BBS2 2007/07 過去ログ


妻の入院 62
医薬情報担当 7/31(火) 23:23:01 No.20070731232301 削除
「まこちゃん、だめ、もう、ダメなの。ね、ダメなの、絶対。もうこんなこと。あうっ、お願い、主人に申し訳ないもの。お願い、やめてぇ。主人に会わせてったら」
「大丈夫だよ。今日は、二人の初夜にしてあげるからね。これで、僕らは本当に結ばれるんだよ」
「ダメ、それはダメって。やめて、ねぇ、お願いよ。そんなことしちゃいけないの。ちゃんと言ったでしょ。まこちゃんとは、もう何にもないって。私は結婚してるのよ」
「そんなことはない。美穂ちゃんが勘違いしているだけだよ。結婚したから終わりなんかじゃない」
「あう、だから、違うの。ね、もう、お願い、触らないで」
「俺のことを好きじゃないって言うのか」
「嫌いじゃないけど、結婚してるのよ、私。彼を愛してるわ。あなたのことを好きだった時もある。それは本当よ。でも、今は違うの。あの時、ちゃんとお別れをしたはずよ」
「でも、今でも、俺のことが好きなんだろう。だから」
「あなたとは終わったの。好きでも何でもない」
「じゃあ、さんざん、逝ったのは、どういうわけだ。美穂は、好きでもない男に触られて、あんなスケベなことができたのか。俺のをよろこんでしゃぶったよな」
「それは…」
「あれ?覚えてないのか?それとも、俺のを喜んでしゃぶったのはウソだって?」
「そんなの」
「覚えてないなら、もう一度、しゃぶらせるぞ。おい、覚えてるのか、俺のを喜んでしゃぶってただろ」
 美穂がフェラチオをしたことを、これほど認めさせたがるのは、おそらく、私に聞かせたいがためではないかと疑います。
 そして、したことが事実である以上、妻は認めざるを得ないのです。
 私がここで聞いていることを知っていれば、あるいは、事実はどうあれ、否定するに決まっています。
『美穂!』
 いくら叫べども、私の声は、そよ風の響きにもなりません、
「もう!確かにしたわよ。したけど、喜んでなんてないわ」
「あれ?おまえが、しゃぶりたいって言ったじゃないか」
「それは、あなたが、そうしないと、苦しいって言うから」
「お口でしてあげる。届かないから、あなたが来て」
 男は、美穂の口まねをしているのか、奇妙な発音の仕方をします。
 おそらくは、男の誘導されてのことであっても、その通りのことを言ってしまったのでしょう。否定もできない苦い顔で、男の顔を見返します。
「そうだろ?おれの言葉、嘘か?何か違うなら言ってみろよ」
 妻の目は、怒りを含んだ視線を男にしばし向けます。
 にらみつけたと言っても言い時間は、ずいぶん長く感じましたが、ホンの一瞬だったのかもしれません。
「だって、苦しいって言われたから」
 妻の反応は予定通りなのでしょう。男は余裕のある笑みを浮かべたように思いました。
「ほぉ、男が苦しいって言ったら、おまえは誰のチ○ポでもしゃぶるって言うのか、それじゃ、まるでヘンタイだな。美穂はヘンタイの素質があるのかなぁ」
「やめてよ、ヘンな言い方するのは」
 妻の声には、明らかに怒気がこもり始めました。
「あんなに、スゴい舌遣いをして、べろべろと、袋まで舐めてたな。あれも、イヤイヤだったってのか?喉の奥まで入れて。おいしい、おいしいって何度も言ってた」
「やめて!どうかしていたのよ。あの時は。もう、後悔してるわ」
「しかし、あの時、おまえは自分から舐めたいって言って、頼みもしない所まで、べろべろと舐めてた。違わないな?」
 あのレコーダーにも、そのフェラチオのシーンは映っていたはずでしたが、私が欲望に負けて、真夏に手を出してしまったために、見てはいません。
 ただ、妻が、これだけひどい言われようをして怒気を浮かべながらも、怒りだすことができないのは、おそらく、言葉通りのことをしてしまったからなのでしょう。
 マインドコントロールをかけられた妻が、男に「奉仕」してしまったのは、たまらなく悔しいことでしたが、仕方のないことだったと思えます。
 ただ、怒るに怒れず、困惑と、哀しげな表情を浮かべる妻を見ると、そのシーンが否応なく頭に浮かび、あろうことか、微かに、怒張に、力が入ってしまうのです。、
 しかし、怒るに怒れない妻は、ここまででした。
「おまえは、俺のことが好きだから、あんなに激しくしゃぶった」
 妻が硬く唇を噛みしめながら、目を閉じています。違うと言いたげに、目を閉じたままの妻は頭を振っていたのです。
 その妻に、いきなりキスしたのです。
 妻の縛り付けられた手に、力が込められ、動けぬまでも懸命に動かそうとしているのがわかりました。
 もちろん、動けない妻は、どれほど顔を振って逃げようとしても、男の力で両手で押さえつけられれば、男の唇から、逃げる術もないのです。
「む、ぅぅ、う、っはあ、はあ、はあ、やめて!ほどいてってば!」
 妻の唇の周りが、唾液でねっとりと濡れて光っていました。
 どうやら、男の舌でさんざんに舐め回されたようです。
 私の目の前で、無理矢理に妻の唇が奪われたのです。
 同時にそれは、唇を奪われても、舌を許さなかった妻の決意を示していました。
 その決意は、妻があくまでも男を拒否するという強いものでした。 
 しかし、おそらく、舌を拒絶したことが男の心理を追い込んだのでしょう。
 泣きそうな表情をした男の目に、暗い光が宿っていました。
 妻の胸をつかみながら、叫びます。
「おまえは、俺のことが好きなんだよ。認めたくないだけだ」
「違うわ!しつこいわね!違うって言ってるでしょ」
 妻の唇を奪うその瞬間以外、男の手は、さっきから、妻の身体のあちこちをヌラヌラと動かし続けていたのです。
 今は、妻の胸をつかみ、その手は乳首を絞り出すようにしています。
 しかし、妻の厳しい拒絶の態度は、男がその手を、思わず止めてしまったほど、激しいものでした。
 もちろん、ついこの間まで、さんざんに、甘い声を絞り出されたであろう、乳首への愛撫にも、妻はまったく反応していません。
 白々とした空気が二人の間を流れます。
妻の潔癖なところが出ていました。
 マインドコントロールが解けた今となっては、オンナの感性に、いいえ、オンナそのものの快感でごまかすこともできなくなったのでしょう。
 はっきりとした拒絶は、妻の愛が私だけにあることを物語っていました。
『美穂…』
 妻が渡し以外の男をきっぱりと受け付けないでくれることは、はっきり言って、嬉しくはあります。
 しかし、危険な行為ではありました。
 事実、妻を見下ろす男の目に、はっきりと危険な色が浮かんでいました。
「ね、あの、ねぇ、他の人はいないの?ここは、ここはどこなの?」
 妻も、何ごとかを察知したのでしょう。トーンを一転して弱めたのです。
 しかし、遅すぎました。
 いえ、どのみち、男の思いこみを受け入れられるはずもない以上、仕方のないことだったのかもしれません。
「他に、人? いるよぉ。他にもね。スケベな主婦が一番会いたがってる男を、ちゃんと呼んである、ケケケ、このスケベな姿が見たいってさ。ホント、ヘンタイ夫婦だな」
 男の顔がこちらに向けられると、つられて、妻の顔がこちらを向いたのです。
「あなた!」
 妻の目が大きく広がっていました。



悪夢 その68
ハジ 7/31(火) 22:42:58 No.20070731224258 削除
 突然、目の前が黒い壁によって遮断されました。それは目を閉じる、あるいはあたりが暗くなるといったものとは別次元の昏さ。本来なら、パニックに陥るところですが、そのときの私はなぜか、おちついていて、そのまま身を任せようという気になっていました。過酷な現実から逃げたいという欲求があったのかもしれません。
 ただ、だんだんと呼吸が苦しくなるのは感じていました。

 ブラックアウト現象―――。話には聞いたことはありましたが、まさか、こんなことで経験するなんて。
 私の浅い知識では航空機のパイロットなどが、激しいGによって、脳の血液が下半身に集中することで、視野が暗くなり、呼吸困難に陥る症状だということです。そして、長時間その状態でいると失神、あるいは脳が損傷してしまう、危険な状態―――そのあたりまで考えたところで、私は猛烈な眠気に襲われました。もっと深い場所へ―――自分から沈んでいくのです。

 私は自分を見失っていました。自分が何者で、どこにいるのか。
 しかし、急激にあたりの風景画が線を結びはじめ―――私は自宅の庭先に屈みこんでいました。
 目の前には白い横長のプランタンが。乾いて砂のようになった土の上に、かつて植物だったものの残骸が横たわっていました。
 この花の名はなんだったかな。そんなことを考えている私の後ろに細く薄い影が立ちました。

「枯れてしまったんですね」

 私は声の主を振り返らずにうなづきました。このとき、私の胸を占めていたのは別の女性だったのです。
 彼女は別段そのことを気にするふうもありません。

「奥さん―――香苗さんが好きだった花……」

 私と秋穂はしばらく、そうしていました。何も語らず、二人のまわりを時間だけが過ぎていきます。
 やがて、彼女は私の隣に腰を下ろしました。

「また、咲くといいですね」

 彼女のなにげないひとことが忘れられません。そして、わずかに触れ合った肩先のことも―――。

 庭先からみえるすすきが風に揺れていました。



 いつのまにか、私は庭から表へまわっていました。事情はわかりませんが、時間を気にしている。私の肩に風景の一部だった桃色が落ちてきました。
 季節は春―――お隣の桜の木は目が痛いほどに満開でした。
 私は散ってくる花びらをよけながら、なぜかそこを離れようとはしません。やがて、玄関先にあわただしい気配が。
 妻の秋穂に手を引かれて、息子の浩志が顔をみせました。渋る息子を秋穂がようやく連れ出したようでした。

「いいよ。写真なんて」
「駄目よ。お母さん、楽しみにしてらっしゃるんですから」

 息子はお仕着せの学生服を着せられているようでした。そう―――これは息子の中学入学の朝。
 私たちはともに教員の関係―――しかも別々の中学でもあり、その日は我々にとっても忙しい一日のはずでした。学校の校門前が無理なら、せめて自宅前で。そんなつもりだったのかもしれません。
 気の良い隣人が構えるカメラに向かって、私たちは微笑みます。横目に秋穂にしがみつく浩志の様子がみえました。



 ああ―――
 これは記憶の一部。平凡でありながら、平穏な日常の断片。
 なぜ、今、こんなことを思い出すのだろう。

 風景は融けだし、今度はポートレートを思わせる連続写真のような展開が。
 後ろ姿の秋穂が肩越しに振り返ります。背景や服装を変えて、何度も同じ場面ばかりが繰り返されます。

 帽子を被った秋穂。今より若い秋穂。髪の短かった頃の秋穂。

 共通しているのはその悲しげな憂いを帯びた瞳。私になにかを訴えているようです。

 コツコツと背後で靴を鳴らす音がしました。私が重いからだをそちらにむけると、秋穂が霧の中の階段を登っているところでした。
 今度の彼女はいつまで経っても振り返りません。
 心配になった私は声をかけようとしましたが、喉は持ち主のいうことを聞かず、ひりついたように動かないのです。
 そうしているうちに、彼女の姿はどんどん小さくなっていきます。このままでは妻はいなくなってしまう。
 焦燥に駆られた私は彼女に向かって手を伸ばし―――

 その瞬間。
 私の視界を太いひび割れが。それが何本にも増えて、あたり一帯を覆うと、ゆっくりと音もたてずに崩れはじめました。
 私は襲ってくる破片から身を守ろうと、からだを丸め、頭を抱え込みました。自然、耳をふさぐような格好になります。

 しかし、―――

「い、嫌あああ……ぁぁぁ―――」

 甲高い声でした。しかも、もっとも良く知る女の。
 張り詰めたものが一気に崩れる、狂おしいまでの響き。

 私はたしかに断末魔のさけびを聞いたような気がしました。



卒業 11
BJ 7/31(火) 17:26:50 No.20070731172650 削除

 それっきり赤嶺は黙り込み、私も妻も言葉を発しなかったので、三人は海に向かって並んで座したまま、しばし不思議な時間を過ごしました。

 私の左には妻が。
 そして私の右には、妻を抱きたいと言う男、かつて妻を抱いた男が座っていました。

 それはシュールで、滑稽で、不自然極まりない光景でした。ただこうしてじっとしているだけで、私の肌は汗ばみ、心臓の鼓動はじわじわと早まっていくようでした。
 目の前に広がる砂浜と海は相変わらず平和そのもので、人々の笑いさざめく声がそこかしこに響いています。
 夏、でした。
 そして私にとっての、夏の記憶は―――
 
 ふと、赤嶺が立ち上がりました。
「お前、もう泳がないの?」
 海パンの尻を手で払いながら赤嶺の言う声に、「俺はもういい。さっき十分泳いだ」と答えると、
「ちっ。やだねえ、これだからロートルは」
 同い年のはずの赤嶺は言い、次に妻を見ました。
「奥さんはまだ若いから大丈夫でしょ。泳ぎにいきましょう」
「私は―――」
 妻は私を見ました。先ほどまで奇妙にはしゃいで見えた妻も、赤嶺が現れてからは、普段の気弱な調子に戻ってしまったようでした。
「いちいち旦那の許可を取る必要はありません。江戸時代じゃないんだから」
 そう言って、赤嶺は不意に妻の腕を取りました。妻は驚き、腕を引こうとしましたが、赤嶺の手がそれを許しませんでした。
「さ、行きましょ」
 妻はもう一度私を振り返りました。
 その顔を見つめるうちに―――
 何かが、私の中で、ゆっくりと動きました。

 私は―――妻にうなずいて見せました。

 その瞬間、妻の唇から吐息が洩れたのが聞こえました。赤嶺に引っ張られるようにして、妻は立ち上がりました。彼女の全身から力が抜けてしまったようでした。
 赤嶺に手を引かれながら、渚へと歩んでいく妻の背中。その真っ白な背肌と肩幅の広い赤嶺の朝黒い背中が、不思議なほど好一対に見えました。

 白と黒。
 柔と剛。
 軟と硬。

 その二つの身体が絡み合い、一つに繋がったあの夜が。
 決して忘れることの出来なかったあの記憶が。

 私の脳裏で、ふたたび、黒い炎のように揺らめいていました。

 その熱はちりちりと臓腑を焦がし、心を灰片に変えていくというのに―――
 危うい炎からどうしても逃れられない私は、夏の夜に舞う蛾のようなものです。

 火の中へ、火の中へ。
 その誘惑が―――


 ―――変えてやるよ。


 誘惑―――

 そして今―――渚に立つ妻と赤嶺の後ろ姿。
 あの夜、白い肢体を抱き締め、思うままにしならせた赤嶺の太い腕が伸びて、妻の撫で肩に触れるのが見えました。

 私は息を吐きました。長く、長く。妻は顔をうつむけ、赤嶺にやんわりと肩を抱かれたまま、ゆっくりと海に入っていきます。
 太陽は中天からわずかに傾き、二人の影は私のいる砂浜へ向かって伸びていました。


「もう、戻るのか?」
 夕刻の気配が漂う前にパラソルを畳み出した私に、赤嶺が声をかけました。妻はビニールシートにぺたりと腰を下ろし、ぼんやりと海を眺めていました。
「ああ。お前は?」
「俺はもう少し泳いでいく」
「元気だね、お前も」
「まあな。どっかの年寄りとは違うさ」赤嶺はそんなふうに憎まれ口を叩き、また海に向かって歩きかけ、数歩も行かないうちに振り返りました。
「お前と奥さんが泊まってるのって萩の間だよな?」
「・・・そうだけど」
「今夜、遊びに行くわ」
 いつものようにあっさりと告げ―――
 返事も待たずに赤嶺はさっさと歩き去っていきました。
 私はしばしの間、その小さくなっていく背中を眺めました。
 振り返ると、妻は立ち上がって私を見ていました。私はその視線から目を逸らし、何事もなかったように無言でパラソルを畳み終え、立ち尽くしている妻の裸の肩をぽんと叩いて、「行こう」と言いました。
 かすかな潮風が、妻の濡れた黒髪を静かになびかせていました。



卒業 10
BJ 7/30(月) 19:30:20 No.20070730193020 削除

「久しぶりに泳ぐと、やっぱり相当疲れるね」 
 パラソルの影のもと、シートの上に座った私は、濡れた脛に付着した砂粒をざらざらと手で払い落としながら、ため息まじりにぼやきました。
「もう年だな」
「普段、あんまり運動なさらないから」
「そう。たしかにしない。駅への行き帰りの道を歩くくらい。でも日本のサラリーマンの電車通勤というのは、あれはあれで相当しんどいものだよ」
 わけの分からない言い訳をする私に、「そんなものですか」と相槌を返しながら、妻は両腕を前に伸ばして表に裏に眺めています。
「どうした?」
「いえ、これは日焼けしてしまいそうだと思って」
「当然だよ。夏に海で泳いだら焼ける。瑞希も少しくらいは日に焼けたほうがいい。健康的になる」
「まるで、普段の私が病人みたいな仰りようですね」
「そんなことは言っていない」
 そこで妻は唐突に黙りました。
「何? どうかした?」
「いえ・・・実は私、病気、というわけではないんですけど・・・」
「どこか身体の具合でも悪いのか?」
「そうじゃなくて・・・・」
 奥歯にものの挟まった言い方をする妻に、私はいっそう心配になりました。
「焦らせないでくれよ。何なんだい」
「実は・・・・先月から、月のものが・・・」
 晴天の霹靂、とはこのことであり、呆気に取られた、とはまさに今の私の表情そのものであったことでしょう。
「―――ちょっと待ってくれ。それは本当なのか」
「嘘です」
 がっくりと力が抜けました。妻は申し訳なさそうな表情で、「ごめんなさい」と言いました。
「ちょっと冗談を言ってみたくなって」
「瑞希が冗談を言うのを初めて聞いた。いやいや、そうじゃなくて、何も最初のジョークをそんなたちの悪いものにすることはないだろう。それにしても、どうしたんだ? 今日の瑞希はどこかおかしいぜ」
 私の台詞に、妻は一瞬不思議な表情で私を見た後、にこっと笑いました。
「そう、おかしいんです。今日の私は」
「・・・どうして?」
 私の質問には答えず、妻は吹きつける潮風に向かって瞳を閉じました。
「―――でも」やがてぽつりと妻は言いました。「さっきの冗談が本当だったら良かったのに」
「子供が・・・欲しいの? でも、今まで一度もそんなこと」
「そうじゃないんです」妻は笑って首を振りました。「そうじゃないの」
 何が「そうじゃない」のか私には分かりませんでしたが、妻の様子が明らかに普段と違うことだけは分かりました。
 そして、彼女が普段と違っているその原因なら、分かりきっています。
 だから―――私は何かを言わなければならないはずでした。

 けれども、そのとき―――

「相変わらず仲が良いことで、羨ましいね」
 背後から聞きなれた声がして、振り返ると水着姿の赤嶺が立っていました。
「独り者の俺には目の毒だな」
「お前、いつから、そこに」
「ここには朝から来ていた。お前と奥さんの姿を見つけたのはついさっきだけどね」
 体格の良い赤嶺の浅黒い身体は、夏の陽を受けてつやつやと光っています。
 赤嶺は「奥さん」のほうに向き直りました。
「よくお似合いですよ、その水着」
 日に焼けた顔がふっと笑み、そこだけ白い歯が見えました。
 赤嶺の登場した瞬間から、妻は浮かべていた微笑を消し、きゅっと唇を閉じ合わせていましたが、昨日のように黙りこんだりはしないで、「ありがとうございます」と小さく言葉を返しました。
 赤嶺は苦笑するような表情を見せつつ、ずかずかと私たちのパラソルに入ってきて、シートに腰を下ろしました。
「お前、一人で海に来て淋しくないか?」
 図々しい男に復讐する気持ちで悪態をつくと、赤嶺は涼しい顔で「せっかくたまの休日にゆっくりしに来てるんだぜ。そんなことかまってられるかよ」と言い、私を見つめました。
 微笑んだままの、その唇が動きました。
「―――なんたって俺は、楽しむためにここに来ているんだからな」
 私は赤嶺から視線を外しました。
 ひどく、喉の渇く心地がしていました。



妻の入院 61
医薬情報担当 7/30(月) 18:07:27 No.20070730180727 削除
 顔を背けようとした、ちょうど、その時でした。
「辛いでしょうけど、そのまま顔を出して。見ていて。目を閉じてもダメ。決して顔を引っ込めないで。さっきの、あの子の顔、ごらんになったでしょう」
 不意に、後ろから耳元にささやきかけられて、ドキリとします。
 山村看護師がいることを、すっかり意識から消していました。
「もう、何を言ってもダメ。昨日、あなたの奥さん、美穂ちゃんが、拒否したの。何をやっても思う通りにしてきたあの子が、拒否された。その傷は大きいわ」
『拒否?』
 言葉にならない私の言葉を読み取ったように、ゆっくりと言葉を続けます。
「あなたを訴えない代わりに、自分を受け入れろと。自分の方が、男として遙かに上だからって。あの子は、美穂ちゃんが当然受け入れるはずだって思ってた」
 ふと、ため息のような音がしました。
 山村看護師が、どんな表情でしゃべっているのかわかりませんが、楽しそうではないことだけは確かでした。
「でも、拒否どころじゃない。とにかく、あなたに会わせろって、すごかった。あなたに謝らなくちゃって。あの子にとっては、どうしても、そんなの納得できなかったのね」
 一度言葉を切ったのは、何かに耐えきれなかったのでしょうか。
「あの子のプライドが、あんなに傷ついたのは初めてだったの」
『勝手な』
 昨日、病室で、先に殴りかかったのは確かに私が先でした。しかし、それを訴えるというなら、あの男のしたことは何だったというのでしょう。
 しかも、それをネタにして、妻に、おそらくはセックスを迫り、妻はそれを拒否した。
 当然のはずの、その結果に、勝手にこの男はプライドを傷つけられて暴走をしてしまったというのでしょうか。
「美穂ちゃん、あんまり暴れるものだから、最初は、鎮静剤を入れたの。でも、それでも、あの子を拒否して、あなたと会わせてって。ついには、病院から出るって叫んだの」
 なるほど。
 マインドコントロールが解ければ、妻の潔癖さと思いっきりの良さが出ても不思議はありません。
「だから、眠らせるしかなかったの。そうしなければ、本当に、脚を吊っていたワイヤだって外そうとしかねなかったから」
 呟くような山村看護師の声が微妙に硬くなった気がします。
「でも、そんなにまで自分が拒否されると思ってなかったのね、あの子」
 言葉がとぎれがちなのは、何かをためらっているようにも感じました。
「もうすぐ、美穂ちゃんが受け入れてくれると信じていたんだもの。初恋の相手が、自分を拒否するわけがないって」
『そんな、バカな話があってたまるか』
「今のあの子は、私にも止められない。世話する人が必要よって、こうやって付いてくるのが精一杯。でも、そのおかげで、ここに来られた。まだ…」
 最後の言葉は、はっきりと聞き取れませんでした。
「少しの間だけ、我慢して。今、神経が過敏になっているから、きっと、あなたが身動きしただけでも、気がついてしまうと思うわ」
 妻の身体をねちねちと撫で回しながらも、確かに、ちらちらと、こちらにばかり視線が向くような気がします。
「いい?絶対に、身動きしてはダメ、目を閉じてもダメ、今のあの子は王様、それも、傷ついた王様なの。『命令』に背かれたって思ったら、何をするかわからない」
 そう囁いたかと思うと、私の後ろから遠ざかる気配がします。
 私に聞かせているのか、それとも、呟いているのかわからない声が聞こえました。
「もし、あの子の思いが叶えられたら、その間だけは、すくなくとも…」
 思わず、動かせぬ身体で振り向こうとします。
「ダメ。こっちを見たら」
 小さいけれど、強い言葉の調子に、慌てて身体を凍り付かせます。
 もともとが、そう自由に振り向くこともできない身ですが、最後に、確かに聞こえた言葉が、振り向こうとする気持ちを奪ったのです。
 その言葉は、ベテラン看護師がMRにかける言葉としては、いえ、この状況で、あの男の味方のはずの人間の言葉としては、あり得ない言葉でした。
「お願い」
 かすかに聞こえた声ではあっても、それは確かに、命令ではなく、懇願のセリフだったのです。
 ちょうど、その時でした。
 妻が、ううんっという息が詰まったような声を一声上げて、目を開けたのです。
 おそらく、あの男の手は、そして、あのローションに効果があるというのなら、眠ったままの妻にも、それなりの快感を与えていたはずでした。
 その「甘い」感覚に起こされた妻は、身体の中に、オンナの快楽を溜めたまま現実の世界に戻ったのです。
 パチパチと目をしばたたく妻には、今ここがどこで、何をされているのかまったく理解できないようでした。
「え?え?ここは、あれ?え?あふっ、あう、何?ま、まこちゃん!」
 自分の脚をいやらしく撫で上げる男を見て、妻の目が丸くなったのです。



卒業 9
BJ 7/30(月) 02:09:29 No.20070730020929 削除

 翌朝―――
 目覚めると、隣の布団に妻の姿はなく、私はのっそりと起き上がって時計を見ました。時刻はまだ八時、よしまだ寝れるなと思い、再び布団に入ろうとしたところ、がらっと襖が開いて、妻が顔を出しました。
「駄目ですよ。お食事の時間は9時までと決まってるんですから」
 そう釘を刺す妻の表情は普段と変わらず、私はほっとする想いでした。
「分かった、起きる起きる」
 あくびをしながら立ち上がり、乱れた浴衣をいい加減に直して、私は布団の敷かれた座敷を出ました。

「今日もよく晴れているな」
 妻が腰掛けている窓際の、その向こうに見える海と空は、昨日と変わらず晴れ晴れとしていました。何だか、皮肉に感じるほどに。
「これなら海で泳げますね」
 そう言った妻の声に、私は驚いて振り返りました。
「あれ、泳ぐつもりなの」
「あなたが言い出したことじゃありませんか」
「でも、昨日は厭そうに見えた」
「・・・そんなことありませんよ」
 妻は淡々と言って、立ち上がりました。
「せっかく旅行に来ているんだし・・・・せっかくの夏なんですから」

 宿から一歩外へ出ると、そこは真夏そのもので、暑い日差しが肌に突き刺さってくるようでした。妻は昨日と同じように、宿で日傘を借りました。
 天橋立の海水浴場へ向かう道の途中にある小さな店で、私たちは水着とパラソル、ビニールシートなどを買いました。
「おとなしい水着だな。ビキニにすればいいのに」
 妻が選んだ薄青のワンピースの水着を見てそんな感想を述べた私をかるく睨んで、「あれは若い子が着るものです」と妻は言いました。

 店を出て、私たちは昨日歩いた道をもう一度辿りました。
 なんだか夢の中にいるような、妙な心持ちでした。
 日常から離れたこの場所で、昨日から立て続けに起こった非日常的な出来事。そのすべてが、次第にぼんやりと霞んでいくようでした。
 一番妙なのが、私の傍らに今も歩いている妻でした。いつもは引っ込み思案の妻が、今日は自分から私を誘い、海で泳ごうと言い出したのです。その落ち着いた表情に昨夜の涙の名残はなく、あれは本当にあったことなのだろうか、と私を疑わせずにおかないのでした。
「泳ぐのなんて何年ぶりかしら」
 日傘を手に歩く妻が言いました。
「瑞希は泳ぎが得意なのか?」
「どう見えます?」
 珍しく悪戯っぽい表情で、妻は聞き返しました。
「正直言って、得意そうには見えない」
「あら、ひどい。こう見えて、運動神経はいいほうなんですよ」
「そうか。知らなかったな。夫婦でも、まだまだお互いに知らないことってあるんだな」
「これまで、あまり二人で遠くへ出歩いたりする機会、ありませんでしたから」
「そうだね。これからはどんどん行こう。色んなところに遊びに行こう」
 何気なく言った私の言葉でしたが、なぜかそのとき妻は一瞬真顔になり、そしてすぐに微笑を浮かべました。
「そう・・・ですね」

