BBS2 2007/08 過去ログ


卒業後 9
BJ 8/31(金) 19:53:21 No.20070831195321 削除

 ―――――――――――***――――――――――


 あなたが憎い―――と女は云った。


 女がこの部屋に足を踏み入れたのは初めてだった。部屋の主は色彩の統一にこだわる男らしく、家具は黒塗りのものがほとんどで、女が座っているソファーも黒革だ。
 ぴかぴかとひかるそのなめし革に腰掛けた女は、しかし上下の服を白で揃えている。その服を着た女の肌も蒼みがかって見えるほど白い。
 だが、女は部屋の雰囲気に溶け込んでいる。
 星一つない闇夜、激しい雨風が窓を鳴らしている。
 その音にかき消されそうなほど、女の声は細かった。


 あんなに非道いことをするなんて―――


 女は上目遣いで男を睨み、恨み言を続ける。黒々とした瞳は濡れたようだ。部屋の照明が長い睫毛に翳をつけている。あまり寝ていないのか女の目元には隈が出来ているが、その下瞼のふくらみは妖艶だった。
 男はそんな女の顔を眺めながら、無言で煙草をくゆらしている。その顔にはわずかの動揺も窺えない。
 やがて、男は煙草を揉み消し、女の隣に腰掛けた。横抱きに肩を抱えようとする腕をすり抜けようと女は躯をくねらせたが、無駄なことだった。
 細い躯が男のもとに引き寄せられる。
 女は抗うことを諦め、喋ることもやめて男と沈黙に自らを委ねた。
 男の手が襟元から入り込み色白の胸元に伸びる。乳房を掴まれた瞬間、女の唇から吐息が零れた。
 掴み出した乳房を掬うように男の手が持ち上げ、照明の下に晒した。細身の肢体にしては、女の乳房は豊かな肉が充ちていた。肌理の細かい肌の表面に、蒼い血管が透けている。男はしばしその様を眺めた後、引き伸ばした白餅のようなそれの頂きに口をつけた。
 女は呻いた。
 男がくぐもった笑い声を立てる。感度の良い自分の身体を羞じたのか、女は小さく啼いて男の肩に顔を埋めた。その顎を男の手が捉え、無理やりに上向かせた。
 濡れたような女の黒い瞳と、闇のような男の瞳が向かい合う。
 女の唇が動いた。


 でも―――
 今の私にはあなたしか頼る人がいない―――


 切れ切れした口調で、女はそれだけ告げる。男は何も答えない。ただ、女の顎をつかんだ指に力をこめる。
 瞳をとじた女の朱い唇に、男の厚い唇が合わさった。


 何もかも忘れさせて―――


 瞳をとじたまま最後に云って、それきり女は、男の導く没我の底へ自ら沈んでいった。


 ―――――――――――***――――――――――


 最近、息子の遼一の様子がおかしい、と京子はずっと思っている。

 いつもは落ち込んでいるときにも、母親である京子にはそんな顔を見せようとはしない大人びた息子だったが、近頃は口をきくことも少なく、さっさと自室にこもってしまう。表情も常に暗い。
 「どうしたの、何かあったの」と聞いても、遼一は「何もないよ」とうるさそうにするばかりだ。そんな返事で納得する親がどこにいるだろうか。今まで心配一つかけたことのない息子なだけに、余計に京子は戸惑っていた。
 もうすぐN高の受験だというのに―――
 京子がため息をついた瞬間、その日、居間の電話が初めて鳴った。
「もしもし」
「・・・京子か?」

 兄からであった。兄は今、東京で一人、単身赴任生活を送っている。

「ああ、兄さん。どうしたの?」
「―――頼みがあるんだ」
 兄の声は奇妙なほどに切迫していた。

 急いで家事を終わらせ、午後から京子は電車に乗って兄のマンションに向かった。先述のとおり兄は東京に出ているから、今は兄嫁一人がそのマンションに残っている。
 おかしな―――依頼だった。
「瑞希と連絡がつかないんだ。悪いけど、行って様子を見てきてくれないか?」
 先刻の電話で、兄は言った。瑞希とは、兄嫁の名だ。
「電話は?」
「ずっとつながらないんだ」
 兄との会話が終わった後、京子も試しにかけてみたが、兄嫁は出なかった。
 だから京子は言われたとおり、兄のマンションまで足を運ぶことにした。
 兄嫁とはそれほど親しく付き合ったことがない。兄と結婚する前に初めて兄嫁を紹介されたとき、美人ではあるが、とっつきにくいタイプだと感じた。きびきびと隙のない身のこなし、堅い物言いは武家の妻を思わせた。とても自分と同じ歳だとは思えなかった。
 けれど、この前京子が入院し、見舞いにきた兄嫁と久々に会ったとき、その印象が少し変わった。どこがどうとは言えない。ただ全体的に雰囲気が変わって―――どこか、艶めかしくなっていた。
 男まさりなところのある京子と比べて、たしかに兄嫁は以前からずっと女らしかったが、そういうのともまた違う。硬い革がくたくたになるまでなめされて艶光りし始めたような、そんな不可思議な色気が感じられた。
 これは兄が夢中になるのも無理はない―――内心の驚きを隠しながら、京子は密かに思っていた。
 そう思っていたところに、今日の兄からの電話だ。
 京子は早足で兄のマンションに急いだ。先週末、同じマンションを遼一が訪れていたことは知らないまま。

 電話で教えられた合鍵の在り処から鍵を取り出し、エレベーターで兄夫婦の住む階へ上がった。
 ドアの前に立ち、数回チャイムを鳴らしたが、誰も出てこない。諦めて、鍵をまわす。
 あっさりとドアは開いた。
「―――瑞希さん?」
 薄暗い部屋の奥へ声をかけるが、返事はない。靴を脱いで、部屋へ上がった。
 相変わらずどこもかしこも整然と片付けられている。兄嫁は潔癖症なのか、毎日毎日飽きもせず掃除ばかりしているとは、兄からも、少し前にここに居候していた遼一からも聞かされている。ルーズなところのある京子には、ちょっと理解できない。
「瑞希さん」
 居間に入ってもう一度、声をかける。返事が返ってこないことは、もう分かりきっていた。兄嫁はこの家にはいない。
 兄宛ての書置きやメモも探したが、どこにも見当たらなかった。

 その日、京子は念のため、夕方の6時までその部屋に残って兄嫁を待ったが、兄嫁は帰ってこなかった。
 仕方なく京子は、「戻ったら連絡をください」と紙に書いて、テーブルの上に置いて自宅へ戻った。

 しかし―――
 結局、数日経っても、兄嫁からの連絡はなかった。



妻の入院 88
医薬情報担当 8/31(金) 18:46:07 No.20070831184607 削除
 真夏が私を見上げているのが分かります。しかし、目が合わせられません。
 美肉のみならず、排泄孔までも犯された身体には、男達の精がたっぷりと注ぎ込まれ、今も、真夏の本来の甘い匂いに混じって、生臭い匂いが漂っています。 
 しかし、そんな真夏を美しいと思いました。
 私のために、身体を投げ出してくれました。あの男のために、自分が殺されるかも知れなかったということをいともたやすく乗りこえて、その男を許してと言うのもためらわない。その男は、元はと言えば姉の敵になるのにもかかわらず、です。
 それも、全て、あの男が、本当の愛を知らないからだと受け止めて、自分こそが男を変えてみせるという使命感のような愛ゆえのことでした。
 見上げた高い窓から、朝のやわらかな光が降り注いでいました。
「うらやましいなあ」
「え?」
「だってさ、あいつには何でもある。このままいけば、医者だし、病院も、金もあるし、マスクも。何よりも、こんなにもすばらしい君がいる。だけど、僕は、単なる営業マンで、金も力もない。妻だって、昔、誠と別れてなければ、僕のことを好きになったかどうか…」
「あの〜 本気でそう思われますか?」
 真夏の言葉は、控えめな響きを持っていましたが、同時に、真摯な響きを持っていました。
「本気でって」
「あなたの方が遥かにかっこいいです。だって、誠さんは、弱いもの」
「弱いって。それなら、僕の方が遥かに弱虫だよ」
「あなたは強いです。誠さんは、何かあるとすぐ、心が負けてしまうんです。ううん、何もなくても誠さんは寂しがりで、いつも誰かに甘えていないといられないんです。でも、誠さんの周りにいる女性には、それが分からない。だから、私が支えてあげないとダメなんです。とんでもなく、かっこう悪いですよね。でも、あなたは違う。何度でも、自分の力で立ち直って、何にでも立ち向かえるもの。きっと、誠さんと会っていなければ、私だって、あなたのこと…」
「よしてくれ、そんなお世辞は」
「だって、さっきだって、助けてくれました。ホントは、黙ってみていれば、あの人達は、私を連れて行って、いなくなったはずなのに。でも、助けてくれました。それに、あのレコーダーを私が持って行ってしまっても、あきらめなかったんですよね?」
『?』
「あなたが、あきらめずにここに来たから、誠さんは追い詰められた。あなたの方が何倍も強いんです。比べものにならないくらい。奥さんも、だからこそ、あなたを頼ったんじゃないんですか?あなたと一緒だと安心だって」
 その一言が、電撃のように私の背中を貫きました。
『あなたと一緒にいると安心できるんですもの』
 恋人時代のあの日、材木座海岸を一緒に歩きながら、ぽつりと吐いたセリフが、なぜだか忘れられませんでした。あの時の妻の、いえ、まだ恋人でしかありませんでしたが、あの表情は、つい昨日のことのように覚えています。
 恋人の何気ない一言だと片付けてしまえばそうかも知れません。今日この瞬間まで、私自身もそう思いこんでいたのです。しかし、実は、あの一言が、私と妻の間の真実だったのかもしれません。
「お願いです。もし、警察が必要なら、私が電話します。でも、その前に、誠さんに教えてやってください」
「何を?」
「奥さんが、あなたのものだってこと。けっして、他の人の、それも、誠さんのものになんてならないことを。きっと、今頃、奥さんの身体に酷いことをしているはずです。ひょっとしたら、もうしちゃったかも」
 真夏は、母屋の中で何があったのか、まだ知らないはずでした。しかし、妻が連れてこられた時点で、何が起きるのかは、わかっているはずです。いえ、虜にしたオンナに、男がどれほど酷いことをするものなのかは、身をもって知ってしまったのです。
 真夏は、わが身に腕を巻き付け、肩を震わせました。それは、おぞましい記憶をふるい落とそうとする仕草でした。男の意のままに、オンナの羞恥を、我が身を思うままに操られた無念は、どれほどのものなのか。
 聞くことは永遠にできませんが、その痛みのようなものが、わずかに、かいま見えた気がします。
 しかし、真夏は、その痛みをそれ以上は見せませんでした。真剣な目で、そして、心から信頼してくれる目で私を見上げます。
「でも、あなたなら、奥さんを見捨てたりはしませんよね?」
 もはや、真夏の言葉は、これ以上、必要ありませんでした。返事をせずに、男達が脱ぎ捨てた服にかがみ込んで、探ります。
 車のキーを探り当てた私は、真夏の方を見ずに出口に向かいました。
「真夏。あんまり過大評価はしないでくれよ」
 ふと振り向くと、心配そうにこちらを見つめています。
「まず、シャツを着よう。ちょっと、君の身体は、目の毒だからね。こんな時じゃなくて、できれば、時間のある時に見たいもんだよ」
 恥ずかしそうに、慌てて、身体全体で下を向きながら、シャツを羽織りました。
「車に乗っているんだ。もし、この男達が起きてきたり、僕が戻ってこなかったら、その時は、車に乗って逃げるんだ。できれば、警察も頼む。いいね?」
 まっすぐ私の目を見た真夏の目が、大きく見開かれます。コクリと肯きながら、じゃあ、と小さな声が嬉しそうな響きを持っていました。
「やってみよう。それに、これは僕と、妻のためでもある。妻を取り戻すのは、やっぱり、夫じゃないとね」
 真夏が服を着る気配を後ろに、私は、小屋から、いささかおぼつかない一歩を踏み出したのです。朝の別荘地の風が、わずかに頬を撫でました。



千代に八千代に
信定 8/31(金) 13:54:55 No.20070831135455 削除
第八章

 配属されたのは陸軍歩兵連隊で、県外の山奥に練兵場がある。
演習は厳しかった。朝から晩まで規則で縛られる。
戦争になったとき、敵に負けない強い体力と精神力、身体能力の向上が第一の目的だ。
訓練前と後に兵役体操がある。
これが現在の義務教育で行われている体育授業の基礎となっている。
体育は軍隊訓練の延長であってスポーツではない、と言われる。
欧米人などの目に異様に映るのはそのせいかもしれない。
体育授業の目的は基礎体力作りだ。
従って、スポーツでなくても良い。
その授業風景は何十年も全く変わりなく続いている。
もちろん、教育に携わる年輩のお偉方が良いと思っているから変える必要はないのだ。

 実戦さながらの厳しい軍事訓練が連日行われたが、十才で母を亡くしてから必死で農作業を手伝ったせいもあり、
基礎体力ができている庄次郎にとってはさほどでもない。
訓練後の飯も腹一杯食えるし、軍隊も悪くないと思うようになっていた。

「おい、櫻井、将校殿がお呼びだ」
三年間の訓練が終了し、荷物をまとめている時、厳つい顔の室長が入ってきた。

 目の前の男はどうやら少尉らしい。
少尉がどれほど偉いのかはよく分からない。
一、二回見たことはあるが、名は覚えていない。
椅子にふんぞり返るように座っている少尉は、持っている書類に目を落としていた。
ひとつ咳払いをして髭を撫でながら、直立不動の庄次郎をジロリと見た。
庄次郎の背筋がスッと伸びる。
「櫻井庄次郎というのか?」
「はい、そうであります」
偉い人間と直接話をするなど夢にも思っていなかったので極度に緊張している。
「ふむ、で、お前の母親の名はなんだ」
突然母の名を聞かれドキッとした。
訓練中墓参りに行けなかったことを心の中で母に詫びた。
悪魔のような憲兵らを思い出し唇を噛みしめた。
「櫻井ミリと申します」
目の前の人間も政府側の男であることに気づき、語尾が震えた。

 少尉は「ん?」という顔をして、再び書類に目を向ける。
「で、本名は」
「は?・・・・・・」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
緊張していた全身の力が抜け、口を開いたままの呆けた顔がしばらく続いた。
少尉は僅かに眉を寄せている。

「私の本名でありますか?」
「馬鹿者。お前の母親の話をしているのだ」
「は?私の母の本名で、ありますか・・・・・・それは櫻井・・・・・・」
「やはり知らんのか、お前は」
少尉は口を窄め、庄次郎の言葉を遮るように言い放った。
「ふん、生意気に二枚もあるわ。一枚は取り消しを行っていなかったようだな。これは無効にした」
庄次郎は少尉が何を言っているのか、さっぱり分からなかった。
いきなり、少尉はその二枚の紙をぞんざいに放り投げた。
ヒラヒラと宙を舞う書類に庄次郎は手を伸ばす。
床に落ちた紙を慌てて拾う庄次郎への視線は氷のように冷たかった。

 苦楽を共にした同僚は、三年間の訓練を終了して去っていく庄次郎の後ろ姿に声をかけるが、
魂の抜けたような姿に首をかしげ顔を見合わせていた。
世話になった同僚や先輩に言葉少なに別れを告げ、庄次郎はそこを逃げるように去った。
独り身なのでどこへ行くのも自由だが、足はやはり故郷へと向かった。

 明治中頃から都市計画を定め、各地では近隣の町村を合併しながら、
これに基づき区画整理、特に道路整備に力を入れたまちづくりを進めてきた。
アスファルトは紀元前から使用されていたらしいが、
日本で初めて道路整備に使われたのは、明治に入ってからといわれている。
現在はどこへ行っても殆どの主要道路はアスファルトで整備されているが、この時代はそうはいかない。
主な交通手段は人力車や乗り合い馬車である。
庄次郎は馬車に乗るが、気分が優れない上、舗装されていないガタガタ道が耐えられず、
銭も無いこともあり途中から歩いた。

 手ぬぐいで噴き出る汗を拭いながら、雲一つ無い真っ青な空を見上げる。
残暑の日差しはまだまだ強い。
だが山林に入ると、覆い被さるようにそびえ立つ巨木が光を遮り、ひんやりした空気が心地よい。
夏の終わりを告げる哀愁に満ちたヒグラシの鳴き声に耳を傾ける。
なぜかそれがセミの悲鳴に聞こえた。
庄次郎は途中何度か野宿を繰り返し、故郷へと向かった。

 居住者のいない藁葺き屋根の平屋の周りには、雑草が鬱蒼と茂っていた。
家の中はカビ臭かった。
全ての窓を開け放ち、玄関の引き戸も開けたまま裏山に向かった。
山と言っても小高い丘だ。
その頂に墓がある。
泉下に眠る母と祖父母に手を合わせ、兵役を無事に終えたことを伝えた。

 家の前の雑草を毟っていると、後方から話し声が聞こえた。
腰を上げると、カゴを抱えた数人があぜ道を通ってゆく。
仕掛けた罠の魚を捕りに行くのだろう。
部落からぽつねんと離れている、庄次郎の家の近くの脇道を通って川沿いに入る。
道は何本かあるが、ここを通ってゆくのが一番の近道だ。

 見知った顔もいたので「こんにちは」と声に出し会釈をする。
だが、その相手はそっぽを向いた。
川べりに入ってゆく人達は何回か振り向き、唇を噛みしめ立ちつくす庄次郎を見て隣の人とヒソヒソと話している。
庄次郎を見る目は冷え切っていた。



妻の入院 87
医薬情報担当 8/30(木) 17:59:20 No.20070830175920 削除
「私、お姉ちゃんとは違う。それがわかったのは、誠さんを好きになってからだった」
「お姉ちゃんというと」
「えぇ、いつか、お話ししましたよね?姉のこと。姉は、誠さんのことが好きでした。そして、私も誠さんのことが好き。でも、違うことがあるんです」
「違う?」
「お姉ちゃんは、誠さんのこと、頼りがいのある、素敵な男性と言ってました。そうですよね、きっと、誰でもそう思うと思う。でも、お姉ちゃんのことがあったから、誠さんの嫌な部分だけが見えたんです、最初は」
 真夏の必死な言葉を聞きながら、私の視線はついつい、豊かな胸に落ちていました。ふと、それに気づいたのでしょうか。さりげない動作ながら、床にふわりと広がったシャツを、ゆっくりと、身体の前で抱きしめるようにそっと寄せます。
「誠さん。ああ見えても、寂しがり屋で、それに、とってもコンプレックスの強い人なんです。ひょっとして、本当に女性が自分を愛してくれることなんてないって、そう思っている気がしました」
 寂しげなため息をつきます。
「私にとって、姉のカタキだった人だもの。初めて会った瞬間から欠点ばかり見ようとしていたんです。だから、逆に、わかったんです。この人は、私が信じてあげないと、支えてあげないと、きっと、とんでもない所まで迷い込んでしまうことになるって」
 緩やかに身体の前に置かれたシャツは、真夏の豊かな身体の線を少しも隠すことはできていません。
 しかし、それを見ている私には、今、そこから色気を感じ取ってはいません。男達にボロボロにされたはずの、ついさっきの出来事をみじんも感じさせない、身体全体から発する「何か」に気圧されていました。
「もちろん、誠さんは、私を信じてはくれません。きっと今もそうです。でも、それは、今までに何かが誠さんをそうさせてしまったのだもの。私が、きっと変えてみせる。そう思っていたんです。」
「しかし、あいつはこんな酷いことを」
「話してみればわかるはずなんです。それに、あなたの奥さんのことで、あの人、自分でもどうしようも無くなっていたんだと思う。何となくわかるんです。まるで、わがままな子どもが、せっかく買ってもらったオモチャの箱を開けてみたら壊れてた」
 一瞬、黙った後で、小さく、壊れたオモチャだなんて言ってごめんなさい、と付け加えてから、唇をキュウっとかみしめます。 
「思い通りに行かないと、とんでもなく自分を追い詰めてしまう。それがあの人の弱点なの。だから、お願いします。許してあげてください。あの人が、取り返しのつかないことを、あなたが絶対に許せないことをしたのはわかってます。でも、でも…」
 真夏の必死な瞳から、ころころと転がりながら、いくつもの大粒の水玉が落ちました。
「お願いします。この通りです。私で良かったら、何でもします。もし… あの、もし」
 一瞬、もう一度、唇を噛みしめた後で、真っ直ぐにこちらを見据えました。
「もし、こんな身体で、汚れてしまった身体で良ければ、一生、あなたの奴隷にでも、何でもなります。いつでも、呼び出してくれて良いんです。お願いします。だから、誠さんを、あの人を許して!」
 身体の前に抱きしめていたシャツを放り出して、裸のまま私の胸に取りすがってきたのは、別に、誘惑しているつもりなど無かったのに違いありません。なによりも、真夏自身が、作戦とはいえ、さんざんに犯され、汚された身体だと思いこんでいたからです。
 もちろん、真夏は汚れていません。
 いえ、あんな男に対して、真摯な愛を訴えられる、その姿は神々しいまでに美しいと思えました。何がここまで真夏を惚れ込ませたのか、男女のことは永遠に謎なのかもしれません。しかし、今、目の前で真夏が見せているのは、無償の愛そのものでした。
 これほど真摯な愛よりも美しいものは、この世にはないのかもしれません。
 しかし、真夏は知りません。このままだったら、私も、真夏も、あの男に殺されていたはずだったということを。
 真実を告げるべきかどうか、一瞬ためらいましたが、やはり、知るべきです。
「ただね、君は信じるかどうか、わからないけれど、君は、まあ、僕もだけれど、殺されるところだった。昨夜、山村さんが来ただろ?あの人が来なければ、おそらく」
 驚いたことに真夏は、一つも驚いた様子を見せなかったのです。
「知ってます。山村さんが、教えてくれました。このままだと、って。でも、しかたないんです」
「しかたない?殺されるのに、しかたない、なんてあってたまるものか!」
「きっと、できなかったはずです。そんなこと」
『そんなことあるものか』
 言いかけた私が口をつぐんだのは、真夏の真摯な瞳でした。
「ここに運ばれた時、最初は、母屋の方だったんです。その後、目が覚めてしばらくしてから奥さんが運び込まれ来て、こっちに運ばれたんです。その時、山村さんが」
「山村さんが?」
「ウソの注射をしたんです。だから、こっちに運ばれたとき、意識を失ったふりをしていたんです。その私を、誠さんがここに運び込んだんです」
「本当は意識があった?」
「私の意識があるなんてちっとも思っていなかったはずなのに、私を床に下ろす時、とっても、優しかった。そっと、寝かせてくれました。それに、確かに聞いたんです、ここを出て行く時に、ポツリと『ごめん』って。確かに、言ってました。悪くはなりきれない人なんです」
 グッと私に取りすがったまま、ふと、自分の格好に気がついたように、わずかに身じろぎをするように身体を隠します。
「だから、お願いです。私のことは良いんです。あなたが、あなたが許してくだされば」
 真夏の細い手首をそっと持って、私の身体から外します。用心しながら、立ち上がって、高い窓を見上げながら、考える前に私の口が動いていました。
 そう。
「動かした」のではなく、真夏の、真摯な姿に動かされていたのかもしれません。



悪夢 その75
ハジ 8/29(水) 23:18:41 No.20070829231841 削除

「奥さまのあの目です」

 羽生は上擦った声のまま、私にとっては到底承服できないことを口にしていました。

「あの瞳の奥にある狂気を―――誘うような淫靡な光があなたには本当にみえないのですか」

 このような言葉を投げかけられたとき、一方の夫はどんな反応を示すべきでしょうか。
 ふざけるなと妻のことを侮辱した相手に殴りかかる?それとも、ショックに打ちひしがれてみせるべきか。
 私のとった行動はなかでも、もっとも愚劣な部類に入るものでした。短い逡巡のあと、私はすがるような目つきを男に向けていました。おろおろした挙句、敵であるはずの人物に答えを委ねようとしてしまったのです。

 図に乗った羽生がさらに大胆な仮説を展開するはず―――だが、私の期待はあっさりと裏切られます。

「私の言葉だけでは信じられないでしょう。ご自分の目でしっかりと確かめることです」

 先ほどまでの熱弁はなんだったのか。それは冷たいまでのそっけなさでした。
 しかし、羽生の一歩引いたその言い方には説得力がありました。いつも口数の多い、口の減らない男ならば、それはなおさらのこと。

 私は仕方なく―――誰の手も借りずに自らの眼で妻の真実を見極めようとしました。画面の中の妻は―――。

 

 男の責めが一段落したのか、二人の男女はもつれ合ったまま、しばらく小休止の状態でした。
 妻の秋穂は上気した顔で、男の肩に顎を乗せています。その上で、少年の背が大きくあえいでいました。
 少年が肩で大きく息をしながら、ゆっくりと上半身を起こします。下になった妻が小さく身じろぎしました。

「どうだよ、奥さん。良かっただろ」

 シャックはふてぶてしい笑みを浮かべていました。
 両腕でからだを支えながら、なお秋穂を放そうとはしません。彼の持ち物は萎えることなく、彼女の女芯をとらえたままのはずです。
 秋穂は無言でした。曇ったガラス玉のような目をただ虚空に向かって、さまよわせています。
 その無反応なさまに少年は機嫌を損ねたようです。

「どうなんだよ」

 声にはドスが効いていました。

「―――良かったわ」

 仕方なくといった感じで、彼女は答えていました。少年の手が馴れ馴れしげに妻の顔を撫で、髪をかき上げます。

「どう良かったんだよ?」
「素敵だったわ」

 秋穂はいかにも用意していた台詞をそのまま口にしていました。無表情で無感動に。
 シャックはそれに気を良くした様子で、調子づきました。

「旦那より、良かったのかよ」
「ええ」
「もっと具体的に言ってくれよ。それは俺のナニが旦那より、でかいってこと?」
「―――そうね」

 それはさほど抵抗もなく、唇からすべりおりました。

「あなたのほうが大きくて、たくましいわ」
「オヒョッ。言ってくれるぜ」
 
 ギャラリーのひとりが口笛を鳴らします。おとなしくなったと思っていたシャックが、ユラユラと妻とつながったままのからだを揺らしはじめました。
秋穂が低くうめきました。

「まったく悪い母親だぜ。こんなところで息子の友達にヒイヒイ泣かされてよ」

 シャックは下敷きになった妻を見ろしたまま、再び腰を送りはじめました。秋穂はこれまでにないほど、苦悶に顔を歪めます。
 それは一種の果し合いのようでした。重い腰の一撃に妻は度々意識がとんでいるのかもしれません。
 少年の方もそれを気にする余裕もなく、切羽詰った形相を浮かべていました。

 行為に没頭するあまり、無口になったシャックに代わって、まわりの少年たちが妻を罵りはじめました。

「普段から、俺らみたいな若い男くわえこんでるんじゃねえの」
「そうだとすると、浩志も気の毒だよなあ」

 妻の表情がわずかに動いたような気がしました。しかし、すぐに暴力の波に飲み込まれてしまいます。
 ガシガシと骨をも砕く腰使いのまま、シャックが凄絶な笑みを浮かべました。

「浩志も喜ぶぜ。弟ができたら―――」

 秋穂が大きく目を見開きました。



妻の入院 86
医薬情報担当 8/29(水) 17:41:29 No.20070829174129 削除
 たくましい男達が、真夏の前と後ろに挿入していました。
 巧みにタイミングを合わせながら、前後の孔で同時に動かされると、また、望んでもいない絶頂に追い上げられたのです。
 女性上位の形で、大きく広げた尻に、男がさらに上から乗って、挿入していました。
 いくら、犠牲的精神を発揮したとはいえ、私が見ていることを真夏は知っています。
 男2人がかりで自由に弄ばれ、オンナの恥ずかしい姿をさらす瞬間を何度も何度も呼び起こされ、しかもそれを私に見られるという辱めに、それでも、懸命に耐えていました。
 おそらく、一刻も早く、この淫らな拷問が終わる瞬間を待っているはずでした。しかし、男達にとしては、自分たちのセックスに絡め取ってしまわなくては、この後、財布を出させることが難しくなります。
 そのためでしょう。真夏の身体に、たっぷりと未知の快楽を埋め込もうとしていました。そして、真夏の見事な身体には、男達の嬲りに引き出されるだけの官能がたっぷりと詰まっていたのです。
『真夏、なんとか…』
 何とかならないのか、もう何度目になるのかわからないほど、何とかしたいと思いました。しかし、この手足では、まっとうには…
 うつぶせの形で男に挟まれながら、前後の孔に怒張を突き立てられ、男達に自由に快感を掘り起こされる真夏は、短い間に立て続けに逝ってしまいました。
 しかも、登りつめたところから降りることが許されません。逝っている最中にも、次から次へと、刺激が送り込まれるのです。
 逝くことを拒否するように、懸命に頭を振っても、真夏のオーガズムは強烈に続きました。もはや、私が見ていることは頭の中にないかもしれません。逝く度に、強烈な快感を訴え、訴える度に、さらに強烈な快感に見舞われていました。
 大きな乳房を男達に弄ばれ、薄く小さい唇に、しゃぶり付くように舌を送り込まれながら、淫らな声を噴き上げ、思わず打ち振る腰が、さらに真夏の官能を押し上げていました。
 その淫らな姿に、さしもの男達も、男の生理が限界に来たようです。
「兄貴、おれ、そろそろ」
「仕方ねえなあ。まあいい、おまえの重みにもそろそろ飽きたからな。さっさと出せ。その後で俺もバックから出すとするか」
「へい、じゃあ、遠慮無く。おい、もっと、こっちを締めるんだ」
 真夏の上の男の動きが次第に速くなりました。まもなく、男は放出しようとしているのがわかります。
 もちろん、その間も、下から攻められ、乳房を揉まれ続ける真夏は、さらにいオーガズムに突き進んでしまいます。
 ん?
 私は、はたと思い当たりました。
『まてよ、この状態で、アイツが出すというてことは…』
「おら、おら、いくぞ、出すぞ」
 私が、決意しかねているうちにも、男の腰が激しくなります。
 望むと望まざると、前後の孔を同時に激しく責められて、逝くことを教え込まれた身体は、男が出す瞬間、やはり、またオーガズムを迎えてしまったのです。
 その瞬間しかありませんでした。
 若い雌の肉体は、たとえ望んでいないオーガズムであっても、絶頂の瞬間、強烈にその身体を締め付けます。本人の意のままにはならない分だけ、締め付けが強烈なものとなるのでしょう。
 その上、男は放出の瞬間、不随意筋を収縮させているのです。メスにその精を注ぎ込む、一番無防備になる瞬間に、とっさの反応ができるはずがありませんでした。
 隠れている段ボールから飛び出して、一気に後ろから襲いかかる。
 イメージは単純でした。
 しかし、体重が倍になってしまったかのように、身体がいっこうに動こうとしません。
 飛び出したはずの私は、どう見ても「うっかり幕間からよろけ出てしまった控えの役者」といった感じでした。
 それでも、唖然とする男達まで、思い切った歩幅の3歩でつっきると、真夏の上に乗る男の股間を思い切って蹴り上げました。
 ぐにゃりという、嫌な感触がつま先に伝わります。
 男なら誰でも、この瞬間を身につまされて感じないものはないでしょう。
「ぐげぇ」
 この世のものとも思えない声を出して、男が悶絶するのがわかります。
「てめぇ、女を使ってだましやがったな。卑怯だぞ」
 悲鳴を上げるのも忘れた真夏は、オーガズムの瞬間抱きついた男に巻き付けていた腕に信じられないほどの力が入っていました。その上、真夏の上には、悶絶した男の重みが加わっています。
 真夏の腕をもぎ取ろうと懸命にもがいても、あの、私が恐れたあの男は、とっさに動くことができませんでした。
 真夏の脚を膝で広げるために、男の脚は開ききっています。
 反撃ばかりを先に考えたのでしょう。開いた足を閉じるのが一瞬遅れます。
 正確にねらいをつけた私のつま先が、再び、あの嫌な感触を味わった瞬間、男の足がぐぐっと途中まで閉じられ、そして、力なく広がったのです。
 私のしたことが道義に適っているかどうかはわかりません。手加減抜きで、男の急所を蹴り上げれば、一説には、ショック死することすらあるそうです。
 しかし、大人しく、運命に弄ばれるがままでいられるほど聖人君子ではいられないのです。
 まして、最初は真夏の作戦だったとはいえ、二人がかりで、あの身体と心を弄んだ上に、後ろの処女まで奪った男達に、何の同情も湧きません。私のキックは、ためらいも、恐れも、そして同情も抜きにして、全力を挙げて蹴り上げていました。
 口から泡を吹くといいますが、本当に泡を吹くこともあるんだなと思わせる状態の男達は、呼吸だけはしていました。とりあえず、死んではいないようですが、ヒクヒクと全身が痙攣していました。
 全身の力を振り絞って、意識のない男を真夏の上からドサリとどかします。
「あっ、いたっ」
 真夏が、小さな悲鳴を上げました。
「ご、ごめん、気がつかなくて」
 落ちた瞬間、真夏の後ろに入っていた男が、一気に抜けたのです。
 男のものを受け入れて、多分、裂けてしまった後孔には、乱暴な動きになってしまったようでした。
「大丈夫?」
 だまって、肯いてから、真夏は顔をしかめて、身体をそろそろと持ち上げました。まだ入ったままの美肉から、男の長大なモノを抜き出しながらの動きでした。
 驚くべきことに、男のモノは、力を失ったとはいえ、大きいままだったのです。
ズルズルと、真夏のそこから抜け出てくる瞬間を、思わず見てしまいました。
 真夏のそこから抜け出た、男のモノが、糸を引きます。
 決意はともかくとして、若いメスが、意志とは無関係にたっぷりと快感を得てしまった無惨さを見る思いがして、目をそらしました。
 さっき着ていたシャツを拾って着せかけると、今度は男が脱ぎ捨てた服を探りました。
 携帯が先に見つかりました。
 私は一瞬、携帯を見つめていました。
 ここで110番すれば全て終わる。
 そのはずでした。
 折りたたまれた携帯を広げ、一つ一つ親指で1 1 0と押した時でした。
「お願い!」
『?』
 真夏が袖を通しかけたシャツもそのままに、すがりついてきた勢いで、真夏と重なるように倒れ込んでしまいます。
「ど、どうしたの?」
 真夏の目は真剣でした。
 さっきまで、メスの神経を全て差し出して、男の思うままに弄ばれていた姿とは、まったくの別人でした。
 その瞳に汚れはまったく感じられません。 
「お願い、こんなこと、言えるわけ、無いけど。言って良いなんて思わないけど。お願い。許して!」
「許す?」
「誠さんを、誠さんのしたこと。絶対許せないだろうと思うけど、だけど、お願い!許して、お願い、この通りです」
 重なって倒れ込んだ真夏は、私の上から飛び退くと、目の前で土下座をするのです。
 袖を通しかけたシャツが、床にふわりと広がっています。
 奇妙な光景でした。
 別荘の離れの物置に差し込む、平和な朝の光。
 見るからに、その筋だとわかる男達が、間抜けな顔をして床に転がって悶絶している。
 その脇にポカンと尻餅をついたまま、上体を後ろにつっかえ棒にした手で支える、間抜けな顔をした私。
 そして、男物のシャツにわずかに左手の袖を通しかけただけの全裸で、必死になって土下座して謝り続ける、豊かな肉体をした若い女性。
倒された悪役も、魅力的なヒロインもそろっています。電話一つで、騎兵隊ならぬ警察がやってきて、一気に大団円に向かうのです。
 たとえ、男の手が回っていたとしても、通報を受けた警察は、必ずここにやってくるはずです。それで、私たちは無事解放され、妻も、連れて帰ることができるはずでした。つまりは、それでオシマイ。
 まるで、映画のクライマックスのようなシーンでした。
 しかし、主役のはずの私には、なぜ真夏が私に謝るのか一向にわからなかったのです。





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千代に八千代に
信定 8/29(水) 15:36:12 No.20070829153612 削除
第七章

 のちによっちゃんに聞いた話では、軍隊が鉄砲を放ったのは威嚇射撃の空砲だったと聞き安堵した。
よっちゃんの叔父さんは暴動には参加していなく、止める方に回っていたと言う。
明日はかあちゃんの七回忌だ。
そんなときに何かあっては堪らない。
何より無事で良かった。

 その後庄次郎が十九歳の時祖父が亡くなり、その数ヶ月後、あとを追うが如く眠るように祖母も永眠した。
天涯孤独となった庄次郎は、二人を埋葬した母の眠る墓前で人知れず涙を流した。

 日清戦争で半島を独立させてやり、日露戦争でロシアに侵される寸前の国を救ってやった、ということが前提にあった。
翌年、ロシアに併合されるという危機感から、日韓併合条約が実施された。
朝鮮総督府が設置され、朝鮮半島が日本の統治下に置かれた。
併合とは、二つ以上の組織体を合わせて一つにすることだ。
しかしこの合併はそんな生やさしいものではなく、朝鮮半島は完全な日本の植民地となったのである。
大韓帝国の消滅であった。
この時点から朝鮮人軽視の本格的な差別化が始まったとも言える。

 日本の植民地支配により農民などが土地を奪われ、貧しさを極める朝鮮半島から多くの人が日本に渡ってきた。
併合前から日本には相当数の朝鮮人労働者がいたので、更に膨れあがった。
日本に渡ってきた人々はどちらかというと下級の部類の人が多かった。
豊かと噂される日本に憧れて渡ってきた人達だ。
炭坑や鉱山、鉄道、水力発電の工事などの土木工事に携わる人が多い。
もちろん女性もいて、主に炊き出しなど、男達を補佐する仕事に従事していた。
中には体を売って生計を立てている者もいた。

 日本には、昔から公娼制度が存在していた。
あなたは男に体を売って稼いでもいいですよ、と政府が許可する登録制度だ。
身体検査や性病検査などを受けて合格すれば、晴れて娼婦になれるのである。
どこの誰が登録制度に携わっていたのか、身体検査がどういう風に行われたのか、
また、合格の基準はいかようだったのかは非常に興味がある。
更に十七才以上という驚くべき年齢制限がある。
娼婦となった彼女らは政府公認であるから、昼間から堂々と買われた男と夜具の上で睦み合う。
とは言え、現在の援助交際とは違い、彼女らの殆どがやむを得ない事情があった。
従って、純情さを失っていない女が多かったと聞く。
遊ぶ金が欲しいためではなく、朝鮮人の女性とて食うため、生きるために体を売る。
現在の援助交際をするバカ娘らとは、考え方に根本的な違いがある。
売春をする朝鮮人の女性の多くは非公認であった。
見つかれば投獄される。
夫が炭坑で働き、その間妻が売春で稼ぐといった夫婦まで存在した。
のちに公娼廃止指令が出されるが、売春防止法の施行までの間に、公然と売春が行われていた地域、赤線地帯は有名だ。

 併合前の賃金は、日本人の労働者より低く抑えられていたが、更に賃金は低下していった。
もともと日本人労働者と朝鮮人労働者との仲は良好とはいえず、これで更に溝が深まってゆく。
そこに小競り合いなどが発生するのは当然とも言える。
この時期の日本に来た朝鮮人は、強制的に連れてこられた人たちではない。
自らの意志で渡ってきた人たちである。
強制的に連れてこられたのは、国内の労働力が大きく不足した太平洋戦争勃発の時期と言われている。
朝鮮人や中国人たちが奴隷のようにこき使われた時期だ。

 朝鮮半島を植民地にしたことにより、日本人は優位に立ったということだ。
我々は朝鮮人より偉い、と思うようになる。
朝鮮人とは縁もゆかりも無かった人たちも、朝鮮人の前では、自分が見下す立場にいるのだと考える。
これは末端まで広がってゆく。
幼い子供に至るまで。
そして現在尚も日本人の潜在意識の中にこれは残っている。

 その後庄次郎は徴兵令により軍隊に徴兵されることになった。
徴兵は、一家の主や後継ぎの者、また多額の金を納めれば免除されることになっていた。
白い飯が食えるということで、軍人になれることを喜ぶ者もいたが、殆どが働き手をとられて困る貧しい農民が多かった。
従って、徴兵に反対する農民らの小競り合いが各地で発生した。
天涯孤独の庄次郎にとって、軍隊に行くことは何ら問題はなかった。

 民間人の徴兵は数パーセントの確率らしいが、庄次郎は見事に当選したわけである。
支給された軍服を着た立派な姿を見て、見送りに来たよっちゃんはオイオイと泣いていた。
庄次郎に思いを寄せている、幼なじみの柴崎歌津子もハンケチで目頭を押えていた。
「今は戦争なんかしてねえから」
逆に庄次郎がなだめることになった。



卒業後 8
BJ 8/29(水) 04:05:44 No.20070829040544 削除

 中学最後の夏休みが終わり、新学期が始まった。

 有名高校に進学を希望する受験生は、目の色を変えて自分を追い込んでいかなければならない時期だ。
 学校の生徒にはまめにこつこつ勉強する遼一のようなタイプ、気は焦ってもどこから手をつけていいか分からず不安そうにしているタイプ、はなから俺には無理だと諦めているタイプと、多種多様なのが揃っているが、やはり教室全体の空気はいつもと違った緊張感に包まれている。
 そんな教室の中で毎日を受験のために過ごしながら、この雰囲気はあの家に似ているなと遼一は思った。
 あの家―――伯父伯母の暮らす家だ。
 家庭にも二種類あって、ある程度の年数が経つとすっかり落ち着いて、ちょっとやそっとじゃ変わらない空気が漂う家と、どれだけ年月が過ぎても絶えず何かが蠢いているような・・・・そう、言うなれば現在進行形の家があるようだ。
 あの家は―――後者だった。
 表面は静謐で、穏やかに見えても、底のほうでは常にざわざわと波立つ何かがあった。少なくとも遼一はそう感じていた。

 自分が今、やがて来る受験の日を不安の中で待っているように、伯父も伯母も何かを待っているのかもしれない。

 なんとなく、そう思った。


 9月に入ってしばらくした頃、伯父から電話がかかってきた。
 伯父は次の週にも東京へ発ち、4ヶ月間の単身赴任生活に入るのだという。
「伯母さんはこっちに残るんだよね?」
「まあ・・・短い期間のことだしね。仕方ないよ。伯母さんも一人じゃ淋しいだろうから、時々遊びに来てやってくれないか」
「うん・・・・」
 電話越しにうなずいたが、伯父が発ってから三ヶ月経っても、遼一が彼の家を訪ねることはなかった。伯父が不在の家に伯母を訪ねに行くことが、そのときの遼一には、とても不謹慎な行為に感じられたのだ。
 理由は分かっている。
 受験勉強で忙しかったから、というのはもちろん言い訳に過ぎない。
 夏の一ヶ月の同居生活で自分が感じたあの女性への想いが、生々しい欲望が、遼一の中で未だ薄れていなかったから―――
 そのことにずっと後ろめたさを感じているから―――
 遼一は伯母のひとり暮らすマンションを訊ねることが出来なかったのだ。


