出来なくなった。冴子があの若さで、どんなにか辛い想いで孤閨に耐えているかと思うと不憫でならない。しかし
これだけは代理の男を与えるというわけにもいかない。
 最近では妻が自分に内緒でもいいから、格好の相手を見つけてくれればいいと思うことさえある。だがそれは妄想であって、
もし実現したとしたら、妻を本気で真実愛している自分は、妻が自分を捨ててその男と出奔するのではないかという恐怖に発
狂するかも知れない。                           
 まだまだ若い冴子を、これから一生孤閨の悶々で生涯を終らせることへの苦しみと、冴子を離したくない苦悩との狭はざまに、
ここしばらく自分は苦しんできた。そして自分は、あの君が冴子にマッサージをしてくれた時の、君と冴子の表情を見て、はっ
と黎明のように絶好の解決方法を思い付いたのだ。
 
 それは君が冴子を慰めてくれることだ。これは前から気が付いていたのだが、君も冴子に悪い感情は持っていないし、冴子
もそうだ。その上、君はいつか話してくれたように、君はアメリカに内縁の妻を残して帰国した。別れるためではなく、あちらで
日本文学の教授となるために、日本で三年間の教授生活
を送る必要があったからだ。あと二年すれば君はアメリカの大学に復帰することが約束されており、父親の看病のために来日出
来なかったあちらの奥さんと、君が帰国直後に生れた二世との生活が待っている。                           
 もし君が、アメリカにいる奥さんに背信行為だからと、拒否するのならはっきりそう言ってくれ。だが、この間君が言っていた
ように、孤閨の辛さに女を買っている、というのが本当なら、同じ孤閨に苦しんでいる冴子と結ばれれば、一挙同得ということ
になる。自分も、冴子の相手が君ならば、自分の分身のようなものだからうれしいことだ。                        
 懸命にくどいても、なかなか承知してはくれなかったが、最後にやっと本心を申し上げます、と告白した内容は、前から冴子
さんが好きだったということだった。先生が真実そう思い、許して下さるなら、自分にとって夢のような話しである。そうなっても、
奥さんを奪うとか先生ご夫婦に反抗するとかいうことは決してしませんし、二年後には、どんなことがあってもアメリカに帰り、親
子三人の生活を築き上なければなりません。背徳のうらめたさは残りますが、自分にとって、このお申し出を拒否することは、
きっと将来消えることにない遺恨になると思います。                                 
 あの時の田宮は、何度思い出しても虚偽の態度ではない。そうすると妻はほかに男が居たのだろうか。
  いや、冴子に限って決してそんなことはない。第一そんな男に近付くチャンスさえ冴子にはない。後はロンドンに行った浩二だ
けだ。浩二を冴子は最初弟のようにかわいがっていた。浩二が大学を卒業した頃からふたりの間に、男と女の感情が生れかけ
ていたことは感じていたが、浩二はロンドンに去ってしまい、お互いに成就する機会はなかった筈だ。          
 惣太郎は目前で、自分以外の男にいたぶられている妻を、まるで初めて見る女のような感慨で眺めていた。たしかに妻の躯を
こんな角度で眺めたこともなければ、もちろんほかの男と絡んだ妻の裸身を見たこともない。若い男の手練手管に翻弄されなが
らも敢然と応じ、それどころかさらに需めるように腰を揺すって訴えかけている妻の裸身に、惣太郎は飼犬に手を噛まれたような
激情を覚えていた。

知らなかった妻の一面を見たような気もしていた。男の対として創られた女は、男と肌を接し愛媾状態になってくると、知性とか
教養とか理性とかは生理的にすべて消え失せて、本能のおもむくままに、丁度磁石の南北が永劫に互いに引き合うように男の肉
を需めるようになるのかも知れない。
  強姦の時でさえ女は最後には感じて男にすがりつくというではないか。それが女の宿命的な悲しい性だ、ということは惣太郎
も知っているが、自分の妻が、夫である自分のことも忘れ果てて別の男にすがり付き、こともあろうに欲望にみなぎった陰茎を自
ら愛撫する現実を目のあたりにすると、いいようのない衝撃が躯を貫く。         
 今先の憤怒した田宮の陰茎を慣れた様子で指でなぞっていたように疑って見えた妻も、今はただ真空の脳裏に性の本能だけが
充満していて、夫の自分も他人の男も区別がつかなくなり、無我夢中のうちに男の陰茎を需めていたのではないだろうか。                                 
 きっとそうに違いない。落ち着いた慣れた動作で陰茎を指の腹でなぞったのは、妻がどこかで教えられた淫猥なテクニックなど
というものではなく、単なる偶然のしぐさであったのだろう。きっとそうに違いない。惣太郎はそう思うことで、やっと納得し、自分
自身安堵し、高ぶってはいけない、と自分の気持を制した。
 今は互いに唇をむさぼり合い、互いの陰部を愛撫し合いながら、しだいに昇っていくふたりの蠢く姿態が現実のものとも思えな
い妖々しさで惣太郎には見えていた。                                
 接吻していた田宮が、ついと頸を上げて惣太郎の方をちらりと視た。合図である。惣太郎は丹前に忍ばせたライターを思わず
握り閉めた。その手が汗に濡れていた。もう一度田宮がこちらを振り向いた。
 今ライターの灯を付けなければ、もう取り返しがつかない。そう思いながらも丹前に懐に入れた手はどうしても依然として動か
ない。そればかりか惣太郎の胸中に思いもかけぬ嗜虐の快感がめらめらと蛇の舌のゆらめきのように燃えはじめてきた。今度は
しばらく、じっとこちらを視ていた田宮が、決心したような表情で喘いでいる冴子に向きなおり、上から唇を押し付けるように接吻
しながら、片手で自分の腰紐を解いて浴衣を脱ぐと、何か冴子の耳元で囁いてから冴子の上に覆い被さっていった。      
 惣太郎の視ている側からは、重なったふたりの表情は見えないが、広げられた冴子の股間に、巨大な陰茎に手を添えた田宮が
侵入口を探しているのがはっきりと見える。
冴子の溢れた体液を、亀頭にたっぷり塗り付けてから、冴子の体液にてらてらと光る裂けんばかりに張り切った陰茎を真直ぐ膣口
にあて腰に力を入れた。信じられない力で冴子の淡い桃色の粘膜が押し広げられ、張り切った亀頭が呑み込まれていく。                   

知られたくない遊び6
道明 11/17(火) 22:47:04 No.20091117224704 削除
衝立の中で、翔子が着替えをしている
最初に真っ白なブラウスを身につけると、着ていたジーンズを足元に落とす

乳白色の長い素足が露わになった
その脚の表面を、黒のストッキングがするすると太腿へと上がっていく

黒のスカートを手に取り、その肌触りにウットリとしたところで
聞き慣れた呼出のメロディが、翔子のバッグの中で鳴り始める


(あら・・主人からだわ)


翔子は着替え中であるにもかかわらず、携帯を手にした



「あなた、私です」

「翔子か・・・大変なことになった・・・会社が今日、倒産した・・・」



「な、なんですって・・・会社が倒産!・・」

「ああ、前から綱渡りの経営だったらしい・・・それがとうとうこんなことに
 それで、従業員で組合を結成して退職金等の交渉を弁護士とやることになったんだ
 しばらくは、帰れないが・・・・今はやれるだけやるしかない」



「そう・・そんなことに・・・あなた、こちらのことは心配しないで頑張って
 あなた、無理はしないで、くれぐれも健康だけは気をつけてね、お願いよ」

「うん、気をつけるよ・・・ご両親には翔子から話しておいてくれ」



電話が切れた後、翔子は放心状態で立ちすくんでいる

弱々しい夫の声が蘇り、急に途轍もなく不安が押し寄せた
・・・子の養育費に家のローン、稼がなければならない時に夫が失業とは!
翔子は夫を勇気づけたものの、予想できない将来に気が滅入っていく



「大丈夫かい?・・・翔子ちゃん・・・聞こえたんだけど、旦那さんの会社が倒産だって?」

「・・ええ・・・・はい」



小刻みに震える翔子の肩に、岩井の手が回った



「俺にできることがあれば相談に乗るよ・・とにかく、詳しく話してごらん」



岩井は放心状態の翔子を抱きかかえるようにして、ソファーに座らせる
そして、ポツリポツリと話す翔子の髪を撫で・・・時には抱きしめ勇気づける


そんな翔子の上身は先ほど身につけた白のブラウス
下身は白のパンティと黒のストッキングをつけただけの艶姿
そんな涎の出るような若妻の肢体に岩井が密着しているのだ


「俺の大事なパートナーになる翔子ちゃんだ・・・心配しないで・・・ね、翔子」



岩井の左腕に力が入る
翔子の上半身を抱き寄せ、右手が黒のストッキングの上をすべり始めている
それでも、翔子は相談に乗ると言ってくれた岩井を信じて尚も話し続ける



「うん、よしよし・・・・任せなさい、俺がなんとかしてあげる」



そう言うと、岩井は翔子の顎を引き寄せ、唇を奪おうとする
同時に右手がスーと膝から上に昇り、パンティ越しに女陰を弄った


「はぁっ!?・・・嫌、やめて!オーナー・・」

花 濫  4
夢想原人 11/17(火) 12:09:00 No.20091117120900 削除
女の業火   
                                     
      一                                                               

  
 もし浩二と別れたあと、田宮を知らなかったら、自分は果たして、夫とふたりの静謐な生活に戻れただろうか。浩二が自
分に残していったのは、決して性の悦楽だけではなかった筈だ
 確かに自分は夫に肉以外の不満はないけども、あの強烈な悦楽を知った以上、まだ若く健康な肉は、そのまま夫と一緒に静
かに老いていけただろうかと思うと自信はない。

自分はまだ若い。万一、相応の男性が現われて、浩二と同じ行為にはしったら、自分は夫を捨てたかも知れない。それほど当
時 自分の肉は男の肉を需めていた。      
 冴子は眼を閉じたまま、当時の悶々とした日々を反蒭していた。
浩二が去った直後は、無性に浩二に会いたかった。ロンドンにツアーにでも混じって夫を欺いて出かける計画を真剣に練った
のも事実である。結婚以来したこともない夫に自分から需めるというはしたない行為をしたこともある。自慰を覚えたのもあの
頃である。
 夫以外の男を需めるということは、理性では厳に慎むべき行為であると思っていたし、現実にそのようなことが出来るとも考
えてはいなかった。   
 浩二とのことさえ思い返せば、何と重大な夫への背信行為だろうと、身の毛のよだつような罪悪感に駆られて幾度身を苛なん
だことだろう。自分の肉が、浩二以来、官能の疼きに狂うのは、裏切りへの罪科だとさえ考えて耐えていた。   
 浩二が帰って来るのなら、耐えて待っていたであろうが、浩二は自分に、永久に現われない、と宣言して去って行ったのだ。
 それも自分に自分に消すことの出来ない劫火の烙印を押して、知らぬ振りをして去ってしまったのだ。考えて見れば、浩二が
一番罪深い。
 自分が田宮と出来たのは、よく考えて見れば浩二の責任なのだ。                                
 冴子は、そこまで考えて、少し安堵した。                 
「お前は最近とても色っぽくなった。躯全体が匂うように柔らかくふっくらとして瑞々しいし、眼にいいようのないあだっぽさ
が漂っている。見るだけで男心をそそるようだ」                            
 夫が宴会から珍しく酒気を帯びて帰った晩、そんなことを言ったのは、たしか浩二がロンドンに去って二月くらい経ってから
のことだった。        
 「あなたらしくない冗談だわ」                     
 冴子が顔を赤らめながら言うと、                    
 「俺じゃないよ。田宮が今夜酔ってそんなことを言っていた」       
 「田宮さんって、あの講師の? ………あの人まだ独身でしょう? お増せさんだこと……」                      
「あいつだって、お前と同じ歳だ。普通ならもう幼稚園くらいの子供が居てもおかしくない年令なんだが、純情というのか依怙
地というか、婚約していた女性が別の男と駆け落ちして以来、学内のいろんな人が、いろいろないい縁談を持って行っても、一
向に反応を示さないんで、結局、彼は変り者という烙印を押されてしまったんだなあ」                          
 この家にも何回も来ている田宮は、国文学専攻の文学青年には見えない行動的な新聞記者のような、痩身の背高い雄豹のような
肢体と、長い髪を掻きあげながら細い澄んだ瞳で、見据えるように相手の目を覗き込むようにして話す純朴な表情を冴子は思い浮
かべた。
夫の研究の方便言葉の収集の手伝いや、夫が出張する際の講義の代役の打ち合わせなどで、この家に来る機会も多いのだが、来れ
ば夫に酒をねだり、したたか酔って独身らしい軽快なジョークを飛ばしながら冴子を笑わせ、静謐なこの家に花が咲いたような若
やいだ雰囲気を残して帰るのが常で、冴子は田宮が来るのを愉しみにしているし、決して田宮を変り者とも考えたこともない。                

            
「あの人、学校では変人という烙印を押されるような人に見られているんですか? うちにいらっしゃる時には、愉しい愉快なひ
ととしか思えないけど…………」                                  
「あいつは全く妙な奴で、学校では、必要なこと以外滅多にしゃべらないし、ほとんど笑顔も見せないんだ。頭もいいし研究成果
も学会でも若手の中では秀逸なんだが………。
 それがうちに来ると、あんなに人が変わったように愉快になるんだ。お前に惚れているのかもしれないなあ」                
「あら、厭だわ」                           
 冴子が体を揺さぶって照れたようにしなをつくった。その時に冴子の全身から、灯がともったような照りが匂い立ったのを夫の
和夫は見逃さなかった。
 もうとうの昔に自分達夫婦から消えてしまったと思っていた、生臭い性の匂いがはからずも妻からわきたつように漂ったのを、
惣太郎は添い慣れた妻ではなくて、初めて会った女と向かい合っているような感情で茫然と冴子の女の匂を沸き立たせているよう
な姿態い眺めていた。       

 「来週から冬休みなんだが、田宮と群馬の方便言葉を集めに伊香保温泉に行くんだ。偶然なんだが、伊香保温泉に九十五才の老
婆が居て、その親戚の子がうちの学部にいたんだ。その老婆が言葉だけでなく、古い民話や民謡を沢山覚えているというので、行
ってみよう、ということになったんだ。どうだお前も行ってみないか。久し振りに温泉もいいぞ 」                     
 「それは温泉には行ってみたいけど、お仕事のお邪魔じゃなくって? 」  
 「遊び半分の調査だし、田宮が車で連れていってくれるというので行くことにしたんだが、帰りに榛名の山に登って、釣りをし
て行ってくれと生徒の親からも誘われているんだ。その生徒の親の実家がまた伊香保で古い旅館だそうで、そこへ泊まることにな
ったんだ。最近は伊香保も沢山温泉旅館が出来て、温泉が足りなくなって普通の湯を沸かせている宿が多いそうだが、そこは源泉
を確保している数少ない旅館らしい。ただし相当古い旅館らしがね」            
 「清潔なら古い温泉旅館ってあたしは好きだわ 」            
 いつになく饒舌な夫をいぶかりながら冴子は、もう一緒に行くことに決めていた。温泉よりも田宮と一緒に旅することの方が興
味があった。
 田宮に好意を寄せているとかいうことではないが、冴子は無性に若い男性と接してみたかった。相手は誰でもいい。自分の中で
目覚めた若さを受け止めてくれる話し相手が欲かった。若者同志しか通じ合わぬ木霊のような会話が欲しかった。こんな心境はか
ってないことだったが、浩二とのあと、冴子は砂漠で水を需めるように、同じ世代の男性との会話や接触を渇望してきた。
 それはやはり自分の肉が浩二以来にわかに性に目覚めて、本能的に異性を求めていることは隠しようもない事実であることは冴
子自身が痛いほど知っている。
 しかし、いつの間にか男と女の生臭さが消えて、清烈な水の流れのような精神的な穏やかさを需める夫との生活では知り得なか
った、狂おしいまでの情熱や湧き立つような情感を互いに秘めながら話し合うという、若い男女特有のあふれるような不思議な精
神の昂揚と甘さのあることを経験したことが、冴子の心に大きな変化をもたらしたのだった。      

 若い男女の間には、相互の間に牽引する力が作用するような気がすると冴子は最近考えはじめている。互いに情緒を引き合いた
ぐり合うから、そこには力が生じ熱がうまれ光りが飛ぶ。
 それが情熱というものなのだ。夫との場合、冴子の吸引しようとする情熱は、夫の寛大でおおらかで世慣ている初老の情緒は、
冴子がどんなに牽いても汲みくせず、押してみても手答えがない。満々と水をたたえた湖水を飲み干そうとでもするような味気な
さを冴子が夫に感じるには、こういうことなのかも知れない。                        
 今夜田宮が夫に話したしたという自分のことにしても、今までの冴子なら、たとえほめ言葉であっても、他人の妻の肉体に関す
る微細な評価を、こともあろうにその夫に話す男など、どう考えても下劣で低俗な存在として嫌悪した筈である。
 だが、今の冴子には、たとえ酒席の下品な会話であれ、自分を女性としてほめたたえてくれた田宮に、実際に裸体を視られたよ
うな羞恥と妖しく燃え上がるような肉のきしめきを覚えるのは、やはり自分と同世代の田宮に、互いに性を牽引し合う男女の情緒
の漲ぎりを感じるからなのだろう。             
 「伊香保はもう寒いでしょう?お二人がお仕事に出かけられたら、あたしはどうしたらいいの?一日旅館でじっと過ごすなら、
編物でも持って行かなければならないわ………」                            
 「伊香保には徳富蘆花の記念館や竹久夢二記念館もあるから一日退屈することもあるまい。それに俺達の仕事も、ただ老婆の喋
りや歌うのを録音してくるだけだから、半日もあれば十分なんだ。あとは言ったように遊びなんだ」     
 出無精で誘っても滅多に付いて来なかった妻が、今回に限って待っていたように、頬を上気させ目を輝かせかているのは、自分
が今まで思っていた通り妻は田宮に相当な思いを寄せている証拠に違いないと、自分のもくろみの確かさに、一種の怯れと突き上
げるような妖しいときめきを感じた。           

 田宮が以前から妻に思いを寄せていることは、無口な癖に普通なら心の襞に隠しおくようなことでも平気で表現する彼だから、
縁談を勧めても、先生の奥さんのような女性なら一も二もなく承諾するのですけど、とか、今夜の打ち合わせは先生の家でしたい
な、奥さんの貌をもう二月も見ていないので会いたくて………………、と平気で言う。
 それも冗談やお世辞でなく真底そう思っているのが、ながい付き合いの惣太郎にははっきりわかる。
 田宮は自分の感情や意見を偽らない性格だから、学内でも田宮の率直な意見を曲解して敵対する者も多いが、その反面、田宮の
言うことなら………と、その発言には誰もが信頼を寄せる。特に学生にはそういう田宮の率直さが受けて人気がある。剣道は六段
の腕前で国体に出場したこともあるほどで、今も大学の剣道部のコーチを引き受けている。無口な
上に一たび言葉を発すれば辛辣だし、痩せて背高の身体体には野武士のよな隙のない強靭さが滲み出ていて、はじめて会う者には、
近寄り難い印象を与えるが、惣太郎のように長らく付き合ってみると、剛健さの中に素直で一図な愛すべき性格の持ち主であるこ
とがよくわかる。                    
 田宮がはじめてこの家にやって来たのは、彼がまだ助手をしていた頃で、浩二が大学の二年生だった。冴子もはじめて田宮に会
った頃は、          
 「やくざか昔のお侍みたいで怖い人……」                 
 と評してあまり近寄らなかったが、いつの間にかすっかり田宮の性格を理解して、馴染んでいた。                           
 途中二年アメリカの大学に留学し、丁度、浩二がロンドンに行くのと入れ違いのように帰って来たのだが、どうもその頃から妻
の田宮に対する感情に変化が現われ始めたような気がする。                       