 天橋立の海は、日本海にしては珍しく青く澄んでいました。
 昨日もたいそう混んでいましたが、今日も白い砂浜の上には若い人たちや家族連れの姿で溢れています。
 水着に着替えた私たちは、胸いっぱいに潮の香りを吸い込みつつ、灼けつくような砂浜を踏みしめて、久しぶりの海へ入りました。
 妻は先ほど自分で言ったとおりなかなか水泳が上手く、すいすいと泳ぎ進んでは、しばらく行くと、立ち止まって私を振り返ります。それに笑顔で応えて、私は平泳ぎでゆっくり彼女を追いかけました。
 ばしゃばしゃと不器用に水をかく度に、波の飛沫が跳ね、日差しに透けてきらきらと光ります。
 それは夢のように美しい夏の光景でした。周囲の人々の明るい表情には不安の翳もなく、一時の解放に跳ね回る子馬のように、波と戯れたり、恋人とじゃれあっては、各々の時間を過ごしていました。
 楽しい夏。人が変わったようにはしゃいで見せる妻。水に濡れた肢体は、太陽の日差しを受けて眩しいほどに輝いていました。
 けれども―――

『又じき冬になるよ』

 私の脳裏に浮かぶ、あの台詞。
 あれはそう、たしか『門』の最後で宗助が呟いた―――

「おーい、あんまり沖のほうへ行くと危ない。もう戻ろう」
 ひとしきり泳いだ後、私は妻に声をかけて、先に立てておいたパラソルの場所に戻りました。





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悪夢 その67
ハジ 7/29(日) 17:18:08 No.20070729171808 削除
 妻がこの日何度目かの少年の飛沫を浴びた頃から―――
 私の記憶はひどくあいまいな様子になってきたような気がします。途中、ところどころ意識が途切れ、空白の時間が生じてきたようなのです。
 はっきりおぼえているのは、鈍くこめかみあたりをおそう痛みと徐々にせばまっていく視界―――。なかば意識朦朧となりながらも、額を流れる汗が極めて不快でした。

 少年たちが落ちていた業務缶のひとつに火を転じると、それはあっという間に燃え上がりました。廃缶から吹き上げた火柱を前に彼らはいささか大袈裟な喚声を上げました。
 なかのひとりが、どこから持ってきたのか、ガラス瓶をあおりはじめました。琥珀色の中身が喉に消えていきます。そして、すぐに熱い息を吐き出しました。
 暖を取るには最適なそれが順番に少年たちの手を渡っていきます。やがて、まわし飲みを終えた少年のひとりが取り残されていた秋穂に声をかけました。
 その声に妻は座り込んだまま、ぼんやりと顔を上げました。瞳は霞がかっており、口は半開きの状態でした。思うに、口内奉仕とはまともな思考を奪う行為なのではないしょうか。 しかも、四人相手にそれをやり遂げた彼女には立つ気力さえ残っていないのです。
 そんなことにはおかまいなしに、少年は秋穂の目の前でその酒を口にふくむと、彼女のくちびるに押しつけました。重ねられた口の間から液体の一部がこぼれおちました。
 むせて身を屈めた秋穂のまわりに少年たちが集まってきました。彼らは面白がって、妻に口移しで酒を飲まそうとしました。それが一巡するころには、妻はぐったりとしてしまい、地にからだを投げ出してしまっていました。

 ―――やめろ。やめろ。

 果たして、私は声を出していたのか、わかりません。なぜなら、私の聴覚はすでに異状をきたしており、もう目の前の映像さえ、無音映画のようにしか、見えていないのです。

 秋穂は後ろから膝を抱え上げられ、その秘部をあますところなく、公開していました。少年の舌が妻の恥毛の一本一本をすきあげるようにかきわけ、赤い継目があらわにされます。合わせ目を左右にひいてやると、それはあっけないほど簡単にほどけ、あざやかなピンクが顔を出しました。
 そこにぶしつけな指が差し込まれ、さらにその上方の一極を別の男の舌が覆うにいたって、私の網膜に液状のシャッターが下りてきました。

 私は自分が泣いているのだと、わかりました。そして、『血』って、必ずしも赤いわけじゃないんだな。俺の場合、透明らしい、などと呑気にのたまっていました。
 視界が開けてきたのは、瞬きをしたからでしょう。頬を熱いものが流れていきます。

 乾いた目が両乳を犯される妻をとらえました。無音のまま、くちびるの形が様々に変化します。それは嘆きというにはあまりにも艶がありすぎました。さしもの禁欲的な彼女も骨が蕩け、細胞が泡立つのを抑えきれないようでした。
 まるで、乳房のなかの硬い芯を吸い出すかの勢いで、彼らは頂点を責めました。それにひぎづられるように平たい腹部が激しい上下動を繰り返します。
 さらにその下では―――男の指が妻の陰毛の中に沈んで、せわしなく動いていました。その数はゆうに二本を越えます。別の指がその上で出血しそうな淫核を押しつぶすようにしているのもはっきり確認できました。
 昏倒したかにみえた秋穂が眉間にしわを寄せ、眉を逆立てました。

 私は、妻にとっての『そのとき』が確実に迫っていることを感じました。
秋穂の腰がゆっくりと、せり上がっていきました。



妻の入院 60
医薬情報担当 7/29(日) 14:02:58 No.20070729140258 削除
 ローションをたっぷりと付けた手が、妻の脚を撫で上げていました。
 そうと知らない者でも、いやらしい動きだと感じるような手つきで、たっぷりと時間をかけて、ヌメヌメとした動きは、つま先から脚の上の方へ、上の方へと。
 そのくせ、妻の秘所にはギリギリで触らぬままです。その部分まで、ほんの数センチの距離まで撫で上げてから、また足先へと戻るのです。
 もちろん、あの男の位置からなら、Xの字に大きく広げられている脚の間にある秘所を、あますことなく覗き込めるはずでした。
 台の向こう側に男が立っているのは、わざと、触っている様子を私に見せつけようとしているのに違いありませんでした。
 時々、チラリとこちらを見上げるのは、私が見ているのを確認しているのでしょう。
 男のやり方に反発を覚えても、妻の身体に他の男の手が這い回るシーンから目を離せるわけはなかったのです。
 妻の左足が、ローションにまみれて、ヌラヌラとくまなく輝くほどに、そのいやらしいマッサージを繰り返すと、妻の身体が、微妙に反応し始めている気がしました。
 ひょっとして、目覚めかけているのかもしれません。
 もちろん、男も、妻の身体が目覚めかけているのを承知しているのでしょう。
 深い眠りならともかく、眠りが浅いほど、妻の身体の奥に、甘い感触を生み出すことがたやすいのを知っていてやっているに違いないのです。
 今度は、左手の先から、丹念なマッサージをし始めます。
 これも、指先から、肩のまわりまで、何度もローションを付けながら、たっぷりと時間をかけていやらしくうごめかします。
 腋から胸の裾野にもきっちりと、塗り込むように。
 それは、すり込むと言っても、肉の感触を楽しみつつも、オンナの反応を引き出そうとしている、ひどくいやらしい手の動かし方でした。
 妻の左手がわずかに動こうとして、動けず、指をゆっくりと、広げ、閉じる仕草を見せます。
 今度は、チューブの中身を妻の腹、ちょうどかわいらしいヘソのあたりに、直接、ジュルっとたっぷりと垂らします。
 垂らした瞬間、妻の腹がヒクンと動いたのは、反射的なものでしょうか。
 妻の反応を無視して、それを両手で、広げるように、塗り伸ばしてから、脇腹から、腋の方へと、また、あのいやらしい手つきで撫で上げていきます。
 くすぐったいのか、手を下ろしたげに動こうとしますが、ベルトに止められた手は、動きようがありません。
「あぁ」
 目を閉じたままの妻の口から、わずかに声が漏れてきます。
『くすぐったいのか、美穂』
 そう思おうとしている私がいました。
 しかし、くすぐったいだけの声にしては、私の知っている、あの、ベッドでの声にひどく似すぎていたのです。
『違う。くすぐったいんだ。俺が触るときだって、脇腹はくすぐったすぎるって言ってるじゃないか』
 一方で、妻は、触っている相手に気がついているならともかく、今は寝ているんだから、感じても仕方がないんだと、頭のどこかが言い訳をしていました。
『たまらなくなる…』
 頭の奥の方で、さっきの山村看護師の言葉が、ねっとりと、熱を帯びて響いていました。
 私の葛藤を知ってか、知らずか、妻の表情には「安らかな眠り」だけとは思えないものが浮かび始めていたのも事実です。
 身を縮こまらせたげに、わずかに身じろぎをしてから、その妻の顔が、いやいやをするように左右に振られました。
 いやらしい手の動きは、すでに、お腹の真ん中から、胸の裾野へ、何度も何度も動いていたのです。
 脇腹から、ズルズルとローションを伸ばすように動かしながら、そのまま、たっぷりと妻の感触を楽しみむように、胸の裾野に撫でていきます。
 ヌラヌラとした動きで、形のよい膨らみの裾野を絞るように手が添えられます。
 妻の乳房は、男の手の中でした。
 裾野を絞る動きで、乳首が尖り始めているのがはっきりと見えました。
 そこから、一瞬、こちらを見たのは、これからすることの効果を、十分に知っているからこその動きだったのでしょう。
『おい、見てるか、お前の妻を、これから、俺の本当の女にしてやる』
 歪んだ笑顔は、そんな風に言っているようでした。
 そこから、ぐっと、両手が妻の形の良いふくらみを絞り上げるように一気にもみ上げたのです。
 妻の身体が、ヒクンと反応していました。
 ここから見ても、妻のピンクの乳首が、一気に硬くなった様子が見て取れます。
 それから、何度も、何度も、妻の胸を絞り上げ、絞り上げては乳首をコリコリと指先でつまむ動作を繰り返します。
「あ、あふぅ、はぁ」
 妻の唇から柔らかな甘い声が漏れ始めていました。
 腰を両手でつかむような場所から、ゆっくりと撫で上げて、脇から、胸の膨らみの肉を集めるようにしながら、胸を絞り上げて、乳首まで摘む。
 男の手が、何度も何度も、繰り返すと、その度に、妻の甘い声が、漏れるようになり、腰がわずかにうねってきました。
 身体の中の甘い感覚に、妻の意識が、ゆっくりと戻ってきたようです。
 妻の目が開き始めました。
 もちろん、男は、いち早く気づくと、両手を再び足先からのマッサージに切り替えたのです。
 目覚めかけた妻の腰が、その手を恋しがるようにうごめき始めるのを、私は見ていられなくなりました。



管理組合の役員に共有された妻 128
エス 7/28(土) 18:08:10 No.20070728180810 削除
  「まずは、シーン1です。奥さんは近所の公園でのどかな午後をすごしています。」
  「はあ…」
  「そうですね、ここにある遊具で適当に遊んでみてください。」
  「は?」
  「とりあえず、公園を走りまわってもらいましょうか。」
そんなことをさせられるとは、まるで予想していなかった私は、ジーンズにセーター、ダウンコートを着ていました。
いったいどこの主婦がそんな格好をして昼間の公園を一人走り回るのでしょうか。
  「そうですね、ダウンコートは脱ぎましょう。不自然ですから。」
  『ダウンコート云々の前に、公園で一人で走ることが不自然でしょ!』
小川さんのずれた感覚がおかしくて、突っ込みそうになりましたが、あくまでも真剣な顔で言う小川さんにつられて、私も真剣な顔をしてうなずいていました。
  「シーン2は、サイトーが日本征服を企んでいるところです。あとで別取りして、このシーン1に挟み込みます。
  「わかりました。」
斉藤さんがひょろ長くやせた体系によくマッチした甲高い声で言いました。
この人はまったく違和感を感じていないのでしょう。
むしろ望んでこの役になりきろうとしている様子でした。
  「奥さんは、自分が選ばれし戦士であることを知りません。
  しかし、日本の危機が迫っているまさにこの瞬間、人妻戦士リカコに変身するのです。」
あまりのばかばかしさに、返す言葉もありません。
  「奥さんはどうやって変身するのですか。」
ノリノリの斉藤さんが口を挟みます。
  「そうですね。滑り台を滑って降りる間に瞬間的に変身する、っていうのはどうですか?」
  「いいですね。」
小川さんの映画のシナリオが少しずつ肉付けされていくにつれ、私はこの「映画撮影」からしばらく解放されないであろうことを、改めて実感しました。
 ともかく私は、小川さんの演技指導を受けながら、公園を走り回ったり、ブランコに乗ったりしました。
とても恥ずかしかったのですが、私たちのほかに誰もいないのがせめてもの救いでした。
  「それくらいで、いいでしょう。」
やはり、体を動かすのは気持ちがいいものです。
体も温まってきた私は、この状況を少しずつ楽しむようになっていました。
  「では、変身シーンも続けて撮ります。衣装を確認してもらえますか?」
そう言いながら、小川さんは持ってきた紙袋の中から衣装を取り出しました。



悪夢 その66
ハジ 7/28(土) 07:13:49 No.20070728071349 削除
 血管を浮かび上がらせ、トクトクと脈打つ延べ棒におずおずと手を差し伸べたものの、妻はそれをもてあましているようにみえました。実物を前にまるで哲学者のような風情で考え込む様子をみて、私は彼女にはその経験がないのではないかと考えました。
 実際、私との交わりでその口技を披露する機会はありませんでした。秋穂は私とのセックスでは常に受身でしたし、そんな彼女の態度に私の愛撫もおざなりにならざるをえず、いそいそとゴムをつけて発射というあわただしい流れがいつのまにか習慣づいてしまっていました。
 悪く言えば味気ない、良い意味にとらえれば、私はまだ彼女に神秘性が残っている―――そう思いたがっているのかもしれません。しかし、そんな淡い期待はこの後、あっという間に吹き飛んでしまうのです。

 秋穂が手を添えただけで、少年の屹立したものは硬度を増し、さらに急な角度を描くようになっていました。彼女は男根を引き寄せ、くちびるを近づけましたが、なぜかそれをやめてしまいました。
 秋穂の手から離れた逸物が反動で、少年の臍のあたりを叩きました。あまりの活きの良さに私は羨望と同時に戦慄をおぼえました。あんなものが妻のなかで暴れまわれば、彼女はどうなってしまうのか。
 そんな私の心配などつゆ知らず、秋穂は少年のものを再び握ります。

 私には妻の考えていることがわかりました。彼女は悩んでいたのです。相手のモノを自分の口に引き寄せるべきか、自分の口を相手に持っていくべきなのか。生真面目な妻らしい、通常であれば微笑ましい光景なのでしょうが、事が事だけに私は気が気ではありません。
 妻が選択したのはどうやら後者のようでした。天井を向いた棒先に上から、口を被せていきます。

「うほっ」

 シャックが喜悦の声を上げました。まわりの少年たちもそのさまを伸び上がるように見守っています。

「どうなんだよ、感触は?」
「まだ、わかんねえ。でも……あったけえ」

 そんな少年たちの反応によそに秋穂は浅くくわえた肉棒をしごきはじめましたが、ぎこちなさが抜けません。少年のものを吐き出すと、再び考え込む表情になりました。

「おい、こいつの旦那、フェラも仕込んでねえのかよ」
「しょうがねえよ。浩志がセックスレスだって、言ってたじゃん」

 私はまるで夫婦生活をのぞかれたようで、甚だ不快でした。人間とは窮地に追い込まれても、案外冷静な部分が残っているのかもしれません。現にこのときの私がそうで、少年たちの会話が弓削や羽生に届くのをおそれたのです。

 秋穂はいったんくちびるを離すと、肉根を目の高さへ押し下げました。少年がかすかにうめき声をあげます。
 ちらりと声の方をみた彼女でしたが、原因が痛みではないこと確認をすると、口先で肉尖をつつきはじめました。

「ああ……なんだよ、先生。くすぐったいよ」

 シャックは満更でもなさそうです。その声に気を良くしたわけでもないのでしょうが、秋穂の仕事は実に丁寧でした。軽いキスにはじまり、時折筆先をくちびるで挟み、短く吸い上げるなど試行を繰り返しています。その意外な熱心さを私は呆然と見続けました。
 たどたどしい手つきは熟練と呼ぶにはほど遠いものの、その献身的な姿勢からは十分真摯さが伝わってきます。その姿は男を喜ばせずにはおきません。
 少年の手が秋穂の髪にかかり、何度もかきあげました。あらわになった耳元は充血したように真っ赤で、さしもの妻も平静ではいられないようです。

「そう、その調子。次はもう少し舌先使ってみ」

 少年の命令口調に妻の横顔が少し上向き加減になりましたが、頬のあたりをひと撫でされると、すぐに目線はもとに戻りました。だいぶコツをつかんだのか、彼女の動きにリズムが出てきました。

「うお―――のみこみ早いじゃんか。それともカマトトぶってただけなのかよ」

 少年の減らず口を受け流し、秋穂はひたすら行為に没頭していました。指先、あるいは口のあらゆる場所を使って、先端の切れ込み部分を刺激し、それと連動するように肉竿を擦りつづけます。

「もっと深く奥まで呑み込んでみてよ」
「裏筋も舐めてみて」
「エラの部分は汚れをこさぐ感じで」
「タマはもう少し強く吸っていもいい」

少年のエスカレートする要求に秋穂は黙々と従いました。途中、何度か他の少年がちょっかいをかけてきました。下の茂みに手を伸ばしたり。張り詰めた乳首をつまんだり。
 しかし、彼女は最後まで集中を切らしませんでした。



妻の入院 59
医薬情報担当 7/28(土) 06:15:43 No.20070728061543 削除
 もちろん、私が目覚める前に、セットしてあったのでしょう。
 スイッチの入ったモニタには、いきなり「そのシーン」が映ります。
 何度となく見た、ヌードで横たわる無防備な股間を、この男に弄られているところです。耳を覆いたくなるような妻の嬌声が響き渡ります。
 男の手を許している妻への怒りは、不思議なほど湧いてきません。
 この卑劣な男の正体も知らぬままに、身体をいいように弄ばれ、女の恥ずかしい感覚をさらけ出している妻が哀れでした。
 山村看護師は、モニタから響くその声にも、画面にも興味がないように、チラリとも見ようとしません。じっと、私に、表情のない視線を向けたままでした。
『こんな事をしても無駄だ。妻と俺の気持ちは変えられないぞ』
 届かない私の言葉にかぶせるように、得意げに語り始めました。
「美穂は、昔、選び間違えたことを、まだ後悔してるんだ。男は簡単に間違いを直せるがオンナはそうはいかない。でも、これがチャンスだと思わないか?」
 ガンっと、イスに縛られたままの私の左脚を一つ蹴ってから、部屋を出ようとします。
「美穂に、ちゃんと真実の愛を思い出させてやる。最後まで見てるんだな、もし、少しでもお前が目を閉じでもしたら、残念だけど、美穂ごと始末してやる」
 その目には、ギラギラした、何ものかがとりついている気がしました。
 よもや、美穂にまで危害を加えるはずもないとは思っていました。
 しかし、なにか、危ういまでの強迫観念にとりつかれた男の妄執のようなものを感じます。
 単なる脅しだ、と片付けられない何ものかがあったのです。
 男は、そのギラギラとした視線を私から外します。
「おばさん、じゃあ、お願いします。でも、おばさんに見られるのはテレちゃうなあ。後で冷やかさないでね」
 山村看護師に向けた笑顔は一転して、あどけない、母親に甘える子どものような表情でした。
 一方で、それを受ける山村さんの表情は、男の方を向いていて見えません。
 ただ、こちらに振り向いた時の山村看護師の表情は、ひたむきさというか、何か、真剣なものを含んだ表情で、あの男の笑顔を受けた表情とも思えません。
 彼女がどう考えているのかはわかりませんが、こんな犯罪の片棒を担いでいることを自覚しているような表情でもありませんでした。
「じゃあ、おばさん、お願い。あ、もう、ビデオは消しといて。これから、こんなビデオじゃなくて、生放送だからね。美穂がどれだけ感じるか、じっくり見せてやるから」
 その言葉を残して、階段を下りる音が微かに聞こえました。
 山村看護師が、私の後ろに回って、イスごと私の向きを窓に向けます。
 さすが、長年看護師をやってきただけあります。
 中年を過ぎかかった女性とは思えないほどの力強さで、あっさりと私の向きを変え、私の首から上がちょうど窓から出るようにしたのです。
 窓の下には、妻の姿がみえます。
 窓枠の位置からすると、妻の方からは、おそらく、私の顔だけが見えるはずです。
 涎をこぼしているらしい私の顔を、妻が目を覚まして見たら、どう思うのか。
 ふと、そんな場違いな心配をする自分が不思議でした。
 あるいは、これから起きるであろうことを、無意識のうちに考えるのを拒否していたのかもしれません。 
 別荘というと、山小屋のようなものをイメージしていたのですが、思ったよりも広い建物のようでした。
 妻の嬌声が後ろでプツリと止まります。
 山村看護師が、言われたとおりにモニタを消したのでしょう。
 吹き下ろしのリビングを見下ろす窓が、反対側にもう一つあります。そちらの電気は消えていました。いったい、この別荘はどれほどの広さなのでしょう。
 しかし、別荘の構造に頭を巡らす前に、あの男が、リビングに現れました。
 妻は、ギプス以外はまったくのヌードの姿で、手足をXの形に伸びたアームに固定されたまま、静かに呼吸をしていました。
 脚の固定用のベルトはオリジナルですが、腕を止めるベルトなど付いているはずもありません。おそらく、この目的のために、アームごと巻き付けているのでしょう。
 ご丁寧に、ピンスポットのようなフロアスタンド式のライトが2つ、妻の身体を下の方の左右から照らしていました。
 こんなにも明るい照明に裸を照らされるのを知らずに、妻は眠っている、いえ、眠らされているように見えました。
 目の前の、妻の姿を見下ろす窓を、山村看護師が、静かに開け放ちます。
 流れ込んでくる空気には、微かに、妻の匂いが含まれています。
 山村看護師のいつもの白衣は私のすぐ横で止まります。
 私には目を合わせようとしません。
 階下で、一度、こちらを見上げたあの男は、ニコリと白い歯を見せました。
 もちろん、私を見ているわけではなく、横の山村看護師を見てのことでしょう。
 その片手が、妻の左胸を撫でていたのを私は見逃しません。
まるで、ハンターが仕留めた獲物の毛皮の手触りを確かめている姿にそっくりでした。
 妻は、軽く首を動かします。
 ということは、深く眠らされているわけではなさそうでした。
 あるいは、丁度、醒めかけている所なのかもしれません。
 男は、慎重に手足を固定するベルトを確かめた後で、傍らのチューブから何かを絞り出すと、妻の左足の先から、マッサージのような動作を始めたのです
 ライトに、ヌラヌラと光るところを見ると、何かの油か、ローションのようなモノでしょうか。
「あれは、あのローションは、あなたが扱っているようなものじゃないの。でも、効き目はすごいの。あれを使われちゃうと、たまらなくなる…」
 山村看護師の、そのねっとりとしたものを含んだ言葉は、果たして、私に向けられたものなのでしょうか。
 まるで、独り言のような言葉の中に、山村看護師の「オンナ」が顔をのぞかせている気がしました。
 ひょっとして、あれは、セックスに何事かの影響を与えるものなのでしょうか。
 世の中には、オンナの性感をアップさせるだの、媚薬だのと言って、怪しげなものがたくさん出回っています。
 もちろん、医薬品を扱う仕事をしている以上、そんな怪しげなものがあるはずがないと思っていました。
 しかし、まるで、山村看護師は、その「効果」を体験したことがあるかのような、そんなセリフです。
 医者というのは、極端に言うと、その専門知識の上で、ひどく薬嫌いになるタイプと、何にでも薬を使いたがるタイプがいます。
もし、あの男の父親が、使いたがるタイプだったとしたら、セックスに関する医薬品など、存在しない以上、怪しげなものにまで手を出すかもしれません。
 そして、それを試す相手は、愛人である山村看護師であっても、まったくおかしくないのです。
『たまらなくなる…』 
さっきの、不思議なねっとりとしたものを含んだセリフが、妻の身体に重なっていました。



妻の入院 58
医薬情報担当 7/27(金) 21:09:28 No.20070727210928 削除
「だいぶ派手にやってくれたね。礼金が倍必要になったよ。いやあ、あんたがこんなにやってくれるとは、本当に計算外だったよ」
 目が覚めると、あの男が目の前にいました。
 イスの後ろに回された両腕は、全く動こうとはしません。
 どうやら、後ろで縛られているようですが、手には感覚が全くありませんでした。
「思ったより、嗅ぎつけるのが早かったな。さすが、うまい話を嗅ぎ回るのが得意なMRだけあるな」
 私の口元の何かを確認するように覗き込んできます。
 体のあちこちが痛いような、それでいて、あちこちの感覚が「無い」のです。
 自分の躰が自分のものではないような、それは不気味な感覚でした。
「念のために、頼んどいて良かったよ。まあ、急だったから、集まったのは、あんなクズばっかだったからな、多少、やったからっていい気になんなよ」
 いすに縛りつけられているられている目の前には、あの男が、ニヤニヤしながら見下ろしています。
「一人は、歯科が必要だな。ありゃぁ、生涯、かき餅は食えないだろうなあ。もう一人は、整形外科行きか。まあ、あんなクズがどうなろうと知ったこっちゃ無いけどね」
 バシッという、肉のぶつかる音がして、横から何かが顔にぶつかった気がします。
 痛みは全く感じませんが、上半身が揺さぶられ、頭の奥がくらくらします。
「ふふ、おや大人しいね。何か言ってみたら」
 あの、真面目で謙虚で、快活な青年の面影はどこにも見られませんでした。
 目の前にいるのは、目が据わった、そのくせどこかイラ立って、何かにおびえたように神経質で、不安な表情をする男です。
「ほら、しゃべってもいいんだよ」
「っふへ」
 しゃべることなど、できませんでした。息を吐き出しているだけです。
 いえ、しゃべるどころか、口から喉にかけて、何がどこに付いているのか、口はどこにあって、どうやって動かすのだろうと、思わずにはいられない状態でした。
 歯医者で麻酔をされたことがあります。
 あのときは、数時間、口がうまく動かせず、うがいすら、口元からだらだらと水をこぼさずにはできませんでした。
 今は、顔を靴先で蹴られても痛みを感じないほどですから、相当広い範囲で、深く麻酔をかけられているのだろうと、おぼろげにわかります。
 しかも、感覚がないのは、顔だけではありませんでした。
「ははは、大の男がよだれをだらだら垂れ流して、眼だけは恨みがましいけれどね、みっともないったらありゃしない。そりゃ、美穂に捨てられるってもんだよ」
 目はいっこうに笑わないのに、顔中でいかにもおかしそうに笑う顔に、いささか、うんざりした恐怖を感じます。
「感謝してくれよ。おまえの首の回りには、カインをたっぷりと打ち込んでやったからな。舌を飲み込んで窒息しないようにちゃんと、マウスピースをつけてやってるからな」
 医者がカインと言えば「キシロカイン」という広く使われている局所麻酔のことです。
 皮下注射で打ち込むのが普通ですが、表面にはるパッチや、ゼリー状になっている者まで我が社では扱っています。
 使いやすいので、広く使われている薬でした。
 通りで口の中どころか、一切の感覚がなくかっているわけでした。
 感覚がなくなれば、喉のまわりだと、舌が気道をふさぐと窒息と言うことになるので、気道確保用のマウスピースをつけているというわけでしょう。
「大丈夫。ちゃんと絆創膏で止めてあるから、外れやしない」
 パチンと音がして、男の平手が目の前を通り過ぎます。
 頬を打たれのは分かりますが、痛みは分かりません。
「おまえがどんなに願おうと、窒息して死ぬことはできないって事だ。今のところね。その分、涎だらだらのみっともない姿をさらすんだけどさ」
 笑って見せますが、相変わらず、目が笑いません。
「マウスピースは外からは目立たないからね、これだと、おまえの顔だけ見れば、涎がだらだらの、こ汚いおっさんてわけだ。ま、後でオイシイ場面を見て、せいぜい、よだれを流すがいい」
 息苦しさは感じませんが、努力しても、首を動かすのがやっとです。
「感謝しろよ。僕と美穂が大恋愛を完成させて初めて結ばれるところを見せてやろうというんだからな」
『何?』
「こっちを見ろ」
 男の手がいきなり、こっちに伸びたと思いきや、頭がぐっといきなり右を向いたところを見ると、おそらく、左ほほを殴られるたのだとわかります。
 その勢いで、顔が右を向いたのでしょう。
 右側は窓になっていました。
 ここは、吹き抜けになった部屋を見下ろす部屋です。見下ろす先に見えるのは。
『美穂!』
 身体をいくら動かそうとしても、厳重に縛り付けられていて動きません。
 おまけに、手の先の感覚がないのは、念の入ったことに、こっちまで麻酔をかけているのに違いありませんでした。
しかし、そんなことはどうでも良いのです。
 見下ろす先にいる美穂は、部屋の真ん中にヌードのまま、ギプスの右手も、無事な左手もベルトで固定されて寝かされています。
 妻が寝かされているのは、ベッド?いえ、あれは…
「ははは、二人が結ばれるための特製のベッドはどうだい? こいつを運び込むのはちょっと骨だったんだけどね。実はついさっき運ばれてきたってわけさ」
「それ」は、内診台と呼ばれるものでした。
 女性の神秘の場所を診察するために、産婦人科に置いてある、あの台です。
 もちろん、医療品全般を扱う我が社でも扱っていますが、あれは…
「ほほ、気がついたみたいだな。さすが、コマネズミ、いや、ど汚いドブネズミのMR。あれはお前のところのだよ。お前の後任がな、お前とは違って気が利くから、急いで持ってきたぞ」
内診台のような「設備」の新製品を買ってもらえることは、滅多にないとはいえ、ちゃんと知らないと、商売になりません。
 もちろん、私もよく知っています。
 あの新製品は、分娩台にもワンボタンで変わり、患者の体位をいか様にも電動で簡単に変えることができる自在固定脚台が売り物なのです。
 そう「足が不自由な御産婦様でも、安心してお使いいただけます」がセールストークの一つ… 
『これは…』
 おそらく、私が、事態を飲み込むのを待っていたのでしょう。
「そうだ。こいつなら、足を吊ったままでも、美穂と、愛し合う俺が初夜をようやく迎えることができる」
 何とか肩を揺らそうと、妻を助け出さねばと、動けぬ身体を揺するのを冷たい目で見下ろしながら、語り始めました。
『初夜? ということは、あの電話は』
キッと目を上げると、私が気づいたことがわかったのでしょう。
「ははは、なかなかおもしろい趣向だったろ。自分で撮ったエロビデオに、自分が騙されるのは、どんな気持ちだった?」
 やはり、あの、美穂といかにもセックスをしているかのような「中継」は、ビデオを使った、この男の一人芝居だったのです。
 いつの間に持ったのか、リモコンを部屋の片隅に向けました。
 思わず、私も首を動かしていました。
『!』
 テレビが点いたことよりも、私を驚かせたのは、気配を感じさせないほどひっそりと、人が立っていたことです。
『山村さん…』
 表情を消した山村看護師が、妻を映し出すモニタの横に,密やかに立っていました。