 いつの間にか、吹きぬける風がめっきり肌寒くなった。
 木々の葉も衣替えの時期を迎えている。
 マフラーに口元を埋めるようにして、その日、遼一は自転車を飛ばして家へ戻った。
 居間へ入ると、母がちょうど受話器を置いたところだった。
「お帰り。今日は早いのね」
「図書館に寄らなかったからね。電話、誰と?」
 何の気なしに聞いたのだが、母が「瑞希さんよ」と答えたときには、少し胸がざわついた。
「―――へえ、珍しいじゃない」
「瑞希さんも兄さんがいなくて淋しいだろうから、たまには話し相手になってあげなきゃと思ったんだけど、どうも最近あまり体調がよくないらしいわ。季節の変わり目だからかねえ。あんたも気をつけなきゃ駄目よ。今が一番大事な身体なんだから」
「分かってるよ」
 投げやりに返事しながら、遼一は具合のよくないという伯母のことを想った。
 そのとき、心配する気持ちばかりでなく、遼一の胸にわずかに弾むものがあったのは、その時点ですでに、ずっと探していた口実を見つけたと感じていたからかもしれない。
 誰よりも、自分を騙すための口実を。


 遼一はその週末、久々に伯母のマンションを訪れた。
 前に訪ねたときから、すでに三ヶ月の月日が経っている。
 あらかじめ、伯母に電話をいれることはしなかった。母には叔母の家に行くことを内緒にしていたから、家の電話を使いたくはなかった。今どきの子供にしては珍しく、遼一は携帯電話を持っていない。
 どっちみち、あのひとはいつも家にいるのだから―――
 そう決め込んでいた遼一の期待は、外れた。
 数回チャイムを鳴らしても、伯母は姿を現さなかった。

 しばし部屋のドアの前で佇んだ遼一の胸に、次第に不安な気持ちが育ってきた。
 この家には伯母しかいない。彼女が急病で倒れても、助けを呼ぶ者はいないのだ。
 一度そのイメージを頭に浮かべてしまうと、いてもたってもいられなくなった。幸い―――決して幸いなことでなかったのを遼一は後に思い知るのだが―――合鍵の在りかは分かっていた。
 一階の郵便受けの天井にテープで貼り付けてあるその合鍵を取りに、遼一は10分前にのぼった階段を大急ぎで駆け下りた。



妻の入院
医薬情報担当 8/28(火) 21:46:03 No.20070828214603 削除

 男は、真夏の口を、まるで我がもののように扱い、苦しそうな表情を気にかけるどころか、むしろ楽しんでいるように、深々と怒張を突き立てます。
「ほら、嬢ちゃん。ちゃんと、舐めとかないとな。今どき、初めて尻に入れるんなら、入ってる時間は、短い方が良いだろ?尻に入れて、すぐ出せるように、気合い入れて舐めんかい」
「あう、やめ、入れないで、あう、ぐふぅ」
 肘で身体を支えさせられた真夏は、その可愛らしい唇に、再び怒張をねじ込まれます。
「兄貴、こっち、なかなか、締まりが良いですぜ。穴の中も、なかなか、柔らかいし。そろそろ、どうです?」
「よし。じゃあ、そこへ転がせ」
「へい」
 手慣れたコンビネーションでした。男達は、同時にズブリと怒張を抜き出すと、一瞬の躊躇もなく真夏を仰向けにひっくり返しました。
 真夏の美肉に入っていた怒張は、濡れているというより、まるで、表面に膜を張ったように、白濁した真夏自身の秘液に包まれていました。豊かな官能を秘めた身体は、こんな時であっても、快感をくみ出すことをやめなかったのです。
 なぶり者にされながらも、そこから快感をとめどなく汲みだしてしまう真夏が哀れでした。
 いえ、哀れなどと言っている場合ではありません。まさしく、真夏は、私のためにこそ、これほど辛い快感に耐えているのです。私こそが、その辛さを共感しなければならないはずでした。
「ほれ、まず、こっちだ」
「あうう、あう、いやあ」
「大丈夫だ、まず、こっちでたっぷりと濡らしてと」
 ズブリと抜き出す瞬間、真夏の腰がわずかに追いかける動きをしていました。
「さ、嬢ちゃん。尻が裂けるのが嫌だったら、口で呼吸するんだ。ゆっくりと吸って、入る瞬間にゆっくりと吐け」
『え?あのまま?』
 男達が真夏の後孔を狙うというので、思わず、バックスタイルを思い浮かべていたのですが、正常位からさらに、脚を大きく広げ、腰を高く上げさせる形で入ろうとしていました。
「さ、ほら、吸って、そうだ、吐く」
「あ、あう、やめ、て」
 拒否しながらも、男の言葉どおり、息を吐き出していました。生理的な拒否感があったとしても、あの太いものが、本来入るべきではない場所に入ってくる恐怖が、そうさせていたのでしょう。
 吸っては吐く。それを繰り返しながら、その度に男の腰は徐々に進み、真夏の処女地に侵入していきました。 
「あぐぅ、痛い、あぁ、許して、あう、もう」
「大丈夫だ、全部入ったぜ嬢ちゃん。さてと、楽しませてもらうかな」
「あう、もう、やめて、気持ち悪くて、あう」
 真夏は、眉を眉間に寄せるようにしながら、顔を振ります。とてつもなく気味の悪いものを拒否している表情のはずですが、なぜか、その表情の中に、甘やかなものが見えた気がします。
『まなつ、大丈夫なのか?』
 心配する資格などないことは知っていても、真夏の顔に、わずかながら「快感」の兆しが見えた気がします。その兆しは、私の心に刺さるとげと同じでした。
 真夏も犯されるのは覚悟していたはずです。しかし、本来、排泄にしか使わない場所を男達にオモチャにされ、その上、快楽を感じてしまったとしたら。
 もし快感がわき起こってしまえば、その快感の分だけ、真夏の心に痛みが走るはずでした。
 しかし、その心配も、初めて犯される場所ゆえに、痛みが先走るのか、快感の兆しは上昇するようには見えません。兆しのままで終わるのかと、ホッと、安心しかけた、その時でした。
 横で見ていた男が真夏の身体に手を伸ばしたのです。
 乳首に吸い付き、片方の胸を巧みに弄ります。そのまま片手は空いているオンナの部分に伸ばされました。
 その瞬間から、まるで何かのスイッチが入ったようでした。今までに、聞いたこともないような、腹の底から搾り取られるような壮絶な声を上げ始めたのです。
「あ、あう、やめ、あん、あう、それ、だめえ、ヘンになっちゃうから、おおぅ、ぐうぅ、ぐあうう」
 女唇を弄られ、乳首を吸われながら、後孔に出入りするものにも、どうやら、感じ始めたのかもしれません。
「あう、ぐはぁ、あう、あぐう!あ!あ! あぐう、だめぇ!ヘンに、ヘンになるから」
「いいぞ、そのままだ、ほれ、こっちに出してやるからな。ほら、うけとれ、嬢ちゃん。おまえのアナル処女をいただきだ。ほれ!」
「え?あぐあうあう!あう!え?え?あう、だめぇ、身体が、おかしく、なって、あう!だめ、だめ、だめぇ!」
 男は、ややのけぞるようにして、真夏の身体に何かを打ちつけるように動きました。
『出してるのか…』
 男の打ちつけるような動きの中で、自分を抑える男の手にすがるように、体中に力が入り、そして、ぐったりと力が抜けていきました。
 真夏は、初めての場所を男に踏みにじられ、男の精を注ぎ込まれながら逝ってしまったのです。
「ふん、ちょっと、切れたか、まあ、初めてにしちゃ、なかなか見事な逝きっぷりだったぞ。今どき、見事な身体だ。これなら、うちのソープでも人気が出る」
 ズルッと真夏から抜き出した怒張は、ここからでは汚れては見えません。
「さ、今度は、おまえの子宮の中に出すからな。その前に、汚れたのはきれいにした方が良いんじゃないのか」
 オンナの頂点を極めさせられたばかりの真夏が自分を取り戻す前に、後孔に入れられていた怒張は、真夏の口につっこまれていました。
 しかし、もはや拒否する力が残されていないのか、わずかに抗議のくぐもった声をだしかなかったのです。
「よし、次は、おまえの番だ。サンドイッチといくか」
「さすが兄貴、抜か3はお手のモンっすもんね」
「まあな。おまえも、もう少し鍛えないと。今どきのスケは、贅沢だぞぉ」
 ガハハとでも形容したくなるような野太い笑い声の中で、真夏の白いからだは、か細く、そして頼りなげでした。



妻の入院 84
医薬情報担当 8/28(火) 11:19:30 No.20070828111930 削除
 秘唇を舐めていた男が立ちあがると、後ろから胸を揉まれ続けている真夏の目の前に、硬くなりかけた怒張を突きつけます。真夏は、反射的に顔を背けますが、男に頬を掴まれて引き戻され、閉じた唇に、再び突きつけれてしまえば、もはや、拒否することはできません。
 ゆっくりと口を開けるのを待ちきれないように、男が怒張をねじ込むように突き入れます。
 その瞬間でした。
 膝に絡んだ足が解かれたかと思うと、後ろから抱え込まれたまま、真夏の身体が宙に浮かびました。
「ぐふぅ〜」
 口をふさがれたまま、真夏の、くぐもってはいても壮絶な声が響きました。後ろから抱えた男の上に降ろされたのです。それは、とりもなおさず、抱えた男の怒張が、さんざんに舐められ、ほぐされた美肉の中にそのまま突き立てられたということでした。
 怒張に串刺しにされたように、真夏の身体が直立しました。
 真夏の顔がゆがみ、背中がピンとのけぞるようになったのは、突き入れられた怒張から、激しい快感が響いたからに違いありませんでした。 
「おぉ、なかなか、いいオ○○コじゃねえか。今どきの看護婦ってのは、なかなか。おい、そっちはどうだ?」
「う〜ん、あの、先生は、こっちはあんまり仕込んでねえみたいです。くわえてるばかりで。おら、もっと舌を絡ませねえか」
 怒張を真夏の小さな口に押し込んだ男は、次々と、舌の使い方、吸い付き方を指示しながら、容赦なく、喉の方にまで押し込んでいるようでした。
 一方で、真夏の秘唇に怒張を押し込だ男は、後ろから手を伸ばして、クリトリスと胸を熱心に触り続けていました。
 触っては、抱え上げてすとんと落として、怒張を深々とつきたて、クリトリスをいじりながら、真夏に腰を打ち振らせ、さらに追い込むのです。
 男達の行為は、私には想像もできないほど的確なものだったのかもしれません。「串刺し」にされた瞬間から、怒張をくわえたままの口から絶えず、悲鳴のような声が漏れていました。
 それも、演技ではあり得ない、切迫したものになりつつあります。
「うん?そろそろか?逝く時に囓られちゃたまらんからな」
 そう言うと、真夏の口から、涎にまみれた怒張を引っこ抜きました。
「あう、あう、あう、ああ、い、いい!」
「良い声で啼けよ。ほら、うら、うら、うら」
 軽々と真夏の身体を持ち上げては落とし持ち上げては落とす動作が加速して、真夏のアゴが上がります。
 怒張を真夏から引き抜いた男が、かがみ込んで、今度は乳房を形が変わるほどに強く揉みしだき、クリトリスに手が伸びました。
 粗暴なまでにダイナミックな2人がかりのセックスは、経験があまりない若い肉体に強烈に作用したのでしょう。真夏の口から切迫した、甲高い喘ぎ声が止まらなくなります。
 そして、その瞬間は、あっという間に訪れたのです。
 突然、真夏の顔が歪んだまま、何か怖いものを拒否するように顔を振りました。
 男達は、ニヤニヤと笑いながら、真夏の身体をオモチャのように扱っています。
『まなつ?』
 男の背中に預けていた背中が、ピーンと伸びました。 
「あう、い、いっちゃう、あうう、い、いくう!」
 逝くと叫んでいる間も、男達の手は一切手加減なしです。真夏の身体は強烈に動かされ、揉みしだかれていました。
 ハアハアと荒い呼吸の合間にも、ああと嬌声が混じります。
「うらうら、まだまだ、楽しませてくれんだろ?こんなもんじゃねえぞ」
「ああ、あう、ハアハア、もう、あう、少しだけ、あう、休ませ、あうう」
「まだまだ。始まったばかりだ。俺たちは出してねえんだからな」
「あう、そんな、あう、ハアハア」
「ようし、そろそろ交代だな。おい、少し柔らかくしてやれ」
「へい」
 言ったが早いか、真夏の身体をグイと持ち上げ、尻を高く掲げた形で、這わせます。
 さっきまで、真夏をしたから突き上げていた怒張は、白濁した真夏の秘液に、ビッショリと濡れそぼって、隆とした形を保っています。オンナに慣れた男の特技として、一度や二度、女を逝かせるまで、放たずにいることは、どうと言うことはないのかもしれません。
「さてと、おう、なかなかうめえや」
 高く掲げた尻を抱えられて、真夏の胸を触るばかりだった男は、今度は自分の番だとばかりに、後ろからズブリと突き立てます。
 膝立ちのまま、男はカクカクと速い腰遣いのまま、しきりに挿入部分に指を伸ばします。
「あぐぅ、う、なっ、何を、そこ、そこは、やめてぇ」
「ふん、親切でやってやってるんだよ。いきなりだと切れちまうだろうが」
「あう、だって、そんなところ、あぁ、だめえ!」
 男が指を伸ばしているのは、真夏の女唇ではありませんでした。おそらくは、誰にも触られたことのない後孔に、指を突き立てようとしているのでした。
『柔らかくって、それじゃ、まさか』
「おい、こっちは、使ったことはないのか」
「はい、ありません、あう、だから、もう、あう、そんなところ、したことないんです。やめ、あぁ、お願い、そんな、こわいから、あう」
 必死の思いで、真夏はしたことがないと訴えますが、男達にはそれは逆効果でした。
「へへ、悪いなあ、処女をいただきか。今どき、若いのはセックスを覚えると、すぐこっちまで使っちまうからな。久々だ。嬢ちゃん、こっちを覚えると、やめられなくなるぜぇ」
 まったく、悪いと思っていない表情で、真夏の胸を揉みしだきながら、げへへと笑う姿には、同じ男としても吐き気を及ぼすほど気色の悪いものがありました。



千代に八千代に
信定 8/28(火) 11:04:51 No.20070828110451 削除
第六章

 鉱毒防止費用などが大きな負担となり、そのせいで鉱山労働者の賃金は低く抑えられた。
当時の監督らが働きの悪い者を足で蹴り上げ、更には鞭で打ったりして労働環境は過酷で劣悪を極めていた。
当然ながら労働者の不満は高まってゆく。
賃上げと労働環境の改善を求め、労働者が遂に立ち上がったのである。
労働者は徒党を組み、ダイナマイトを使用して各見張所などを襲った。
とは言え、破壊したのは仮小屋や馬小屋の窓ガラスなどで、ダイナマイトを使用したが人の殺傷が目的ではなく、
無人の場所で、しかも火災にならぬよう細心の注意を払ってのことだ。
削岩機などの機械への破壊や、鉱山の操業を妨げたり、鉱業所への物的損害を与えようとする意図はなかった。
現場員などが殴られはしたが、その時はまだ怪我人は出ていなかった。

 遠巻きに見物していた野次馬が加わり倉庫を襲い、米、味噌、酒などを漁り、暴動の性質が変化していった。
そうして暴徒の人数が一気に膨れあがった。
日頃威張っている現場員らが、悲鳴を上げ命からがら逃げまどうのを大声でからかい、酒をあおり快哉を叫んだ。
倉庫や選鉱所、製煉所など数十箇所を破壊して焼失させる。
そのあおりで民家も被害を受けた。
ダイナマイトを抱えている暴徒に対し、恐れをなした警察は全くの無力だった。
とうとう軍隊の出動により暴動は鎮圧された。
実際は暴徒らが酒に酔い、暴れるだけ暴れて疲れ切ったということだった。
だが被害は甚大で現場員の所属長らが重傷を負った。
このような暴動や小競り合いが各地で発生した。

 櫻井庄次郎は十七才になり、逞しい若者に成長していた。
かてて加えて美貌の母親の血筋通り、なかなかの美男子だ。
暴動が起こったとき庄次郎は稲刈りに精を出していた。
高齢となった祖父母は力仕事や長時間の労働は無理だ。
庄次郎が殆ど一人で行っている。
暴動のことは気掛かりだが、今はどうすることもできない。
怪我人など出なければよいが、と願うだけであった。

 背後から庄次郎を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると川岸から同い年のよっちゃんがこちらに向かって走って来るのが見えた。
庄次郎は手を振った。
「何だよ、ノッポのよっちゃん、息を切らしてよ」
庄次郎は笑いを含んだ声を上げた。
子供の頃のよっちゃんは色白で豆粒のように小さかった。
男子だけでなく女子にもからかわれていたが、そんなよっちゃんと庄次郎は妙に気が合った。
あんなにチビだったが、手足もグンと伸び、今では庄次郎より頭ひとつ抜け出ているのだ。

「山で騒ぎが起こったみてーで、俺行ってくっけど、おめーも行がねーか?」
キンと張り詰めた冷たい空気の中、よっちゃんの吐く息は白い。
庄次郎の顔が引き締まった。
「そうみてーだな。安い金で仕事はきついらしい。とうとう、怒ったみてーだな」
「隣村に住んでる俺の叔父さんがよ、ほれ、庄次郎のかーちゃんに惚れてた人だけんど、墓の前でずっと泣いてた人」
「ああ、知ってる。あんとき、食いもんをいっぱいくれてありがたかった」
「何じゃ知らんが、暴動に加わったみてーで、あん人のかーちゃんが俺んち来て泣いてんだ。可哀想でよ」
「そうか・・・・・・けど俺、これやっちまわねーと」
「んだな、おめーのじっちゃんとばっちゃん年だしな、んじゃしゃーあんめー。俺ちっとんべ行ってくっから」
「ああ、ごめんな、よっちゃん」
「世話ねぇ、またあとで来っから」
「気いつけてな」
おう、と声を上げ右手を振り上げ、よっちゃんは走り出した。

 おおかた午前中の農作業が終わり、祖母がこしらえてくれたにぎりめしを頬張っているとき、地響きが聞こえた。
遙か向こうに大勢の人間がひしめいていた。
それは数百人の軍隊だった。
全員が鉄砲を持っている。
その後ろから、更に多くの警官隊が続いてる。
庄次郎の背筋がゾクリとした。
憲兵らの暴行を受け、ボロ雑巾のように地面に転がった母親の姿が悪夢のように蘇った。
だが今は何よりよっちゃんの事が心配だった。

 庄次郎は脱兎の如く走りそれに近づいた。
息を切らした庄次郎は憎悪の目で軍隊の行進を見つめていた。
あの男の姿を見つけることはできなかった。
その時、数発の鉄砲の音が山に木霊した。



妻の入院 83
医薬情報担当 8/27(月) 17:41:39 No.20070827174139 削除
『真夏が。このままじゃ』
 今、目の前で男達に肌をさらしているのは、私の恋人でも、妻でもない女です。かといって、一度ならず身体を重ねた相手でもあります。しかも、私を助けるために無理をしているということを知っている以上、それをそのままにしておいていいはずがありません。
 だから、見守るしかないという現実は、喉の奥から何かえぐい液体が湧いてきて、それを飲み下しているような、苦しみと言うよりも「痛み」が心に突き刺さります。
 かといって、飛び出していっても、あの男達からすれば、今の私をひねりつぶすのは、それこそ赤子の手をひねるよりもたやすいことでしょう。
 それなら、目の前で、あの豊かな胸を揉まれ、秘唇に指を使われながら、偽りの嬌声を上げる真夏の悲壮な姿を黙ってみているしかないのでしょうか。
 どうしようもできないことをどうにかしようとしても、自分には何の力もない惨めさを確認するしかないのです。
 私の葛藤をよそに、男達の愛撫は、2人がかりで着々と進められます。そう、着々と進められているのです。
 ついさっきまで、派手な嬌声を上げている割には、真夏の言葉は、表面的だと感じられていました。身体を重ねたことのある私には、それが演技であることがはっきりとわかったのです。ところが、真夏の嬌声が演技であることは、さすがに、その道に長けた男達もわかっていたのでしょう。
 すぐに犯すことよりも、オンナの本性を暴こうとするかのように、丹念に快楽のポイントを絞り上げていました。
 真夏の演技を知らん顔したまま、2人がかりで、女性のもっとも恥ずかしい場所を執拗に舐め続け、胸を触り、耳をしゃぶっては、首筋に舌を這わせています。その両手には、怒張を握らせ、扱かせることで、これからセックスに向かうことを十分に意識させています。
 真夏の可愛い唇を、まるで舌で犯すように、唇を、そして、口の中隅々までも、男達は交互にむさぼるのです。
 2人がかりの行為は、演技をする真夏に着々と『真実』を与えていたのです。
 いえ、感じる演技をしているがゆえに、一度、本当に感じ始めてしまうと、こらえようがないのかもしれません。
 感じたくもない相手から、快感を与えられ、望まない快感の中で感じた演技をしなくてはならない。真夏の無惨に胸が痛みます。
 かといって、今の私がここで出て行けば、全てが無駄になってしまうのです。妻の時のように動けないのではありません。動けるのに動けない自分に、腹を立てるよりも情けなさで奥歯を食いしばるしかありませんでした。
 真夏の嬌声が、だんだんと静かになってきました。
 ぴちゃぴちゃと猫がミルクを飲む音を立てながら舐めている男と、後ろから抱え込みながら、足を閉じられないように足を絡め、胸を揉み、乳首を転がしている男とのコンビネーションに、だんだんと、演技の声が出なくなってきたのです。
 最初の声よりも数段小さな声ですが、うめくような声には、苦悩の中で極彩色の快感を感じている真夏の真実が込められていました。
「だいぶ、濡れてきたな。今どき、最初は感じた振りしてたんだろうが、だいぶ、本気になってきたな」
「ふん、いい顔になってきたな。発情したメス猫の表情だぜ」
「そろそろか」
『真夏…』
 おそらく、身体を開くのは覚悟していたはずです。しかし、真夏は、男達から快感を掘り起こされるとは思っていなかったのかもしれません。だから、こればかりは下手な演技で、嬌声を上げて見せていたはずです。
 ところが、だんだんと、真夏から、なまめかしい快楽の声は聞こえなくなってきたのです。
 それは、決して快楽の演技をあきらめたのではなく、する余裕がなくなったのに違いないのです。派手な嬌声の代わりに、ため息のような声が連続して漏れ始め、腰がヒクヒクと動いてしまいます。その姿は、偽りのオンナの姿ではなく、オンナとしての本当の快楽が生まれている姿だったのです。望みもしない快楽を、身体の底から引きずり出される真夏は、いったい、今、何を思っているのでしょうか。
 真夏の心が真っ直ぐであるほど、その快楽は残酷なものになるのです。
 私の心に懼れのようなものが湧いていました。
 その道に長けた男達に、それも2人がかりで快楽を掘り起こされれば、真夏自身が思っても見なかった快感を与えられ、虜にならないと誰が断言できましょうか。
 ごく普通の女の子、というより、むしろ、今時、こんなに純粋な瞳を持った女の子が、私のためにそんな目に遭うのは耐えられません。とりわけ、あの男に、妻が目の前で快楽を掘り起こされた瞬間を思い出すと、よけいに、その思いが胸の中で激しく反響するのです。
 かといって、今、のこのこと出て行けば、せっかく真夏があれほどの演技で、そして、身体を張って私を助けようとしてくれているのを、全く無にしてしまうことになります。
『俺は、いったい、どうしたら、くそ、俺は、妻を助けるどころか、あんな女の子に助けてもらうしかないのか。あんなメに遭うのを我慢させて』
 自分の無力さが、これほど呪わしく思えたことはありませんでした。



妻の入院 82
医薬情報担当 8/26(日) 17:49:16 No.20070826174916 削除
 ひょっとして、2人が同時に自分の身体にかかりっきりになれば、その間に私が逃げられるかもしれないと、期待したのかもしれません。
 真夏は、この男達2人を同時に相手するつもりのようでした。
 隠しようのないその見事な身体を、チラリ、チラリとひけらかしながら、男達の欲望を誘い出そうとしています。
「しかし、嬢ちゃんは何でこんなところに閉じこめられたんだ?今どき、愛人のケンカでもねぇだろ?」
「あのね、若先生に新しい愛人ができたのは知ってるでしょ?そう、中にいる、あの女よ。で、ね、私には用がないって、捨てられたの」
 脱ぎ終わった男達は、無遠慮に真夏の裸を見下ろします。2人とも、やや下腹が出ていましたが、肩と腕に盛り上がった筋肉がついていました。仮に私がまともな状態であったとしても、素手でこの男達に勝てるとは思えないような体つきです。
 この種の男達の特技には、セックスがあると言います。プロのオンナをそれで虜にして自分に貢がせる。そんな噂を聞いたことがありますが、チラリと見えた、真夏に向けて得意げに突き出される怒張は、なるほどと思わせるものがありました。
 凶器のようなそれは、既に、半ば頭をもたげています。
 それにしても、真夏は頭が良い。
 男達は、真夏の話を信じ始めていました。
 もちろん、それには、少し話す度に姿勢を少しずつ変え、その度にちらちらと見える豊かな裸体に気を取られている、と言うこともあるのでしょう。こんな見事な裸を前にしては、いくら、その道に慣れている男達でも、そうそう、全くの冷静でいられるはずもないのです。
「悔しいから、ね、若先生のお財布盗んじゃったのよ。カードもいっぱいあるし、で、それを返せっていうから」
「言うから?」
「隠してあるの、まだ。だって、あんなにカードがあるんだもの。知ってる?若先生、限度額無しのカードを何枚も持ってるのよ」
 真夏は、いかにも無邪気という顔で、こともなげに言いながら、おそらくは嘘八百の言葉を並べ立てます。男達に微妙な空気が生まれ、真夏にはわからないように微妙な目配せをしました。
 真夏は男達にエサを投げ与えることに成功したのです。男達の口調に先ほどまでとは違う、微妙な熱が生まれました。 
「しかし、今頃は、そのカードは使えないだろ」
「あら、そうかしら。だって、私が持っているのを知っていて、その私がここにいるんだもの。面倒くさい手続きをするより、私に白状させようとするんじゃないかなあ、第一、だから、私を閉じこめてるのよ」
「じゃあ、お嬢ちゃん、その財布はまだ」
「そうよ、私しか知らない場所に預けてある。だって、もともとは、若先生が冷たくしたからいけないんですもの。もうちょっと、いろいろ買ったら、返してあげようと思ったんだけどな。ふふ、でも、もう、ネットでいろいろ買っちゃったし、指輪だって2つ買っちゃったけど」
「買ったものはどこにあるんだ?」
「あら、ネットで買ったものは、そろそろうちに届く頃よ。指輪は、掴まった時に、まっさきに取り上げられちゃったけど。でも、あんなに大きい石のは、買ってもらったこと無かったから、買うだけでも気持ち良かったぁ」
 近づいた男達は、ニヤニヤと話を聞きながら、胸を押さえる真夏の腕を外そうと手を伸ばします。
 一瞬だけ、真夏の顔がゆがみますが、素直に、男達の手に従って胸をさらけ出し、触られるに任せました。その大きく柔らかい乳房は、男達の無骨ながら巧みな動く手の中にとらえられます。
「姉ちゃんのオッパイ、でかいなあ。何カップあるんだ?」
「え?あ、え、そ、そうね、あん、い、Eくらいかしら」
「そりゃすごい。看護婦なんてやってないで、今どき、うちの組のAVでも、ソープでも来れば、その何十倍も稼げるぞ。ところで、その指輪、大きいって、いったい、いくらの買ったんだ?」
「そうね、たいしたことないな。あう、そこぉ、あん、一千万くらいのを二つだから」
 男達の微妙な目配せがまたも交錯するのが見えました。
「さ、そんなことはどうでもいいわ。さっさと楽しみましょ。あら、二人ともなかなか立派じゃないの」
 演技なのか、それとも、女というのは、天性の娼婦性というのを持っているのでしょうか。私が知っている真夏という女は、そのすばらしく男をたぶらかす肉体とは違い、セックスにはまだ慣れていない、少女のような純真さがあったはずです。
 ところが、女には自信を持っているはずの男二人の裸を前に、平然と男達を見比べ、豊満な胸を平気で揉みしだかれながら、さらに誘うような上目遣いの視線を送るのです。
「お嬢ちゃん、じゃあ、その財布。まだ、どこかにあるんだよな」
「もちろんよ。若先生が謝ってくれたら、元に戻すつもりだったんだもん」
 無邪気な顔を装いながら、十分に計算され尽くした物言いでした。
 これなら、逃げられた、とヘマをしでかしたことにして、財布を回収すれば、十分においしいだろうと思わせるのに十分でした。
 欲望に目がくらんだ人間は、自分に都合の良い計算をしがちです。
 小娘を、それも、こんなに頭と尻の軽い小娘なら、セックスを武器にして財布の隠し場所を聞き出すことなど簡単だと思うに決まっていました。
 真夏は、男達が欲望に目がくらんで初めて、スキができることを知っていたのです。
 しかし、そのためには、娼婦どころか、まだほとんど男性経験のないその肉体を、粗暴でセックスを得意技にしているような男達の前に、投げ出すことになる。
 あの、段ボールを閉じる刹那の悲しげな眼は、それを十分に覚悟してのことだったのかと、まだ満足に動かぬ手を静かにさすりながら、私は茫然とするしかありませんでした。





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千代に八千代に
信定 8/26(日) 15:01:55 No.20070826150155 削除
第五章

 暴乱が収まり制服隊が去り、負傷者はようやく手当を受けることができた。
参加しなかった村人や負傷しなかった者、その他有志は医者を呼び応急手当を施し、
炊き出しを行い、にぎり飯を差し入れるなど、負傷者や被害民の救済につとめた。
ミリも数人の男達に抱きかかえられ、運ばれていった。
その横で庄次郎は泣きじゃくっていた。

 手の施しようがない状態であることは、誰が見ても明らかだった。
医師らの懸命な処置の甲斐もなく、庄次郎の見守る中、ミリは息を引き取った。
老夫婦はミリは巻き添えをくったと必死で訴えたが、
警察は農民側からの暴動ということで、聞く耳を持たなかった。
更にその後の捜査で、直訴に参加した多くの農民が逮捕されたのである。
母の亡き骸の傍らに佇む、幼い庄次郎の哀しげな姿は村人の涙を誘った。

「庄次郎のかあちゃん、きれいだべなぁ」
「いやー、そーでもねー」
友達にそう言われるたび、少し怒ったように反発するが、本当はすごく嬉しかった。
「いーなぁー、庄次郎は。あんなに優しいかあちゃんでよ」
「頭ポカリって叩かれたこと何度もある」
「えーっ!庄次郎のかあちゃんは、んなことばぁしねーべ。ありえねー」
「あるよ、ほれ」
そう言ってイガグリ頭のてっぺんを見せる。
「んー?どこだぃね」
「ここだよ、ここ」
庄次郎が指差したところを皆で覗き込む。
「あーね、これかぁ。蚊だべぇこれ」
皆に笑われた庄次郎は頬を膨らます。
「けっこういてーから」
「でも、きれいだからいーべな。とーちゃんも言ってたべ、うちのかーちゃんと大違いだなって。
あとでかーちゃんに、うーと殴られてたけんど」
笑い声が上がる。
「俺のかあちゃんなんか、団子のようだいねー。でも怒るとデイダラボッチみてーにこえー」
そう言ってよっちゃんは同じようにイガグリ頭を見せた。
「なんだぁこりゃ!」
卵のようなコブを見て皆は仰天する。
「ちっと背が高くなったべえ」
そう言って頭を撫でるよっちゃんに、皆でケラケラ笑った時のことを思い出した。

 自慢の母はもうこの世にはいない。
だが悲嘆にくれている暇など庄次郎にはなかった。
鉱害で作物は僅かしか取れない。
その日の食い物にも困るくらいであった。
働き者の母がいなくなり、高齢の祖父母を助けるため庄次郎は必死だった。
母に変わり、庄次郎は農作業に精を出した。
「やりづけねぇごと、やんなぐていーりぃ。ばっちゃがやっから」
気丈にも、小さな体で懸命に働く庄次郎に、祖母は優しく声をかける。

 そんな中、庄次郎の家に沢山の食い物を抱えた男達が訪れた。
皆、ミリに恋いこがれていた男達だった。
暴動に参加していてミリの悲劇を止められなかったと、数時間も墓の前で跪き、泣きながら謝罪する者もいた。
母のために大の男が声を上げて泣く姿に庄次郎は感動した。
多くの男達にこんなに深く愛されていたことを初めて知り、美しかった母のことを誇りに思った。
同時に、真っ赤な顔をして鬼のような形相で叫び、母を嬲り殺すよう指示していた背の高い男に対し、
激しい怒りが込み上げてきた。
その夜、庄次郎は布団の中で声を上げずに泣いていた。
カンカン帽の男のことを庄次郎から聞いた祖父母は、警察に幾度も足を運んだが、
子供の言うことなどアテにならないと鼻であしらわれ、取り合ってさえもらえなかった。

 その後も暴動や小競り合いが続き、対策を施しては和解したりした。
暴動事件後も銅山は何十年も稼働し、銅を産み利益をもたらし、科学汚染を垂れ流し続けた。
戦時中の体制強化で、国内の労働力不足の補充として、朝鮮人や中国人が強制連行され、
過酷な就労を強いられたことは周知の事実だ。
多数の犠牲の元、数百年も続く鉱山は日本に富をもたらした。
鉱害については、どの時代においても科学分析がなされていないため、殆ど明らかになっていないのが現実だ。

 後に鉱毒調査委員会などが設置され、鉱毒地の視察を計画した。
一般人らの鉱毒被災地の視察が行われ、国民の関心が鉱害に集中した。
政府及び企業は、河川工事または遊水地などを設け、様々な対策を打ち出してはいた。
その結果、鉱毒被害は減少するが、新たな鉱毒の流出を防ぐまでには至らなかった。
これらの対策が不十分であると政府が認めたのは、気の遠くなるほど先となる。



卒業後 7
BJ 8/25(土) 21:18:54 No.20070825211854 削除

 一ヶ月の入院生活を終えて、母が今日、退院した。父も休みを取って、単身赴任中の仙台から取って返し、病院まで母を迎えに行って一緒に自宅へ戻ったという。
 そして明日、遼一は伯父夫妻宅に別れを告げるのだ。

 その晩は母の快気祝いと、遼一のお別れ会を兼ねたパーティーが伯父の発案で行われた。といっても、マンションの部屋でのこじんまりとしたパーティーだが、その気持ちだけでも遼一には嬉しかった。
 テーブルには様々な料理が並んだ。冷やした鶏肉に柚子の香のするソースをかけたものや、たれのかかった鮪の薄い切り身を盛り付けたサラダなど、比較的淡白なこの家の食卓ではあまりお目にかからない料理。そのいずれも、やはり伯母の手製である。
「これは豪勢だね。酒がすすみそうだ。遼一も今夜は少し飲むか」
 卓上の料理を見て歓声をあげながら、伯父はどかりとテーブルの椅子に腰を下ろした。
「遼一は酒はいけるほうか?」
「ほんの少しなら」
「駄目ですよ。明日ご両親と会うのに、お酒臭い息なんかしていたら、私が京子さんたちに叱られてしまうわ」
 伯母が早々と釘を刺し、「分かってるよ。言ってみただけだ」と伯父はバツの悪い顔をして答えた。
「この一ヶ月、本当にお世話になりました」
 タイミングを見て、遼一は二人に深々と頭を下げ、礼を言った。
「なんだい、あらたまって。いつもの遼一らしくないじゃないか」
「あなた。あなたはそんなふうに仰るけど、遼一君は今どき珍しいくらい、しっかりした、礼儀正しい子ですよ」
 伯母は言って、遼一を見つめた。
「こちらこそ、一ヶ月の間、遼一君と一緒に暮らせて本当に楽しかったわ。ありがとう」
「これからも、ちょくちょく遊びに来るといい。どうせ家も近いんだ」
 伯父もくっと杯を干しながら、言った。
「うん。ありがとう。伯父さんも伯母さんもまた今度、僕の家に遊びに来てよ。母さんも僕もいつでも歓迎するよ」
 言いながら遼一は、そんな機会はこれからも滅多にないだろうな、と思った。

 ささやかな別れの会が終わって、伯父はそれほど飲んでもいないのに早々と寝室に行ってしまった。名残惜しい気がしたが、遼一も今夜はもう寝ようと、洗面所へ行った。
 歯を磨いている途中、戸が開いて、伯母が姿を現した。
「ごめんなさい。タオルだけ新しいのと変えさせてね」
 伯父に勧められるままに少しだけ酒を口にした伯母の目元は仄赤く、瞳の色も潤んだようで、そこはかとなく色っぽい雰囲気がした。
 遼一は目を逸らし、歯ブラシを咥えたまま「どうぞ」と言って、身体をずらした。
「明日から遼一君がいないと思うと、この家も淋しくなるわ」
 ゆっくりとタオルを変えながら、伯母は言う。
「いいじゃない。ようやくお邪魔虫がいなくなって、伯父さんと二人きりで楽しく過ごせるよ」
 わざと明るい口調で、遼一は言った。言いながら、胸がしめつけられるように痛むのを感じた。
「もう・・・・」
 朱に染まった目元をきゅっと引き絞って、伯母は冗談ぽく遼一を睨んだ。こんな何気ない仕草のひとつひとつが悩ましく見えてしょうがない。
 伯母が出て行った後、遼一はしばし放心したように洗面台に手をついて、鏡の中の自分自身を見つめていた。
 旅先から戻ってきたあの日、ふとぐらついた伯母の身体を抱きとめた。この腕はまだその感触を覚えている。骨がないかのように柔らかだった、薄布越しの肌の感触を覚えている。とても、忘れられそうにない。明日、この家を出て行った後も、ずっとずっと。
 まだ女性を知らない遼一だった。あの日抱きとめた伯母の身体は、異性を意識して触れた初めての女性の身体だった。
 服の襟から覗いた、眩しいほど白い胸。優美なまるみを帯びた、滑らかな乳房の張り。白い丘に染みのように残っていた赤い痣の形まで、はっきりと瞳に灼きついている。
 あの瞬間、遼一は狂おしいほど昂っていた。手を伸ばして、すぐそこにある禁断の果実を掴み取りたい、薄皮で隠された果実の中身までもすべて見てみたいという衝動を抑えるので精一杯だった。
 伯母は自分のこんな気持ちを知らない。そして、ずっと知らないままでいるのだろう。それでいいのだ、と遼一は思う。なぜなら、伯母は伯父のものなのだから。これまでも、これからも。
 遼一はため息をついた。最後の晩だというのにこんなことばかり考えている自分が、どうしようもなく卑猥に思えて、自己嫌悪がした。
 蛇口をひねって水を出し、顔を洗う。それでも気持ちまではさっぱりしない。もう一度ため息をついて、遼一は洗面所を出た。

 あっさりと次の日はやってきて、遼一は伯父の車に送られて自宅へ戻った。父に挨拶をした後で、伯父は遼一に「またね」と軽く手を振って、車で去っていった。
 この家に家族三人が揃うのも本当に久しぶりのことだったのだが、その日の遼一にはあまり意味のないことだった。会話を早々に切り上げて、遼一は自室にひきこもった。
 懐かしい自分の部屋、懐かしい匂いのするベッドに寝転がった。
 伯父夫妻宅での約一ヶ月の生活が、今終わった。
 もうすぐ夏休みも終わる。

 結局、勉強はあまりはかどらなかったな―――

 他人事のように考えながら、遼一は日差しの差し込む窓の外を見た。
 夏の終わり―――それは遼一にとって、少年期の終わりを意味していたのかもしれない。

 その夏、遼一は初めて恋をした。同時に、恋をした女性に対する焼けつくような欲望を覚えたのだ。

 けれど、遼一は知らなかった。少年期を卒業し、青年への戸口にたったばかりの自分が、あの日骨の溶けるような想いで目にした禁断の果実に、思いもよらない形で再び触れてしまうことになるのを。
 遼一は、知らなかった。