 惣太郎がはっきりと妻の田宮への愛慕の情を感じとったのは、田宮と二人で受け持った地方の大学の集中講義が、惣太郎が俄な
腰痛で行けなくなり、急遽田宮が一人で講義することになって、二晩ほどこの家に田宮が泊まり込んで準備した時である。                  

             
 腰の痛みに起き上がれない惣太郎に田宮は、カイロ・プラクチクスという、こういう場合いちばん効果的なマッサージ治療法を
アメリカで修練してきているから治療してあげます、と申し出た。なんでもカイロ・プラクチクスとは、ギリシャ語で掌の手術、
という意味だそうで、剣道や柔道の高段者は、人間の骨や筋肉については医者並みに研究していて、大抵鍼、マッサージ、整骨な
どの資格を取得しているが、自分は前からこのカイロ・プラクチクスに興味を感じて、日本国内の関係者について習っていたが、
今回向こうで徹底的に学び、アメリカでの治療士の資格も取って来たっという。
 残念ながら我が国ではまだ厚生省の認可が下りていないので、治療することは出来ないが、自分が取得しているマッサージと整
骨士の資格で治療して上げて、大勢の人から喜ばれている、ということだった。
 下穿だけで俯伏せにされ、田宮の剣道で鍛えた大きな掌が、惣太郎の脊髄骨の両側を撫でさすっていった。羽毛で撫でられてい
るような擽ったさと、じんわりと押え付けられるようなかゆさに似た痛みとが入混った妙に性感を刺激するような、焦燥感の残る
治療で、惣太郎は小馬鹿にしたが、実際治療が終って見ると、つい先ほどまでちょっと身動きしても激痛がはしり呻き声が出てい
たのが嘘のように、身を動かせても鈍痛しか感じない。                  
 「田宮さんがこんな特技をお持ちだとは知らなかったわ。どうして隠していらっしゃったの? 」                           
 「隠してなんかいませんよ。学校の運動部の選手たちのこの種の治療はほとんど奉仕でやっているし、せんだっても、どこで聞
いたのか副学長の奥さんが、長いこと貧血症で肩凝りに悩まされているから、ぜひともと頼まれて、忙しいのに六回ばかり世田谷
の自宅に通いました」                  
 「それで治ったのかね」                        
 やっと身動き出来出し躯をゆっくりと横臥させながら惣太郎が口を挟んだ。 
 「ええ、血圧も随分ら下がって、肩凝りは完全に治ったらしいですね。こんな爽やかな躯になったのは何年ぶりだろう…………
って、感謝されました。まあお齢ですから、そのうちまた懲り始めるでしょうがね」             
 「これも年中肩懲りで悩んでいるんだが、一つ治してやってくれんかね」   
 「あら、あたしのは運動不足ですよ」                   
 にわかに矛先が自分に向けられて冴子が慌てて弁明した。         
 「ええ奥さんのも多分貧血からくる肩懲りだと思います。ただし副学長の奥さんと違うのは、まだ若いから治療で増血作用を促
せば、完全に肩凝は治るということです」                               
 「副学長の奥さんって幾つになるんだね」                
 「六十五才です」                           
 「それじゃあ冴子はまだ見込があるな」                  
 「あら! 二人ともあたしを馬鹿にしたのね。ねえ貴方、本当にそうならあたしもやってもらいたいわ。肩凝って意外苦痛なん
ですよ」           
 「奥さんなら絶対自信がありますね。二週間置きくらいに、そうですね五回治療すればいいでしょう」                         

 
 「そりゃあいい、ぜひやってやってくれよ」               
 惣太郎の寝ている布団の横に敷き布団を一枚だけ敷いて冴子が横になった。  
 「奥さんそれじゃあ駄目です。本当なら裸になって頂くのですけれども、スリップ一枚か薄いネグリジェかまたは浴衣になって
下さい。この治療は神経を刺激して血行をよくしたりするのですから、厚い衣服があると効果がないんです」 
 「えっ、田宮さんの前でそんな格好出来ないわ」             
 冴子が羞恥に顔を染めながら言うのを、惣太郎が強引に説き伏せると、隣室に出ていった冴子は、薄い夏物の木綿地に椿の藍色
模様の浴衣を着て入って来た。
 顔の化粧も落として、素顔に薄く口紅だけはたいていた。          
 ネクタイをとったワイシャツ姿の田宮が長い脚を持て余すように折り曲げて、横臥した冴子の肩に掌を伸ばした。
 冴子は惣太郎に背を向けて横臥している。髪をたくし上げてピンで留めているが、襟脚にほつれた細い髪が女らしい色気をほの
ぼのと匂わせ、細い腰からこんもりと悩ましげな曲線で盛り上がる臀の丸みが、田宮の篠竹のような腕の動きにかすかにゆらめい
ている。
 田宮の掌が肩からしだいに下がり脇腹や腰の辺りを撫ではじめると、今まで無言だった冴子が、しきりに空咳や咽喉にからんだ
痰を除去するような声を出しはじめた。
 鼻が詰まったようなその声は、冴子が発情している状態であることを惣太郎は敏感に察した。
 田宮の顔は後ろ向きで見えないが、なんとなく昂ぶりが感じられる。      
 やがて田宮の指示で、冴子が惣太郎の方に横臥の向きを変えた時、惣太郎はあっと、思った。
 惣太郎の想像通り、冴子の変化が目に付いた。冴子の全身から妖気が立ち上っているような一瞬の感じがあった。閉じていた瞳を、
ちらと、あけて惣太郎を見た瞳が黒々と濡れて、化粧のない白い頬が紅をさしたようにつやつや輝いていた。          
 「眠くなるくらい気持がいいわ」                    
 惣太郎を見る目が朦朧と霞んでいた。俯伏せに変った時、冴子は顔を夫の反対側の向きに変えた。                          

 
 惣太郎は田宮が、アメリカに同棲している二世の女を残して帰国しており、帰国後、女は田宮の子を出産し、今一才に成長してい
る。名前は英美夫といい、女の父親である一世の医者の父が名付けた。あちらの両親が離したがらないので置いて来たが、あと二年、
日本の大学で教えると、アメリカの大学の日本語教授が約束されているので、向こうに帰って永住することにしている。そういう約
束で、女と子供は、女の両親に預けて来ていた。もちろん仕送りは続けている。
 このことは田宮の母親が、二年前から重い病に伏している関係で、本人と惣太郎以外は誰も知らない。もちろん冴子は知らない。             

    
 冴子は田宮を未経験な独身青年くらいにしか思っていないだろうが、実は女の扱い方は熟知しているのだ。内縁の妻の他にもアメ
リカでは相当女遊びを経験していると、惣太郎に告白している。
 このカイロプラクチクスというマッサージも、実は学校に通っている頃に、学資に窮していた田宮が、ある機会に医者の友人に勧
められて習い覚え、冷感症の女の治療専門にアルバイトとして開業したものらしい。
 ある期間は繁盛し、金持ちの婦人達が押しかけたらしいが、今の女と恋愛関係に入ってから止めてしまったらしい。だから田宮の
性の遍歴や習い覚えた技術と経験からすれば、冴子のような純真な女を発情させることぐらい、いとも簡単なことに違いない。
 そう考えると、惣太郎は、目の前の田宮と妻が、まるで媾合でもはじめかねないような怖れを感じて、思わず身を乗り出していた。   

 一体田宮の掌にはどんな魔法が隠されているのだろうか、と冴子は朦朧としていく頭で考えていた。薄い浴衣を通して、じかに肌
に触られているように田宮の掌のぬくもりが、あたかも田宮の精を注入されているように感じられ、その後に冴子の躯の内部から快
感がわきおこり、触られる度にその場所が痙攣してくるのを押えることが出来なかった。
 悪寒のような戦慄と官能の疼きが、しだいに冴子の体内を満たしていく。ともすると出そうになる嗚咽を冴子は必死で堪えた。
最後に田宮は、背筋から腰と、臀の割れ目のあたりから太腿、脛、爪先までを、羽毛で撫でるようにして、マッサージした。
自分の躯の性感帯が、すべて田宮の掌先に集まっていくような恍惚感に、冴子はとろけるような官能に朦朧となっていた。それは浩
二との烈しさとは違った、じっとりと弱火で、とろとろと灼きあげられるような、切ない情緒であった。                   
 治療を終えて、淡いピンクの柔らかそうなセーターに襞の多い紺のスカート姿で現われた冴子を惣太郎が寝たまま見上げた時
、そこにしっとりと潤いの出た顔に、いきいきとした瞳と、躯の奥から染め上げられたような肌の艶がまぶしく匂い立っている、妻
の冴子ではなく、見知らぬ女が艶然と俯向きかげんに自分を見下ろして微笑んでいるような錯覚を覚えた。                 
 「ほんと!まるで自分の体重がなくなったみたいに躯が軽くなって翔んでいきそう よ。有り難うございました」                   
 田宮に熱燗を注ぎながら、照れた上目使いで挨拶をしている妻は、まだあえぎの治まらぬように小さく開いた唇から、美しい小粒
の歯をこぼれさせながら、耳まで染めあげている。
 惣太郎は冴子の内部にいま、消えていた若さの灯がいっせいにともされたような耀きを見ると同時に、酒を受けながら、冴子に優
しさをたたえた目を注ぎかけている田宮にも、獲物を捕らえた猟
師のような満足感のあふれた表情を読み取っていた。
 二人の一瞬の視線の溶け合いに、惣太郎は健康な性を共有する男と女が互いに心を開き合った暗黙の了解が成立した証を視た。   
 「今度は温泉に行った時に治療しましょう。よく利きますよ。先生もそうしましょう」                                 
 「ああそれはいいね、ぜひ、そうしてもらおう」             
 「でも、田宮さんに悪いわ。温泉にまで行って、あたし達夫婦の治療をしているんじゃ、疲れに行くようなものでしょう」                
 「先生の治療は、早く直って貰わなければ自分が困るから、奥さんの方は、触れることが愉しいから、お二人とも自分のためにする
ようなものです。どうか気になさらないで下さい」                          
 「まあ、田宮さんたら………」                     
 冴子が羞恥とも照れともとれる表情で、両手を上気した頬にあてて、子供のいやいやをするようなしぐさで身体を揺すった。その姿
に惣太郎は自分の妻に今まで見たことのない妖しい輝きを見た。                    
 その時、惣太郎に激しい嫉妬の感情の替りに、田宮の鋼線のような鋭い身体に容赦なく犯されながら、歓喜に身を打ち震わせている
自分の妻の、見たこともない嬌態のあられもない姿が、天女のもだえのように美しく想い描かれて来るのだった。                     

             




女の業火



 伊香保温泉に向かう日は、寒くはあったが、東京は快晴だった。       
「お前がこんないい車に乗っていようとは思いもしなかったよ」      
 昼過ぎに迎えに来た田宮の車を見た夫が驚きの声を上げた。大学の講師あたりは大抵車を持っていても、国産の大衆車が多かったが、
田宮の車は大型の外車だった。しかも買ったばかりの新車で普通ならその車は黒く塗られて貴賓の送迎か大会社の重役の自家用に使わ
われるようなものだった。
 「なにしろ独り身ですし、背が高いでしょう、国産車だといつも頭をぶつけてばかりいるので、少しきざな感じはしますが、思い切
って買い替えました」  
 ぶっきらぼうに言ってハンドルを握った。車に弱い冴子は助手席に乗り、夫は後部座席だった。

 調布から所沢の関越自動車道のあがるまでが大変な渋滞で、予定より一時間以上かかった。空いた高速道路にやっと入り、伊香保温泉
のある榛名山が見えた頃には、夫は後部座席で穏やかな寝息を立てていた。       
 どういう理由で東京と新潟を結ぶ高速道路を造ったのか知らないが、前に走ったことのある東名高速とは比較にならないほどすいてい
る。いまもこの車の前には一台の車も見えない。
 茜色に染まった空がしだいに力を失って褪せ、濃い紫の靄がたなびきはじめた空 に、くっきりと巨大な奇岩のような凹凸の榛名山が
前方に墨絵のように見えはじめていた。
 昼が死に夜はまだ生れてない。その一瞬の静けさが周りを包んで、冴子は田宮と二人きりで、見知らぬ世界の夕暮れを、その夕日を求
めて無限に伸びる道を走っているような錯覚に陥っていた。
 この道は地上でもなく宙でもない不思議な次元を孤独に伸びていた。渋川伊香保のインターチェンジに近付き、速度を落しながら煙草
に火をつけている田宮の横顔を眺めた。
 精悍な彫りの深い横顔を煙草の煙が目にしみたのか少ししかめている。人一倍広い額に残照があたって赤く艶やかに輝いているのが、
まるで何かに興奮している男の毅然とした表情のように見えて頼もしい気がする。         
 高速道路から渋川の街に入ると、古い軒を寄せあったような民家が並んだん細い道に入る。
 東京では最近では見られなくなった柱時計をいくつも掛けた時計屋や、軒崎にビニールに包まれて埃にまみれたままの衣類を売ってい
るような店が目に付く。                               
 「こんなことで商売になるのかしら」                  
 冴子が指差した店に、ちらりと視線を動かせて、             
 「僕もいつも不思議に思っているのです。僕の想像ですが、多分、田舎は今でも家系というか、親類一族の結束が強いから、何とかや
っていけるのじゃないかな。義理ででも買う人がいなければ、とうに潰れている筈だもの」       
 「そうよね。この細い道に入り込む前にも、大きなスーパーがあったわよね」
 「あっ!……」                           
 田宮が小さく声を上げて、車のハンドルをにわかに左に大きく切った。冴子の躯がその弾みで浮あり、思わず田宮の膝に手を突いた。 
 細いがあまりに硬い膝に冴子は驚いた。夫のはこんな硬さはない。浩二の膝の感触を思い返そうとしたが、どうしたことかはっきりと
は思い出せない。               
 すみません。うっかり曲がるのを忘れていました。昏い中で伊香保方向という標識がちらと見えたので、慌てました。………先生大丈
夫でしたか」    
 冴子が振り返って後部座席の夫を見ると、急回転も気が付かなかったように、今眠りから醒めたような細い目をしばだたせながら、狭
い車内で窮屈そうに腕を伸ばして伸びをしれいた。                        
 「もう伊香保かい。昔にはこのあたりはちんちん電車が走っていたな。もう三十年くらい前のことだが、父親に連れられて来たことが
あるよ」       
 のんびりとしたあくびを含んだ口調で答えた。              

 すっかり日が暮れてさだかではないが、道は登りになり、杉林や際立った崖を削った 白っぽい法面が視界を過ぎて行き、やがて道の
上から温泉街の建物やネオンが見えて来た。
 店先に据えた蒸籠から温泉万頭屋をふかす湯気がもうもうとあがっていたり、旅館やホテルの並んだ細い道の街灯の陰に、芸者らしい
二人連れの女が、着物姿なのに脚には長靴を履いているのが見えたりしだすと、温泉は久し振りの冴子は、妙に心の高ぶるような色っぽ
さと暖かさの入り交じった、人肌の温かさに触れるような度興奮を感じてくる。             
 車はその温泉街を通り過ぎるように一向にスピードを緩めない。       
 「あたし達の泊まる所はまだですか?」                  
 「今夜の宿は伊香保の温泉街の一番高い所なんです。ここらのような近代的なビルではなくって、古い旅館らしいですよ。でもいいこ
とにこの伊香保も温泉を汲み上げ過ぎて、殆どの新しいホテルは地下水を汲み上げたのを沸かしているらしいですが、そこは源泉があっ
て、お湯は豊富と聞いています」       
 田宮の案内を聞いているうちに、車は明るい街をぬけて、山道のような暗い急な登り坂を登って行く。                         
 「あら! これ雪じゃない? 」                    
 ヘッドライトの照明に映し出された道路が白く輝いている。硝子のようにきらきらと硬質に輝いているのは、だいぶ前に降った雪が凍
結しているのだろう。田宮がスリップを警戒してスピードを極端に押えた。暖房で暖められた車内の窓硝子を通して、冷気が忍込んで来
るような気がするほど外は冷えているらしい。 

 暗闇の中から突然、山荘のような建物が見えて来た。            
 「ああ、これです……」                        
 相当緊張して運転していたらしい田宮の安堵の声が大きく車内に響いた。  
 昭和の初めに伊香保温泉で洋風建築としてはじめて建てられたという木造の古い旅館だが、中は最近改造したらしく、しっとりとした
落ち着きのある旅館だった。冴子と惣太郎が大きな暖炉で薪が燃えるのを眺めながら、アールヌボー調の椅子に腰を下ろして、田宮がチ
ェックインの手続きをしながら、番頭らしい太った中年の男と、やや興奮した口調で長々と話しているのを不安な気持で待っていたら、
やがて番頭が頭を掻きながら、田宮の後からやって来た。        
 「実はお部屋が一つしかお取り出来ていないんです。主人から大事なお客様だからと、一番いいお部屋をご用意させていただいたんで
すが、ご夫婦さまがご一緒とは聞いていませんでしたので……。生憎本日は予約がいっぱいでして、ほかにお取り出来ないのです。お取
りしましたお部屋は、十二畳の和室とツインベットの洋室がありますので、それでなんとかご容赦いただけませんでしょうか」 
 「ああ、いいとも。ともかく寝られればいいんだ」            
 惣太郎が人のいい性格を顔面で証明しながらおおらかに言った。      
 案内された部屋は、天井に経木細工を張った古風な部屋で、襖の向こうに、元は和室の続きの間だったのを、最近の客筋を考えて急造
したらしい洋室があった。
 この部屋はこの旅館の最上階の筈だったが、窓からは小さな谷の向こうに迫った山の斜面が見える。きっと山の斜面に建ててあるのだろ
うと惣太郎が言った。 
 早速男達が温泉場に行ったすきに冴子は手早く旅館の着物に着替えて、自分も風呂に行った。温泉は地下だったが、実際には谷川に面し
ていた。男湯と女湯が並んでいて、男湯からは大勢の男達の声が聞こえたが、女湯には先客はなかった。石を並べた浴槽に、鉄分を含んだ
泥水のような赤茶色の湯が溢れていた。
 入るとややぬるめの湯だが、しっとりと身体に馴染む肌触りの湯だった。    
 硝子張りの大きな窓から、急峻な斜面にはえた杉木立が黒々とみえ、林床が残雪に白く浮き出ている。林の奥の暗がりには、なにか恐ろ
しい魔物でもこちらを窺っているような気分になって、冴子は怖いもの見たさの子供のように浴槽の中を湯を掻き分けるようにして窓際ま
で行って外を見た。           
 窓際まで行くとかすかに流れの音が聞こえてきた。暗闇に反射して明るい浴室にいる自分の顔しか映していない窓に、顔を擦り付けるよ
うにして覗き込むんで、 
 「あらっ!」                             
 冴子は思わず一人で声を出した。                    
 視界は全部山の斜面だと思っていたのに、向かいの山の暗がりの上には丸い小さな峰が暗黒の山肌と濃紺空を分けて影絵のように見えて
いる。杉の尖った樹陰の見える峰の上の宙空には半月が冴えわたっていた。凍り付いたように硬くしまった感じのする空気を切るような鋭
さで差し込んでくる月光は、まるで洞穴の底から天空を見るようなに清々しさだった。浴槽から立ち上がって谷底を見下ろすと、小さく細
いが急な落差を勢いよく流れる谷水が、白銀に輝く大蛇の長い尾のように見えた。                               
 天井から落ちる水滴さえ、はっとする大きさに聞こえる静寂の中なかで、冴子はなぜか妙に心の落ち着きを失っている自分を見詰めてい
た。
 この胸の中でむずかるような昂ぶりは一体何だろう。そう考えながら湯の中に持ち込んだタオルを胸に当てた時、ちくっと乳首に響いた
感触で、冴子は急に肩を押されたような衝撃でその原因に思い当たった。それは今夜田宮と同じ部屋で寝ることだった。たしか二度目の治
療は、今度温泉にでも行ってすればよく利きますよ、と言った田宮の言葉を躯が覚えていたのだろうかと、冴子は少なからず動揺していた。  
 ただマサージを治療をしてもらうだけだし、夫と一緒だからまさかのことはないし、何も自分は田宮に好意や情感を持っているわけでも
ない。自分の主人の部下というただそれだけの存在でしかない。この自分の落ち着きのなさというのは、ただ他人の男と同じ部屋で雑魚寝
しなければならないという、迷惑さだけの筈だ。そうだとうなずくには生憎に、田宮の掌で触れられた肉感の疼きが今も冴子の中で妖しく
蠢いている。それはあれから燃焼しきれないまま、生木が燻るような白い乾いた煙ばかりを上げている冴子の身もだえがひとりでに肯定し
ている。
 自分の乾いたふすぶりは、田宮から治療を受けてからだけではない。