妻の入院 57
医薬情報担当 7/26(木) 18:16:06 No.20070726181606 削除
 自分でも驚くほど、自然でした。
 突きを入れた後の一連の動きは、流れる水のごとく、さらに、次の標的に向かいます。
 倒れた仲間を見てひるんだ、すぐ横の少年の木刀の根本に絡めるように竹刀を動かします。
 手首も使いますが、実は腰で跳ね上げるのが肝心です。
 身体全体の力を、右手をテコの支点にして、相手の木刀の根本に集中するのですから、しっかりと握られていない木刀は、マジックショーの鳩のように簡単に飛んでいきます。
 瞬間の動き。
「擦り上げメン」でした。
 手の中から飛び出してしまった、空に吸い上げられるように飛んでいく木刀を見上げる瞬間の少年は、ポカンとしたサルのように、知性のひとかけらもない顔でした。
 その醜悪な顔は、少年というさわやかさを持った言葉に似つかわしくないほどの、残虐性を持っていました。
 何か不快なものがこみ上げて、面打ちの動きからさらに竹刀を下げると、その無防備になった鼻に、片手突きを入れられたのです。
「ぶぎゃっ」
 豚が鼻先にパチンコでもぶつけられたらこんな声を出すのではと思うほどでした。
『いや、それでは豚に失礼か』
 そう思う余裕があるほど、相手が見えていました。
 片手突きといえども、もんどり打って相手を転がすだけの威力もありますし、確かに、鼻が顔面にめり込んだはずです。
 あの男が治療するのかどうかはわかりませんが、確かに、治療が必要な怪我をしたことは確かでしょう。
「お前ら、バカか、一度にやれば良いんだろ。同時に行け」
 後ろの男に、そう声をかけられると、互いに目配せをして、タイミングを取ろうとします。
 右に竹刀を突きつけ、左に視線を送りながら、わざと、ゆっくりとしゃべりました。
「おい、一度に来ても良いが、どちらかの、喉をかっきるぞ。一斉に来ると手加減できないからな。死人が出ても、ま、正当防衛ってとこか。で?どっちが死ぬ?」
 その瞬間、タイミングを計るはずの目配せは、互いに、お前が先にいけという醜い譲り合いの目配せとなっていました。
 もちろん、それを狙ってたのです。
「てりゃあ!」
 一瞬でも相手から目を離せば、ねらい澄ました面打ちが外せるわけもありません。
 まっキンキンの頭をしたニキビだらけの少年の頭に、ヒュウンという風を切る音がして、竹刀が襲います。
 ぱしっという鋭い音がして、少年の額を撃ちつけた瞬間、とっさに庇おうとした少年の木刀は、まだ、肩の位置にまですら上がっていませんでした。
 そのまま相手に飛び込んで、鍔元を顎にぶつけるように、下から体当たりします。
 まるで、ドラマのお約束ごとのように、少年の身体は宙に浮かび、おもしろいほど簡単に、後ろに吹き飛びます。
 体当たりをした瞬間、ただでさえ、澱んでいた少年の黒目は、既に、裏側にひっくり返っていました。
あと一人。
 吹っ飛んだ汚い金髪の少年の方は見もせずに、最後の一人に竹刀を向けます。
 もはや逃げ腰でした。
 てめえ、ざけんなと、口汚く罵りながら、後ろで見ていた男の方に逃げ出します。
「さて、どうするかね?戦闘員の皆さんは、全滅だよ。戦闘員の皆さんがやられたら次は、怪人がやられる番だけどね」
「ふん、今時は、そんな昔の変身モノを知っているヤツなんていねーんだよ、今時は。そうはいかねえんだよ。今時。ふん。こっちも商売だからなあ」
 得物を持っていませんが、残った二人の方が、明らかに、戦い慣れていました。修羅場をくぐった雰囲気というのでしょうか。
 目の前で、手下どもがやられたのを見ても、つゆほども狼狽していませんでした。
「なかなかやるね。今時、素人にしておくのは惜しいよ。だが、剣道ってのは、お前だけがやってるってわけじゃないぜ」
 車の中から、取り出したのは、黒く細長い、懐中電灯を伸ばしたような形をしています。
 なんだ?と見るまでもなく、一振りすると、シャキンという金属音を残して、手品のように、一本の棒となったのです。
「さてと、もちろん分かっていると思うけど、今時の、こいつは特殊合金だから、まともにあたると、間違いなく骨も折れる」
 一度、二度と、空気がうなる音をさせて、男は特殊警棒を振って見せます。
「竹刀と今時のこいつと、さあ、今時の、異種格闘技戦、いってみるか」
 確かに、さっきまでの少年達とは格段に違う、隙のない構えを見せます。
 間違いなく経験者でした。それも、有段者の構えです。
 数は多くても、さっきの連中の方が楽に戦える相手でした。この男はそうはいきそうにありません。
 じり、じりっと、円を描くように間合いを取りながら、男がすり足でスキをうかがっています。
 相手の得物が、木刀ならともかく、経験したこともないものです。
 その上、片手で棒を構えながら、まるで、相撲のしきりのかたちをそのまま上に持ち上げたような、変則的な構えでした。
 どうにも間隔がつかめない私は、ともかく、相手の様子をうかがいながら「後の先」を狙います。
 つまりは、相手が動き始める瞬間を狙って先に撃つ、というタイミングを見るしかないのです。
『落ち着け。大丈夫、出小手なら、おまえの得意中の得意だろ』
 自分に言い聞かせるしかありません。
 性格というのは、剣の上で、露骨に現れるもので、真っ向勝負の面打ちを得意とする者もいれば、捨て身の抜き胴を得意とする者もいます。
 自ら積極的に攻めていくよりは、相手がこちらにしかけてくる、その瞬間を狙って、攻撃するやりかたである「出小手」を好んだのです。
 そのためには、相手の動く瞬間を見極めるというより「動こうとする」その瞬間を見極めなければいけません。
 しかし、今は道場での試合とは違います。
「一本」を取られることは、そのまま、私と、そして妻の身が危うくなることを意味するのです。 
 全身がピリピリするほどの集中力で相手を見極めようとしていました。
 そのとき、集中した私の目は、ちらりと相手の目が、私の後ろに動いたのを見逃しませんでした。
 考えるよりも先に身体が動いていました。大きく、後ろ足を左に開き、そのまま、右足を引きながら、振り上げた竹刀を斜めに切り下ろします。
「どぅー」
 後ろから私に振り下ろした木刀は見事に向こうに吹っ飛んで、襲いかかってきた少年の身体が崩れ落ちます。
 しかし、罠でした。
 もちろん、その瞬間に特殊警棒が撃ち降ろされるのは覚悟していましたが、それすら囮だったのです。
 特殊警棒は、私を打とうとしていませんでした。
 竹刀そのものを狙ったのです。
 かろうじて打ち払いましたが、竹刀は大きく左に流れてしまいます。
 あっと思った瞬間、車の陰にいた、もう一人の男が飛びついてくるのを防ぐことはできません。
 とっさに、竹刀の柄で背中をたたき落とそうとした時でした。
 腹に何かが押し当てられたと思う間もなく、頭の先から全身に火花がスパークしていました。
「ひ、ひきょ」
 スタンガン。
 電極を相手に押し当てて、高圧電流で気絶させる道具です。
 しかし、スタンガンという言葉を思い出す前に、私の意識は、黒い闇に溶けていたのです。





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卒業 8
BJ 7/26(木) 18:15:21 No.20070726181521 削除

「――――――」

 あまりにもあっさりと告げられた赤嶺の言葉に、私は一瞬絶句しました。
 幾ばくかの時間を置いて、ようやく私は気を取り直します。
「・・・お前、誰に向かってそんなことを言ってると思ってるんだ」
「お前だよ。お前しかこの場にいねえじゃねえか」
 平然と言って、赤嶺はまた煙草に火を点けました。
「言っておくけど、俺が話してるのはただの男としてのお前だ。一家の亭主としてのお前に対してじゃない」
 ふうっと紫煙を吐きながら、赤嶺は底の見えない瞳で私を見つめました。
 その唇が、動きました。

「お前は心の底では、奥さんが俺に抱かれるのをもう一度見たいと思っている」

 断定的に語る赤嶺の口調には、一切迷いというものがありませんでした。

「そして、俺は奥さんを抱きたい。お互いの利害は一致してるんだ。他に何の問題がある?」
「・・・瑞希本人の意思はどこへ行った? あいつはモノじゃないんだ。むしろ人一倍傷つきやすいし、今だって―――きっとひどく哀しんでる」
 言いながら、私の胸はずきりと痛みました。
「そして―――俺は瑞希の夫なんだ」
「偉そうに。そもそも最初に、奥さんをモノみたいに俺に抱かせようとしたのはお前だろうが」
「だからそれも・・・後悔してる」
「半分だけの後悔だろ。もう半分は獣みたいに欲情してるんだ。まあ、俺にはそっちのほうがよほど人間的に見えるがね」
 赤嶺の言葉のナイフは今度こそ私の真実を鋭く切り裂いて、私の言葉を奪いました。


「それに奥さんが哀しんでいようが、なんだろうが、そんなことは結局関係がないのさ」


 ―――独り言のような、その口調。


「そんなつまらないことは、すぐに忘れさせてやるよ」


 悪魔じみた色気を感じさせる目が、私を見下ろしていました。


「死ぬほど悦ばせてやる。変えてやるよ。奥さんをもっともっと別の、新しい女に」
「――――――」
「それはお前にとっても、奥さんにとってもいいことのはずさ」そう言って、最後に赤嶺は悪戯な笑みを浮かべました。「―――きっとね」


 赤嶺の部屋を出て、自室へ戻ったのは何時ごろのことだったでしょうか。
「―――瑞希?」
 姿の見えない妻に呼びかけると、隣の襖が開き、妻が姿を現しました。
「もう、寝ていたのか?」
「ごめんなさい。ちょっと気分がすぐれなくて」
「そうか・・・それなら、横になっていたほうがいい」
 私が言うと、妻は「いえ、もう大丈夫です」と言って、卓の傍に正座しました。
「お茶をいれましょうか? それともお酒・・・?」
「お茶でいいよ」答えて、私も妻の正面に腰掛けました。
 こぽこぽ、と急須に湯の注がれる音が、静かな部屋に響き渡ります。
 袖から伸びた妻の細い腕が湯飲みを手に取るのを見つめながら、私は何とはなしに息苦しい想いでいました。
「煙草を吸ってもいいかな?」
「ご自由に・・・」
 弱気な声で伺いを立てる私、妻はいつぞやのように咎めるでもなく、静かな声で答えて、茶の入った湯飲みを差し出しました。
 煙草と茶で私が一服している間、妻は無言で正座したまま、じっとしていました。細面の顔は、彼女が先ほど言ったとおりに気分がすぐれない様子で、鬢の毛がわずかにほつれて頬にかかっていました。
 そんな妻の様子を窺っているうちに、ふと妻は口が開くのが見えました。
「赤嶺さんと・・・お話されていたんですか?」
 努めて穏やかにしようとしている声の調子が、かえって妻の抱える不安の強さを感じさせました。
「―――うん」
 私は答えて、短くなった煙草を揉み消しました。
「それで・・・赤嶺さんはどうしてこちらへ・・・?」
「いや―――それはさっき赤嶺が自分で言ってた通り、仕事先の都合でたまたま休みが取れたから、というのが本当らしいけど」


 ―――奥さんを抱きたい。
 ―――もう一度。


「そうですか・・・」
 呟くように言い、妻は膝の上にそっと両手を重ねました。
 鶴のようにうなだれた様子で、じっと何かを考え込んでいるふうの妻。
 そんな悄然とした妻の姿を、見つめながら、私は。


 ―――抱き心地も良かったしな。
 ―――あのときに出す声もよかった。


 私の内側には。


 ―――奥さん、今でもあんなふうに啼くのか?
 ―――まったく羨ましいよ、お前が。


 あの―――声が、言葉が。


 ―――誰よりも望んでいるのはお前なんだ。


 耳鳴りのようにずっと響いていて。


 ―――死ぬほど悦ばせてやる。
 ―――変えてやるよ。


 変わる―――


「もう、私を偽ることだけはやめてくださいね」


 不意の妻の言葉に、私の意識は現実に引き戻されました。
「え? 何だって」
 妻はすっと背筋を伸ばし、私のほうを向いていました。
「去年のような想いは、繰り返したくないんです」
 私を見つめる、澄みきった瞳。
「二度とあんな隠し事はしないで」
 その瞳がゆっくりと潤んでいくのが、私の目に映りました。
「私はこのままでいい。このままがいいんです」
 私は無意識に妻の名前を呼んでいましたが、その声は小さすぎて彼女には届かなかったようです。
「どうして・・・駄目なんですか。このまま二人で静かに暮らしていけたら、それだけで十分なのに」
 妻の声の調子は変わらず穏やかなままなのに、この目に映る妻の身体は次第に小さく、かすかになっていくようでした。私は咄嗟に卓を脇にどけ、膝で這って妻のもとへ行きました。

「すまない、瑞希。本当に」

 妻の肩を抱き、無意識に口に出した私の謝罪―――
 あの瞬間に告げたその言葉がなぜ、すまなかった、ではなく、すまない、だったのか、後々になっても、私は考えずにいられませんでした。

 この時点でその意味を正確に感じ取っていたのは、おそらく妻一人だったのでしょう。
 だからあのとき、肩を抱く私を振り返って、彼女は言ったのです。


「やっぱり―――私だけでは駄目なんですね」


 囁くようにそう言って―――妻は泣きながら微笑みました。
 消え入りそうな囁きの、その意味が分からないままに、しかし私は言葉を失いました。

 月の綺麗な、静かすぎる夜のことでした。



悪夢 その65
ハジ 7/26(木) 00:21:33 No.20070726002133 削除

 女性のくちびるが男性器に触れる。そこに一片の愛情さえないとすれば、その光景は嫌でも服従の誓いを連想させずにはおきません。
 出会ったときにはあきらかに格上だった女がいまや同等、いや、それ以下の存在と化す。少年たちにとってはさぞ、たまらない展開でしょう。

 秋穂の口がそこから離れる際、透明な膜が後を引きました。最初は彼女の唾液かと思われたそれは、実は少年の先走り汁のようでした。彼女の口もとに残ったそれが余計に卑猥さを助長させます。

 秋穂の目からは光が失われていました。
 プライドを捨てる。恥を受け入れる―――口で言うのは簡単ですが、その為にどれだけ苦いものを飲み下す必要があるのでしょうか。その傷を癒すために、どれほど自分に嘘をつき、心を偽らねばならないのでしょうか。魂が穢れるのも致し方ないのかもしれません。そして、その汚れは一度ついてしまえば永遠に消えないのです。

 妻の凋落振りに少年の思い上がりはますます強まります。

「じゃあ、次はふくんでみようか。軽くでいいからさ」

 今度は真正面からフェラチオを要求してきました。断られるなど、露ほども疑っていない表情で。
 秋穂の瞳に小さな炎が揺らぎました。傷口に塩を塗られる行為に一度は消えた反逆の炎がくすぶりはじめます。

 シャック少年はそれに薄ら笑いでこたえました。彼は見切っていたのです。
 妻のからだの底流に流れる怒り。しかし、それは低温なため、ブスブスとくすぶりつづけるだけで、一向に燃え上がりはしません。何も生み出さないかわりに何も破壊しない炎―――否、そこからは何も生じないし、相手を焼くこともできない中途半端で無益なもの―――自らをじわじわと焼く分、却って性質が悪いかもしれません。
 秋穂の脳裏に何度も甦る光景―――強制されたとはいえ、息子のような少年の唾を飲み下し、不浄の証に口づけました。そういった苦い記憶と葛藤し、気後れをおぼえることは想像に固くありません。
 秋穂は少年から目をそらしませんでした。しかし、あきらかに精神的に後退していました。

 消極的な同意―――それが彼女の出した答えでした。



 妻が沈黙を守っていると、真上から再び嘲弄が浴びせられました。

「なんだ、できないの?やっぱりねえ」

 突き放した態で、からみつく悪意。少年はつづけます。

「やっぱり―――血のつながりって大事なのかねえ。そういえば、息子もそう嘆いていたな」

 安い挑発です。おまえこそ親にどういう躾をされたのか、と問い返したい。それに親子の関係と彼に従うことは次元のちがう話です。
 それにしても、息子の人を見る目のなさを疑います。こんな男にどこまで家庭の事情を話したのでしょうか。

「いくら、うわべをとりつくろったって、所詮は他人。だから、奥さん。あんたはあんなことを―――」
「―――するわ」

 妻は張り詰めた表情でそう言っていました。決然とまなじりをあげて、少年を見据えるように。

「するわ」

 浩志の名を聞いて、母性を揺さぶられたのでしょうか。そのことも少しは関係あるかもしれません。しかし、私にはその薄汚れた言葉の先を遮るのが目的だったように思えました。
 妻の語調の強さに驚いた顔を見せた少年でしたが、すぐにもとの目を取り戻しました。爬虫類を思わせるそれが瞬きもせず、彼女を注視します。

「言うとおりにするっていうのか」

少年はなお半信半疑の様子でしたが、妻の次の言葉を待ちました。
 秋穂は自分の左右を確認するように首を巡らせました。

「でも、このままではできないわ。こう離れていては」

 彼女の細腕は少年たちにしっかりとつかまれていました。そのうえで、押さえつけられているのです。
 拘束がきついので、動きに制限がある。だから、手足を解け。秋穂はそう言っているのです。

 少年はしばらく考え込む様子でした。彼女の正論と、妻を自由にするその危険性とを秤にかけているのかもしれません。

「いいぜ。やってみなよ」

 少年はそうつぶやくと、跨っていた彼女から距離をとりました。しかし、決して警戒を緩めようとしません。
 そんななか、秋穂はゆっくりと身を起こすと、両肘をさすりはじめました。そして、両膝を寄せて、形ばかり股間の翳りを隠すと、額にかかった前髪をかきあげます。
 妻はおちついてみえました。

「オラ、はやくしろよ」
「時間かせぎしてんじゃねーよ」

 少年たちが焦れはじめ、罵声を浴びせはじめた頃―――
 ようやく秋穂は動き出しました。視線をまっすぐ上げ、膝立ちのまま、進みはじめます。
 強がりにしかみえない後ろ姿が痛々しすぎて、私は思わず目を閉じていました。
時間にすれば数秒。秋穂は彼らのもとにたどりつけたでしょうか。

 目を開けたとき、最初にとびこんできたのは妻の髪をやさしく撫でるリーダー格の少年でした。うっとりと目を細めるシャックの下で、白い背中がぐらりと傾きました。



妻の入院 56
医薬情報担当 7/25(水) 17:57:18 No.20070725175718 削除
 人を殴るのははっきり言って苦手です。
 素手での殴り合いなど、腕前も、気持ちも、からっきしダメです。
 しかし、降りかかる火の粉を振り払うのをためらうほどのお人好しでもないし、まして、今は、妻を救い出さねばならないのです。
『やるしかない』
 緊張で、身体が震えます。
「おい、このおっさん、震えてんでぇ」
 この種の男達は、自分が有利だと思いこむと「獲物」にいくらでも残虐なマネができるものです。
 おそらく、私の震えを「恐怖」ととらえ、どうやっていたぶろうかと舌なめずりする心境だったのでしょう。
 胸ぐらを掴まれている手を、そのままにした、白い小型車に乗る、いかにも営業マンの外見の男が、チンピラに囲まれて震えれば、そう思いこむのも当然かもしれません。
 しかし、ちっぽけなMRには、妻を救わねばならないという使命があるのです。
 仲間を振り向いた、その瞬間でを狙ったのです。
 胸ぐらをつかんだ手を、グッと、上からつかむと、思いっきり助手席側に倒れ込みました。
「ぐぎゃ」
腕ごと引っ張られた男の顔が、見事に窓枠にヒットします。 
 すぐに手を離して、一気にドアを開け放ちます。
 開けたドアごと、男が吹っ飛びます。手が妙な方向を向いているのが、ちらりと見えます。ひょっとして肩が抜けたのかもしれません。
「てめえ」
 まるでドラマのチンピラのように「てめえ」といいながらも、男達は、自分が先にはかかってこようとはしませんでした。
 私の手には、一本の竹刀が握られていたのです。
 三尺九寸の、今の私が唯一頼れる「仲間」。
 もちろん、使っている竹は代替わりしても、この竹刀だけは、大学時代の私の青春そのものと言って良いつきあいでした。
 こいつだけは、私を裏切ることはないのです。 
 竹刀を手にした私は、こんな暴力的な場面でも少しも怖くありませんでした。
 車を背にすれば背後は守れます。
 得物を持っているのは残り5人。
 まるで、バットでも握るように木刀を構えているのは、この男達が、木刀を握る資格さえないことを物語っていました。
 真っ正面の、木刀を持った男に、ピタリとねらいをつけて、私は無意識のうちに、馴染んだ正眼の構えを取っていました。
 年の頃は、みな、二十歳前後でしょうか。
 後ろで黙って見ている二人は、もっと年かさで30を少し越えた辺りでしょう。
 竹刀を持っているというだけで、残虐な悪意の集中するこの場を、冷静に見回すゆとりがあるのは、不思議でした。
 小学校に上がる前から道場に入れられ、剣道を仕込まれてきたのです。
 元来、気が弱く、暴力的なことが苦手な私を、父は心配したのかもしれません。
 嫌々やらされてはいても、大学生になる頃には、それなりの腕前になります。
 気がついたら、大学の剣道部に入部して、来る日も来る日も竹刀を振っていました。
 今でも、人を殴ることなど思いもよらないことですが、いえ「でした」が、剣道の時だけは別の人間になれるのです。
 剣道は暴力とは違う。
 そう、思えたからかもしれません。
 かといって、今の状況は、まさしく、暴力的、そのものですが、手の中の竹刀が、私の心に涼やかな風を吹き込んでくれます。
 やはり、少しも怖くはありませんでした。
 むしろ、手に手に、木刀を持った男達の方が、ビクビクしているように見えます。
 よく見ると、男というより「少年」と言うべき年齢のようでした。
 剣先を正面の少年ののど笛に狙いを定めたまま、顔だけでぐるりとねめつけます。
「おい、お前達。かかってくるか?なあ、剣道って知ってるか?剣道をやっているとな、こんなつまらない竹の棒でも役に立つんだよ」
 グッと、剣先を手首の動きだけで、少年に向けて数センチ近づけます。
 正面の少年はその動きだけで、ズッと、一歩下がりました。
「教えてやろう。こいつで喉を突かれたときに、どれほど苦しんで死ぬのか。いいか?木刀なんてな素人が振り回してもかすりもしないんだよ。試してみるか?自分の喉で」
 半歩前に出ると、また、少年は一歩下がります。
『よし、こいつは、一歩じゃ届かない』
正面の少年には十分な牽制ができています。
 さしあたっては、左端の一番目つきの鋭い少年。
 知性を感じず、弱いものをいたぶるときだけは、人一倍、身体が大きく、力がありそうなその少年。そいつが一番、動きが良さそうでした。
 その少年は、腕力に自信があるのか、大きな身体で威嚇するように、木刀を片手で振りかざしています。
 決意を込めて、まず、右に竹刀を向け、半歩身体をずらします。
 誘いです。
案の定、竹刀を向けられた少年が、半歩下がった瞬間に、その大柄な少年は振りかざした木刀を両手で握りしめて向かってきました。
 スキだらけです。
 おそらく、ちんぴら同士の戦いなら、その動きは十分に速いものだったでしょう。
 しかし、鍛練を積んだ者にとっては、無駄が多すぎる動きでした。
 少年の木刀は、スピードこそ速いのでしょうが、肩を中心とした大きな軌道で動いてきたのです。
 最短距離の直線で竹刀を移動させて、振り返れば、十分に間に合います。
 弧と直線なら、直線の方が断然移動距離が短いからです。
 スローモーションのように弧を描いて見える木刀の真ん中に、チョンと、手首の動きだけで竹刀を横からあてれば、その軌道は大きくそれてしまいます。
 手首のひねりだけで、何の力も必要ありません。
 もちろん、少年の方は、基本を知らない哀しさでしょう。こんな握り方では、それた軌道を直すことなど不可能です。
 大きく崩れた軌道が、少年のバランスを崩したのです。
 無防備な頭が丸見えになります。
「てやぁー 」
 裂帛の気合いというヤツです。
 手首を絞って、瞬間的に力を伝える打突は、その衝撃のほとんどを肉体の内側へと響かせてしまいます。
 あの汗臭い防具をつけた上からでさえ、頭にまともに当たれば、意識を失うことも珍しくないのです。
 さほどの手応えが無くても、後頭部にもろに竹刀を受けて、どっと倒れた少年が、もう立てないくらいはすぐに分かります。
 あと4人。
 得物を持っているのは、それだけです。
 他の少年が殺到してくるはずのタイミングでしたが、先ほどの気合いで、思わず、ためらってしまったようです。
 そして、一度ためらってしまうと、仲間が簡単に倒されたのを見てしまった以上、かかってくる意気地など少年達にはないようでした。
 そのくせ、てめえ、ぶっころしちゃる、よくも、と口々に罵りますが、切っ先を向ける度に、半歩下がってしまう弱虫ぶりです。
 おそらく、よってたかって、弱者を嬲る以上のことをしたことがなかったのでしょう。
 暴走族上がり、いえ、ひょっとしたら、現役かも知れませんが、こんな連中なんてそんなものです。
 一度、気合いで飲んでかかれば、一人ひとりが、どうやっても、私に触れることは不可能なのがわかりきっていました。
 後は、一斉にかかってこさせないように、どれだけ、場を読めるかが勝負です。
 ふと、斜め前にいる、釘をハリネズミのように打ち込んだバットを持っている少年の目におびえの色が満ちたのが見えました。
「てやぁー」
 気合いだけで脅すと、窮鼠猫を噛むの言葉通り、しゃにむにバットを振り回しながら向かってきます。
 力任せの動きは、経験者からすると、止まっている物を打つよりもやさしいもの。
「コテー」
 その振り上げた右手をしたたかに打つと、思わずバットを放り投げてしまい、バットが隣の少年を襲います。おもわず、そいつはバットを避けるしかありません。
「てってて」 
 右手を押さえてうずくまろうとする、そのニキビの消えていない左頬にめがけて、左に捻るように手首を絞り込みながら剣先をたたき込みました。
「つきぃー」
 仰向けに吹っ飛んだ少年は、突かれた顔を押さえることもできずにヒクヒクと悶絶します。
 腰を入れていないとはいえ、防具もなしの顔面に有段者の突きが入れば、左の奥歯はヘタをすれば全滅でしょう。
 大学時代に取った段位は四段でした。
 本来、そんな段位を持つ人間が素人を竹刀で打ち据えて良いわけはありません。
 しかし、ちっとも良心が痛みませんでした。もし、私に竹刀が無ければ、こうなっているのは、私の方だったかもしれないのです。
 得物を持った、醜悪な顔つきをした生き物は、あと3人だけでした。