妻の入院 81
医薬情報担当 8/25(土) 18:08:40 No.20070825180840 削除
 真夏は、たっぷりと、しかし、さりげなく、その脚の間のオンナの部分を見せつけてから、そっと、シャツをかき寄せ、両膝を左に倒しました。
 お腹のところで、左右をかき寄せたシャツの前は、胸を完全には隠しません。むしろ、柔らかそうな胸の裾野を十分に見せる姿は、グラビア・アイドルのポーズのように、隠すより、強調していたといえます。そのうえ、クシャクシャになった下側は、秘毛をわずかに見せているのです。
 若く、顔立ちも整い、そして、なによりも十分に柔らかそうで、豊かな身体をかいま見て、男達の雰囲気は微妙ではあっても明らかに変化しました。
「ね、おじさん達、見逃してくれたら、ただとは、言わないわ」
「ほぉ〜、おじさん達に、何をくれるというのかな、今どき」
『あの男の声だ』
 あの隙のない、特殊警棒を構えた姿が、頭に浮かびます。
「そうねぇ、どう?逃がしてくれたら、エッチしてもいいんだけどナ」
男の前で、座ったままゆっくりとボタンを外しながら、上目遣いで男達に視線を向けます。男達が思わず漏らしたため息のような声をBGMに、シャツからゆっくりと袖を抜く瞬間、片手で隠しながらとは言っても、あの豊かな胸とピンク色の乳首がチラリとこぼれます。
 い窓から差し込む柔らかな光の中で、隠しきれるはずもない胸を、そっと両手で隠しながら、微妙に脚を組み替える真夏の姿は、神々しいまでの美しさを持っていました。
「しかし、なあ、俺たちも雇われている身だからなあ」
「あら、私さえ黙っていれば、わからないでしょ。それとも、私の身体じゃダメかしら?」
「しかし、なあ、逃がすわけには」
「じゃ、こうしましょ。カギよ、カギ。カギがかかってなかったって、あとから若先生に電話してあげる。その代わり、おじさん達も、私とエッチしたのは内緒よ」
「ほぉ〜 内緒なのか?」
「だって、まずいものね、愛人が、他の男とエッチしたってばれたらさ。もっとも、古い愛人には用はないのかなあ。どう?おじさん達、私とする?」
「へっへっへ。そうかあ、うん、なかなか、話のわかるお嬢さんで良かったぜ。今どき。じゃあ、遠慮無く楽しませてもらおうか」
 おそらく、楽しむだけ楽しんだら、約束なんてどうでも良いと思っているのでしょう。おそらくは、人質に手を出すなと言われていなければ、あるいは、言われていたとしても、これだけの身体を見せられれば、こういう男達が、役得を楽しまないわけがありません。
「それなら、車の中でなんて、どうかしら?」
「ふん、まずは、先払いだな。たっぷりと俺たちを楽しませたら、ここから出してやる」
「だって、こんなほこりっぽい所なんて」
「車の中なんて、狭っ苦しくてな。ここで十分だろ」
「あら、埃に私弱いのよ。くしゃみしてたら、台無しでしょ?」
「そんときゃ、そんときだ。大丈夫。今どき、埃なんてモノを気にする前に、俺のチ○ポで、よがり狂わせてやるから、心配すんな」
 それ以上は、さすがに、言えません。となると、もし、男達が言ったことを守る気があるにしても、真夏はさんざんに男の慰み者になった後にしかスキが生まれないと言うことになります。
「どちらからかしら?」
 演技だとしたら、それは、既に、アクターの神が真夏に乗り移っているとしか思えません。男達を誘い出すことに失敗したことをおくびにも出さずに、真夏は、演技を続けました。
 今、男達の前にいるのは、あの、純粋な瞳を持った女の子ではなく、幾ばくかの金で身体を男達に任せることを何とも思わない、生まれついての娼婦でした。
「俺だろうな」
「ちぇ、いっつも、兄貴からか、まあ、しょうがねえか、じゃあ、俺は外で待ってますよ。じゃ、ごゆっくりって。兄貴、あんまりハードに行って、俺の時には気を失ってるってなことになんないように頼んますよ」
「まかせとけ。まあ、このオンナのスケベさ次第だがな」
「え?あ、あの…」
 真夏が慌てた表情をして、私の視界から消えた男の方に呼びかけました。
「うん?」
「もし良かったら、あの、一緒に。私、まだ3Pって経験がないから。こんな時じゃないと、できないでしょ?第一、若先生が来ちゃったらお終いよ。時間もあんまりないんだし」
 確かに、今が朝だとしたら、目が覚めた男は、きっと、まず妻を陵辱しようとするでしょう。男の生理から言っても、そして、自分の力を妻に教え込むためにも、朝一番に妻をさんざんに弄ぶのは、おそらく確実だろう思えます。
 しかし、真夏が直面している、男達とのセックスも、一人ずつじっくりと楽しまれては、間に合わなくなる可能性があるのです。
 そのためには「一度に終わらせる」ことだと考えても、不思議はありません。
 しかし、それは同時に、複数の男に、同時に自分の身体を自由にさせるということでもありました。もちろん、それがどういうことなのか真夏も知っているはずでした。
「おやおや、とんだスケベなお嬢ちゃんだ。たしか看護婦って話だったよなあ。ここにいたのは。そうだったよなあ?」
「そうよ。准看だけどね」
「看護婦は、スケベが多いって?」
「他の人はどうかしら。私、Hは、あんまり上手じゃないけど、おじさん達は、慣れてるの?」
「ま、そりゃ、な」
「お嬢ちゃんがきっと経験したことが無いくらい感じちまうぜ」
「どうかしら?若先生もすっごく上手だもの。それに、すっごく大きくて。いつもタフで、一晩に何回もしてくれるのよ。おじさん達はどう?」
「でかさでいやあ、お嬢ちゃんが比べるんだな」
「じゃあ、決まりよ。おじさん達も脱いで。早く。若先生が来る前に。また、叱られてしまうもの。ね、その前に、たっぷりと楽しんで、その後、私を逃がしてくれる?」
「しょうがねぇなあ」
 もちろん、真夏にだって、男達が逃がすという約束を守る気がないと言うことはわかっていたかもしれません。しかし、真夏の目的は、自分が逃げることではない以上、信じた振りをしたのに違いないのです。



卒業後 6
BJ 8/25(土) 01:32:02 No.20070825013202 削除

 それからしばらくして、母の手術の日となった。さすがにその前日は心配で夜もろくに寝られなかったが、幸いに手術はうまくいき、術後の経過も良好で、もうすぐ退院出来るとのことだった。
「そう・・・本当によかった」
 母からかかってきた電話の内容を伝えると、伯母は安心したように両手で胸を押さえた。
 その伯母を見つめながら、遼一は先程までの嬉しい気持ちに、急に物悲しさが入り混じってくるのを感じた。
 母の退院の日は、遼一がこの家から出て行く日のことでもある。
 もうすぐ―――このひととの暮らしも終わるのだ。

 遼一にとって、今や伯母の存在はなかなか複雑なものだった。
 かつては純粋に憧れの対象だった。けれど、この家に来て生活をともにするようになってから、伯母への思慕は純粋なものとばかりはいかなくなった。認めたくなくても認めずにはいられない。理性がいくら否定しようが、目覚め始めた遼一の男性は、伯母を欲望の対象として疼かずにはいられなくなっていた。
 少年らしい潔癖さで、そのことは遼一にしばしば罪悪感を起こさせた。
 こんな気持ちを経験するのは、初めてだった。そして当然のことだが、この狂おしい気持ちへの対処法は、どんな教科書にも参考書にも書かれていなかった。

「どうしたの?」
 不意の声にはっとした。視線を上げると、伯母が覗き込むようにこちらを見つめていた。
 遼一は動揺した。
「別に・・・・何でもないよ」
 わざわざ手を顔の前で振りながら否定して見せるのは、焦っている証拠だ。
「それよりせっかくのいい天気だし、たまには外に遊びに行かない? 今日は僕、勉強やめとくから」
 考えなしに口に出した言葉だったが、伯母はちょっと考えた後で、「そうね」と言った。
「京子さんの回復をふたりでお祝いしましょうか。それとも、京子さんの病院までお見舞いに行く?」
「・・・そうだね。それもいいかも」
「ちょっと待ってて。外着に着替えてくるから」

 というわけで、予定になかったが伯母と二人で電車に乗って、母親の入院している病院へ行った。
 伯母は用事以外ではほとんどマンションの部屋から出ることのないひとなので、こうして一緒に電車に乗るのも不思議な感じがするくらいである。
 だから、この前の旅行、あれはよほど特別なことだったのだ。
 吊り革に掴まって外を眺めている伯母の横顔を見ながら、遼一はふとあの日目にした白い胸元を思い出し、慌てて伯母から視線を逸らした。
 まったく、この頃の自分はどうかしている。
 本当にそう思う。だけど、どうしようもなかった。

 ついこの間、伯父とともに病院を訪れた際に会ったばかりだったが、手術を終えた母は普段と同じように色艶の良い顔をしていた。しかし、遼一の背後に伯母の姿を発見して、意外そうな表情をした。
「お久しぶりです、京子さん。ずいぶんご無沙汰してしまって・・・本当に申し訳ありません」
 どっちが義姉だか分からないふうに頭を下げながら、伯母は言った。母も慌てたように「わざわざお見舞いに来てくださって、ありがとうございます」と頭を下げた。
 思えばこの二人が親しく話をしているところを、遼一は今まで見たことがない。近所の主婦連の間に広大なネットワークを持っているような母も、この伯母とは普段からあまり交流がなかった。
「この度のこと本当に大変だったでしょうけど、手術のほうがうまくいって良かったですね。私も一安心しました」
 伯母がゆったりした口調で話を切り出した。
「おかげさまで・・・まあ、私は元気だけが取り得のような女ですから。瑞希さんは相変わらずお綺麗で、羨ましいわ」
「そんなこと・・・・」
「遼一がご迷惑をかけていません?」
「いえ、遼一君は本当にいい子で、私こそ京子さんが羨ましくなりました」伯母は言いながら、遼一を見て微笑んだ。「きっと京子さんたちのご教育が良かったのでしょうね」
「瑞希さんだってお若いんだから、まだまだこれからだわ」普段あまり話さない伯母と言葉を交わして徐々に興奮してきたのか、母はこの前伯父に言ったのと同じことを言う。
「そう、ですね・・・・」
「そんなにお綺麗なんだもの、今でもずいぶん兄さんに可愛がられているんでしょう?」
 調子にのった母の口調が、近所の主婦連と話すときのものになる。我が母ながら、遼一は赤面した。
 伯母も赤面して、口ごもった。見るに見かねて、遼一が「母さん!」と怒ったように叫ぶと、母はバツの悪そうな顔をした。
「ごめんなさいね、品のないことを言って。今まで瑞希さんと二人でお話する機会がなかったから、つい嬉しくなってしまったの」
 伯母は「いえ」と首を振りながら、母に微笑みかけた。その耳朶はまだほんのり赤い。
 呟くように、伯母は言った。
「やっぱり・・・・私は、京子さんが羨ましいわ」
 その理由は、言わなかった。

 病院を出たのは夕暮れ時だった。夏も終わりに近づいたのか、以前よりも日が暮れるのが早くなった気がする。
「京子さん、お元気そうでほっとしたわ」
 軽やかな足取りで歩く伯母の髪が、風に揺れている。
「いつも元気だけど、今日は特別。伯母さんと話せて嬉しかったんじゃない?」
 知らず知らずスカートの裾から伸びる脚に目をやりながら、遼一は答えた。
「私も嬉しかったわ。でも」
 伯母の足取りが遅くなったので、遼一はその傍らに並んだ。
「でも、何?」
「ううん・・・京子さんと話していると、何だか自分が羞ずかしくなってしまうの。素敵なひとだから。私とは全然違うから。だから、私からちょっと避けるみたいな感じになってしまって、そのせいで京子さんにはいつも気を遣わせてしまっていると思うの」
 言いにくそうな口調で、伯母は言葉を紡いだ。
 伯母はそのとき、夕陽のためでなく本当に赤くなっていて、だからこそ遼一はなんと答えるべきなのか迷ってしまった。
「よく分からないけど・・・・これからたくさん話して、仲良くなっていけばいいんじゃない? 母さん、よく言ってたよ。伯父さん伯母さんの家と僕たちの家がもっともっと親しくなれればいいのに、って」
 そうなったら僕も嬉しいよ―――遼一は言葉を続け、そっと伯母を見た。
「うん・・・・」力なくうなずいた後、伯母は遼一を見て微笑った。少し無理したような顔で。
 そして、言った。
「―――ありがとう」

 家に帰り着いたのは19時になる手前くらいだったが、その時刻には珍しく、伯父は帰宅していた。
 玄関の戸が開く音を聞いて、慌てたように伯父はやってきた。
「どこへ行ってたんだい? 心配するじゃないか」
 まっすぐ伯母の顔を見つめながら、伯父は妙に切迫した声で言った。
 はっとしたように、伯母が息を呑んだのが分かった。
「すみません。京子さんの手術がうまくいったというお電話があったので、遼一君とお見舞いに行ってたんです」
「それは・・・・良かったね」初めて遼一の存在を思い出したように、ぎこちなく遼一のほうを向いて、伯父は言った。
 遼一は声もなくうなずいた。
「遅くなってすみませんでした」
 伯母はもう一度謝り、伯父は「もういい、もういい」と手を振った。
「すぐに夕食をご用意します」
 うつむきながら短く言い、伯母はとんとんと足音を立てて台所へ消えていった。伯父もその後に続く。
 遼一は思い出していた。あの夜の伯父の言葉を。

 ―――伯母さんはあれでわりと人見知りでね。あまりひとと喋るのが得意じゃないほうなんだが、遼一には心を開いているようだ。
 ―――話し相手になってやってほしい。

 たしかにあれは、伯父の本心からの言葉であろう。けれど、その言葉と矛盾するように、伯父の存在そのものが伯母の自由を奪っている一面もありはしないか。
 いや、これはそういう類の問題ではないのかもしれない。
 たった今見たばかりの伯父の目。あれは何かに怯えている人間の目だった。

 伯父は―――何を恐れているのだろうか。



妻の入院 80
医薬情報担当 8/24(金) 19:58:10 No.20070824195810 削除
「二人か…」
 ということは、昨日の男達の可能性が高いと言うことになります。
 自分の手をじっと見つめます。
 竹刀さえ、いえ、何かの棒さえあれば、昨日のちんぴら達程度なら、何とかなるかもしれません。しかし、あの経験者風の男に、手足に力がまるで入らない今の私が、勝てるとも思えませんでした。
 それに、なんと言っても、今の私に竹刀はなく、あちらには、あの特殊警棒とスタンガンがあるのです。さらに悪いことに、真夏を連れて逃げようとすれば、その分もカバーしなくてはいけません。二人を相手に、そんな動きができるとは、とても思えませんでした。
 私が考え込む顔をすると、真夏は急に私をギュッと抱きしめてきます。ふんわりと優しげで、そのくせ甘い香りに包まれました。まるで、母親に抱かれているような、根拠のない安心感に包まれた気がします。
 きっちりとボタンを全部留めていると言っても、その見事な身体を隠しきれるわけもなく、半裸と言ってもいい姿です。シャツの裾は、丸い尻を隠すだけの長さで、スラリと長い足が覗いています。
 その真夏に抱きしめられて、胸のふくらみを布地一枚越しにギュウッと頬に押しつけられたまま、興奮するより安心するなんて、我ながら妙な気がしました。
 頭の上から、小さな声がします。
「あの、脱出する方法、あると思うんです」
「どうやって?」
「あの人達、あなたがここに運び込まれてから、ここに呼ばれたみたいなんです。誠さんが命じる言葉、聞こえてました。中にいる人間を逃がすなって。それだけ。だから中に誰が何人いるのかは、多分、知らないんじゃないかなって思うんです」
「しかし…」
「私が注意を引いているうちに、あなただけでも逃げてください」
 シッと、いう仕草をしてから、私の手を引いて立ちあがります。
 思わず、真夏に従って立ちあがります。
 しかし、とっさに脚にうまく力が入らず、私は、よろよろとよろめいてしまいました。その瞬間、すかさず、スッと支えてくれるタイミングと、しっかりとした支え方は、確かに看護師のものでした。思わず、真夏に引かれるままに、入り口に向けて数歩を歩きます。
「ほら、ここ、ここなら」
 真夏が示したのは大型液晶テレビの空き箱でした。横倒しになった、その箱なら確かに、男一人くらい入れそうでした。この中に入れと真夏は、仕草で示します。こんなところに隠れても、と躊躇する私に、真夏は小声でしかりつけるように言ってきます。
「早く!誠さんが来たら、どうなってしまうかわからないもの」
 その真剣な表情に気圧されて、もぞもぞと箱の中に入ってしまったのです。真夏が何をしようとしているのか、はっきりわからないまでも、私にできるのは、真夏の邪魔をしないことくらいでした。
「絶対、何が起きても、出ないで。私が、あの人達を連れて行くまで」
「そんなことが、でき…」
 外から、丁寧に、ふたの部分を折り曲げながら、最後に見せた真夏の眼は、ひどく悲しげなものでした。驚いた私が言葉を最後まで紡ぐ間もなく、ふたが閉じられました。
箱の中からは、持ち手の部分に開いた穴から、部屋の中の様子がいくらか見えます。穴からは、さっき私が寝ていたあたりの様子は見えますが、入り口の辺りの様子は全く見えません。
 自分の呼吸音だけが、ひどく大きく聞こえます。その呼吸の音を数えて、10回も、たたないうちでした。
 真夏が、扉を開けた気配がしました。
「てめえ、逃げるつもりか」
 扉を開けて、ほんのわずかな間もなく、いささかうろたえた声が近寄ってくる気配がしました。閉じこめてあったはずの扉がいきなり開いたのですから当然でしょう。
「あの〜、お願い!ね、助けて。助けてください、ね、おじさん達、お願い!」
「逃がすわけには、いかねぇんだよ、こちとら、商売だからな」
「お願い!ね! ちょっとした間違いなのよ。おじさん達には迷惑かけないからさ」
「うるせぇ! とにかく中へ入れ!」
「きゃっ」
 真夏が、よろけて、中へ倒れ込みます。
 ちょうど、持ち手の「覗き穴」から見える狭い視野の、その真ん中に真夏は倒れ込んできたのです。
「いった〜い」
 尻餅をついた格好のまま、おしりを持ち上げ、右手でおしりをさする仕草をします。ついさっき、たった一枚の着ていたシャツのボタンは全てきちんと留めていたはずなのに、なぜか、前が半分以上はだけ、豊かな胸のふくらみが、半ばまでこぼれていました。
 開き気味の両膝は、男達に向かって開かれています。私の位置からは見えませんが、男達の位置からは、真夏の、あの、ひっそりとした秘所が丸見えになっていたはずです。
 あの真面目な真夏が、どんな偶然にしても、そんな無造作な姿を男の前でするはずもありません。
 それは、男達を誘う姿そのものに相違ない以上、演技であると考えるほかありません。
 まだ、ぼんやりした頭の私にも、真夏が、どうやって男達の注意を引こうとしているのか、はっきりわかりました。
『オンナを使うのか?』
 ひょっとして、真夏は自分のやったことの埋め合わせのつもりだったのかもしれません。
『そんな馬鹿なことをしてくれなくても良いんだ』
 真夏は、文字通り、身体を張って、私を逃がそうとしているに違いありませんでした。



悪夢 その74
ハジ 8/23(木) 21:46:38 No.20070823214638 削除

 妻の秋穂は追い込まれていました。
 三度体位を変え、今度は先ほどの鉄くずを背に少年から突き上げられています。秋穂は胸を合わせた体勢のまま動けず、少年の腰だけが卑猥な動きを繰り返します。
 妻の閉じかけた瞳の奥が―――潤み、静かに霞んでいきました。

 妻とSMプレイ―――一見何の関連もない言葉もこの男が口にすると、私の意識はたちまち具現化しました。
 そう。一瞬ですが、確かにその姿と画面のなかの妻はリンクしたのです。

 虚をつかれた私を見て、羽生は心底楽しそうに笑っていました。

「いきなり聞かれても困りますよね。かるーく露出プレイとかはどうですかね?」

 私は必死で頭の中の幻想を振り払いました。妻の名誉のためにも彼と同調するわけにはいきません。

「秋穂はそんな女ではないよ」

 上手くしゃべれるか不安でしたが、なんとか口は動いてくれました。しかし、羽生は笑うのをやめません。
 ずいと笑い皺を刻んだ顔を近づけました。

「ほう。では、どんな女なので―――」

 羽生が皮肉っぽくPC画面に視線を流します。目もとを紅く染めた妻の姿がとびこんできました。
 冷たいほどの美と切れるような激しさ―――私の知っている彼女はそこにはいません。弱く儚く―――そして、ほんの少し淫蕩な。白いキャンバスの中にある一点の染み。却って、それが私に生臭さのようなものを感じさせていました。

「女性に理想を押しつけてはいません。彼女たちにだって、欲望はあるのです」

 羽生はたしなめるように、しかし、やはり押しつけがましく私に向かって説くのです。

「奥さまは少しマゾの気がある。先ほどは冗談っぽく言いましたが、あながち、それは見当違いとは思えません」

 サドとマゾ―――その言葉の響きに対する嫌悪感から、私は深く考えもせずに反論しようとしました。羽生はそれを見切っていた様子で、手の平を向けて私を遮りました。

「まあ、聞いてください―――べつに特別なことではありません。実は気位の高い女性には多いのだそうですよ」

 私は懸命に抗議の声をあげましたが、羽生の起こす言葉の濁流にそれは飲み込まれてしまいます。

「Mといっても、別に痛めつけられるのが好きという単純な話ではありません。実は彼ら、彼女たちは非常に依存心の強い存在なのです。特に強い女性に関してですが、彼女たちは普段必要以上に肩肘を張って生活しています。そんなことを続けていると、疲れてしまうのですね。誰かの肩によりかかってしまいたい。そう思っても相手がいない。自分の素顔を他人に見せられる人間など、ごく一部なのです」

 羽生は軽く息を整えます。

「それは夫といえど例外ではありません。相手にすべてを委ねるという行為は夫婦の絆以上の信頼が必要なのです」

 私は大きく頭を振って、それを答えとしました。たとえ平静であっても、彼の言葉は理解するときは来そうにありません。

 しかし―――。
 頭でわかろうとしても、それができないこともあることを私は知っていました。妻との出会いから、これまでのように。
 反対に、突然わかってしまうことも。

「あの目です」

 珍しく羽生の声は上擦っていました。

「あの瞳の奥にある狂気を―――誘うような淫靡な光があなたには本当にみえないのですか」

私の首が自らの意志とは関係なく、そちらを向きました。画面上の妻と一時目が合ったような気がしました。
 薄く開けた瞳を隠すように、柔らかい睫毛が折れました。



妻の入院 79
医薬情報担当 8/23(木) 17:21:55 No.20070823172155 削除
『ここは?』
 軽く頭を振ります。
「目、醒めましたか?」
 どこかで聞き覚えのある声を聞きながら、今、自分がなぜここにいるのか、とっさに思い出せませんでした。
「わかりますか?大丈夫?」
 優しい声は、若い女のものでした。かぐわしい匂いがふと漂い、顔だけを少し起こすようにすると、美人と言っていいほど顔立ちの整った、若い女が、私の顔のすぐ上にありました。えっと、この顔は…
『真夏…』
 真夏という名前を、どこか遠い国の忘れられた遺跡のように思い出しながら、なぜ、真夏が目の前にいるのだろうと、考え込んでしまいます。
 そうだ、バイパスのラブホテルで、まだ二十歳前の、この子としたんだっけ。胸が大きくて、まだ、オトコをあんまり知らない真面目そうな子だった。
 男という生き物はしょうもないもので、いったいなぜここに真夏が?という疑問の前に、あの大きなオッパイの感触が蘇ってしまいます。
 あのオッパイは良かったよなあ。手に余るほどで、柔らかいのに形が崩れてなくて。
 アソコの締まりも良かったよなあ。
 うん?あれ、いやそれもそうだが、もっと何かあったような…
 い位置の小さな窓から差し込でくる光が見えます。冷房もなさそうな、この中が、まだ暑くもないところからすると今は朝なのかもしれません。殺風景で、周りにある雑多な品々は、ここが倉庫だと言っているようでした。建物の感じからすると、母屋から離れた倉庫のようです。
『いったいここは、どこだ?何でこんな所に…』
「ぐぅ」
 口の中のどこかが切れているのかもしれません。ひどく口を動かしにくく、無理に声を出そうとしたら、カエルをつぶしたときのような声が出てしまいます。身体のあちこちがずきずきと痛み、手足と顔の下半分に、ジーンというしびれが残っています。
 頭の中がズキズキと痛み、もう一度、目を閉じてしまいました。
「どこか、痛みますか?」
 真夏の心配そうな顔が、覗き込むのが見えました。
『いったい、こんな所で俺は何をやっているんだ。いかん、ともかく、真夏を安心させねば』
「だ、大丈夫」
 相変わらず、がさがさな声でしたが、今度はとにかく言葉になってくれます。自分の状態はともかく、大丈夫と言うしかありません。ともかくも、かぐわしい女の吐息に誘われるように、再び首をもたげて目を開くと、目の前に、まぶしいほどの白い肌が飛び込んできたのです。 
 真夏は、薄いブルーのボタンダウン・シャツを着ていましたが、かぶさるように覗き込んでいる首元から、中が丸見えでした。 白く、丸い膨らみが、シャツの布地越しに届く光の中で、妙に肉感的に見えます。
 真夏は、下着を着けていませんでした。
 やや、大きめの乳輪が見えますが、その、可愛いピンク色をしているはずの先端は、布地を大きく押し上げているため隠されています。胸の大きい女の子は、こういう時、かえって先端が見えないなあと、場違いな感心をしていたのは、まだ、頭が正常に働いていないからなのかもしれません。
 妻なら、そう、妻の胸なら、きっと、あの乳首まで見えるのに。
 ん? 妻? 妻…
 妻の柔らかな、けれども、こんなに大きくはないけれど、ピンと張りつめたような胸の形が目に浮かびます。
 その胸を握りつぶすように男の手が揉み始めていました。しかし、その手は私の手ではありません。
 み、美穂… そいつは…、
 頭の奥がガンガン痛みます。フラッシュバックのように、妻に挿入する男の後ろ姿が浮かび上がります。
 そうだ、美穂、美穂を助け… 
 手足のしびれはまだ残っていましたが、かろうじて動かすことができるまでには回復したようでした。
 無理矢理に腕を動かそうと力を込めました。
 心配そうに真夏が覗き込んでいます。まず、真夏を安心させようと背中に手を回そうとしたら、やはり手の感覚がおかしくなっているのでしょう。何かに当たります。
 丸くて、ひんやりした柔らかいもの。 
 頭がボーッとして、いったい自分が何に触れているのかわかりません。しかし、覗き込んでいる真夏の困惑した顔で、ようやく、自分が今何を撫でまわしているのか思い当たりました。
「ごめん!」
 どうやら、真夏は、素肌に男物のボタンダウンシャツを一枚はおっているだけのようでした。
 かがみ込んで丸出しとなった尻を、そうとは知らずとはいえ、撫でまわしてしまったのです。私が手を引っ込めると、照れたような笑顔を浮かべた後で、気まずい笑顔になります。
 いえ、気まずいというなら、私と言うより、真夏の方だったのかもしれません。それとは知らずに、丸い尻を撫でまわされても、嫌そうな顔ではありませんでした。
 おそらく、私が撫でまわした尻よりも、自分がしてしまったことの方が、気になっているのに違いないのです。
「私、あやまらないと…」
 レコーダーを持って行ったことでしょう。
「どうして、あんなことを?」
「ごめんなさい。でも、信じてください、裏切ったりするつもりじゃなかったんです」
 哀しそうな顔で首を振りました。
「なんで、また?」
「誠さんは、自分のやっていることに夢中でした。頭の中に、自分と奥さんと、そして、あなたしか無かったみたいで。だから、こういうのがあるって」
 くすんだ色をした床板の上に、正座のような姿で座り込んでうつむきます。
「これが世間にばれれば、お父様にも傷がついてしまいますよ、だから、もうやめてって」
「言いにいったんだ」
「証拠があるというのなら見せてみろというから、あの、これを見せたんです。まだ、誰も来ていない、病院の休憩室でした」
 甘い吐息が鼻腔をくすぐります。
「で、見せているときに、ふっと後ろから… たぶんエーテルかなんかだと思うんですけど。気がついたら、裸でここに寝ていました。さっき山村さんが来てくれて」
 なるほど、山村看護師と言えども、あの男の目を気にして自由に動けなかったと言っていました。だから、ここに来るには、あの男が妻に夢中になっているあの瞬間しか、隙がなかったのかもしれません。
「それから、さっき、山村さんと誠さんが、あなたを運んできて。そのときは、さっき言われたとおり、寝たふりをしてたんですけど。怖かった。バイタルサインはあっても、なんだか、もう、このまま起きてこないのかと」
 ぎゅうっと首にかじりついた後、急に照れたように、上体を起こします。
「カギ、山村さんが、閉め忘れたことにしておくって。でも…」
「鍵をかけていった?」
「いいえ。カギは、開いてるんですけど、山村さんも、予想をしてなかったみたいで、見張りが」
「見張りがいるの?」
 コクリと頷いて、右手を挙げます。
 指が二本、Vの形になっていました。





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千代に八千代に
信定 8/23(木) 16:27:57 No.20070823162757 削除
第四章

 あまりの悲惨さに、ポロポロと涙を流しながら、庄次郎は倒れている人の間を抜けた。
手を伸ばして助けを求める者もいたが、子供の自分にできることなどない。
心の中で(ごめんよ、ごめんよ)と叫び、庄次郎は泣きながら呻いている人の間を縫った。
前方に腰に手を当て右腕を伸ばし、人差し指を立て大声で怒鳴っている男が見えた。
庄次郎は恐怖に戦いた。
戦ごっこで遊んでいた庄次郎たちを怒鳴った、カンカン帽をかぶった大柄な男だ。

「その女も叩きのめせ!殴って、殴って、殴り倒せぃ!」
男は顔を赤くして怒鳴っていた。
「やめて、もう、やめてぇ!」
庄次郎は思わず叫んでいた。
男は口を開いた怒鳴ったままの状態でこちらを振り向いた。
目と口の中が真っ赤だった。
頬に付いた血糊のせいで、口が耳まで裂けているように見えた。
庄次郎はヒッと悲鳴を上げた。
「なんだぁ、このガキは!ここは貴様のいる所ではない!向こうへ行け!ぶちのめすぞぉ!」
正に殴りかからんとこぶしを振り上げた男に、庄次郎はまたしても悲鳴を上げた。
こんなに悲鳴を上げたのは初めてだった。
あまりの恐怖に涙が止まらない。
男の形相はまるで鬼のようであった。

「その女、屠っても構わん」
今まで怒鳴っていた声とは違う、低く抑えた男の声が聞こえた。
一目散に逃げようとした庄次郎はその声で振り返った。

 三人の憲兵に殴られている女を見て、庄次郎は息を呑んだ。
「ああっ!やめろぉ!」
庄次郎は叫びながら、カンカン帽の男の横を走り抜けようとした。
「なんだ、貴様!」
声と庄次郎の首根っこを掴むのと同時だった。
「いってぇ、離せ!」
男の顔を見上げると、鬼のような形相から、無表情に変わっていた。
身悶えしていた庄次郎の動きが一瞬止まったほど、それは冷たい表情であった。

「は、離せよぉ!」
叫ぶ庄次郎の頬を張り飛ばし、草むらにブンと放り投げたのである。
ゲェっと言う庄次郎の呻き声が聞こえたが、男はそれを無視して殴られている女を見つめていた。
笑っているような、困ったような、そして泣いているような奇妙な顔だった。
女が動かなくなるのを見届けてから、逃げる農民を追い始めたのである。
女を蹴飛ばしていた憲兵が、キエーッという奇妙な奇声を発しサーベルを振り上げ、カンカン帽の男のあとに続いた。

 全身を地面にしたたかに打ち付け、庄次郎は唸っていた。
目だけは横たわっている女を睨んでいる。
周りには何人もの農民が呻いていた。
満身の力を振り絞り、庄次郎は立ち上がる。
泥だらけになり地面に打ち付けた肘を押え、足を引きずりながら懸命に女の所へ向かった。

 女は操り人形の糸が切れたような、足と腕が不自然な格好で横たわり、ピクリとも動かなかった。
元の顔など判別ができないほど腫れ上がり、右の眼球も半分飛び出し、白く濁っていた。
捲れ返った着物の裾から、本来は透き通るように白いはずの足が血で赤く染まっている。
反対側のやはり腫れ上がった目で、庄次郎を確認すると、口からゴボッと血の塊を吐き出した。
コンと小さな音がした。
顔の横に転がっている石に、血を吐いたとき一緒に吐き出された歯のかけらが当たったのだ。
生まれたばかりの赤ん坊のように、顔をクシャクシャにして泣いている庄次郎の頬を、
女は震える手で愛おしそうに撫でた。
女は少し笑ったように見えた。
幼い息子の無事な姿を確認したからだろう。
庄次郎はゆっくりと頬から離れてゆく、血まみれの母の手を両手でそっと包んでいた。

 少し前、庄次郎の母、櫻井ミリは家の中で怒号に続く地響きを聞いた。
庄次郎がいない。
必死で引き止める老夫婦を振り払い、家を飛び出していった。
蓑笠やわらじ、千切れた着物が散乱し、その全てに血が付着していた。
まるで戦争のような狂乱地獄の中、狂ったように息子の名を叫び、駆けだした。
すると、一人の憲兵が突然襲いかかってきた。
ミリの腹に力一杯膝を当てた。
憲兵に格闘技の心得があることは歴然だった。
ギャッという悲鳴を上げ地面に転がった。
どこもかしこも悲鳴と怒号だ。
誰一人、助ける者はいない。
腹を押えて唸っているミリの胸ぐらを掴んで、顔面を殴り始めた。
殴り慣れている節くれ立ったこぶしは、手でよける合間を縫って、正確にミリの顔面に炸裂する。
それは容赦のない殴り方であった。
耳たぶが千切れ、鼻の骨が折れ、声すら上げられぬミリの口の中は真っ赤だった。
飛び散った血は殴っている男の顔を濡らした。

 続いて二人の憲兵が口に笑みを浮かべ、悪魔のような形相で蹴り始めた。
ミリのあらゆる部分を鉄心の入ったつま先で蹴飛ばしたのである。
やがて血だるまになり動かなくなったミリを見下ろし、恍惚の表情を浮かべた。



卒業後 5
BJ 8/23(木) 07:39:43 No.20070823073943 削除

 遼一と伯父、二人きりの生活が始まった。

 三人でいたときも伯母は寡黙だったが、彼女はそこにいるだけで独特の雰囲気をつくる人であった。伯母がいなくなったこの部屋は妙にがらんとして、広く見えた。
「伯父さん、淋しい?」
 新聞を読んでいる伯父に聞いてみた。伯父は新聞を置き、遼一に笑顔を見せて言った。
「たかが三日間の留守で淋しくなるほど短い結婚生活じゃないよ」
 だが、その笑顔はどこか弱々しいものに遼一の目には映った。そして、遼一は淋しかった。

 伯父は三日の間に遼一を色々な場所へ連れ出した。一日目は母の入院している病院に見舞いに行った。
「入院している間、ちっとも動かないから太ってしまいそう」
 母はそう言って、陽気に笑った。相変わらずとても病人には見えず、元気そうだった。遼一の父は寡黙な男で、我が家の朗らかな空気はもっぱら母がつくっている。どこの家でもそういうものなのかもしれないと思った。
 二日目は映画を見た。ハリウッド製のいかにもな大作映画だった。
「伯母さんとも映画に行ったりするの?」
 見終わってカフェでコーヒーを飲みながら伯父に聞いてみると、伯父はしばし考えた後で、
「いや・・・・行っていないな。たぶん、一回ぐらいしか行ってない」
「そのときは何を見たの?」
「・・・・何だったかな、忘れてしまったよ」
 伯父は答えて、煙草に火を点けた。伯母がいるときは、中学生の前で煙草を吸うな、とでもうるさく言われているのか、伯父は煙草をふかしていなかった。その分を取り戻すように、伯父は落ち着きなく、すぱすぱと煙草を吸っていた。
 落ち着きなく―――本当にそうだ。伯母のいない三日間、伯父はどこか様子がおかしかった。妙に陽気に振る舞ったかと思うと、ふと物思いに沈み込んだりする。
 一番変だったのは、三日目の夜だった。

 伯母のいない間の食事はほとんど外食だったが、最後の夜も伯父は「せっかくだから旨いものを食べに行こうよ」と言って、遼一を梅田の高級レストランへ連れて行った。
「こんな店、入ったこともないよ」
 おっかなびっくり注文をすまして、遼一が言うと、伯父は「だから連れてきたんだ」とすました顔で答えた。
「伯父さんだって、こんな店いつもは来ないよ。怖くて来れない」
「でも、悪いな」頭上にきらめくシャンデリアを見ながら、遼一は呟いた。
「子供がお金の心配するものじゃないよ」
「それももちろんあるけど、伯母さんがいないときにこんな贅沢をするのが・・・悪いよ」
 遼一の言葉に、伯父は一瞬、何だかひどく悲しそうな顔をした。
 しかし、その顔はすぐ平静に戻り、伯父は言った。
「伯母さんは気にしないよ」
「そうかもしれないけど」
 しばし二人のテーブルに沈黙がおちた。その間を見計らったように、ウエイターがやってきて料理の皿を並べていった。

「伯母さんはあれでわりと人見知りでね。あまりひとと喋るのが得意じゃないほうなんだが、遼一には心を開いているようだ」
 食事しながら、伯父はぽつりと言った。
「いいことだよ。だから、遼一には感謝してる。うちにいる期間が過ぎても、時々マンションに来て、瑞希の話し相手になってやってほしい」
「それは・・・もちろんいいけど」
 あらたまった口調に面食らいながら、遼一は答えた。
 伯父はさらに何か言葉を続けようとした。だが、その瞬間に携帯が鳴った。
「失礼」短く言って、伯父はポケットから携帯を取り出した。
 瞬間、伯父の顔色が変わった。
「誰からなの?」
 思わず遼一は聞いてしまった。
「いや、仕事相手だよ」伯父は笑みをつくって答えたが、その笑みにはいかにも無理して張り付けたようなものだった。「ちょっと席を立つ。食事を続けていてくれ」
 早口で告げて返事も待たず、伯父は去っていた。その背中をしばし呆然と、遼一は見送った。

 やがて、伯父は戻ってきた。
 顔色が悪い。血の気がひいている。何か悪い知らせでもあったのだろうか。気になったが、直接聞くことは遼一にははばかられた。
「さっきは悪かったね。ちょっと仕事で急な連絡があって。何、そんなにたいしたことじゃなかったんだが」
 遼一の顔色を読んだのか、言い訳するように伯父は言った。
 嘘に、決まっていた。


 翌日の昼に、伯母は帰ってきた。
「お帰りなさい」
 遼一が出迎えると、伯母は笑顔で「ただいま」と言った。その笑顔には張りがなかった。というよりも、全体的にそのときの伯母には普段の凛とした気配が欠けていた。精根尽き果てたように、ゆるく弛緩していた。
 たまの旅行で疲れたのだろう。遼一は思った。
 いつもより疲れた風情の伯母の顔。けれど、そのやつれた頬と縁取りの濃くなった目元が、なぜか凄いほど艶めいて見える。遼一はまともに伯母の顔を見ることが出来なかった。
「あのひとは?」
「伯父さんはさっきどこかに出掛けた。何か用事があるんだって」
 思えば伯母の出発のときも、伯父はいなかった。そして今もいない。なんだか、意識して避けているみたいだ、と遼一はかすかに思った。
「そう」
 そのことが分かっていたように、あっさりうなずいて、伯母はハイヒールを脱ぎかけた。その足元がぐらついて、遼一のほうに傾く。遼一は反射的にその身体を受け止めた。

 抱きとめた伯母の身体は、ひどく柔らかだった。

 服の襟元から、白い胸元が目に入る。
 乳房のふくらみが瞳に灼きつく。

 そのふくらみの上部に、赤い痣が見えた。

「ごめんなさい」

 伯母は謝って、すぐに身体を離した。遼一は何も言えないまま、ただ首を横に振った。
「なんだか疲れているみたい。寝室で少し休むわ」
 あ、その前にシャワーを浴びなくちゃ。ぼんやりとした口調で言いながら、伯母はゆっくりと部屋の奥へ消えていく。
 遼一は金縛りにあったように、その場から動けずにいた。


 伯母が戻り、この家に日常が戻ってきた。
 しかし、その日常は以前のものと少し違う。何がどう、とは言えない。しいて言えば、日常の中に住む人間が違う。伯父が違う。伯母も違う。
 そして、遼一も少し変わった。
 あのときに見た伯母の白い胸元が、遼一の脳裏に焼きついて離れない。
 そして、あの赤い痣―――

 伯母は戻ってきてから数日間、ずっと長袖の服を着ていた。
 そのわけを遼一は知らない。
 知らないが、あの白い胸と赤い痣のイメージを思い出すとき、遼一は後ろめたさと、疼くような身体のざわめきを一緒に感じ、ひどくやるせない気持ちになった。



妻の入院 78
医薬情報担当 8/22(水) 18:28:47 No.20070822182847 削除
「さすがに、3度目ですもの。今度、出したら、こっちを見に来るはずよ。あなたを始末したかどうかを確認するために」
 あらためて、目の前で「始末」という言葉を使われると、ぎょっとしてしまいます。
「あのビデオ。そう、あなたが撮ったのを真夏が持って来ちゃったあれよ。あの子、真夏とあなたがグルだったと思ってる。まあ、真夏の場合は金が目当てか、って思ったみたいだけれど」
 あの晩の真夏の真剣な眼を思い出します。あの眼の中の光は、決して恐喝犯の光ではなかったはずなのに…
「もちろん、真夏は、こんなことをやめさせたいって思っただけなの。それは、さっき聞いたわ」
『さっき?』
 私の目に宿った疑問符に気がついたのでしょう。
「そう、あの子、真夏も敵だと勝手に思いこんじゃったのよね。まさか、そんなにまでして自分のことを諫めようとする女の子がいるなんてねぇ。あの子の常識にはないもの。あの子が考えたのは、自分の真剣な恋を邪魔する憎い、悪辣な女を閉じこめてお仕置きするってこと」
『?』
「真夏がいなくなったのよ。突然。そして、あの騒ぎでしょ。私、きっと、真夏はここにいる、っていうか、ここに閉じこめられてるはずって思ったの。でも、私だって自由に動こうとすればあの子の機嫌が悪くなってしまうから。やっとさっき、見つけたわ。もう目が覚めてたけれど、やっぱり縛られてた。今は… 眠ってるって、ことにしてあるんだけど」
「ほら、出すぞ、美穂!ほら、飲め、うっ、くぅ」
 満足げな男の、ため息のような声がわずかに聞こえました。
「そう、そうだ、ちゃんと飲み干して。うまいだろ?そう、気持ちよかったよ。それにしても、おいしそうに飲むねえ美穂は」
「もう時間がないわ。でも、まだ動けないでしょ?しかたない。なんとかします。少しの間、眠って」
 いつの間に用意したのか、気がついたら腕に、注射器が刺さっていました。いまだに、注射針で刺されたくらいでは、気づかないほど感覚は戻っていません。
「大丈夫。あの子、今のところは満足してる。あなたを殺そうとするにしても、自殺に見せかけられるように、あなたの、この縛られたあざが消えるまで待たせることくらいできる」
『冗談じゃない、今すぐ自由にしろ!』
 上半身を起こそうとしますが、身体の力が急速に抜けていきます。
「美穂ちゃんには、もう少し、少なくとも足が治るまで、我慢してもらわなきゃいけないんだけれど。多分、あなたがいなくなれば、かえってあの子もこんなに執着しなくなるはずよ」
『やめろ、今すぐやめさせろぉ』
「とりあえず、あの子が満足して、疲れて寝てくれれば、それだけあなたにも逃げるチャンスができるの。逃げた後、警察に行ってもいいわ。でも、どこまで取り合ってくれるか… あの子なりに、いろいろと手は打っていたもの。第一、美穂ちゃんのお父さんが転院を認めてたら、誘拐にもならないし。あなただって、不法侵入だと言われれば難しい。証人がいないものね」
 意識が濁り始めていました。
「できれば、真夏と逃げて。一緒に連れて行って。そうしないと、このままでは、また、不幸になってしまうもの。表にいたヘンな人たちも、東京まではおわないはずよ。美穂ちゃんは、脚さえ治れば、自分できっと決めるわ。そうなったら、いくらあの子でも、美穂ちゃんの命を狙うなんてバカなマネはしないはずよ」
『冗談じゃない。妻を、美穂をこのままにしておけるわけが』
 これから脚が治るまで来る日も来る日も、あの男の陵辱に任せるなどできるはずもありません。なにより、あの男は、陵辱の度に、妻の身体の中に出し続けるのに決まっていました。
 そうなれば、妻はあの男の子どもを宿してしまうことになりかねません。いえ、きっとそうなるはずです。そうなれば、はたして、夫以外の子どもを宿した妻が、それも、その場面を夫に見られているのに、簡単に私の元へと戻ってこられるものでしょうか。
 潔癖な妻が、そんなことができるとも思えません。陵辱の場面を見られてしまった、今の段階ですら、戻るとは簡単に思えないはずでした。
 ひょっとして、私が妻の陵辱を賭けて、それに破れたから見捨てたと言う誤解は解けるかもしれません。しかし、妻のお腹に生命が育ち始めてしまえば「誤解」の一言でもすむはずがないのです。
「思いを遂げるだけ遂げたら、きっと、また、あの子も変わるわ。もし、万一、妊娠でもしたら、その時は…」
『そんなことをさせてたまるか。美穂を必ず取り戻してやる』
 懸命に身体を動かそうとしますが、もはや、自分の身体がどうなっているのかわかりませんでした。
 猛烈な睡魔が、私から力と思考を奪っていきます。
「できれば、わ…」
 山村看護師は、溶けていく思考の中で、最後に「忘れて」と言おうとしたのか「私」と言おうとしたのか。それとも「別れて」といおうとしたのか…
 私の意識に残っているのは、その瞬間までだったのです。ぼやけた視界の中に、山村看護師の顔が、闇の中に溶けていきました。