 二年前、浩二を知ったことによって、冴子は今浴槽で身を動かせて暗黒だとばかり思っていた視界に偶然冴え渡った夜空を発見したよう
に、人生の新しい眺望を見出していた。それは一瞬垣間みいた世界であったが、冴子の心と躯の奥深くに烙印のように灼き付けられてしま
った。                          
 男と女の関係が、心と肉の両方で成立するように創られていることを知ってしまってからも、平和で静謐な今の生活は自分にとってかけ
がえのないものだと言い聞かせ、浩二への痛みに似た烈しい愛慕に狂いかける自分に制動を与え続けて来たのに、田宮の掌が触れただけで
自分の中に湧きたつこの肉の炎の狂おしさは、なんというはしたなさなのだろ う。冴子はふと、実家の藁屋根の下で今夜も独り炬燵のな
かで古い書物を紐といている父の厳しい生き方を想い出して、涙ぐむような気持で自分を諌めていた。                      
 「群馬の山の中だから、猪の肉に河魚、山菜にこんにゃくとばかり思っていたのに、こんな新鮮な日本海の魚や蟹や海老が出るとは以外
だったねえ」    
 「関越高速道路の開通のおかげですよ。この伊香保も東京から一時間圏になって、熱海より近くなり、すっかり東京の奥座敷になりまし
たし、新潟からも近くなりましたので、こうして日本海の珍味が食べられるようになったのですねえ」
 男達は並べられた松葉蟹や甘海老の魚に大喜びで箸をつけていたが、谷の澄んだ流れと先程見た冴えた奥山の月光の中では、やはり近く
なったとはいえ、遠い日本海の料理はそぐわないと冴子は思っていた。              
 「このお酒をぜひ飲んで下さいと、主人から仰せつかっております。利根川を挟んだ向こうの赤城山麓の地酒で、小さな酒屋が造ってお
ります。赤城山はこの榛名山が大昔噴火した火山灰を大量にかぶり、その後今度は赤城山が爆発してとても深い火山灰に覆われていまして
、降った雨が百メートルも二百メートルも地下に潜って麓へ出て参ります。地元では湧玉と申しておりますが、その水を使って醸造したお
酒です」                          
 中年の女中頭らしい、落ち着いた小肥の仲居の置いていったその酒をひとくち飲んで田宮が先ず声を上げた。                      
 「これは旨い。先生飲んで見て下さい」                 
 「まるほど。とても芳醇な酒だね、東京で呑み屋が出し惜しみする例の銘酒とかいう梅の月や竹菱より、よっぽど旨いにねえ。冴子も
飲んでみろよ」    
 「さあ、どうぞどうぞ」                        
 田宮が机の向かいから手を伸ばして酌をする。大きなぐい呑にまんまんと注がれた酒をこぼさないようにしよと、つい酒の呑みの男たち
のよくする手付きで、口を近付けて呑んでみると、酒の匂がしない。まるで清烈な谷川の水のように透明な澄んだ味で、たしかに夫が言う
ように寒梅のほのかな匂のような芳醇な香りが漂う。あまり呑めない冴子でも、思わず含んだまま口の中でころがしてみたくなるような馥
郁としたうまさである。                    
 「これはたまらまいですね」                      
 田宮は顔をほころばせて、杯を重ねる。惣太郎も黙々と満足気に呑んでいる。田宮と夫に交互に勧められて杯を重ねた冴子が、ふと谷川
のせせらぎが遠くなったと気が付いた時には、顔が火のように火照り目の男達の動作が急に高速映画の画面のように気だるいほどゆるゆる
動いているのを見
るように思った。自分が酔ったためだと気が付くにはしばらく時間がかかった。             
 冴子が背にしている襖を開けて、先ほどの女中頭に案内されて、この旅館の主人が入って来たのにも、男達が急に態度を改めるまで冴子
は気が付かなかった  
 よく太って恵比寿様のような福相で頭の剥げあがった六十近いこの旅館の主人は、濃紺で旅館の名前を染め抜いた法被のしたに、きちん
とした背広を着ていた。男の生徒である甥の礼から、今夜自分が町会議員の寄り合いで今まで抜けられなかったことなどを、丁重に謝して
から、               
 「昔は湯治温泉ですから、これという伝統も残っておりませんが、私の趣味でまるで深山の中にいるような雰囲気で楽しめるバーを一部
屋造ってあります。今夜は団体客が多いのですが、その部屋だけは空けてありますから………」    
「 いや有難いですが、この通りこの旨い酒を頂きまして、すっかり酩酊いたしておりますから、またの機会にでも……」                 
 熟した柿のように紅潮したるんだ顔で惣太郎が慇懃に断わると、      
 「それは残念です。しかし………どうでしょうか、この伊香保で娘二人と、母親の三人で出ております面白い芸者がおりまして、それを
今夜は揃えましてご夫婦円満の踊りをお見せしようと待たせてありまあすので、こちらの若いご夫婦様だけでも、ご鑑賞して頂くわけには
いかないものでしょうか。大学の先生のような高尚なお仕事をなさっているお方様では滅多にこんな踊りを御覧になる機会もありませんで 
しょうと思い、ご用意させていただきました」         
 田宮が慌てて自分は一人だと弁明しようとするのを押えるように惣太郎が、 
 「そうしなさい。折角のご好意だから」                 
 きめつけるように言った。

 私も酔ってますから止めます、と言うつもりが、酔いのためか億劫になり冴子はだまてうつむいていたが、これで立てるのかしら、とい
う不安の方が先に頭を霞めた。                    
 女中頭に案内されて、エレベーターで地下まで降り、曲がりの多い昏い廊下を行くと、ドアが一つあって、それを開けると、急に辺りが
仄明るくなって冷気が頬を撫でる。そこは渡り廊下で、大きな日本庭園の池を渡るようになっており、いつのまに降り出したのか庭は一面
雪に覆われていた。
 いまも深い静寂の中で細かい雪がさみだれのような早さで降り急いでいる。薄い浴衣に丹前だけだが、今までのぬくもりでそれほど寒く
は感じない。                
 「いつの間に降り出したのかしら。さっきはお月様が出ていたのに……」                   
 立ち止まり廊下の欄干に身を寄せて庭を見ている冴子に田宮が寄り添った。背中に田宮の着衣の温かさが伝わり、冴子のうじなに男くさ
い息がかかった。冴子は冷気の中で、男の肌に包まれたような温かさと甘さを感じて、思いもなく田宮の身体に体重をかけて寄り添った。
 田宮の掌が後ろから冴子の肩に置かれた。  
 森閑とした白一色に覆われた庭を横切る流れは、温泉の湯が流れているのか、そこだけが生きているようにもうもうと湯気がわき上がっ
ている。白い簾のように降り続く雪の向こうに漆の闇が溶けていた。
 ふたりで東京から逃避でもして来たような孤独感に身を包まれて、冴子は後ろに寄り添っている田宮にすがりつきたいような親密感を感
じて、かすかに後ろにもたせかかっていた体重を、思い切って田宮の胸に包まれるほど入れ込んだ。
 冴子の後髪に田宮の顎が触れ、同じ情緒が通じ合っているという意志表示のように、田宮の身体が反応して、後ろから冴子の躯を抱え込
むようにぴったりと密着してきた。肩に置かれていた田宮の掌が前に回された。                              

 案内されたのはバーという感じではなく、大きな温室の中に庭と小さな東屋を建てたよな感じだった。入り口から小さな渡り廊下で東屋
に入れる。なかは主人が自慢するだけあって、一見能の舞台のように簡素な部屋だが、檜の巨木をふんだんに使った柱や、桜の皮を張りめ
ぐらした壁面、一枚板の濡縁の向こうには白砂を敷きつめた小さな庭があり、その向こうは高い硝子張りの天井に届くような杉の林が造っ
てある。杉林の奥は闇に消えて見えないので奥深い山の中に来たような錯覚に陥る。暖房で暖められた空気が澱んでいるところをみると、
その奥に外との仕切りがあるのだろう。
 スポーツ施設のように高い硝子の天井からは、いつの間にか雪は止み、先程風呂から冴子が眺めた時よりさらに冴えを増した月が雲間か
ら顔を出していた。昼間はどうか知らないが、この暗さでは酔っているせいばかりではなく、本当に夜の林に紛れ込んだような恐怖に襲わ
れて、冴子は田宮の腕にすがりついて寄り添った。                       
 板張りの部屋の中央に赤土を練って造った囲炉裏がしつらえられ赤々と炭火がおこり、それを囲むように厚い板だけの椅子が作られてい
る。昏い照明が杉の樹に向けられてい て、杉の葉の緑が浮き出ており、その間接の明りでしか手元を見ることが出来ない。囲炉裏の枠と
一緒に作られたテーブルには、酒や肴が置かれているのが、目をすかせて見るとわかる。
 いつの間にか主人も女中も居なかった。昏く深い森の中に田宮とふたり投げ出されたような不安が冴子を襲ってくる。辺りはしんと静ま
りかえって物音一つしない。                
 「怖いわ」                     
 思わず冴子は隣に座っている田宮にしがみ付いた腕に力を入れた。車の中で触れた膝と同じ硬さの腕が、ゆっくりと冴子の背中に回され
た。        
 「どういうことかな。まあ、酒でも呑みましょう」           
 組んだ脚を解きながら田宮は銚子をとって冴子の前の杯を充たした。    
 「あたしもう頂けないわ。今でも目の前が回っているみたいよ」      
 冴子は自分に注いでくれた杯を田宮の口許へ近づけた。田宮は冴子の背に回した掌も、銚子を持ったもう一方の掌もそのままにして、冴子
の掌で支えられた杯に口を寄せた。
 冴子は驚いて右掌の杯に慌てて左掌を添えた。こぼすまいと注意深く腕に力を入れると、田宮の顎に掌の甲が触れて、ひりりと、濃い髭が
柔らかな冴子の掌の甲を刺した 。
 田宮の右掌が冴子の掌ごと杯を掴んで一気に呑み干すと、そのまま冴子の掌の甲に唇を当ててきた。田宮の暖かい唇の感触に、思わず掌を
引っ込めようとした時、突然、正面の杉林が昼間のように明るくなった。                        
 突然の強烈な照明の明るさに眩む目を見据えると、杉の木立の濃い緑の中に、燦々と降る春の陽光に照らし出されたような照明を浴びて、
あでやかな色彩の着物の裾を引いた芸者が三人、それぞれにしなをつくって日本人形のように立っている姿が浮き出ていた。左の端の女が一
番若いらしく緋色の地に金紗の模様の派手な着物に丸髷に刺した藤の簪は貝ででも出来ているのだろうか、わずかに体を揺らす度に紫のルビ
ーのように燦然と光っていた。
 真ん中の黒地に銀紗模様の芸者は相当な年増だったが、斜め下に半開きの朱色の番傘を両手で構えている立ち姿は、いかにも年期の入った
芸者の艶の濃さが匂い立っている。右の黄色地に朱の花模様の女は三十歳前後だろうか、しもぶくれの丸い顔があだっつぽく、成熟した女の
甘酸っぱい匂いが周囲に拡散しているように色っぽい。       
 歌舞伎や新劇の舞台と違って、杉林が本物だけに現実味があり、森の妖精が突然舞降りたような驚きがあった。目が慣れてくると、杉林の
右手に囃方の台が置かれ三味線の女が二人と、未だ少女のようにあどけない娘が緋色の着物の裾をからめて頭に八巻姿で大太鼓の前に立って
いた。
 大太鼓の少女の白くかぼそい腕が揃えて上がり、思い切り振り降ろされると、少女の腕の力とは信じられないような腹にずしんと応えるよ
うな太鼓の重量感のある響きが周りの澱んだ空気を津波のように震わせて轟いた。冴子はその響きに圧倒されて思わずにすがり付いた田宮の
腕に力を入れた。                          
 三人の芸者が、太鼓の音にスイッチを入れられたからくり人形のように、緩慢な動作で動き出し、やがて三味線が掻き鳴らされだすと、そ
のリズムに操られて、しだいに動きに緩急をそえながら踊り出す。                
 「これはまいったなあ。奥さんに見せていいのかな」           
 田宮がすがりついた冴子の腕をとらえて二の腕を強く掴んで興奮気味に言った。 
 「それどう言う意味?」                        
 「これは深い川浅い川という踊りなんだけど、普通の踊りじゃなくって、男が楽しむとても猥褻なものなんだ…………」                 
 田宮が説明するまでもなく、三味線の音がしだいに大きく強く早く鳴り出したのに連れて、若いふたりの女が裾をゆっくりと捲りはじめた。
あでやかな着物の裾が乱れ、目を射るような緋色の腰巻きに包まれた脚がしだいに露わになってくる。強い照明のためか、もともとそうなの
か分からないが、女たちの脚の白さが目に痛いほどの強烈さで飛び込んでくる。膝のあたりまで捲り下られ、しばらくそのままの状態で踊り
が続く。知らない冴子にも、川を渡る動作であることが理解出来た。
急流に向かって力を入れて歩き、川床の石にでも脚を滑らせたのか、よろめく動作も真実味がある。                      
 冴子の常識を打ち破る強烈な衝撃で、女達は膝からさらに着物の裾を捲り上げて、ふくよかな太腿を露出し、やがて黒々とした陰毛まで露
わにして、女の命を秘めたような円やかで軟らかそうな下腹部までが、強烈な照明に照らし出された。流れが強くなったらしくふたりの女が
互いに肩を抱
き合い、急流から身を支え合っているような格好で踊りは続 く。石につまづいて倒れそうになり、大きく片足を宙に挙げた一番若い女の脚
を、もう一人の女が掴み、さらに大きく開く。後ろへ倒れそうになる女の背後へ、籠担の雲助のような格好で踊り出た年増が、後ろから女の
上体を支える。
 そうしたまま三人の女は何度も同じ場所で回り始めた。田宮と冴子の方から見ると、大きく開かれた女の股間の翳りの中心に、メスで切り
開かれたような生々しい鮮やかな肉色の潤んだ花芯の奥の微細な襞までが鮮明に見える。                               
 もっと川が深くなった想定なのだろう、脚を広げられた女を他の二人の女達が抱え上げて川を渡る。略奪される花嫁のように、抱え上げら
れ運ばれる女の着物がしだいにはだけ、帯が解け着物がずり落ち、最後には全裸になってしまった。
 舞台の右端でやっと川を渡り切ったらしく、裸の女を叢の上に横たえ、残りの女達は去って行った。ひとり残った女は、渡川の衝撃が醒め
やらぬ様子で、大きく息をしながら身悶えている。

 冴子ほどではないが、それでも人並みより豊かな乳房が悶えのたびに大きく揺れ、鮮やかな薄桃色の小さな乳首が痛々しいほどに震えてい
る。 幼さを残したような薄い肩と締まっ胴の割に、意外と発達した腰と太腿の豊かな肉付きが淫蕩な感じをあたえるその女は、やがて股間
に掌を差し込み自慰をはじめた。豊かな腿を閉じたり広げたりしながら、憑かれたようにせわしなく自慰行為に耽る女の掌の動きによってし
だいに昂められていく様子は、女の冴子には、まるで自分が田宮の目の前で淫らな行為を強いられているような自虐めいた興奮を感じる。           

              
 田宮の掌がいつのまにか冴子の膝に置かれて、ふと気が付いた時その掌は膝のあたりから腿の付け根にかけて、ゆっくりと羽で刷くような
愛撫が繰り返されていた。ふたりが居る炉の辺りの照明は今は消されて、舞台の反射光が弱く届いているだけだから、舞台の女からも、どこ
からか見ているであろう照明係の裏方からも気付かれる心配はない。                       
 舞台では白い豊満な肢体をくねらせながら女がしだいに昇り詰めている。滑らかな肌が艶やかに輝きはじめたのは、汗のせいらしい。苦痛
のように眉根に皺を寄せ、小さい奇麗に並んだ皓歯の奥から、蛇のようにちらちらと血色のいい舌を出して喘ぎ始めている女 は、やがて切
なさそうに声をあげはじめた。女の太腿の筋肉が細かく痙攣し、脚の指が反り返っている。大きく広げられた股
間にあてられて激しく動く女の細い指先が体液で濡れて光り、陰部からは乳色の粘液が臀に向かって一筋流れているのが見える。              

    

 冴子は自分の躯の奥からも、あの女がいま感じている官能の疼きと同じ衝撃が奔るのを感じて我に返ってみると、いつの間にか田宮の掌が
丹前と浴衣の合せ目から侵入しじかに冴子の脚を愛撫しているではないか。それも既に男の掌は、冴子の太腿の奥深くにあって叢を、感知出
来るか出来ない程の微妙な撫で方で愛撫していた。                                
「 いや! 止めて………」                       
 思わずあげそうになった声を殺して、冴子は男の掌をきつく押えた。冴子の手が男の手を抜き出そうとすると、鋼のような男の手にもう一
本鋼線が差し込まれたように、男の手の硬さが一層強まり、そこに固定されたような力が加わって、冴子の力ではびくとも動かない。椅子に
座ったままの腰を引いて男の手を避けようと身を引きかけて、冴子は思わず息を呑んだ。自分の花芯からは、とろけるような暖かさで、いつ
のまにかじっとりとあふれ出したものが、下穿を濡らしており、男の手が、大分以前からそれに気付いて、もう合意を得たような気安さで愛
撫していたからである。                 
 うつむいて見ると、冴子があがいたせいで、丹前や浴衣の前が開き、昏い中に仄明るさを滲ませて、強く合せた二つの太腿が露わになって
おり、田宮の浅黒い腕が、丁度冴子が無理に挟んで締め付けてでもいるように、冴子の太腿の付け根のあたりに埋没している。
 薄いナイロンの下穿は濡れたために一層存在感を失って、田宮の指の微妙な触覚をじかに触れられているように伝える。男の指先が冴子の敏感な部分に触れる