妻の入院 55
医薬情報担当 7/25(水) 00:47:15 No.20070725004715 削除
 私は、病院から連れ出される妻を見ていたのです。
 正確に言えば、連れ出される妻を乗せた車を、ということです。
 今日、駐車場ですれ違った寝台車には、確かに山村看護師が乗っていたはずです。
 そして、あのレコーダーに映った会話で、はっきりと「山村さんには可愛がられた」とあの男が言っていました。
 いくら、病院中の看護師が味方でも、おそらく意志を奪った状態にされている妻の移動を手伝わせるとなると、頼める相手はそれほど多くはないはずです。
 頼むとしたら山村看護師だけ、あるいは、私に色仕掛けで親切ごかしに近づいてきた井上さんだけのはずでした。
 真夏に騙されたとは今でも信じたくはありませんが、あのレコーダーのことを知っていた以上、おそらくは、井上さんが渡したに違いないのです。
 あの、純真そうな瞳を持った子が、おそらくは、金に釣られて、我が身を投げ与えてまで男を罠にはめるのは、よほどのことだったのでしょう。
 おそらくは何かの弱みにつけ込まれてだったに違いないと、私の怒りは、その方向に向かってしまうのです。
とりもなおさず、井上さんがどこにもいない以上、あの寝台車に乗った山村さんは、妻に付き添っていた可能性は、すごく高くなります。
 ということは、あの車が行った先が、妻を連れて行く目的地ということになります。
 そこが付け目でした。
 寝台車を持っている会社など、この街には一つしかありません。
 急遽決まったであろう、妻の移送を、他所の街にまで頼むとは思えません。
 元々、その種の手配を嫌がって、我々MRにさせてきたのです。医者にとって、患者の搬送車など、どこに頼んでも同じだと思えるに違いないのです。
 もちろん、医者のあらゆるわがままに融通を利かせる「元」この街のMRとしては、その会社を知っていますし、顔なじみもいます。
「ライバルの会社がね、最近、手を伸ばしてきてさ。内緒で新設の病院を探してるんだ」
 多少うさんくさい話でも、そもそも、MRなんて、うさんくさい話を持ってくるものだと知っているので、千円札の何枚かを握らせれば、運行日誌を見せてもらうくらいは簡単です。
 できる限りさりげなく、ぱらぱらと捲れば、最後に記された、今日の移送先は、ただ、ひとつ。
 そこは、病院でもなく、個人の住宅でもないようでした。
「ここ、知らない場所だけど、新しくできた病院?早速営業をかけなくちゃ」
「あぁ、違う、違う、深谷さんどこの別荘だよ。何でも、親戚の患者を預かることになったって」
 地元の訛りが強く残った、気さくな爺さんが、差し入れた缶コーヒーを片手に上機嫌でしゃべります。
「へぇ、わざわざ別荘でねえ。病院から出るくらいなら、寝台車もいらないんじゃないの。大げさだなあ」
「いんやあ、脚を折ってたんぢゃねぇかなあ。ま、看護婦さんも一緒に乗ってくれるし、べっぴんの患者さんも、よく寝てるで、楽な仕事だったよ。おっと、これ、ナイショな。たっぷり、もらっとるし」
 ニヤニヤする爺さんは、ご祝儀を握らされ、他にしゃべるなといわれたのでしょう。
もちろん、他にはしゃべらないでしょうが、医者の周りで働く者同士は、ある連帯感で結ばれています。
 そのつなぎ役がMRだったりするのはよくあることでした。
 金払いこそ良いものの、医者のわがままは、周囲で働くものの悩みのタネですから、こうやって情報を融通しないと、やっていけないのです。
 時にはライバルの営業同士ですら、助け合うのがこの世界です。
 もちろん、医者はそんなことを知らないでしょう。
 いわばMRの魂で、妻が監禁されている場所を見つけられたようなものです。
 そこは、町から車で30分ほどの場所です。
 病院長の別荘。
 地方の小都市と言えるこの町から、車で30分もあれば、相当なへんぴな場所にたどり着けます。
 山に囲まれた敷地と目の前を流れる小川があるだけのへんぴな場所。
確かに、カーナビに目的地をセットすると、そこには広大な森と小川しか映っていませんでした。
 気ばかり焦りますが、ここで事故を起こせば、元も子もありません。
慎重に、しかし、目一杯急ぎながら、ようやくたどり着いた頃には、夏の陽も傾いていました。
『さて、これでどうする?』
 周囲に人家は見あたりません。
 個人の敷地ですから、人も出入りしないはずでした。
 林の奥に続く道には、鎖がかかり「関係者以外立ち入り禁止」の表示。
 しばし、その看板の前で車を止めた後、その先の、林がわずかばかり途絶えた、小さな空き地に移動します。
 どうやって侵入するべきなのか。
 さっきの「立ち入り禁止」の先が、おそらく別荘に続く道でしょう。
 他に道などありそうもなく、延々とあの私道を行かなければ、つかないはずです。
 つまりは、妻がどれほど叫んでも助けが来ることはなく、折れた脚を引きずっても、民家にたどり着けるはずもない、そんな場所です。
 車で乗り付けるのは、目立ちすぎました。
『やはり、歩くしか』
 その時、道路に、大型の品のない車が、ブレーキの音もけたたましく2台、3台と止まります。
 とっさに、エンジンをかけようとしましたが、道への出口を車にふさがれてしまいました。あの大型車をかき分けて道路に出ることなどできそうにありません。
 もちろん、相手は私の逃げ道をふさいだことを知っています。
 ゆっくりと柄の悪い男達が、ひとり、また一人、と道路に降り立ちます。
 衆を頼んでのことでしょう。
 8人が8人とも、ニヤニヤと笑っていました。
 自分たちが圧倒的に強者の側である時の、この種の男達の通癖で、どの男も、余裕のある、こちらをあざけった顔をしていました。
 顔の造作はともかく、その表情だけで、こいつが醜悪な腐臭を放つクズどもだと一目でわかります。
 真っ先に私の車を取り囲む若い男達は、手に手に、木刀やバットを持っています。
 おかしなトゲがあると思ったら、バットには釘が無数に打ち付けてあるようでした。
 暴走族が、これを振り回しているのをテレビで見たことがあります。
「あんさあ、お宅ぅ、ひょっとしてぇ、相川とかいうん?」
 舌っ足らずな声をかけながら、タバコ臭い息を吐きかけながら、私の車にもたれかかり、相変わらずニヤニヤしています。
「それなら?」
「ちょっと、ボコらせてもらわんとなあ」
 薄っぺらな顔でヘラヘラしながら、そう言った瞬間、窓から差し入れた手は私の胸ぐらをつかまえていました。
「へへ、こんな優男、チョロいで」
 にやけた悪意が私を取り囲んでいたのです。



卒業 7
BJ 7/24(火) 16:38:38 No.20070724163838 削除

「あなた・・・重い」

 妻にのしかかったまま呆然となっていた私は、身体の下から聞こえてきた細い声でようやく理性を取り戻しました。
 慌てて妻から離れ、畳の上にぺたりと腰を下ろしました。
 妻はまだ身体が動かないのか、仰向けに横たわったまま手だけを動かして浴衣の裾を直しましたが、それだけの動きをするのも辛そうでした。
 ほとんど暴力まがいの交わりをしてしまったことに、私は自分自身でショックを受けていました。妻に何か言わなければいけない、と思いましたが、言うべき言葉を見つけられないでいるうちに、さらに数刻が過ぎました。

 窓の外はすでに暗闇が支配する夜の世界になっています。

 不意に、妻がゆっくりと身を起こしました。気まずそうに目を逸らしたまま起き上がった彼女の乱れ髪を見て、私もまた思わず目を逸らしてしまいました。
「瑞希・・・わるかった」
「いえ・・・・」
 ようやく言った私の声に、妻は浴衣の前を押さえながら短く答えました。そして立ち上がり、「ちょっとシャワーを浴びてきますね」と小さく告げて、そろそろとした足取りで備え付けのバスルームに消えていきました。
 私は深く息を吐き、窓の外に広がる闇をぼんやりと眺めました。
 しばらくして、妻が戻ってきました。シャワーを浴びたその顔色は、先ほどまでの蒼褪めたものに比べ、ずいぶんと血色が戻っています。
「もうお食事の時間になりますけど・・・あなたもシャワーを使いますか?」
「うん・・そうだね」
 緊張しているような声色の妻に答え、のっそりと私は立ち上がりました。

 宿の食事処で夕食を取る間もずっと、私と妻の間にはぎこちない空気が流れていました。
 本来なら楽しいはずの旅行を台無しにしてしまったこともそうですが、無理をして何もなかったように取り繕っている妻の姿が、私の胸を痛ませずにおきませんでした。

 食事を終え、席を立って部屋へ戻る途中、玄関に赤嶺が戻ってきたのが見えました。
「ちょっと用事を思い出した。瑞希は先に行っててくれ」
 妻にそう言うと、彼女は何か言いたげにちらりと私を見ましたが、結局「分かりました」とだけ答えて立ち去りました。
 私はため息をついて、赤嶺のもとへ歩み寄りました。

 夕食は外でとってきたという赤嶺に誘われ、私は彼の部屋へと足を運びました。
「まったく、どうしたんだ。そんなしみったれた顔をして」
 部屋に入るなりそう言って、赤嶺は窓際の椅子にどっかりと腰を下ろし、行儀悪く足を組みました。
「お前のせいだよ、全部」
 貰った煙草に火を点けながら、私は子供のように悪態をつきました。
「意味が分からんね。奥さんと喧嘩でもしたのか」
 単なる喧嘩なら、もっとずっとよかっただろうに―――私は心中でそんなふうに思います。
「お前はどうしてここに来たんだよ?」
 赤嶺の問いには答えず、私は若干の怒りをこめて先ほど抱いた疑問を彼にぶつけました。
「何言ってやがる。もとは俺の紹介した宿じゃねえか。―――それはともかく、理由はさっき説明しただろ。予定していた仕事が相手先の都合で延期されたからってやつ」
「とても信じられんね」
 私の感想を赤嶺はふんと鼻で哂い、それ以上否定も肯定もしませんでした。
「それはそれとしてお前こそ、俺に何の用なんだ? 何か話したいことがあって来たんじゃないのか?」
 私は先ほどあったことを赤嶺に語るべきか一瞬迷いましたが、決心がつかないまま、無言で煙草を吹かしました。語るも何も、自分自身ですら、わずか数刻前の出来事をまだ整理できずにいたのです。
 あの嵐のような昂りを―――
 赤嶺もまた何も語らず、手元のジッポをかちゃかちゃと弄びながら、悄然とした私の様子を観察するような目で見つめていました。
「なぁ」しばらくして、私はそんな赤嶺に言葉を投げました。「お前に聞きたいことがある」
 赤嶺はケースから取り出したピースを咥えつつ、続けろと言うように顎をしゃくりました。
「お前は―――瑞希のことをどう思っているんだ」
「前と変わってないよ。はっきり言って好みのタイプだね。さっき久々に見て、改めてそう思ったな」
 紫煙を吐きながら、赤嶺は目を細め、私を正面に見据えました。
 その唇が、歪んだ笑みを刻みました。

「それに―――抱き心地も良かったしな。あのときに出す声も良かった」

 あからさまに私をからかい、挑発する口ぶりで。

「奥さん、今でもあんなふうに啼くのか? ―――よぉ、どうなんだ。お前とするときにも、奥さんはあんなに乱れるのか? 聞きたいね」

 赤嶺はそんなことを言い、冷ややかな目で私を見つめました。

「もしそうだとしたら、お前も大変だね。普段はつんと澄ましていても身体の反応は娼婦顔負け、って女は実際いるもんだけど、奥さんもその類じゃないのか。よく言えば感受性豊か、わるく言えば淫乱ってとこだな」

 淫乱―――

「まぁ、俺はそういう女のほうが好きだけどな。人間、口では何とでも言えるけど、身体のほうは正直なものだからな。あの奥さんみたいに最初は抗えるだけ抗うけど、最後は結局、快楽に負けてぐずぐずに乱れてしまうってのも風情があっていいもんだ」

 まったく羨ましいよ、お前が―――

 最後に一言そう結んで、赤嶺は再び煙草を咥えました。その視線は逸らされることなく私をとらえ、きらきらとよく光る目は私を嘲弄しています。
 その目を、私はしばらく無言で睨み返しました。
 やがて、言いました。
「その手は―――食わない」
 赤嶺は煙草を吸いながら、眉だけ動かして私の言葉に反応しました。
「お前は昔から傍若無人に振る舞ってみせては、その裏で冷静に目の前の人間の反応を見ているタイプだった。そんなときこそ、ひとの本音ってやつが出るからな。その本音を聞きだして、お前は利用するんだ」
 赤嶺はふっと笑いました。
「昔からの友達に対して、ずいぶんとひどいことを言うんだな」
「お前が言うな」
「ふん。だいたい、これだけ付き合いが長いんだ。お前の本音なんて聞きだすまでもない」
 煙草を揉み消した赤嶺は、まるで舞台役者のように両手を広げて見せながら、ゆっくりと立ち上がりました。
「今さらどう取り繕っても無駄なことさ。一度起きたことは変えられないし、最初に望んだのは、そして誰よりも望んでいるのはお前なんだ」
「だから―――何が言いたいんだ」
 苛苛した口調で叫んだ私を、赤嶺は立ったまま壁に寄りかかり、冷ややかな目で見つめました。
「お前自身が一番よく分かっていることを俺に言わせるなよ」
「じゃあ、質問を変える。お前は何がしたいんだ? 本音で答えろ」
「―――俺がしたいこと、か。そりゃ決まってるだろ」
 赤嶺はあっさりと言いました。
「奥さんを抱きたい。もう一度」



妻の入院 54
医薬情報担当 7/24(火) 12:28:36 No.20070724122836 削除
<妻を返してもらおうか。>
<帰りたくないってさ>
<ウソだ。妻がおまえとちゃんとしゃべれるなら、写真立てのことだって簡単に聞けたはずだ。もし、どうしても、妻が何かを言っているというなら、今すぐ、その手紙にどんな便せんを使ったのか聞いてみろ。>
<おいおい、便せんなんてどれも同じようなものだろう。覚えているヤツなんていやしないよ>
 忘れるわけはありません。あの鎌倉行きは、二人にとって、大切な思い出です。
 だからこそ、妻は、あの写真立てに挟む手紙なら、あの便せんを使わずにいられなかったはずでした。
 大切な思い出の便せんを私への手紙以外に使おうとしなかった妻なのです。
<妻は忘れるわけはないよ。夫婦の絆だからね。さて、このまま、警察に行かせてもらうとしよう。もうすぐおまえのいるところにパトカーが行く。楽しみに待っていろ。>
 これほど挑発しても、妻に聞けないということは、今、あの男がどのように妻を閉じこめているのか、想像できます。
 まさか生命を、ということはないにしても、妻の自由意志がまったく無視されているはずです。
 そっちの方が心配でした。
あれだけの小細工をした男です。
 ひょっとして、と思わずにいられません。
 こざかしいペテンがわかって初めて、私と妻が陥ったからくりがわかったのです。
 おそらく、最初は妻の方にも、淡い初恋の甘酸っぱさは残っていたのかもしれません。
 だから、心の隙ができた。
 結局、相手は、妻にとって、憎からず思っているであろう初恋の男でした。
 その男が、医者の権威と、ささやかに揺らめく心を巧み誘導して身体を弄んでいったということでしょう。
 大学時代にささやかにでしたが、学んだことを思い出していました。
 それは有名な心理実験です。
 公募したごく普通の市民を「囚人役」と「看守役」に分けて「演じて」させたところ、3日とたたないうちにひどいことになったといいます。
 見事に、サディスティックな看守軍団ができあがり、囚人役は始終怯え、看守役は「実験」の枠さえ越えた暴力を振るい放題になったそうです。
 それほど「役割」というのは大きいのです。
 ましてや、妻のように満足に動けないまま、身の回りの世話を一切合切してもらう身になれば、次第に相手に迎合するようになるのも当然でした。
 次第に、あの男への気持ちなど関係なくなって、患者としての「役割」が、妻の気持ちをコントロールしてしまったのです。
 そういえば、画面に映ったあの男は、終始、白衣を着ていました。
 病院での白衣は、医者の、そして、患者に対する権威の象徴です。
 初恋の相手への気持ちを利用しながら、患者としての「弱み」を自由に操れば、どれほど酷い行為であっても、受け入れてしまうのも仕方のないことかも知れません。
 そのうえ、自分の心を守るためには、妻自身も、昔の恋愛ごっこに浸ろうとするのも、無理のないことでした。
 第一、どれほど屈辱的なこととはいえ、夫との経験も豊かな人妻の身にとって、性の快感は、容易に「アメ」となりえます。
 権威への服従と、屈服。
 屈服による屈辱と快感。
 どちらかと言えば受け身のセックスを好む妻にとっては、マゾヒスティックな快感も加わったかもしれません。
 いわばマインド・コントロールを掛けられていたようなものだったのです。
 だからこそ、妻も、ここまで受け入れてしまったのでしょう。
 でも、あの時、私が「知って」しまった。
 妻は、私との関係を終わらせたくない一心で、その場は否定しなければならなかったのかもしれません。
 とっさに、マインドコントロールを受けた自分を守ろうとする心理は、こういうときによく起こることでした。
 かといって、時が経てば、私に知られたショックは妻のマインド・コントロールを解くには十分だった。
 そう考えれば、いきなり、男が病院から妻を連れ出したわけがわかります。
 マインドコントロールを再び掛けるには、私が邪魔だったのです。いえ、私への愛、私との愛が邪魔だったのです。
 だから、私と妻が直接会う機会を奪って、私を、そして妻を疑心暗鬼に追い込む。
 私があきらめれば、妻に「美穂は愛想を尽かされたみたいだ」とでも告げるつもりだったのでしょう。
 そうなれば、今度は妻が再び追い込まれるのは目に見えるように簡単なことでしょう。
卑怯な偽造メールを、改めて読み返してみると、私自身が、何度くじけて、別れの言葉を送ろうとしたのか思い出せないほどだったのに、改めて慄然とします。
もはや、迷いません。
 妻は私を待っているのです。
 行動を起こす、そう、妻を救い出すべき時でした。
 車に乗りかけて、ふと思い直し、納屋に入ります。そこには、学生時代の、ささやかな私の思い出が、カビにまみれておいてあるはずでした。
 引っ越してきたその日、身の回りのもの以外、持ってきたものの大半は、母屋に入れてもらえなかったのです。
 義父のささやかな嫌がらせでしたが、もちろん、言えるはずもなく、いまだに、妻は知らないはずでした。
 まあ、大半はどうでも良いものばかりでしたが、これがカビていく痛みをいつの間にか忘れていました。
 埃よけのブルーシートの下に、私の荷物が固まっています。
 一目でわかる、その袋から、久しぶりに出した相棒は、かび臭い匂いをさせながら「久々だな」と語りかけてくれるようです。
 一寸のMRにも五分の魂。
 それに、三尺九寸のおまえが付いているんだよな。
 たった「ひとり」の味方を助手席に放り込んで、ゆっくりとアクセルを踏み込みました。
 ああは、言っては見たものの警察に行くつもりはありません。
 少しでもあの男がうろたえれば、それでいい。
 警察に手を回すにしても、それなりに手がかかるはずです。
 その間に、少しでも時間が稼げれば、妻はその分助かるはずでした。
 今頃、誠の、あるいは義父を経由するのかもしれませんが、手配が警察に行くにきまっています。
 そうなったら、私が訴えても、まともに取り合わないか、あるいは、悪くすると何か罪状をでっち上げられないとも限らないのです。
 誰かを頼るのではない。大切なものは自分で闘って守るものだ。そんなことも忘れていました。
 意外に長かったMR生活が知らぬ間に私から覇気を奪っていたのかもしれません。
『守りに入ったらダメだったんだ。大事なものを守りたいなら、攻めだ。それも強気の』
 妻のいる場所を知るカギを、私は目にしていたのです。
 そんなことにも頭が行かなかった私もまた、あの男の心理攻撃にやられていたのだと今になって気づかされました。
「待ってろ。美穂」
 運転する背筋は、いつの間にか、昔のように伸びていました。



妻の入院 53
医薬情報担当 7/23(月) 18:56:06 No.20070723185606 削除
 励ますための手紙。
 携帯を持つ手が震えます。
 私の頭を、一筋の雷光が貫いていたのです。
『励ます』だって? それなら、あんな所に隠すわけがない。
 メールでもなく、読むはずもない手紙で、私を励ますだなんて。
 震える指は、思ったよりも早く動きます。
<美穂、手紙だけど。思い当たることはないのかい? 僕は君から一回も手紙を送ってもらったことがなかったはずだよね。>
 そうです。
 妻はよく言っていました。
 メールと電話で毎日つながっているのが一番よ。手紙だと、早くても翌日でしょ。今時、そんなの嫌だわ。毎日、あなたとお話ししたいもの。
それなのに「妻」が、励ますための手紙を、しかも、あんな所に隠しておいて。
 たっぷりと5分以上もたってからでしょうか。再び携帯が震えます。
<そうだったかしら。一回ぐらい送ったはずだったと思ったけど、ひょっとして書いたけど出さなかったのかも。じゃあ、あなたは、どの手紙のことを言っているのよ>
 私は、もはや、確信に近いものを持っていました。
 しかし、確信するなら「これ」でしたいと思ったのです。
 二人の絆で。
 指が震えて、今度は上手く打てません。
<「写真立て」に挟んでくれた手紙だよ。鎌倉に行った時のやつ。ほら、リビングに飾ってあった、あれだよ。>
 私の頭に、リビングの飾り棚に妻が飾り立てている、私や「お父さん」、そして、家族で撮った数々の写真立てが浮かんでいます。
 我が家は、妻の母親以来の方針で、写真立ては、昔からそこに集中して飾ってあるのです。
<ああ、あれね、そうだったかしら。そんな所に挟んだつもりはなかったのだけど。あんなにあるから間違えちゃったのかもしれない。第一、そんな手紙なんてどうでも良いでしょ。私が好きな人は誠さんで、誠さんの愛を今日もいっぱいもらったってことよ。恥ずかしいけど、あなたとは比較にならないほどいいの>
 もはや、どんな挑発でも、悪あがきをしているだけにしか見えませんでした。
 この数日間。いえ、妻が入院してから、初めて本当の希望の光が見えた瞬間だったのです。
 もはや、間違っているはずはありません。
 確信を込めて、ひと文字一文字、念入りに入力します。
<おい、誠、お前だな。妻を自由にしろ>
<何を言っているのよ。ちょっと手紙を出したのを間違えたくらいで妻を疑うわけ?だから、卑怯なことをするのよ、あなたって人は>
 よく見れば、今までの妻とはまったく文体が違っています。
『妻の面影がない』と思ったのも道理でした。
 なんで、こんな子供だましの手口に引っかかったのか、弱っている時と言うのは、そんなものなのでしょうか。自分の愚かさにたまらない自己嫌悪を覚えてしまいます。
 しかし、そんなことを言っているヒマはありません。
 妻を騙る「誠」に、ダメを押さなければいけません。
<もし、妻が言葉をしゃべれるなら、鎌倉の写真がどこに飾ってあるのか聞いてみろ>
<何を言ってるの。家では、写真はあそこにしか飾らないし。ひょっとして父がいじったかもしれないけど。だからといって私を疑うわけ?>
 確かに、その通りでした。
 昔からそうだったのです。だから、幼なじみが、この家庭に遊びにくれば、写真立ての群れを見たことがあっても不思議でも何でもありません。
 しかし、あの写真だけは。
<おい、誠。自分がどんなミスをしたのか、さっきのメールを妻に見せてみろ。それとも、妻の口をきけなくしてるのか?>
 なかなかメールは返ってきませんでした。
<誠。最近の携帯はGPSが付いている。妻が口をきけない状態だというのなら、あと10分だけ時間をやる。それで返事がないなら警察に連絡してそこを突き止めてやる。いいか、あの写真は、飾れないんだよ。二人だけの、夫婦だけの秘密なんだ。おまえは夫婦の間に土足で入り込むのに失敗したんだ。ボロを出したんだよ。>
 時計の秒針が、カチカチと時を刻む音がひどく間延びして聞こえました。
 秒針が6週と半分回った時に、携帯が震えます。
<まいった、まいった、おまえの言うとおりだよ。今日は美穂の代わりに俺がメールを打ってる。どうしてもおまえにメールするのは嫌だとさ>
 薄っぺらなペテンを暴かれた誠は、苦し紛れに、今日だけだと言っているのでしょう。
 しかし、トリックはもうわかっってしまったのです。もはや迷いません。
 今や妻の気持ちを疑う理由は一ミリたりともありませんでした。
<それはウソだ。少なくとも、おまえに殴られたあの日から、メールを打っているのはおまえのはずだ。妻ではない。ひょっとして、もっと前からだったのかもな。>
<そんなことはしていない。あくまでも美穂の頼みで代わってやっただけだ。今だけだよ> 
<おそらく、俺を殴り倒してから、美穂の携帯を取り上げて文体を真似、俺にダメージを与えようとしたのだろう。最初は、短く、慎重にやったんだろうが、だんだんとおまえの地が出てきたんだよ>
妻は、律儀な性格です。古い家庭の躾を受けたせいでしょうか。区切りをとても大切にするのです。
 かつて、妻は、私とのメールに絵文字を入れたいからと、電話番号を変えてまで、携帯会社を変えたことがあります。
 妻は、文末に顔文字や、絵文字を入れるか、句点なしにメールを終わらせることなど「できない」性格でした。
 もちろん、嫌な相手にメールを打っているのなら、顔文字や絵文字も使う気になれないでしょう。
 しかし、それでも、妻なら、メールの最後に「。」を打たないはずはないのです。
 もちろん、あの性格から、考えられないことですが、人間、一つや二つ、最後の句点を忘れることもあるかもしれません。
 しかし、あの長い、長いメールをもう一度読み返すと、見事に「。」は消えていました。
 いえ、違います。読み返せば「。」も「、」も、「.」と「,」になっていました。何でこんな簡単なことに気がつかなかったのでしょうか。
 おそらく、これは誠がPCで打ったメールを妻の携帯に転送し、妻からのメールに見せかけたのです。
 なぜなら,妻が携帯で「.」と「,」を使うなんてあり得ませんが、医者の卵である誠は、文章と言えば、これを使うのに決まっているからです。
 この世界の決まり事のようなもので、私自身ですら,仕事用のPCの設定は,こうなっています。
 おそらく、携帯で長文を撃つのに不安か、あるいは、大変だと思ったのでしょう。PCに慣れている人間にありがちなことでした。
 そういえば、あの長い文章が読み終わる前に,次々と送られてきたのは、あらかじめ作ってから,一度に送ってきたのに違いないありません。
 もちろん、いくらなんでも、句点くらいで確信は持てるはずもありませんが、あの、写真立ての手紙を妻が忘れるわけもないのです。
 まして、あの写真がリビングにあるなど、どんなに妻の心が私からなくなったとしても、それを間違えるわけはないのです。
 そして、妻の携帯から、姑息なメールを送り続けてきたとうことは、一つの真実が目の前にありました。
 そんなことをするということは、誠が本当の勝者ではないということです。
 妻の気持ちが、本当に誠にあるなら、こんな姑息な手段はいりません。
 妻に一言、電話をかけさせれば済むのです。
 勝者になりきれない断末魔の悲鳴が、この姑息な手段なのです。
 姑息な、このペテンこそ、誠の焦りだったのです。
 私は、危うく、いえ、9分9厘引っかかっていました。
 妻の気持ちはとっくに離れてしまったと、思いこんでしまったのです。
『あの写真立ての手紙が俺たちを守ってくれた』
 妻の愛が、私への手紙を書かせていたし、二人をつなぐあの写真を私が見ていなければ、このペテンは完成していたに違いないのです。
 ということは…
『美穂は、俺を待っている。こいつじゃない。美穂は、俺に助け出されるのを待っているんだ』
 妻が夫を待つ。
 こんな当たり前の言葉が、今の私には金色に光って浮かんでいました。