卒業後 4
BJ 8/22(水) 02:30:02 No.20070822023002 削除

「今度、伯母さんは昔からのお友達と旅行へ行くことになってね。しばらく家を空けることになった。でも、その期間は私もお盆休みの時期だから、食事なんかは心配ない」

 そんなふうに伯父から話を切り出されたのは、八月に入ったばかりの頃だった。
「あれ、それって伯父さんと二人で行く旅行じゃなかったの?」
 驚いて聞き返すと、伯父は微妙な表情をした。遼一は居間のカレンダーを指差した。
「あれの何日かに印がうってあるじゃない。あの印は何?って伯母さんに聞いたら、八月の旅行計画だけど、行かないことにしたって言うから・・・・わるいな、と思ってたんだ。だって、僕が来たから、二人で旅行へ行けなくなったんだろうって思ったから」
 伯父は静かに遼一の話を聞いていた。やがて、その手が動き、くしゃくしゃと遼一の髪を乱した。
「・・・心配しなくてもいいよ。最初から、その友達の方と私たちの三人で旅行に行く予定だったんだが、今年は休みも少ないし、遼一もいるし、どうするか迷っていたんだ。けれど、せっかくたまの旅行の機会だしね。伯母さんはいつも家にいて退屈だろうから・・・たまには家から離れて、羽をのばしてくるのもわるくないだろうと思ってね」
 最後のほうの伯父の言葉は、やけに苦しげに聞こえた。
「だから、旅行には伯母さんひとりで行く。伯父さんはここで遼一と留守番だ。こっちはこっちで男同士、のんびりと過ごそうじゃないか」
 黙りこんだ遼一の気分を引き立てようとしてか、伯父は表情を明るいものに切り替えて、そう言葉を続けた。
「ちょっとむさ苦しいけどね」
 遼一も伯父に調子を合わせてひやかしの言葉を吐いたが、胸中にはなんとなく釈然としないものが残っていた。
 昔からの友達。
 そんな存在がいたのだ。この夫妻に。
 いや、別にいてもおかしくないというか、自然なことなのだが、一緒に旅行へ行くほど親密な人間関係を夫妻が持っていたことに、遼一は驚いていた。
 
「こんな大変な時期に家を空けることになってしまって、ごめんなさいね」
 出発の日まで、伯母はしきりと申し訳ながった。
「大丈夫だよ。僕のことなんか気にしないで。それより伯母さんも旅行を楽しんで、ゆっくり生命の洗濯をしてきたほうがいいよ」
 わざと年寄りくさい言葉を使って言う遼一に、伯母もやっと仄かな笑みを見せた。
「遼一君は本当に優しい、いい子ね」
「いい子って歳でもないよ」
 ぶっきらぼうな口調になるとき、遼一は決まって照れている。
「そんなことより、楽しい旅行になるといいね」
 そう言った瞬間、伯母の笑みが消え、瞳の色が曇ったように見えた。しかし、すぐにまたもとの笑顔になって伯母は「ありがとう」と言い、そしてもう一度「遼一君はいい子ね」と続けた。


 そして―――伯母の出発の日がやってきた。
 ちょうどその日から休暇になっていた伯父だったが、その日は朝から会社に用事が残っていると言って、家を出て行った。
「もうすぐ転勤もあるからね、色々と忙しいんだよ」
 言い訳するように、伯父は遼一に言った。いや、伯母に言ったのかもしれない。
「気をつけて―――行っておいで」
 最後に伯母に向かって言い、伯父は家を出た。玄関まで見送った伯母は、扉が閉まってもなおその場にしばし佇んでいた。
 居間からその背中を眺めながら、遼一はなんだか落ち着かない気分でいた。

 その日は伯母を見送ってから図書館へ行くつもりだったので、遼一は朝から書斎の机に向かった。
『N高校の受験まで半年。今年の夏休みが勝負だ。集中して勉強せいよ』
 担任からはいつもそう言われていた。しかし、この家に来てから、遼一は少し落ち着かない。親戚といっても他人の家だから、というのはもちろんあるが、それ以上にこの静謐な家の底流でざわめく何かに、遼一が敏感に反応していたからかもしれない。
 いや、それはすべて言い訳にすぎなくて―――
 遼一は椅子から立ち上がって、腰骨をぽきぽきと鳴らした。
 伯父は煙草吸いなので、この書斎にもほんの少しだけ煙草の匂いが染み付いている。
 その匂いを意識しながら、遼一は部屋を出た。居間に行く途中の部屋の扉が開け放しになっていて、伯母の姿が見えた。

 伯母は鏡台に向かって化粧をしていた。

 普段、ほとんど化粧気のないひとだけに、こんなときの姿を見るのは初めてだった。遼一はふと足を停めた。
 鏡の中の自分を見つめながら、唇に紅を引く伯母。
 その瞳はまっすぐ前を向いていて、遼一の存在に気づいてはいない。
 つっと上向いた顎から、危ういほど細い喉首にかけての線が、見蕩れるほど綺麗だった。

 女性は化粧をするとき、鏡に映る自分の顔に何を見ているのだろう。彩られ、変わっていく自分の姿か。それとも、その姿を目にすることになる相手のことか。
 伯母の冴えた横顔を見つめる遼一の胸に、ぼんやりと疑問がきざした。

 そんな物思いを起こさせるほど、化粧に専心している伯母の姿は、普段とは別人のようで。

 ぞっとするほど―――美しくて。

 妖しかった。


「あら」

 口紅を鏡台に置いた伯母が、ぼうと突っ立っている遼一の存在にようやく気づいた。
「・・・・ずっと見てたの?」
 夢から覚めたような心地で、遼一は仕方なしにうなずいた。
「羞ずかしいわ」
 両頬を繊手で押さえ、伯母は恥じらった。大人の女性からいきなり少女に戻ったようなその仕草が、無意識の媚態のように見えて、遼一の背骨は震えた。
「もうこんな時間。急いで昼食を用意するから」
 言って、伯母はすっと立ち上がり、遼一の横を抜けて行った。
 伯母の姿が消えて、ようやく遼一はほっと息をついた。痺れたような身体をぐったり壁にもたれさせた。

 伯母は―――遼一を落ち着かない気持ちにさせずにおかないその女性は、正午少し過ぎに家を出て行った。
 玄関まで見送った遼一は、先程の伯母のように佇んで、彼女の消えた扉をしばらく見つめていた。



妻の入院 77
医薬情報担当 8/21(火) 20:22:42 No.20070821202242 削除
「ごめんなさい。私がしたって思われないないように逃がすことしかできないの。だから、あなたが、私を襲って逃げたっていうのが一番良かったのよ。でも、本当は、とっくに回復している時間なのに。まさか、こんなに…」
 どうやら、山村看護師の書いたシナリオでは、妻の毛を剃るという「遊び」に男が熱中して時間が経つうちに、回復した私がその隙を突いて逃げ出した、となっていたようでした。
 しかし、あの男は、私の身体を何とも思っていないため、規定量を大幅に超えた麻酔を打ちこんだようでした。元々、麻酔の作用時間など、個人差が大きいものですから、こうなると麻痺がどこまで続くのかわからなくなってしまいます。
 私も、MRの端くれです。麻酔のミス、それも、規定量を超えた麻酔薬による事故は、麻痺が長く残り、それこそ、年単位のリハビリが必要になるケースがあると聞いたことがありました。私のケースもそうなるとは限りませんが、すくなくとも、今すぐ、この手足が自由に動くようになるとは思えません。
 男の声が聞こえてきます。
「どうだ。あんな男のチ○○ポより、良かっただろ?そう、ここがとっても良く締まるね美穂は。それに、ほら、ここ、ツルツルだ。まるで小さな女の子みたいだよ。でも、いやらしいオ○○コに、たっぷりと出してあげたからね。とろとろと俺のがこぼれてるよ」
 今回は、妻の意識がすぐに戻ったようです。秘毛をツルツルにしたことをことさらに言い立てるのは、もはや、目に見える形で、妻の身体を支配したことを教え込もうとしているのかもしれません。もちろん、そだけではなく、得意げ声は、おそらく私にも聞こえるようにしているのでしょう。
 それほど大きな声とは言えませんが、私の耳にははっきりと聞こえました。
「いやあ、もう、もう、十分でしょ。2度もなんて!もういや!離して。私を帰して。夫に会わ、んぐぅ…」
 最後の言葉が飲み込まれたのは、男に口をふさがれたのでしょう。もちろん、無理矢理キスされたとしても、妻が相手の舌をかみ切ることなどできはしません。妻の漏らす、もごもごとした声が続く間は、キスをしていることが分かりますが、途方もなく長い間、続いていたように感じます。これほど続けば、男の唾液は妻の口に流れ込み、もちろん、それを飲み下しているはずでした。
「ぐ、はぁ〜、あう、もう、ひどい、ひどい! いやあ! こんなのっ!いやあ!」
 ようやく、離れたのか、妻のあえぐような声は、男を拒否していましたが、一方で、ぜいぜいと喘ぎながらの声に、幾分の色気が出ている気がしました。これだけ長々とキスをされれば、オンナの体に、なにがしかの影響が出ても当然なのかも知れません。
「大丈夫だよ。美穂ちゃん、ちゃんと始末してあげるからね」
「始末?」
「そう、ちゃんとね。始末してあげる」
 おそらく、男が聞こえよがしに口にする「始末」とは、私のことを亡き者にするという意味でしょう。しかし、いくらひどいことをする幼なじみであっても、妻からすれば、まさか、そこまで悪辣だとは思っているはずもありません。夫以外の精を胎内にドロドロと浴びてしまった妻は、藁にもすがりたい気持ちもあって、別の意味に聞こえたようでした。
「ほ、ほんと?ちゃんとしてくるのね?いやよ、このままなんて。あぁ、でも、ああ、こんなことって」
「大丈夫だよ。前の旦那はとっくに帰ってしまったからね」
「帰った?そんな、そんなわけ、いやあ、いやあ!」
「そりゃ、そうさ。美穂ちゃんが逝っちゃったからね。あいつは賭に負けたんだもの。仕方ないだろ」
「いやあ、そんな、あなたあ!」
「無理、無理。もう、夫は僕だからね。大丈夫。とりあえず、始末をするんだけどさ、先ず、僕のをキレイにしてもらわないと」
 その後、男のなだめる言葉と、妻の混乱と悲しみの狂乱の言葉がたっぷりと続きますが、結果は既にわかりきったことでした。
 どれほど叫んでも私が来ないことを思い知れば、妻には、男の言うことを聞くしか道は残されていないです。そして、妻にとって、憎むべき事ながら、それでも、相手はたった今も自分を逝かし、胎内に精を注ぎ込んだ男なのです。
 女は、正面切ったレイプでもない限り、相手の精を受け止めればそれなりに情が湧くと言います。ついさっきのセックスは限りなくレイプそのものとはいえ、巧みに、オーガズムに導かれ、女の悦びの中で、男の精を受け止めていたはずです。
 おまけに、入院生活の間、幾度も、オーガズムを与えられ、下の世話をされた、初恋の相手でもありました。
 男に上手く丸め込まれれば、再び、男のものを口にくわえることを、半ば無理矢理とはいえ、承諾するのに、時間がかかりませんでした。
「そうだよ、なかなか上手だ。そうそう。もっと奥まで。そうだよ、この間みたいにもっと舌を遣って。うん、なかなかいいぞ。そう、そこも」
 ときおり、妻の苦しそうなむせる声が聞こえる中で、私の神経は、思わず、耳に集まっていました。
この目に見なくても、その光景は、はっきりと浮かびます。
妻の顔の前に、腰を持ってきて、横を向いた妻が男の大きなものを口に含む姿。
 きっと、さっき見たあの光景が繰り返されているはずでした。
 いえ、繰り返されているのではありません。
 男のモノは、既に妻自身の秘液でびっしょりと濡れ、それが生乾きとなってまとわりついているはずです。なによりも、先端からしみ出すのは、先走る液ではなく、男の精そのものでした。
 それを、吐き出すことも許されず、男が蹂躙するままに、怒張に舌を絡め、飲み下しているはずでした。妻の心の中で、それをどう思っているのか。何より怖いのは、それがどう影響してしまうのかということでした。
 犯された結果、身体が感じてしまうのは、女として当然とは言わなくても、仕方のないことかもしれません。しかし、自らの意志で、怒張を舐め、先端からしみ出すものを舐め、飲み込み、あげくには、最後に放出されるものを飲み下すとしたら、どうなってしまうのでしょう。妻の心が耐えられるのか…
「よし、いいぞ。そうだ。だいぶ積極的なったな。うん、うん、そう、もっと舌を絡めて。吸いながら唇で締め付けて。そう、いいぞ」
 男の言葉が私に聞かせるためのものであったとしても、妻のフェラは、男のいうがままになされているようでした。妻は犯されたはずです。しかし、単なるレイプをした相手に、そんなことができるものでしょうか。できるとしたら、相手を単なるレイプ犯とは見ていないからなのではないのか、そんな暗い気持ちが、私の心を襲います。
「そうだ。そう、そのまま。いいぞ。これからじっくりと覚えるんだよ。時間はたっぷりある。美穂ちゃんが間違って結婚した相手は、二度と来ないと約束したからね」
 うなり声が聞こえた気がしました。
 ひょっとして、抗議をしようと声を上げても、妻のかわいい唇を蹂躙する大きな怒張に、ふさがれているせいかとも思います。
 しかし、それは、私の空耳だったのかもしれないのです。
「いいねぇ。もっとだよ。ほら、いいぞ。このまま、出すまで続けて。約束通り、今日は飲んでもらうからね。でも、さっき、美穂ちゃんの中に一杯出しちゃったから、味見分くらいしか出ないけどね」
『殺してやる』
 妻に口で奉仕させながらの満足げな声に、私は、殺意というのはこうして芽生えるものなのかと改めて感じます。
 しかし、現実の私の命は、あの男に握られているのです。
 殺してやりたい男がそこにいて、芋虫のように無力な私が、ここにいるのです。
 力が戻らない手足を懸命にマッサージする山村看護師を見つめながら「絶望」という言葉が、重く胸にのしかかってきました。



千代に八千代に
信定 8/21(火) 13:31:25 No.20070821133125 削除
第三章

「貴様ら、邪魔だぁ!あっちへ行けぇい!」
先頭に立つ男は指揮官と思われるが、その横のカンカン帽をかぶった、ひときわ体の大きな男が大声で怒鳴った。
その男の怒号に子供らは仰天し、ワーッと叫びながら蜘蛛の子を散らすように走り去った。
一番最後に逃げたのは庄次郎だ。
何事も最後まで残ることが、幼いながら男としての矜持でもあるのだ。

 庄次郎は川沿いの掘っ立て小屋の裏に隠れて、ビクビクしながら様子を伺った。
先頭の制服隊は号令をかけながら道を封鎖するように整列した。
やがて反対方向から、地響きが聞こえた。
土煙の中から、制服隊よりも圧倒的に多い人の波が近づいてきたのだ。
(な、なんだ・・・・・・)庄次郎は息を呑んだ。

 大挙して押し寄せてきたのは農民らである。
河川敷にさしかかると、警官隊と数百の憲兵隊が警戒の陣をはっていたので、遠巻きに対峙する形となった。
彼らは農民らの行進を阻止するため、全員が手に武器を持っている。
その時、制服隊側から怒号が飛んだ。
サーベルを振り上げ、農民らを全員で罵倒し始めた。
制服隊は、農民らの予想以上の人数に怯えるが、
声を張り上げることにより、戦闘的な高揚感を盛り上げていったのである。

「貴様ら、戻れ、戻れぇ!」
制服隊の髭を生やした指揮官は声を張り上げた。
「我々は鉱毒の酷さを大臣に訴えるのだぁ!お前らこそ、そこをどけぃ!」
農民らの先頭にいる馬に乗った指導者が怒鳴り返した。

 しばらく怒号の掛け合いが続いたが、農民側の指導者が業を煮やし、
先頭の青年隊長は数千人を引き連れ突破をはかった。
しかし、武器の一つも持ち合わせていなかった農民が、サーベルなどの武器を手にした、
少人数だが訓練された憲兵や警官に敵うはずもなく、数名の負傷者を出しやむなく退却した。
農民側の指導者は負傷者を治療し、陣を立て直してから、今度は指導者同士で冷静に話し合いを行おうと思っていた。
だが、悲劇はこのあと起こった。

 長い棒で馬に乗った者を殴り倒し、制服隊は逃げまどう農民を執拗に追い暴行を加えたのである。
悲鳴をあげ逃げる農民に、何人もの警官隊がよってたかって殴りかかり、川に投げ込み、
止めてくれるよう泣き叫びながら哀願するのを無視し、徹底的に乱打した。
暴行をとめようとした新聞記者などにも、興奮した警官らは殴りかかるしまつであった。

 直訴に参加した農民の殆どが、警官隊との多少の衝突は覚悟したが、憲兵まで出てくるとは思わなかった。
これほどの仕打ちを受けるとは思いもよらず、まさか老人や女までに暴行を加えるとは考えてもいなかった。
甘いと言えばそれまでだが、鉱害により村々は酷い状況で、上訴以外方法が無かったのである。
だが制服隊は悲鳴を上げて逃げ惑う者に対しても執拗に追い続けた。
血が吹き出る傷口を容赦なく蹴り上げてゆく。
正に拷問であった。
あまりの苦痛に耐えかね「痛い痛い、いっそ殺してくれ!」と泣き叫ぶ者もいた。

 暴行を目の当たりにした庄次郎は震え上がった。
(ひでぇ・・・・・・)
腰が抜けて立ち上げれない。股間を見ると濡れていた。
恐怖のあまり小便を漏らしたらしい。
(かあちゃんに叱られる)
庄次郎は必死の形相で立ち上がり、辺りを見回した。

 唸っている者、うずくまって動かない者、己の血糊で震えている者、
川の中で溺れかかっている者、腕や足が奇妙な方向に折れ曲がっている者など、
打ちのめされた農民らが地面に累々と転がっている。
まさに、阿鼻地獄であった。
完全に戦意を失っている者に対しても、憲兵らは奇声を上げながら殴りかかっていた。
倒れて動けない者は特に無惨だった。
何人もの憲兵によってたかって殴られたあと、あとから来た警官隊にも踏みつけられているのだ。
顔から血を流して倒れている老人や女も大勢いる。
死の危険を感じ、必死で立ち上がろうとするが、制服隊は容赦しなかった。
多数の負傷者を出し、流血は数里にも転々とおよんだ。



悪夢 その73
ハジ 8/20(月) 23:44:48 No.20070820234448 削除
 少年に後ろから貫かれたとき、秋穂の顔に浮かんだのはむしろ安堵の表情でした。長い責め苦の時間も終わりが近い。そんな気持ちが目の奥によぎったのではないでしょうか。
 しかし、それは長くはつづきません。すぐに表情は苦悶の色に塗り変えられます。

 シャックは最初、妻の中をほぐすようにゆっくりと動いていました。それは暖気運転のようなものだったのかもしれません。
 この若さにして―――少年らしからぬ、おちつきは最後まで消えません。それは嫌らしいほどに。

 少年の繰り出す突きは無造作なようにみえて、ある一定のスピード、ストロークで安定していました。
 あくまで六分の力で―――激しさより確実さ。正確にポイントを突くことを優先させたその動きは本人はもちろん、まわりにもじれったさを感じさせるものでした。しかし、彼は無言のまま、過去の自分をトレースするようにひたすら同じ軌道で腰を振ります。

 一見細身に見えますが、長身で体格も良い彼女の腰まわりはそれなりに豊かで、肉の楔を打ち込まれる度に臀部がぶるんぶるんと波打ちます。はじめは年若の少年の力に翻ろうされる形でからだを泳がせていた秋穂でしたが、徐々にそのリズムに慣れたのか、腰の位置が安定してきました。
 逆に言えば―――不安定な体勢でバランスを取るためとはいえ、妻は衝撃を受け流すことができなくなってきていて、その一点を集中して責められているのです。

 シャックが腰の回転をあげました。六分から八分へ―――。
 責める者と責められる者。奪う者と奪われる者。
 ひとつになった男女の息づかいが静かに重なりはじめました。



「奥さん、だいぶ入りこみはじめてますね」

 まるで世間話でもするように、場違いのほどののどかさで隣の男が話しかけてきました。
 私がうっそりと顔を上げると、羽生は先ほどの怒りなど、どこ吹く風で微笑みかけてきました。

「すべての女は女優―――か」

 思わせぶりな発言に私は眉をしかめました。それを察したのか、羽生は真面目な顔をつくります。

「最初は相手に合わせていただけかもしれません。秋穂先生は演じていたにすぎない。しかし―――彼女は求められた役柄に没頭しはじめている―――そう、まるで訓練を受けたように」

 私はますます混乱しました。この男は一体なにが言いたいのだと。
 私は彼の言葉を無視して、再び画面に視線を戻しました。

 より深く結合しようというのか、少年はつながったままの体勢で、妻の片足を抱え上げました。あらわになった彼女の茂みの下に赤黒い男の象徴が突き刺さっています。一本足でからだを支える秋穂をみて、誰かが犬が小便しているようだと揶揄しました。

「聞こえているんでしょう?ずいぶん、回復されたようですね」

 私はわずらわしいと思いながらも、首を縦に振っていました。
 羽生の言っていることは半分は本当であり、半分は間違っています。
 今の私は視覚も聴覚も戻り、精神状態も先ほどよりは安定してします。しかし、自分の妻が犯されている映像をみながら、隣の男の話に冷静に耳を傾けることが果たして正常でしょうか。
 より正確に言うと、今も私は錯乱しており、これ以上の情報過多は危険だと、本能的に自分でブレーキをかけている状態だと思われます。一種の虚脱状態に陥っていると考えるのが正しいでしょう。
 入ってくる刺激にも反応は鈍く、ひょっとすると今の私は痛みも感じないのかもしれません。

 しかし、心を守るフィルターは決して万全ではなく、毒はどんどんと深いところへと沈殿していきます。私の場合、毒とは現実を知ることであり、この場合いかなる処方箋も死期を延ばすだけで効果はありません。この劇薬のような男の話を聞く気になったのも、やはり少しでもそのことから目を背けたい表れかもしれません。

「そろそろ、先ほどの質問に答えていただきたいのですが」

 画像から興味を失ったのか、羽生は完全にこちらに向き直っていました。
 彼の言う先ほどというのが、どれぐらい前のことなのか、私には見当がつきません。あまりに過酷な現実の連続に、彼が敵だという意識はいつしか、私のなかから消え去っていました。

 羽生は私に説明する手間を省くため、同じ質問を繰り返すことになりました。

「奥さんは―――の経験はありますか?」

 私はそれでも目の端で妻の映像をとらえたままだったので、彼の質問が聞き取れませんでした。私が目でそのことを問うと、羽生はあくまで軽い調子で言いなおしました。

「奥さんにSMプレイの経験は?」





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卒業後 3
BJ 8/20(月) 02:53:34 No.20070820025334 削除

 伯父一家はあまり人付き合いのない家らしいというのは、母の普段の話でも時々出てきたが、実際、一緒に暮らすようになって、遼一はそのことを実感した。
 遼一から見れば、伯父も伯母も穏やかで優しい人たちだ。他人に嫌われて孤立するようなタイプではない。けれど、夫妻があまり人付き合いをしないことに対しても、遼一はなんとなく納得するところがある。
 二人はともに他人に対して心から胸襟を開くことの出来る人間ではないのだ。誰に対しても、ある程度距離をとって接しないでいられない人たち―――のように見える。
 見えると言うのは、あくまでも遼一が普段の二人を見ていて感じたことに過ぎないからだ。伯父が、或いは伯母が他人と話しているのを、遼一はほとんど見たことがない。だから、二人が対外的にどういう人間なのか、それは分からない。
 ともに暮らすようになった遼一に対しても、先に書いたように優しく接触してくれるのだが、やはり薄膜一枚隔てたような感じはある。母の京子も自分たち一家に対する二人の態度にずっと歯痒いものを感じているようで、「せっかく近くに住んでいる唯一の親戚なのだから、もう少し親しく接してくれたら良いのに」と、いつかぼやいていた。
 はっきりとは言わなかったが、母はその原因を伯母のほうに見ていたように思う。「昔の兄さんはそういうタイプではなかった」と、母は言っていた。
 ならば結婚して、伯父は変わったということになる。少なくとも、母はそう見ていた。結婚して、伯母に夢中になって、夫妻だけの生活に閉じこもるようになった、と。
 けれど―――
 伯父の伯母に対する態度、或いはその逆を見ても、そこに相手に溺れきったものはない。むしろ、遠慮がある。気遣いがある。距離が―――ある。
 それが何故なのかは分からない。単に遼一の見ている前だからかもしれない。遼一の見ていない場所での二人は、もっと違う感じなのかもしれない。
 親しい友人も―――いるのかもしれない。

「これは何の印?」
 ある日の夕方、早くも行きつけになった図書館から帰り、リビングでくつろいでいた遼一は、扉の横にかけられたカレンダーを見て伯母に尋ねた。
「八月のお盆の時期に赤ペンでいくつか書かれているけど」
 遼一の問いに伯母は振り返った。一瞬、その表情にうっすらと動揺が現れた気がしたが、すぐに消えた。
「―――ああ。それはね、伯父さんの休みの時期に合わせて、ちょっと旅行に出掛けるお話があって、それで印をうってあったの。でも、今年はたぶん行かないわ」
「僕が来たから? そんなのわるいよ。行っておいでよ。子供じゃないんだし、留守番くらいするよ。家に戻ってもいいし。せっかく伯父さんと水入らずの旅行なんでしょ?」
 言いつのる遼一の声を、伯母はじっと黙って聞いていた。
 この部屋は西向きで、夕日がまっすぐに差し込んでくる。そのときも、窓際に立っている伯母の背中を、オレンジの光が染めていた。遼一の位置からは、伯母の姿は逆光でよく見えなかった。
 しかし、そのとき、伯母の口元がかすかに動いて、「ごめんなさいね」という無音の言葉を刻んだように、遼一には見えた。
 それは気のせいだったのかもしれない。なぜなら伯母はすぐに棚の布巾かけを再開し、手を動かしながら、
「遼一君は気にしなくていいのよ。今年は伯父さんも休みが少なくて忙しいし、せっかくの休日を混雑の中で過ごすよりは、家でゆっくりしたほうがいいと仰っていたわ」
 と、言ったから。
「でも・・・・やっぱりわるいよ。せっかくの休日に、こんなお邪魔虫がくっついていたら、二人でいちゃいちゃも出来ないじゃん」
 だから遼一も、普段の道化の役割に戻って、冗談めかした口調で言った。
「まあ」と伯母は笑い、遼一も笑った。

 けれど―――やはり伯母は八月の旅行に行き、伯父は遼一とともにこのマンションに残ることになるのである。



千代に八千代に
信定 8/19(日) 18:00:03 No.20070819180003 削除
第二章

 日に増し血色も良くなり、透き通るような白い肌を取り戻していった。
もともと瓜実顔の上品な顔立ちをしたミリは、体調が良くなってゆくごと美しくなっていった。
「まーず、めんこいのぉ」と、陶磁器のようになめらかなミリの肌に触れ、
一緒に暮らしている老夫婦も目を丸くするほどであった。
知的で奥ゆかしく、更には働き者で美人ということもあり評判は広がる。
男らが放っておくわけがない。
ミリに子供がいるにもかかわらず、交際や結婚の申し込みが殺到する。
若い衆のみならず、妻を亡くした年のいった男やもめらも一張羅を着込み、熱心に口説きに来る。
中には一人では恥ずかしくて、親同伴で求婚に訪れる者もいた。
ミリは困った顔で微笑むが、首を縦に振ることはなかった。
老夫婦も結婚を勧めるが、ミリは四人でここで暮らしてゆきたいと言い張った。
嬉しいやら困ったやらで、老夫婦はそれ以上勧めることはしなかった。
その後も村の男らはミリに熱い視線を送るのであった。
男がいない限り、子を宿すことはない。
驚くことに、衰弱した身重の体で森を彷徨っていたのだ。
一時噂になったが、ミリの人となりを知り、以後その事について詮索する者はいなかった。

 その後も何度か大洪水をおこし、他県にまで鉱毒被害が広がった。
突貫工事で排水のろ過池などをこしらえたが、暴風雨による洪水で、あっという間に決壊し鉱毒が流出した。
この時代、鉱害の科学的根拠が今ひとつ分からないといったこともあり、絶対的な改善策など設けることはなかった。
明治政府にとっては、銅が重要な輸出物質であった。
封建制度の下、健康や安全の価値が軽視されたのは言うまでもない。
鉱毒水が井戸水に混入したとしているが、銅山との因果関係までは言及していない。
その後、県の鉱毒事務所が調査した結果、鉱毒による死者、死産は一千人を突破したと報告。

 冬の荒涼とした田畑に、古寺の鐘がひびき渡る中、農民が集結した。
周辺町村の寺でも、若い衆がふんどし姿で鐘を連続して激しく打ち鳴らし始めた。
凄まじい鐘の音が村中に響き渡った。
たくさんの食料を背負って、人がぞくぞくと集まってくる。
集結した農民は一万人あまりに膨れあがった。
これらの農民らは、あくまで鉱毒の酷さを中央に訴えるべく集合したわけで、
先頭に立つ者は、ノミやクワなどの武器は持たぬよう指示した。
被害を被った約一万人の住民が、いっこうに埒の明かぬ議会活動や請願に絶望し、
鉱業停止を求めて中央に向かったのである。
指導者である血気盛んな若者は、青年隊長として騎馬での指揮にて隊伍を組み、
人々は鉱毒を訴え、大声で叫びうたいながら堂々と行進した。
数人の警官ともみあいになるが、これを突破する。
続々と押し寄せる農民のあまりの多さに怖じ気づき、警官は一散に逃げ出したのである。
ミリの息子、庄次郎が満十才を迎えたときであった。

「ダメだべ、俺が伊賀の服部半蔵だべぇ」
「じゃ、俺は甲賀の鵜飼孫六にするべ」
「俺、猿飛佐助」
「ワイは霧隠才蔵だに」
「僕は沖田総士」
「ねっきし関係ねえべぇ、それ」
子供達が唾を飛ばし役割を決めている中、庄次郎は言った。「俺は藤林長門守だ!」
「ながとのかみって誰だべ、それ」
「どっかの神様じゃねぇべか?」
「そいだら、神様じゃ、つえーべぇ」
「うるせえなぁ、いいじゃねえか」
皆がケラケラ笑いながら言うので、庄次郎は口を尖らせる。
「庄次郎はいっつもそればっかだぃね」
「すげー格好いいんだから。なーんも知らねーくせに」
母に読んでもらった歴史ものがたりに出てくる、信長の大軍の前に一人で立ち向かった藤林長門守が大好きなのだ。

 こうして役割が決まり、近所の悪ガキ達と戦ごっこで遊んでいるとき、一人の子供が叫んだ。
「ちょっと、よせ、よせ!」
「起きあがんな、もう。よっちゃんは死んでんべぇ」
竹で作った刀で、よっちゃんを切った子供が声を荒げる。
他の子も「そだんべ、そだんべな」と不満げな声を上げる。
刀で切られた場合、起き上がれないのは戦ごっこの不文律だ。
一定時間黙って地面に伏せっていなければならないのは、いつの時代も同じだ。
掟を破るよっちゃんが文句を言われるのは当然のことだ。
だがよっちゃんは起き上がろうとする。

 剃り残しのせいで、所々まだらになっている丸坊主の子が、汗まみれの着物を乱暴に脱ぎ、
黄ばんだ下着姿で、起き上がろうとするよっちゃんの薄汚れた着物の襟首をひっぱる。
「死んでろよぉ!」
「いてぇ!ちょ、ちょっと・・・・・・」
引っ張られたよっちゃんは、どてっと地面に倒れ込む。
よくない前兆だ。
喧嘩になりそうだ。
ちょっとまずい。

 庄次郎もよっちゃんの態度には少し頭にきていたが、静観していた。
というのは、よっちゃんは今まで掟を破ったことなどなかったからだ。
むしろ、そのへんはもういいんじゃねえか、と思うくらい決めごとにはうるさい。
そのよっちゃんが、破ろうとしていることに奇異の感を抱いた。
庄次郎が仲裁のため声をかけようとしたとき、
「だ、だけんど、あれ、あれ」
引っ張られ、再び地面に転がされながら、あんぐりと口を開けたまま、よっちゃんは腕をピンと伸ばした。
よっちゃんの短い人差し指を全員が見つめた。
「あれ、何だんべ・・・・・・」
今度は庄次郎の声で、全員がよっちゃんの指さした方向を振り返った。

 丘の向こう側から、制服を着た大勢の人が押し寄せてくるではないか。
「警官だぺ!」
「あっ、あれ憲兵だぃねぇ」
「分からん、でも、ちと、多すぎんべ」
一番体の小さいよっちゃんが、腰を抜かしたまま歯をカチカチと鳴らしていた。
大挙して押し寄せてくる制服隊は小走りであった。
ザッ、ザッと土を踏み鳴らす規則正しい足音に子供達は震え上がった。



悪夢 その72
ハジ 8/19(日) 06:49:49 No.20070819064949 削除

「もう―――いいのじゃないのかね」

 制止の声は意外なところからあがりました。
 重苦しい空気も時間の経過とともに弛緩しはじめていました。そんななか、DVD鑑賞をとりやめるよう申し出たのは私でも秋穂でもなく―――これまで、不気味な沈黙をつづけてきた校長の弓削でした。

「これ以上は―――もう」

 重々しい声の響きはなぜか精彩を欠いているように感じました。長時間の視聴に疲れたのか、それとも部下である妻のことを気遣っているのか―――弓削はどうやら目を閉じているようでした。

「そうですね。これ以上はさすがに―――」

 声とは反対に、羽生は残念そうな表情を浮かべました。そのうっぷんを晴らすかのように、私を挑発してきます。

「これではレイプ事件はなかった、などととぼけられることもないでしょうから」

 言い捨てて、パソコンに近づいた羽生を無形の力が押しとどめました。
 ゾクリ。同時に私の首筋を冷気が撫でました。いつのまにか、妻の秋穂が私の背後に立っていました。

「この先に真実があります」

 音もたてず前に出た妻は腕組みをしたまま、なにかを威圧しているようでした。その視線がどこに注がれているのかは誰にもわかりません。

「フン、なにを馬鹿な」

 羽生は太い首だけをまわしました。

「この先にあなたの狂態以外に見所があるとは思えませんな。本来なら、じっくり検証するところを、あなたはむしろ校長のおはからいに感謝すべきではないですか」

 無言で皮肉を受け流され、羽生は舌打ちをもらしました。

「正気か。挿入行為こそ、まだだが、この後どうなるか。それは火を見るより、あきらかだ。まさか、この後、正義の味方が助けにくるとでも―――」

 助け―――最初に思いついたのは息子の浩志の存在です。彼の救援が間に合い、彼女は無事だったのでしょうか。あくまで最後の一線という意味においてですが。
 いえ、それでは妻の体内に残っていた精液について説明がつきません。わかりません。

 私と同じく、その可能性に思い至ったのか、羽生は言葉を濁しました。

「それにしたって、あんたが乱暴されたのは事実だ。そのことを認めたうえで、我々は再度話し合うべきではないか」
「それは全て見終わってからにしましょう」

 提案を一蹴された羽生がどかどかとこちらに戻ってきました。そして、乱暴にもとの位置に腰をおろします。

「あの奥さん、マゾっ気でもあるのじゃないですか。自分が犯られるのをみせたがっているとしか思えん―――言っておきますが、期待せんほうがいいですよ」

 羽生が眠そうなまぶたをしかめました。

「浩志くんひとりで、四人相手にどうにかなるとは―――トシでもつれていれば別ですがね」

 今回の事件に柴崎が関与していないことは確信があるのでしょう。私自身もそのことを疑ったことはありません。彼は事件以後に関わっているだけのことで―――。
 羽生が窓際のほうに目をやりました。そこから―――弓削の口からは異存の声が上がることはありませんでした。背もたれはどうやら、こちら側を向いているようでした。



「この女、むしゃぶりついてくるぜ」

 よつんばいのままで奉仕を命じられた秋穂は、当然のことながら手を使えません。そのため、上向きに勃起した少年の逸物には届かず、その周辺に舌を這わし、吸い付くことしかできません。
 男性の股間というよりは、股下部分に真下から顔をつっこむ姿は屈辱の域を通り越していました。

「こいつ、なんでもやるよ。おい、尻の穴も綺麗にしろ―――ウワ、ホントにやりやがった」

 感極まったような声を上げた少年は妻の髪をつかみ、一層股座に押しつけます。付近から、女のくぐもったうめきが聞こえました。

「おい、シャック。いいかげんにしてくれよ。これ以上のおあずけは御免だぜ」

 サディスティック全開の彼を他の仲間がたしなめます。しかし、語気は弱く、その口調にはおもねるような響きがありました。

「よかったな、先生。俺のダチがやさしいやつばかりで」

 シャックの脚のあいだから引きづりだされた秋穂は心ここにあらずの状態で、その顔は汗なのか、涙なのか、さすがに汚れていました。
 少年は妻に立ち上がるように命じると、巨大なゴミとなったブルドーザーに後ろ向きに手をつかせました。

「先生、俺のナニが欲しいって、もう一回言ってみなよ」

 秋穂は普段の彼女からは考えられない、たどたどしさで口にしました。

「秋穂はあなたの―――が欲しいです」
「ハイ、良く言えました」

 妻のまるい腰に手を添えたまま、少年は腰を前に押し進めました。
 ふわり。闇夜の下、宙空に黒髪が舞いました。



卒業後 2
BJ 8/19(日) 01:18:13 No.20070819011813 削除

 伯父夫妻宅での暮らしは最初のうち、静穏そのものだった。

 もちろん、平日の昼間は伯父は会社に出かけていて留守にしているから、遼一が主に顔を合わせるのは伯母のみである。
 N高校への受験を控えた大事な夏休み、と伯父も母も言っていたが、遼一自身は格別N高へ行きたいと情熱を燃やしているわけでもなかった。何かにつけ器用で、根本では生真面目な性格が勉強の場でも生かされて、学年でもトップの成績を堅持しているうちに、担任と母の間でN高受験の話が盛り上がってしまっただけである。
 やれやれ、というところだったが、期待をかけられているならそれに応えようと努力しないではいられないのが、遼一の性格であった。
 それに、不測の事態で暮らすことになったこの伯父夫妻宅は、テレビすらろくろくつけないような家らしく、TVゲームなどあるはずもない。周囲には友達の一人も住んでいない。となると、残りは本を読むか、勉強でもするかぐらいにしか、暇つぶしの選択肢がないのだ。
 その日の午前中も、遼一は間借りしている伯父の書斎でずっと机に向かっていた。昼になってようやく机から離れ、居間へ足を運んだ。
 伯母はくるくると忙しそうに台所を掃除していた。この家に来て分かったことだが、伯母は滅多に腰を落ち着けて休んだりしない。いつもあれこれ仕事を見つけて、その仕事に打ち込んでいる。一日の半分はテレビに向かってごろごろしている母に見せてやりたいが、一方でそんなに毎日毎日、部屋の隅々まで掃除する必要もあるまいにとも思った。
「あ、ごめんなさい。昼御飯、今から用意するところなの」
「ううん、かまわないよ。そんなに腹減ってないし」
 何しろ、朝から机の前に座っているだけなのだ。
「それにしても、本当に感心するわ。凄い集中力。京子さんも立派な息子さんを持って幸せね」
「別に―――他にすることもないから、やってるだけだし」
 伯母に誉められたのが嬉しくて照れくさかった遼一は、わざと素っ気無い口調で言葉を返した。
 伯母は申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさいね。遊ぶものも、遊び相手もなくて、退屈してるでしょう」
「でも、仕方ないから」
「私が何か面白い話でもしてあげられたらいいんだけど」
 ・・・いったい伯母は自分のことをいくつだと思っているのだろう。遼一はちらりと不満に思ったが、伯母の困ったような顔を見ると何も言えなかった。
「あ、この近くにさ、図書館ないかな? ちょっと気分転換に外で勉強したいし、本も読みたいから」
「あるわ。―――そうね、私も本を返さなくてはならないし、一緒に行ってもいいかしら」
「もちろん」

 と、いうわけで、昼食後、伯母と並んで近所の図書館へ向かった。
 伯母は半袖の白いブラウスに濃紺のロングスカートという、いたってシンプルな装いだ。
 遼一の年頃にもなると、たとえば母と連れ立って道を歩くことも羞ずかしい。知り合いに見られたらと思うと、ドキドキする。この街には知り合いもなく、横にいるのは母親でもないのだが、遼一の胸はなぜか息苦しいほど高鳴っていた。
 遼一は家族友人の間ではひょうきん者でとおっているが、本来はとても大人びた思考をする少年である。だからこそ、同年代の女の子よりも、年上の落ち着いた女性に惹かれるのだが、伯母に対する気持ちはそれとも違っているように感じる。
 母の京子などが言うように、伯母はたしかに落ち着いていて、しっかり者でもあるのだが、それとは裏腹に、時折、ふと頼りない、というか、不安げな少女のような表情を見せる。普段の佇まいに似合わない、一瞬の不安定さのようなものを垣間見るとき、遼一の胸は騒ぐ。・・・やっぱり言葉ではうまく説明できないが。

 街路樹の蝉がうるさいくらい、元気よく大合唱している。

 図書館はマンションの立ち並ぶ坂の上にあるのだ、と伯母は歩きながら説明した。
「それにしても遼一君は凄いね。N高校って難しい学校なんでしょう? 私は大学も出ていないからよく分からないのだけど」
 少し意外に思った。遼一の感覚では、大学には皆が皆、当然のように行くものと思っていた。父も母も伯父も大学は卒業しているはずだ。
「受かるかどうか、分からないよ」
「きっと大丈夫だと思うけど、受かるといいね」
「・・・・うん」
 答えながら、遼一は、斜め前の道を日傘を差して歩く伯母の眩しいうなじから、目を逸らした。