度に、電流でも通されたように冴子の躯が緊張した。 
 舞台の女が最後の絶叫を残して達した時に、照明が一斉に消され、あたりは一瞬暗黒に閉ざされた。田宮の息が冴子の頬にかかったかと思
った瞬間、唇に煙草の匂の唇が重ねられた。顔を振って逃げる間もなくその唇は去っていった。それを待っていたように、杉林の間に点々と
提燈のような昏い灯がともされ、女中が二人酒や肴を持って入って来た。二人とも年老いた女中だった。        
 「どうぞごゆっくりして下さいとの主人の伝言で御座居ます。もしよろしければ、ここにお泊りになってもかまいません。ここの設備をご
案内させていただきます。どうぞこちらへ…………」                     
 田宮だけが立って付いていった。この部屋に来てどのくらい時間が経過したのだろうかと、冴子は目をこらして左腕をたくしあげてから
、腕時計は風呂に入った時に部屋の鏡台に置いてきたことに気が付いた。夫は今あの部屋でどうしているのだろう。冴子の感では間違いなく
寝込んでいるにはずだ。夫の酒に酔ったしゃべり方や顔の赤さ潤んだ目の様子から判断出来る。万一起きていたとしても、夫がここへ田宮と
来ることを勧めたのだからどうということはない。冴子はそう思うとにわかに華やいだ気分になった。新しく来た銚子を取り上げて、独り杯
に酒を満たしてあけた。

 咽喉から食道を過ぎる酒の刺激に、いい知れぬ退廃と甘さを感じた。                               
 それにしても間違いなくこの宿の人達は自分と田宮を夫婦と信じ込んでいる。十八歳も違う夫と自分の年令差を見れば、常識的には田宮と
自分の夫と判断されてもしかたのないことだが、ここへ案内された時、夫も田宮も間違いをたださなかったのはなぜだろう。夫は、自分とい
う妻を絶対的に信じているのだろうか。それとも田宮にそれほどの信頼があるのだろうか。それにしてはいままでの田宮の冴子への態度は夫
への背信そのものと言わざるをえない。こんな刺激的で猥褻なショーと二人だけの密室のような場所へ行くとは知らなくて、そこらにある旅
館のバーだと思っている夫としては、別にそれほどの配慮をする必要を感じなかったのかも知れない。
 先程女中が、今夜ここへ泊まってもいいと言っていたが、どこにそんな施設があるのだろう。そんなことが出来る訳はないが、もし面白く
快適な施設があるのなら、夫を起こしてつれて来てもいい。一般的なあの旅館らしい部屋よりいいかも知れない。そんなまとまりもないこと
を冴子が考えていた時、目の前の杉林の中から突然田宮の丹前姿が現われた。            
 「奥さん、これは面白い所ですよ。来て見ませんか」           
 白砂の庭に照明を浴びて広い額に垂れた長い髪を振り上げ白い額の艶やかな肌を輝かせながら、濡縁に立つ冴子を見上げてにこやかに言う
田宮の全身から、若い男の精悍な息吹が匂い立っていた。                                            

                   

花 濫  3
夢想原人 11/16(月) 13:51:48 No.20091116135148 削除
はじめての不貞
(一の続き)



結局、昼食も摂らずにふたりは狂っていた。                
 午後のうららかな陽がさす和室は、青い畳に冴子の山椿色の着物や薄紺の長襦袢、
白い足袋にピンクのスキャンティー、浩二の赤いアノラックやジーパンが華やかに
乱れ散り、その中に冴子の真っ白い裸体と浩二の琥珀色の硬い身体体が絡み合って、
さまざまな淫猥な体位でもつれながら蠱めいていた。
 明るい障子は閉じ切られほのくらい室内は、ふたりの躯からほとばしり出る体液
と汗のにおいに冴子の化粧の香りを隠微に混じらせて、二月の暮方とは思えない熱
気に満ちたあでやかさであった。静かな家の中にときたま冴子の嬌声が静寂を切り
裂くように響いた。      冴子が気が付いたのは、もう暮方だった。
 ほの昏い室内に障子だけが僅かな暮色を残して白く浮いて見えた。浩二の太い硬
い腕を枕にして彼の胸の中に顔を埋めるようにして眠っていた。浩二の掌腕が冴子
の汗ばんだ乳房に置かれ、ふたりの脚は複雑に絡んでいた。浩二と同時に果てたま
まの格好で眠り込んでしまったらしい。
 浩二を起こすまいと気を使いながら冴子は、そっと浩二の身体を解いて起きあが
ると、ふらつく脚を床柱にすがって支えながら、押し入れから毛布を出して浩二に
掛けた。毛布の端を浩二の子供のような優しい寝顔にかけながら、ふと、いとしさ
が込みあげてきてその唇に軽く接吻した。腰に力が入るたびに股間から浩二の残し
たものが、どっと溢れ流れる。下穿は付けずに、急いで散らばった衣類を片付け、
浩二の横に夫の浴衣を置いてから、音を立てないように気を使いながら部屋を出て
シャワーを浴びに浴室に向かった。        
 素肌にスリップを着て毛編みの白いニットのセーターにギャザの多い紺色のスカ
ートを付け、冴子は風呂場の鏡の前に立った。化粧は落したのに顔の肌は薄化粧を
したように艶やかである。頬も軽く紅をはたいたように血色がいい。瞳は妖艶に潤
み眦が少したるんで疲労の後がうかがえるが、それは明らかに媾合のあとの淫蕩な
妖気を含んでいる。たしかに自分の躯が強烈な媚薬を嚥んだように、妙に潤ってい
るにがはっきりとわかる。渇き切っていた躯に清烈な水を思いきり呑んだような充
実感がある。新しい下穿はもう濡れそぼっている。浩二は一体どれほどの量の体液
を注ぎ込んだのだろう。   
 それにしても若さとはこういうものなのだろうか。冴子はキッチンの椅子に腰を
下ろし、気倦るい陶酔の抜け切らぬ躯を机に伏せて考えていた。本当の男というも
のを自分は今日まで知らなかったのだ、という思いが強い。今のいままで夫のあの
優しさが男というものだ、と信じていた。男と女とはこうも激しく生死を超越した
ような激情の中で、思いもよらぬ歓喜の官能を奪い合い、肉体の全能力と力をぶつ
け合いながら汗みどろになって一体化し溶け合うことが出来るとは…………。冴子
にとってこの体験は夢の中の出来事のように思えて、つい先程体験したばかりのこ
とで、相手もまだ自分の部屋で眠っているというのに、現実感がなかった。   
 今夜のために買ってきた食品の半分も時間がなくて料理出来なかったが、やっと
散らし寿司と鰻を料理し食卓に並べたとき浩二が起きてきた。夫のウールの浴衣を
着て、不恰好に腰紐を結んで照れたような顔でドアを少し開けて冴子の瞳を覗き込
んだ。                                  



はじめての不貞


 浩二は食器の触れ合う音で目が醒めた。薄暮に包まれた和室に素っ裸のまま寝てい
た。身体を動かすと、陰茎にかすかな痛みが奔った。触れて見ると亀頭のすぐ下の包
皮が擦切れた痛みであることがわかった。遠くでサイレンが鳴っていた。身体に掛け
られた毛布から冴子の髪の匂が漂ってた。身体の芯に気だるさが残っているが、特に
変わったことはない。遂に女を知ってしまった、という思いが強い。それにしても何
と甘美な陶酔だったことだろう。最初の違和感がしだいに快感に変わって、最後には
全身が痺びれるような陶酔に我を忘れて叫んだような気がするが定かではない。思い
出すともう陰茎が勃起しはじめている。冴子が置いてくれている浴衣があるというこ
とは、彼女の怒りがないということになる。それを考えた途端に、浩二は安らかな愛
のような安堵と緊張を甘く感じていた。下穿が浴衣の下にあるほか自分の着衣はどこ
に仕舞われたのか見付からなかったので、下穿をはいたうえに浴衣を着て、暗い廊下
を冴子が音を立てているキッチンに向かった。       
 キッチンのドアは開いたままで廊下に光りがこぼれていた。明るいシャンデリア風
の照明に照らされた室内では流しに向かって冴子が調理の最中だった。冴子の調理中
の後ろ姿は見慣れていた筈なのに、今日に限って、賞味したことのある美味な果実が
鼻先で匂い立っているように、生唾が口腔に湧き上がるような耐えられない魅力を発
散させているように見える。柔らかそうな毛編みの白いセーターの袖を肘まで捲りあ
げて食器を洗っている水滴の付いたむっちりとした肉つきのいい腕が肉感的で、浩二
の男心をそそる。膝のやや上までの短めの紺のギャザの多いスカートから覗いた素足
がそこだけ明りを集めたように浮き出て、スカートが揺れるたびにその奥から甘酸っ
ぱい女の体臭がわき立っているようだ。照明に一番近い頭髪は、繊細な柔らかさで新
しい瓦のように燻銀色の鈍い光沢を放って、揺れるたびに芳香を撒き散らしている。
 そんな後姿を見ているだけで今の浩二は身震いするほどの官能のたかぶりを覚えて
しまう。いままではこの家の主婦として、手の届かぬ存在だった冴子が、一たび肌を
交わらせてからというものは、まるでいま知り合ったばかりの女のようにいとしく思
え、彼女の躯がたとえようもない甘さを放って自分を誘っているように蠱惑的で、見
ているだけで気が狂うほど激情に襲われて、どうしようもなく欲しくなる。              
 衝動を押え切れずに後ろ後ろから抱付こうとしたとき、長い髪をゆらして彼女は振
り返った。上気した顔に羞恥がはしって、浩二の視線と絡ませた眼を慌ててそらした。                                   
「お料理いろいろこしらえようと思って買って来たのに、時間がないわ。これで我慢
してね。お酒燗するんでしょう?」     
 わざと忙しそうに食器棚の扉を開けながら言う声がうわずっているのが、浩二には
どうしようもなくいとしい。                       
 「なにもいらないよ。いちばん欲しかったママをいただいたんだからら………」 
 「まあ、浩二さんたら………」                      
 冴子は両手を顔に当てて思わずその場にしゃがみ込んでしまった。かくれんぼの鬼
のように顔に両手を当てたまましゃがみ込んでいる冴子の肩を浩二が優しく抱いた。                                   
 浩二は酒はあまり強い方ではない。冴子も平素あまり口にしないが、その夜はふた
りで飲んだ。テーブルを挟んで向かい合って食事していたのが、何時の間にか並んで
酌をし合い、それが抱擁と愛撫に変り、やがて浩二の浴衣が脱げ、冴子の白いセータ
ーを肩の上にたくし上げられ、スカートが捲り上げられていた。     
 外は完全に闇に包まれていた。この家の辺りは夜になると車も通らない。かすかに
近所で子供が練習しているピアノの音が聞こえるだけである。明るい照明に照らされ
て、卓上に食べかけの食器が忘れられたように雑然と並んでいる。その真ん中に置か
れたクリスタルの花瓶の紅白のカーネーションと霞草だけが、風もないのに生き物の
ように不規則に揺れていた。                    
 浩二の膝の上で冴子はスカートを脱がされ下穿が膝にかかっていた。唇を合せたまま
浩二の手がスリップからはみ出した豊満な乳房を揉み、もう一方の掌は股間で忙しく動
いていた。せつなそうな冴子の喘ぎが浩二の耳元に熱い息を吹き掛けていとき、突然部
屋の隅のスタンドに置いてある電話がけたたましく鳴り出した。  
 驚いて口を離した浩二と顔を合せた冴子は、あわてて浩二の膝から降り、捲れ上がっ
たセーターを引き下げながら電話機に近付くと、浩二を振り返って、    
 「きっと、うちの人よ」                         
 髪を一振りしてから、今までの恍惚とした表情を、仮面を剥いだように引き締めて受
話器を取った。                            
 夫は出張の際に必ず几帳面に電話してくる習慣だったから、今夜もいつ電話して来る
かと、冴子は先程から気になっていた。もっと今夜は飲もうよ、という浩二に、電話が
掛かって来てからよ、と言ってあったので浩二も緊張した面持で冴子の表情を伺ってい
る。浩二の愛撫に淘然となりながらも、頭の隅に夫の電話のことが冷たい氷のように胸
の隅に澱んでいたのだった。                 
 「変ったことはないかい?こちらは元気でやっている」           
 いつもと変わらぬ静かな夫の声が、そこから掛けているように鮮明だったので、冴子
は一瞬に酔いが飛んだ。罪悪感の前に恐怖が胸の中を切り裂くようにはしった。若い男
と情交の最中に夫の電話を受けている。
 捲れ揚がった白いセーターは直したが、スカートは付ける閑はなかった。丈の短いス
リップの下から豊かな素足が男の視線にさらされている。下穿のない裸の下肢は、薄い
スリップを透かして黒い茂みが見えているに違いない。そればかりか、夫以外の男との
交わりの余韻がまだ流れ出ている上に、さらに今男に触れられて、また新しい溢れが生
暖かく股間を濡らしている。受話器から伝わってくる夫の鮮明な声に、冴子は放縦な格
好で受話器を持っている自分と、漲ぎりの脈動を隠そうともせず、しなやかな肢体を輝
かせて自分を待ち受けている浩二のいる、みだらな空気の澱んだこの部屋の様子を夫に
発見されたような恐怖を覚えていた 
「今、浩二さんが来ているの。ロンドンに転勤ですって。今度の日曜日出発なので、土
曜日の夜は泊めてくださいって言ってます。いいでしょう、あなた………」 
「それは急なっことだな。今夜は帰るのか?」                
「今夜はこれから壮行会があるのですって。それで明日広島に帰って土曜日に出て来る
そうです」                             
「そうか、何か餞別でもやらなきゃならないな。土曜日の晩はゆっくりやろうと伝えて
くれ」                               
 受話器を通した夫の声が、数百キロ離れた北海道からではなく、すぐ傍に居るように
妙に生々しく伝わってくるのは、自分のやましさに怯えた気持ちに起因しているのだろ
うかと、冴子は前を屹立させたままテーブルに片肘を突いて煙草に火を付けている浩二
を見ながら思っていた。                    
 浩二の裸の肩に天井から吊したキャビン風の照明の白熱球の強い光線があたって、腕
の付け根のあたりから肩のやや後ろにかけて琥珀色の鞣し革のように艶やかな皮膚がハ
レーションをおこしたように輝いている。背中から細い腹部に向かって赤いひっかき傷
が三筋ばかりはしっているのが見える。先程、歓喜の夢幻のさなかに堪え切れなくなっ
た自分が付けたものに違いない。夫の痩身にこれまで男らしい堅さと強さを感じていた
のは、自分の無知のせいで、いまこうして浩二と比較して見ると、同じ男性とは判じ難
いほど、夫の体は頼りなく弱々しい。皮膚にも浩二のような照りはなく、筋肉にいたっ
てはないに等しい。夫がこまかく北海道の印象を語っているのが、いつの間にか途切れ
途切れにしか聞こえなくなっていた。     
 「雪は思ったより少ないよ。・・・今夜は・・・・お前も知っている・・・に誘われ
て・・・・を食べに行くことになっているんだ。・・・・・・」      
 煙草を吸いながら浩二が冴子を見た。眩しそうに冴子の顔を眺めてから、視線を下げ
て短いスリップの裾からこぼれている冴子の太腿に目を据えた。      
 上半身に毛編みのセーターを着ているだけに、剥き身の白葱のような白く艶やかな下
半身の露な姿を見据えている浩二の熱気を帯びた一途な視線が、直接愛撫されているよ
うに感じられて一層羞恥を誘う。狭い室内に若い一対の男女が向かい合い、交わりの前
の発情の極わみに達していた直後だけに、部屋には緊張した一種独特の精気が張りつめ
ていた。それは向かい合うふたりの男女が熾烈なエネルギーを爆発しようとする直前の、
発光体のような強烈な生命の燃焼の焦げるような匂の充満でもあった。その極度に緊張
した様子が、電話の向こうにいる夫に伝わるのではないかと、冴子は自分から声を発す
るのを極力控えていた。冴子にはその場を繕うほどの演技力は全くない。                           
 「それで・・・・明日は・・・・・・・どうおもう?・・・どうしたお前聞いている
のか?・]
 [はあっ?・・・ええ、聞いているわ・・・いまお鍋のお湯がこぼれそうになってい
るので・・・・・それがつい気になって・・・」              
「なんだ。どうもそわそわしているような気がしてたんだ」          
「あなた……………浩二さんとかわる? 」                
 浩二が慌てて掌を振って拒否のサインを送る。               
 「いや、いいだろう。土曜日にゆっくり話せばいいだろう。それよりだな…………を
買って帰るから、と伝えてくれ…………」                 
「わかったわあなた……………」                     
 「それから……………………」                      
 浩二が何か行動を起こす気配が感じられて、冴子は思わず浩二に注意を集中していた。
 煙草を喫い終えた浩二が、最後の一服を大きく吸い込み吐き出すと、紫煙が白熱燈に
照らされて濃霧のように巻く中で、その霧にまぎれるように白熱燈を背にして椅子から
立ち上がると、仁王のような逞しいシルエットを見せて、電話台の前に立った冴子に向
かって歩いて来た。照明の影になって表情は定かに見えないが、下穿からはみ出し身震
いしながら屹立している陰茎が、そこだけスポットライトを照らされたように生き生き
と脈動していた。冴子は視線が釘付けになったように羞恥も忘れてそれを眺めた。そこ
だけが別の生きもののように反り返り、方向の定まらぬ宙を何かを求めるように頚を揺
らめかしている様子が、冴子にはどうしようもなくいとおしかった。極限まで膨張した
その中は、あきらかに自分を求めて焦れ切った浩二の切ない思いが充満しているのだろ
う。
 もう夫の声が遠くに霞みはじめていた。                                  
 立ったまま首を少しかしいで受話器を持ち、もう一方の手で前を隠し長い髪をふっく
らとした白いセータに散らせて、腰から下は剥出しの豊かな太腿をひねるように合わせ
た悩ましい姿で夫と話している冴子の白い顔が当惑と羞恥に上気していた。
 慣れ合い切った夫婦の会話を必死に続けようと、無理に平素の清楚で落ち着いた表情
浮かべて、主人と対話している冴子の下半身は、真っ白いふっくらとした太腿から細く
すきりした膨ら脛が明かりを吸い込んでぬめぬめと照り映え、ときおり、もじもじと脚
を動かす格好が、淫蕩な別の女のように艶かしい。一つの女体が貞節と淫蕩の二重の情
緒をそれぞれ顔と肉体に現して戸惑いながら堪えている姿に、浩二はわずかに残ってい
る貞節な部分を思い切り破壊し去って、彼女自身を淫蕩の奈落の淵へ落とし入れたいと
いう加虐的な思いを堪えることが出来なくなっていた。いまは彼女を愛欲の極限に追い
やり陶酔と歓喜にのたうたすことが、唯一自分に残された彼女を完全に独占する方法だ、
とも思った。  恩義のある人の妻を寝盗る、という罪悪感はなかった。自分とこうな
ったことによって彼女等夫婦の間に亀裂が起こり、決別を迎えるなどという危険はない。
 それほど彼女の夫は妻を信じ愛していたし、彼女の方も自分と一緒になるなどという
非常識で愚かなことを考える女ではない。それだからうまく利用しようという魂胆は自
分にもない。田舎から出てきて世話になって依頼、憧れ続けてきた彼女とやっと結ばれ
た、という感慨しかなかった。この家に来てから五年の間に、いつかこうなることを予
感していたし、待ち望んでもいたから、遂にそうなったという喜びの感慨が強い。                                
 この家の主人は、あの地味で人格的にも才能も優れていて尊敬しているけれども、冴
子の夫として見ると、いつも冴子が可
愛そうになることが多々あった。それは冴子と主人との年令差よりずっと自分との方が
近いという、若者同志のような連帯感があったせいかも知れない。この家での長い生活
の間に、主人はよく冴子と浩二を、若い君等は、という言葉で自分と差別していた。                
 ・・・・君等は若いから、今夜は肉の方がのだろう?・・・、・・君等は若いんだか
ら走っていけよ・・、君等は若いんだからもっと飲めよと、今まで主人から発せられた、
この言葉が、しだいに二人に一種の連帯意識をあたえ、浩二にとってはやがて、若い者
同志なのだから冴子の若い心と肉体を求めても背信ではない、というような呪咀に変わ
ってきたのだった。たしかに冴子にとっても夫はもともと父のような存在で、特に浩二
が来てからは、ふたりして父に甘える兄弟のような連帯感はあったが、性的知識に疎い
冴子は、浩二に異性としての興味を抱いたことはなかった。                                 
 浩二に異性を感じなかった、と言えば嘘になるが、それは冴子の躯に眠っていた性的
本能が無意識にうごめいたに過ぎない。しかし、あの豪雨の日にガールフレンドを連れ
て帰った浩二を叱って以来、冴子は浩二の発散する男臭い動作や言葉、さらにふとした
時に見る浩二の若々しい肉体に、目眩に似た衝動を感じたことは幾度かあった。夫の不
在に夜など、浩二とふたりで囲む夕食の時に、まるで新婚のようなときめきに妙に生き
生きした気分を味わったりすることも、しょせんは父のいない夜の子供同志の自由な楽
しみというような思いがふたりにあって、罪悪意識をどこかに陰遁させていた。                          
 冴子の目前まで来た浩二は、受話器を小首にかかえている冴子の足元にしゃがみこみ、
冴子のむき出しの太腿を抱き締めた。毛深い顔を閉
じた冴子の太腿の内側に押し付け、両手で冴子の腰を抱き豊かな臀部を愛撫しはじめた。
 あわてて冴子が片脚を組むようにして花芯を防衛しようとしたが、浩二はそれにかま
わず冴子の翳りに唇の愛撫を加えてきた。身をよじり脚を動かして逃げようとすると、
隙の出来た後ろから掌で急所を攻撃してくる。受話器を持った手が萎えはじめ声が震え
て来るのを懸命に我慢しているが、浩二の舌が花芯の敏感な部分に触れると、強い電流
が股間で放電したような強烈な刺激が脊髄を通って全身に拡散し、思わず声を出しそう
になる。まるで夫の目前で浩二に犯されているような被虐の陶酔が麻酔注射を打たれた
ように全身をしびらせてる。                     
 受話器の送話口を押さえて夫に聞こえなくして、片手をのばし腰を屈めてて浩二の頭
に手をやり、                              
「やめて! 。声が出ちゃうわ。すぐ終わるから・・・・」         
 強く叱りつけるつもりが、甘い声になっていた。浩二がくるりと頭をあげて冴子の顔
を見ていたずらっ子のように笑い、後ろから回していた掌をいきなり濡れそぼっている
陰唇に差し込んできた。                      
 「いや! 」                              
 思わず声を出して冴子はその場に座り込んでしまった。自分では絨毯の上に横座りし
たつもりだったが、現実には浩二の膝の上にしゃがみ込む格好になった。その隙に浩二
は体の位置をずらして、座った浩二の顔の正面に冴子の股間がくるような位置にして、
敏捷な動作で二本の指を膣の奥深く挿入してしまった。その上に冴子が全体重をかけて
落ちてきたから、浩二の指は元まで埋没し、指先に子宮のこりこりとした感触が伝わり、
指全体が熱く蠕動する襞に覆われた。         
 「ええっ? 。・・・よく・・・聞こえないわ・・・」           
 股間におびただしい体液がとめどもなく流れ、止めようにもとまらない荒い呼吸を悟
られまいと、冴子は咳をしたり喉をならしたりして必死に堪えた。      
「今日のお前はどうかしているね。はやく瓦斯を止めなさい。……じゃまたね」
 夫の電話が終わった瞬間、冴子は受話器を握ったまま蝋人形が高熱に溶けるようにふ
わりと浩二の肩に倒れかかった。軟体動物のように浩二の肩に胸を載せ、顔を浩二の首
元に押し付け荒い呼吸をしている冴子の裸の下半身は、男の膝に馬乗りの格好になたま
まで、艶やかな膝が男の腰を挟んでいる。男の手が白い女のうなだれたうじなにかかり、
乱れた長い髪を掻きあげ、蒸れるように発散している女の甘酸っぽい匂いを臭ぎながら、
片手で自分の肩に張り付いている女の顔を持ちあげそれに唇を寄せていった。女は感嘆
とも悲嘆ともとれる溜息をついてから男の求めに応じて唇を差し出した。              
 接吻しながら浩二はセーターの下に手を滑り込ませて乳房を愛撫した。舌を絡ませた
ままの冴子から低い呻き声が流れた。浩二はしだいに自分の上体を前に倒しながら、ふ
たりの間にはさまていた受話器をとりフックにかけてから、浩二の膝を跨いで向かい合
っている冴子を背中から倒して仰臥させると、その上に覆いかぶさっていった。冴子の
脚の間に入っていた自分の脚で冴子を大きく開くと、先程とは違ってなんのためらいも
なく、熱湯をたぎらせている冴子の中へ一気に怒り狂っている自分の陰茎を充填させた。
冴子の悲鳴が森閑としたキッチンルームの澱んだ空気を切り裂いた。                              
 三、四度腰を動かせてふたりの粘膜が融合するのを確認してから、奥深くに沈潜させ
たまま動きを止め、冴子のセーターをスリップごと頚まで捲くりあげ、乳房を露にして
揉みはじめた。                          
 「パパにわかちゃたかも知れないよ。そしたらどうする?」
 目を暝っている冴子の耳元に口を寄せて囁くように云って、深く挿入したまま静止し
ていたものを、ちょっと小衝いて、躰で冴子の返事をうながした。
 「あたし知らないから……………。浩二さんの責任よ! 」         
 冴子も膣をきゅっと締めて躰で答えた。言葉で伝え合わなくても、これで今夜のあら
ゆる障害が排除されて、ふたりだけの世界が開かれたという安堵と歓びが今までの緊張
をほぐらせて、やっと落ち着きを取り戻し解放感と期待感に雄叫びをあげるように二人
はひしと抱き合った。                      
「お酒をもっと飲もうよ。俺準備するから」                 
「いいのよ、あたしが準備するわ。あたしの部屋で待ってて…………その前にシャワー
を浴びてらっしゃい」                        
 「いま離れるのが惜しいな」                        
「こんなところでは厭よ」                        
 光りの影になった昏い床の絨毯の上で重なっているふたりからは、食卓や椅子の脚を
通して、ふたりが脱いだ着衣やスリッパなどが思わぬ角度で眺められた。子供が悪戯に
秘密のかくれんぼをしているようなスリルがあった。離れると思った浩二が、そんなス
リルに刺激されたのか、再び腰を遣いはじめた。浩二がしだいに激しく腰を波打たせ、
冴子がそのたびに腰を浮かせた。どちらかの脚が椅子を蹴って音を立てた。陰茎が粘液
の音を立てて抜き差しし、その度に濡れた陰嚢が踊って冴子の菊門を叩いた。冴子が昇
り詰めて悲鳴を発し膣を痙攣させはじめたとき、浩二は、さっと、腰を引いて陰茎を抜
き去った。                  
「あっ、いや待って…………」                      
 冴子があわてて浩二を抱き抱えようとしたときには、もう彼は立ち上がっていた。 
「さあ、一風呂浴びてくるかな」                      
 冴子の体液に濡れそぼったままにそそり立った一物を揺らしながら浩二が出ていった。                                  
冴子は緩慢な動作で立ち上がった。椅子の下にぼろのようになっていたスカートを拾っ
て着ると、シャワーの音を聞きながら廊下を夫の書斎に急いだ。     
 ドアを開けると慣れた夫の体臭がその部屋にはこもっていた。同じ男の体臭でも夫の
は干し草のような枯れた匂がしたした。
 浩二のように獣のような強烈な生臭い湿った匂はなかった。今まで夫の匂が男の体臭
とばかり思い込んでいた冴子は、夫の部屋に充満している匂が、急に不潔で老人臭いす
えた匂に思えて来た。夫の匂は父の匂だ、とはじめて気が付いた。夫の書机の前に座っ
て、スタンドを捻った。机の上の夫の備品がにわかにいきいきと色彩を取り戻した。ペ
ン立てに置かれた木製のペン軸が、使い込まれて夫の掌の脂をにじませている。二、三
冊積まれている漢和事典が、夫の手垢で黒く染まっている。いずれも冴子が来る前から
夫が愛用していたものである。それを眺めているうちに、冴子は夫との今日までの生活
を反蒭していた。ままでの自分の生活がこれで破壊されるとは思わないが、自分の心と
肉体は新しい世界を知ってしまった事実はどうしようもない。浩二はわたしにこんな甘
美で衝撃的なことを教えておきながら、来週は遠い国に去ってしまう。残されたわたし
は一体どうしたらいいにだろう。浩二を行かせたくない、と思った。だが、夫との平和
な生活を放棄する勇気もなかった。              
 あなたの体臭の充満したこの部屋に一体自分は何を求めて来たのだろう。あなたに対
する背信の恐ろしさから来たのだろうか、それとも今まで自分にこれほどの歓びを与え
てくれなかったあなたを恨みに来たのだろうか。夫に呼び掛けてみたが結論はなかった。
いま若い浩二の肉体に溺れ切っている自分が、これから再び狂うことを切に求めている
ことだけは確かだった。暗黒の中で冴子は当時の心境を反趨してみた。            
 今あの時を想い返しても、重大な罪を犯したとか、夫を裏切ったとかいう反省がない。
幼い頃両親に隠れてオルガンの陰で、隣の男の子とお医者さんごっこをして、互いの性
器を見せ合ったり触れ合ったりした、ほのかな懐かしさと同じ位の、ときめきと後ろめ
たさを感じるだけである。     