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悪夢 その64
ハジ 7/23(月) 01:22:35 No.20070723012235 削除
 シャックはベルトにつづいて、素早く履いていたズボンを下ろしました。
 画面一杯にその尻がアップになり、なぜか私は息苦しさをおぼえました。若く、引き締まった臀部は雄々しく活力に満ち溢れていますが、同時にそれは荒々しい負の力でもあります。
 そして、その下―――尻のあいだから巨大な陰嚢がぶら下がっていました。弛緩した状態のそれはしかし、十代の少年とは思えぬほど年季がはいっているようにみえました。それがしきりに私の不安をかきたてます。
 あんなものが妻の中に入るのか、と。
 私はそのふぐりの長大さから、彼のシンボルのサイズを推測していました。彼の凶器が今にも、私の最愛の女を傷つけようというのです。

 少年は前を隠そうともせず、寝ている秋穂の顔のすぐ横にひざをつきました。彼女に垂れ下がった袋とそれとは反対に弓のようにそりかえったイチモツをみせつけるように。
 半ば目をつぶっていた秋穂ですが、すぐにそれに気づきました。そして、彼に向かって物憂げに顔を上げました。

 下から見上げる光景はどんなものなのだろう。水平の角度からみるよりも、さらにものすごい圧力を感じるのではないでしょうか。ましてや、表面に青筋を立てたそれは凶悪で攻撃的な表情をしていました。

「先生、キスしてよ。ここに」

 少年はおもむろに腰の位置を妻のほうに近づけました。彼女の顔のちょうど真上。ぎりぎりのところで、それは静止しました。

「さっきみたいにさ」

 少年は恍惚とした表情を浮かべていました。おそらく、それは近い未来に起きる幸運に期待してのことでしょう。彼の頭には次々とこれから先のプランが湧いているにちがいありません。
 秋穂はしばらく黙ってそれを見ていましたが、やがて興味を失ったように視線をはずしました。

「なんだよ。まだ、気取ってんのかよ」

 少年の声が軽い苛立ちを帯びました。自らの唾液を呑ませたことで精神を征服したつもりになっていたのに、あっさりと命令を拒まれた。失望と妻に対する非難をそこにみることができます。
 他の三人もそれぞれ手を止めて、様子をうかがっていました。シャックは彼らの目を気にする素振りをみせました。

「先生、早くやんないと終わらないよ」

 それから、こうつけ加えました。

「俺たちの帰りが遅くなると、ヒロシだってどうなるか」

 無表情だった秋穂の顔にわずかに感情の波が揺れました。狡猾にもシャックは切り札をちらつかせるのを忘れませんでした。
 妻はやや上気した顔で私のほう―――実際にはシャックという少年ですが―――をキッとにらみつけました。そして何かを言おうと口を動かします。しかし、怒った表情のまま、それ以上先を口にしません。

「俺らは別にどっちでもいいんだ。困るのはあんたや浩志なんだから」

 少年はそう言うと、腰を振って股間の肉棒を揺らしました。自らの優位を疑うことなく、今度こそ確実に妻に服従を強いるつもりです。

 秋穂はこの日何度目かのため息をつくと、観念したように少年の男根に顔を近づけました。瑞々しい紅が亀頭に触れようとします。
 その寸前で、なぜかシャックは腰を引きました。秋穂の当惑した表情だけが、そこに残ります。

 少年はニヤニヤとその様を見下ろしていました。妻の顔にサッと朱の色が差します。彼は先ほどの仕返しをしたのです。

「ほら、えさが欲しければもっと頑張らないと」

 シャックは再び秋穂の眼前に自らの棒先を突き出すと、腰を揺らしました。屈辱にくちびるを噛んだ秋穂でしたが、黒い怒りはなんとか押し止めたようです。軽く頭を振ると、秋穂は少年のそれに目を閉じて口を寄せました。
 無意識に一度薄く開いた口はすぐにすぼまり、今度はあっさりと目標に到達しました。秋穂は男根に触れたまま、しばらく静止していました。



管理組合の役員に共有された妻 127
エス 7/22(日) 22:06:32 No.20070722220632 削除

私は迷った末、もう一度メールをして、小川さんを怒らせてしまったことをわびました。
小川さんからもすぐ返事がありました。
その後、何度かメールのやりとりがありましたが、小川さんは私の反応が気に入らないと、すぐ画像メールを送ってくるのです。
それらの画像はどれも、私が好色に見える瞬間を捉えたものばかりでした。
事情を知らない他人が見れば(そんなことがあってはいけないのですけど)私は淫乱な人妻そのものに見えたでしょう。
私は、せめて画像は小川さんだけのものにしてほしい、と懇願しました。
そして、一度お詫びのために会いに行くことを約束しました。
会って話せば何とかなる、と思ったのです。

翌日、小川さんに呼び出されたのは小川さんがアルバイトするお店の近くの公園でした。
屋外と聞いて少し安心しましたが、小川さんのほかにもう一人いることを知り、愕然としました。
小川さんのお店の常連でフィギュア仲間の斉藤さん、と紹介されました。
  『まさか、この人も全部知っているんじゃ…』
私の心が再び暗く沈みかけたとき、
  「実は、僕、趣味で映画も撮っているんですよ。」
そう言いながら、小川さんが台本らしきものを持ち出しました。
  「この主役、奥さんね。」
私は、なぜか自信たっぷりの小川さんの視線に耐え切れず、心の動揺をごまかしながら、10ページくらいの台本を興味深く読む振りをしました。

私は某国の陰謀から日本を救うために立ち上がる、主人公「リカコ」でした。
某国の指導者に送り込まれた斉藤さん扮する「サイトー」の洗脳をといて日本を救う、というストーリーでした。
馬鹿馬鹿しいと思いましたが、私は大げさにほめました。
昨日のメールのやり取りで、小川さんはとにかくほめられていれば機嫌が良いことを学んだのです。

 「よかった、気に入ってもらえて。じゃあ、さっそく撮影します。都度、演技指導しますから、そのまま流れでやってください。」
  「え?ちょっと…今、ですか?」
  「そうですよ。」
とたんに、小川さんの眉間にしわがより、イライラした様子で体をゆすり始めました。
私は小川さんを怒らせないように、言い訳を考えようとしましたが、携帯電話を持ち出す様子を見てすぐに観念しました。



卒業 6
BJ 7/22(日) 14:22:44 No.20070722142244 削除

 まったく予想外な赤嶺の登場に私は驚き、次の瞬間、思わず妻に目をやっていました。
 妻が赤嶺と再会するのは、一年前のあの日以来初めてのはずです。
 二度とはない―――と妻が思っていたのかどうかは分かりませんが―――はずの再会を、今こんな場所で突然迎えた妻。その顔からさっと血の気が引く様が、私の目にはっきりと見えました。
 ひやり、と冷たいものが私の胸に生まれました。
「どうしたんだよ、鳩が豆鉄砲をくらったみたいな顔をして」
 赤嶺は唇の端で笑みながら、ためらいのない足取りで近づいてきました。私たち夫婦それぞれの動揺を知ってか知らずか―――いや、他人の感情の機微に鋭いこの男は、たぶんすべてを承知の上で、何もないような顔をしているに違いありません。

「奥さん、久しぶりですね」ゆっくりと近づいてきた赤嶺は、笑みを崩さないまま妻のほうを向いて言いました。「―――ちょうど一年ぶり、ですか」
 妻は黙ったままでした。放心したように広げられた細い手指が、わずかに震えているのが視界の隅に入りました。
「・・・お前、なんでここに」
 ようやく絞り出した私の声は、まるで別人のもののように感じられました。
「いや、予定していた仕事が相手先の都合で延期されて、身体が空いたんでな。お前に渡した優待券もまだ余っていたし―――駄目もとで連絡してみたら、シングルの部屋ならキャンセルが出たばかりで泊まれるということだったから、俺一人でも来ることにしたんだよ。ついさっき着いたばかりだ」
 あっさりと語られるその言葉は、真実なのか偽りなのか―――ともかくも、赤嶺に動じる気配はまったくありませんでした。

「さて、と・・・俺もかの有名な天橋立を拝んでくるかな」赤嶺は大きく伸びをした後、私と妻を順に見つめました。「それじゃあ、また後で」
 そう言い残して、赤嶺はさっさと立ち去っていきました。その背中を阿呆のように見送っていた私でしたが、ふと気づくと、妻は一人で玄関のほうへ歩みを進めていました。
「瑞希」
 小さく声をかけましたが、妻はその言葉が聞こえなかったように玄関の戸を開き、すっと中へ入ってしまいました。
 私は大きくため息をつきました。

 部屋へ戻る途中、洗面用具を抱えた妻とすれ違いました。
「お風呂へ行ってきます」
 私の目を避けるように妻は言い、私が何か言うより早く、さっさと廊下を歩み去ってしまいました。
 仕方なく、私も一度部屋に戻り、それから宿の大浴場へ向かいました。


 妻はショックを受けているのだろうか。
 それとも怒っているのだろうか。
 たぶんその両方だろう、と私は思いました。
 天橋立への旅とこの宿への宿泊が、そもそも赤嶺の発案であることは妻には伏せていました。この一年の間、赤嶺の名前それ自体が、私たちの間では禁句のようなものになっていたからです。
 何も問題はなかった―――はずでした。
 けれども、先ほど赤嶺の出現を目の当たりにした妻は、一瞬にして事情を解した―――ように、誤解したに違いありません。
 それはつまり、去年の夏の再現です。
 妻を騙し、赤嶺にその身体を預けさせようと謀った、あの目眩めく時間。
 今回もあのときの状況によく似ています。妻が誤解するのも無理はありません。
 しかし、それはあくまでも誤解に過ぎず、今日ここに赤嶺が現れるなどということは私は想像もしていませんでした。
 いったい、あの男は何を考えているのでしょうか。

 熱い湯に浸かりながら、私はそんなことをつらつらと考えました。
 温まってゆく身体と呼応するように、私の心の中もじわじわと熱っぽくなっていくようでした。


 風呂から出て部屋へ戻ると、浴衣に着がえた妻が、窓際の椅子に腰掛けていました。
 すでに日はほとんど落ちかけ、窓越しに見える静かな海は鮮やかな夕陽に染まっています。この部屋にもその光は差し込んでいて、妻の横顔を朱く染めていました。
 私は黙って窓際に近づき、妻の背後に立ちます。妻は相変わらずその顔を窓の外へ向けたきりで、振り向こうとしません。浴衣の襟元からのぞく細いうなじが不思議なほどに艶めいて見え―――
 私は息を呑みました。

「瑞希・・・さっきのことだけど」
「聞きたくありません」妻はにべもなく言いました。
「説明しないと分からないだろう」
 静かな口調に強いものを滲ませた妻の声にやや気圧されながら、私は言葉を重ねました。
 ようやく妻は振り返り、私を見つめました。夕焼けの海を背後に置き、すっと顔をもたげて私を正面にとらえた妻の貌は冷たく冴えていて、瞳だけがきらきらと輝いていました。
「どんな説明をされるおつもりなんですか?」
 普段とは雰囲気の違う妻の様子にはっとしながら、私は今までの経緯を簡単に話し、赤嶺がこの宿に来たことに、自分の意志が働いていないことを説明しました。
 妻は黙って話を聞いていました。私の話が終わると、妻は視線を下げて何か考え込んでいましたが、やがてぽつりと「それなら赤嶺さんはなぜ、ここに・・・?」と言いました。
「私たちがいると分かっていて、なぜ、わざわざ・・・」
「俺たちがいると分かっているから来たのかもしれない」
 私の言葉に、妻は顔を上げました。
「それはどういうことですか?」
 先ほどとはうってかわって、弱々しい光を湛えた瞳が私を見つめました。
 私は少しの間黙り込んで、そんな妻の表情を見返しました。
「・・・瑞希はどう思っているのかな?」
 しばらくして、私は口を開きました。
「何のことですか?」
「赤嶺のことを。―――ひいては一年前のことを」
 妻ははっと息を呑んだようでした。
「分かってる。今まではそれについて触れないことが、俺たちの間の約束だった。だけど」
 だけど―――
 今日ここで赤嶺と会って、私たちの過去が亡霊のように蘇ってくるのを感じて、そこから目を逸らすのは、もはや出来ない相談でした。
 いや―――本当の真実はそうではありません。
 なぜなら、私も、おそらくは妻も、あの記憶を忘れたことはないから。私と妻の静かな生活にあのときの出来事は常に沈殿していました。
 そして―――今も。
 今も―――

 言葉にはしなかった私の気持ちを読み取ったのか、妻はうつむき、重ねた両手を不安げに擦り合わせていました。


 熱いな―――


 エアコンのよく効いた部屋にいながら、ふと私はそんなふうに感じます。
 頭の芯はぼんやりと霞むようで、窓の外の海を染める朱色が私の内側にまでも滲み、浸透していくようでした。

 うっとりするような―――その朱。
 その朱を背に妻は座っていて―――


 熱い―――


 そんな、眼前の妻の、優美な線を描く肩の細さが。

 浴衣の裾から伸びた二本の白い脛が。

 襟から覗く胸元の仄暗い翳が。


 そのときの私の目には、何故かぞっとするほど妖しいものに映ったのです。
 

 そして―――

 気がつくと私は妻に近づき、その身体を抱き寄せていました。

 不意のことに驚く妻。その唇を吸いながら、私は力づくで彼女の身体を畳の上へ押し倒しました。
「いや・・・・・」
 抗う妻の声も聞かず、私の手は妻の浴衣の裾を割っていきました。
 すぐに雪白のふくらはぎが露わになり、その眩しさに私はいっそう駆り立てられます。
 畳の上に仰向けにされた妻は、言葉もない様子で私を見ました。その潤んだような瞳が、私の胸をざわざわとかき乱しました。

「赤嶺に触れられたときのことを覚えているか?」

 右腕で妻を押さえつけ、左手でその柔らかな肢体を愛撫しながら、私はいつしかそう囁いていました。
 妻の表情が凍りつくのがはっきりと見えました。
「あのとき、瑞希は凄く感じていた」
「やめて」
 か細い声が妻の口から洩れます。
「あんな瑞希は見たことがなかった」
 囁きながら、私は左手を妻のブラジャーの下に差し入れて張りのある胸乳を握りしめ、親指と人差し指の腹で乳首をきゅっと摘まみました。
「あう」
 切なげに眉をたわめ、私を掴む妻の手から力が抜けました。
「あのときは明るくて、瑞希の表情の変化がよく見えた」
 無意識に、妻の乳首を掴む指に力が加わっていきました。
「痛い・・・・」
「最初は後ろからだった。瑞希はうつぶせになって、後ろから赤嶺にされていた」
 私は左手を妻の胸から離すと、今度は下半身を小さく覆う布に手を伸ばし、薄い生地のそれを引き下ろしました。滑らかな下腹のさらにその下、股間の艶やかな繊毛が露わになります。妻はもう、ろくな抵抗をしていませんでした。ただ、その太腿から真っ白な脛にかけてだけが、時折引き攣れるようにがくがくと震えていました。
「瑞希は感じていた。本当に気持ちよさそうだったな。赤嶺のあれはそんなに良かったのか?見たことのないような動きで腰を振っていたじゃないか。そうしていないと耐えられないみたいに、いい声をあげながら」
「もう許して」
 ようやく絞り出したような妻の声はすでに嗚咽まじりでした。
 私はそんなふうに泣いている妻の訴えを無視して、露わになった翳りのその奥に秘匿された恥部に指を差し込みます。

 その、よく馴染んだ肉の感触。
 思わず息を呑むほどに、そこは溢れていました。

「―――濡れている」

 短く告げた私の言葉。
 まるで断罪されたかのように、妻の泣き声がいっそう高くなりました。

 その声が―――合図となりました。
 私の意識はその瞬間を境に、完全に飛んでしまったのです。


 それは何かに憑かれたような、物狂おしい時間でした。


 気がつくと、私は妻の中に果てていました。
 その手には先ほど剥ぎ取った妻の下着が握られています。
 髪も浴衣も乱れた格好で、私に組み敷かれている妻。その呆然としたような表情を見つめる私の顔も、さぞ呆然としていたことでしょう。
 日は完全に暮れ落ち、彼方に見える微弱な残光だけが、私と妻の身体をわずかに染めていました。



悪夢 その63
ハジ 7/22(日) 01:14:59 No.20070722011459 削除
 秋穂の大事なその場所に少年の指先が入ります。熱い泥濘と化したそこは底なし沼のように彼のものを呑み込んでいきました。
 第二関節の深さまで沈んだ指を引き抜くと、指先にぬめりのようなものが。使用した二本の指―――そろえていた中指と薬指を開いてみました。二本のあいだに薄い液状の橋が架かっていました。

 密林の奥の暗黒。裏返った鮮やかな薄赤。妻の全てがさらけだされようとしています。

 私の頭の中をそれらがぐるぐるとまわっていました。



 下半身の秘密を暴かれてしまった秋穂はその表情をみられるのを怖れるかのように両腕で顔を覆いました。しかし、肝心な部分を隠せていません。なにせ解剖される実験体のカエルように脚を開かれたままなのです。
 少年たちはショーツの間から秘部を観察したり、ヒモのように引き絞ったそれを性器にくい込ませたりして楽しんでいましたが、邪魔になったのでしょう。最後の砦ともいうべき、その一枚を脱がしにかかりました。まるまった下着はふとももあたりを通過すると、ほぼ抵抗なく、妻の肌をすべりおちていきます。膝から足首へ。まるで、なにかの儀式のようにそれは整然とおこなわれました。
 抜き取られた薄布にはもはや少年たちの誰も注意を払おうとはしません。それは戦利品ともいえなくもありませんが、彼らの目の前にはより濃厚で芳醇な果実が残されているのです。秋穂はとうとう彼らに生まれたままの姿を晒してしまいました。

 少年のひとりがすべすべとした妻の内股に手を滑らせながら、頭もいっしょにもっていきました。そして秋穂の発達したももの内側で、もぞもぞと怪しい動きをはじめます。しかも、それは先ほどとは比較にならないほどの至近距離のはずでした。
 
 こうなることはわかっていました。妻はショーツを抜き取られたときにすでに白旗をあげていました。彼らに遠慮など、あろうはずもありません。
 少年はいささかオーバーアクション気味に動きます。前後左右に頭をふりながら、しかし、その実、中心部、おそらく彼の口の位置がぶれることはありません。妻の陰部とはほとんど距離がなく、いや確実に触れていることでしょう。そのちくちくと刺さりそうな後頭部がさらに前へ出ます。妻のもっと深い場所を味わおうとして。
 私の予測を裏づけるように、妻の腰が何度か浮きました。

 長く執拗なクンニリングスは確実に秋穂のからだに変化をもたらしました。はじめは拒むために閉じようとしていた脚が、もっと深い愉悦を求めるように、今では相手の首に巻きついています。
 じっとりと汗ばんだ乳房を震わせ、何度も鼻から長く熱い息が抜けていきます。

 あれだけ拒んでいたキスもあまりのしつこさに根負けしたのか、とうとう受け入れてしまいました。
ふたりがかりで責められ、どれだけ逃げても追ってくる口器に一度くちびるを奪われると、その後はたてつづけに口づけを許します。妻の口内は瞬く間に蹂躙され、頬がときおり不自然な形にゆがみました。

「先生、かわいいよ」

 ゆっくりと顔を離した少年―――(またしても)シャックは秋穂の柔らかい頬をはさんで、ささやきかけました。そして、涙目になった妻をのぞきこみます。
 そして、軽くくちびるを重ねていると、彼の口から一筋、それは滴ってきました。

 男女の営みのひとつ。唾液を交換する行為。
 秋穂は一瞬拒絶するような表情を浮かべましたが、諦めたかのように少年のそれを飲み干しました。

「あんた、いい……すごくいいよ、綺麗だ」

 妻が最後の一滴までを嚥下したのを確認して、リーダー格の少年は感極まったような声をあげました。

「ご褒美をあげなきゃね」

 少年の手が自らのベルトにかかりました。がちゃがちゃと耳障りな音を立てて、それは地面におちました。



悪夢 その62
ハジ 7/21(土) 00:00:23 No.20070721000023 削除

 閉ざされた闇のなか、立て続けに乾いた音が鳴り響きました。事情を知らねば、誰もその正体には気づかないでしょう。その音が妙に悲しげに聞こえるのは、本来の使用方法とはもっともかけ離れた使い方をしているからかもしれません。
 少年たちはよってたかって、女もののパンストを引き裂いていました。それも持ち主の許可も得ず、しかも当人が身につけたままの状態で。

 少年たちの目的はストッキングを破る行為そのものではないはずですが、何故か、彼らはその作業に熱中しました。それまで、秋穂の生乳に夢中だったふたりも、そのうち、その行いに参加するようになりました。
本当なら、脱がすことで用が足りるそれを彼らは何故、わざわざ手間をかけて引き千切ることを選んだのでしょうか。

 被害者の恐怖心を煽るため。
 破壊衝動を満足させるため。
 自らの興奮を増幅させるため。

 どれかが当てはまっているのかもしれず、そのいずれもはずれているのかもしれません。おそらく、当人たちにも説明はできないはずです。
 目の前の女体そっちのけで、狂熱した一分にも満たない時間。しかし、彼らはすぐに気づきます。労力に対して、いかに満ち足りない時間を思いを抱いたかを。

 そして、視線の先に横たわるメンディッシュを。



 パンストの残骸が両脚にへばりついています。下腹部から離れるにつれて、その頻度は高くなり、足首付近にはまだ生地らしきものが残っていました。限りなく肌に近いと感じたその履物も、やはり肌の白さには勝てず、却って、つくりもの独特のうすっぺらさを強調するにとどまりました。

私は目を現実から逸らしているのかもしれません。本当はもっと他のことに関心があるのに。
 最初から―――彼ら―――少年たちの興味はそこにあるはずでした。夫以外、知らない女の形。彼らが究極の―――いや最終目標にたどり着くのに、邪魔なものはあと一枚。

「チッ、しかし、黄色とはね。赤か黒かと思ったんだがなあ」

 少年たちが何の話をしているのか。私にはすぐわかりました。妻がわずかにそれだけ身につけたショーツのことを言っているのです。
 それは鮮やかなレモンイエローではなく、くすんだ感じの色でした。デザインもシンプルで地味目のそれはいかにも普段履きといった印象のものです。
 少年たちのひとりがなにか思いついたようです。

「でも、この色ってさあ、透けるんじゃない?」

 凝視されているのがわかるのか、妻は寝たまま脚の位置をずらしました。

「ああ、まちがいないよ。水に濡れたりしたら、まるみえになるよ」
「ちょっと、試してみない?」

 短い間に話はまとまりました。彼らはさっそく分担作業にかかります。
 少年たちは無造作に秋穂の足首に手をかけました。そして、脚を左右へ開いていき、心もち持ち上げるようにします。
 秋穂は柔軟な股関節をもっているようでした。無理なく、そのポーズをとらされています。しかし、極端な開脚をしめすように、股間のつけ根部分の筋が浮き出ていました。

「おい、もうちょっと上げてみろよ」

 指示通り、足首から持ちかえた膝裏をかつぐように両サイドのふたりが腰の位置をあげます。『恥ずかし固め』の体勢を取らされた妻の股間が先ほどより近づきました。
 布地の面積がかなり減ったように感じます。ショーツが急所に張りついた、その絶景に少年たちはため息で答えていました。

 それは完璧なラインでした―――一点の隙もなく密着した無地。ほとんど変色を感じさせないつけ根の部分。少し盛り上がった秘部から尻へとつづくなだらかな稜線。それらが完璧なバランスで、信じがたいほどの調和を保っていました。

しばらく、画面のこちら側にいる我々も、少年たちもその姿態に見惚れていたと思います。その中の誰かが、興奮で喉を鳴らすまで。
 彼らは苦笑で顔を見合わせました。ようやく我に返ったようです。そこからの行動は直線的でした。

「どのへんが穴?」

 少年たちの手が一斉にそこへ集中しました。ささくれだった指、短い指、爪の汚い指。彼らの探究心はかなりのものです。その下に眠る源泉を探り当てようと、それらは怪しく蠢きつづけます。
 しばらくすると、彼らの指の動きは二点ほどに絞られてきました。無地とはいえ、ボトム部分の縫いこみがさりげなく性器の位置を知らせていたのです。

「あれ?なんか、あったかくなってきたよ」

 ひとりが発した言葉に彼以外の全員が動きを止めました。
 発言者の少年が触れていた場所から、ゆっくり指先をはずすと、その部分だけが変色していました。

「汚れ?こんなシミあったっけ」

 口調にあざける響きが重なります。彼らは妻の身におこったことを正確に把握しています。

「おっ、俺んとこもきた」

 別のところから声が上がりました。
 最初の指からやや上方、そこを指でこさぐようにしてやると、中から何かがあふれだしてきました。水溜りはみるみる勢力をひろげ、ついに最初のシミと重なりました。点と点がつながり、ショーツにはっきりと縦じわが刻まれたのです。

「熱い。すごく熱くなってるよ」

 少年たちの声が興奮を帯びました。それと同時に彼らは自信をつけ、先にすすむ勇気を得たのです。

「直接、さわってみようぜ」

 誰かが薄い逆三角形の上辺に手をかけ、縦にそれを引き絞ります。隠れていた黒い茂みがあらわになり、ひものようになった下着が横へずらされました。
 淡い毛糸の奥へ、やはり誰かの指が入れられました。それは繊毛をかき分けるように上下に動くと、一瞬動きを止めました。しばらくして、引き返した指の腹に半透明の粘液がついてきました。糸を引いたそれは暗い空洞へとつづいており、何事が起こったのかを正確にしらせてくれました。

そう。 秋穂は傍目にもわかるほど、濡れてしまっていたのです。



卒業 5
BJ 7/20(金) 18:20:26 No.20070720182026 削除

 古都京都の日本海側に面する宮津市天橋立は、古来より日本有数の景勝地として有名ですが、私も妻もこれまで訪れたことがありませんでした。
 夏の休暇が始まってすぐ次の日、私たちは大阪梅田の駅から福知山線に乗り換えて、目指す天橋立駅へ辿りつきました。
 青空の美しい、よく晴れた日のことでした。


「お前、天橋立には行ったことあるか?」

 唐突に赤嶺にそう聞かれたのは、この前の一年ぶりの再会のときでした。
「いや、ないけど」
「ふうん。じゃあ、行ってみる気はないか? 実は今年の夏休暇に行こうと思って宿を予約していたんだが、どうも仕事で身体が空きそうになくてな」
 そう言って、赤嶺は背広の内ポケットから旅館のパンフレットを差し出しました。
「黎明荘ね。良さそうだけど、高そうな旅館だな」
「ああ、高い。だけど知り合いから特別に優待券を貰ってな。これを使えば格安で泊まれる。もしお前が奥さんと行くってんなら、その券をやるよ」
「いいのか?」
「かまわんよ。どうせその優待券の有効期限も来月までだし、俺が利用する機会はなさそうだ。ちなみに俺もツインの部屋で予約していたから、予約者の名前を変更するだけで部屋の心配をする必要はない。日数は三泊になってる」
「ツインね。明子さんとでも行く気だったのか?」
「さあな」
 赤嶺はふっと笑いながら、宙空へ煙を吐き出しました。


 駅から歩いて15分ほどの距離にある黎明荘は、パンフレットに載っていたとおり、由緒ありげな木造二階建ての瀟洒な建物でした。
 チェックインを済ませた私たちは、綺麗に整えられた和室の部屋で寛いだ後、外へ散歩に出かけました。時刻はまだ昼過ぎで夏の日差しは暑く、妻は宿で日傘を借りました。
「まるでどこぞのお嬢さんみたいだな」
 袖の短い水色のワンピースという妻にしては珍しい服装で、日傘を差して歩く彼女をからかうと、
「そんなことより、早く行きましょう」
 ちょっと怒ったように言って、妻は横を向いてしまいました。

 宿を出た私たちは智恩寺の境内を通り抜け、回旋橋を渡って宮津湾に浮かぶM字型の砂浜に足を踏み入れました。
 豊かな植生、草いきれのつよい匂いの中を、かの有名な松並木の道に沿って私たちは歩きました。
「あら」
 突然、妻が声をあげました。その視線の先の砂浜には、たくさんの水着姿の人たちが海水浴を楽しんでいるのが見えました。
「ここでは海水浴も出来るんですね。私、知りませんでした」
「俺も知らなかった。せっかくだから、明日にでも泳ぎにいこうか」
「でも、水着を持ってきていませんし・・・」
「買えばいいよ」
「でも・・・」
 言葉を濁すところを見ると、妻は泳ぎが出来ないのか、それとも水着になることが厭なのか。彼女の性格を考えると、どうも後者のような気がしました。
「せっかく遊びに来たんだし、瑞希も少しは解放的な気分になって楽しんだほうがいいよ。明日はぜひ海へ行こう」
 決めつけるように言って私はさっさと歩き出します。妻は黙ってついてきましたが、当惑したように握った日傘の柄をくるくると回していました。