 坂上の城跡に造られた公園の隣に、図書館はあった。
 入り口の前で伯母と別れ、遼一は二階の勉強室へ向かう。
 さっそく参考書を開いたが、妙に胸がざわめいていて、本の中の文字や記号に集中することが出来なかった。
 しばしの後、遼一は諦めて席を立ち、勉強室を出た。
 階段の傍の廊下の窓から、中庭を見下ろすと、伯母が木陰のベンチに座っていた。本を読むでもなく、ただそこに座って正面を向いているのだが、その顔に漂う奇妙な静けさと、まなざしの形容しがたい複雑な色が遠目からでも窺えて―――

 どきり、とした。

 いつものしっとりと落ち着いた表情でも、時折覗かせる少女の顔でもない、遼一の知らない伯母のもうひとつの貌―――
 その頃の遼一の辞書には知識としての言葉しかなかったが、何年後かにこの瞬間のことを思い出したとき、遼一はようやく、そのとき伯母を見て自分が感じた感情を形容する言葉を探り当てることが出来た。
『艶めかしい』
 遼一はあのとき、たしかにそう感じていたのだ。



悪夢 その71
ハジ 8/18(土) 10:33:24 No.20070818103324 削除

 秋穂とて、ここまでくれば犯される覚悟はしていたでしょう。しかし、血はつながっていないとはいえ、それが息子の前で―――そう聞かされれば。

 妻は目を閉じ、ぐっと苦いものを飲み込むように少年たちの要求を承諾していました。

「でも、浩志の前では―――」

 少年たちは互いに顔を見合わせました。

「へえ、覚悟できたんだ」
「お願い、早く済ませて」

 羞恥を隠すように被せた妻の懇願はすぐには叶えられませんでした。

「おねだりするんなら、命令は守らないと」
「…………」
「ワンワンスタイルでしょ。まずは」

 秋穂はおとなしく従いました。両手をつき、肘に力を溜めます。心もち、脚を開く格好で膝をつきました。
 少年のひとりが彼女の開き気味のもものあいだに足をこじ入れました。

「もう少し脚開けよ。それからケツあげろ」

 月明かりの下、秋穂の裸身が浮かび上がります。
 手の甲に筋を浮かび上がらせながら上半身を起こすさまは辛い苦行を思わせますが、同時にせり上がってくる尻はつやつやとしていてなまめかしく、まるで別の生き物のようでした。

 少年たちは、このような妻の姿態をみても比較的冷静でした。なにしろ、彼女の口技で全員一度は射精に導かれているのですから。

「先生、表情が硬いよ。そんなんじゃ、萎えちまう」
「そうそう、先生が俺たちをその気にさせなきゃ」
「このままだと、浩志が先に来ちまうな」

 少年たちの嘲りを受け流していた秋穂でしたが、悲しいことに最後の一言には反応してしまいます。

「どうすればいいの?」
「だから、俺たちがムラムラとするようにだな―――悩殺ポーズとか」
「できないわ―――というより、やりかたがわからない」

 真剣に悩む様子の秋穂に少年たちが助け舟を出します。ただし、笑いを堪えながら。

「そうだな―――とりあえず、その格好のまま、その辺をまわってみれば」

 瞬間、地面に視線をおとした彼女でしたが、一呼吸するあいだに実行しはじめました。両手をついたまま、その場を這います。

「おい―――まじかよ」

 ひとりが呆れ気味にそう言いましたが、他のメンバーにはまだ不満があるようです。

「まだだよ―――澄ました面しやがって。まだ余裕があるって、こいつ」
「よお、もっと色っぽく歩けよ。ケツ振るとかさ」

 少年たちに囃したてられ、結局彼女はよつんばいのまま、あたりを一周してしまいました。

「つ、つぎは―――どうすればいい?」

軽く肩で息をする妻にシャックはしばらく返事をしませんでした。

「なんでもするわ―――だから」
「あんたはどうしたいんだ?」

 シャックの底意地の悪そうな目に射すくめられて、彼女は息を呑みました。

「私を好きにしていい―――」
「なにそれ―――ずいぶん上から物言うんだな」

 秋穂には息子の足音が聞こえているような気さえしているのではないでしょうか。なりふり構っていられないようです。

「―――好きにしてください」
「ちがうよ。あんたはどうしてほしいの」
「――――――」
「何が欲しいんだい」

秋穂の眼前を黒い陰影が横切りました。隆々とそびえ立つそれはすでにスタンバイの状態です。
 同じようになった他の三本も妻の顔に向かって、突きつけられました。

「あなたたちの―――」
「俺たちの―――なんだよ?」
「―――熱くて硬いものを」

 秋穂は吐息まじりにそうささやきました。



卒業後 1
BJ 8/18(土) 03:05:29 No.20070818030529 削除

 母の病室はクーラーが効いてよく冷えていた。
「お医者様の話によると、腫瘍もたいしたことはないらしいの。念のために手術をして、早めに取り除いておいたほうがいいというくらいで」
 母の京子が話しかけているのは、彼女の兄で、遼一にとっては伯父に当たる相手だった。
「それは大事でないにこしたことはないけど、軽くても手術は手術だ。退院までは身体のことだけを考えて、安静をこころがけたほうがいいよ」
 そう言って、伯父は遼一を見、にこっと笑った。
「遼一のことは、俺たちが責任持って預かるよ」
 遼一はなんとなく、こくりと頭を下げた。
 そんな遼一を見て、母は笑った。
「おかしな子ねえ」
「遼一は今いくつ?」
 伯父は遼一を見ながら聞いた。しかし、遼一が答えるよりも早く、京子が横から口を出して、「15歳よ。七月で」と言った。
「安静にしてろよな、母さん」
 わざとふくれ面をして言う遼一に、京子はまたころころと笑った。
「―――いい親子だな」
 伯父が目を細めていた。
「・・・義姉さんはおいくつでしたっけ?」
「京子と同じ年だよ」
「そう? でもそれなら、まだまだ」
「子供がつくれるだろうにって?」
 京子はちらりと遼一を見てから、申し訳なさそうに伯父に言った。
「余計なこと言ってごめんなさい」
「気にしてないよ」
 淡々と、伯父は言葉を返した。京子はそれでも気まずいのか、急に口をつぐんだ。もちろん、この場にいる遼一も気まずい。
「ああ、そう言えば、前にも話したけど、今度、転勤することになってね。と言っても、半年に満たない期間の話だけど」
 場の空気を変えようとしてか、伯父が新たな話題を出した。
「電話で仰ってたわね。東京でしょう。義姉さんはどうするの?」
「今のマンションに残るよ」
「そう。大変ねえ。そんな時期にこんなことを頼んでしまって申し訳ないわ。でも、うちのひとも単身赴任で仙台だし、母さんは入院中だし、ほかに頼める人がいなくて・・・・」
「かまわないさ。遼一は来年、N高校を受けるんだろ? 大事な夏休みに寝食を不自由させちゃいけない」
「そんなに深刻な話じゃないのに」
 遼一が口を挟むと、京子が目を光らせて「何言ってるの。深刻な話です」と怒った。
「母さん、あのさ」
「どうせ安静にしてろって言いたいんでしょ」
「よく分かるね」
 目を丸くして見せる遼一に、母も伯父も笑った。

 病院を出た頃には、昼も三時をまわっていて、夏の日差しが暑かった。
 伯父の運転する車の助手席に遼一は乗った。
「でも良かったな。お母さん、元気そうで」
 最初の信号で車を停めたとき、ぽつりと伯父が言った。
「あのひとはいつも元気だよ。―――うん、でも良かった。ホントに」
 憎まれ口を叩いた後で、遼一は素直な言葉を吐いた。
「いい子だな」
「子供扱いすんなよ」
 わざと不良ぶった口調で凄んでみせる遼一に、伯父はまた笑い声を立てた。
「本当に面白い奴だよ、お前は」
 遼一が何か言う前に、信号は青に変わった。
「さぁ、早いとこ帰ろう。伯母さんが首を長くして待っている」
 そうだった。これから久しぶりに伯母と会うのだった。
 柄にもなく、遼一の胸は躍った。もちろん素振りには出さなかったが。
 伯父がぐっとアクセルを踏み込んだ。

 マンションのドアを開けると、伯母が落ち着いた足取りで現れた。
 変わっていない。遼一は安心した。そりゃ一年くらいで変わるはずもないが、同い年だという母のようになっていたらどうしようかと思った。・・・これは冗談でも母には言えない。
「お帰りなさい。―――お久しぶり、遼一君」
 伯母はまず伯父に言い、それから遼一を見て言った。
 相変わらずの細身に、涼しい目元。少し淋しげに見える雰囲気。
 伯母は相変わらず綺麗だった。
 遼一の胸はときめいた。
「お久しぶり、伯母さん」
 それから続けて気の利いたことを言おうと考えたが、何も出てこなかった。変な間が出来て、遼一は少し焦った。
「どうした、遼一?」
 面白そうな目で伯父は遼一を見た。
「いつものお前らしくないよ」
「あなた。遼一君はお母さんのことで大変なんですから・・・」
 伯母が庇ってくれたが、それが見当違いの意見だということは、遼一が誰よりもよく知っている。
 冷や汗が出た。
「まったく今日はひどい暑さだな。冷たいお茶をくれないか」
「すぐご用意します。とりあえず早く居間に入って、涼んでください。遼一君にはジュースのほうがいいかしら?」
「ジュースがいいです」うつむきながら答えて、遼一は靴を脱ぎだした。  

 居間はよく冷えていて、涼しかった。車から降りてマンションのこの部屋に入るまでに噴き出た汗が、あっさりと引っ込むくらいに。
 この部屋に入るのも久しぶりだな―――
 遼一は思いながら、部屋を見渡した。伯父が結婚したのは今から5年ほど前で、そのときにこのマンションに移り住んだ。前の住居ほどここは遼一の家と離れていないので、時折、母に連れられて遊びに来た。
 けれど最近は遼一も大きくなり、母もちょこちょことパートの仕事をするようになったので、訪れる機会はあまりなかった。
 久々に見るこの部屋はあまり物も増えていないが、埃ひとつないほど整然と片付いているのは昔のままである。
 ひとつ、見慣れないものがあった。海の上に浮かぶ、M字型の島?の模型だ。
「これ、何ですか?」
 遼一はその模型を指して、伯父に聞いた。
「ん・・・・ああ、それは天橋立の模型だよ。天橋立は聞いたことあるかい?」
「京都の名所でしょ」
「そう、去年の夏に旅行へ行ったんだ」
「伯母さんとふたりで?」
「そう・・・だよ」
 そのとき、伯母がお茶とジュースの入ったグラスを盆に載せて、静々と歩いてきた。
「どうしたの? 変な顔をなさって」
 伯母は不思議なものを見るように、伯父の顔を見た。



卒業 24
BJ 8/17(金) 13:27:11 No.20070817132711 削除

 夏目漱石に『門』という小説があります。
 重い過去に結び付けられ、閉じられた生活を送る夫婦を描いたあの作品を、私は共感と悲哀の念をこめて思い返します。
 閉じられた生活―――それはこの一年間の私たちの生活でもあったのです。
 そんな生活に粛々といそしんでいるような妻を、時にもどかしく思ったことも事実でした。
 もっと自由に、広い世界で生きてくれてもいいのに。
 そう思う私こそ、息苦しくなっていたのかもしれません。
 この世に二人きりのような、濃密な妻との暮らしに。
 そんな私たちの生活には、いつだって陰がありました。
 それは忍び、這いよってくるような一年前の記憶。
 妻はその記憶を恐れ、私も恐れ―――
 しかし、その一方で私は焦がれてもいたのでしょう。
 あの灼けつくような瞬間に。


「くぅ・・・・うぁ・・・っ」
 赤嶺の舌が秘口に入り込み、花びらの奥の膣襞までも舐めあげる度に、妻は身をよじり、熱い息を噴きこぼします。茹だったような火照りに汗ばんだ肌が光り、蹂躙の度に足指の先がくいくいと折り曲げられます。
 妻は長方形の卓の上に寝かされていました。両手両足をそれぞれ卓の手足に結わえ付けられ、身動きすることすら容易にならない格好で妻は固定され、赤嶺の舌の玩弄に晒されていました。

 赤嶺はそんなふうに妻を卓上に縛り付けた後で、まずは冷蔵庫から冷えた日本酒を取り出し、無残な妻の寝姿を眺めやりながら、一杯やりはじめたのです。
 その姿は征服した領土を宮城から見下ろす支配者の姿に似ていました。
 支配―――

「さっきから暴れどおしで瑞希も疲れただろう」
 ふんわりと笑いながら赤嶺は言って、指で妻の繊毛をかき分け、くつろげました。目隠しの上の眉間に皺が寄り、乳房が波立つのが見えました。
「これで舌を潤すといい」
 そう言って―――
 赤嶺は妻の下の口につっと冷酒を注ぎました。
「ひっ!」と悲鳴を上げて、妻は腰を引こうとしました。もちろんその動きは成功しませんでした。
 杯にされた妻の女園を、透明な酒が満たしてゆきました。
 かつて織田信長が、討ち取った敵将の頭蓋を杯にしたというその行為よりも、妻にとって、そして私にとって、赤嶺の行為は蹂躙と呼ぶにふさわしいものでした。
 そして今、赤嶺の赤黒い舌は酒盃を綺麗に舐めとっています。美麗な縁取りも、なめらかな杯の底も、何もかもを。
 しかし、赤嶺はいつまでも酒盃を干すことは出来ません。杯の底には新たな潤いが後から後から生まれ、赤嶺の舌を愉しませることをやめないのです。
 ぴちゃぴちゃ、と―――
 赤黒い舌が、そして妻の秘部が、卑猥な音を辺りに響かせていました。

 これが私の希んだことか。
 これが私の渇望した情景なのか。
 濁り、灼熱した頭蓋の奥で、ただひとつたしかな事実は、私が妻との静かな生活の中に、赤嶺という名の男を呼び込んでしまったことだけでした。
 自ら、門を開いて―――

 しかし、その赤嶺という男は、到底私の手の範疇に留まるような男ではありませんでした。
 この世が支配するものとされるもので分けられるとすれば、赤嶺は確実に前者なのです。 

 その支配者―――赤嶺がようやく妻の紐を解きました。
 先だってからの連続的な刺激と、膣の奥から吸収されたアルコールで妻の肌はいよいよ紅潮しています。
 危ういくらいに。
 紐を解かれた後も、妻は卓から身を起こすことも出来ないほどに消耗していました。ぐったりと横たわったまま、開かされた足も閉じることの出来ないほど。
 開いたままの妻の陰部から雫がねっとりと垂れ落ち、卓の上を濡らしていました。 
 先ほどまで紅い花のように思えたその部分は、拷問めいた長い愛撫に充血し、腫れぼったくなっています。
 散花―――
 そんな言葉を、私は思い出しました。
「仕置きは終わりだ。辛かっただろう。でも、もうこれで素直になれるんじゃないか」
 赤嶺は猫なで声で言いますが、妻は放心したように横たわったまま、ぴくりとも反応しませんでした。
「腰が抜けてしまったようだな」
 苦笑しながら赤嶺は言い、すっと妻の腕を掴んで、畳の上に引き下ろしました。
 ずるり、と音を立てるように、妻の肢体が畳の上に崩れ落ちました。
 赤嶺はそんな妻を四つん這いの格好に這わせました。
 目隠しされた妻の顔は、私の正面を向いています。
 一年前と同じように。
 もはや意識が曖昧模糊としている妻に、そのことを思い出す余裕はなかったに違いありません。しかし、私は赤嶺の意図を感じました。
 ぞわりとするような冷気が総身を走りぬけ、汗が滴りました。
「いい格好だ」
 妻ではなく、私を見ながら―――赤嶺は言い、妻の双臀のあわいから秘園をぽんと叩きました。
「あうっ!」
 限界に近づいて意識を喪失してしまったような妻が、高く悲鳴を上げて、色白の臀部を震わせました。その躯の反応は「仕置き」を受ける前よりもずっと鋭敏で、峻烈で・・・、意識を失ってゆくのとは逆に、躯のほうはいよいよ研ぎ澄まされ、牝に近づいていくようで―――

 ぞっ、としました。

 赤嶺は自身の浴衣の帯を解き始めました。
 ぱさり、と帯紐が、続いて浴衣が落ちて、頑強な赤嶺の裸体が現れます。
 赤嶺のものは天を突くがごとく、高くそびえたっていました。
 妻の躯に、
 私の心に、
 愉悦を、
 引導を、
 破壊を、
 混沌をもたらす肉の凶器。

 私の意識は混線したラジオのように乱れ、ざぁざぁと不穏な音を立てていました。
 過去が、未来が、幻影のように切れ切れに私の現在に入り込み、そのすべては赤嶺の切っ先の先端に集中していくようでした。
 どす黒いその部分に。  

「今度は抑えるなよ」

 赤嶺の囁きが聞こえます。

「思うがままに愉しめ」

 思うがままに―――
 それは―――お前の―――


 赤嶺が腰を落として、妻に近づきます。
 くぐもった声が、妻の喉から漏れました。
 おそらくは意味のない言葉、だったのでしょう。


 日常を守ろうとしたもの。
 日常を壊そうとするもの。
 私に関わる二つの存在が、今、眼前で、一つに繋がろうとしていました。


 ひゅう、ひゅう、と。
 私の喉から、先程の妻のような息がかすれ響いています。


 赤嶺の手が、妻の細腰に伸びました。





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妻の入院 76
医薬情報担当 8/16(木) 18:22:01 No.20070816182201 削除
 山村看護師の独白は、私の手を静かにマッサージしながら、訥々と続いていました。

 はるひ… 春に太陽の陽で、春陽は、とっても真面目な子でした。しっかり者で、よく笑う素直な新人だったから、私も目をかけていたの。
 そうよ。真夏のお姉さん。
 ホントはあなたも見たことがあるはずだけれど、覚えてないでしょうね。
 私、春陽と働いているうちに、どこかで見たことがあるなって思ってたんだけれど、それは、あの子が先に気がついた。
 春陽は、似ていたのよ、美穂ちゃんに。ううん、顔立ちは、まったく違うわね。写真で見たら似ているなんて思わないと思う。
 でも、雰囲気がそっくりだったの。高校生の美穂ちゃんが成長したら、こうなるんじゃないかって思えるくらい、似ていたの。
 考えてみれば、私がちょっかいを出さなくても、あれは純粋な初恋だったんだから、美穂ちゃんとは良い思い出だったわけでしょうね。
 めったにないけど、里帰りしたあの子は、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄みたいなものだったってわけね。
 真面目な子だから、春陽は、きっと、付き合っていることを誰にも秘密にしようとしたんでしょうね。
 最初、気がつかなかったのよ、私も。でも、春陽は妊娠したの。それを、私に相談してきて初めてわかった。
だから、焦ったわ。
 だって、春陽は特別良い子だもの。あの子の凍てついた心を溶かしてしまう温かさを持っているのよ。
 私の頭はいっぱいになった。
 このままでは、あの子が幸せな結婚をしてしまうって。
 
 しばし、言葉がとぎれました。
 わずかに首を動かすと、山村看護師は、放心したかのように虚空に視線が泳いでいました。
 私の視線に気がついたのか、わずかに、自嘲気味に頬をゆがめます。
 
 酷いことをしてしまった。
 春陽は、私を頼ってきたのに、それを利用してしまった。
 簡単よ。だって。
 妊娠した、金で解決するって言ってる、そう伝えたら、あの子は疑いもしなかった。
 やっぱり、あいつもか、って感じでね。
 その時は、私の心は夜叉が取り憑いていたのね。
 あの子の幸せを邪魔してやった、これで良い、一生涯、幸せを捕まえさせてなるものかって思ったのだけれど。
 でも、春陽のこと、ぜんぜん考えてなかったのよね。
 あの子も、それなりにショックだったみたいだけれどね。
 真夏には、できる限りのことをしてあげなきゃと思って可愛がったのよ。
 お姉ちゃんとはまったくタイプが違うけど、素直で、とっても良い子で良かった。
 仕事になれてきたら、今度は落ち着いて、真夏の幸せをつかんで欲しかったわ。
 それに、最初は、あの子のことを、明らかに憎んでいるってわかったわ。そりゃ当然よね。仲の良い姉妹みたいだったから、何か聞いていたのでしょうし。
 だから、まさかだった。
 血は争えないと言うのかしら。
 いつの間にか、あの子は真夏に手を出してた。
 ううん、真夏自身が、いつの間にか、あの子に惹かれていたのだと思うわ。
 ただね、あの子の心には、幻影があったのね。
 そう、美穂ちゃんよ。
 だって、春陽は美穂ちゃんの代わりだったのに、その春陽は、遠いところに行ってしまった。
 妊娠と引き替えに金をせびる汚い女のまま、二度と文句の言えないところへね。
 あの子にとって、あの自殺は相当なショックだったのね。
 だから、それを何とかするには、いくら他のオンナを手に入れてもダメ。自分が信じられる女を手に入れるしかなかったの。
真夏には可哀想なんだけれど、あの子にとっては、お姉ちゃんの時とは違うの。
 言うなれば、いくらでも取り替えが利く女の一人に過ぎなかったわ。

 その時、妻の甲高い悲鳴のような声が聞こえてきました。
 おそらく、妻の身体を剃り終えて、再び妻の身体に押し入ったのに違いありません。
 悲鳴のような声でありながら、その声に、最初から甘いものが大量に含まれていた気がしました。
 それは、既に、たった一度であっても、奥深くまでオトコの毒液を受け入れた女の「慣れ」を、感じさせるには十分なものでした。
 快楽の神経を全てオトコに差し出して、妻が犯されている。
 いえ、私とのセックスでも聞いたことのないような、いやらしい声を上げ続ける妻を、もはや「犯されている」と言っていいものかどうか。
 悲しみと、悔しさ、そして、怒りをこらえながら、身体が震えます。
 それなのに、他のオトコの怒張を受け入れながら快楽に震える妻の声を聞いていると、私の怒張だけが、別の生き物のように突っ張ってしまったのです。
 もちろん、それは、私を抱きかかえるようにしている山村看護師にたちどころに知られてしまいます。
「あぁ、そうよね。ごめんなさい。私にできる事なんて、これくらいだけど」
『やめろ!何をする!やめろ!』
 後ろから抱きかかえた山村看護師が、いきなり、私の怒張を取りだしてしまったのです。
 しなやか動きに、熟練を感じさせました。
「いいのよ。このまま、してあげるから」
『良くない!』
 手の縛めは、とっくに解かれているとはいえ、まだ肘から先の感触がほとんど戻っていません。
 もちろん、肘でふりほどこうとしますが、一度怒張を扱かれてしまうと、本気で、山村看護師の手をふりほどけない自分に気がついてしまいました。
 この手が、あの男の怒張も扱いた手なんだと思おうとしても、耳に入ってくる妻の嬌声が、私の怒張をこれ以上ないほど膨らませ、はち切れそうにしてしまうのです。
 今、この瞬間、怒張を締め付けているものがなければ、怒張が弾けて飛び散ってしまいそうな気がしたのです。
 その上、あの、色気のかけらもないはずのベテラン看護師のテクニックは、今まで出会ったことがないほど巧みなものでした。
後ろから抱きかかえるように回り込んだ右手は、その巧みなテクニックを駆使して私の怒張をしごくのをやめませんでした。
 緩急を変えながら、巧みに、指の力を入れ、カリを刺激しながらも、全体を握りしめる動きがたまりません。
「あ、あうあう、いやあ、あ!あ!あ!」
「じっとして。いいのよ。」
 妻の切迫した声と、耳元で囁く声が重なります。
 ゆっくりとした動きで、そのまま床に寝かされます。
 私の頭が床に激突しないように、静かな動作でしたが、そのために怒張から手が離されると、もう、それだけで耐えられないように、怒張が疼きます。
 知らずに、腰を突き出すように浮かせてしまいます。
「あう、あぁ!あうぅ、うっく、あ、あ、あ、あうぅ」
 切迫した声が、妻の絶頂が近いことを告げていました。
 寝そべった私の怒張がヘソの方に倒れ込んでいるのを巧みに扱かれ続けます。
「あ!だめぇ!う、あふぅ〜 あ! あ! あ! あ! だめぇ!」
「出そう?」
 思わず、頷いていました。
『うわっ』
 突然、私のモノが、柔らかなモノに包まれたのです。
 妻の、そして、真夏の口の中よりも、すこしだけ温度が低く感じる、山村さん口でした。
 先端が喉に当たっている気がしました。
 軟体動物のような舌が、私に絡みつき、どのようにしているのかわかりませんが、何カ所もいっぺんに、きつく巻き付いてくるように動きます。
 更に切迫した妻の声が響きます。
 確かに、私を包む口技は巧みでしたが、それ以上に、私が手を出せない向こうで、妻が上げるいやらしい声が、私にブレーキを踏ませてくれません。
 まるで、中学生がフェラチオを初めて受けたかのように、私はこらえようがありませんでした。
「あ、いやあ、あぁ、い、いちゃう!い、いく、いく、あ、あ!あ!あ!あっ!いやあ、いくう!」
『ぐぅ〜』
 妻の声と同時に、私は引き金を引いてしまいました。
 いえ、私が引き金を引いたのではなく、強制的に搾り取られるような、そんな射精だったのです。
 妻が逝く瞬間、きっと、男も、もう一度妻の身体の奥深くに射精しているはずでした。
 男の射精を受け入れながら、思わず出してしまうオーガズムを告げる声。
 妻が男の精を受け入れてあげる悦びの声を聞きながら、私もまた、別の女の喉の奥深くに、ドクドクと湧き出すような射精をしていたのです。 
 驚くほどのテクニックでした。射精している間も、絡みつく舌と唇が、まるで最後の一滴まで絞り出すように動き、それすらも、腰の奥を溶かすような快感を生むのです。
 後れ毛の間にわずかに見える、思わぬほどの白い喉が、コクリと私の放ったものを飲み下すのが見えていました。



千代に八千代に
信定 8/16(木) 10:01:37 No.20070816100137 削除
第一章

 大量の魚が浮かんでいる、と言うのが第一報だった。
更に一帯の木々が枯れ始めている。
原因は銅の採掘にある、のようなニュアンスで新聞紙で報道された。
翌年、大雨の影響で河川が氾濫した。
製錬所が排出する硫酸銅が流出し、流れた土砂が大量の河水で押し流され、田畑を直撃した。
堆積した汚染された土砂で、田園の稲が枯れるという被害が続出する。
魚が浮かんでいる流域だけではなく、多方面まで大洪水の影響で鉱毒の被害が拡大した。
やがて川の魚が死に絶え、沿岸漁民は失業した。
村では亜硫酸ガスの煙害により果樹、桑樹などが全滅。
現金収入の道も閉ざされ食物もなく、ガスで身体は壊され乳児のための母乳も出ず、悲惨の極へ向かった。
周辺山林の荒廃ぶりに目を覆うばかりであった、との続報が流される。

 当時、銅は掘り尽くされたとみなされていたが、有志から資金援助を受け近代化を進め、
今まで採取できなかった深い位置までも発掘できるようになり、
皮肉にも公害が報道された前年に、遂には大鉱脈を発見し生産量の増大に貢献したのである。

 公害の発覚以降、国会でもたびたび鉱毒の問題を取り上げられ全国に知れ渡ることになった。
立ち上がった住民数千人が、直接談判に上京した。
会社側が農民に示談金を払い、数年後までに対策を行い善処し、鉱毒をなくすという内容で示談を行わせた。

 だが約束の数年後、再びの大洪水で更に鉱毒が拡大し、完全な対策がなされていないことが判明した。
銅の生産の存続をどのように進めるかがまず前提にあり、次に住民への対策はどうするか、となるわけだ。
一番目が住民の要望と全く異なるから、対策がおざなりになるのは当然とも言える。
おのが利益のため、一部の住人には泣いて貰うしかない、と考えていたに違いない。
その一部の人間の生命を奪ってでも、である。
国益のため、を隠れ蓑とし、弱者を切り捨て、己の懐を暖めることばかりに躍起になり、
企業と癒着する官僚や政治家の所業は、平成の現在まで脈々と受け継がれている。
唯一ぶれることのない習性である。

 当然の如く農民側は怒り、示談契約書を根拠に再度交渉を行うが、示談金を与えるかわりに、
鉱毒被害の請求権を放棄する、という内容に切り替えた。
この後には鉱毒問題はなかったとも言い出したのである。
示談金の受け取りを拒否した農民などにより、反対運動はこの後も続き、不穏な空気に包まれていった。

 他県にまで被害が拡大しているさなか、川沿いの村に女が一人、ふらりと現れた。
元は艶やかであったと思われる着物は薄汚れ、所々裂かれたように破れ、足を引きずっている。
汚れを吸い取った髪は全てほどけ、重たげに腰まで垂れ下がっている。
草履もすり切れ殆ど用をなさない。
何かに擦ったような傷跡から血が滲む白い素足が痛々しかった。

 女は農家を徘徊し食い物を乞うようになる。
農民は気味悪がり、残飯などを少々与えると戸をピシャリと閉めてしまう。
お堂の裏に身を潜めていたが、数日後、行き倒れ状態となる。
老人夫婦が見るに見兼ねて介抱しているうち、女が身籠もっていることに気付いた。
驚いた老夫婦は女を家に連れて帰った。
このまま放り出すわけにもいかず、居座らせることにした。
接しているうち、礼儀作法をわきまえた知的な女であることが次第に分かってきた。
日を追うごとに膨らんでくる腹を抱え、女は懸命に働いた。
老夫婦もその仕事ぶりにハラハラするが、動いていた方がおなかの子には良いのです、と白い歯を見せ、
朝早くから夜遅くまで炊事や洗濯、農作業を手伝ったのである。

 やがて玉のような赤ん坊が産まれた。
体力を消耗したせいもあり、産後の肥立ちも悪く、しばらく動けなかったが、
老夫婦が赤ん坊を奪い合うように可愛がる姿を見て女は涙を流していた。

 女は名をミリと言う。
名を聞いた老夫婦は「珍しい名だんべぇの」と首を傾げ、名字を聞くが名はこれだけだと言う。
何度も呼んでいるうち慣れたせいもあり、老夫婦は名に関して深い詮索をすることはなかった。
産まれた赤ん坊は庄次郎と名付けられた。
庄一郎という名の息子を戦争で失っている老夫婦は、そう名付けてもらえないかと申し出た。
ミリも反対する理由などないし、老夫婦に名付け親になって欲しいとさえ思っていたほどである。
老夫婦は庄次郎を我が孫として育てるようになり、
二人には自分らの名を名乗らせ、櫻井ミリ、櫻井庄次郎とした。



妻の入院 75
医薬情報担当 8/15(水) 19:22:30 No.20070815192230 削除

「ひどいコトしてるって思ってるでしょ。そう思われて当然だけど」
 耳元で山村看護師が囁きながら、私の手足をさすります。
「どう?感覚、戻った? …まだみたいね。そろそろのはずなんだけど。あの子ったら、ほんと、むやみに打つんだから」
 後ろから支えるように床に下ろしながらの、思わぬほどの優しげな声でした。
「ごめんなさい。こうしないと、あの子はすぐにでも、あなたを殺そうとするわ。そうなったら私も止められない。あの子が満足してくれれば、少しは話ができるかも、なの」
床に下ろされる瞬間、妻の左脚にあの男が手を伸ばすのがチラリと見えました。例のローションを拭き取ろうとしているのでしょう。
「信じてもらえないと思うけれど、話を聞いて。あなたに、とっても迷惑をかけてしまった。お詫びしても、しきれないと思う。だけど、ここまで突っ走ってしまうなんて思わなかったの。もう、私にも止められなくなってしまった」
 
 どうやら、麻酔が切れるまでの時間稼ぎと、あの男の自尊心を満足させるために、妻の秘毛を剃らせたようでした。
 しかし、私に打たれた麻酔は、ごく当たり前の量を大きく超えているようで、元に戻るには、相当な時間がかかると見たようです。 
 それでも、後ろから、私を抱き締めるように支えながら、縛めを解いた私の手を、そっと、そして、懸命なという態度でマッサージを続けます、
 感覚がわずかに戻るような気配を感じるだけのもどかしさの中で、山村看護師の、小さな声の独白を聞いていました。
 
 ねえ、愛人でいるって、どういうことかわかる?
 確かに、看護婦なんかをするより、よっぽど高いお手当と、そして、豪華なマンションをもらったわ。
 だけど、どれほど、奥さんと冷たい関係なのかと聞かされても、しょせん、その家に帰っていくのよ。
 そのうち、あの人に、子供が生まれた。おかしいわよねえ。セックスレスのはずだったのに。ま、後で聞いたら、人工授精だったって言ってたけど。
 私、子どもと母親が退院した日に、お祝いをしに行ったの。かわいいベビー服を買って。その袋の一番下には、包丁を持ってね。
 初めから刺すつもりだったわけじゃないのよ。ただ、許せなかっただけ。
でもね あの人ったら、私の顔を見て、真っ青になってた。
 あんなに怯えた顔をしたあの人を見たのは、初めてだったの。
 おかしいわね、それを見たら、なんだか、ばかばかしくなっちゃって。だから、袋ごと、ぽーんと投げつけて、子どもの顔も見ないで帰って来ちゃった。
 でも、もっと、ばかばかしくはなったのは、こんな人を私は愛していたんだって、なんだか、自分がバカみたいだったってこと。
 あら、バカにしないでよ。愛してなければ、お金だけだったら、愛人さんなんて、そう長くは続かないわ。
でも、しょせん、愛人の身だもの。私が身ごもれば、きっと手切れ金でチョンよ。生みたいって言っても、決して許さなかったでしょうね。あの人。
 だから、あの人が生まれたての赤ん坊を大事そうに抱いている姿を見た時、そう、あの人が「優しいパパ」になっているのを見た時、私は心に決めた。
 何があっても、この赤ん坊が幸せに近づくのを邪魔してやるって。
 
感覚が思うように戻らぬ手にマッサージを受けながら、ふと見えたその横顔は無表情でしたが、その目には紅蓮の炎が見えた気がしました。
 しかし、言葉だけは淡々と、話が続きました。
 その内容たるや。恐ろしいものでした。
 人工授精で誕生したのを利用して、卵子を別の女、つまり山村さんが提供したものを使ったと、母親に信じ込ませたのです。
 看護師ならではのディテールが、それを信じ込ませるのに有効だったようです。
 知らないうちに、愛人の卵子を使った子供を産ませられた。
 母親がそう思いこんだら、その子どもを愛せるはずもありません。
 まず、あの男から母親の愛を奪ったのです。
 そして「母親代わりの愛」を注ぎ込んで、自分ばかりを見るようにし向けた。
 もちろん、その不自然に固い結びつきは、母親の疑念を、確信に変えたのでしょう。
実の母親から遠ざけられ、父親の愛人に愛される。
 おまけに、次々と女性をくっつけては、手練手管で別れさせたのです。
 妻とのことは、その最初の企てだったようです。
 単なる幼なじみの境界を越えさせようとして、中学生になっても、一緒にフロにはいるように仕組み「間違い」を期待した。
 幼い二人の初恋が芽生え始めると、巧妙に幼い心を操作して、疑心暗鬼に追い込んだ。
 長年、愛人として暮らした年月が、その残酷な振る舞いを一層巧妙にしたのかもしれません。
 男の信頼を全面的に受けていれば、大学生のガールフレンドができても、思うとおりに別れさせることが可能だった。
 それは、妻と別れさせた頃、つまり思春期の性欲が募る頃から「母親」だけではなく「身体の相手」もするようになっていたことをフルに利用したのです。
 肉欲と愛情を使い分けて、初めて可能だったことでしょう。
 もちろん、金もあって、マスクもあり、医学部生でもある、あの男には、寄ってくる女はいくらでもいました。
 しかし、いつのまにか、言い寄ってくる女は金目当てだ、本当に愛してくれる女なんていやしないと、思いこむようにさせていたのです。
 次々と、ガールフレンドはできても、自分を本当に愛してくれる女はいない。
 その思いが、男の心をゆがめていった。
 女に不信感を持ったままのあの男は、着々と「幸せには近づけない」状態に、そうとは知らずに追い込まれていったのです。
 母親の愛も、本当の愛も信じられぬようになったまま、あの、不幸な出会いがあったのです。



卒業 23
BJ 8/14(火) 19:34:46 No.20070814193446 削除

 玩弄―――
 としかいいようのない動きで、赤嶺の手指は柔弱な妻のおんなを責めつづけます。
 その手指は妻の秘奥から溶け出した流露で、ぬれぬれと光っていました。
 鼻頭をうっすらと染めた顔を小刻みに振りながら、妻は身悶えを繰り返しています。
 薄布で隠された瞳は、今、その瞼に何を見ているのか。
 いつだって私の真実を揺さぶらずにおかなかったあの澄んだ瞳は―――

 赤嶺の膝に乗せ上げられた妻の裸身が、ひどく覚束ない動きでうわずり始めました。
「うっ、うっ・・・・・」
 断続的に洩れ聞こえる苦しげな微吟が、次第に大きく熱っぽくなっていくのが分かります。赤嶺の手指が蛇の舌のような陰湿さで妻の秘口を撫でまわす度に、細い腰がびくりと跳ね、形の良い椀型の乳房が重たげに揺れました。
 肉芽を弄んでいた赤嶺の掌がその乳房をわしづかみました。
「熱いな。乳房がかたく張っている。動悸もすごく早い」
 黒髪の流れ落ちた妻の耳朶に囁きかける赤嶺。その手に囚われた胸乳は、ぶあつい掌でつよく握られた白餅のように、歪み、たわめられていました。
 乳房を覆う手の人差し指が伸びて、もう一方の隆起の頂点に触れました。
「ん――――っ」
「乳首もこりこりの勃ちんぼ状態だ」
 赤嶺は唇の端を下品に歪めながら、世にも娯しそうな声で囁きました。
「いやらしい―――躯だ」
「ううっ」
 啜り上げるような短い泣き声をあげて、妻の顔が天井を向きました。露わになった白い喉首が、何かを飲み込んだときのようにくっと動くのが見えました。
「今さら羞ずかしがらなくても良い。瑞希の躯がそれだけ女として優秀だというだけだ」
 あからさまにからかう口調で言って、赤嶺は掴んだ乳房をゆるりと揉み上げました。
「感じやすい―――いい躯だ」
 今度は私の目を見ながら―――
 赤嶺は言いました。
 私に答える言葉などないと知りながら、この男は。
 この男は。

 赤嶺の太い腕に抱きしめられた妻の白裸は、薄闇に溶け出してしまいそうなほど、輪郭がぼんやりと霞んでいて―――
 ひどく、不安定で―――
 見ているこちらの心まで、頼りなく不安にさせるほどに。
 ―――いや、本当に私を不安にさせるのは、その白皙の裸身を我が物のように抱いている男の目です。
 不敵で、自信に満ちていて、それでいて底の見えない、
 闇のような目―――

「もう―――許して」

 不意に空気を切り裂くような哀訴の声がしました。
「これ以上はもう―――もう」
 うわごとのように、悲鳴のように、妻は叫びながら、激しく頸を振りたくりました。ほつれた黒髪がばらばらと乱れ、なびく様が、凄艶な舞いのように見えました。
「お願いします―――お願いです」
 普段の落ち着いた口調からは想像もつかないような切迫した響きで、妻は、お願い、お願い、と繰り返します。その様はあまりにも哀婉で、悲痛で、見つめる私のほうも絶叫したくなるほどで―――
 けれども、私はかすれ声ひとつあげることが出来なくて。
「―――近いんだね?」
 代わりに妻の朱に染まった耳朶に囁いたのは、赤嶺でした。
 妻は答えませんでした。答える代わりに、哀訴の声を繰り返すだけでした。
「我慢しなくてもいい。思い切りいけばいい。思い切り声をあげて、悦びに身を委ねればいい。大丈夫、瑞希の羞ずかしい姿を見てを笑うものはいないよ。ここには二人だけだ」
 軽やかに歌うように言った後で、赤嶺はにやっと笑い、口に出したばかりの自らの言葉と矛盾するようなことを平然と続けました。
「そのほうが―――壁もよろこぶ」
 いましめられた両手を揺さぶって暴れていた妻の肢体の動きが、止まりました。
「瑞希はそのために来たのだろ?」
 先程まで徹底的に私を無視しながら、都合のいいときにだけ、私の存在を妻を縛るダシに使う赤嶺に、そのとき、私は燃えるような憎悪を感じました。
 赤嶺の言葉は、両手のいましめよりも、目隠しよりも、妻の力を削ぎ、殺してしまいました。放心したように妻の総身からがっくりと力が抜けるのを見て、私はやりきれなさでほとんど涙ぐみそうになりました。
 聞かなくていい。そんな男の言葉など。
 考えなくていい。私のことなど。
 痛切にそう思う気持ちは真実なのに、彼女を今の運命に追い落としたのは、他の誰でもなく、この私自身であるわけで―――

 何だかひどく悲しくなりました。

 言葉で妻にもう一重の呪縛をかける前も後も、赤嶺の手指だけは妻の縛られた裸身を弄るのをやめませんでした。秘園も、そこに咲く花びらも、白く盛り上がった乳房も、ぴんと張りつめた乳首も、敏感な腋下も、太腿の付け根のくすぐったい部分も―――赤嶺は妻の躯のすべてを知悉しているような迷いのない手つきで、妻の奥深くに秘められたものを煽りたて、炙り出していきます。
「あっ、あっ、あっ・・・・・」
 火を点けられた妻の口から洩れる声の調子が高くなりました。色づいた胸が波立ち、苦しげに喘いでいるのが見えます。
「我慢するな。そうすれば苦しいだけだ。抑えないで声をあげろ。壁を愉しませてやれ」
 冷酷な声で、赤嶺は命じます。

 妻の背筋が反りかえり、鼻腔から抜けるような吟声に啜り泣きの調子が混じりました。
 紅潮した頬、額には玉の汗が浮かんでいます。
 妻が身を震わせた瞬間に、その汗がぽつり、と落ちる様が、スローモーションのように私の目に映り―――


 ああ――――
 私は胸の内で、長く引きずるような叫びをあげました。


 ワルツを奏でるように赤嶺の手指が白と紅の鍵盤を弾きます。


 妻の背がぐっと伸び上がるのが見えます。


 その顔が哀しいほど、きつく歪みました。

 
「―――――――っ」


 妻の喉首が引き攣れるように動き、
 ぱあっ、とその肢体に微光がかがやきました。


 高みに達した妻の肢体が軟体動物のようにぐにゃりと折れ、崩れ落ちるように天上から地上へ―――赤嶺の身体の上へ墜落しました。
 ひゅう、ひゅう、と。
 妻の喉から、苦しそうな吐息が洩れています。
 そんな妻の様子を赤嶺は冷然と眺めていましたが、不意にその手が子供を撫でるように、もたれかかる妻の頭にそっと触れました。
「堪えたね。声を抑えるなと言ったのに。馬鹿だな」
 不思議なほど優しい口調で呟いた後、しかしその口調と相反するようなことを赤嶺は言いました。
「―――お仕置きが必要だな」