(これでいいのでしょうか、改行幅を研究する必要があります)

知られたくない遊び5
道明 11/15(日) 15:36:47 No.20091115153647 削除
翔子を乗せたスポーツカーは市街地を抜け、川沿いの土手を整備して造られた道路を上流へと走る
しばらくすると、小高い丘陵に整然と開発された住宅街が視界に入ってくる
そこは、市内で高額所得者が住まいを構えている高級住宅街だ
道路も公園も整備され、道行く人の服装は個性的でセンスが良く、皆上品な人に見えた


「さあ、着いたよ・・・・あれが俺の家で、手前が今度オープンする純喫茶のお店だ」


(チーフから、聞いたことがある・・・オーナーが新しい店を建設中だと)


「さあ、中を案内しよう」


店内は既に調度品も搬入され、全てが整っていた
室内は落ち着きのある雰囲気で、柱、椅子、机・・・・すべてが訪れる人を優しく包む


「オーナー・・・・どうして、私をここに?」

「まあ、慌てなさんな・・・そこに座って・・・俺が珈琲をいれるから」



厨房の中で、珈琲をたてる岩井
その姿はイライラとして指示をだす男のイメージとは対称的に、この店に相応して落ち着いた振る舞いである


「さあ、どうぞ・・・・お気に召すかな?」


(目の前のこの人・・・いつも、こんな雰囲気でいればいいのに)


「美味しい・・とても美味しいです」

「良かった・・気に入ってもらって」


翔子は珈琲の芳しい香りを楽しみ、日々の煩わしさから逃れ一時の休息に浸っていた
室内に音楽が流れる、それは昔の外国のミュージック
岩井はにこやかに翔子を見つめ、翔子も微笑みを自然と返していた


「翔子ちゃん・・・話というのは、この店を手伝ってほしいんだ
 こういうお店をやるのが、俺の夢だった・・・・そのパートナーになってほしい」

「私に?・・・・・私には、とても無理です・・・こんなお店」


「大丈夫だよ・・・翔子は合格だ・・・ずっと観察していたんだから」

「でも・・・こんなお店に出るのに着る物すら、私には・・・」

「黙って、これに着替えてごらん・・・きっと、やる気が起こる」


岩井が差し出した、仕事着
それはシンプルだが高級な白のブラウスに、黒のロングスカート
それに黒のストッキングとハイヒール

その仕事着にじっと見入って、迷っている翔子


「着てみないと分からないよ・・・・着替えはその衝立の向こうでやればいい
 そうだ・・今日、翔子ちゃん、カメラ持ってたね、それで写真を撮ろうよ
 その写真を見て、判断すればいい・・・・きっと似合っているから・・・・」

カメラ・・そう、今日のオーナー巡回のとき・・親しいお客さんに頼まれて夫のカメラで撮影した


(なんて素敵な仕事着・・・折角だから身につけてみようかしら・・・それからでも)


翔子が仕事着を手に持ち衝立の方に歩きだした
・・・その後姿に男の目がウインクを投げていた

知られたくない遊び4
道明 11/14(土) 16:31:30 No.20091114163130 削除
 喫茶「羽衣」のオーナー、岩井惣一が巡回に訪れた
 いつもは厨房に入り、自ら調理に携わりながら、矢継ぎ早に店員に指示を出す
 
 しかし、今日の岩井は女性店員の動きが見渡せる客席に腰を降ろした
 女性店員には、仕事ぶりを監視されているようで余計に緊張感が増す

 
 「何かご注文はされますか?オーナー・・」


 チーフの指示で、翔子が水をテーブルの上に置いた



 「翔子か・・いつ見ても、お前・・・元気そうだな」

 「はい、それが私の唯一の取り柄ですから・・・・」



 「唯一?・・・いいや、お前は他にももっと良いものをもってるじゃないか」

 「なんでしょう?それは」

 「・・・まあいい、ホットを頼む」



 岩井の店員に対する話し方は、このようにぶっきら棒で高圧的だ
 背を向け、カウンターへ戻る翔子の後姿を見つめる岩井
 細身で背が高く、バストとヒップが大きく、括れたラインにジーンズがぴったりと身に付いている
 岩井は、経済新聞の株価欄に視線を戻しニタッと笑って鼻を摘む



 翔子はこの店の忙繁時間帯だけに雇われたアルバイト店員だ
 その日、翔子の仕事が終わる午後2時過ぎに再び岩井が現れた
 チーフに要件を伝えると、帰り支度の翔子を呼び止める