 砂浜を通り抜け、喫茶店で少し休憩した後、私たちは府中側から観光船に乗って戻ることにしました。
 船が動き出すとすぐ、混雑した船内に録音された声のアナウンスが響き渡り、天橋立の歴史について解説を始めます。私と妻は穏やかに揺れる阿蘇海を見つめ、また先ほど歩いたばかりの砂の架け橋を今度は海上から眺めました。
 夏の日はゆっくりと暮れかかり、海面をそよ吹く風もすでにしっとりとした夕刻の気配を含んでいるようでした。
 
 わずか10分程度の船旅を終えて観光船は桟橋に着き、私と妻は船を降りて黎明荘への道を歩きました。
「やっぱり綺麗なところでしたね」
 呟くように妻は言いました。
「来てよかった?」
 私が聞くと、妻は真顔でうなずきました。その手にはすでに閉じられた日傘が、しっかり握られています。
 そうこうしているうちに、数時間前に出たばかりの黎明荘の門が見えました。粋な造りのその門を、私たちがくぐり抜けようとした―――
 まさにそのときでした。
 玄関の戸が開き、見覚えのある男が姿を現したのです。
 私たちの姿を見つけ、何気ない様子で軽く手を上げ、ふっと笑みを浮かべて見せたその男は―――赤嶺でした。



悪夢 その61
ハジ 7/20(金) 02:35:24 No.20070720023524 削除

 壁にもたれかかって試写に参加していた妻の秋穂はいつのまにか目を閉じていました。
 自分の身にこれから起きることを思い出したのか、あるいは見る必要を感じていないだけなのか。いつものように表情の乏しい彼女から、その心のうちを読むことは困難です。
 しかし、青白い顔をといい、いつも以上に殺された感情といい、それはやはり妻が無理をしている証拠なのかもしれません。

 それにしても―――

 目の前の妻と画面の中の妻。今の彼女と過去の彼女。どちらに私は集中するべきでしょうか。より多くの関心と愛情を寄せるべきはどちらなのでしょうか。
 おそらく答えは出ないでしょう。どちらの秋穂にも愛しさがこみ上げてきます。
 懊悩する私に、羽生が小声で話しかけてきました。

「私は女性が感じているのかどうかは、声を聞けばわかります。今のところ、奥さんは苦痛の色合いのほうが強いようです」

 羽生は最初、私を安心させるようなことを言いました。だが、もちろんそれだけで終わるはずがありません。
 羽生は後ろの妻をはばかるように声をひそめました。

「もっとも―――これから先はわかりません。あまり無理をして我慢しすぎると、気が狂うおそれもある」

 私は羽生に倣うように後方を振り返りました。幸いにも秋穂にその兆候は見当たりません。
 話しているうちに興奮してきたのか、羽生は自分の舌で口のまわりを湿らせました。

「それより、私は奥さんにある疑いを持っています。彼女は過去に―――を経験したことがありますか」

 私はその話を最後まで聞いていませんでした。
 画面の中の小さな世界で、捕らわれたヒロインが新たな局面を迎えようとしていたのです。



 「なにやってんだよ。おまえら、ちゃんと仕事しろよ」

 妻の胸に顔を埋めていた少年がむくりと身体を起こしました。
 その言葉に従ったのか、カメラが慌てて秋穂から遠ざかります。被写体から離れてなにをしようというのか。しばらく待つと、その理由がわかりました。撮影者は妻の全身をとらえられる距離で足をとめたのです。
 あまりの接写のため、彼女が具体的にどうなっているのか、はっきりとわからないままでした。覆いかぶさっていた少年のからだが邪魔をして、あるいは局部にフォーカスが集中しすぎていたため、確かめるすべがなかったのです。

 腰あたりに残った膝丈のスカートはまだましなほうでした。問題は上半身のほうで、彼女は皮を開かれた干物の魚に見立てられたようでした。
 上に着ていたブラウスはだけるのを通り越して、縦に裂かれた生地がわずかに腕に巻きついているだけです。柔肌に唯一残ったブラジャーにいたっては半ばまくりあがり、肝心の部分を隠さずに裏地をみせている始末です。
 加害者であるシャックはきっと潔癖症なのでしょう。その役に立たない布きれをはずそうとしているようでした。妻の背中に手をまわし、何度か試みて、ようやくホックを解きました。そして、勝利宣言のようにそれを空へ投げ上げたのです。

 純白のブラが風を受けながら、舞い降りていきます。そのさまは散る花びらを思い起こさせ、一片の詩のようです。しかし、地面に触れた瞬間に、それは闇に溶け込み、単なる風景の一部になりました。

「もう、おっぱいはいいや。おまえら、あとは好きにしろよ」

 言うがはやいか、今まで参加していなかった少年たちが殺到しました。先導役シャックが苦笑しながら、後退します。
 名も知らぬ少年がふたり。妻の左右の陣取ります。そして、それぞれ目の前の胸に取りつきました。先ほどまで、友人がもてあそんでいた果実を再び貪ろうというのです。
 秋穂が小さく悲鳴を上げました。
 彼らの妻の乳房に対する執着は異常です。ふたりはまるで競うように、乳を吸い合います。
 おそらく彼女にとって、それははじめての経験でしょう。違う男に同時に両乳を責められるというのは。
 それが天国なのか地獄なのか、妻以外にはわかりません。くちびるの感触、温度、圧力。全てにおいて別感覚の攻撃に妻は果たして耐えられるのでしょうか。

 秋穂はなんとか強すぎる刺激から逃れようとします。からだを右に左によじりますが、彼らは離れません。よしんば離れたとしても、それは口や舌が手による愛撫に代わるだけです。目による鑑賞をはさんで、彼らはすぐに悪戯を仕掛けます。真っ赤に腫れあがった乳豆を擦り、まわし、弾く。そうしておいて、またねぶる。ずっと、その繰り返しです。
 妻は目もとだけでなく、鼻の頭も赤く染めていました。さらに、その下にある鼻孔もまた窮状を訴えるように伸縮を繰り返します。

 その間隙を縫うように―――。
 シャックは移動を開始していました。
 妻のからだは苦悶のあまり、膝を立て、足の指が砂を噛むように引き絞られていました。そのわずかな空隙。
 地面から浮いた脚の下、ちょうど膝の裏あたりに頭をくぐらせたシャックはそろそろと首の角度を変えました。彼の視界にひろがった光景―――。

 それは未だ無傷のはずの下半身。禁断のデルタゾーンでした。

 例の筋張った手がそこへ伸びていきます。侵犯に気づいたのか、ほど良く締まった腿が本能的に閉じられました。しかし、そんな抵抗など些細なことです。
 両手でもって閉じ合わせた脚を離し、ほんの少し隙間をつくると、シャックはすかさず頭部をこじ入れていました。そして、つっかい棒の要領で頭をぐりぐりとねじりこんで、脚のあいだをさらに拡げます。
 やがて、画面の外から補助の手が差し伸べられ、秋穂の両膝は完全に割り開かれた格好になりました。隠れていた秘所があきらかになります。

 妻はショーツのうえにストッキングを着用しているようでした。最近のものは優れた質感のせいか、私のようにおしゃれに暗い者には生脚と見分けがつきません。
 それでも腰まわりの部分をみれば、その濃淡具合であきらかになります。シャックはそのなかの継ぎ目の部分に両方の指をかけると、躊躇なくそれを横にひきました。
 軽快な音を立てて、繊維が裂けました。





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卒業 4
BJ 7/19(木) 21:20:07 No.20070719212007 削除

 暮れかかる日と裏腹にネオンの色があちこちにきらめきだした街の人波をすり抜け、その夕方、私は目指す『コラージュ』に辿り着きました。
 『コラージュ』は以前よく利用していた店ですが、ここ最近はめっきり足が遠のいていました。雑居ビルの地下にあるそのクラブの深海を模したような内装を懐かしく眺めながら、私は歩みを進め、待ち合わせた男のテーブルにつきました。
「久しぶり、だな」
 その男―――赤嶺はよく響くバリトンで言い、にっと笑いました。
「ああ、一年ぶりだ」
「とりあえず何か注文しろよ」
 ぐいっと私にメニュー表を押し付けつつ、赤嶺は飲みかけの杯に口をつけました。

 赤嶺という名のこの風変わりな男は、高校以来の私の旧友でした。私の数少ない友人の中でもっとも付き合いの長い一人ですが、その長さのわりに私は彼のことをよく測りかねています。
 いついかなるときも本音か冗談か判断に困るようなことしか言わないこの男は、その押しの強さと独特の凄みで、昔から異彩を放っていました。不敵といえばこれほど不敵な男を私は他に見たことがありません。ひとを小馬鹿にしたような目つき、嘲弄的な言辞で数多くのトラブルを起こしながらも、ふんっと鼻で笑うだけで一向に動じる気配のないこの男は、しかし独特のカリスマ性を備えていて、私自身、彼の奔放さにはずっと魅力を感じていました。細々とであれ、赤嶺との付き合いは高校卒業後も続き、お互いに社会に出てからも時折連絡を取っていたのです。
 そう、一年前のあの日までは―――

「元気そうでまずは何よりだな」
 ピザの切れ端を摘まみながら、まったく心のこもっていない口調で赤嶺は言いました。
「お前もな」
「奥さんは元気にしているのか?」
「・・・ああ」
 短く答えながら、やはり赤嶺が「奥さん」と口にするのを聞いて動揺を抑えられない自分自身を私は感じました。そんな気配を敏感に察したのか、赤嶺はそのまなざしに悪戯な笑みを浮かべて私を見つめました。
 その唇がゆっくりと動きました。
「―――なんだ、まだこだわっているのか」
「・・・こだわって、わるいか」
 他人の心に聡い赤嶺に誤魔化しは通じないので、私は投げやりな口調で答えました。
「拗ねるなよ。子供じゃあるまいし。第一、あのときのことはお前が言い出したんじゃなかったか」
「その話はよそう」
「その話がしたくて今日は来たんだ」
 平然と赤嶺は切りかえしました。
「この一年、忙しくてなかなかお前と連絡を取る時間がなかったからな」
「・・・なんだ、俺に気を遣っていたわけじゃないのか」
「なんでお前に気を遣う必要がある?」
 そのとき、ウエイターが料理の皿を持ってきて、私たちの会話は束の間中断しました。

 ウエイターが去った後、空になった杯にバーボンを注ぎ足しつつ、赤嶺はきらきらとよく光る瞳で私を見ました。
「俺からすればむしろ、お前から連絡が来なかったのは意外だったかな」
「どうして?」
「あのアソビが一回きりで終わるようなものだと思っていなかったからさ」
「・・・・・・」
「あのときはお前の嗜好に応えるよう、俺なりに努力したつもりだがな。お前の望みを見事に叶えてやったし」赤嶺はそこでにやりと笑いました。「それに奥さんのほうだって、ずいぶんと満足させてやったつもりだ」

 すうっ、と―――

 塞がりかけた裂け目に、再び鋭利なナイフが刺し込まれるのを私は感じました。

「きっとすぐにでも連絡がきて、次の日取りを決めるもんだと思い込んでいたんだけどな」
 私は黙って手元の酒杯を空にしました。
 そして、やっと言いました。
「お前にとってはただのお遊びでも、俺たち夫婦にとっちゃ深刻な問題だ」
「何を偉そうに。お前が言い出したことじゃないか」
「それはその通りだけど・・・」
「優柔不断な奴だな」
 赤嶺は軽蔑したように、高い鼻を蠢かせました。
「結婚だ夫婦だといったって、結局は、社会生活をそつなく健康的(『厭な言葉だな』と赤嶺は呟きました)に送るための一形式に過ぎないし、その実体は昔から変わることのない男と女だ。ましてや、お前たちには子供がいないんだからな。楽しめるうちに楽しんだほうが得ってもんじゃないのか」
「結婚したこともないくせに、よくそれだけ分かったようなことを言えるな」
「分かってるから結婚しないんだ。そんなこたぁともかく、奥さんのほうはあのときのことについてどんな感想を持ってるんだ? そっちのほうが俺は気になるね」
「瑞希は――――」

 ―――あの夏の日。
 妻を他の男に抱かせてみたいという私の妄執は、現実のものと化しました。
 現実のものとさせたのは、赤嶺の力です。赤嶺は言葉巧みに妻を誘い、操り、私の眼前で彼とまぐわうことを妻に承知させました。
 そして―――妻は本当に赤嶺に抱かれたのです。
 その一部始終を私は見ていました。
 最初は演技だった、と妻は言いました。私への復讐のつもりで―――これも赤嶺が彼女へ吹き込んだ言辞ですが―――妻は赤嶺に抱かれることを承知したのです。
 しかし、途中から演技は演技でなくなりました。
 嘘は快美の喘ぎへと変わり、裏切りの怯えは悦びの痙攣へと変わりました。
 そう。
 赤嶺との交わりで、妻は芯から感じてしまったのです。
 このことは翌朝になって、妻自身の口から告白されました。告白されなくても、すべてを見ていた私には、何もかも分かりきった事実でした。あのような妻の姿を見たのは、あのときが最初で最後です。
 私への告白を終え、妻は泣きました。怖い、と言って泣きました。これから私たちがどうなるのか、どうなってしまうのか、それが不安でたまらない―――そう彼女は言いました。
 その不安にどう答えてやるべきなのか、私には分かりませんでした。
 だから―――高山へ向かう電車の中、震える妻の肩を抱いたあの夏の朝以来、妻は口をつぐみ、私も口をつぐんで、私たちの「夫婦の日常」を保ってきたのでした。

「瑞希は・・・何も言わない。たぶん、今でも恐れているから。奥飛騨でのことが原因で俺との生活が壊れてしまうことをね」
「―――お前はどうなんだ?」
「え?」
 思わず聞き返すと、赤嶺は額にかかった髪をかきあげながら、斜めに見下ろすように私を眺めやりました。
「お前も恐れているのか」
「そりゃあ・・・そうかもな。誰だって失うのは怖い」
「どうしてただのアソビに壊れるとか失うとか、そんなことばかり考えるのかね」
「お前には分からないかもしれないけど、普通の人間ならそうだよ」
「でもお前はあのとき、愉しんでいたんだろう?」
「・・・・・・・・」
「俺に抱かれる奥さんの姿を見て、お前は興奮していただろ?」
「・・・・・それは」
「今さら言葉を濁すなよな」
 執拗な追求に、私は両手を上げました。
「わかったよ。そうだ、たしかに興奮していた。でも愉しんだというのは、ちょっと違う」
「違わないさ。まあいい。それだけは聞いておきたかったんだ」
 謎めいた口調で呟いて、赤嶺は咥えたピースに火を点けました。


 夜の十時頃に赤嶺と別れ、私は家路につきました。
 電車に揺られながら、私はいつしか沈み込み、赤嶺との会話を反芻していました。

 ―――お前はあのとき、愉しんでいたんだろう?

 赤嶺の問いかけは、私自身がこれまで胸の内で繰り返したものでもありました。
 妻との生活をつつがなく続けるため、彼女をこれ以上傷つけないために、理性はその言葉を必死になって否定します。

 けれど―――

 この身体に宿るあのときの記憶は、私の理性を嘲笑うように、じわじわと熱を高めていくのです。
 今夜の赤嶺との会話は、そんな乾いた真実を掘り起こさせ、正面から私の喉もとに突きつけるものでした。

 いつもの駅に着いたことを告げるアナウンスが響き渡り、私は顔を上げました。
 吊り革を握る私の掌は、いつの間にかじっとりと汗ばんでいました。


「はい、お水」
 妻が差し出したコップを、「ありがとう」と言って私は受け取りました。
 静かに水を飲み下していく私を見つめながら、妻は私の正面に腰掛けます。
「でも、珍しいですね。あなたがそんなにお酒を召し上がるのは」
「ちょっとね、昔の友達と会って懐かしかったから」
 言いながら、私は妻の瞳から視線を逸らさずにいられませんでした。
 風呂からあがったばかりの妻は、普段は後ろでひとつにくくっている髪を肩先まで垂らしていました。水気を帯びて艶やかに光る黒髪に、細い頸から胸元にかけての白さが眩しく映ります。
 私も妻も静けさを好む性質なので、家に居るときはろくろくテレビもつけないのですが、今夜に限ってはその静けさが居心地悪く感じられたので、私はソファから立ち上がり、棚の上のオーディオ機器をいじりました。
「あ、この曲・・・」
 やがて流れ出した曲を聴き、妻はちょっと瞳を輝かせて私のほうを向きました。サイモン&ガーファンクルのこのヒット曲、サウンド・オブ・サイレンスは、私たちふたりにとって少しばかり思い出のある曲でした。この曲が主題歌に使われている映画「卒業」は、私たちが夫妻で見た最初の映画(リバイバル上映でした)なのです。
「懐かしいですね・・・たった数年前のことですけど」
「うん・・・それはそうだね。ああでもやっぱり、あんまり懐かしいとか言うのはよくないな」
「どうしたんですか、急に」
「いや、俺も瑞希も若いんだしさ、まだまだ過去を懐かしんでいいような年齢じゃないよ。そんなことをしていたら、すぐに老けこんでお爺さんとお婆さんになってしまう」
「・・・やっぱり酔っていらっしゃるんですか?」
「そうかもしれない」
 私自身、自分が何を言おうとしてこんなことを口走っているのか分からないまま、私はふらふらと戻って、今度は妻の隣のソファに腰掛けました。「お酒くさいですよ」と困ったように微笑んで、妻は私の肩にそっと頭を傾けました。

 気がつくとサウンド・オブ・サイレンスは終わっていて、ミセス・ロビンソンの陽気なメロディーが流れています。

「今年の夏はどこに行こうか?」
 そう口に出してから、私はそっと隣の妻の顔を見ました。妻はいつの間に瞳を閉じていて、私の言葉も聞こえなかったように、静かに音楽に耳を傾けているようでした。
 しかし、しばらくして、「どこでも結構ですよ。どこにも行かずに家で静かに過ごしたってかまわないし」―――ぽつりと呟くように、妻は言いました。
「・・・いや、瑞希はいつも家にこもりがちだし、休みくらいは外へ出たほうがいいよ」
 私は懐に丸めこんだ紙を取り出しました。
「ここへ―――行かないか」
 それは赤嶺から紹介された旅館―――黎明荘のパンフレットでした。



妻の入院 52
医薬情報担当 7/19(木) 06:27:22 No.20070719062722 削除
 もはや、義理の親子も何もありません。
 弱い者をいたぶるようなマネは一人の人間として許せない、というごく当たり前のことも言っている余裕などなくなっていました。
「知っていることを全部しゃべってもらおうか」
「何も知らん。第一、何を勝手なことを言っておるんじゃ。だから、美穂が愛想を尽かしたんじゃ」
 今まで、羊よりも大人しく、口答え一つどころか、反抗的な目さえしたことのない「婿」が、おそらく思いもよらないような握力で襟元を締め付けたせいでしょうか。
 おそらく狼狽えたのだと思います。義父の言葉に、初めて聞く、この土地の言葉の名残が、色濃く出ていました。
「そっちこそ勝手なことを言うんじゃない。おまえ達が企んだだけだろう」
「企んだなど、人聞きの悪い。美穂の思ったとおりにしてやっただけじゃ。女房一人、躾けられないおまえの体たらくを棚に上げて、何を言うかぃ」
「夫に内緒で、病院を変えるのも、企んでいないというのか」
「おまえが病院で誠君に手を出したんが、ま、見事に返り討ちにあったようじゃが、へ、口ほどにもない。ぐぅ」
 思わず、つかみ絞めていた襟首をさらに締め上げてしまったのです。
「は、まぁ、おまえが暴れさえしなければ、美穂はちゃんとあの病院にいられたんじゃろ。そうは思わんのかぃ」
「嫁がイタズラされたら、誰だって助けに向かうに決まっているだろう」
「で?美穂は、助けてというたのか?おまえさん、美穂とその時何もしゃべっておらんのかね?」
 一瞬の私の反応を見たのでしょう。
「そうかそうか、美穂はぁ、イタズラされつるところにぃ、ダンナが来ても、助けてと言わなぃ?」
 言葉に詰まる私に、襟首を押さえられながらも、義父は余裕の笑みを浮かべます。
「ふむ、どうやら、美穂はおまえに助けを求めんかったと。そうじゃねぇ。で、その後、美穂は何か言うてきたんか?電話くらい来たじゃろ、なにしろ、夫婦なんじゃからな」
 ニヤリと笑いながら、力が抜けてしまった私の手を、いきなり払いのけます。
「どうやら、図星かぃ。なら、美穂は君を必要としておらんじゃなぁ」
 襟元をなおしながら、独り言のようにつぶやくのです。
「まあ、誠君が立派に世話しておる。どうしても会いたいなら、本人に了解を取るんじゃなぃ。まあ、美穂が君に会いたがるとも思えないがぃ」
「な、何で、そんなことがわかる」
「簡単じゃよ。おまえに会いたくないから、病院を出ることを言わんかった。お前にきて欲しいなら、行き先くらぃ、そういうじゃろ」
 しごく当然のように、目をパチパチとさせながら、付け加えます。
「そういうことじゃあなぃ。ずぃいぶんビックリしたぞぃ」
「美穂は俺に会いたくないといったのか」
「そんなこと話すまでもない。誠君が美穂に悪いことをするわけがないんだよ。それに、念のために言っておくが、ワシも美穂の居場所は知らん」
 完全にさっきの狼狽から立ち直っていました。
「何だと。ウソを」
「ふん、嘘をつけないワシの性格を誠君はよう知っとる。おじさんにお教えするのが当然ですが、それだと、問い詰められた時に、ウソを言うのが辛いでしょうから、ときたもんだ」
「知らないというのか、美穂の居場所を」
「知らんね。もちろん、君があきらめてくれたら、連れて行ってもらうことになってるんでな。しばらくにしても、美穂の顔が見られんのは、辛いがしょうがない。」
「何を勝手なことを」
「しかし、美穂は会いたくないと言っとるのに、居場所を知ったら、おまえは必ず押しかけてくるだろ?」
「押しかけるなんて」
「じゃあ、美穂から居場所を聞くが良い。美穂がおまえに会いたいと望むなら場所を教えるだろ。教えないなら、どうやって居場所を知ったところで『押しかけ』になる」
 どかりと、座布団に腰掛けるとひっくり返った卓を指さします。
「もう良いかね?気が済んだら、これをちゃんと元に戻しておけ。ついでに茶も入れてもらおうかな」
 笑い声こそ聞こえませんでしたが、ニヤリと口元をゆがめた口元から、十分に哄笑が漏れた気がします。
「あぁ、これ、ちゃんと片付けんか、これ」
 私のだらしのない追及をあざ笑うかのごとき、余裕の言葉でした。
 義父の声を背中に聞きながら、寝室に逃げ帰るしかなかったのです。
 体力では、相手にならなくとも、さすが「地元の名士」でした。
 つまり、かつては「その筋」から地元の代議士に至るまで顔が利いた義父の迫力と悪漢ぶりに、一介のセールスマンでは、適うわけもなかったのです。
 もう、八方ふさがりでした。
 出口のない迷路を、全力疾走で走るどころか、歩く方法すらわからない、ネズミ以下なのが今の私です。

 蝉の声が、外の熱気と一緒に網戸からなだれ込んでいます。
 何度見ても入らないメールに、いらだちながらも、ついまた見てしまう携帯を、期待も込めずに取り出すと、メールの到着を告げるランプが点滅していました。
 どうやら、義父を問い詰めている間に、メールが届いていたようでした。
 自分の間の悪さを呪いながら、開くと、やはり妻のようでした。
<だから、探さないでくださいと書いたのに。また病院に迷惑を掛けたのですね。私が病院にいられなくなったのを反省してないのですか>
<そもそも、手を出すヤツが悪いんじゃないか。>
 恐る恐る送り返したメールに、間もなく返事が返ってきました。
<誠さんは悪くないわ。あなたさえ余計なことをしなければ、それですんだことです。そもそも東京に一緒に行っていればこんな事にならなかったのよ>
<それは、君が行かれないって。>
<それはそうに決まっています。でも強引に連れて行くだけの魅力があなたにはなかったという事。そうじゃなかったら一緒に行くに決まってます>
<魅力がなかった?お父さんのせいじゃなかったのか?>
<父を持ち出すのはやめて。確かに父の理由もあるけど、あなたに魅力がなかったんです。今だって、男らしくないじゃないですか。未練たらたら。あなたを愛してるなんて誤解をしていた自分がどれだけバカだったかわかったわ>
 もはや、妻は別の人格になってしまったかのように、私の非難をし始めます。
 いくら、新たなオトコのそばにいるにしても、あんまりな言葉の羅列でした。
 いつか見た、あの、手紙を思い出すと、情けなさに涙が出そうになって、つい恨み言のように書いてしまいました。
 もはや、確認しなくても、同じことなのに。
 それでも、書かずにはいられなかったのです。
<美穂、あの手紙見たよ。あそこに書いてあった「ずっと好きだ」というのはウソだったのか?>
 少し時間をおいて、携帯が震えます。まるで私の心のように小刻みにブルブルと震える携帯の画面に妻の名前が表示されます。
<単身赴任をしてるから励まそうとしただけよ。良い奥さんになろうって努めたんだから。そんなこともわからないの。なんて鈍い人なの。良い奥さんになろうとしたら単身赴任の夫を励ますための手紙くらい、ウソでも何でも書くわ> 
 励ますために… 
 確かに、メールにはそう書いてありました。幾度読み返しても。
 携帯を持つ私の肩が、わなわなと震え始めたのを止められませんでした。



悪夢 その60
ハジ 7/19(木) 01:34:34 No.20070719013434 削除

 血色の舌が桃色の肉輪をなぞると、白い肉がわずかに隆起ました。筆のような舌先はそのままゆっくりと円を描き、乳塔を登っていきます。
 秋穂の指が無意識のうちに握りこまれ、肘が逆方向へ反り返ったのを私は見逃しませんでした。

 頂上部でようやく舌が離れると、今度はそれに代わって、厚みのあるくちびるが降りてきました。あらかじめ、すぼめていた口もとが燃えるような乳先にあてがわれると、敏感な部分をふくんだまま、それは上方へと持ち上げられます。やがて、臨界まで伸びきった乳花はしめやかにもとの位置へ戻っていました。

「あふ……」

 秋穂がわずかですが、白い歯をみせました。そのあいだから洩れた吐息に静まり返っていたギャラリーが一気に騒ぎ出しました。

「おおっ、すげえ。効いてるよ」
「乳首勃ってるぜ。ビンビンだよ」

 すでに何度目だったのか。
 少年のその行為に妻は悲しそうな顔で応えました。少年たちの言うとおり、彼女の乳頭は蕾の状態を通り過ぎて、いまや大輪の花を咲かせているのです。
 秋穂の反応に気を良くしたのか、少年たちのリーダーは新しい責めを試みました。両の乳を真ん中へ寄せて、根元から搾り上げます。
 まるで母乳でも絞ろうかという具合に乳首を尖らせておいて、舌を這わせます。そして音を立て、力強く吸い上げました。

 秋穂は困ったような、戸惑ったような表情を浮かべ、視線をさまよわせています。私はそこに普段とはちがう妻の別の顔をみていました。
 私には絶対みせない女の部分―――弱さ、迷い、嘘。自分よりはるかに年下の少年にそれらを引き出された惨めさはしばらく忘れられそうにありません。頭に血がのぼった私にできることは怒って席を立つことだけでした。
 立ち上がったあと、どうするのか。そんな細かいことは考えていなかったと思います。ただ、このまま、じっとしていたら、おかしくなってしまう。その衝動に従ったまでのことです。
 その証拠に私はもうしばらく妻と少年の痴態をみせつけられることになります。私の足はそこを一歩も動かなかったのです。

 少年の行為から、わずかにみられた躊躇が消えていました。そして、その行為には傲慢さだけがにじみ出ています。
 妻が無抵抗なのをいいことに、彼はそのからだを自分の所有物のように扱いました。柔肌に歯を立てようと、その美乳をちぎれんばかりに揉みしだこうと。秋穂の意思に関係なく、今の彼は彼女を自由にできるのです。
 されるがままに左右の乳房を交互に吸われ、愛撫にこたえるように喉もとを晒す愛妻は私の知る人間とはまるで別人のようです。段々とその姿を正視するのが難しくなってきました。