妻の入院 74
医薬情報担当 8/14(火) 18:27:01 No.20070814182701 削除
 妻がぐったりしたのは、ひょっとして、失神したのかもしれません。
 短い、獣のような交わりなのに、妻の「オンナ」は、たっぷりと悦びを与えられてしまったのです。
 男がぐっと腰を引く瞬間だけ、ヒクリとからだが動きましたが、それ以外、もはや妻の全身のどこにも、力が入っていませんでした。
 広げきった股間には、赤くはれぼったい美肉が見え、いつもの私のモノより数段大きなものに蹂躙された事を物語っているように思えます。
 何よりも無惨なのは、コポリと音がしたような気がするほど、勢いよく、白っぽいヌルヌルしたものが、尻の方へと流れ出たことです。
 こぼれ出た量からすると、妻の胎内に、恐るべきほど大量の精液を注ぎ込んだに違いありません。
 まるで男の妄執の大きさを物語るような、大量の白い毒液が、妻の美肉からあふれ流れたのです。
『美穂…』
 ずいぶん時間がたったような気もしましたが、実は、それほどの時間は経っていなかったのかもしれません。
 気がつくと、山村看護師が部屋に入ってきているのが見えました。
「どう?上手くいった?」
 その時の男の表情といったら、まるで、100点を取った子どもが母親に褒められた時の顔でした。
 その笑顔に、山村看護師がどんな表情を見せたのかは、こちらからは見えません。
「これで、もういいよね。ささっと片付けちゃおうよ」
『片付ける?』
「あいつと、それから、アレと一緒に」
「待って。まず、美穂ちゃんのことをちゃんとするのが先よ」
「ちゃんとって?だって、もう、ほら、こんな風にしたんだよ」
 口を尖らせた表情は、まるでだだっ子そのものです。
「う〜ん、そうね、とっても上手よ。だけどこれだけじゃ足りないの」
「だって。たっぷりと出してやったんだ。これ以上どうしろって言うんだよ。あ、ついでに後ろの処女もやれってこと?」
「そうねえ。後ろはまだ、って言っていたわね。それも良いかもしれないわ。でも、そうじゃないのよ」
「じゃあ、なんなの?」
 ヘソを曲げた子どものように、顔にはあからさまに不満が出ています。
「ちょっと待ってて、すぐ戻る」
「いったい、何なの」
 それには答えず、山村看護師が、つかつかと部屋を出て行きます。
 手持ちぶさたなのか、出て行った山村看護師を待つ間、といっても、ホンの5分ほどの間ですが、時折、こちらを見上げてニヤリとし、失神したままの美穂に触れます。
 まるで、落ち着かない様子で歩き回っていました。
 しびれを切らしかけるのを見計らったかのように、山村看護師は、再び現れました。
 盆の上に、なにやら載せたものを持っていました。
「さ、これ」
「何?これ?え、これって」
「そうよ。あなたが新たな夫になるんですもの。そのためには、このくらいやらないとダメ。あなた自身が、一本も見逃さずに、ツルツルにしておしまいなさい」
「へぇ〜、アソコの毛を全部ねえ。こういうのやったこと無いんだけどなあ」
 照れたような笑いは、今しがたの陵辱の悪意など、何もなかったような純粋な表情に見えます。
「オンナは、セックスだけではダメなの。そりゃ、これから、毎日、マコのお相手をするから、次第に代わっていくとは思うけど、何か、具体的に変わらないとオンナはダメなものなのよ」
「そうかなあ」
「よく言うでしょ。失恋したら髪を切るオンナは多いって。それに、えっと、ごしゅ、えっと、あの、前のご主人はきっと、そんなことをしたことはなかったはずよ。マコが最初にこれをするの。どう?」
「そうかあ、俺が最初かあ。そうだよなあ。あとで、後ろの処女はもらうつもりだけどさ。こういうのも良いかもね」
 男が、山村看護師から受け取った盆の中身を取り上げようとすると、すかさず、止められます。
「あっ、だめよ。まず、ローションを拭いてあげなさい。もう用は済んだでしょ?これ。長くつけているとドクよ。丁寧に拭いて、それから。できるわね?」
「うん。そうする」
「じゃ、私は、あの人を」
 初めてこちらをチラリと見上げました。
 相変わらず目に光のない表情でした。
「私が、あっちは始末しておきます。任せてくれて良いわ」
「へへ、ありがと。さすが、おばさん。あてにしてるよ」
 無邪気な表情の男とは対照的な表情を見せながら、山村看護師は部屋から出て行きます。
 それにしても、恐るべき事でした。
 犯しただけでは飽きたらず、妻に屈服の印として、剃毛を施そうというのです。しかも、それを、山村看護師が提案するなんて。
 さっき、部屋から消える時に「お願い」などといっておきながら、やはり、あれは、私を大人しくさせるための戦略だったのに違いありません。
 医者や、看護師という人たちはMRを人とも思っていないとよく言います。
 ベテランの山村看護師からすれば、目的のためなら、MRをだますくらい、何とも思わないのかもしれません。
 その瞬間、怒りは、あの男よりも、むしろ、山村看護師に向かいました。



卒業 22
BJ 8/13(月) 22:30:23 No.20070813223023 削除

 艶々とピンク色に光る妻の身体の中心に押し込まれた赤嶺の左右の人差し指は、これ以上ないほど肉の輪をくつろげ、その微細な中の構造まで剥き出しにさせています。
 幻燈に照らされて濃密に息づいたその紅い花が、瞳に灼きつくようで―――

 くらくらと私は眩暈を感じました。

「あう・・・・うっ・・・・」
 妻はしばらくの間、顔を左右に振りたくって羞恥刑から逃れようとしていましたが、そのうち、がっくりと頸を折って、赤嶺の肩に頭を預けました。
 花弁の奥まで剥き出しにされた花の紅さが広がっていくように、妻の色白の総身は仄かに色づき、特に隠された目元から頬にかけて、きわどく紅潮していました。
「瑞希のここは綺麗な色をしている。形も崩れていない。いいオ**コだよ」
 差し込んだ指でその部分をぴんぴんと広げながら、赤嶺は妻に卑語を囁きかけます。
「言わないで・・・・」
 消え入りそうな声で妻は言い、朱に染まった顔を赤嶺の肩にぐいぐいと押し付けて、隠そうとしました。捻じ曲がった頸や横顔に、乱れた黒髪が幾筋も落ちていました。
「あいにく美しいと思ったものには賞賛を惜しまないたちでね。それにしても瑞希のここは熱いな。指が火傷しそうだ」
 赤嶺のからかいに、妻の喉から短い悲鳴に似た声がしました。もう一度、じたばたとあらがおうとした妻の脚を自らの脚と腕でがっちり押さえつつ、赤嶺は柔肉に差し込んだ指の一方を外して秘口の縁取りをつっとなぞります。妻の太腿が攣ったようにぴくっとふるえました。敏感な反応に、赤嶺はくっと笑いながら、肉の閉じ目の上部に位置する薄桃の突起に指を這わせ、かるく摘み上げました。
「あうっ」
 美しくくびれた細腰から体格のわりに豊かな臀にかけて、妻の肢体に痺れが走ったのが見えました。
「いい反応だ」
 低いのによく響く声で赤嶺は言い、摘まんだ肉芽を抓るように今度はきつく指に力をこめました。
「んんんっ!」
 先程よりも強く妻の総身に雷撃が走り、耐え切れずに大きな声があふれ出ました。
「痛いのか? それとも気持ちがいいのかな? 瑞希の反応を見ていると、どちらにも取れるね」
「・・・・痛い・・・・」
 妻の息はすでに荒く、ようやく絞り出したような声は切れ切れでした。かすかに汗ばんだ胸元が大きく隆起しているのが見えます。
「それは悪いことをした」
 冗談めかして赤嶺は言い、緋色に染まった突起を親指と人差し指の腹で優しくさすりだしました。同時に柔肉に押し込んだ指を微妙に動かします。
「くう・・・・・っ」
 妻の鼻腔から息が吹き零れました。
 女性の快楽の壷を知り尽くした赤嶺の手先―――
 一定のリズムを保って馬を御していくような、憎らしいほど悠然としたその手指の動きに、妻の顔は先程までとは違う苦悶に顰められていきます。寄せられた眉根のあわいが時折、ひくひくと切なげに動きます。
 肉芽をやわやわと揉みあげながら、ぱっくりと開いた性器の外周と花びらの間の溝に、赤嶺は執拗に指を這わせ、撫で回します。同時に、ふるえを止められない妻の細い肩先から、微妙な陰影を刻む美しい鎖骨の線の辺りまで赤嶺の唇は這い寄り、妻の躯に秘められたいくつもの感応を呼び起こしていくのです。 
「ああ――――」
 思わず洩れた妻の吐息に、すすり泣くような響きが混じりました。
 その声はぞっとするほど哀切で、聞いている私までがおかしくなりそうで―――
 だというのに、私は異常に昂っていました。興奮と哀れみが混じりあい、狂おしいほど熱を持った目で、私は赤嶺に嬲られる妻を見つめていました。

 一年前、これとよく似た光景を、私はたしかに見たのです。
 脳髄に染みこむようなそのときの幻影は、あれからずっと私の脳裏に揺曳していました。
 ずっと、長い間―――
 そして、今まさにその光景は、現実に、再現されようとしていました。
 私の眼前で―――

「くっ・・・・・んん・・・・っ」

 赤嶺の指が蠢く度にめくり返される妻の汀。躯中の血が集まったようなその紅の濃淡が艶やかに光り、いつの間にあふれだした透明液が花びらにしたたって、妖しくきらめいていました。



妻の入院 73
医薬情報担当 8/13(月) 17:51:00 No.20070813175100 削除

 ぐったりとした妻の身体から、一歩下がると、半身を開いて私の方を見上げました。 ニヤリと笑った男は、グッと、腰をこちらに突きつける仕草をします。
 いいえ、腰ではなく、今しがた、妻の身体に強烈なオーガズムを与えたおのれの怒張を、私に見せつけようとしていたとしか思えません。
 男の怒張の先端は、確かに、濡れて光っていました。
 この怒張が、妻のオーガズムのボタンを押したのです。
 目の前で、いいように妻を弄ばれながら、私は、何もできなかった。
 縛められたロープをほどくどころか、抗議の声一つ出せぬまま、妻の「オンナ」が崩壊する瞬間を見守ることしかできなかったのです。 
『殺してやる…』
 しかし、現実の私は、赤子よりも無害な存在でしかありません。
 私に、つかの間、その大きな怒張を見せつけた後で、さっきと同じポジションにゆっくりと戻ります。
 こらえにこらえた後のオーガズムは大きくなるものです。
 入り口に男を当てられてただけで逝ってしまうほど、我慢した妻の快感の残滓は、妻の全身から力を奪っていました。
しかし、おそらく、男の怒張が、再び妻の身体に接触したのでしょう。
 身じろぎと、微かなうめき声を漏らして、妻の手足に、再び力が伝わり始めたように見えました。
「どう?逝っちゃったね。良かった?」
 あれほどはっきりと逝ってしまった後では、否定することもできないと悟ったのでしょうか。妻は何も言わず、ゆっくりと首を横に振るだけです。
「さてと、負けたお姫様は、勝った国の王子様のモノにならないとね」
 妻の全身がとっさに緊張しました。
「さ、結婚するんだよ。ずっと待っていた初夜だ。俺の大きなチ○○ポを、今、美穂に入れてあげるからね」
「い、いやあ!だめぇ!しないで!ああぁ!」
『や、やめろぉ!』
 妻の叫びと私の声にならない叫びが共鳴した瞬間、男の腰は、ぐっと妻の腰に近づいてしまったのです。
「やめてぇ、あぁ!だめぇ!ああぁ、そんなぁ、あぅぅ」
 男のゆったりした腰の動きに、導かれるように妻の、弱々しい声が聞こえます。
「やったよ、美穂。二人は結ばれたんだ」
「あぁ、やめて、あう、痛い、あう」
「ふ〜ん、今まで、ちゃんとしたチ○○ポを入れてもらってなかったんだね、可哀想に美穂。すぐ慣れる。ほら、こんなに濡れてるもの」
「だめぇ、あう!あう!いやぁ!いたっ! あうう、はふぅ、ああ…」
「ほら、すぐ馴染んできたろ?これからは、毎日、このチ○○ポを入れてあげるよ。ほら、ゆっくりとね」
「あう、やめてぇ、動かないで!やめてぇ、あうぅ」
「どうだ、感じてるね、美穂」
「感じてなんて、あぁ、いやぁ、やめて、あう」 
 ひょっとして、私以外のモノを入れてしまった心の痛みでしょうか。最初こそ、痛いと訴えても、男にじっくりと突き動かされると、結果はわかりきったことでした。
 相手は、ついさっき、オンナの入り口にくっつけてオーガズムを与えた怒張です。
 人妻が、濡れそぼって、ついさっき逝ってしまった身体を、じっくりと男にかき回されれば、快感を感じるなと言う方が無理なことでした。
「あ、あ、あ、あぅ、だめ、あう」
 短くも、鋭い声が、妻の口から一度漏れ始めると、もはや止まりませんでした。
 快感を告白してしまうその嬌声は、我慢することなどできもせず、男の腰の動きに操られるように自在に引き出されるようになってしまうのです。
 男の腰が大きく動けば、長く、悲鳴のような声が尾を引きます。
 速いストロークで動けば、短い声を立て続けに漏らし続けます。
 妻の首がときおり大きく左右に振られるのは、身体にこみ上げてくる快感を、どうにか捨て去りたいという仕草なのかもしれません。
 もちろん、そんなことが効果もあるはずありません。
 夫のものより、二回りも大きなモノを妻の身体に存分に突き立てられれば、逝ったばかりの人妻の身体は、こらえようもありません。
『美穂ぉ。くそっ、やめろ、やめろ、やめてくれ、頼む、やめてくれ、美穂から離れろ!』
 懸命に身体をねじ動かしても、びくともしません。
 微かに、予兆のような微かなものですが、腕の感覚が戻るような気もしましたが、かといって、自由に動くにはほど遠い状態です。
動くに動けない身体を懸命にねじり、もがきます。
 しかし、そんな私の惨めな努力をあざ笑うかのように、目の前では、着々と、男の怒張が妻を追いこんでいるのです。
「ほら、美穂ちゃん、いいだろ?ほら、これ、すごいよ、ますます濡れてきてる」
「あぁ、もう、もう、やめて、あう、お願い、やめ、あう!」
「恥ずかしがらなくても良いよ。夫のでかいチ○○ポに感じるお嫁さんは、良いことだからね。でも、ここが処女じゃない分、こっちはどうかな?」
「嫌、嫌、そんなところ触らないで、そっちはダメぇ」
「ふ〜ん、お尻の処女はまだなの?」
「いやあ、え?ど、どういうこと?」
「前の旦那のチ○○ポを、こっちに受け入れたことはないのかって聞いてるの」
「ダメ、そんなヘンなことするわけ。あう!もう、やめてったらぁ」
「よしよし、こっちは、後のお楽しみっと。こっちの処女を頂けるだけでもいいか。さってと、まずは、粗チンしかいれたことのな美穂をちゃんと逝かせてやるよ」
「だめえ、もうやめて、十分でしょ。もう」
「ダメダメ。美穂をちゃんと逝かせてあげる。精液を溢れかえらせて逝くと、さっきなんかと比べものにならないからね、さ、もう少しだよ」
「いやあ、やめて、やめて、ダメなの!中でなんて。そんなことぉ」
「大丈夫。ほらほら、良いだろ?すごっく締まるよ。ほら、俺のを飲み込んで、ヒクヒクしてる。さ、もうすぐ、美穂は逝くんだよ」
 言葉どおり、妻の仕草に余裕が無くなっていました。
 嬲るような男の言葉にも反応すらできなくなり、短く、鋭い、叫び声のような声を上げ続けるだけになっています。
 まさに、男に快楽をかき立てられているメスの反応そのものです。
 夫婦の営みを幾度となくしてきたはずのに、今の妻のせっぱ詰まった反応は見たこともないものでした。
「さ、もうすぐだ。ほら、ほら、どうだ」
「あ、あ、あ!あう!だ、だめ!あ、あ、ああう、だ、だ、だ、あう!い、いくう!」
 妻自身が望まなかったにしても、その反応は激烈でした。
 不自由な身体なのに、腰をぐいぐいと男にこすりつけるように突き上げながら、ここから見てもわかるほど、妻の背中が大きなブリッジを作ります。
「美穂ぉ、受け止めろぉ!」
『やめろおっ!』
妻に打ちつけられた腰がヒクヒクと引き連れるような動きで、男が、美肉の奥深くに放ったのがわかりました。
 男の怒張の大きさを考えれば、直接子宮にまで注ぎ込まれてしまったかもしれない、長い、長い射精でした。
 男の背中を見つめながら、視界がぼやけたのは、いつの間にか流れた涙だったのです。





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卒業 21
BJ 8/13(月) 03:19:15 No.20070813031915 削除

「もう―――やめて」

 細く高い声で、私の意識の空白は破られました。

 濁っていた私の視界に、再び妻が映ります。
 後ろ手に縛られた裸身を震わせるようにして、彼女は赤嶺の胸に顔を埋めていました。
 その肩は、しゃくりあげるように動いていました。
 赤嶺はそんな妻をしばし見つめていましたが、ふっと彼女の背後に回り、縛り合わされた両腕をぐいっと掴み下げました。
「あ・・・・・・」
 白い乳房がかすかに揺れ―――
 小さく声をあげた妻の上半身が上向いて、私の顔を正面に捉えます。
 

 私と妻の視線が―――絡みました。
 先程まで怯え、竦んでいた瞳が、今は放心したように揺れ動きながら、私を見つめています。
 その瞳を、後ろから赤嶺の巻きつけた薄布が隠しました。
 視界を奪われる瞬間、色を失った妻の唇がひくっと震え、白い歯がこぼれました。


 私は無意識に妻の名前を叫んでいました。
 けれども、それは声にならなかったのか、妻も赤嶺も反応を示しませんでした。
 ああ、聞こえないのか―――
 無理もない、と私は思います。
 あの男の言うとおり、私はただの―――


 手の自由も、視界までも奪われた妻は足元をふらつかせました。変色した光が妖しく照らすその下で、白くすべやかな裸身がくらくらと舞い動き、床に倒れる寸前で、赤嶺に背中を受け止められました。
「落ち着いて。心配ない。さっきも言ったように、瑞希はもうわずらわしいことからすべて解放されているのさ」
 瑞希。
 赤嶺は初めて妻の名を呼び捨てにしました。
 いえ、初めてではありません。
 一年前のあのときも、この男は妻のことをそう呼んでいました。
「何も考えてはいけない。悩むこともない。ただ歓びを感じればそれだけでいい」
 赤嶺は執拗に「考えるな」と繰り返し、妻に囁きます。
 何もかも忘れて、歓びだけを感じろ、と。
 それは妻に動物になれ、と言っているのと同じです。
 動物の―――牝に。

 赤嶺は妻を抱きかかえたまま、卓の上に腰掛けました。
 浴衣姿の赤嶺、彼の膝上には半裸の妻、その2メートルばかり離れた場所に壁と化した私が立っています。
 そろり、と赤嶺の手が最後に残された妻の下着に忍び入りました。
 くっ、と呻いて妻はあらがおうとしますが、その両手はすでに封じられてるのです。
 笑みながら赤嶺はそんな妻の細い頸に唇を這わせました。
「う・・・・・」
 かすかな声が洩れ聞こえました。
「敏感だな」
 赤嶺はくすりとまた笑うと、妻の眉間に深い縦皺が寄るのが見えました。
「取り繕うのはよしたほうがいい。ここには―――二人しかいないんだ」
 そう囁く赤嶺の目は、今度はしっかりと私を捉えていました。

 息を―――呑みました。

「今夜はすべてを見せてもらうよ」
 言いながら、赤嶺の手が動き、妻の最後の下着を取り去ろうとします。もじもじと脚を動かして、妻は必死に抵抗しますが、無駄なことでした。
 するすると、ささやかな繊毛の叢が露わになり―――

 妻は、生まれたままの素裸になりました。

 裸に剥かれた瞬間、妻はくうっと啼いて目隠しされた頭をむやみに振りました。
 頬が羞恥の色に染まっているのが、遠目からでもはっきりと見えます。
 薄明かりの部屋の中心。妻の雪白の裸身は暗い背景に映えています。
 闇に咲いた白い百合のように。
 その花に、闇そのもののような男が囁きかけます。
「やっと瑞希の身体で一番見たかった部分を見ることが出来た。身体つきは少し変わったが、ここの毛の生えぶりは少しも変わっていないな」
 からかうように言って、赤嶺の手指が艶のある妻の繊毛を梳きました。
 妻がもう一度、くうっと啼きました。
「いい毛触りだ」
 赤嶺は言い、妻のその部分を指でとんとんと軽くたたきました。
「ん・・・・っ」
 妻の朱唇から声があふれます。
「ふふ、柔らかい。ぞくぞくするね。早くこの中に入りたいと、俺の息子がわめいているのが感じられるだろう?」
 赤嶺の股間に乗せ上げられた妻の臀部がもぞりと動くのが見えました。
 私の腋下に、汗が、つっと伝います。
「でも焦るのはよくないな。極上のワインが手に入ったら、まず目で楽しみ、香りを楽しみ、その後でやっと味を愉しむ―――らしいから」
 自分の言葉を自ら茶化して、赤嶺は両手を妻の膝の下に差し入れました。真白なふくらはぎから太腿にかけての肉をニ、三度淫猥な手つきで撫で回した後、不意に赤嶺はその膝を両手で掴んでぐいっと押し広げました。
「ああ――――!」
 思わず弾き出たような妻の悲鳴、不自由な身での抵抗を、むしろ楽しむようにしながら、赤嶺は無情な手を進めていきました。

 私の真正面、卓の上に腰掛けた赤嶺。
 その男の上で、妻の身体の花芯にあたる部分が露わにされました。
 広げられた内股の眩しさと裏腹な、漆黒の繊毛。
 その繊毛の奥の、鮮やかな紅の裂け目。
 均整のとれた妻の肢体の中心に、そこだけ違和感のある生々しい女の器官。
 性器―――


 非現実的な光景でした。
 自分の目の前で妻が他の男に脚を開かされ、女性器を露出させている、その光景。
 それは幻怪で、狂的で―――
 眼球が割れそうに思えるくらい、
 卑猥、でした。


 妻はもがいていました。網の中に捕らえられた蝶が羽をばたつかせるように、哀れに身をよじって。
 けれども、両手を後ろに縛られた身ではその抵抗は、なめらかな腹から股間にかけてを波立たせるような、むしろより扇情的にさえ見える動作にしかならないのです。
 そして、実際に赤嶺は妻のそんな恥じらいの極みといった動きを、本当に楽しそうな目で見つめていました。
 ゆっくりと、赤嶺は妻の耳元に口を近づけ、その耳たぶを唇でやさしく噛みました。
 妻の総身が硬直します。
 耳たぶを噛んだ赤嶺の唇が、離れました。
「何をそんなに慌てているんだい。さっき予告しておいただろう。今夜はすべてを見せてもらう、とね」
 言い終わると同時に、ねっとりと赤い舌が妻の耳を這い―――
 広げられた太腿の中心に、節くれ立った男の指が伸びました。

「やめ――――」

 その叫びが終わるよりも早く、花弁は摘まみとられ、そして妻の秘部は光の下でくつろげられていました。



妻の入院 72
医薬情報担当 8/12(日) 11:40:00 No.20070812114000 削除
 それは、グニュグニュと中をこねるような動きでした。
 こんな事をされれば、既に崩壊の縁にある妻の肉体が耐えられるはずもありません、
 妻が逝く直前に出すあの声が、響き渡ります。
 もはや、妻の頭には、賭のことよりも、逝きそうになっている肉体の欲望だけがふつふつと煮え立っているはずです。
「やめて、あぁ、お願いよぉ、あう、だめ、だめなんだからぁ、ダメ、ダメになっちゃうから」
 妻がまさに逝きそうな声を出したときです。
 あと、ホンの数度、いえ、クリトリスをホンの少しだけクリンといじれば、崩壊する、その瞬間でした。
「あう、え?あう?あ、あう、ひ、ひどい!」
 まさに妻が逝きそうな瞬間、サッと指が外されてしまったのです。
「あうぅ」
 妻の腰がヒクヒクと動くのは、これ以上ない限界まで高められながら、突き放されてしまったオンナの無念を示している気がします。
「ああぁ」
 ため息でもなく嬌声でもない、もの悲しげな微かな声が、ここまで聞こえてきました。
 もっとして欲しい、とは口が裂けても言えなくとも、既に肉体が、それを求めて、一生懸命に身体を開こうとしているのです。
「逝きそうだったんだろ?」
「あぁ」
 もはや、否定する気力もないのか、妻の首がゆっくりと横に振られるだけです。
「どう?もう一度、俺のをくっつける?それとも、逝かせて欲しいかな?逝っちゃったら、賭は負けだよ。それでもいいよね」
 猫なで声は、既に陥落した獲物を弄ぶ意地の悪さをはらんでいます。
 妻の肉体は、これ以上ないほど高められて、そこで放り出されたのです。
 さっき、思わず「ひどい」と口走ってしまったのは、妻の肉体が、既に負けを認めている証拠でした。
 しかし、こうやって改めて「逝かせて欲しいか」と尋ねられれば、妻が頷けるわけもないのです。
 ひょっとして、私が見ていることは、意識の端から吹き飛んでいるかもしれませんが、夫でもない男に無理矢理弄ばれて「逝かせて」と頼むことなど、真面目な妻にとって、オンナのプライドが許すはずありません。
 まして、私のことが少しでも意識に残っていれば、何があっても、妻は逝かせて欲しいと言ってはならないはずでした。
「美穂ちゃん、どうする?逝かせちゃって良い?残り時間はあと5分だ。そろそろ逝かせちゃおうか?それとも、もう一度くっつける?どっち?」
 妻は答えません。答えられるはずもないことでした。
「早く答えないなら逝かせちゃうよ。残りは5分しかないんだからね。美穂ちゃんの負け。逝かせちゃおうね。その後でじっくりと…」
 男の手が、大きな動作で妻の腹を伝って股間に移動するのを感じた瞬間、妻の逡巡もそこまででした。
「やめて、お願い。ダメなの、もう」
「じゃあ、くっつけるよ。いいね」
 イヤイヤとつかの間、首を振りましたが、男の手が再び動くのを感じては、答えないわけにもいかなくなったのでしょう。
「あぁ。やめて、そこ、触らないで。くっつけていいから、さ、触らないで」
「そう、くっつけて欲しいんだね。じゃあ、くっつけてって言って、さ、もう、時間がないからね、あと5分だもの。さ、大きなチ○○ポを美穂のオ○○コにくっつけてって言うんだ。早く!それとも、賭の負けを認めるの?」
 秘唇の上を飾る毛をサラサラと弄られながらでは、男の命令を聞かないわけにはいきませんでした。
 あと、少しでも敏感なボタンに触れられれば、自分の肉体がどうなるか妻にはわかっていたはずです。
 ホンのつかの間のことであっても、賭に負けないためには、その恥ずかしい言葉を男の言うがままに口にするしかありませんでした。
「あぁ、だめ、あう、大きなおチ○○ポを、あう、いや、あう、美穂のぉお…」
「美穂の濡れ濡れのオ○○コだろ?早く!」
「ああ、許してぇ、あう、美穂の濡れ濡れのオ○○コに…」
「大きなチ○○ポを、だ」
「お、お、大きなおチ○○ポを、あぁ、くっつけて、くださいぃ」
 妻は、懸命に耐えようとしていました。
 崩壊寸前、いえ、一度は崩壊するはずだったオンナの身体を、何とか持ちこたえようとしたのです。
 そのために、恥ずかしい言葉を口にしたはずです。
しかし、妻は大きな計算違いをしていたのです。
 崩壊しかかったオンナの身体が、秘唇に怒張をくっつけられて、そのままでいられるはずがなかったということを。
 男がゆっくりと妻の身体に、腰を近づけていきます。
「ほれ、欲しかったんだろ。約束どおり、入れないが、こうしてやる」
 片手を前に差し出したのは、己の大きな怒張をつかんで、操作するために違いありません。
 おそらく、先端で、秘唇をグニュリとこすり上げて、そのまま、怒張で妻のクリトリスを突いたのでしょう。
 妻の手足に一瞬、力が伝わり、ピンと伸びました。
 白い顎が、ガクッと引かれ、次の瞬間、虚空に向けて持ち上がります。
「え?あ、あ、あ!い、いく、いく、いうぅ!あぁ!ああ!」
 ここから見ても分かるほど、妻の背中が浮き上がる、強烈なブリッジです。
 男の怒張を秘唇に感じた妻は、オンナの恥ずかしい神経を全て差し出して、達してはいけないオーガズムを得てしまったのです。



卒業 20
BJ 8/12(日) 05:16:56 No.20070812051656 削除

 私の心臓はすでに破裂しそうなほど脈動を早めていました。
 死の予感すら感じるほどに。
 いや、それは予感などではなく―――
 今宵、本当に、私の心は死ぬのでしょう。
 それは確信に限りない感覚でした。

「何にそんなに怯えているの?」

 赤嶺の声がして、私ははっと顔を上向けました。
 その言葉は無論のこと私に向けられたものではなく、妻の耳元に囁かれたものでした。

「さっきから、ひどく震えている」

 赤嶺の声は普段の彼からは信じられないほど優しい口調でしたが、私にはそれは悪魔の優しさに思えました。
 そして、今ここでこうして震えている私は、悪魔メフィストフェレスに自身の一番大切なものを差し出したファウストなのです。

 赤嶺の身が妻からわずかに離れ、浅黒い手が妻のなめらかな二の腕を優しくさするのが見えました。

「何も心配することはない。貴女は今夜、愉しむためにここへ来たのだ」

 愉しむ―――

 妻の両手を拘束して自由を奪った人間とも思えぬ言葉を吐いて、赤嶺はくるりと振り返り、私を見つめました。


「―――お前は壁だ」


 出し抜けに、赤嶺はそんなことを言いました。

「だから、動けないし、喋れない。ただそこに在るだけのモノだ」

 まるで事実そのままを告げるように、艶のある低音が響き渡ります。
 炯炯たる眼光が催眠術師のそれのように、異様な力で私を見据えていました。
 催眠―――。実際、この部屋の妖しく変えられた照明の光や、赤嶺の態度はまるで暗示をかける術師のもののようでした。
 頭の片隅でそんなことを考えながら、私はどうしても赤嶺の―――メフィストの視線から逃れられずにいました。

 赤嶺はそんな私をしばし見据えた後で踵を返し、部屋の隅に片付けられていた卓の上から薄い布切れを摘まみ上げ、もう一度妻の背後に戻りました。
「これから貴女の視界を奪う。貴女がより気兼ねなく、この夜を愉しめるようにね」
 赤嶺が囁きかけると、妻は一瞬その意味を考えたようでしたが、すぐにいやいやとかぶりを振りました。
「大丈夫。不安に思うことは何もないとさっき言っただろう。貴女はもう何も考える必要はないし、胸を痛める必要もない」
 言いながら赤嶺は妻の肩を抱き、ゆっくりと降り向かせようとしました。
「いや・・・・」
 そのことで、妻は先ほどよりも強いあらがいを示しました。
「いや? 振り返るのが? どうしてかな。後ろに彼がいるからなのかい」
 芝居がかった口調で言って、赤嶺は酷薄な微笑を浮かべました。


「心配しなくてもいいよ。後ろにいるのは貴女の主人などではない。―――ただの壁だ」


 そう告げられた瞬間―――
 自らの表情がぐにゃりと歪むのを私は感じました。
 なぜなら赤嶺の言葉はただの戯言ではなく、私という人間のすべてを否定し、粉々に打ち砕く言葉だったから―――

 赤嶺の言葉に、いっそう妻は抵抗を激しくしました。けれども、男の腕力は、強引に妻を振り向かせました。

 恐怖―――
 それがその瞬間に私の感じていたすべてでした。今の私という人間を、妻に見られることに対する恐怖、でした。


 怯えた妻の瞳が、私を捉えました。


 私の背筋に震えが走ります。


 妻の瞳が見開かれました。


「ごらん、あそこには何もない。ただの壁があるだけだろう」

 赤嶺の囁き声が、どこかで聞こえました。



悪夢 その70
ハジ 8/11(土) 22:50:52 No.20070811225052 削除

「―――私を殺しなさい」
「ハア?」

 感情を押し殺した、しかし、凄絶な覚悟をともなった、その言葉が空気を一変させました。

「浩志がそんなに私のことを憎いというなら―――あなたがそれほど私たち教師を許せないのなら―――」

 秋穂はゆっくりと振り向くと、少年の目を見据えました。

「今すぐ、私を殺しなさい。これ以上、こんなことを続けるのは無意味だし、時間の無駄だわ」

 妻の気迫があたりをびりびりと震わせました。この期におよんでも、彼女はあくまで気高く、その姿にはむしろ痛々しささえ感じてしまいます。
 少年は感嘆ともとれるため息をつきました。

「すげえな、あんた。カラダ張ってんのな、血もつながってない息子のために―――でも」

 シャックはなぜか泣き笑いのような表情でにじり寄りました。

「全然わかってねえよ。俺たちはそんなことは望んじゃいない」
「…………」
「けど、お望みとあらば殺してやるよ。女として―――完全に壊してやる」

 少年の目は完全にすわっていました。



「心配すんなよ」

 シャックはその場にとどまったまま、なにかを放り投げました。硬質のそれは草のクッションによって、やさしく受け止められました。

「これは―――浩志の携帯?」

 妻の戸惑いの声に少年はうなづきました。

「そう―――。あいつはまだ来ないよ。連絡がとれないから―――ただ―――」

 意味ありげにそちらを振り向いた少年の顔が紅く染まりました。その先には篝火が―――先ほど、少年たちが廃材に投火したものです。そこから、ゆっくりと白煙が真上にのぼっていきます。

「時間の問題だと思うよ」

 少年はひとりごとのようにそうつぶやきました。
秋穂の頬を珠のような汗が滴りおちます。彼女は決断を迫られているのです。

「どうする?時間一杯抵抗してみる?」

 手間をかけさせて、息子の目の前で犯されるか。自ら進んで、身を捧げるか。彼らはどちらかを選べと言っているのです。
 秋穂の顔を絶望の陰がよぎりました。



妻の入院 71
医薬情報担当 8/11(土) 20:01:34 No.20070811200134 削除
 もはや、拒否は口だけかもしれません。
 それでも、妻は驚異的なほど、肉体の裏切りに耐えようとしていたと思えます。
 逝くに逝けないように巧妙に弄ばれ、美肉に怒張の圧迫を受けながら、妻は耐えようとしてくれたのです。
 しかし、その拒否の言葉とは裏腹に、妻の意識も、どす黒い快楽の渦に飲み込まれそうになっているのが、もはやはっきりとわかります。
「あぁ、もう、やめて、あう、ねぇ、とって、あう」
 妻の苦しげなうめきとも付かない言葉は、何度聞こえたでしょう。
 しかし、突然、その妻の願いが叶ったのです。
「え?あぁ?ええ?あうぅ」
 ぐっと腰を後ろに引いて、一歩下がると、妻の方がうろたえたような声を出しました。
「ほら、美穂ちゃんの願い通り、離してあげたよ」
「あ、あう、あぁ…」
 私以外の怒張に犯されそうな妻は、ひたすら、離してくれるように懇願していました。
 しかし、肉体は、怒張の圧迫してくる快感を記憶してしまっていたのです、
 快感の記憶が妻自身を苛む力は強烈でした。
 そうなのです。
 怒張の感触を、逝けそうで逝けない身体が一度味わってしまうと、その感触は麻薬のように禁断症状を生むのです。
夫婦のセックスの時でもそうでした。
 普段はセックスのことなど、どこ吹く風といった雰囲気で、セックスの時も、どこか冷静な部分を持っている妻でした。
 でも、何かの折に、途中で私のものが抜けてしまうと、妻のスイッチが突然切り替わったように、情熱的に私を求めるのです。
 私が何かにもたもたすると、あの恥ずかしがり屋の妻が、時には、自分の手で怒張を導き入れることすらしたのです。
「触られるだけなら我慢できるけど、一度入っちゃうとダメなの。辛くて」
 妻は恥ずかしそうに、そう告白したことがあります。 
入り口だけとはいえ、あれほどの間、怒張にヌラヌラと入り口をなぞられれば、快感を生み出さないわけがありません。
その快感を記憶してしまった身体は、もし、怒張を外されれば、そうなる前には無かった「苦痛」を生み出すのです。
 妻の腰がこらえようもなく、うねっています。
 形のよい胸とちょこんと載った乳首を弄りながら、妻の横に回ります。
 硬くそそり立つ怒張は、動きに合わせてぶらぶらと重く揺れます。その先端は、確かに、濡れて光っていました。
 それは、男の先走りの液だけではあり得ないほど、光っていたのです。
 男は、再び怒張を妻の顔にくっつけました。
 感触で、そうと分かるはずですが、妻は、それを避けません。
 唇にくっつけられたときだけは、物憂げに顔を避けますが、それとて、何度もくっつけられると、唇を先端が滑っても、そのままになっていったのです。
「あぁ、っく…」
「辛そうだね」
「つらくなんて、はぐっ」
 口を開いた一瞬に、押し込まれると、それを吐き出すこともできず、苦しげにうめきます。
 しかし、その瞬間に、何もされていないはずの妻の腰が、ヒクヒクと動くのが見えてしまったのです。
 妻の喉は、何度も、口の中に湧き出すもの、そして、男の先走る液体を飲み込むために、コクリと動きます。
「だめだめ、やせ我慢しても。美穂ちゃんのことはもう、とっくにわかってるよ。逝きたいんだろ?」
 一瞬、男の腰がカクッと動き、妻の口の中、奥深くに差し込んでから、ゆっくりと抜き出します。
 妻が口の中で、男をどう迎えたのかはわかりません。しかし、歯を立てるどころか、首を大きくのけぞらせて逃げようともしなかったのは確かでした。
「ごほっ、そ、そ、そんなことぉ」
 男のものが、ゆっくりと抜かれると、軽く苦しそうな様子を見せますが、男のモノを口に入れられたことに、何の抗議もしませんでした。
 なんだか、既に、男を許しているような様子に見え、私は絶望してしまいます。
 一方で、イヤイヤをする妻の顔を、男は余裕の笑みで見下ろします。
「どうする、くっつける?もう一度?それとも、指だけが良いかな?逝かせちゃっても良い?」
「逝ったりなんて」
「あれ、わかってるよ、だって、ここが、こんなに」
「あう!」
 十分に広げられた股間は、腰の所からやや持ち上げられているため、めったに見ることのないすみれ色のすぼまりまで丸見えです。
 今は、そっちにまで、光るモノが見えました。尻の方にまで、秘液が流れていたのです。
 ここからでも十分にわかるほど濡れそぼった妻の秘唇は、男の指をずぶりと飲み込んでいました。



卒業 19
BJ 8/11(土) 04:07:53 No.20070811040753 削除

 茶褐色の薄布をかけられ、変色した照明の下に赤嶺は妻を引き入れ、立たせました。
 大柄な赤嶺と妻とでは、頭一つ分くらい身長の差があります。
 私の立つ場所から見える妻の後ろ姿は、赤嶺を前にしていつも以上に小さく、頼りないものに見えました。
「戸を閉めろよ」
 それまで私を無視していた赤嶺が、ようやく私に声をかけました。けれども、その視線は相変わらず妻を捉えたままでした。
 妻がどんな表情で立っているのか、私の位置からは見えません。
 私は振り返り、こわばった腕で戸を閉めました。
 戸の閉まった瞬間、異空間は完結しました。私と妻は蜘蛛の巣に絡めとられたのです。

 蜘蛛―――赤嶺はしばらくの間、じっと押し黙ったまま妻を見下ろしていました。
 うつむいた妻の顔はその間にもじりじりと伏せられていき、まるくやさしい線を描く肩も次第に下がっていきます。
 その肩に、赤嶺の両手が置かれました。
「―――綺麗だ」
 誉め言葉というよりも事実をそのまま告げただけのように、短くあっさりした言葉で告げて―――
 赤嶺は顔を寄せて、妻に口づけました。

 私の瞼はその瞬間に白く霞みました。

 私の立つ場所からは、二人の唇が触れ合っているその様は見えません。
 見えたのは―――赤嶺の両手に押さえられた妻の肩が、ひくり、と動いたその動作だけでした。
 今朝のようには、妻はもはや抗いませんでした。思わず動いてしまったような肩の動きの後には、彫像のように身動きもせず、従容と赤嶺の唇を受け入れていました。

 自分を愛していると言う夫。その夫によって他の男に抱かれてくれと望まれる矛盾。当の夫の胸の内ですら未だ乗り越えられないその矛盾を、今の妻が心中でどう処理しているのかは分かりません。けれども静かに赤嶺の唇を受け入れる妻の様子からは、己が身が今夜、眼前の男への供物になるという現実をしっかりと認識しているようでした。
 切り捨てようと決意してした鈍い痛みが、私の中で蘇りました。けれどもその痛みが私の意識の刃を尖らせ、身中にやるせない疼きをもたらすこともまた事実なのです。
 それは私にとって、そして妻にとって、何より残酷な事実、でした。

 しかし、今この瞬間も妻に口づけている男には、妻の痛みも私の痛みも徹底的に無価値なのです。

 ゆらり、と―――
 妻の唇を奪い、離さないままの赤嶺の瞳が動いて、その夜初めて私を見つめました。
 薄暗いこの部屋の中で、そこだけ本当に漆黒のその瞳に貫かれた瞬間、私の身体にぞわりと痺れが走りました。
 そんな私の反応を愉しむように、赤嶺の目元がわずかに光り―――
 同時に、妻の両肩に置かれたままだった赤嶺の手が動いて、妻の浴衣の帯に伸びました。
 手品のようにあっさりと、堅く巻き締められた帯紐は解かれ、するりと床に落ちます。
 赤嶺はそこでようやく妻から顔を離しました。瞬間、妻の後ろ姿がくらりと揺れた気がしました。

 赤嶺は私から視線を離し、妻を見つめてふっと笑いました。
 この男は昔からよく笑う男でした。
 皮肉に、不敵に、或いは底抜けに笑う男。
 彼の眼前に立つ女は、あまり笑わない、物静かな女でした。
 そして時折見せる彼女の笑顔は、いつもどこか淋しげな気配を含んでいました。