 「翔子・・・今から、俺に付き合ってくれないか、見せたいものがある」

 「今からですか?」

 「ああ、そうだ・・・・時間はとらない・・・お前にとって良い話だと思う」



 オーナーの愛車は白のフェアレディ
 これまでに、この助手席に幾人の女性が乗ったことか
 今、助手席に座る翔子に、岩井は洒落たサングラスを手渡す


 「気に入るかどうかは別にして、お前には似合うはずだ」


 翔子は手にしたサングラスを掛けると、岩井の方に顔を向けた
 そこには、鼻筋の通った彫りの深い美人がいた


 「うん・・・それでいい」



 お客さんが言った言葉

 『ここのオーナーには気をつけろ、女癖・・・・妻と離婚』
  そんな文字が、翔子の胸を過ぎる


 静かに、白色のフェアレディが走り出した





花 濫 2
夢想原人 11/14(土) 15:00:47 No.20091114150047 削除
はじめての不貞                                                                                    一                                                       
漆黒の闇の中に、ぐりぐり坊主頭で日灼したにきび顔に澄んだ瞳を輝かせて、洗いあげた黒の学生服姿に身を包んだ大学に入学したころの浩二のりりしい姿が、遠い記憶のようにぼんやりと泛んだ。あの頃あたしは浩二を異性として眺めたことさえなかった。夫の友人の感じのいい田舎少年を東京に馴れるまで、しばらく預かるという義務感だけで浩二を意識していた。浩二自身まだ日向くさい子供だったような気がする。萌出た若葉のように、ふと気が付くと、いつの間にか濃い緑の成葉になっていたというような感じが強い。  冴子が浩二を異性としてはじめて意識したのは、浩二が三年生の夏のあのときではなかったかと冴子はいま思う。                     
 浩二が三年生の夏休みだった。浩二は帰郷せず、東京でアルバイトをしながら、テニスの合宿練習に励んでいた。二十日近い合宿が終って家に帰ってくる日の午後だった。とかく淡白な食事を好む夫と油ぎった濃厚な食事が好きな浩二の二人のメニューづくりは冴子の悩みの種だったが、今夜は久し振りに帰ってくる浩二のために、夫にコールドビーフを付き合ってもらおうと、買い物に出かけようとしたら俄に夕立がやって来た。風が荒れ豪雨が叩き付けるように降り、雷鳴が轟いて冴子は自分の部屋で小さくなっていたとき、玄関が勢いよく開いた。
 驚いて出て見ると、そこに浩二がびしょぬれで立ち、そのすぐ後ろに若い娘がこれも長い髪から雨の滴を垂らしながら立っていた。女子学生であることは一目でわかった。薄い袖無しの白いブラウスが雨に濡れて肌にぴったりとくっつき、ブラジャーだけの裸体のように肌を浮かび上がらせていた。匂いたつような若い健康な肢体のもち主で、丸顔の素姓のよさそうな愛くるしい娘だった。    
 その娘と玄関の三和土に滴をしたたらせながら並んで立った浩二は、スポーツシャツを脱いで娘にかぶらせたので、ランニングシャツ一枚の姿であった。
 躯に張り付いたランニングシャツを通して、筋肉質の体が塑像のように逞しく息づいていた。冴子は浩二の肉体にその時はじめて男性の匂いをかいだような気がした。浩二に寄り添うようにして立っている娘の柔らかそうな弾んだ身体との対比が一層浩二の男らしさを強調したのかも知れない。その時、冴子はその娘に対して言いようのない嫉妬が込みあげてきた。生れてはじめての悪寒に襲われたような激しい嫉妬心の噴出だった。     「風邪をひいたらどうするのよ! 」                   
 思わず上げた声が尖っていた。                     
 あれは異性に感じた嫉妬ではなかったと、そのとき冴子は思っていた。まるで発光体のように燃えている若い息吹を発散させている二人の若さに対する嫉妬だったと思った。だか後になって考えると、やはりその時浩二をはじめて男性として意識し、冴子の中の女の本性が嫉妬の炎を燃え立たせたに違いなかった。        
 その後に起こった浩二との情交は、決して偶発的ではなく、既にその時冴子の裡に、浩二に対する情念が燃えはじめていたのだった。考えて見れば冴子は浩二と七才しか違わない。夫との年令差よりずっと近いし、浩二とは同じ二十代の若さを共有出来る若者同志であった。夫は既に中年から初老に向かいつつあり、浩二や冴子とは世代の異なる存在だったのだが、夫婦として長く暮しているうちに、冴子は何時の間にか夫の世代に自分を合せるようになっていたのだった。それが若い浩二の出現により、本能的な冴子の中に眠っていた若さが触発されて目覚めたのだろう。
 浩二との間は、その後どちらからともなく接近し仲のいい姉弟のように推移して行ったが、浩二が卒業して就職し、会社の寮に移り住むまで冴子との間にはこれというトラブルも起こらなかった。                      
 寮に移ってからも、浩二は月に何度かは実家に帰って来るような気安さでやって来ては夕餉を共にしたり泊まって行ったりしていた。              
 「ママ、今夜は すき焼きが食べたいと思ってさ。デパートに寄って一番旨い肉をくれと行ったら、百グラム千円もする近江牛をくれたよ」           
 少し多めに買ってきておいたと、一キロもある肉の包みを冴子に突き付けて、冴子の準備したものなど無視して夕食をすき焼きに決めてしまう。強引で一方的で身勝手な浩二の性格は、一見はた目には迷惑とも映るが、そういう日は木枯しの吹く寒い日だったり、意外と相手のことを思いやった行為が多く、ぞんざいな言葉のの裡に、きらりと光るような思い遣りが秘められており、押し付けが愛らしく感じられるほどにお互いが理解していたので、時には腹を立てながらも、しばらく来ないと夫か冴子が安否を気遣って電話することもしばしばだった。 二年前の二月二十日だった。夫が北海道にアイヌ語の調査に出張中の朝だった。冴子が一人の朝食を終えて部屋から庭に咲き満ちた椿を眺めていた時、突然浩二から電話があった。 「ああママ? ぼくね、急にロンドンへ転勤することになったんだ。昨日一応の荷物は送り出したんだけど、今日で寮は明け渡すことになっているんだ。今夜から出発まで泊まらせてくれる?」                    「えっ、何ですって………。ロンドンって、あのロンドン?」        
 「ママ何言ってるんだ。英国のロンドンに決まってるじゃないか。寝惚けてるんじゃないの 」                              
 「何時決まったの。そんな鳥が飛び立つような出発ってある? 」       
 「一月前に決まっていたのだけど、別に大した準備もないし、仕事の片を付けたら挨拶に行こうと思っている内に、壮行会やら何だかで今いなってしまったんだ」 
「それで何時出発なのよ。田舎のご両親には会わずに行くの? 」       
出発は五日後の日曜日の夜。田舎には明後日ぐらい一泊で帰って来るつもりです」 
「なぜもっと早く言わないのよ。パパは北海道に出張中なのよ。まあ土曜日の晩には帰ってこないわ、出発までには会えると思うけど…………」        
 相変わらずの一方的な電話に冴子が腹を立ててみてもはじまらなかった。田舎に二日帰ると言っていたから、ここには今夜と出発の前の二日だけ泊まる予定らしい。それならば夫がいない今夜思いきり日本の濃い味を食べさせてやりたいと考えた。
「今夜は何時頃来られるの? 。夕食は食べられるの?」          
 「パパが居ないのに行っちゃあ悪いかな」                  
「今更何言ってんの。それより夕食の準備がありますから、時間だけは教えて。特に食べたいもの何かある?」                        
「八時までには行けると思う。食べ物は何でもいいよ。ただし酒は日本酒がいいな」 
 会社のデスクからの電話らしく、用件が済むとあわただしく浩二は電話を切った。
 冴子は急いで身支度すると、新宿のデパートに買い物に出かけた。酒は会津の吟醸酒にし、地鰻の蒲焼、茶碗蒸、若いから沢山食べられるように、旬の魚を豊富に入れ、浩二の好きな金糸卵を沢山並べた散らし寿司に、田舎料理として里芋と油揚げと白菜の煮付けも用意した。デパートの食品売り場を半日歩き回り買い物を済ますと、最後に男物の売り場で餞別代りにと結城紡の合せの着物を一揃い買い求め、昼食も摂らずに帰宅すると、夜来る筈の浩二がジーパンにアノラック姿で玄関前の歌舞伎門の石段に腰を下ろして待っていた。    
 「あら、今夜遅く来るはずだったでしょう? 」               
 「そのつもりだったんだけど、会社に居てももう仕事はないし、荷物は送ってしまったし、することもないから来てしまったんだ」             
 紬を友禅染めにし、山椿色の地に銀糸で飛鳥を浮出して散りばめた訪問着を着た冴子をまぶしそうに仰ぎ見ながら言った。                   
 「パパは何時帰って来るの? 」                      
 「土曜日よ。早く教えないから帰って来てびっくりするわよ」         
 「そうだな。三年ほどのロンドンだし、必要があれば何時でも帰れるんだから大袈裟にしない方がいいと思って………………」                 
 歌舞伎門から玄関に向かう千鳥に配した飛石を石蹴の格好で片足で跳びながら冴子の後に付いて来る。                            
「何言ってんのよ。国内のそこに行くのじゃないのよ。田舎のご両親も驚かれたでしょう」  
 「うん。まだ転勤のことは言ってないんだ。帰ってから言えばいいと思って……」 「それ本当なの? 冗談じゃないわよ。ご両親は…………」         
 相変わらず石蹴りをしながら後を付いてくる浩二の無神経さに腹が立ち、睨み付けてやろうと振り返ったそのとき、思いきり跳んできた浩二が、あっ、と声をあげながら向き直った冴子の正面に飛び込んで来た。
 冴子に浩二が抱付くような格好で二人は転倒した。さすがに若い浩二は敏捷で、冴子の上になって倒れながら下敷きになった冴子の後頭部に自分の腕を回して飛石に冴子の頭が激突するのを防いだ。
 それでも転倒の衝撃に一瞬朦朧となった冴子が、はっ、と気が付いたとき、倒れた姿勢のままで浩二に組敷かれていた。目の前に浩二の汗ばんだ日焼けした顔があり、鋼のような硬い浩二の両腕がしっかりと冴子の顔を包んでいた。声を出そうとした瞬間、唇に浩二の熱い唇が押し付けられた。しゃにむに唇をこじ開けて舌を侵入させてくる強引さは、浩二の未経験と一直さのせいだと冴子はとった。若い野獣のような浩二の体臭が、むっ、とする強さで冴子の鼻孔を刺激していた。    
 怒りも憎悪も感じなかった。冴子は後でその時のことを思い出して、男と女の交わりの機縁は、思うほどの愛情とか勇断とか時間とかを必要とするものではなく、ふとした機会に平素の理性や教養が消え、それぞれの本性が剥き出しになれば、いとも簡単に情交することが出来ることを実感として悟った。          
 あの日、玄関の前に散らばった買い物を二人は無言のまま慌てて拾い集め、近所の視線を気にしながら家の中に飛び込んだ。                 
 居間に落ち着いてからも二人は無言のままだった。袋の破れた買い物を調理台に並べてから、食卓に向かい合って座ったまま二人は視線を交え合っていたが、想いが交錯して満ち溢れた時、浩二が立ち上がって冴子の座っている椅子の前に立ち、静かに冴子を抱き締めた。冴子は呪詛に魅入られたように立ち上がり自ら浩二の厚い胸の中に埋れるように顔を沈めていった。                 
 自分でも理解出来ない行動だった。峻絶な絶壁に立って、身が引き込まれるような幻覚に襲われるように、浩二の強烈な男の精に冴子の女が吸引された状態だった。立ったまま長い抱擁と接吻の繰り返した後、浩二は軽々と冴子を抱きあげ、椅子に腰をおろして冴子を膝に斜めに載せた。浩二に支えられた背が不安定で、少しでも浩二の腕の力が衰えると、後ろへ倒れそうになって、脚をばたつかせるので、着物の前がしだいにはだけて、長襦袢の緋が割れ艶やかな膝があらわになる。何度か直そうとするがうまく起き上がれない。浩二の膝の上でほとんどあおむけに反りかえった格好で冴子は浩二の唇を受けていたからだ。    
 不安定な姿勢を支えようと浩二の首に両手をまわしてしがみ付けたのを、浩二がどう受け取ったのか、着物の上から乳房に手を這わしてきた。ぎゅっと乳房を握られたとき、冴子は一瞬理性を失って声を出したような気がする。浩二の膝の上で裾がさらに割れて太腿が露わになり、そこへすかさず浩二の掌が伸びて来たときに、はっと冴子は我に帰った。 「いやよ。もうやめにしましょ」             
 滑り落ちるように滑り浩二の膝から降り、着物の乱れを直しながら逃げるようにキッチンを出た。      
 小走りに廊下を走り自分の和室に逃げ込み、鏡台の前に座った。口紅がはがれてまだらになり、瞳が濡れそぼって顔が上気していた。乱れた髪を直しながら胸の動悸の静まるのを待った。ともかく着替えなければと、帯を外し着物を脱ぎ長襦袢の細紐をときかかったとき、硝子障子が静かに開いて浩二が入って来た。     
 正面から冴子の顔に目を据え、酒にでも酔ったように紅潮した面持でためらわずに真直にやってくると、薄紫の長襦袢の袖から腕を抜いたまま、あわてて前を内側からつまみ合せている冴子を、当然のように抱き締めた。            
 長襦袢の中に両腕を入れたまま強烈な力で抱き締められ、全身が絞り上げられるような、奈落へ落ち込んでいくような圧迫感に、冴子は一瞬気が遠くなっていた。思考が中断し朦朧と男臭い暖かい霧に包まれたような感覚がしびれるような陶酔をもたらした。逃げることも、抵抗することも出来なかった。男の肉に包まれて身体が自然に溶けていくような感じだった。締上げられる苦しさには甘美な痛みがあった。        
 冴子の閉じた唇を強引に舌で押し開いて侵入してきた浩二に、どうしてあのように容易に迎合の証のように閉じた歯を開いて、煙草の臭う浩二の舌を口腔の奥深く招き入れたのか、自分でも分からない。接吻したまま浩二の手が、長襦袢の合せ目を内からきつく閉じているのに、その隙から安々と侵入してきた。浩二の大きな掌が豊かな乳房を丸ごと掴むように包んだとき、羞恥と興奮にその手を振払らおうと夢中で長襦袢の合せ目をしっかりと掴んでいた手を離した瞬間、あっと思う間もなく絹の長襦袢は、反り身になっていた冴子の身体を滑って前を露わにしてしまった。
 裸にされた胸の谷間にアノラックを脱いでワイシャツだけになった浩二の硬い肉体の体温がじかに伝わり、下腹から脚にかけてざらついたジーパンの生地がふれていた。片方の乳房を愛撫していた浩二の掌が何時の間にか下腹部を滑って、陰毛を分けてながら複雑な粘膜の襞をまさぐり陰核を捕らえようした。         
「いや! 」                               
 と声をあげて、両手を前に回して防ごうとしたとき、身体がバランスを失い、浩二がのしかかる格好で後ろに倒れた。畳みに後頭部をしたたか打ち、目の中に火花が散って瞬間ぼーっと意識が薄れかかり、はっと気が付いた時には、浩二が冴子の露わになった下腹部を抱き抱えていた。                   
 あわてて両足を閉じようとするのを、浩二は隙を与えず強引に股間に自分の顔を割り込まして、丁度冴子自身が浩二の顔を挟み込んだような格好にしてしまった。花芯に浩二の鼻が冷たく触れていた。                      
「はじめて見るんだ。もっとよく見せて…………」             
 冴子は股間に浩二の呻くような声を聞いた。                    息苦しくなったのか、潜水から夢中で水面に顔を上げるように、大きな呼吸をしながら上半身を上げた浩二は、起き上がろうとする冴子を、敏捷な動作で身体の向きを変え冴子の胸を膝で押えつけた。                    
 浩二の身体は冴子と反対の位置になって、両膝で冴子の胸を起きられないように挟み、両掌で冴子の膝を掴み万力のような力で冴子の脚を開いた。冴子も必死の思いで脚を閉じようともがいたが、若い男の力にはあがらえない。じわじわと股間が白日の明るさの中で押し広げられていくのが、たとえようもない羞恥になって、花芯に冷たい空気を感じたときには、思わず両手で貌を覆ってしまった。それと同時にどうしたことか全身の力が呪詛にでもかかったように抜けて、これでは駄目だと気を取り戻して両足に力を入れようとした瞬間に、あっ、という早さで思いきりよくこれ以上広がらないほどに押し広げれていた。
 きれいだね、かすれたような声を冴子はまた股間に聞いた。
 浩二の指で陰唇が思い切りよく割られるのが感じられた。気持は防衛しているのだが、何時の間にか躯が自然に迎合して膣から流れ出る多量の蜜が臀を濡らし始めているのがわかった。               
 その密壷をいじる男の指が隠微な音をたてた。冴子は溢れ続ける自分の体液を浩二に見られる羞かしさ息を嚥んだ。浩二の指が溢れる中に侵入し膣襞に触れた途端、激しい官能の刺激が全身に拡散して思わず声を上げた。            
 冴子の貌のうえの浩二のジーパンから男の憤怒したものが突き出て顔に当たっていた。チャックを外して握り締める余裕があったわけではない。浩二がそうしたのか偶然チャックがはずれたのかわからないが、開いたズボンからそれが躍り出たのだ。巨大で弾力に満ちた亀頭が冴子の頬を突いてくる。貌に当たるのを防ごうと掌を添えて冴子は仰天した。それは冴子の想像を絶するほど巨大で鋼鉄のように硬く熱鉄のように熱かったからである。
 夫のものしか知らない冴子にとって、それは信じられないほど壮烈さだった。これが若い男のものなのか、と思わずそれに触れていた。柔らかな冴子の掌が触れるとそれはさらに大きく硬くなって冴子の掌のなかで脈動しはじめた。浩二がズボンを脱ぎながら身体をずらせて、浩二を見上げる冴子と視線を絡ませながら、無言のまま冴子に覆いかぶさり、毛の多い硬い脚で冴子の両腿を割って、怒り狂った男根を冴子の局部にあててきたとき、冴子は目をつぶった。男根は冴子の陰唇の周りを何度も突くが、焦点が定まらず、いたずらにあせりを繰り返している。              
 しだいに浩二のあせりの呼吸が大きくなり、ついには呻くような声を出しながらじれるが、浩二は自分の怒り狂ったものを冴子の中へ埋没させることが出来ない。何度目かに冴子はたまりかねてそれに掌を添えた。浩二がこわごわと目標を捕らえて陥没を開始しはじめたとき、冴子は今まで経験したことのない埋没感に思わず息を呑んだ。   
 冴子の膣を押し開きながら入ってくる感じが、夫とは全く違う。膣壁を拡張し切らせて侵入してくる感じが荒々しく制圧的で有無を言わせぬ強引がある。
 これ以上は無理よ、と冴子が極限状態の痛みを感じて拒否の叫びを上げようとすると、冴子の奥から信じられないほど多量の粘液が溢れ出て、その潤滑作用によって膣壁はさらに伸び切って貪欲に浩二を呑み込んでいく。押し込まれる度に痛みが奔るが、次の瞬間痛みはその数倍の快感へと変化していく。その感じはいままで冴子が味わったことのないしびれるような悦楽となって躯中へ爆風のように拡散していく。  
 亀頭を埋没し終えると、浩二は一気に腰を力強く押した。冴子はまるで躯の芯を貫かれたような恐怖を感じて思わず息を呑み込んだ瞬間に、子宮を中心にして体内に快感の爆発が起った。冴子は、ひえー、と思わず無我の嬌声を放っていた。  
 子宮を圧して冴子の性器を完全に充填した浩二は、しばらくそのままに静止して、ゆっくりと冴子に躰を重ねて乳房に唇を当てていた。             
 夫のものが奥深く埋没たときに子宮に触れる快感は幾度か経験したことがある。だから浩二の陰茎が子宮に到達したときこれで埋没は終ったと思ったのに、浩二はしばらくの静止のあと上体を持ち上げてさらに子宮を圧しながら侵入してくる。まだ完全に埋没し切っていないらしい。冴子は浩二の途轍もない長さには思わず息を吸い込んで恐怖の声を上げていた。
 深淵部に達して、ふたりの鼠蹊部がぴったりと密着しおわると、浩二は冴子に唇を求めながら静かに律動をはじめた。夫の複雑な動きと違って一途に律動する単純な動きではあるが、埋没時には下半身全部に浩二が入り込んでくるような拡充の衝撃があり、抜き出るときは内蔵がさらわれるような恐怖があった。
 なによりも冴子を驚かせたのは浩二の熾烈なエネルギーと情熱だった。夫は優しく冴子をまるで高価な美術品のように丁寧に扱うが、浩二は冴子の躯にいどみかかるような激しさで冴子をいたぶる。ふたりの下腹がぶつかり合って肌が鳴り股間に溢れた体液が散って音を立てるすざまじさである。このままでは壊れてしまう、と冴子は思った。
 しかししばらくしてふと気が付いてみると、こんな激情的な猛攻に冴子は合ったことがないのに、驚いたことには、いつのまにか自分がひとりでに浩二の激情に敢然と立ち向かって、腰を振り脚を絡め膣を収縮して呼応ているではないか。女性は本性として防御本能が備わっており、無意識に抵抗するというのが冴子の常識だった筈だが、今は経験したこともない激しい性交に、自分の躰はとまどいながらも、その激情に自然に迎合しているのは、一体どういうことなのだろうか。
 何時のまにか自分が最初余裕をもって導いた筈の浩二に翻弄されて狂い、最後に浅ましい狂態に身を揉み嬌声を張り上げて浩二にしがみ付いていた。意識はすでに朦朧とし、目の前に無数の花火が散っていた。快楽は絶頂をきわめ、冴子が今まで経験したことのない高みに突き上げられ、さらに無限のかなたに揚がっていく。歓喜の震えが全身を貫き快感が躯の芯で爆発を繰り返す。生れて初めての経験である。これ以上の快感は死に至るような恐怖に襲われるが、躯はさらに無限の快楽に上昇していく。
 浩二が最期を迎え、呼吸を荒ませ全身を痙攣させながら冴子の奥深くに若い男の印を噴出したとき、冴子はまた驚いた。夫では信じられない熱さと量の体液が、ポンプ仕掛のような強烈な力を含んで、子宮を圧するように幾度も放射されたからだ。さらに恐愕したのは浩二は幾度も多量の放出を繰り返したのに、冴子の中で、ほんのわずか小さく萎えただけで、はっと、冴子が気付いたときには、もう彼女の中で屹立し動き始めていた。

(どうも改行がうまくできません。これで駄目なら投稿をあきらめます。WORDからコピしていますが、どうしたら一行に文字数がかえられるのかが判りません。せっかく30章ぐらい書いたんですが残念です。[妻物語」は、もう5年ぐらい見せて貰っています。
管理人さんのご健闘を祈ります)
   

知られたくない遊び3
道明 11/13(金) 19:11:58 No.20091113191158 削除

 「翔子ちゃん、今日はオーナーの見廻りの日よ、気合いを入れて頑張ってね」

 チーフ格の女性店員が翔子に声をかけた


 フランチャイズの喫茶店「羽衣」

 この店のモーニング珈琲を楽しみに、付近の老人たちが集まってくる
 ここで働いている店員は、全て専業主婦だ
 ジーンズに白のニットウェアー、お揃いのエプロン
 目を惹く制服ではないが、全員、清楚な雰囲気をもつ若妻ばかり
 この店のオーナーの趣味だ


 翔子はここのアルバイト主婦の中でも、朗らかな性格と落ち着きのある接客態度から
 大勢のお客に人気がある


 「翔子ちゃん、今日はあの口煩いオーナーの巡回の日だって?」

 「はい、月に1度のオーナー巡回の日なんです・・・この前の巡回の時は、いろいろと指導をお受けしました・・・今日は失敗の無い様に頑張ります」

 