「もう、やめてくれ」

 私はいよいよ耐えられなくなり、その場を去ろうとしました。
その肩を後ろから力強い手がつかみます。そのまま、私を席に押さえつけようというのです。

「おちつけ。おちつきなさい、木多先生」

 言葉とは裏腹に羽生の手つきは乱暴でした。これまでのように力づくで、私を座らせようとします。
 自分のどこにそんな力が残っていたのか、私は羽生の腕を自力で引き剥がしました。

「ふざけるな。もう十分だろう。これ以上は……」

 しかし、言葉を発すると同時にそれはみるみるしぼんでいきました。思った以上に感情の移り変わりにエネルギーを奪われるようです。私は羽生の手を払いのけると、頭を抱え込みました。
 羽生が今度はなだめるようにやさしく肩に手を置きました。

「お気持ちは察します。しかし、あなたもいっしょにと言い出したのは秋穂先生なんですよ」
「しかし―――」

 私にはこれ以上現実を直視する勇気はありません。それに、それがなんのためになるというのでしょう。

「裏切り」

 羽生が短く言ったその言葉に私は弾かれるように顔をあげました。ずっと気になっていた一言なのです。
 羽生の目が鷹のように鋭く細められました。

「ここで退場してしまっては、奥さんの裏切りも息子さんの暴挙もその理由は永遠にわからない。―――夫として、父として、あなたは最後まで、それを見届ける義務があるはずです」

 羽生の真意がそこにあるのではないことは私にもわかっています。もっともらしいことを言っていますが、おそらく私が傷つくところをもっと見たいだけなのでしょう。
 しかし、私はあえて彼の説得に乗ることにしました。どのみち、私には引き返すことはできないのです。

 このまま続けても、ここで止めても―――私は必ず後悔するでしょう。
 今目の前で起きている事象は全て過去の出来事。時間をさかのぼって、妻を助けることはどのみち、できません。また、このことをなかったこととして忘れようとしても、彼女に対する執着がなくならないかぎり、私は見ていない現実に懊悩し、それ以上に不幸を上乗せして自らがつくりあげた悪夢に一生うなされつづけるでしょう。
 ならば―――。

 行くも地獄。帰るも地獄。それならば―――。



 ときに真実は嘘やつくり話より残酷だ。本当のことが全て正しいとは限らない
 また、正しいことがいつも幸せだともいえない

 私はこの歳にして、まだそのことを知らなかったのです。



妻の入院 51
医薬情報担当 7/18(水) 21:25:32 No.20070718212532 削除
 あらゆる事に気力がなくなっていました。
 おそらく、その時の私は、壮絶な顔つきをしていたんだと思います。
 先ほどの声が聞こえたのか、待ち伏せするように義父が廊下にいましたが、開きかけた口をつぐみ、何か、ぶつぶつと言いながらどこかへ行ってしまいます。
 しかし、義父が何も言わないでくれて良かったのかもしれません。
 もしこの時に何か言われていたら、既に引退して久しい、弱った老人を、殴り倒そうとする自分を、今度こそ抑える事ができそうにありませんでした。
「とにかく、会わなきゃ」
 義父に聞こえよがしに呟いてから、私は家を飛び出します。もちろん、義父から病院に連絡が行くに決まっていますが、もはやどうでも良いことに思えてきたのです。
 ダメならダメで、強行突破をすればいい。
 それで止められたらせいぜい、大声で騒いで警察を呼べばいい。
 警察沙汰になれば、少なくとも、妻に確認しようとするはずです。
 半ばは都合の良すぎる計算でしたが、それは、計算と言うより、半ばやけになっていたんだと思います。
 だから、病院の駐車場でも、一番入り口に近い、目立つ場所に、ぞんざいに止め、堂々と正面から胸を張って入ります。
制止するものは、誰もいません。
 こういう時は、かえって、堂々としている方がいいものなのかもしれません。
 あるいは、私の全身に、止めるものを許さないというオーラが出ていたせいかもしれません。
 いつもいる警備員すら、私に会釈します。ただ、それだけで素通りすることができたのです。
 すれ違う看護婦の何人かは、私の顔を見てビックリして立ち止まります。
 挨拶どころか会釈すらせずにすれ違う私に、関わり合うのを避けるかのごとく看護婦達は知らぬ顔です。
しかし、ナースステーション前は、そうは行かないはずです。
 もう一度覚悟を決めるしかありません。
『勝負!』
 心の中で、叫んでいました。
いくぶん足を速めてナースステーションの前を通り抜けようとした時でした。
「相川さん!」
 見なくてもわかります。あの、看護師長の声でした。
 次に起きることは、わかっています。大勢の看護師や警備員が駆けつけてくるのに決まっています。
 もはや、看護師長に何を言っても始まらないのです。
 看護師長の声と同時に、私は奪取していました。
 おそらく、今頃、電話で警備員を呼び出しているでしょう。
 その警備員が乗るエレベーターよりも速く、妻の部屋にたどり着かねばならないのです。
 一段抜かしで、駆け上がりながら、もっと速く、もっと急げ、と自分を叱咤します。
 幸い、後ろの階段からは、まだ、追ってくる気配はありません。
 ハアハアと荒い息をつきながら、妻の待つ階にたどり着くと、エレベーターの上昇する階数表示ランプは、ゆっくりと近づいてくるところでした。
『まだ間に合う』
 どうせ、この間のように、入り口にはカギを掛けているのに違いありません。
『続き部屋の入り口は?よし、開いてる』
 そこからは一気に、病室へとなだれ込みました。つい昨日、まったく同じ事をしたはずなのが、ずいぶん遠いことのように感じます。
「美穂!」
 勢い込んで入った分だけ、部屋にはいるとよろけてしまいます。
 そこは無人でした。
 厚いカーテンが外の明かりを遮ってはいても、一切の人の気配がありません。
「美穂?美穂?」
 理性では、ここに人はいないとわかってはいても、妻の名前を呼んでしまうのはなぜだったのでしょう。
 自動ドアが開く音がします。
「奥様は、退院なさいました」
 看護師長の冷静な声は、私の心臓を貫く氷のナイフでした。
 腹の下の方が、シーンと静まりかえり、腰が抜けそうになります。
「そんなバカな。あの脚でか。ウソをつくな、美穂を、妻をどこへやった」
 脚が動きません。それでも言葉だけは、精一杯力を込めるしかありません。
「あのまま入院なさると、きっと、また、あなたが誤解して病院に迷惑がかかるからと。今朝、急に決まったことです」
「きさまら、隠したな。妻をどうするつもりだ」
 そんな言葉を病院関係者に使うのは初めてです。いえ、社会人にとってそんな言葉を普段使うはずもないのですが。
「私たちは、存じません。奥様は、ご自分から誠先生にたっての申し出をなさり、退院なさった。それだけのことであって、病院としては一切関知しないことです」
「院長は、院長はどうしたんだ。あれほど約束したじゃねぇか」
「もちろんご存じです。誠先生が面倒を見ると言うことで、奥様も院長も、そしてお父様も納得なさっていらっしゃるはずですが」
「え?何だと? 俺は、俺は、そんなことを」
「ご本人は、成人ですし、ご家族にも了解を得ている以上、当院では落ち度がないと存じますが?それとも、ご本人の要望を無視するべきだったとでもおっしゃいますか」
 冷静な口調が、かえって、容赦なく、私の頭を殴りつけていました。
「それに、奥様のご心配はこうして当たったわけですしねえ」
 寸鉄人を刺す、の言葉どおり、その言葉は私の一番触れて欲しくない部分を正確に貫きます。
 一歩、看護師長に向けて脚を踏み出すと、向こうは半歩下がります。
 そして、もう一歩だけ下がった看護師長の後ろから、ゆっくりと二人のがっちりした体格の警備員が登場したのです。
 急ぐでもないのに、すっ、という素早い動作で、私の横にガッチリとくっつきます。
 武道をたしなむ者の特有の動きでした。
 今の私には逆らう気力すらありません。
 乱暴でこそありませんが、二人の分厚い胸板と服の上からでもわかる太い腕が、一切の抵抗は無駄だと私に物語っていました。
「さ、お帰りください。夫婦ゲンカを治す薬は、病院にはございませんから。さ、ご案内して差し上げて」
 堂々と入ったはずの病院を出たのは、掴まってしまった一匹の負け犬だったのです。
 



妻の入院 50
医薬情報担当 7/18(水) 21:21:16 No.20070718212116 削除
 とっさに電話をかけていました。
しかし、いくら鳴らしても、電話を取ってはくれません。おそらく、病室では、妻の好きな、あの歌手の歌が鳴り響いているはずです。
 フルコーラス鳴らしてしまっただろうと思えるほどの時間がたったころ、ようやく私は、諦めるしかありませんでした。
 しかし、電話を切ると、間もなく、メールが入りました。
 妻からです。
<あなたからの電話には出ることはありません。話すことなど何もないのです>
<とにかく一度話そう。>
 メールの返事は、思ったより時間がかかりました。普段なら、メールを打つのは、さすがの早さの妻のことです。
 きっと、これだけ時間がかかるのは、あれこれ悩んでくれているのだろうと勝手に思うしかありません。
 こと、ここに及んでは、妻が悩んでくれるのは吉兆だと思いたい私がいます。
<あなたと話すと後悔しそうです。お願いです。許してください>
<話もしないまま、別れるというのか。それに、お義父さんはどうする。知っているのか。>
妻の弱みを突いたつもりでした。
<父には全てを話してあります。ご存じの通りあなたとの結婚には反対でした。父はかねてから誠さんとの結婚を望んでいましたから、きっと納得してくれていると思います。唯一の父の気がかりは私の不実な行為でしたが、それも今日は納得してくれたみたいです。昨夜は帰らなかったそうですね>
『妻は知ってる…』
<違う。君を取り戻すために走り回ってたんだ。>
<あなたが誰と一夜を過ごそうと私はそれを責める資格もありません。離婚の条件も全部私が悪いことで進めます。だからウソをつかないでください>
<違うんだ。君を取り戻す証拠を取るために。>
 いつもと違い、さすがに、今日は、どの返信も戻るのまでに時間がかかります。メールを打つのにも、ためらいがあるからなのでしょう。
 内容は絶望的でしたが、悩んでいるとすれば、まだ、妻の思いを覆す余地があるのかも知れません。
 しかし、次に返ってきたメールを見て、心から打ちのめされてしまいました。
<私の恥ずかしい姿を見てお笑いになりましたか?誠さんから全て聞きました。こんなことを言える立場ではありませんが、あなたのなさったことは卑怯です。妻を信じないでビデオに撮ろうなんて>
 全て知られている。
 井上さんの、あの真摯な目が,遠くぼやけて頭の奥をよぎります。
 唯一、私が頼った味方は、やはり、あの男の回し者だったのです。あの病院の看護師を信じた私が馬鹿だったというわけです。
 たった一人信じていた相手すら、見抜けずに騙される、愚かな自分を呪うしかありません。もはや、これまでなのでしょうか。
 妻を救い出すための最終手段が、妻を怒らせてしまったのでしょうか。
 ひょっとして、あの映像を私が見たことが、妻に「決断」をさせてしまった原因なのかと思うと、持っている携帯を床に投げ捨てたくなります。
 しかし、今はこれしかないのです。
 懸命な祈りを込めてメールを打ち続けました。
<笑ったりなんてしてない。君を救い出すにはそれしかなかったんだ。>
<救い出してくれる必要なんてありません。私は戻るべき所に戻るだけです。あなたも幸せになってください。私はこれから誠さんに愛してもらいます。朝も抱かれました。あなたも朝は別の人を抱いていたのでしょう?それを怒ってはいません。私にはどうでも良いことだもの。面白いですね。元夫婦が同じ時に別々の人とセックスするなんて>
 もはや、何を言うべきなのかわかりません。
<やめろ。やめてくれ。頼む。>
<もう遅すぎます。誠さんを受け入れられる喜びを考えただけで,恥ずかしいけれど、もう体は準備ができてしまいました。>
<頼む。美穂。やめてくれ>

 返信が途絶えました。
 私には「やめてくれ」とメールを送り続けるしかありません。
「やめろ」
 メールを打ちながら、私は一人叫んでいるようでした。自分で自分が何をしているのか定かではなくなったのです。
 30分ほど過ぎた時、突然、妻から電話がかかってきました。
「美穂か?」
「あぁ、あぁ、あぁ、だめぇ、あうぅ」
 ハア、ハア、ハア。
 耳を覆うような、妻の淫らな嬌声と男の荒い息づかいだけが聞こえてきます。
「美穂!美穂!美穂だろ?聞こえるのか?美穂、やめろ、やめろ、やめてくれ〜」
 私は、もはや絶叫していたんだと思います。
 しかし、妻は私の声にまったく反応しません。聞こえていないのでしょうか。
 いえ、むしろ、次第次第に快感が高まっている気配でした。
 それもつかの間、あっという間に、妻が逝く直前の、いつもの声になっています。
「美穂!頼む、やめてくれ!」
 その時、突然、あの男の声が、美穂の声に重なったのです。
「おぉ、美穂、出すぞ、出すぞ、ほら、奥に、いっぱい出すぞ、おう、ほら、いけ、いけ、うっ」
「あ、あ、あ、あ、だめ、あう、あ、あう、い、逝っちゃう、あう、いく、いくぅ、あぁ、いくぅ!」
 あの男が電話を持っているのでしょう。男の声の方が、大きく響きます。
 それだけに、男が射精した瞬間までもが、伝わってきました。
 いえ、出した直後のため息のような呼吸までもが伝わります。
 それに重なる妻の遠い声も、わずかに響いていました。
 おそらく、妻は、男のしわぶきを浴びて、一気に達してしまったに違いありません。
 妻の、あの、ぴっちりとした締め付けをいつの間にか思い出していました。
 私が一から教え込んだ美肉の奥に、私以外のオトコの分身を受け入れながら妻は逝ってしまったのです。
 男の手元には、私とつながる電話があるのを知っているはずでした。
 しかし、私の叫び声は必ずや届いているはずでした。
 私が聞いているのを知っているのに…
 力なく、携帯をたたむ私には、打つべき手は何も思いつきませんでした。



妻の入院 49
医薬情報担当 7/18(水) 21:08:29 No.20070718210829 削除
 電話する度に傷が広がります。
 さっきから、妻に何度かかけてみても、留守電サービスにつながるだけなのです。
 これは、拒否なのでしょうか。
 あの「対決」以来、妻の意志が決まってしまったのでしょうか。
 それとも、私に合わせる顔がないと思っているのでしょうか。
 もし、後者なら、もうちょっと、違ったメールが、いえ、電話に出るくらいあっても良さそうです。
 何度考えても、電話に出ることのない妻の気持ちを、悪い方へ、悪い方へと考えざるを得ないのです。
 今頃、妻は何を。
 そう考える度に、それ以上考えるのをやめようとします。
 しかし、一度噴き出した妄想は、あの日見た映像を正確に再現してしまいます。
 家に帰るまでの道のりは、懸命に現実を見ようとする心と、妻の婬声に乱される心との戦いでした。
 惨めな気持ちで家にたどり着けば、義父は、昨夜帰ってこなかったことを質します。
 もはや、それに答える気力もなく、寝室の扉をバタリと強く閉めることで応じます。
 扉を閉じた勢いが強かったせいでしょうか、義父は部屋まで追いかけてこようとはしませんでした。
 ベッドに転がりながら、携帯を弄ぶくらいしかできません。
『もう一度かけるか』
 むなしく、電話を切る瞬間の空虚さが、心の傷口をその度に広げてしまいます。
『だけど、もう一度かけて…』
 指が、妻の携帯宛のボタンを押そうとした、ちょうどその時でした。
メールが届きました。
 あの2通以来、まったく音沙汰の無かった妻からに違いありません。
 一方で、そのメールが、どんな言葉をもたらすのか、不吉な方へと思わずにはいられないのです。
 着信の点滅が、どれほど禍々しく見えても、今、それを読まずに消すことなどできるはずもありません。
 携帯を開くと、そこには、案の定 <美穂> と出ています。
 意志とは無関係に、私の指が勝手に、メールを開けていました。

<あなた へ>
 いつにない題名のメールは、長く、そして、一番知りたくて、だけど、知ってはいけない妻の気持ちが綴られていたのです。それを読み終わる前に、2度、3度と、新たなメールが届いたという表示が出ます。
 おそらく、全て妻からのものでしょう。
 後から届いたメールをそのままに、読み始めたメールを読み始めると、途中で閉じることなどできなくなっていました。

<昨日は,すみませんでした.でも私は嘘をついたのではありません.誠さんと,ある「行為」があったのは事実です.そして,それがあなたへの裏切りになることもわかっていました.でも自分の気持ちは裏切っていませんでした.私は,誠さんとこうなれて幸せだったのです.あなたには大変申し訳なく思っています.あなたが悪いのではありません.でも,自分だけが悪いとも思いたくありません.あえて言うなら,昔,私と誠さんが,まるで時刻表を間違えたように,人生という列車を乗り違えてしまった時,あなたと出会ってしまったタイミングが悪かったのです.でも今度のことで誠さんに再会して本当の気持ちがわかりました.間違いは正さなければなりません.これ以上自分の気持ちを偽れば,誠さんだけではなくあなたにも申し訳ないから>
 震える手で、2通目、3通目と開封していました。

<あなたと出会って楽しかったけれど,昔,誠さんといた時のようにときめいたりは決してしませんでした.あなたとの結婚を後悔はしたくないけれど,自分の気持ちを偽りたくはありません.どうぞ私を愚かな女だと見放してください.あなたが愚かな私に少しでも愛情を持っていただけたのなら,お願いです.決して探したりはしないでください.私が悪いのですから歩けるようになったらいくらでもお詫びをします.でも今は,あなたに会うのも声を聞くのも辛いので電話をかけてこないでください.目の前で誠さんが心配しています.メールを書くだけで今,私は倒れそうになってしまっています.もしあなたが電話してきても私は決して出ません.どうしても話さなければいけないことは,もうないのです.     ごめんなさい>

<ひょっとして,まだ,あなたは愚かな私の本当の姿を知らずに愛情を込めてくださっているかもしれません.でも愛情を捧げてもらう資格など私にはもう無いのです.あなたはとっくにご存じかもしれませんが,私は誠さんをこの身に何度も受け入れてしまいました.誠さんの愛の証を子宮の奥にまで何度も受け止めて,満たされてしまったのです.今まであなたとは得られなかった快感を何度も何度も教え込まれました.女に生まれてこんな快感があったのを知らなかったのは,後悔しています.でももうこれからは誠さんがいるのです.遅くはなったけど,遅過ぎはしませんでした.もう誠さんとは離れられません.もし私があなたの所に戻ったとしても,私が本当に愛していた人の精子をたっぷりと受け入れていることを許せないのに違いありません.私も本当の男の人を知ってしまった以上あなたでは満足できないと思います.こんな淫らなことをいうのは最初で最後です.どうぞ軽蔑してください.愚かな女と言ってください.でも,心も身体も誠さんに捧げてしまったから,あなたのところに戻ることなどできません.お願いです.このまま黙って別れてください.誠さんが弁護士さんを頼んでくれました.離婚の条件は,何でもあなたの言うままで良いです.歩けるようになったら,改めてお詫びに伺います>

 もちろん、顔文字を使うべき内容でもありませんが、いつになく、硬く、息づかいが詰まっているような、そんな息苦しさを感じるメールです。
 その息苦しさは、妻が私を拒絶しようとする気配にもつながっています。
 私の愛した美穂の面影はどこにもありませんでした。
 いくら読んでも意味が頭に入ろうとせず、幾度も幾度も読み返しながら、私の指先は震えるばかりだったのです。



妻の入院 48
医薬情報担当 7/18(水) 17:17:27 No.20070718171727 削除
 何をどうして良いものか。
 どうやって運転したのかも覚えていないほど、うろたえていました。
 見苦しくも、病院の駐車場に立ち寄ってしまったのです。
 ちょうど出ようとする、ランプを消した救急車がありました。
 間の悪いときは、こんなものでしょう。
「駐車場に入る」という簡単なことさえ、うまくいきません。
 車を一度バックさせて、やり過ごします。
『何だ』
 救急車そっくりのデザインをした寝台サービスの車でした。
 遠くの病院にでも転院する患者でしょうか。
 もちろん、患者を搬送するのですから、その動きは慎重になります。
 しかし、そうとわかってはいても、ゆっくりと出口から曲がってくる、その動きにすら、焦る私の気持ちを嘲ってように感じます。
 ゆっくりと車が通り過ぎていくのを、じりじりとした気持ちで見送ります。
『山村さん?』
 ちらりと見えた、シルエットは、山村看護師のものだった気がします。
 しかし、今の私には、そんなことは関係ありません。
 せいぜい、山村看護師がいなければ、いざというときに私を止める手強い「敵」が一人減ると言うだけのことです。
 今の私は病院に入り込むことすら至難の業なのです。 
 静かに車を発進させ、駐車場に滑り込ませます。
 何と言っても出入り禁止の身です。ここまで見張っているはずもないと思いつつも、入り口から一番遠い、大型車の陰になるように止めます。
 妻の入院する病院に入るだけのことで、これだけ気を遣わなければいけない自分が惨めでした。
 ぐるりと駐車場を眺めてみても、真夏の軽は、見あたりません。
 自分が今、いったい何をしようとしているのか、自分でも分かりません。
 もし、真夏の車があったとしても、病院にぬけぬけと入っていくことなどできないのに、どうするつもりなのでしょう。
 真夏の携帯は、電源が切られているのか、呼び出し音さえしませんでした。
『この電話は、現在、パケット通信中か、電波の…』
 例のメッセージが流れるだけです。
 真夏は、この病院の寮に入っているのでしょうが、それがどこにあるのか、今の私には見当もつきません。
 つまりは、真夏を追う手段、いえ、HDレコーダを追いかける手段はないのです。
 いくら自分を責めても、責めきれません。
 やはり、信じてはいけなかったのです。
 確かにこの病院で自殺騒動があったのは事実です。しかし「井上」などと言う名前はいくらでもあるのです。
 同じ姓の人間なら、これ幸いと、いくらでも話をでっち上げられるに違いありません。
 ただ、お姉さんの自殺の話をしたときの彼女の目は本気だったと思ったのです。
 あの目を信じないわけには…
 何度も、思い返してみます。
 お姉さんの自殺の話が本当であったとしても、だからといって、都合良く私の味方をしてくれると考えた私が馬鹿だったのでしょうか。
HDレコーダーを失った今、こうなったら、もう一度、妻に直接会うしかありません。
 そうは思っても、病院へは、出入り禁止です。
 間抜けなことに、自分の妻に会う手段がないのです。
 警察沙汰になるのを覚悟して、正面から突入するしかないのでしょうか。
 しかし、仮に会えたとしても、また妻に否定されては、どうしようもありません。
 もはや、何の手も打てない。
 ここから見上げても、妻の部屋にはカーテンで締め切られたままです。
もはや、昼をとっくに過ぎています。
 この時間まで寝ていることはあるまいと思うのです。
 妻は、毎朝、真っ先に窓を開けないと気が済まない人間です。
 それなのに、昼過ぎのこの時間に、分厚いカーテンを閉め切って何をしているのか。
 考えたくもない想像が、自分では拒否しているのに、勝手にイメージだけが奔流のように湧き出してしまいます。
 妻が自ら、男の手を握り、キスを求めたシーンがフラッシュバックのように蘇ってきます。
 ああなってしまった以上、処女ではあるまいし、男のモノに手を触れるのも簡単だったろうし、フェラだって、それほど抵抗することとは思えませんでした。
 だからこそ、今度は飲ませようと男は張り切っていたのに違いありません。
 今頃、妻は…
 夏らしい雲をバックにそびえ立つ病院を見上げながら、蟷螂の斧という懐かしい言葉を思い出していました。





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悪夢 その59
ハジ 7/17(火) 23:19:23 No.20070717231923 削除

「裏切りって、なんでしょうね」

 隣で羽生が当然の疑問を口にしました。
 裏切り、罪、天罰。これまで妻から聞いたキーワード。
 頭の片隅で、なにかに触れたような気もしましたが、それは一瞬のことで後から思い出そうとしても、果たしてなんだったのか皆目見当がつきません。

 もう少し、続きを話してくれれば。

 しかし、私にはそれ以上、そのことを深く考える時間は与えられませんでした。事態は私の予想をとうに超えて、はるかに緊迫し、悪い方向へ向かっていたのです。

 少年たちは事前に示し合わせていたようかのように、いっせいに動きました。主犯と従犯―――事件になれば彼らをそう区別しなければいけませんが、私にはその差をみつけ出すことができません。
 不意をつかれた格好になった秋穂はほとんどなす術なく、少年たちのつくった壁のなかへ押し込まれました。白い脚だけがしばらく残り、弱々しく宙をかいていましたが、やがて人垣の中へ埋没していきます。人の輪の内でなにが行なわれているのか、こちらからは全くわかりません。
 私は無駄と知りつつ、画面に向かって身を乗り出しました。こちらを羽生が非難がましい目でみています。しかし、何も言わず、すぐに目をそむけました。思うに、今の私はよほどひどい顔をしているのでしょう。

 しばらくすると、人の山が割れはじめました。女ひとりに対して、男は四人。当然、餌にありつけなかった者があぶれだしたのです。
 最後に残ったひとりはリーダーらしき少年―――仲間からシャックと呼ばれていた子でした。

 ギャラリーと化した仲間たちがまわりで見守るなか、シャックは秋穂の脚のあいだに膝をつき、腿をはさむこむ形で彼女に跨っていました。右手で妻の肩をつかみ、その顔あたりに頭部が被さっています。頭の位置を少しずつずらしながら、絶えず小さな吸着音を鳴らし、空いた左手はゆらゆらと妻の胸のあたりを漂っています。
やがて、彼の頭が傾くと、秋穂のシャープな顎のラインがのぞきます。少年のくちびるが露骨に首筋から耳もとへ登っていくと、彼女はたまらず首を振りました。

「ヘッヘッ……」

 少年がうすら笑いを浮かべました。少し遅れて妻のうめき声が聞こえてきます。ブラジャーの上から、強めに指を食い込ませたのです。

「おいおい、あんた、エロいカラダしてんなあ」

 声に感嘆の響きが混じります。彼はすぐに力を緩めると、今度は手の平を使って乳房全体を持ち上げました。

「こんなおっぱいみせられたら、あんたの生徒、授業に身なんか入らないんじゃないの」

 学生時代、剣道で鍛えたしなやかな妻の肉体は今でも十分鑑賞に耐えるものです。外国人並みの手足の長さに加え、バストアップされた上半身は既製品ではサイズが合わず、実は彼女の密かな悩みでもあります。
 少し小さめの下着が柔肌に食い込み、乳肉が白いカップを押し上げます。その迫力には少年たちだけではなく、モニター越しにみている我々までが息をのむ始末です。

 少年は最初、不遜にも年上の女から快感を引き出そうとやっきになって愛撫をくわえていましたが、あっさりと方針転換した模様です。どうやら、自分の欲求を優先させるつもりらしい。
 荒々しく両の手で双房をつかみ、まるで粘土をこねるように力をくわえていきます。そのがさつな手つきは技巧と呼ぶにはほど遠いものの、なぜか妻の息が荒くなりました。

「あれあれ先生、もう降参?」
「感じてんじゃないの?奥さん」

 妻には揶揄の声も耳には入っていないようです。秋穂は声こそ洩らしませんが、かすかに瞳を潤ませていました。私にはそれが気が気ではありません。

そのうち、ピンクのつぼみがせまい装身具を押しのけて、顔を出しました。薄桃色のそれはまるで何かを怖がるように縮こまっていましたが、少年の舌が先端をとらえると、白い丘全体がふるふると震えるのでした。



卒業 3
BJ 7/17(火) 22:30:28 No.20070717223028 削除

 去年の夏。
 休暇をとった私は、妻を伴って岐阜県奥飛騨へ出かけました。

 ―――妻を他の男に抱かせる。

 そんな、背徳的な企みを抱いて。
 妻は私の計画を知らず、いつものように言葉少なに、しかし嬉しそうに私とともに家を出たのでした。
 そんな妻の様子に心を痛めなかったわけではありません。けれども、当時の私は自分の企みに憑かれていました。
 物静かで、時として退屈なほど禁欲的な妻が、他の男の手によって女としての未知の素顔を露わにする。そんな瞬間を、どうしても見てみたかったのです。
 やがて―――私の願望は現実のものとなりました。
 それも、私の想像を遥かに超えて。
 妻は―――