 まったく別種の性質を持つ二人の男女。けれど―――


 ―――そんなことは結局関係がないのさ。


 再び赤嶺の手が動き、妻の両肩から浴衣を剥ぎ落としました。
 果実の皮を剥くような簡単さで、下着のみを残した白い裸身が露わになりました。

「貴女の身体を拝見するのは一年ぶりだ」
 低く囁くような声で、赤嶺が言うのが聞こえます。
 妻は答えません。また、うつむこうとするその顎を赤嶺の右の手指がつかまえ、上向かせました。
「けれども、少しも変わっていない。いや、むしろ魅力的になったように感じる。肉付きがよくなったせいかな。昔の貴女も美しかったが、少し痩せすぎだった」
 上向かせた妻の顔を見下ろしながら、赤嶺は淡々と言いました。
 妻の肩がまた、ひくり、と動いたのが見えました。
 今この瞬間に妻がどんな表情をしているのか―――
 狂おしいほどにそれを知りたいと思いながら、私の足は床にべっとりと張り付いたまま微動だにしないのです。
 すっと赤嶺の身体が動き、妻の背後に回りました。
 動けない私と同様に、妻も呪縛されたように顔を上向けたまま、同じ姿勢で立ち尽くしています。
 妻の背後に回った赤嶺は私などには目もくれず、すべやかな背肌を舐めるような視線で眺めやりました。
 やがて、赤嶺の手がすっと妻の背に伸びて―――
 はらり、と妻の胸を覆っていた下着が落ちました。
 私の唇から音のない声が洩れます。同時に、ようやく呪縛が解け、妻はしゃがみこんで両腕で胸を隠そうとしました。
 ―――その腕を、赤嶺の太い手が捕らえました。
 妻の腕を掴んだのとは別の赤嶺の手には、いつの間にか、先ほど解かれた浴衣の帯紐が握られていました。

「さしあたりこれは必要がないから、しばらく封じさせてもらうよ」

 判じ物めいた言葉を吐いた後―――
 赤嶺は素早く動いて、妻の両手首を背中に回し、紺の帯紐を巻きつけました。

 あっという間に、妻は後ろ手に鎖縛られ、自由を失いました。
 縛られた後もなお、妻はさかんに固定された両手を動かして、逃れようとする動きを見せました。今夜、彼女が見せる初めての本格的な動揺。けれども、それは見ていて痛々しくなるような果敢ないあらがいでした。赤嶺はそんな彼女のむなしい動作を目を細めて見やった後、ゆったりとした動作で彼女を背後から抱きしめました。
 赤嶺の厚い胸板に覆われて、妻の身体の動きが鎮まりました。
 私の目には二人の後ろ姿しか見えません。けれど、赤嶺の両手は剥き出しになった妻のまろやかな乳房をすっぽりと握り締めている―――はずでした。
 胃の腑の底が、じわりと熱くなりました。
 妻は一瞬、またあらがう動きを見せました。しかし赤嶺の腕がもぞりと動くと、
「あ・・・・・」
 どこをどうされたのか、か細い声を上げて妻の動きが止まりました。


「この胸に触れるのも一年ぶりだね」


 慣れ親しんだ情人のように囁く声。


「やはり前よりも少し大きくなったかな。綺麗な胸だ。やわらかくて、揉み心地もいい」


 赤嶺の腕がまた動き、妻の背中がかすかに揺れ、私の舌は乾いていました。



妻の入院 70
医薬情報担当 8/10(金) 19:22:19 No.20070810192219 削除
 乳房の形が変わるほどに握りしめられ、指先で、クリクリとつまみ上げるように強く弄ばれていても、妻は、痛みを訴えません。
 誰が、どう聞いても、その声は、快楽を訴える淫声そのものだったのです。
 それでも、妻はわが身の家からわき起こってくる、オンナの本能と懸命に闘っていました。
「あぁ、やめて、とって、とってったら」
 妻の懸命な声が時折聞こえるのです。
しかし、懸命に訴えても、その自分の言葉すら身体が裏切って、腰がゆっくりとうねるように動くのが止まりませんでした。
 男の両手は、絶えず、動き続け、腰から脇を撫で上げ、乳房を絞り上げては、乳首を摘む動作を、しつこく繰り返しています。
 あのローションが妻にどう影響しているのでしょうか。
『たまらなくなる』
 秘唇を圧迫されたまま、ローションをすり込まれるように、嬲られ続けているのです。
  山村看護師が漏らしていた言葉どおりだとするなら、妻の身体中には、オンナの快楽の炎がどうしようもないほど燃え上がっているはずでした。
 懸命にこらえようとする妻の腰が、ともすると男のモノをくわえ込もうと動くのも無理からぬことかもしれません。
 しばらく、味わっていない妻の美肉の感触を思い出していました。
 セックスを始める時は、処女かと思うほどひっそりと閉じたその部分が、ひとたび濡れてしまうと、途方もない柔らかなぬかるみと化すのです。
 私の怒張は、そのぬかるみに包みこまれ、そのつもりが無くとも、奥までズブリと一気に飲み込むように入ってしまうのが、いつものことでした。
 そのくせ、ピッチリと隙間無く包み込む感触は、やわやわと微妙にうねりながら強烈に締め付けてくるのです。
 ことに、妻が恥ずかしがるのを無視して、一気に攻めつけ、脚を思いっきり広げて奥まで入れると、先端がプニプニした子宮に包み込まれるのです。
 軟らかな肉ヒダは、数段に別れてギュッと絞るように締め付けてくるのと合わさって、最高の感触なのです。
 ともすると、自分の怒張がどのように妻に包まれているのかわからなくなるような気さえするのです。
 今、男の怒張は、その軟らかな肉の入り口に押し当てられているのです。
 身体が邪魔して、どのようになっているのかは見えませんが、妻のあの狼狽ぶりからすれば、その先端の丸みが、妻の肉ヒダをかき分けるように、くっついているはずです。
 いえ、あれほど、うねうねと腰が動いていれば、次第に、奥へ奥へと怒張を誘い込むように美肉がうごめいているはずです。
 ひょとして、松ぼっくりのような、その大きな丸みを持った先端が、すでに、半分くらいは埋もれているかもしれません。
 男の身体越しに見る妻の腰は、抑えようとしてもじっとしていられないように見えます。
 その、淫らな動きは、妻の意識がオンナの快楽に飲み込まれてしまったように見えていました。
『美穂、がんばってくれ』
 情けない私は、心の中で、届きもしない声援を送るしかありませんでした。





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妻の入院 69
医薬情報担当 8/10(金) 19:17:08 No.20070810191708 削除
 広がりきった妻の股間には、たっぷりと秘液が湧き出しているのが見えました。
 男は、妻の口の奥へ、ひょっとすると喉にまで届きそうなほど奥へと、その太いモノを押し込んでいます。
 そのくせ、自分が触る場所と言えば、せいぜい、髪をすくようにする程度でした。
 それなのに、妻の腰は、うねうねと刺激を求めるように動き続け、湧き出した秘液は、尻の方にまで光って見えます。
 時折、ジュルッと、音がするのは、妻が何かをすする音でしょう。
 その度に、喉が何かを飲み下して、動くのが見えます。
 妻自身の唾液が滴らないようにするには仕方のないことかもしれませんが、それは同時に、男の怒張にまとわりついた唾液を飲み下すことなのです。
 ここから見てもピンと張りつめたような硬さに見える怒張です。先端からは、とっくに男の先走る液体がにじみ出ているはずでした。
それも、これも、全てを飲み下しながら、目隠しの下にのぞく妻の顔には、なぜか嫌悪の表情が見えません。
 いえ、この、男に懸命に奉仕する顔だけを見れば、決して、強いられ、嫌々やらされていることだとはとても見えませんでした。
 不自由な体勢ですから、顔を動かしてといっても限度があります。男はもの足らないのか、時折、腰をクイクイと使います。
 その度に、長さもたっぷりとある怒張が妻の奥に届くのか、苦しそうな声が、鼻から漏れるのですが、けっして、妻は、怒張を放り出そうとはしないのです。
 それは、放り出したら、逝かされてしまうと思っているせいなのか、はたまた、妻が本気で怒張をしゃぶろうとしている雌の本能なのかはわかりません。
 妻を信じたい私ですら、頭のどこかで、妻のメスが、こうさせているのではないかと思ってしまいそうになるほどの淫蕩な姿だったのです。
 突然、その淫靡な奉仕は終わりの瞬間を迎えました。
「はう、あう。あ、あ、え?」
 何だか、突然、おもちゃを取り上げられた子どものようでした。、
 妻は、口から抜かれた怒張を探す仕草をしながら、どうしてそうなったのと、言いたげなうめき声を漏らします。
「さてと、さすが、おねだりするだけあるね、ずいぶん気持ちの入ったフェラだったよ。舌遣いも最高さ。俺のこぼしたモノも、ちゃんと舐め取って飲んでくれたね」
「いやあ」
 見ている私にはわからない、口の中だけの動きを、暴露された妻は、恥ずかしそうにいやあと啼きます。
 やはり、男の先走る液体を飲み込んでいたのです。
 予想通りとはいえ、妻が命じられもせずに飲み込んだと言うことに、少なからず衝撃を受けます。
「さてと、じゃあ、たっぷりと休んだだろ。残り時間は、少なくなったし、美穂ちゃんはだいぶ有利になっちゃったね」
「あぁ、もう、許して」
 弱々しい妻の様子は、まるで犯されつくし、身も心も貪られた後のオンナでした。
 ひょっとして、受け入れる場所が違えど、男の怒張をその身に受け入れてしまったという行為が、妻の覇気を奪ってしまったのかもしれません。
 それほど、普段の妻からは考えられないほど、弱々しい姿だったのです。
「約束は約束だものね。30分間我慢するって。じゃ、残りは15分しかなくなっちゃった」
「じゅ、じゅうご分?」
「そうだよ。さてと、じゃあ、今度はたっぷりと美穂ちゃんのおっぱいを楽しませてもらうとしようか」
そう言うと、つかつかと妻の広げられた脚の間に移動したのです。
 硬そうでしたが、その大きさ故に、歩く度にブンっと音がしそうに揺れる怒張を、誰にともなく見せつけるように歩きます。
「やめ、やめて、しないって」
 妻も、むき身の怒張が広げられた自分の股間に近づけられたことに、突然危機感をおぼえたようでした。
「大丈夫、ちゃんと約束は守るよ。美穂ちゃんが行くまで、僕からは決して入れたりしない」
「そんな」
「でも、せっかく美穂ちゃんが愛情を込めて大きくしてくれたんだもの。くっつけるくらいは良いだろ。ほら」
「いや!あう!ひぃー」
 悲鳴のような妻の声が部屋一杯に響きます。
「大げさだなあ。先っぽをくっつけただけじゃん。でも、こんなにぬるぬるにしてると美穂ちゃんが動くと入っちゃいそうだね」
『やめろ、てめえ!』
 身動きができなくても、いえ、たとえ大声が出せなくても、普通なら唇を血がにじむほどに噛みしめるところでしょう。
 しかし、まったく感覚のない口元からは情けない呼吸音が漏れるばかりです。
「でも、ここって、さっきよりだいぶ濡れているけど、やっぱり好きな男のモノをしゃぶると、想像しちゃうでしょ?こっちに入れたらって。だからこんなになってる」
 向こうをむく男の表情は見えませんが、恐ろしいほどの薄気味の悪い猫なで声でした。
 妻はゆっくりといやいやをします。
 動くのを恐れているかのようにゆっくりとした動作でした。
 それは、入り口に、あの大きなモノの圧迫感と、今にも侵入してくるかもしれないという恐怖が、妻の動きを少なくさせているに違いありません。
 一度濡れてしまった秘唇は、大きく脚を広げた状態では、男の侵入を食い止めるのは不可能に違いないのです。
 しかし、それだけではない気がしました。
 唇をかみしめているのはひょっとして、漏れそうになる甘い声を我慢しているのかもしれません。
 くっつけているだけといっても、逝くに逝かせてもらえない状態に置かれたオンナが、秘唇をグッと広げてくる感覚が、快美なものでないはずがないのです。
「たっぷりと濡れちゃってるね。でも、大丈夫、ちゃんと逝かせてあげるからね。今。ほら、胸、ここも感じるでしょ?」
「あうう!」
 私以外の怒張を受け入れたことのない秘唇に、私より二回りも大きな怒張を押し付けられているのです。
 胸の形が変わるほどの愛撫をうけながら、妻の唇からは絶えず声が漏れています。
 それは、いくらそうと思いこみたくても、苦痛とは思いこめない、つまりは、これ以上ないほど淫靡な声だったのです。



卒業 18
BJ 8/10(金) 04:02:52 No.20070810040252 削除

 ゆっくりと雫が垂れ落ちるような時間が過ぎて、また、夜がやってきました。

 天橋立で迎える三度目の夜は、昨晩のように悪天候に見舞われることもなく、私の外側の世界は穏やかそのものでした。
 やがて朝が来て、この暗闇の結界が力を失う頃に、私はどんな顔を新しい日の光に晒しているのか。
 そして、妻は―――

 妻は夕方に一度駅前の温泉に行ったというのに、夕食後にもう一度、宿の湯へ浸かりにいきました。
 今宵、赤嶺の目に晒す己が身を浄めるために。
 その事実を噛み締めるだけで胸の内にぐずぐずと生じる、この不安と嫉妬の入り混じった気分の高まりはいったい何なのか。
 今まで幾度となく雪崩のように押し寄せてきたこの感情は、ついに私と妻の立っていた場所もろとも突き崩し、押し流してしまいました。
 その先に待つのは―――いったい何なのか。
 私は立ち上がって、窓を開けました。静謐な夜。暑かった昼間の残滓を含んだ空気に、蝉の鳴き声がかすかに響いています。
 そして結局禁煙に失敗した私の吐く紫煙は、吸い込まれるように、べっとりと暗い闇の中へ消えてゆきます。
 その煙を捕まえようとする行為くらい意味もなく、私は窓の外の虚空に手を伸ばしました。
 空には鋭い三日月がかかり、その蒼褪めた光は暗闇に伸びた私の腕を照らしていました。

 戸の開く音がして振り返ると、妻が戻ってきたところでした。
 普段と比べて少し面やつれしたように見えるその顔。装った表情の平静さと裏腹に、その顔は今にも崩れてしまいそうな危ういものを孕んでいるようでした。浄められたばかりの細身は、息苦しいまでにきっちりと着つけられた白の浴衣でよろわれています。
 そんな妻の姿に、私は今しがた見つめたばかりの三日月の幻影を重ねました。
 細く、鋭く、凛として、けれど今にも闇に呑まれてしまいそうな儚い美―――
 彼女の姿を見慣れた目にもそんな感慨を起こさせるほど、今宵の妻は綺麗に見えました。
 しかし、それを口に出すのは、私には出来ないことでした。
 
 しばしの間、私は無言のまま、静かな刻を過ごしました。
 それは私が今の私のままで、妻が今の妻のままでいられる最後の時間―――なのかもしれないのでした。
 けれど―――この瞬間に至っても、私の中にふつふつとわきおこる様々な想いの形は、妻の内面のそれと完全に一致してはいないのでしょう。
 私はそれを思ってひどく悲しい気持ちになりました。けれども、そのことで本当に悲しむべきなのは、悲しんでいるのは、やはり無言のまま座している妻のほうに違いありませんでした。

 言葉のない時間。しかし、私の耳にはあの沈黙の音がずっと流れ続けていました。
 妻の耳にもきっと、その音色は響いていたことでしょう。
 それだけは―――たしかなことでした。


 そして時は―――満ちました。

 私は目で、そのことを、妻に告げました。
 妻は、静かに立ち上がりました。
 私も立ち上がり、妻の前に立って戸を開きます。
 さすが格式の高い宿と言うべきなのか、黎明荘の客で夜中に騒ぐ者はいないようでした。
 だから、磨かれた木の廊下はとても静かでした。
 私はそのことを、ほんの少し、うとましく思いました。

 今度は妻が先に立って、廊下の道を歩み始めました。
 沈黙の音はとうに鳴りやんでいます。
 妻はそれこそ音もなく、ゆっくり歩を進めていきました。
 その粛々とした足取り。
 モノクロームのような光景の中で、薄い照明に照らされた妻のうなじだけが蒼みがかって見えます。
 途中で一度だけ、りん、と廊下が鳴いて、はっと現実に呼び戻されたような心地がしました。

 永遠のように思える一瞬が過ぎて、かすかに翻る妻の浴衣の裾がその動きを止めました。
 妻の前には、扉がありました。
 道行きの途中、妻は一度も私を振り返りませんでした。そのときもそうでした。しかし、私は妻がその瞬間、振り返らずに私を見たのを感じました。
 私はその視線を避けるようにすっと動いて、妻の前に立ちました。
 戸に手をかけるとき、その手が震えるのを私は抑えることが出来ませんでした。


 なぜなら、あの男は言っていたから。
 今夜は鍵をかけないでおく、と―――


 震える私の手で―――
 扉はゆっくりと開かれました。

 部屋の中に目をやったとき、異様な感覚がありました。すぐにそれは照明のせいだと分かります。この部屋の主である私の古い友人は、昔から宿に泊まると、その部屋の照明にスカーフなどをかぶせて自分好みに光を変える癖があるのです。
 そして今夜、彼の部屋の照明には茶褐色の薄布が巻きつけられていました。
 ただそれだけで、純和風のこの部屋はつくり変えられ、妖しい趣に満ちた異空間へと変貌を遂げていました。


 ―――変えてやるよ。


 それがこの男の生まれ持った性なのだ。

 私はぼんやりとそう感じました。


 男―――部屋の主は、部屋の奥に座っていました。

「―――遅かったじゃないか」

 錆のある低音でそう告げて―――
 男は立ち上がり、まっすぐに近づいてきます。
 深い海のようなその瞳は、まったく私のほうを向いていませんでした。

 この部屋に私たちが足を踏み入れた瞬間から―――
 男の目が見つめているのは―――

「さっきからずっと、待ちかねていたよ」

 すっ、と薄闇の中から太い腕が伸びて―――
 傍らの妻の手を掴み、自らの空間に引き入れました。



妻の入院 68
医薬情報担当 8/8(水) 18:12:31 No.20070808181231 削除
「あう、あはぁ、早く。お願い、もう、あう、休ませて、あぁ、ください、はふぅ、く」
 妻の股間に差し入れられた指は、ゆっくりと円を描くような動作に変わっていました。
 こらえようとしてもヒクン、ヒクンと妻の腰が動いてしまうのがわかります。
 懸命に耐えようとする気持ちとは裏腹に、怪しげなローションまで使われた妻の肉体は、一刻も早い「とどめ」を欲しているのがよくわかりました。
 オーガズムをほしがっている身体を、健気にも妻は、それでも懸命に押さえようとしているのです。
「じゃあ、こうしよう。僕のをくわえてよ。休むだけなんてつまらないからね」
「いやあ、できないぃ」
「それなら、このまま逝かせちゃうだけだよ。美穂ちゃんの敏感なクリ。ほら、ほら、ほら。逝きたいんだろ、逝かせてやるよ」
「あぁ!だめぇ、休ませてぇ!」
 手をそっと引きながら、猫なで声を出します。
 吐き気を感じるような声でした。
 もはや、妻を逝かせることに、絶対の自信を持った余裕のある顔つきです。
 逝かせることよりも、いかに、それをエサに妻の行動を引き出すかに関心は移っているようにみえたのです。
 男の指は、妻の反応を見極めながら、緩急を自在に操っていました。
「じゃあ、くわえるね?ほら、早くこっちを向いて。向かないの?なら、もう一度…」
「あぁ!やめて、します、しますから、少しの間、あぅ」
「ほら、賭の最中なのに、美穂ちゃんに有利なことをしてあげるんだよ、ありがとうは?」
「ああ、ありがとう、あぁ」
「心がこもっていないなあ」
「あう!」
 指が再び、妻の秘唇で激しく動いたのです。
「美穂ちゃんは、お礼はちゃんと言えるでしょ、さ、なんて言えばいいの」
「あ、あう、ありがとう、あう、ございます、あう」
「さ、おねだりして。くわえさせてくださいって。それとも、このまま、続けちゃおうか?」
「あぁ!やめて、もう、お願い、休まないと、あぁ、く、くわえ…」
「あれ?言えないなら」
「あう!ダメ、あう、やめて、言うから、言うからぁ、あう」
 妻がためらうと、すかさず指を早めるのです。
 その上、慎重に、毎回違う場所を、少しずつ触り方を変えている様子です。
 逝かせるふりをして逝かせない、そのくせ、登り詰めかけたオンナの恥ずかしい性感は、降りることを許さない。
 まさに、スケコマシのやり方そのものでした。
 真面目な妻は、私のごく普通のセックスしか知りません。
 いえ、恥ずかしがるので、むしろ、今の世の中ではオーソドックスなセックスしか知らない「奥手」な人妻と言っていいでしょう。
 逝かせる、逝かせないをエサに、オンナに屈服を強いる「調教」など知るはずもないのです。
 それが、今、妻の身体に、怪しげなローションまで使って、行われているのです。
 これでは、仮に多少のことを知っていたとしても、ここまで昂ぶってしまえば抗えるはずもありません。 
 何度も言い直しをさせられ、その度に恥ずかしい言葉を付け加えられて、とうとう妻は、恥じらいよりも、男の誘導に乗ってしまったのです。
「あぁ、お願い、します。くわえさせて、まこちゃんの大きいのを、ああ、お口にくださいませ」
「よし、よし。そこまでいうなら、旦那さんには悪いけど、くわえさせてあげようかな」
 ことさらに、私を出したのは、もちろん、私への嫌がらせもあるでしょう。
 しかし、それ以上に、妻に、あくまでも夫の見ている前で自分からフェラを頼んだという屈辱を思い知らせるために違いありません。
もちろん、妻は、はっとしたはずです。
 ビクッという反応を見せます。
「ふぐっ、はぐっ」
 しかし、そのはっとした妻の口に、時を移さずに、大きく膨張した先端を押し込んだのです。
「そうだよ。もし、歯でも当たったら、それでお終いだよ。ゆっくり休みたいなら、たっぷりと愛情を込めて」
 男はこちらこそ見ませんでしたが、明らかに私を嘲笑したつもりなのでしょう。
 ニヤリと笑うと、さらに付け加えました。
「ほら、この間みたいに。もし、出したら、呑んでくれるって約束したものね」
 私よりも二回り以上も太いモノを懸命にくわえ込む妻には、その言葉に反応する余裕はなかったようでした。
 しかし、不自由な身体で懸命に口唇奉仕する姿には、なぜか、オンナの媚びのような表情が見えていた気がします。



卒業 17
BJ 8/7(火) 18:31:32 No.20070807183132 削除

 赤嶺が出て行った後―――
 しばし私はその場に立ち尽くして、畳の上にしゃがみこんで動かない妻を見つめていました。
 目の前のうなだれた妻の姿が、私の選択したことの結果でした。
 先ほどの赤嶺の行為は、一足先にそれを私に思い知らせるためのものだったのではないか。あの男が真実何を考えているかなんてまるで分からないものの、私は頭の片隅でふとそう感じていました。
 無言のまま、私は畳に膝をつき、妻のもとに這い寄りました。
 妻の前髪は乱れて目元にかかっていましたが、それを払いのけることもせず、妻はぼんやりと座っていました。横向きに倒した膝の浴衣の裾が割れて、真白なふくらはぎが露わになっていました。
 まるで犯された後のような妻の様子があまりにも痛々しくてたまらなくなった私は、正面から妻の肩を引き寄せ、その身体を抱きしめました。
「ごめん・・・瑞希」
 妻の身体の小鳥のような軽さに今さら驚きながら、私は必死の想いで囁きました。
「本当にごめん・・・・」
 文字にすればわずか三文字のその言葉のあまりのかるさ。それに少しでも重みを加えるためにも、私は何度も繰り返しその謝罪の言葉を口にし続けることしか出来ませんでした。
 こうして胸に抱きしめている温かいものの存在は、こんなにも私の心を切なく締めつけずにおかないのに。
 どうして私は彼女を傷つけずにいられないのか。
 なぜこうも罪深い妄執から逃れられないのか。
 赤嶺ならきっと簡単に理屈づけるであろうその答えは、今もって私の中にありませんでした。
 ふと、胸に抱きしめた温かいものが動くのを感じました。
「瑞希―――」
 言いかけた私の唇は、妻の唇で塞がれました。
 驚いたはずみに身を離そうとした私の頸を、妻の腕が抱きしめていました。
 その力は普段の彼女にはありえないほど強く。
 本当に、強く。
 なぜかそのことが私の胸を激しく揺さぶって、気がつくと、私は涙を流していました。
 すっと妻の唇が離れ―――
 曇った私の目に、同じように目尻を涙で濡らしている妻が映りました。
 私は彼女に向かって何かを言いました。おそらくはもう一度、謝罪の言葉を。しかしそれはまともな言葉にならず、私は重くてたまらない頭をがっくりと妻の胸に預けました。

「いいんです。赤嶺さんも仰っていたとおり・・・もう決心はついているんです」
 頭上で妻の声がしました。それはたしかに母親が子供に言い聞かすような、すべてを許そうとする言葉でした。
 私は―――妻の胸から身を起こし、首を振りました。
「駄目だ。瑞希は、俺のことを、決して許さないでくれ」
「・・・許すも許さないもありませんよ」
 妻の涙はすでに乾いていましたが、黒曜石のような瞳の光沢がその名残を伝えていました。
「夫婦・・・なんですから」
 幼いうちに父母と死に別れ、引き取られた叔父夫妻ともあまり折り合いが良くなかったらしい妻が、「夫婦」という言葉にどんな気持ちをこめているのか―――、私にはよく分かりません。けれども、彼女にとって、私が夫らしい夫にはなりきれなかったということだけはたしかでした。
 そればかりか―――
「―――昼御飯まだでしょう? 外へ食べに行きませんか」
 さりげない口調で言って、妻はじっと私を見つめました。
 その唇が動きました。
「あなたが泣くところを初めて見ました」
「・・・・・・・」
「いつも、私ばっかり泣いているのに」
 そう言って―――
 なぜかそのとき、妻はかすかに口元をほころばせ、そして、私の胸はずきりと痛みました。

 ようやく普段着に着替え、宿を出た私たちは天橋立駅へ向かう道を並んで歩きました。
 昨日までの日傘の代わりに、妻の左手は私の右手を握り締めていました。
 駅の前まで来たとき、私たちは笛の音を聞きました。どこかで聞いたことのあるようなメロディーに誘われるように少しだけ出来た人だかりの向こうに目をやると、そこには南米風の民族衣装を着た演奏家らしい男がいて、笛を吹いていました。
 私はそのメロディーをやっと思い出しました。その曲は“コンドルは飛んでいく”でした。
 立ち止まった私に合わせて妻も足を停め、男が流暢に演奏する笛の音色に耳を澄ませていました。
 やがて“コンドルは飛んでいく”は終わり、男は新たな曲に取り掛かります。
 今度の曲もまた耳馴染みの、というより、私と妻にとっては生涯でもっとも思い出深い曲、“サウンド・オブ・サイレンス”でした。
「卒業・・・・・」
 妻の呟く声が聞こえました。


 『卒業』という映画があります。
 1967年に公開されたこの映画は、主演ダスティン・ホフマンの名を一躍有名にした青春映画の古典で、劇中で流れるサイモン&ガーファンクルの主題歌“サウンド・オブ・サイレンス”とともに、日本でも広く親しまれています。
 この『卒業』は私と妻が初めて一緒に観た映画でした。
 私たちは見合い結婚でした。恋人期間を経ずに結婚したこともあって、新婚当初からずいぶん長いこと、私たちはぎこちない関係を続けていました。これではいけない、と気持ちは焦っていたのですが、時間が経っても打ち解ける気配を見せない妻に、私は戸惑っていたのです。
 『卒業』を見たのは、ちょうどその頃、結婚して約半年経過したある休日のこと。私から、妻に「映画でも観に行かないか?」と誘ったのでした。
「どんな映画が観たい?」
 私が聞くと、妻は静かに情報雑誌を眺めていましたが、やがてその視線はあるページで留まりました。そのページに載っていたのが『卒業』で、公開何十周年記念とかいう名目のリバイバル上映でした。
 古い映画を観る趣味はなかったのですが、『卒業』の名前は知っていて、青春恋愛映画のクラシックだということも知識にはありました。
 少しだけ意外でした。その頃の妻は表情も身のこなしも物堅い一方で、青春にも恋愛にもまったく興味がなさそうな女性に見えていたからです。そんな私の気持ちが伝わったのか、妻はちょっと羞ずかしそうな顔になって、「やっぱり、別のもっと新しい映画でいいです。私はもう何回も観ていますから」と言い訳するように言いました。
「いや、これでいいよ。俺はこの映画を観たことがないし、君がそんなに好き映画なら興味あるから」
 私が言うと、妻は、
「別に、そんなに好きな映画というわけでもないんですけど・・・」
 と、よく分からないことをまた言いましたが、結局、外着に着替えるために立ち上がったのでした。

 『卒業』の主人公はダスティン・ホフマン演じる大学生ベンジャミンです。映画の冒頭で、彼は両親の友人であるロビンソン夫妻の妻、ミセス・ロビンソンと不倫関係に陥るのですが、その後、夫妻の娘エレーンと恋に落ちます。しかし、上述の不倫関係がやがてエレーンの知るところとなり、二人の関係は一度破綻を迎えます。
 けれど、ベンジャミンはエレーンのことを諦めきれず、今の感覚で言えばストーカーのようにも感じられるしつこさで、エレーンに追いすがります。そしてやってくる有名なクライマックス、ベンジャミンはエレーンが別の男と結婚式を挙げている教会に駆けつけ、彼女を奪って逃げるのです。
 映画の内容で一番私の記憶に残ったのは、エレーンとの関係が破綻を迎えて以後、数々の惨めな想いを味わってなお、ベンジャミンが彼女のことを追いかけていく場面でした。男の哀れさ、ここに極まれりといった表情で、私だったらあんなふうにプライドも何もかも投げ捨てて、一途になれるだろうか、と、意味もなく我が身を振り返ったりしました。

 その日、梅田の小劇場で『卒業』を観て後、私と妻は近くの喫茶店に入りました。
 相変わらず口の重い妻に、私は今見た映画の感想、つまり上記の内容ですが、そのことを一方的に喋りました。
「君はあの映画のどこが好きなの? もう何回も観ているんだろ?」
 語り終わって妻に訊ねると、彼女は首を振って、
「そんなに好きな映画というわけではないんです。でも、忘れられなくて」
「忘れられない、というのは?」
「私がたぶん生まれて初めてちゃんと観た映画だということもあるんですけど・・・昔から、あのラストシーンが凄く印象に残っているんです」
「ラストシーンっていうと、主人公とヒロインが一緒にバスに乗って駆け落ちするところ?」
「そうです。あのバスの中のシーンで二人は最初笑顔なんですけど、すぐに不安そうな表情になるんですよね。お互い視線もろくに合わせないし、なんだか心配そうな顔をして、二人とも別々のことを考えながら、これから先の未来を憂えているような雰囲気で・・・」
「そうだったかな」
 私は記憶を探りました。言われてみると、妻の語るとおりだった気がしました。それまで、私には単純なハッピーエンドのように思えていたのですが―――
「その場面がずっと忘れられなくて・・・哀しくなるから、もう観たくないと思うんですけど、また観てしまうんです」
 呟くように言った妻の声には、たしかに哀切な感情が滲んでいました。
 そのとき、私は結婚して初めて、妻という女性の内面に少しだけ触れた気がしました。それと同時に感じたのは、同じ人間で同じように暮らしていても、その目に映って見える世界はまったく違うものなんだ、という今さらながらの実感でした。

 
 ―――あのとき、自分が感じた漠然とした感傷を、今こうして笛の音で奏でられる“サウンド・オブ・サイレンス”を聴きながら、私は思いだしていました。
 傍らに立つ妻は、瞳を閉じて笛の音色に耳を傾けています。
 先ほど「卒業・・・・・」と呟いたとき、妻が何を想っていたのか。
 何を想いながら、今もあの哀しげなメロディーに耳を澄ましているのか。
 旅立った先でベンジャミンとエレーンの二人がどんな未来を迎えたのか分からないのと同じように、私には今の妻の気持ちが分かりません。
 分かっているのはただひとつ、私たちもまた旅立ちの時期を迎えようとしているということだけです。
 そして私たちがこれから卒業しようとしているのは、妻がこれまで必死に守ろうとしてきた平穏な日常そのものでした。
 すぐに時間は過ぎ去り、日は暮れ落ち、夜がやってきます。
 あの男の待つ夜に。
 私と妻は今、バスに揺られているのです。
 そして、静かな教会から妻を連れ出し、その手を引いて、彼女をバスに乗せたのは私でした。
 “サウンド・オブ・サイレンス”―――沈黙の音が、終わりを告げました。私は妻の手を握りしめた右手に少しだけ力をこめました。妻がうっすらと瞳を開けて、私を見ました。
「・・・行こうよ」
 小さく告げて、私は歩き出しました。



悪夢 その69
ハジ 8/7(火) 06:02:15 No.20070807060215 削除

「案外、あっけなかったな」

 少年がしなやかに手首をしならせると、妻の分泌物が飛び散り、草の葉を鳴らしました。

「おお、すげえイキッぷりだったなあ」
「潮吹いてなかった?」
「やっぱり、俺の手マンが効いたよね」

 少年のひとりごとに次々と賛同の声が上がります。
 当の秋穂はというと、遠い目をしたまま寝転んでいました。死んだように放心した様子でしたが、皮肉にも胸もとは健康的に大きく波打っていました。

「情けねえ。俺らみたいなガキにいいようにやられてよ」

 少年シャックはそんな彼女に冷たい一瞥をくれ、鷲?みにした髪を引き寄せました。

「聖職者とか言ってもよ、そのへんにいるメスの穴とかわりねえじゃないかよ」

 瞳に茫洋とした光を漂わせたまま、何も言い返せない秋穂を彼はさらに口汚く罵ります。

「こうまで息子に憎まれていることにも気づかねえ。どうだよ、“実の”息子に裏切られた感想は?おまえら“教育者”とかいうやつは皆口だけだ。全部わかったような顔をしているが、本当は何もわかっちゃいない」

 知らず知らずのうちでしょうが、シャックの弁が熱を帯びてきました。おそらく彼が今日はじめて口にする本音かもしれません。
 しばらくして、シャックはいきなり口をつぐみました。話が妙な方向に逸れてきたのに気づいたのでしょう。
 一瞬見せた気恥ずかしさとためらいを打ち消すように彼は酷薄な笑みを浮かべてみせました。

「今からおまえの正体を暴いてやるよ。息子が言ったように、本当に淫乱なのかどうか」

 秋穂を乱暴に突き放すと、彼は残酷に命じます。

「よつんばいになれよ」

 身を伏せたまま何も応じないでいる妻を少年は鼻で笑っているようでした。

「浩志は見てるぜ、どこかで。あんたの息子は母親が目の前で犯されるのを見たがっているんだ」

 秋穂の手が砂をつかんだ気がしました。そして、ゆっくりと―――。



妻の入院 67
医薬情報担当 8/7(火) 00:05:22 No.20070807000522 削除
「ほら、くわえてくれる?」
「いや!絶対、いやあ!」
 頬に怒張を突きつけられながら、妻は、懸命に口を閉じます。
 その唇めがけて、怒張を突きつけながら、今度は妻の胸を弄っています。
「まあ、いいか、だいぶ、美穂ちゃん、反応してくれてるしね。このまま、クリを弄ったら3分持たないんじゃない?」
「そんなこと」
「だって、さんざん、指で逝かせてあげたろ?もう、美穂ちゃんの弱点を覚えたからね」
「そんなことない。ヘンになったりなんてしないんだから」
 懸命に強がっていても、その語尾は震えています。
 何よりも、胸をムニュリと絞り上げられる度に腰が、不自由ながら、ヒクヒクと動き出していました。
 まるで、秘唇に、もう指を呼び戻したがっているような姿だったのです。
『たまらなくなる』 
 さっきの山村看護師の言葉が、蘇っていました。
 いくら、男の技巧があって、なおかつ、入院以来、何度も妻を逝かせてきたにしても、あの真面目な妻の、急速な崩れ方は私の知っているものではありませんでした。
「ほら、ほら、ほら。すごいね。乳首がこんなに硬くなってる」
 妻の顔を片手で押さえつけたまま、こんどは左手で妻の胸を弄んでいます。
 唇に押しつけられた怒張を受け入れまいと、懸命に口をつぐむ妻ですが、目隠しをされてはいても、なぜか嫌悪の表情が読み取れません。
 そして、何度も胸をしぼられ、先端の敏感なボタンをつままれるうちに、妻の抵抗は弱っていく一方になります。
 いつのまにか、妻の顔を押さえる片手は、胸に向けられていました。
 そのくせ、押さえられてもいない妻の顔は、いやいやをしつつも、反対を向きません。
 今や、完全に大きくなった怒張は、妻の口に腰の動きだけで突きつけられるようになってしまいました。
 怒張に唇を追いかけ回され、つつき回されるても、懸命に口をつぐんで侵入を許しませんが、大きく逃げることをしないのです。
 ひょっとして、絞り上げては乳首をつまみ上げられる左手から、送り続けられる快感と戦うのが精一杯なのかもしれません。
『がんばれ、美穂』
 情けないことに、目の前で妻が屈辱的な愛撫を受けているのに、何の役にも立たない声援を、それも心の中で送るしか、できることがないのです。
 どうにか、腕を解こうとしても感覚が全くない手をどう動かせばいいのか、もどかしさに腹の中が沸々と煮えていくしかありません。
「さてと、こっちもかな?」
 男が、再び、ゆっくりと手を伸ばしたのは、妻の開ききった秘所でした。
「あ、むぐぅ、あぐぅ」
 思わず淫声をこぼしてしまった瞬間、妻の口の中に、男の怒張が押し込まれていました。
「ふぐっ、やめ、ふごっ、あう」
 とっさに、顔を動かして、怒張を吐き出します。
 口にの中に入ったモノが何かを妻は知っています。もし、見知らぬ男の怒張をくわえさせられれば、たっぷり分泌された唾を、吐き捨てるはずでした。
 いえ、それ以前に、本来は気の強い潔癖な妻のことですから、食いちぎるとは行かなくても、歯を立てるくらいはしてもおかしくはありません。
 しかし、妻の口は、金魚が酸素を求めてあえぐように、ぱくぱくと動き、あえぐような声を出しますが、何かを吐き出そうとはしませんでした。
 いえ、眼を皿のようにして見ている私の目には、妻の喉が、ごくりと動いたように見えます。
 妻は、汚辱を飲み下しのでしょうか、それとも、男の悦びを飲み下したのでしょうか。
 どちらにせよ、一度は妻が自ら望んだというフェラです。
 今再び、私の目の前で男のモノを口にして、唾を吐き捨てるどころか、飲み下したのは、既に妻の身体が、オンナの何ものかに支配され始めている証拠だと思えたのです。
 妻の腰が、はっきりうねり始めていました。
 男は、怒張で妻の口を狙うのをやめましたが、左手はまだ妻の秘唇を撫でたまま、右手は妻の乳首を巧みに弄り続けていました。
「あぁ!」
 指がクリトリスを捉えたのでしょうか?先ほどよりも切迫した声を放ちます。
 左の中指が、妻のちょうどそのあたりを素早い動きで上下していました。
「ほら、ここ、ビンカンなんだよね。入り口も良いけど、ほら、ここ。このまま動かすと」
 そのまま左手の動きが加速していました。
「ほら、このまま動かすと、どう?もう、何分も持たないでしょ?どうする?」
「やめて、お願い、ああぁ」
 妻の声は懇願に近いものでした。
 淫らに動きがちな腰は、妻の崩落が近いことを物語っています。もちろん、妻自身も、自分の身体を裏切りそうな身体に、絶望していたせいかもしれません。
「ね、少し休ませてあげようか」
 その甘い言葉は、妻の絶望を巧みに見抜いて、さらに追い込むためのものなのに違いありません。
 しかし、崩落間近な妻にとっては、すがるしかない罠だったのです。
「あぁ、お願い」
「お願いします、でしょ?」
「お願いします」
 左手は相変わらずの早さで動かし続けています。
「ちゃんと言わなきゃ」
「ああ、休ませてください、お願いします」
 逝かされないためには、必死に懇願するしかありません。
「どうしようかなあ。貴重な時間だしなあ」
 ニヤニヤしながら、チラリとこちらを見ます。勝ち誇った顔でした。



卒業 16
BJ 8/6(月) 18:41:31 No.20070806184131 削除

 赤嶺に連れられて妻が戻ってきたのは、それから一時間も経った頃でした。

 昨夜見た浴衣姿のままの妻は、赤嶺の後ろから伏目がちに、けれどもしっかりした足取りで部屋に入ってきました。すでに外の気温は相当高かっただろうに、妻はその首筋に汗ひとつかいていませんでした。
「どこに・・・行ってたんだ?」
 なんと言葉をかけていいものか迷った私は、そんなどうでもいいことをまず口にしました。
「近くの公園だよ。ここらで早朝に時間をつぶせる場所なんて、あそこくらいしかないからな。すぐに見つけられたよ」
 妻ではなく赤嶺が答えました。そして赤嶺は私を見、それから、ちらりと妻を見ました。
「お前の気持ちは奥さんに伝えておいた」
「――――――」
「奥さんも納得してくれたよ」

 赤嶺がそう告げた瞬間―――
 折れてしまいそうなほど細い頸がかすかに揺れ、うつむいた妻の額に髪が一筋はらりと落ちるのが見えました。
 握りしめた私の掌に、じっとりと汗が滲みました。

「そういうことだから―――また今夜」
 私たちの間に漂う危うい緊張感をものともせず、赤嶺は平然と言葉を続け―――

 ―――不意に。

 左手を伸ばして、赤嶺は妻の顎をつかまえました。

 驚いた妻は身を離そうとしましたが、そんな抵抗などないもののように赤嶺は動き、妻の唇に唇を重ねました。

 刹那の仕業。

 口づけされている間も、妻はしばらく赤嶺から逃れようと細腕で厚い胸板を押していましたが、やがてその腕は力を失い、だらりと垂れ下がりました。
 たおやかな腰を赤嶺の太い腕ががっしりと抱え、ずり上がった浴衣の裾から白い脛が覗きました。

 瞳に焼き付くような、その脛の生々しい白さ―――
 まるで見てはいけないようなものを見てしまったような、そんな気分を起こさせるほどに。
 それは強烈な―――
 酩酊感。
 
 赤嶺に口づけされている間ずっと、地面から離れた妻の踵は引き攣れるような動きを繰り返していました。
 哀しげにさえ見える、その動きの儚さ。
 呆然と立ち尽くしたまま、私はすべてを見つめていました。