 「ふーん・・・いろいろと指導をね」

 「はい、注文の取り方から、お釣りの渡し方等々・・・・細かく、実地に」



 「へぇー・・実地とは、手を添えてお釣りを渡す・・あの応対も?」

 「はい、お客様が出された手の下に手を添えて、お釣りをお渡しし、心からお礼をする」



 この老人も、翔子に手を添えられてお釣りを渡される瞬間が気に入っている
 スキンシップというか、若い女性の手に触れるあの感触が目的でこのお店に来る老人は多い


 「翔子ちゃんは気丈夫だから心配ないと思うんだけど・・・あのオーナーには気をつけろよ」

 「はい??!!」



 「ここのオーナーは金持ちだが・・・女癖が悪くって、それで奥さんに逃げられたんだ」

 「えっ??」



 「この頃は、真面目に商売に専念しているようだが・・・なにせ、まだ40歳の若さだ
  女を卒業するには、まだまだ・・・・」

 「まぁ・・・そんなこと・・・ご心配なく、私には大事な旦那様がおりますので・・ふふふ」


 翔子は、笑いながら定位置に戻った
 確かに、ここのオーナーの評判は悪い、ヤクザ者じゃないかと言う人もいる
 とはいえ、自分とオーナーが淫らな関係になるなんて想像すらできない翔子だった

 いつものように、午前11時きっかりにオーナーが店を訪れた
 それは、この店が一番忙しくなる時間帯のスタートだ

鎖縛 11
BJ 11/13(金) 00:41:44 No.20091113004144 削除
 大阪へ戻ってきた和洋は、すぐそこに迫った異動に備えて仕事の引き継ぎ作業に追われていた。
 仕事が終われば、堺から毎日のように「飲みに行かないか」と誘われる。若者じゃないのだからな、と呆れつつも、もうすぐ友人が去ってしまう寂しさを滲ませた独り身の男の誘いは、なかなか断れなかった。

 そうして疲れきった身体を天王寺のマンションに持ち帰るのだが、そうすると今度は不思議に寝付かれない。妙に目が冴えてしまって、遅くまで起きている。
 ――齢のせいで、酒に弱くなったのかもしれないな。
 そう考えたが、酒に弱くなったなら、余計に早く寝付けそうなものだとも思う。酒量が減っているのはたしかだが、眠れない原因はほかにあるのかもしれない。


 齢のせい――という言葉の連想で、この間の東京帰り、戻り際にちらりとだけ会った瑛子の顔を思い出した。箱根旅行でずいぶんと疲れたのか、目の下には隈が仄見えたが、和洋の前では疲労のことはまるで口にしなかった。

『うん――楽しかったわよ。行きたいなと思っていたところも、色々とまわれたしね』

 いつもの落ち着いた声音でそう話しながら、台所に立って茶を淹れている瑛子の後ろ姿を思い出す。若いころと寸分違わない細身のシルエット。ベージュのスカートに包まれた臀部のあたりを、和洋は見ていた。
 身体の深いところで疼くものがあった。立ち上がって瑛子の傍らに行き、そっと腰に手を回すと、瑛子はちょっと困ったような顔をして、『だめよ』と身をかわした。

『璃子が2階にいるじゃない』
『2階だからいいんじゃないか。ちょっとくらい、いちゃいちゃしても』
 瑛子はぷっと吹きだした。『なあに、いちゃいちゃって。若い子じゃあるまいし』
『おかしいね。齢のことを話題にしたら、怒るのは君の役まわりだったろう。漫才師でいえば、僕はおでこをぴしゃりと叩かれる方』
『また、馬鹿なこと言って』
『馬鹿なことを言うのが好きなのさ』

 知ってるだろう――と囁きながら、和洋は瑛子を抱き寄せた。普段なら、ここまでくればおとなしく身を任せる瑛子だったが、その日は頑なで、ただ頸を振って和洋を避けると、コンロにかけたシチュー鍋をかきまわす作業に戻った。
 しばしの沈黙の後、瑛子は和洋に背中を向けたまま、『あと一か月じゃない』とぽつり、つぶやいた。
『それまでは――』和洋は椅子に背を深く預けて、頭の後ろで両手を組んだ。『お預けってことかい』
 瑛子はほつれた後ろ毛を軽く撫でながら、『そうね』と煮え切らない言葉を返した。――


 つれなかった瑛子の態度を思い出しながら、和洋はぼんやりと考え込んだ。
 妻は今も若々しく、女としての魅力を失っていない。それは幸福なことなんだろう。
 自分は――どうだろうか。
 考えるまでもない。疲れ切った中年男だ。
 しかしそれは恥じることではない――と和洋は思う。家族を守るためだ何だと俗なことは言いたくないが、それでも自分には意味があると信じている。生きる意味、働く意味。そうしたものがない人間の生活は空虚でしかない。
 とはいえ――いくら高尚なことを考えてみても生きていれば腹が減るように、眠れない夜には性欲を抑えられないこともある。
 和洋はベッドから起き上がった。後ろめたい想いを感じつつ、パソコンを立ち上げる。
 訪れる先は決まっていた。先夜はトップページを見ただけで、「これはおれが覗くような世界じゃない」と引き返したあのブログ――『黒い砂漠』だ。
 黒々とした背景に、赤い文字が浮かび上がる。



 【皆様、こんばんは。『砂漠の住人』です。】
 【最近の調教成果を報告します。】



 ブログに入ると、最新の更新がトップ画面に現れた。日付を見ると、3日ほど前になっている。



 【先日の昼間、Aに電話をかけました。】
 【前回の更新で書いたように、Aにはここしばらく貞操帯を付けたままで生活させています。】



 常連でない自分には分からないが、そういうことになっているらしい。それにしても、Aは40台の主婦だそうだが、夫は妻の異変に気づかないのだろうか。夜の営みは絶えてないのか。
 それとも――夫婦は一緒に住んでいないのか。



 【これまでAには一日に三度、娘の目を盗むように朝、昼、晩と自宅でオナニーをさせて、その様子を携帯の写メールで送らせていたのはご承知の通りです(時には自宅でない場所でもさせましたが(笑))。】

 【それがいきなりオナニーを禁じさせ、貞操帯を付けさせた上で、しばらく連絡を断ったものですから、もはやアブノーマルなセックスの虜になっているAにとっては躯の疼きで夜も眠れない日々だったようです。もちろん、奴隷であるAの方から主人の私に連絡を取ることは一切許していません。】

知られたくない遊び 2
道明 11/12(木) 22:55:46 No.20091112225546 削除
 月の光が二人の寝所に差し込んで、幻想的な雰囲気を醸し出す

 夫は愛しい妻の手を握っている
 妻の柔らかい、そしてすべすべとした肌の感触を哲平は楽しんでいた


 「翔子・・もう寝った?」

 「いいえ・・・なぁーに、あなた」



 「うん・・・・お願いがあるんだ」

 「どんなこと?」



 「・・・・・・しゃ、写真を撮らせて欲しい」

 「写真?!・・私の?」



 「ああ・・・・君の裸の写真」

 「私の裸?・・・何を言ってるの、何度も見てるじゃない」



 「そうじゃないんだ・・・・・・君の裸、今の美しい君の裸体を撮りたいんだ」

 「えっ・・・で、写真を撮ってどうするの?」



 「デジカメだろ、撮ったデータをパソコンで大画面に映す
  そうすれば、毎日、君と会えるし君を見れる・・・月に1度しか、帰れないんだ
  ・・・・仕事先で君を忘れないようにしたいんだよ」

 「まあ・・うふふ・・・それって、あなた・・浮気の虫でも抑えようってことかしら」



 「そ、そんなんじゃない・・・・無性に、君の裸を見たい時があるんだ
  特に、仕事で嫌なことがあった時なんか、そんな気持ちになるんだ」

 「ふーん・・・そうなんだ・・・でも、恥ずかしい・・・裸の写真なんて」



 「何、言ってんだい・・・さっき、何度も見てるって言ってたじゃないか」

 「デリカシーが無いわねぇ・・・それと、これとは別のものよ、ふふふふふ」


 薄明かりの客室に、閃光が月光に交わり、何度も走る

 パシャ、パシャ・・・・・・・
 その光の中に、浴衣姿の若妻の姿が浮かぶ
 男を誘うように、少しずつ肌をあらわにしていく
 目は涼しげでカメラを見つめ、顔は微笑んでいる

 白く、すべすべとした肩が現れ
 女が形の良い豊満な乳房を右手で押さえ、左手が浴衣の裾をはだけると
 しなやかな2本の美脚が姿を現す
 女は蒲団に仰向けで寝そべり、両手で大きく浴衣の裾を広げる
 カメラのフラッシュの光が、爪先から少しずつ美脚の麓に上っていく

 翔子は信じられないような、大胆なポーズをレンズに披露した
 両脚を大きくM字に広げ、指先が女陰を擽る


 「あぁぁぁ・・あなた・・・私を見て・・・・・」


 自慰に耽る愛妻の淫らな姿を、無我夢中でシャッターを押し続ける夫がいた

知られたくない遊び 1
道明 11/12(木) 22:36:51 No.20091112223651 削除
仄かに昇る白い湯煙の向こうに、女の項が浮かんで見える
女は髪が濡れないように、櫛で艶のある黒髪を上に纏めている
ここは温泉旅館の客室にある露天風呂
・・・・夜空には雲はなく、中秋の名月が女の白い肌を青白く照らしていた

松田哲平と妻の翔子は、幼い子ども二人を妻の両親に預け、夫婦水入らずの旅行に来ていた
哲平は30歳、翔子は28歳である

二人は共に、スポーツジムのインストラクターをしていた頃に知り合い、恋に堕ちた
翔子の両親は、不安定な職業の哲平と結婚することに、将来を危惧して反対をした
しかし、既に妊娠していた翔子は両親の反対を押し切って結婚したのだった
躓いた結婚生活は上手くいかないもので、両親の心配が現実のものとなる
哲平は職業を代え、全国を飛び回る建築関係の会社に転職をしたのだが、仕事はきつく収入は少ない

二人目の子を出産する頃になり、漸く翔子の両親の理解が得られ、苦しいながらも援助を得て、一戸建ての家を新築した
しかし、この家のローンの支払いの負担が、若い二人の生活を一層苦しめることとなる
・・・そして、未曾有のこの不況が襲う

そのため、下の子どもが2歳になった時
翔子は保育園に子どもを預け、家計を補うためにと、家の近くの喫茶店のアルバイトにでているのだった



「ねぇ、あなた・・・もうひとり子どもを作りたいなぁ、私」

「馬鹿を言うなよ、今の4人家族の生活で、アップアップじゃないか」



「うん・・・でも、男の子二人でしょ・・私、女の子を育てたいの」

「えっっ・・それは、また、どうして?」



「息子は嫁の言いなりになり、嫁の家に引っぱられてしまうって言うじゃない」

「えっ、もう、そんな先のことを考えてるの?それに、それって俺のことか」



「ふふふふ・・・あなたのことじゃないわ・・・やっぱり、ちょっと先のことよね
 でも、可愛い女の子・・・欲しいなぁ」



くすくすと笑う翔子の顔に、月の光が降り注ぐ
日々の子育ての疲れから久々に開放され
質素な生活の中での少しの贅沢に、翔子の心が弾んでいる


「ねぇ、あなた・・・・幸せ?・・幸せよね、私たち」

「ああ、そうだよ・・・貧乏だが間違いなく、幸せだよ、翔子」



哲平が愛妻を抱き寄せる


この夫婦の営みは、月に1度程度となっていた
28歳でセックスの快感を覚え始めた女体は、それでは少し寂しいのが当たり前
その契りの日には、翔子は夫の精を何度も求める
だが、精神的にも疲れ切っている夫の体が反応するのはせいぜい2回まで
それも最近は、1回が限度のセックスレス状態だ


若い夫婦でありながら・・・・
既に、肉体的な喜びを求めることより、心のつながり重視の夫婦生活に変わりつつあった

花  濫
夢想原人 11/7(土) 11:23:55 No.20091107112355 削除
帰  国                                                                                                                                     


第1章帰国

第3節 埋み火
 まだ二月の終りだというのに、今日の陽気は四月下旬の絢爛とした春の息吹を含んでいると、冴子は長い自分の髪をなぶる生暖かい春風を吸い込みながらに思った。 いつもは誰もいない家に帰り着いた時のうら寂しいような情緒が今日はなかった。春の匂に誘われた乙女心のときめきにも似た心のたかぶりを冴子は押え切れないでいた。                   
 それは突然の春の訪れだけではなく、今日やって来る浩二のせいであることは十分冴子自身わかっていたが、陽気がそれに拍車をかけているのも事実だであった。 玄関の鍵を開ける時、すぐ横の椿の林を抜けてきた冷気を含んだ風が、汗ばんだ肌に気持ちよくあたって冴子は思わずほっと安堵の息をした。帰りの京王線の車中も、こんな暖かい陽気なのどうして暖房を入れるのかと腹立たしくなるほどの暖かさだったし、行きがけに目を止めた満開の梅畑を見て帰ろうと、いつも乗るタクシーをやめて歩いたので、コーデュロイのツーピースに毛のコートを着て出たことを後悔するほど躰は汗ばんでいた。                      
 家に入ると、屋内に澱んだ熱気が、家中のさまざまな種類の匂いを濃く沸きあがらせていた。けっして不愉快な臭いではないが、自分の生活を露わにさらけ出しているような気がして冴子はいつも帰宅すると急いで窓を開け放つ。今日はこの暖かさで一段と臭いが強い。                          
 買い物の袋を台所の調理台に置くと、汗ばんだ肌に下着がべっとりとくっついているのが気持悪く、ともかく着替えなくてはと廊下を奥の自分の部屋にしている和室に向かった。夫の親の時代からの古い家の昏い廊下を急ぎ足に歩く自分のスリッパの音が、一人の時は意外に大きく聞こえる。ここに嫁いで来た時には、その音になんとも言えないさみしさを感じたものだが、今ではすっかりそれにも慣れてしまった。        
 冴子の部屋は廊下の突き当たりにある。襖を開けるとまず南側の障子模様の擦硝子を開け放った。濡縁にあたる午後の陽の反射が冴子の汗ばんだ顔にあたって散った。濡縁の前は小さく開かれた芝生がある。日本芝なのでまだ飴色のままうららかな陽を吸い取っているが、椿林の縁にのあたりは散り果てた椿の花が緋色の布切れをちりばめたように華やかに見えている。まだ大部分咲き残った椿の林がクリスマスツリーを並べたように、緑の間に色とりどりの花を咲かせて隣家との視界を遮っている。
隣は農家で椿林の向こうの塀に接して大きな古い土蔵があり、崩れかかった土壁には山蔦が絡んで亀裂のような模様を見せている。東側には背丈ほどの竹垣があり西のコンクリートの塀の外はまだ雑木林が残っていて、ここの濡縁はどこからも覗かれる心配はなかった。東京の住宅地なのに、岡山の実家の田舎のように鄙びたこの景色が好きで冴子は気候さえよければいつも戸を開けたままにしている。 
腰を屈めて書机にハンドバックを置くと、コートを脱ぎながら歩いて洋服タンスの前に立ち扉を開けて香水の匂いを撒きあげるコートを掛けた。扉の裏の鏡に映った自分の顔をちらと見てから、翡翠のネックレスを気使かいながらツーピースの上着を頭から脱いだ。そのままの姿勢で腰のホックか外してスカートを脚元におとす。中国製のシルクのハイグレースリップの裾を捲って肌色よりやや濃いめのパンティーストッキングを腰をかがめながら引き下ろした。真っ白い剥き卵のような艶やかな汗ばんだ素足が現われる。庭から吹きあげるそよ風がそっと心地よく素足の 脚首から太腿の奥深くまで撫でさすっていく。特に汗の多かった内腿のあたりは、ひゃっとする感触で風が抜けていった。                 着衣をタンスに仕舞うと、下着と一緒に洗濯するパンティー・ストッキングを部屋の隅に置き、片手で乱れた髪を掻き上げながら鏡台の前まで行き、鏡の前にしゃがんだ。揃えた艶やかな膝小僧に陽光が照りはえて、剥きたての葱のように新鮮に輝く。中腰になったまま翡翠のネックレス、腕時計、イヤリングの順に外して鏡の前に置いた。                  
 そのまま座蒲団の上に横座りになって化粧を落そうと脚を座蒲団に載せたとき、ふと鏡台の横の大きな姿見に自分の下着姿の全身が映っているのに気が付いた。いつもはレースの覆いを必ずして出かけるのだが、今朝は急いでいたためかうっかり後始末をせずに出かけたらしい。                      
 冴子は滅多に硬質のブラジャーは付けない。子供を生んでいない二八歳の冴子の乳房は人一倍豊かで、その上をブラジャーで締め付けると息苦しくなるし、胸がよけいに盛り上がって不恰好になる。外人の女のように上向きの紡垂型ではなく、ふっくらと丸く盛り上がった乳房で、その上乳首が小さいから夏の薄着の時期を除いては薄いソフトブラジャーだけでにしている。
小走りしたり階段の昇り降りの時に、豊かな乳房のゆらめきが男達の注視を集めていることに本人は気ずいていない。今日は毛のコートに厚めのコーデュロイの洋服だから、思い切って、胸が締め付けられる不愉快なブラジャーは付けなかった。庭の畳色に枯れた芝に散った陽光が、薄いスリップを透かして冴子の裸身を淡く浮き出させていた。身に纏っているのは股下をやっと覆っているミニの薄いスリップと、やはり中国製の薄いショーツだけだから、胸の膨らみから小さく淡桃色の乳首までほのかに透けて見えている。ショーツからむっとする量感で伸びている色白の太腿や、膝から急にすんなりと伸びた下肢が春の陽を吸って生き生きと艶やかに照り輝いている。           
 ことりとも音のしない森閑とした家のなかで、冴子は鏡の中の自分の姿を見ながら、腕を前で十字に組んで、静かに肩からスリップの肩紐を左右一緒にずらせた。丸い撫肩を紐はつるりと滑って腕の肘のあたりまで一気に下がり、スリップは突き出た乳房の乳首の上の辺りで下がって止まった。両腕を交差させたままで、乳房の上に不安定な形で止まっている絹地の端を少し引き下げると、薄い絹地はにわかに力を失ったように崩れてぼろ切れになって冴子の足元に落下した。起伏に富んだ女らしい美しい真っ白な餅肌の裸身が、陽光の反射を受けて仄暗い室内に塑像のように浮き上り、ほのかな温か味を含んだ甘酸っぱい女体の匂いに包まれて息づいていた。自分の掌では掴み切れない乳房を裾野のあたりから揉みあげるように握ってみると、乳房の真っ白い肌が緊張して艶を増して輝き、薄い乳房の皮膚に血管がかすかに青く透け、頂きの乳首が硬く尖りはじめて震えている。冴子の貌がひとりでに羞恥を含んだ血の色を増す。この乳房を愛撫し揉みしだき、顔を埋め乳首を含んで悶えた夫の惣太郎を含めて三人の男のそれぞれの感触が甦ってきたからだ。  
 冴子は上体を少し前に折り、思い切ってショーツに掌をかけた。長い髪が顔に亂れかかってくるのを顔を横に曲げて視界を確保しながら、真正面に映っている自分の姿を盗み見るようにしながら腰を屈め膝を折って足許までずりさげる。そのまま上体をゆっくりと伸ばし顔を振って髪を肩に流してから鏡の中の自分を見る。姿見に一、二歩近づき、全身を鏡いっぱいに入れて腰に手をあててポーズをとってみた。 腰の丸みが最近少し豊かになってきたような気がする。夫の惣太郎が、冴子の躯で一番美しいのは顔で、一番肉感的なのは太腿だ、と最近よく言うのを思い出した。 その太腿を前後に重ねるように脚を交互によじり、両手で髪を持ち上げるようなしぐさで両腕を頭のうえにあげて掌を組み、腰を少しひねったポーズにかえて見る。やや太り気味だと思っていたが躯を動かしてみると、意外に柔らかく自由に四肢が曲がり、腹部のくびれが娘のようにしなやかである。奥さんの躰は骨細に豊かな肉が柔らかく、特に内腿の皮膚が雪のように白くていつも湿り気を帯びていて魅力的だと言ったのは浩二だったかしら。全身の肌が絹豆腐の切口のような柔らかい光沢に照っていて男の欲情を誘う、と最近言ったのは田宮という夫の助手だった。夫以外には冴子はこのふたりの男しか知らないが、こうして自分の裸身を映し出す度に、三人の男達との、それぞれの睦み合の時の感触や熱い言葉が、あれほど強烈で悽愴だったにもかかわらず、肌を今さすっていく薫風のように、たよりなく思い出すことしか出来ない。男と女の肉の交わりほど、後になって不確かなものはないと最近冴子は思う。特にもう三年も前になった浩二との情交は、すでに遠い昔のことのようで、弟のような浩二との三日間の激しかった交わりを、情緒としては正確に記憶しているものの、冴子の肉体は、もう正確に浩二の肉の感触を反蒭することは出来ない。肉の交わりとは、こんなにもはかなく脆いものなのだろうか、と冴子はうら寂しく感じていたが、今夜浩二が帰国して会えることがはっきりとした今日は、浩二とふたりだけの秘密を刻んだこの部屋の情景が、微細な接触感まで誘って鮮明にはっきりと、肌や躯の内部にまでよみがえってくる。それは浩二と別れた三年前から片時も忘れることなくこうして思い返していたような順序のよさで、それらは次々と冴子の眼底や躰の隅々を飾っていた。もう諦めていた浩二と三年振りの再開が今夜に迫っているとはいえ、今夜浩二と前の関係が復活することはあるまい。夫と三人の夜なのだから絶対にそんなことはない。冴子は安堵ともの足りなさの狭間で、大きく息を付いた。                     
 鏡に映った太腿を少し開き加減にして眺めてみる。たしかに女らしく豊かで張りのある太腿だが、自分ではすこし太過ぎて逞しすぎるような気がする。だが冴子が今までに知った三人の男達が異口同音に同じ賛辞を言うのだから、男にとっては案外魅力があるのかも知れない、と思ったり、どうせお世辞なのだから、と考えたりもする。鏡の中の冴子は、ここ二、三年で頸筋や頬に女らしい色気がほのぼのと匂うようになってきたと自分でも思うし、白磁のように真っ白な肌は生まれ付きのものだが、最近乳房にも肩にも腹にも白くぬめるような脂肪が滲んで甘酸っぱい芳香を放ちだした、と夫が冴子の成熟ぶりを誉めるのも、こうしてまじまと自分の裸身を映して見るとうなずける気がする。だがそれが誉められることなのかどうかは冴子には分からない。ただ自分の躯が変わってきたことだけにはうなずける。瓜実顔の奇麗な頬にうっすらと紅を刷いたような照りがあり、二重瞼の大きな瞳には潤みが加わり、やや厚い唇もいつも湿っているような艶が浮いて来た。浩二と知りあった頃は、娘らしさが抜け切れないと周囲からよく言われていた自分が成熟した人妻らしく変ってきたのは、年令のせいだけではないように思う。やはり男性との交わりが成熟を促し磨きかけているということを認めないわけには行かない。    
 あなたは野の百合のような人だ。それも白百合だ、と言った浩二を思い出しながら、鏡に映った自分の顔に見入った。今日はいつもより瞳が潤んでいるし肌に張りがある。閨房の後に似た色気が顔全体に滲んでいる。浩二がやって来ることがこんなにも自分の内部に異常な刺激を与えているのだろうか、と考えるとさらに顔に血がのぼりわれながら艶っぽく照りはえてくる自分の顔にひとりで羞恥を感じた。 
 この部屋は和室で椅子がないので、一人だけの大胆さから和机に腰を下ろして、横座りに揃えていた脚を思い切って静かに広げて見る。両腕を後ろに伸ばして和机に突き、腰を鏡に突き出すように上体を斜めに支える。なだらかな弓のような曲線で盛り上がった下腹部から、実際は淡い茂みなのだが肌の白さが真っ黒い多毛な茂みに錯覚させる股間が鏡の中に羞恥を含んで露わになる。多毛でない証拠に真直ぐ立っていても一筋の割れ目がはっきりのぞいてい見える。両脚を開くとかわいい膨らみの茂のみのなかから、一筋の裂け目がかすかに割れ、貝身を合せたような外陰唇がちろりとのぞいている。右腕を前に回して貝の合せ目に指を添え、腰を鏡に突き出すようにして陽の明るみに露らわにし、二本の指で割れ目を開くようにすると、ピチッと小さな音がして思い切りよく外陰唇が割れてピンクの内陰唇の、薄桃色の複雑な襞を現わす。子供を生んだことのない膣口は埋まっていて、薄いピンク色の透明感のある粘膜が恥ずかしそうに顔を出す。指の先に汗ばかりではないぬめりが感じられ、さらに膣の奥からわずかではあるが暖かい粘液が湧き上がってくるような気がする。指の先が触れている陰唇の粘膜の辺りから、ピリリと弱い電流に感電したような快感が股間にはしるり、思わず目が細くなり唇が緩んだ。快感に霞む瞼の内に今日帰って来る浩二の若々しい肢体が浮かんできた。      
 もう会うこともないと思っていた他人ではない浩二の突然の帰国は、冴子の情緒を靉靆とした霞に包ませていた。忘れかけていた浩二の力に満ちた躯動きを冴子の肉がにわかに反芻して、子宮の奥からあの時の官能が痛いほど鮮明に湧き立ってくる。誘われるようにさらに膣の奥深くに指先を進めようとしたとき、突然雷鳴が轟いたと冴子が勘違いしたほどの大きさで電話が静寂を破って鳴り出した。冴子は誰かが闖入してきたように驚き、あわてて今脱いだばかりの下着を付けて電話のあるリビングに走った。      
 間違い電話に驚かされた腹立しさは、シャワーを浴び普段着ワンピースに着替えたときには忘れていた。滅多にしたことのない白昼の衝動的な淫猥な行為に高ぶった感情を静めようとキッチンの調理台の椅子に腰を下ろしていたら、今夜来る浩二のためにわざわざ半日をかけて新宿の中村屋まで出かけて買い求めて来たダージリン葉の紅茶の強いにおいを嗅ぎたくなった。先ほどのような狂態を冴子は生れて初めて体験した。今までそんなみだらな行為をしてみようと考えたこともないのに、どうしてあんな感情になったのだろう、と冴子は羞恥のうちで考えた。やはり浩二の来訪が凡庸な冴子の生活を完全に狂わしていることは紛れもない事実だと思った。紅茶は夫の和夫が昨年香港から買い求めて来た白磁のポットで淹れることにした。         
 冴子は少女の頃から国文学者の父の影響で茶を習った。紅茶を淹れるときも日本茶をたてる繊細さで淹れると、誰もが旨いと誉めてくれた。ダージリン葉はやや埃臭いきらいはあるが、鄙びた見知らぬ印度の田園を思い巡るような素朴な香りが冴子は好きだった。ポットからロイヤルコペンハーゲンの紅茶カップに淹れた紅茶をもって冴子は自分の
 庭の椿がどれも鮮やに咲乱れていた。夫が趣味で植えたものだが、全部で百本以上もあった。全部改良園芸種で、紅に白の斑入や大輪の牡丹のような花や、緋色の派手な目の醒めるようなものが多く、名前もフレグラント・ピンクとかタイニー・プリンセスといったモダーンさだが、冴子はその派手な椿は都会の女達のような化粧臭さが感じられて好きではなかった。冴子にとって椿は、実家の庭に生れたときから咲き続けている薮椿しか愛せない。  紅茶の香りに包まれて冴子は椿の林を見ていた。冴子の視線はあでやかな椿の花ではなく陽光に艶やかに輝く緑の葉のそよぎに向けられていた。脳裏に岡山の片田舎にある実家の庭の老木の薮椿の深紅が浮かんで来る。この時期冴子は毎年花を見ずに葉を見ながら故郷の薮椿を想いいながら暮しているのだった。最近夫に対しても、このあでやかな洋種の椿を見ながら、いつのまにか素朴な実家の老薮椿を想い出しているように、現実の夫を冴子の好尚する男性に置換して眺めているような想いがしてならない。         

もうひとつの人生 13
kyo 11/5(木) 23:48:53 No.20091105234853 削除
 複製画は白いパネルボード二枚に挟まれている。さらにA5サイズの薄い冊子が2冊同梱されており、それはどうやらこれらの絵の解説本に当たるらしい。

 冊子の表紙にはそれぞれ「2008年夏」、「2008年冬」と記されている。隆則は、画廊にあった最も新しい絵は「2009年夏」だったと記憶しているが、5枚セットが完成しているのは2008年冬のものが最新なのかもしれない。

 ボードを外すとほぼ実物大の複製画が現れる。それは隆則が大阪の画廊で見た絵の一枚である。

 仁美に似た赤毛の女が全裸でやや肢を開き、腰に手をあてた姿勢で立っている。その裸身は十分成熟しており、乳房は重たげに垂れ腰も逞しいまでに張り出している。

 その熟女の色気がムンムンするような姿態とは裏腹に、青々と剃り上げられた陰部がまるで少女のような趣きを見せているところがなんともアンバランスである。

 複製画とは言え、一枚5千円という決して安いとは言えない値段を付けるだけあって、印刷はちょっと見ただけでは本物と見紛うまでの精密さと迫力を有しており、筆の跡の凹凸まで再現されているほどである。

(これは本当に仁美なのか)

 他人の空似とばかりは言えないほど良く似ているが、仮にこの絵のモデルが仁美であったとしても、そのことのみをもって責める訳には行かない。裸婦像は芸術と認められており、そのモデルをしてどこが悪いのかと開き直られればそれまでである。

(しかし、この他の4枚が――)

 天野の言う通り「春画」とも言うべきものだったとしたら話は別である。いくら歌麿や北斎などの巨匠が手掛けた分野と言っても、男女の交接を描いた春画は現代でもおおっぴらには展示公開できない類いのものである。

(もしそうだった場合、俺と仁美は夫婦として終わってしまうかもしれない)

 そう思うと隆則はなかなか今見ている絵に手を伸ばせずにいる。この絵の向こうにこれまでの穏やかな夫婦関係が一変する風景が待っているのかもしれないという事実を確認するのが恐ろしいのだ。

 かといって、このままにしておくこともできない。隆則は思い切って絵を取り去る。

(……!)

 現れた画像を目にした隆則は息が止まるような衝撃を覚える。それは仁美そっくりの赤毛の女が、全裸像を正面に向けたまま胡座をかいた男の上に乗せ上げられて繋がっているものだった。

 男の長大なものは女の股間をくぐり抜けて、無毛の陰部を貫いている。女は男のものを押し込まれる圧迫感に眉を寄せながら、一方ではどこか恍惚とした表情を浮かべている。

 隆則は急に高まってきた鼓動を必死で押さえながら絵をめくる。3枚目は女が両手吊りの姿勢で高々と肢を上げ、やはり背後から男に貫かれているものだ。2枚目の絵と違うところは男の巨大なものが女陰ではなく、双臀の狭間を深々と抉っているところだった。

 4枚目の絵に移る。現れたのは横たわった男の上に赤毛の女が乗せ上げられ、さらに背後から別の男に貫かれている情景を描いたものだった。

 隆則は喉の奥まで見えるほど大きく開いた女の口から、女の歓喜の悲鳴が聞こえて来るような錯覚に陥った。また、これまでの絵でははっきりと分からなかったのだが、女の赤毛はまるで日本髪を崩したように乱れており、女を前後から犯している男たちも、背中には龍や虎の刺青をしており、髪はいわゆる銀杏髷に結っていることに隆則は気づいた。

 最後の絵は女が膝立ちの姿勢になり、仁王立ちになった二人の男が左右から突き出してくる男根を両手で持ち、うっとりとした表情でしゃぶっているものだった。

 要するにこれらの絵は、まさに江戸時代の春画を現代に、それもリアルな技法でよみがえらせたものなのだ。

 絵の構図もさることながら隆則にとって衝撃的だったのは、最後の絵の赤毛の女の半ば放心したような顔付きが、画廊で見たものと同じくセックスの後でけだるい充足感に浸る仁美の表情とそっくりだったことである。





もうひとつの人生 12
kyo 11/3(火) 22:42:48 No.20091103224248 削除
「……お父さん」

 千鶴の何度目かの呼びかけに、隆則はようやく顔を向ける。

「ああ、千鶴か。どうかしたか?」
「どうかしたかはこっちの科白よ。どうしたの、ぼんやりしちゃって」
「ぼんやりしていたか?」
「何度も呼んだんだけど、全然気が付かなかったじゃない。ぼんやりどころじゃないくらいぼんやりしてたわよ」
「そりゃ大変だ」

 口を尖らせて言い募る千鶴に、隆則は苦笑する。

「笑い事じゃないわよ、もう。最近お父さん、何だかおかしいわよ。そう、この前の出張から帰って来てからずっと」

 千鶴の指摘に隆則はどきりとする。まだ13歳だというのに「女の勘」が働くのだろうか。肝心の仁美の方は隆則の変化に一向に気が付いていないようだが。

 大阪で「赤毛の女」の絵を見てからというもの、隆則は気が付くとそのことばかりを考えていた。あれは本当に妻の仁美を描いたものだったのだろうか。

 裸婦という題材が画家にとって決して珍しいものでない以上、モデルになる女性も存在するはずだし、それが必ずしもプロとは限らない。隆則がずっとそう思っていたように、妻の仁美が堅い女だったとしても、芸術のために椿という画家のモデルになることないとはいえない。

 しかし妻のそんな秘密に、隆則がたまたま入った画廊で行き当たるなどという偶然はあり得ないように思えるのだ。

(そもそも俺は本当に赤毛の女の絵を見たのか? あれは全部酒に酔ったことが原因の幻ではないか)

 隆則はそこまで考えるが、すぐにそれは極端な考え方だと思い直す。

(むしろこれは逆に考えるべきではないか)

 隆則はそう思い直す。一年に二回きりの逢瀬、しかも普段の生活圏から遠く離れた場所で、帰省のたびに学生時代の友人と旧交を温めるという理由、そんな条件が重なったからこれまでは気が付かなかった。それが結果として10年も続いたのである。今まで露見しなかったことがむしろ偶然なのだ。

「……お父さん」

 千鶴の声で再び隆則の思考は中断する。

「何か言ったか?」
「いやね、またぼんやりしちゃって。お父さん宛に荷物が着いていると言ったのよ」
「荷物だって?」
「厚みはそれほどないけれど随分大きなものよ。大判のポスターぐらいの大きさの」

 千鶴の声に隆則はあわてて立ち上がる。千鶴の言ったとおり玄関ホールに大きな板のような包みが置かれている。約束どおり天野が2年分の複製画を買って、送ってくれたのだろう。

(仁美が留守の時で良かった……)

 あの時は後先も考えず天野に頼んだのだが、仁美が在宅中に荷物が届いていたら、誤魔化すのに苦労しただろう。

(しかしこれで、あの夜のことは夢ではないということが証明されたな)

 隆則は思わず苦笑しながら荷物を抱え、書斎に運び込もうとする。すると廊下で千鶴がその様子をじっと眺めている。

「それは何なの? お父さん」
「何でもない。気にするな」
「ポスターでも買ったの? 千鶴も見てみたいな」
「千鶴が見ても面白くないものだ。自分の部屋に行ってなさい」

 千鶴はしばらくの間、隆則の様子を伺っていたがやがてくるりと後ろを向き、リビングに戻る。隆則は安堵の息をついて絵を書斎に運び込み、包みを破る。

もうひとつの人生 11
kyo 11/1(日) 21:10:03 No.20091101211003 削除
「と言っても本物は難しいが。残りの絵――正確に言えばあそこに飾ってあった分とセットやが、会員を対象に複製画を販売しているんや」
「いくらだ?」
「俺は買ったことはないが、確か一枚5千円、半年置きに5枚セットが2万円やったかな」
「一枚5千円? そんなにするのか」
「複製とは言っても写真製版の精密なもんやからなかなか迫力があるで。ちょっと見には本物みたいや」
「1年分だと10枚で4万円、10年分が100枚で40万円か……結構高いもんだな」

 隆則が家計とは別に貯えている金から払えない額ではないが、妻がモデルだと決まった訳ではない絵の、それも複製に対して40万円もの金を出すのは馬鹿馬鹿しい。

 ましてそれが本当に妻だったなら、画家である椿と妻はただならぬ関係にあることが想定される。自分の妻に手を出した男の懐を、結果的に潤すことになるのは釈然としない。

「こういったもんは値段はあってないようなもんやからな。江戸時代の好事家は有名な浮世絵画家が描いた春画にびっくりするような金を払った。浮世絵も版画やから複製みたいなもんやろ。そう思えばそれほど高いとは言えん。椿はんの絵のことを現代の浮世絵やという会員も多いんや」

「その会員たが、いったい何人くらいいいるんだ」
「そうだな、固定しているのは100人くらいだったかな」
「100人か──」

 それが多いというのか、少ないというべきなのか隆則にはよく分からない。しかしネットに裸が流出して何万人もの目に触れる事態を思うと、多くはないのかもしれない。

「案外少ないのかな」
「いや、そうでもないで。固定的な100人が年4万円払ったら400万円になる。それに今回のように個展のたびに新しい会員が入って、平均4、5万円は使うらしいから、年の収入は5、600万円になるんやないかな」

 天野は羨ましそうな声を上げる。

「それに、椿はんにとってこれはあくまで副業やからな。それで夫婦2人がそれほど贅沢せなんだら暮らしていけるだけの金を稼がせてもろてるんやから、赤毛の女様々って訳や」

 天野の言葉に隆則はふと椿の妻のめぐみの顔を思い出す。

 初対面であるはずの自分の顔をまじまじと見つめていためぐみ、隆則はその意味ありげな瞳をどこかで見たような感覚に襲われているのだ。

「会員になるにはどうしたらいいんだ?」
「別に難しくはない。運転免許証とかの、身分と年齢を証明出来るもんを提示すればええ」

(身分の証明か――)

 隆則は少しの間考え込んだ後、口を開く。

「天野、頼みがある」
「何や?」
「最近1年分の赤毛の女の複製画を手にいれて、俺に送ってくれ。もちろん金は払う」
「別にええけど、最近1年分やったらたぶん画廊に置いているで。そんなに気にいったんやったら今から戻って買いにいこか?」

 天野はそう言うと残った酒を飲み干し、グラスを置く。

「いや、それはやめておこう」
「何でや? 今行ったら椿はんがもう来てるかもしれんで。サインくらいもらえるで」

 隆則と天野が画廊に行ったとき、椿はあと2時間くらいで来ると言った。天野の言うとおり今から画廊に戻れば鉢合わせになる可能性がある。仁美と椿の関係がわからないうちに、相手に自分の身分を明かすのはうまくないと隆則は考える。

「何や、訳ありの様子やな。まあええわ、俺の名前で買ってすぐに送ったるわ」

 天野はしばらくの間、隆則の様子をいぶかしげに見ていたが、やがて頷くとマスターにお代わりを注文するのだった。



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