 しばらくして、ようやく赤嶺は妻の顔から顔を離しました。

 一瞬、眉間に皺を寄せて苦しそうな表情になった後―――
 ふらり、と崩折れるように、妻はその場にしゃがみこみました。

「赤嶺・・・・」
「契約の手付けのようなものだよ」
 むしろ冷静な口調で言って、赤嶺は身を翻しました。
「じゃあまた、今夜。部屋に鍵はかけないでおく」
 異形の男はそれだけ告げて、私たちの部屋を去りました。

 そして、私たちは取り残されました。





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妻の入院 66
医薬情報担当 8/6(月) 18:00:49 No.20070806180049 削除
「どうする。がんばってみる?それとも、このままおっぴろげて、恥ずかしい格好のままが良いかな?」
「いやあ、お願い。もうやめて」
「どうする?旦那さんに帰ってもらうか?」
 ヌメヌメと、妻の足の付け根に向けて手を動かしながら、ねばい声で、何度も、何度も妻に決断を迫ります。
 妻は、今にも、秘所を襲ってくるような手の動きに、手がそこに近寄ってくる度に腰をヒクヒクと動かすのですから、冷静になれるわけもありませんでした。
 賭に勝てば良いだけだと語りかける、誠実そうな声。
 そのくせ、何度もきわどいところまで触りながら、妻のいやらしい格好をほめて、今の姿を妻の意識から外させません。
 アメとムチのようなやり口でした。
 おそらく、最後には、脚を広げたまま抱え込むような今の姿勢を、何とかしたい一心だったのかもしれません。
 妻の口はとうとう、男の罠に踏み込んでしまったのです。  
「わかったわ、耐えてみせる。そ、その代わり、約束よ。30分だけ、きっちりそれだけ。それ以上は一秒も許さない、あぁ、だめ、まだ時間を計ってないんでしょ」
「こんなの触っているウチに入らないよ、それじゃあ、いいね、触っても」
「約束、よ。ちゃんと守るって言って」
 男はこれ以上ないほどの笑みを見せます。
 目だけが、まだ、あの不気味な炎を灯したままでした。
「もちろん、約束は守るよ。美穂が、たった30分も耐えられないほどいやらしいオンナじゃないことを祈るよ。さて、始めようか」
『やめろ!罠だ!』
 目一杯、動かぬ喉を動かし、心の中で叫んでいました。
「ね、ちょっと待って」
「うん?何?」
「ちょっと、あの、その前に、これ。さっきから体がなんだかヌルヌルするんだけど。これって」
「ああ、マッサージ用のローションだよ。気になる?」
「なんだか、ヒリヒリするわ。これ、拭いていいかしら?」
「え?拭くの?せっかく塗ってあげたのに?これってお肌に良いんだぜ。まあ、君どうしてもというなら、でも、拭き取る時間は、30分に入れないけど、それでもいい?」
 そう言いながら、そばのテーブルから取り上げたタオルで、おそらくは、わざと、狙い澄ましたのでしょう。
 ここから見ても微妙な力加減だとわかる強さで、腰から、脇腹をそろそろと撫で上げたのです。
 妻の首がカクンのけぞります。
 唇をキュッと噛みしめたのは、とっさに、声を漏らさないように頑張ったとしか思えない表情でした。
「ちょ、ちょっと、待って、待って」
「今拭き取るからね。ちゃんと、拭き取ってあげるから、それまで我慢してて」
 再び、脇腹から胸のふくらみのすそ野まで、拭き取ると言うより、そのタオルで塗り広げているような手つきで動かされると、妻の口から、あぁ、という小さな声が漏れてしまいます。
「待って。もう、いい、拭かなくて良いから」
「そうかい、まあ、どっちでもいいけどさ」
 妻の呼吸は速くも荒くなっています。
「さてと、準備してからの方が良いね」
 そう言いながら、学生風のボタンダウンのシャツを脱ぎ始めたのです。
 医学生というイメージとは裏腹に、肩の筋肉もたくましく、割れた腹筋を持っていました。
「な、何を」
 何かの気配を感じたのか、妻がおびえたような反応を見せます。
 その反応を楽しむかのように、妻の顔のすぐそばまで来てから、ゆっくりとベルトを外すのです。
 見えなくとも、空気の動く気配、衣擦れの音、何より、ベルトを外すカチャカチャという音で、妻には、相手が何をしているのかわかったに違いありませんでした。
 いやいやをするように、ゆっくりと妻の顔が横に振られます。
「ほら、旦那のよりデカいんだったよね、これ。言ってくれたじゃん、大きくて、くわえるのが大変だってさ」
 確かに。
 まだ、半ばしか、上を向きかけた状態だということを考えれば、男のモノは最大限に勃起しきっていないはずでした。
 しかし、今ですら、標準サイズの私のものより、二回りは太く、エラの張りだしたモノは、私より若いのに、黒々と凶暴な姿をしています。
『あれを、妻はフェラした』
「いやあ、そんなこと。しないわ」
「だって、こんなの初めてだって言っただろ。大きすぎるって。こんなに大きいなんて知らなかったってね」
 妻は明らかに私を気にしました。
 そして、その反応そのものが、何よりも真実を語っています。
 男の言葉はおそらく事実なのでしょう。
「ほら、入れてみたら、旦那のなんてメじゃないよ、これ、美穂ちゃんもきっと気に入るよ。きっと感じると思うなあ。ずぶっていれちゃおうか」
「だめ!しないわ、そんなこと」
「ははは、でも、これが、ここに」
「あう!」
 妻が、壮絶な声を噴きこぼして仰け反ります。
 伸ばした手が、先ほどからじらし続けていた秘唇を、いきなり捉えていました。
 こちらに向けて広がっている脚の間で、男の指が嫌らしく秘唇を捉えていました。
「ほら、この中、ビショビショだろ?今、ここに入れてあげるからね」
「いやあ、そんなことぉ、あう、やめてぇ」
「大丈夫、まず、約束だからね。指だけで逝かせてあげる」
「そんなの、ぜったい、しないんだから、あう!」
「ふふふ、その言葉、あと何分持つか楽しみだよ。ほら、ほら、こんなに、クリだって」
「あうう!いやあ!」
「さてと、じゃあ、これから30分、どのくらい美穂ちゃんが我慢できるか、楽しませてもらうよ」
 いやいやをする妻の白い頬に、半ば硬直した怒張を押しつけながら、男は、妻をどういたぶるか楽しんでいるように見えました。



卒業 15
BJ 8/6(月) 03:52:43 No.20070806035243 削除

 窓から差し込む陽光で、私は目覚めました。

 傍らに目をやると、妻の姿はありません。布団に手をあててみても、そこに感じられるはずの人肌の温もりはすでに絶えていました。
 私は起き上がりました。
 身体の節々が、痛んでいました。
 昨夜の自分。そして昨夜の妻。そのすべての記憶が蘇り、私は無意識に胸の辺りを手で押さえました。
 眩しいほどの日の光が、昨夜ここで繰り返された私の罪を現実の絵に変えていました。

「瑞希?」
 名を呼びながら襖を開けましたが、そこに妻の姿はなく、私の呼びかけに答える声もありません。
 時計を眺めると、時刻はまだ早朝です。あれからまだ数時間しか経過していない、その事実に私は今さらながら慄然としました。
 そして、これから、私たち夫婦にのしかかってくるはずの時間の重さにも。
 私は窓際の椅子にどさっと身体を預けました。
 窓の外に広がる海は、昨日の夜とうってかわって晴れわたり、眩しく輝いています。
 澄みきった空には、雲のひとかけらもありませんでした。
 私はまたも煙草に手を伸ばし、火を点ける前に、いや、こんなことをしている場合ではない、と思いなおしました。
 妻を―――探しに行かなければ。
 それが今の私のしなければならない責務でした。
 そうしなければ、私は―――

 煙草の箱を投げ捨て、立ち上がったとき、ノックの音がしました。
 この部屋にノックをして入ってくる人物は妻ではありえません。
 妻でないとすれば、それは―――
「入れよ。鍵はかかってない」
 戸の向こうに声をかけました。
 すっと戸が開いて、浴衣姿の赤嶺が姿を現しました。
「よう。いい朝だな」
 眠そうに欠伸をしながら、赤嶺は咥え煙草のままで器用にそんなことを言いました。
 昨夜―――妻を抱いた男。
 その男を前にして、私はどんな感情をこめて彼の顔を見ればいいのか分かりませんでした。自然、私は伏目がちになりました。
「朝からなんて顔してんだよ。お日さんが驚いて空から落っこちるぜ」
 そんな私を見て赤嶺はけたけたと遠慮なく笑い、宙に向かって紫煙を吐きました。
「いつどんなときでも変わらないお前が羨ましいよ」
「変わってるさ。昨日はすんでのところでお預けをくらったんでな。がっかりして一晩眠れなかった。おかげで寝不足だぜ」
 何気ない口調で赤嶺が言うのに、私の耳が反応しました。
「―――お預け、って何のことだ?」
 ゆっくりした動作で煙草を灰皿に捨てて、それから赤嶺は興味深そうに私を見やりました。
「そっか。奥さん、言わなかったのか」
「・・・・・・・」
「昨日、たしかに奥さんは俺の部屋にやってきたよ」畳の上にどっかり腰を下ろしながら、赤嶺は言いました。「でも最後まではいかなかった。つまり寸止め。俺にとっては最悪」
「どうして・・・・?」
「どうしてって言うなら、お前こそなんで来なかったんだ? 奥さんが俺に抱かれるところをもう一度見たくて、奥さんを俺のところに寄越したんだろうに」
「・・・・そうだよ」どんなに認めたくなくても、認めざるをえない事実でした。「そのとおりだ」
「だったらなんで来なかった」
 私は一瞬言おうかどうか迷いましたが、もはや隠しごとをする相手でもないだろうと思いました。
「・・・ショックで腰が抜けたようになってた。動こうにも動けなかった」
「なんだよ、それ。お前が自分で奥さんを寄越したんだろ」
「それがショックだったんだよ。懲りないでお前の誘惑にのってしまった自分と、瑞希に対してああも残酷な態度をとれる自分がね」
「全然わけが分からん」
「お前には一生分からないだろうよ」
 そう言いながら私は考えていました。本当におかしいのは目の前にいるこの男なのか、それとも私のほうなのか―――
「どっちみち、お前がそんな踏ん切りのつかない態度だからこそ、奥さんも余計混乱したんだろうよ。せっかくいいところまでいってたのに、突然泣き出して、これ以上はどうしても駄目だ、駄目だと喚くのさ。そういう普通の女みたいな取り乱し方をしないのが、奥さんのいいところだと思ってたんだけどな」

 ―――どうしても駄目。

 ―――まだ、決心がつかないんです。

 ―――きちんと覚悟が出来るまで、許してください。

 昨晩、妻が赤嶺に告げたというその言葉。
 妻の意識の中では、おそらく、私に向かって告げられていたのであろうその言葉。

 私は―――深いため息をついて、右手で額を押さえました。

「またそんな死人みたいな顔しやがって。いいかげん辛気くさいぜ。それにどのみち賽は投げられたんだ。昨日の晩、お前が選択した時点で」
「今なら戻ることが出来るんじゃないのか? 何もかも元通りってわけにはいかなくても」
「お前が本当にそれを望むならな」
 赤嶺はきらりと光る目で、覗き込むように私を見つめました。
「どうだったんだ? 昨夜、お前は帰ってきた奥さんを見て、俺に抱かれてきたと思い込んでいたんだろう? そのときお前はどんな気持ちだったんだ? 普段じゃありえないくらいに昂ったんじゃないのか?」
「それは―――」

 それはそのとおりでした。しかし、昂っていたのは、私だけではなかったのです。
 妻は―――その数刻前まで赤嶺に肌身を嬲らせていた妻は、決心がつかないと泣いて戻ってきた妻は、あのときたしかに情を昂らせていたのです。
 その姿は見たこともないほど妖美で。
 ぞっとするほどに艶めいていて。
 狂おしいようなあの姿は、目の前にいるこの男の手になるものだったのか。
 それとも―――妻が身中深くに秘めているもうひとつの貌なのか。
 もしそうだとしても、私には彼女のそんな別の表情を引き出すことは出来ないでしょう。
 私の前では妻はあくまで妻であり続けるでしょう。
 彼女がそれを望むから。

 けれど―――
 けれども私は―――

「奥さんは素質があるよ」
 私の心中の動きを読み取ったように、赤嶺はぽんと言いました。
「女としての素質がね。その気になれば誰よりも歓びを得られるし、誰よりも美しく変わっていける。あれほどの素質は千人に一人さ。本人は気づいていないかもしれないけど、女の専門家が言うんだから間違いない」
 赤嶺はにっと笑って、頭の後ろで両手を組みました。
「あとは奥さんも言ってたように、覚悟次第だろ。でもそれは奥さんの問題というより、お前の問題だな」

 この男は―――
 いざなう者だ。
 今も昔も。
 適当な言葉を吐いているように振る舞いながら、その実、すべてをその手に握りしめて。
 掌の上でひとをよろこばせ―――
 苦しませ―――
 導いていく。

「お前がいなかったら、俺はもっとずっと静かに生きていけたのにな」
 ぽつりと呟くように、私は言いました。
「静かで平凡な暮らしなんて、何が面白いんだ」
 片方の眉を吊り上げながら、赤嶺は侮蔑するように私を見ました。
「瑞希はそれを望んでいたよ。守ろうとしていたよ。この一年ずっと、そんな静かな暮らしを」

 ―――私はこのままでいい。このままがいいんです。
 ―――どうして・・・駄目なんですか。

「でも、お前はそんな暮らしで満足できる奴じゃない。それだけのことだ。お前と俺は昔から同じ側の人間なんだ」
 赤嶺はそこで言葉を切り、改めて私を見ました。
「決心はついたんだな?」
 私は―――
 うなずきました。
「それなら結構」
 冗談めかしたように言って、赤嶺はひょいっと立ち上がりました。
「どこへ行く?」
「奥さんを探してくる。朝、俺の部屋から宿を出て行く奥さんの姿が見えた。浴衣のままだったから、そう遠くへは行っていないはずだ」
 赤嶺は歩き、戸口の前で振り返らずに言いました。

「大丈夫、奥さんもすぐに覚えるさ」

 何を―――と聞く前に、扉は閉じられていました。



卒業 14
BJ 8/5(日) 04:17:42 No.20070805041742 削除

 そのときの妻の表情を、私は一生忘れられないでしょう。

 妻は一瞬にして私の言葉の意味を悟ったようでした。
 見開かれた切れ長の目、その黒々とした瞳に薄い皮膜のような微光が揺らめき、ふっくらとした唇はかすかにわなないて、形の良い小ぶりの歯が覗きました。
 胸のつぶれるような想いで、私はそんな妻を見つめていました。目を逸らすことは出来そうにありませんでした。
 妻もまた視線を外すことなく私を見つめていました。
 そのまま、時間は静かに過ぎ去りました。やがて、蒼く透けるようだった頬に少しづつ生気が戻り、ぼやけた瞳の輪郭がくっきりとしてきた頃、妻は口を開きました。
「ずっと、考えていたんです―――」
 妻の声のトーンはいつもと同じようにしっとりと落ち着いていましたが、あらゆる感情が麻痺してしまったような無色透明の響きでした。
 不意に吹きつけたらしい風に、窓が鳴りました。
「去年の夏に・・・あのときに、もしも私が選ばなかったら―――赤嶺さんに抱かれることを私が選ばなかったなら、結果は違っていたんでしょうか」
 その言葉はたしかに私に向けられているはずなのに、独り言のように私の耳には聞こえました。
「違う。そうじゃない・・・そうじゃないんだ」
 答える私の言葉も、まるで独り言のようでした。
 妻は立ち上がりました。
 私は視線を上げられずに、妻の浴衣の裾が揺れる様を見ていました。

 妻はそれきり言葉を発しないまま、音を立てずに部屋を出て行きました。

 しばらくの後―――
 止まっていた呼吸をゆっくり取り戻して、私はがくりと襖に背を預けました。
 頭の芯が痺れてしまったようで、手指の一本すらも満足に曲げられないほどの消耗が私の身体の隅々まで行き渡っていました。
 照明の光で満たされた部屋にいながら、窓の外に広がる暗い闇のほうがずっと深く感じ取れるようで、降り続く雨までもこの部屋に入り込み、ぼやぼやと私の輪郭を滲ませていくようでした。
 私は手元の鞄から煙草を取り出しました。火を点ける途中に、そうか、今は禁煙中だったな、とぼんやり思いました。痺れた脳に怒る妻の顔が浮かび、そのことが妻の不在を感じさせ、最後に私の脳は赤嶺とともにいる妻の姿を思い描きました。

 横たわっている、妻の白くなめらかな裸身。
 その身体に覆いかぶさっていく、赤嶺の身体―――

 私は立ち上がらなければならなかった。立ち上がって、歩いて、赤嶺の部屋まで行かなければ、妻にあんな想いをさせたその犠牲のすべてを無駄にすることになります。
 しかし現実の私は、こうして煙草に火を点けるだけで精一杯でした。
 やがて、その煙草も灰になりました。
 私は襖に背を預けたまま、明るくて暗いこのがらんとした部屋の一部になりました。
 瞼の裏に、様々な表情の妻の幻影が揺らめいていました。

 どれだけの時間、そうして過ごしていたのでしょうか。

 不意に、物音がしてそのほうを向くと、妻が戸を開いて部屋に入ってくるところでした。

 妻の姿を目にしてもなお、私はまだ幻影の続きを見ているような気持ちでした。


 ―――それくらい、妻の姿はいつもと違っていたのです。


 しなやかに着こなした浴衣に乱れはなく、緩い曲線を描く髪も出て行ったときと同じように後ろで一本にくくられているのに。
 先ほどまで蒼褪めていた妻の顔は朱に染まり、瞳は潤沢にうるんでいて、足取りは酔ったようにふらついていました。
 気がつかないうちに、私は立ち上がっていました。
 定まらない足取りのまま、妻はまっすぐ私のほうに向かってきましたが、その視界は私の存在を捉えていませんでした。私は怯えに似たものすら感じながら、妻に近寄り、その肢体を抱きしめました。妻は一瞬小さく声を上げ、探るような手つきで私の背を触った後で、今度は力いっぱい私にすがりついてきました。
 息を呑む想いで私はその火照った肌に触れ、いつもより豊かに張っている肉の感触に妻でありながら妻でないものを抱いているような心地を感じながら、そのまま引きずられるようにして彼方へ飛び去っていきました。



卒業 13
BJ 8/4(土) 23:12:42 No.20070804231242 削除

「いや、参った参った。あの後、海でもうひと泳ぎしてから、松並木の道を府中側まで歩いてみたのさ。昨日は途中で引き返したからな。でも向こうに着いたところで雨が降ってきて、こっち側に戻ってくる船も出なくなるし、散々だった」
 赤嶺は言いながら私たちの部屋に入ってきて、手に提げていたスーパーの袋をどさっと卓の上に置きました。
「今晩は、奥さん」
「今晩は」
 赤嶺が入ってきた瞬間から、妻は先ほどまでの何かに怯えた表情を消していました。いつものように落ち着いた物腰で、赤嶺に会釈しました。
 私は胸の動悸を感じながら、そんな二人を見ていました。

「しかし、あの天橋立ってのは、本当に不思議な地形だよな。自分の目で見て改めて思ったけどね」
 何本目かの缶ビールをぷしゅっと音を立てて開けながら、赤嶺は言いました。
「津波なんか来たら一発で押し流されてしまいそうに思えるけど、もう何千年もあの海に浮かんでるんだとさ。さっき雨宿りしてたとき、気まぐれに読んだパンフレットに書いてあった」
「そんなに前からあるのか」
 赤嶺の持ってきた小型の蟹を揚げたものをつまみながら、私はいいかげんな相槌を打ちました。妻はといえば、私たちに付き合って最初少し酒を口にした後は、静かに座ったまま、私と赤嶺の益体もない話に耳を傾けていました。
「なんせ、古事記にも出てるらしいからな。あのイザナギ・イザナミが出てくる国つくりの最初のくだりで、二人が立っているのが天の浮橋、つまり現在の天橋立という説があるそうだ」
「後付けくさいな。まあ、あの砂洲が何千年も前からあったのなら、古事記に出てきても不思議じゃないんだろうけど。ところで、イザナギ・イザナミって何だっけ?」
「聞いたことはあるだろ。日本神話で最初の神様のカップルだよ。その二人の神様が交わって、日本の国を文字通り生み出していくのさ」
「ああ、あの、柱の周囲を回って声を掛け合うやつか」
「そう。最初は女神のイザナミが、次に男神のイザナギが誘って、二人は結ばれる。そもそもイザナギ・イザナミのイザナは『誘う』という意味の『いざなう』が語源らしいね」
「子供の頃にセックスのくだりだけをぼかした絵本かなんかでその場面を見たよ」
「ぼかす必要もないくらい、おおらかな神話だけどな。日本はもともと農耕民族の国だから、セックスに対する忌避感が低かったんだ。つまらない倫理観にとらわれてないだけ、今の人間よりずっと伸び伸びしたセックスをしてたんじゃないか」
 私は傍らで聞いている妻の耳が気になりました。
「伸び伸びしたセックスってなんだよ。もういい、話を変えようぜ。お前と話しているとすぐにそっちの方向に話が流れていく」
「俺ばっかりのせいにするな。お前だって学生時代はこの手の話ばっかりしてたじゃないか。第一、奥さんだって子供じゃないんだ。気にしないさ。それに―――」
 赤嶺は微笑しました。

「ここにいる三人は、もうそんな間柄じゃないだろ」

 その言葉に、視界の隅で妻の身体がわずかに揺れたのが見えました。私は私で言葉に詰まり、気の利いたことを何も口に出来ないまま、気まずい沈黙がうまれました。赤嶺一人が平気な顔で酒盃を啜り、煙草を吹かしていました。

 その後一時間ほど、さらに数本のビールを空にした後で、赤嶺は立ち上がり、「そろそろ自室に戻る」と言いました。
「どうもお邪魔してすみませんでした、奥さん」
「いえ、そんな・・・・」
 珍しく殊勝にそんなことを言う赤嶺に、妻は小さく言葉を返して自分も立ち上がりました。私も立ち上がって戸口まで歩き、赤嶺を見送りました。
「じゃあな」
 戸を閉める瞬間に赤嶺は言い、私を見て、片目を瞑ってみせました。
「おやすみ」
 私は静かに言葉を返しました。


 窓の外に目をやると、いつの間に雨は勢いを弱め、夜の闇の中、粛々と海へ降りそそいでいました。

 なんだか―――妙な心地でした。

 私が、そしておそらくは妻も予感していたような事態にはならず、今こうして何事もなく赤嶺が去り―――
 妻はどことなくほっとした表情で後片付けを始め、それを眺める私の胸にも、確かに安堵の色があるのに―――

 それなのに―――

「あら」

 突然、妻が声をあげました。
「どうした?」
「これ、赤嶺さんのものですよね」
 そう言って妻が掲げて見せたのは、たしかに見覚えのある赤嶺の携帯でした。
「忘れていかれたのかしら」

 そのようだね、と答えようとして―――
 しかし、私の頭は別のことを考えていました。

「わざと・・・忘れていったんじゃないかな」

 呟いた声に、妻が振り返りました。
「どういう意味ですか・・・?」
 かすれた、その声。
「それは―――」

 それは、つまり―――

 赤嶺の―――いざない。
 
 男から女への。
 いや、この場合はおそらく、彼から私へ向けて放たれた―――

 誘う―――言葉。

「瑞希」

 砂のように渇いた声が。
 ひとりでに言葉を紡いでいました。
「はい」
「届けてやってくれないか、それ。赤嶺の部屋に」



妻の入院 65
医薬情報担当 8/4(土) 07:21:20 No.20070804072120 削除
「ムダだよ。黙ってるって言うのが、男と男の約束だもの」
「お願い、夫と話をさせて!あなた!あなたってば!何とか言ってちょうだい!」
「じゃあ、賭は中止だね」
「ちゅ、中止」
 妻は一瞬ホッとしたように見えました。しかし、男は、獲物をいたぶるネコ表情で、ニヤニヤしながら、語ります。
「ダメだなあ。旦那さんは懸命に我慢してるのに」
「我慢?」
「そ。今も、約束どおり、見守ってくれてるだろ?旦那さんに恥をかかせる気かい?しかたがないなあ」
「恥って…」
「妻のことは、僕が一番よく知っている、妻は、浮気をするようなオンナじゃない。もし、どうしても、というなら、目の前で妻を試してみろって」
「そんなことを言うわけない」
「だって、フェラまでしちゃったんだからね。さっき認めちゃっただろ?旦那さんも、苦渋の決断だったんじゃない?そりゃ、奥さんが浮気してるなんてねぇ」
「浮気なんて!」
「ふ〜ん、じゃあ、あのフェラ…」
「もう、やめて!」
「まあ、旦那さんとしても、妻が他の男とエッチしてるなんて知ったらショックだろうからね。疑いたくもなるのが当たり前だと思うよ」
「どうかしていたのよ」
「そう、一時の気の迷いなら仕方がないよ。でも、たった30分も、何とも思っていない男の手を我慢できないとしたら…」
「まこちゃんがいけないのよ」
 いつの間にか、妻は、男を「まこちゃん」と呼ぶように戻っていました。
 その姿を見ると、さっきまで、一ミリも近づけてなるものかという覇気は、遠い彼方になってしまった思うしかありません。
「まあ、僕もいけないけど、美穂ちゃんも感じたし、積極的だった。だから、旦那さんへの愛を証明しなくちゃ、旦那さんだって、美穂ちゃんのことを信じられないだろ?」
「だけど」
「旦那さんだって、嫌だと思うよ。貞淑な奥さんが僕に触られているところを見るのなんて。でも、約束どおり、こうやって見守っているって気持ちを考えないとね」
 妻は、返事をしませんでした。
「気がついただろ?旦那さん、さっきから、一言も美穂ちゃんに声をかけない。男と男の約束だからね、旦那さんは、偉いよ」
 ニヤリと笑いながら、こちらを見る目には、残忍な光がありました。
「美穂ちゃんがもし賭に乗らないなら、それは自信がないってこと。第一、旦那の前で、逝ってしまうオンナなんて淫乱すぎるだろ?もし美穂ちゃんが賭に乗らないなら」
 言葉を一度切ったのは、妻が考える余裕を与えるためでしょうか。
「旦那さんは、諦めて帰るってさ。そんなオンナ信じられないんじゃないかな」
「そんな、ウソよ。彼は、そんなことしない」
「ふ〜ん、でも、自分の奥さんが、淫乱だって証明されちゃって、それでも愛しているって言えるのかなあ。第一、僕の言っていることがウソなら、とっくに旦那さんが何か言っているだろ」
「ウソよ、そんなの」
「さっき見たはずだよ。旦那さんは、口をふさがれてなかっただろ?もし、旦那さんを動けないようにしても、口もふさがずに喋らないようにさせることなんて不可能さ」
『良くも、しゃあしゃあと、ウソを』
「ほら、早く、決めて。このまま旦那さんだけに帰ってもらう?それとも、淫乱じゃないことを証明する?よく考えて」
 よく考えてと言いながらも、考える隙もないほど、次々と、せかすのです。
 もちろん、その間も、妻のあちこちにいやらしく手を動かしたままです。
「ほら、早く。旦那さんだって、こんな風に股をおっぴろげてる格好」
 と言いながら、妻の太股をズルズルとローションをすり込むように撫で上げて、再び、妻の秘所のそばまでで手を止めます。
「ひぃ〜」
 喉の奥から、悲鳴のような、呼吸がかすれたような声が漏れてしまいます。
 男は、そんな声も関心なさそうな顔で、決断をせかします。
「こんなスケベな格好をいつまでも見せたくないだろ?オ○○コ丸見えだもんな」
「いやいやあ」
 羞恥を取り戻させるのも、妻に冷静な判断をさせないためのでしょう。
 頭は決して悪くない妻ですが、身動きできず、裸を男になぶられながら、頭を動かすのは、やはり難しいことなのです。
ほら、早く決めないと。それとも、大股をおっぴろげのままの方が良いかな?」
 唇を噛んだ、妻の、悔しげな表情が痛々しく感じました。



妻の入院 64
医薬情報担当 8/2(木) 18:26:06 No.20070802182606 削除
 無言のまま、男がスイッチを操作すると、腰の辺りから台が曲がり下半身が持ち上がります。
「何?やめて、怖い」
 自由が利く左足を懸命に動かしますが、もちろん、ベルトで固定された脚台から、逃れることなどできません。
「大丈夫。ちょっと姿勢を変えるだけだからね」
「やめて、ああ!こんな格好。やめて、戻して!」
 妻が、戻してと叫んでいる間も、電動式の各パーツはちゃくちゃくと指定された位置に移動しています。
 もちろん、裸のままの妻の体も、意志とは関係なく、思うがままに動かされてしまうのです。 
 大きな石をお腹の上で、身体を丸めて抱え込むような姿勢は、載石位と呼ばれる形でした。
 仰向けの脚を大きく広げたまま、曲げた膝を、身体の上側に引きつけるようにするこの姿勢は、女性にとっては、ひどく恥ずかしポーズです。
 たいていは、誰もが嫌がるので、分娩の時以外には滅多にこの形にすることはありません。しかし、痔や会陰の診療、治療に一番都合が良いのは、本来この形です。
 なによりも、多くの手が「赤ん坊の出てくる場所」に手を伸ばせる形でもありました。
 と言うことは、とりもなおさず、最も恥ずかしい部分をこれ以上ないほどさらけ出されるわけですから、男からすれば最も「いじりやすい」形なのです。
 この台は分娩台にもなるように設計されています。
 ですから、分娩の時に取るこの姿にするのもボタン一つで済むのです。
 腰の部分を持ち上げるのは、上げる高さを、付属のスライダーでいくらでも調整できます。
 医者がかがむ必要がないように、台自体の高さも上がり、女性のその部分を医者が診やすいように、やや上を向くようにもできるのです。
 それは、秘所を上から覗き込むのには絶好の姿勢ということでした。
 大きく脚を広げたこの格好では、秘所の奥までがすっかりと広げられ、スポットを浴びて、私の方からもはっきりと見えます。
 脚を広げたせいなのか、それとも、認めたくなくても、さっきから、ローションをさんざんに塗り込められ、いやらしく触られているせいなのか、秘唇がはっきりと広がっていました。
 いえ、それどころか、ライトを浴びた「そこ」は、濡れて、光っていたのです。
「いや!いや!この、かっこう、いや、恥ずかしい。元に戻して」
 妻を無視して、嬉しそうにしゃべります。
「約束は3つ」
「約束?何なの?でも、その前に、もう!戻してってば」
「そう、賭にはルール必要だからね。簡単だよ。終わるまで、旦那さんが話しかけない。もし逝っちゃったら素直に認める。そして」
「あう!」
 さっきの、ローションが秘所に垂らされたのです。
 その刺激のせいでしょうか、妻の腰が、ヒクンヒクンと突き出すように動きました。
 既に、それだけで感じてしまったかのように、妻の閉ざされた唇から、微かに甘い声が漏れた気がしました。
「時間は30分。たったそれだけ。いくら淫乱なオンナでも、オーガズムに達するわけのない時間だ」
「そんな」
「そしてね、もし賭に負けたら、僕を素直に受け止めること。二人の初夜を旦那さんに見せつけて、結婚しよう」
「あぁ、そんなぁ、ダメよ、そんなことぉ、絶対に嫌ぁ」
 秘唇に溢れたローションが糸を引きながらポトポト垂れるのが見えます。
 ゆっくりと、広げられた腿を触られながら、妻は拒否と言うよりは、懇願と言っても良い声を上げます。
 ひょっとして、あの目隠しの下では、妻は涙を浮かべているのかもしれません。
 しかし、一方で、妻がしきりに、ヒクヒクと太股に力が入って来ているようにも見えました。
「簡単だよ。美穂ちゃんが、エッチにならなければ良いだけ、旦那さんは、美穂ちゃんのことを信じて賭に乗ったんだから」
 不敵な余裕の笑みを浮かべるようになるにつれ、再び、妻のことを、ちゃん付けで呼び始めます。
「ほら、美穂ちゃんは、旦那さんの信頼に応えなきゃ、ウソだよ」
「そんな」
「今まで、さんざん、してきたんだ。あと1回くらい弄っても、同じだろ?違うのは、旦那さんの前だってこと」
 とんでもない、とでも言いたげに、無言のままの妻が、大きく首を横に振ります。
 しかし、相変わらず、妻の白い太股には、ぬらぬらと男の手が動いていました。
「簡単だよ。旦那さんの前で淫乱にならなきゃ良い?そんなこともできないの?」
「そんなこと」
「ほら、少しだけがマンすれば良いだけだ。もう、美穂ちゃんのオ○○コの味まで僕は知っているんだから、今さら、少し触るくらい、どうってことない。」
「いやいや!言わないで!嫌なの!もう、触ったらダメ!賭なんてしないわ!」
「あ、そう、それは残念。じゃあ、旦那さんに、帰ってもらおうね」
「え?」
「旦那さんは、賭に乗るのを認めたからここに招待したんだ。美穂ちゃんが自分の意志でフェラしたってことを聞いたら、大人しく、その後のことも見るってね」
「そんな、そんなことって、あなた!いるの?あなた、返事をして!」
ひとしきり、妻は、私を求めて懸命に叫んでいました。私も精一杯声を出そうとしましたが、息がマウスピースをむなしく抜けるだけでした。



卒業 12
BJ 8/2(木) 03:25:12 No.20070802032512 削除

 窓際に立って、私は外を眺めました。
 夕刻から振り出した雨は、夜になった今もいっこうにその勢いを弱めず、窓の向こうに見える暗い海に、斜めに降りそそいでいました。いつの間にか風も出てきたようで、朝、眺めたときと比べて波も高くなっています。
「さっきまであんなに綺麗だったのにな」
 無意識に呟いた私の声に、背後の妻が振り返ったのが分かりました。
「何でもない。外の話だよ」
 言いながら私は動いて、妻の横の畳に座りました。妻はリモコンを取り上げ、テレビを切りました。
「切らなくてもいいのに」
 黙ったまま、妻は首を振りました。その視線は私ではなく、卓の上を向いたままです。
 ぴっと伸ばしたままの妻の小さな背が、そのときの私の目には張りつめた弓のように見えました。
 私は腕を伸ばして、妻の肩を抱き寄せました。肩に手が触れた瞬間、妻がほうっとため息をついたのが聞こえました。

 互いの鼓動が聞こえる距離で、しばし私たちは無言で触れ合いました。

「何だか怖いみたい」
 ぽつり、と妻が言いました。
「何のこと?」
「・・・外の話」
 妻は言い、私の浴衣の襟をぎゅっと掴みました。
 その掌が震えていました。
「今日の瑞希はやっぱり変だ」
 囁きながら、私はその妻の手に自分の手を重ねました。
「妙にはしゃいだり、怖がったり、大忙しじゃないか」
 妻はじっとしたまま私の手の愛撫を受け、私の言葉には答えませんでした。

 本当はもう、分かっていたのです。
 昼間、妻がはしゃいでみせたのも、今こうして震えているのも、すべて同じ感情の動きから来ているのだということに。
 それを分かりながら、分からないふりをして、表面上だけ優しい言葉を吐いてみせる自らの心の残酷さに慄然としながら、私は妻の小さな身体の温かみを胸に感じていました。

 胸に感じる温かさと胸の奥の冷えきったものが、そのときの私の世界のすべてでした。

 永遠に混じりあうことのない、その二つのものが―――
 
「もしも―――」
 不意に、妻が口を開きました。
「もしも・・・?」
 鸚鵡返しで聞き返しましたが、妻はそれきり黙ってしまいました。
 もう一度、何を言おうとしたのか妻に聞こうとして、私が口を開きかけたとき―――

 こん、こん、と。
 ノックの音がしました。





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妻の入院 63
医薬情報担当 8/1(水) 22:00:10 No.20070801220010 削除
「感動のご対面だ。あんなに会いたがっていたのだろ。ほら、呼んでみたらどうだ?」
 嘲笑するかのような、それでいて、いらだった顔で、顔を背ける妻の髪の毛をつかんで、私の方を向かせようとします。
「ほら、ダンナが見てる。いやらしいオンナの姿をな」
 イヤイヤをしながら、身体をすくめようとしているように見えました。
「あなた、やめて、見ないで」
 懸命に、妻の名前を呼びましたが、息だけが漏れるだけで、言葉になりません。
「ほら、おまえのいやらしい姿が見たいとさ」
「あなた、やめて、あなた、助けて!、あう、きゃ!」
妻がはっきりと、私に助けを求めた瞬間、妻に目隠しをしたのです。
「わかったな?旦那はさっきから、あそこでお前のことを見ている」
「やめて! あなた! 助けて!」
「ちゃんと見ただろ?旦那はお前に声をかけようとしたか?」
『しまった!』
 男のもくろみがはっきりとわかったのです。
 妻と眼があった刹那、私は、たとえ、顔だけでも、動けないことを伝えるべきだったのです。
 妻の名を呼ぶことに一生懸命になりすぎた私を、妻からはどう見えるのか考えなかったのです。
「さすがに、ダンナの顔を見ながら、スケベになれないだろうからな、これは、俺の優しさだよ。ここからは、目隠しをしてやろう。それとも、旦那の目を見ながら、スケベになるか」
「いやあ、やめて、あなた、助けて!助けて!あなた!」
 懸命に叫びますが、私は、それに何一つ応えてやれないのです。
 身体を揺らしても、いっこうに、自由になる気配も見えません。
 さんざんに、私に助けを求め、叫んでいましたが、人間というのは長い間、叫び続けることなどできません。
 ふと、妻が荒い呼吸を回復する瞬間を狙って、男が、語りかけます。
 その手は、ふたたび、妻の腹をいやらしく触りながらです。
「ダンナとね、賭をしたんだ。美穂の身体をね」
「賭?」
 身体をすくませながら、妻が聞き返してしまいます。
『やめろ!それは、やつの罠だ、聞くんじゃない!』
 懸命な心の叫びはもちろん、妻に聞こえるはずもありません。
 妻には、私の顔だけを確認させておいて、視覚をふさいだのです。
 一瞬のこととて、麻酔されて声が出せない不自然な様子まで、見抜けるわけもありません。
 叫んでも応えない私に、妻の不安が募ることを計算したに違いありません。
「そう、賭。美穂と、さんざんエッチしたことを、実は、さっき、旦那さんに謝ったんだ」
『ウソだ!騙されるな、聞いちゃいけない!美穂!』
「そうしたらね、それはわかってたって。前から、僕とのことを怪しいと思ってたらしいよ」
「ウソよ、そんなこと」
「美穂は真面目だから、まさか浮気なんてするはずない。もし、身体を許してるならわけがあるんだろうって思ったみたいだよ」
「そんな」
 妻の弱みを巧みに突いていました。
 さっきまでの強気に拒絶する覇気が消えてしまい、弱々しく首を振るだけでした。
「僕のを喜んでしゃぶってくれましたよって言ったら、信じてくれないもんだから、さっき、確認したろ?」
 アイマスクをしていても、妻がハッとしたのが、はっきりとわかりました。
「喜んでしゃぶってくれたのは、さっき、聞いてもらったからね。これで、美穂が本当は僕のことが好きだってわかってくれたと思うんだ」
「喜んでなんてないわ、好きでもないってば」
 はっきりと否定はしても、その勢いはとても弱々しいものでした。
 さっき、執拗なまでに、フェラチオをしてしまったことを確認され、認めてしまったことが、こんな意味だったのかと妻は思ったことでしょう。
 まさか、私に聞かれていたなんて。
 妻のショックは、大きかったのでしょう。
 強気がはっきりとくじかれてしまったに違いありません。
「自分の奥さんが本当は、誰のチ○ポでも喜んでしゃぶる淫乱な奥さんなら、とんでもないよね。
「やめて、そんなんじゃない」
「そう、美穂は、僕のだからしゃぶってくれた。好きだからね。でも、旦那さんも、美穂のことを信じたいだろ? 優しい旦那さんだよね。美穂にチャンスをくれたんだ」
 蛇がチロチロと舌を出しながら獲物を狙う姿そっくりでした。
 チラリと私を見上げ、ニヤリと笑う姿は、妻が落ちたも同然であるとはっきりと意識したに違いないのです。
「他の男のチ○ポを喜んでしゃぶるなんて、許せない。でも、美穂が本当に好きな男なら仕方ないってね」
「好きなんかじゃない」
 イヤイヤをします。
 相変わらず、男のいやらしい手が、妻の腰から脇腹を包むように動いていました。
「じゃあ、なおさら、大丈夫だよ。優しい旦那さんに、美穂が、浮気をするようなオンナじゃないことを証明してやればいい」
「証明って」
「簡単だよ。今も旦那さんは、あそこから見てる。もし、このまま、俺に弄られて、逝ってしまったら、美穂は俺のことが好きなんだと納得してくれる」
「そんなのって、ない、いやぁ」
「でも、美穂は、真面目なオンナだから、好きでもない男に触られて、濡れたり感じたりなんてするわけないだろ。もちろん、旦那さんは、そう信じてる」
「っく…、やめて」
 男の手がヌラヌラと妻の胸の裾野を、半ば包みこんでいました。
 動揺した心は、さっきまでの、きっぱりとした拒絶をするまでに、心のバリアーを保てないのかもしれません。
「もちろん、いつまでも弄るようなマネはしない。たった30分だ。それだけ我慢すれば、君と、そして旦那さんの勝ち。二人で帰って、あとは、病院でゆっくりと治療すればいい」
「さ、30分って。そんな、いや… こ、ここ、病院じゃないの?」
「そう、ここは、山の中の、ほら、君も小さい時に来たでしょ。別荘。あそこだよ」
「別荘って、まこちゃんちの…」
「そう、あそこ」
「他には誰も?」
「いないよ、僕と、旦那さんと美穂だけ。だから、いくら叫んでもダメ、誰もここには来ないよ。」
 妻の身体が、明らかに硬くなったのは、この別荘がどれほど人里離れた場所にあるか知っていたからでしょう。
 おまけに、美穂は知りませんが、おそらくは、今現在も、別荘の周りでは、あの、男達が見回りをしているに違いありませんでした。
「第一、旦那さんが認めた賭だよ。美穂なら大丈夫だってさ。だから、さっきも、約束を守ったろ?」
「約束?」
「そ、男と男の硬い約束。口をふさがない代わりに、決して、美穂に声をかけないこと。この賭に負けたら、旦那さんは、一人で帰る。美穂は、僕と暮らす」
「そんな、ダメよ。そんなことできるわけない」
「美穂は、誰に触られても逝っちゃうような淫乱なオンナなのかい?」
「よしてよ。そんなこと、あるわけないでしょ」
「じゃあ、簡単。美穂が、嫌いな男に逝かされなければいい。簡単だろ?淫乱なオンナじゃなければ、たった30分で嫌いな男に逝かされるわけがない」
「触られるのなんて嫌よ。ダメ…」
「でも、もう、何度も美穂ちゃんの大事なところも触ったじゃん。味だって」
「やめて、言わないで!」




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