 妻は薄闇に蒼白くけぶる脾腹を喘がせて、私の指の玩弄に耐えていました。しっとりと吸いつくような肌の感触に魅了されながら、私はそろそろと掌を這わせ、均整のとれた妻の乳房の頂点に指を触れさせました。小さく尖った薄桃色の乳首を親指の腹でやんわり刺激すると、妻がかすかに呼吸を乱すのが分かりました。
 乱れた髪がシーツの海に散らばり、上気した妻の頬にわずかに貼りついています。
 そんな姿を私の目に晒しつつ、喘ぐ胸を小さく隆起させ、必死になって声を殺している妻。その顔に口を近づけて、“そんなに我慢しなくていいんだよ、ここには二人だけしかいないんだから”と囁きかけたくなりながら、しかし私の頭はまったく別の情景も思い描いていました。
 それは山深い古宿の一室。素朴な畳の香り。近くを流れる渓流のせせらぎ。窓の外の深い闇―――
 静けさの合間を縫うような吐息。絡み合う身体。肌の熱気。汗。女の細腰を掴む男の太い腕。のけぞる背中。肉のぶつかる音。乱れ、跳ねる髪。紅潮した顔。歪む口元。
 男の腰が一撃を加える度、組み敷かれた女の肢体が大きく震え、啜り泣きのような喜悦がその口から洩れ聞こえます。ぐずぐずと崩折れてしまいそうな腰は、しかし物欲しげにくねり、次の刺激を求めているのです。
 女は私を見ています。その意識は半ば飛んでしまっているようで、男に突き入れられる度ごとに、虚ろな視界が揺れ、その焦点を失いかけます。しかしそれでも女は私を見ているのです。私を見つめているのです。
 私は思わず悲鳴をあげたくなります。もうやめてくれ、と叫びたくなります。しかし、それは出来ません。何故なら女と同じくらい、私も昂ぶっているからです。真実は肉体に宿り、言葉は虚偽に過ぎないという真実を私は思い知ります。
 女の発する声は、次第に高く、透きとおっていきます。苦悶のためでなく、ぎゅっと寄せられた眉根。唇の端から垂れたよだれがきらきらと光っています。やがて女の身体はがくがくと揺れ始め、カタルシスの到来を予感させます。私を見つめる女のまなざしに怯えのようなものが走ります。私は何も言えません。声を発することすら封じられたまま、食い入るように女を見つめています。
 ついにそのときがきて、女は昇りつめます。大きく喘ぐ胸が盛り上がり、男のものを飲み込んだ腰が蠢きます。咥えこんだものをきつく締めつけるその中の動きまでが見えるようで、私ははっと息を呑みます。
 高みを極めた瞬間、女は一声高く長啼きします。ぎゅっと寄せられていた眉根が緩み、汗ばんだ顔がさっと色づきます。その視界は今度こそ焦点を失い、視線は宙に浮きます。今の女にはもう何も見えていないのです。快美だけが彼女の心身を攫い、満たしています。この世の何もかもから解放されたようなその表情。苦悶から深い愉悦へと移り変わってゆく女の変化が、さながらスローモーションのように、どこまでも克明に、私の目には見えているのです―――


 ・・・そこで唐突に我に返った私は、身体の下で妻が不思議そうに私を見上げているのに気づきました。
 その無垢な瞳。
 この妻が、たった今まで幻視していた女と同じ女だという事実に、私は慄然とします。
 あれはたしかにあった出来事なのです。それなのに私は、いまだにその事実を受け止めきれてはいません。しかし、忘れることも決してありません。
 妻をこの腕に抱きしめるとき、私はいつもあのときの情景を思い出すのです。それは引きずりこまれるような感覚です。私は腕の中の妻を愛しながら、あのときの妻を想い、知らず知らずのうちに我を忘れているのでした。

 それはどうしようもなく激しく、そして暗い昂ぶりでした。

「どうかしたんですか?」
 真顔で黙りこくっている私に、妻が心配そうに声をかけました。
 妄念を振り払うように、私は強いて笑みを浮かべました。
「ああ、ちょっと考え事をしていた」
「こんなときに・・・」
「ごめんごめん、瑞希をこんな状態にしておきながら放ったらかしにして悪かった」
 真面目に言ったのですが、妻はそれを自分に対するからかいと取ったのか、少し顔を赤らめて「別に私は・・・」と呟きました。
 私は妻の横に寝転がり、その腰をぐっと引き寄せて、寝巻きの下に手を忍ばせました。慌てたように抗う動きを見せる妻に委細構わず、私の手は寝巻きの下の下着のさらにその下へ入り、柔らかい毛叢をさすりました。繊毛も、手の甲に張り付く布も、しっとりと濡れていました。
「これで言い訳出来ないだろう」と、口に出したわけではありませんが、妻はそんなふうに言われたように感じたのか、羞ずかしげに小さく呻いて、私のほうに向き直り、私の腕にしがみつくようにして、肩口に顔を埋めました。さらりとした黒髪が私の顎に触れます。
 私の指は自然と毛叢の奥の閉じ目へと伸びました。湿り気を帯びたそこの、温かい肉の感触が私の指を包みます。そこに指が達した瞬間、私の腕に顔を押しつけたままの妻の頸が、くんと動き、零れた吐息が腕をくすぐりました。妻はそのまま股を閉じ、私の手はすべやかな太腿に挟みこまれます。同時に、肉の輪がきゅっと私の指を締めつけるのを感じました。

 そのままの格好で、私たちはしばし静かな時間を過ごしました。
 指の先に妻の熱を感じながら、私は傍らの妻を見つめ、彼女の呼吸の音に安らぎを感じていました。
 幸せ―――という言葉を想いました。
 そう、たしかにそのときの私は幸せだったに違いないのです。仕事も上手くいっていたし、何よりもこうしてすぐ傍にいつも妻がいてくれる。私と彼女の安息を妨げるものは、何もない。
 何もない、はずでした。

 しかし―――

 だらだらとした安息の日々の奥には、抑えようとして抑えきれないものがひっそりと蠢いているのを私は常に感じていました。それは、本来なら手を出してはいけない禁断の果実を口にしてしまった者だけが感じる、憂鬱な衝動。

 決して色褪せてくれない、記憶―――

「何を考えていらっしゃるんですか?」
 気がつくと、妻が顔を上げて、私の顔を見つめていました。
「今日のあなた、どこか変ですよ。すぐにぼうっとして」
「・・・暑かったからかな」
 そう―――
 きっとこれは、暑さからくる気の迷い。
 何しろ、もう夏は近いのだから―――

「瑞希は今、幸せなのかな」
「どうしたんですか、いきなり」
「別に・・・ちょっと聞きたくなって」
 黒々とした瞳を大きく開き、妻はしばし私を見つめていましたが、やがて真顔のまま、「幸せですよ」と答えました。
「本当に・・・いつまでもこのままの日々が続けばいいと思っています」
 その声は、心底そう願いながらも決してその望みが果たされないことを知っているかのように儚げに響いて、私は少しどきっとしました。

 妻は―――あのときのことをどう思っているのだろうか。

 今まで何度となく考えたその疑問が、また蘇りました。
 あの日以来、私たちの間で、奥飛騨の宿での出来事を口にしたことはありません。それは二人の間のタブーでした。

 私の心が妻を裏切ったこと。
 妻の身体が私を裏切ったこと。

 そのすべてに蓋をして、なかったように振る舞って、私たちはようやく安定を得たのです。それは表層的な安定かもしれません。私の心の奥底であのときの出来事がいつまでも消えずに揺らめいているように、妻もまた忘れてはいないのでしょう。妻は決してそのことを私に悟らせようとはしませんが。
 夜の営みの中で私は妻を抱きながら、時々狂おしいほどそのことを意識します。何も言わない妻の耳元に口を近づけて、囁いてみたくなります。
 まだ覚えているのかい―――と。
 あのときのことを。
 あの悦びを。
 そして―――あの男を。



田舎の風景〜3〜
仮面仮名 7/17(火) 19:04:08 No.20070717190408 削除
 あの日以来私はほとんど外出しなくなった。担保妻の話題がこの町でタブーであったとしても、私には町のすべての住人が知り、そして同情と哀れんだ様な目で私を指差しているのではないか?と、そんな風に考えてしまうからだ。

トゥルルル
トゥルルル
「もしもし」
「あ〜 私だワタシ」
「ワタシ?」
「門松。門松庄吉郎だが」
突然の電話は景子が門松家の所有物になって10日ほど経った時だった。
「かっ門松さん? 景子は! 景子は今どうしてます?」
「そんな話をする為に電話したんじゃない。今日は仕事の話をする為に電話したんだよ」
門松はくすりと笑うこともなく、淡々と言葉を続けるだけ。今まで一度として門松とビジネスの話などしたことがない。門松の変に落ち着いた静かな口調に不気味ささえ感じてしまう。
「仕事の話ですか?」
「そうだ。何かと金は必要だろ?」
門松はわかっていながらも淡々と話しているのだろう。私に金が必要なことくらい誰よりも知っているはずだ。
「それはもちろん」
「客だよ。客を紹介してやろう。10名の団体さんだ。悪い話じゃないだろ?」
確かに悪い話ではない。むしろこの夏の客足が途絶えている時期にそれだけの団体客を迎えるなど、私がこの町に来てからほとんど経験したことがないことだった。
「それは嬉しいお話ですが・・・・何故私に?」
「別に嫌なら他にまわすからいいんだぞ?」
「いっいえ・・・是非お願いします」
突然客を紹介すると言い出した門松に素直な疑問を投げつけたが、門松はそれに答えることもなくYESかNOかの答えだけを求めてきた。私としてはNOの答えを出すわけにはいない。それは景子を買い戻す為の金が必要だということ以外に、門松へのご機嫌取りもあったからだ。
私の答え一つで門松家内の景子に対する対応が変わってしまうことを心のどこかで感じていたのだろう。
「明日だ。部屋は開いているだろう?頼んだぞ」
門松はそれだけ言うと私の返事を待たずに電話を切った。

 翌日。その団体客はマイクロバスで現れた。
「お疲れ様でございます」
「いらっしゃいませ」
「お疲れ様で御座います。お荷物お持ちいたしましょうか?」
私はその団体客を迎えるように外に出て一人一人に挨拶をしていく。しかし、どうも様子がおかしい。マイクロバスから降りてくる客達は誰一人私に声をかけることもなく、ただニヤついた顔で私を見返してくるだけだ。
そしてもう一つ感じる違和感。団体客全員が男性。それは少ないながらも珍しいことではない。私の感じた違和感はもっと別のところにある。
年齢や服装。さらには客同士で会話している内容で、初対面同士の客も居るように感じる。
仕事は何をして、どのような集まりの団体なのか?それは私が聞くことではない。

 久しぶりに訪れた団体客を部屋へ案内すると、客達は誰一人部屋から出てくることはなかった。
「今日は疲れてるから寝させてもらいます」
あまり顔は覚えていないが、客の中の誰かがそう言っていた。
「夕飯は何時ごろになさいます?」
「いや、いらないよ。それくらいの時間にはまた全員出かけるからさ」
「料金の方はお食事も含まれてますが・・・・」
「いや、いいんだ。この町名物の極上肉をゲップが出るほど食べる予定だしね。実は昨日も食べたんだけど、さすが名物なだけあって何回食べても飽きないよね?」
客はそう笑っていたが、この町に名物となるような肉などない。
「そうですか。畏まりました」
私はそれ以上のことは聞かず、ただこれ以上ないと思うほど出来る限りの笑顔でそう答えるだけだった。



妻の入院 47
医薬情報担当 7/17(火) 18:38:00 No.20070717183800 削除
 口の中がカラカラです。
 さっき配線している間に、真夏が手際よく入れてくれたコーヒーは、とっくに冷めていました。
 がぶりと飲み込むと、ひび割れた地面にしみこむように 喉の奥に流れ込みます。
 渇いた喉に、ひどく甘い気もしますし、途方もなく苦い気もします。
 味など何もわからないということでしょう。
 目の前の妻の痴態が、そう感じさせたのかもしれません。
 妻が、恋人とするように始めた、その猥褻なシーンは、佳境に入っていました。
 足を吊られ、右腕が不自由な、その姿のまま、妻は夫以外の男の手で、女の羞恥の絶頂を迎えようとしています。
「あ、あ、あ、あ」
 短い、悲鳴のような、甲高い声を立て続けに放つと、男の手は、妻のかわいらしくポツンと突き出た乳首をひねりあげます。
 それが、最終スイッチとなったのでしょう。
「あ、あぁ!だめ、あう、い、いく、いっちゃうぅ」
「美穂ちゃん、僕はね、君が…」
 そのとき、今までシーツをつかみ締めていた左手が、胸をつかむ男の手に伸ばされました。
 オーガズムに、ブリッジを作りながら、確かに妻は、求めたのです。男の手を。
 しっかりと、妻の手は、握り返されます。
 ぐっと、オトコを引き寄せる妻の仕草。妻は求めたのです。男の唇を。
「やめろぉ」
 思わず、つぶやいてしまいました。
 妻は、オトコを自ら引き寄せ、私にしか求めないはずの唇を求めたのです。
 されたのではありません。
 仕方なくでもありません。
 妻自ら、ぐっと握った手でオトコを引き寄せ、キスをせがむその行為は、とりもなおさず、妻の気持ちが積極的になってしまった証拠だと思えます。
 オトコの頭が、重なっている間中、妻の左手は、いとおしげに、背中を撫で回していました。
 私とのセックスの時、いつもする仕草です。
汗ばんだ私の背中を、指先でたどるような仕草で、撫で回し、長い長いキスをする。
 妻と私のセックスの、いつものラスト。
 二人だけの秘め事の「約束」を、妻は、オトコにそのままの形でしているのです。
 もはや、妻の心が、オトコを受け入れてしまったのは、明白だと思えます。
 弄ばれたのでもなく、仕方なくでもなく、自然の成り行きでの淫行。
 
吐き気がこみ上げて、いつしか、視線は、安物のカーペットだけを見ていました。
 エアコンが効きすぎているのでしょうか、寒気がします。
 フラフラと立ちあがった時には、何をしようというあてもなかったのです。
 ただ、じっとしていられなかっただけかもしれません。
 しかし、立ちあがってみると、自分がまるで、雲の中を漂っているように、ひどく不安定な気がして、立っていられませんでした。
 ソファの横、数歩の距離をどう歩いたのか、あるいは、倒れ込む勢いだけだったのかもしれませんが、気ががつけば、どう、っとベッドに仰向けになっていました。
「あ、あう、だめぇ、あう、あぁ、もう」
 妻の甘い声が響きます。
 オーガズムに達しても、オトコは決して一度では許しません。何度も何度も、快楽をすり込むように、嬲り続けるのです。
 今も、達したばかりで感じやすくなった身体を再び、いじり回されているのでしょう。
 そして、再び、火をつけようとしている指を、もはや妻が拒むはずもないことを知っていました。
 続けざまに、甘い声が響きます。
「あぁ、気持ちいい。感じるぅ」
 妻自身が快感を告げる声を放っています。 
もはや、画面を見ずとも、妻の股間の手がどのように動くのか、ありありと思い浮かべてしまいます。
 見ることを拒んでも、目の間に広がってしまう地獄絵でした。
『やめろぉ』
 天井が、ぐにゃりと歪んだ気がして、グルグルと部屋全体が回転していました。
「やめろ!」
 叫んだ瞬間、画面の明かりが消え、一瞬遅れて、部屋の明かりが、一斉に消されます。
「え?」
「大丈夫?」
 明かりを消した真夏が、ベッドに上がってきたのです。
 甘酸っぱい、さわやかで、それでいて、男をとろかすような良い匂いがするりと私の腕に枕してきます。
 無言のまま抱き寄せると、真夏は全く逆らわず、いえ、自らの意志でもあるかのように私に唇を重ねてきました。
 無言でした。
『馬鹿なことをしている』
 自分を嗤う声を頭の中で聞きながら、真夏を脱がす手は止まりません。
『お前の妻も、今頃は』
 そう思いながらも、手が止まりません。
 水を弾くような、つややかな弾力のある太ももを、ぐっと抱え込んでしまいます。
 無言のまま、まだ、窮屈と言えるようなぴっちりとした肉ヒダに、怒張を夢中で突き立てます。
 窮屈な肉ヒダは、ひどく濡れそぼっています。
 快感と言うより、現実を拒否する術がそこにありました。
 真夏が感じているかどうかなど、思いも至りません。
 思わぬほどの短い時間で、暴発してしまいます。
 もう、怒張を引き抜くことなど、つゆほども気にかけず、若い雌の子宮に向かって、引き金を絞っていました。
「うっ、ぐ」
 気持ちは落ち込んでいるはずなのに、その射精は、思わぬほどの快美をもたらします。
 心と体がバラバラになりながら、ドクドクと射精し続ける私の背中を、そっと、真夏の手が優しくなで続けていました。 
『俺は、何をやっている』
自分の妻を救い出せないどころか、別の女の中にいる。
 妻は、妻はとっくの昔に男を受け入れていた。もちろん、まだ怒張こそ受け入れていませんが、あのキスは男を受け入れた証明に他ならない気がします。
 それなのに、それを、挽回するどころか、こうやって逃げている自分が情けなさ過ぎました。
射精直後の虚脱感。疲労。あるいは、まだ、殴り倒された影響が残っていたのでしょうか。
 真夏の、柔らかな弾力の中で、信じられないほど急速に、意識が遠のいていきます。
 バサッと布団の上に落ちながら、真夏を引き寄せたことだけは覚えています。
 眠りに落ちる耳元で、かすかに、「ごめんなさい」と言う言葉が響いた気がしました。
「何?」
 問い返す私の言葉は、口から出ていたのかどうか。

 闇に溶けた私の意識が戻ったのは翌日の昼をとっくに回った時刻でした。
 エアコンの微かな音以外、シーンとした室内に、真夏の気配はありません。
「まな…」
 言葉を飲み込むしかありません。
 目の前のテレビにつないだはずのレコーダーは、真夏と一緒に消えていたのです。
 



悪夢 その58
ハジ 7/17(火) 01:31:15 No.20070717013115 削除
 画面上に秋穂の姿を確認したとき、覚悟していたとはいえ、私はどうにかなりそうでした。
 ディスクの中身を確認するという羽生と弓削から退席を求められた私を引き止めたのは意外にも秋穂でした。
 今でも、私を同席させた意図を彼女は話してくれません。単にそれがニセモノだと信じていただけなのでしょうか。

「面白いことをひとつ発見しましてね」

 羽生が浩志の携帯電話をもてあそびながら、近寄ってきました。校長の弓削が緊急の電話をかけているあいだの試写を待つわずかな時間です。

「この電話で、浩志くんは頻繁に秋穂先生に連絡を取っている。ただし、途中からメールに切り替わっているんですなあ。『神社の境内で待つ』あたりから」

 ひとつ謎が解けました。あれだけ慎重で、かつ注意深い一面を持つ妻がなぜ、ああも易々とあの場所に誘い出されたのか。
 直接声を聞けば不審に思うはずのことも文面だけのメールではそうとは悟られないし、そもそも発信をしていたのは浩志自身ではないのかもしれません。そして、これは私の経験上なのですが、文字からは感情が読めない分、却って心配事などは余計に不安を煽るのです。

「でもさあ、この先生なんでさっさと逃げなかったの?」

 さほど関心のなさそうな声がPCから聞こえてきました。私の意識は再び、その小さな画面に引き戻されます。
 画面の中の秋穂は―――

 少年たちの足もとに座り込んでいました。
 首をガックリと垂れ、長い髪に隠れた表情はよくみえません。横座りで、崩れそうな身体をようやく左手で支えている状態です。
 彼女が少年たちの疑問に答えることはなく、代わりに得意そうな声が聞こえてきました。

「―――てか、戻ってきちゃったんだよ、このヒト」

 発言したと思われる少年の靴に、他のそれが近づきました。

「どういうことよ?」
「こういうこと。俺のラブメールが効いちゃったってわけ」

 その声に少年たちの感心したようなどよめきがつづきました。彼らの上半身が映っていないため、私には言っている意味がわかりません。
 そこへ私の視界を遮るように、ごつい手が差し出されました。腕を突き出したのは、羽生でその手には浩志の携帯電話が握られています。私は自分でもわかるくらい、顔をしかめて液晶上を覗き込みました。

“たすけて”

 そこには、たった一言そう書いてありました。
 私の電話を持ったままの手が震えました。おそらく浩志が打ったものではないのでしょう。しかし、例え罠だとわかっていても、親ならば、こんなものをみせられて、とてもではないが、子を見捨てて逃げることなどできません。

「おまえ、ひでえやつだな。あくどすぎるよ」

 少年たちのひとりが私の気持ちを代弁してくれました。



 少年たちの注目が再び目の前の獲物に移ったころ、固まってしまったように動かなかった秋穂がようやく身を起こしました。
 身じろぎした際、服装の乱れが目にとまりました。白のブラウスは前ボタンが欠けたのか、前部分が開いており、白い胸元がのぞいています。地面につけたほうとは別の手で隠そうとしますが、そのせいで、やはり破れた肩口にひっかかっていたブラジャーの肩紐がするりと肌の上を滑りおちました。

「浩志は……無事なの?」

 秋穂は顔を上げないまま、口を開いていました。声から張りは失われていませんが、本人の目の前では決してしたことのない息子の名を呼び捨てにする行為が、私には彼女の余裕のなさにみえてしまいます。

「あたりまえじゃん。俺たち、友達だもの」

 リーダー格の少年は茶化すように答えましたが、しっかりと脅しをつけることも忘れませんでした。

「まあ、あんたが出てこなかったら、俺たちの怒りは当然浩志に向かうけど」

こいつらはみかけはこどもですが、中身、タチの悪さは大人と少しも変わりません。

「なぜ、こんなことをするの?」

 妻の言動はここまで、あくまで無感動です。怯えるでもなく、怒るでもなく。
 そして、それに答える彼らもまた、それと同じか、それ以上に心を感じさせないものでした。

「あんたの息子に頼まれたんだよ。あんたの裏切りが許せないそうだ」
「そう―――。知っているのね、あの子」
「さあね―――もう、いいだろう」

 少年たちの影が妻に向かって伸び、とても若いとは思えぬ筋張った手が画面上をゆっくりと伸びていきました。



妻の入院 46
医薬情報担当 7/16(月) 18:30:28 No.20070716183028 削除
 あの頃さ、親父は、毎晩のように出かけてたんだよね。もちろん、女の家。
 ほら、看護師の山村さん。そう、あの人。
 あの人の所に行ってたんだよ。
 あの頃、親父は、お袋との1000倍は、あの人とやってたんじゃないのかな。
 結局、あの人が一番長く続いたんだよね。
 でも、ま、親父は、結局は若い子の魅力に負けて、そのうち解消したみたいだけどね。
 え?あ、「愛人契約」さ。
 でも、親父が飽きて捨てたってのに、何かにつけて、あの人は俺のことを可愛がってくれたんだ。ホントありがたいよ。
 一度だけ、聞いてみたんだ。
「あなたは、親父が酷い仕打ちをしたのに、どうして僕のそばにいてくれるんですか」
 ってね。
 どうやら、若いとき、親父一筋だったあの人にとって、俺は本当の息子の代わりなんだってさ。
 子どもはできなかったみたいだから、それが俺に向いたのかもね。
子どもって言えば、結局、俺以外に、親父は子どもができなかったんじゃないのかなあ。俺はよく知らないけど。
 たとえ、愛人の子どもでも、何人かいたら、俺ももっと楽だったのになあ。
 お袋もさ、親父が女の家に出かけているのを承知しているらしいけれど、それに文句一つ言ったことなかったね。
 そのかわり、俺の東京生活を面倒見るといって、週の大半は東京にいたんだ。笑っちまうよな。
え?なぜかって?
 嬉しいって、俺も最初は、素直に思ってたんだけど、お袋、結局、東京でどうしていたと思う? 
 今日は観劇、明日はコンサートだと。そんなのばっかしさ。
 家にいるときはさ、良妻賢母、まさに女の模範って感じでね、家政婦がいても、帰ってこない親父の飯まできちんと作っていたヒトが、変われば変わるモンだよ。
「晩ご飯はチンして食べなさい。勉強大変でしょ、頑張って。じゃ、行ってきます」
 だってさ。笑っちまうよ。
 男の匂いは感じなかったけど、不思議だったなあ。
 実家にいるときは、お花に、お茶、日本舞踊の集まりと、いつも家に帰ってこないらしい。
 夫婦して、家にいない、おまけに息子は中学から一人暮らしだもの、ヘンな家だよ。
 結局、あれだね、親父への当てつけだったんだろうなあ。
 息子はそのダシに使われたんだよ。まったく、さ。
 ひょっとして、俺を東京に行かせたのも、そのためだったんだろうね。
 まあ、さ、あの人は、俺の弟ができないから、責任を感じてたのかもしれないけど。
 跡継ぎ、跡継ぎって。ほら、美穂ちゃんのとこも「そう」だったろうけど、この街ではうちとか美穂ちゃんちみたいな所では、うるさいもんね。
 まあ、ね、だから、時折、こっちに帰ってくると、美穂ちゃんが遊びに来るのだけが楽しみだったんだ。
 美穂ちゃんに会いたくて帰ってくるようなもんだったんだ。
 でさ、だもんだから、俺を可愛がってくれていた家政婦さん達までもが大歓迎だったんだよ。
 きっと、みんなは、俺のことを可哀想だと思ってくれたんだろうなあ。
 でも、ちょっと後に思い出したときは不思議だったんだよ。
 だって普通ならさ「何か間違いを犯しては」となる年だろ?それなのに、あれでは、まるで「間違いをしてくれ」といっているようなものじゃん。
 あの頃は何の不思議もなかったけど、高校時代に思い出したら、冷や汗モンだよ。
 ひょっとしたら、あの、お風呂のことも、みんな知っていたかもね。
 あれ、そんな、恥ずかしがるなって。
 平気だったじゃん。あの時。
 だって、あれ、美穂ちゃんからしてきたんだぜ。
 俺なんて、まだ、毛も生えてない時だっただろ?今でもはっきり思い出しちゃうよ。
 おっと、このオッパイ。
 だめだめ、ちゃんと。
 隠しちゃダメだよ。あのときは、美穂ちゃんの方が、積極的だったじゃない。
『洗いっこしよ』
 な〜んてさ。
 もっと、もっと硬かったよね。このおっぱい。
 でも、俺からしたらさ、初めて、って、お袋の記憶なんて無いからさ、俺が初めてタッチしたオッパイじゃん。
 え?美穂ちゃんも、触られたのは初めて?
 そりゃ、そうだろうね。美穂ちゃんの家、ウチ以上に厳しかったものね。でも、ウチに泊まるのは、いっつも、OKってのは、やっぱり不思議だよなあ。
 で、美穂ちゃん、あの後、このおっぱい触ったのは? え?ああ、あのオトコだけなんだ。
 じゃあ、ひょっとして、美穂ちゃんを逝かせたオトコって。俺とあの男だけ?
 そんな、怒るなよ。ほら、どう、こんなところでも、感じるでしょ。へへ。
 旦那しか知らない割には、エッチな身体なんだもの、感じやすくてさ。
 よく考えれば、あの頃から、感じやすかったわけか。
 石けんでヌルヌル、ヌルヌルって、してるうちに、そう、ここ。
 フフ、もう、こんなに簡単に感じるようになっちゃたね、この、乳首。
 ここがだんだん、プチンって硬くなってきたて、あの時のエッチな顔。俺はガキだったから分からなかったけど、ホントもったいないことをしたよなあ。
 あん時は、ここが、ふ、へへ、もうこんなに。
 こんな風にグチャグチャになるって、知らなかったモンなあ。
おやおや、美穂ちゃん、あれ?、こんなに感じちゃうだあ。すごいね。
 あの時もこんな風に? 
 え!感激だなあ。やっぱり感じてたんだ。
 だから、下も、そう、ここを俺に触らせて、いや違うね、洗えだなんて言ってたけど、触って欲しかったんだろ? 
 あの時の俺は、何にも知らなかったけどさ。
 ほら、どう、こんな風に。あの時みたいに触って上げるよ。
 へへ、そりゃ、ね、少しは、経験してきたから。美穂ちゃんだって。ほら、オ○○コ、こんなに柔らかくなったし、ほら、いやらしい形になって。
 いやあ、だって、一本筋があるだけだったのに。こんなビラビラが、ほら、ナカだって。
 
 愛撫してくる男の手を止めようといいう意志は、妻の表情に見えてきませんでした。
いつものように、身体の世話のどさくさに紛れてのことではありません。思い出話をしながら、ごく自然に男の手を受け入れる、恋人のような愛撫。
 指を奥深くに遣われながら、どこか、いつもと違う表情に見えます。
 妻は、初めて、オトコの愛撫を正面から許してしまったのです。



卒業 2
BJ 7/16(月) 06:46:13 No.20070716064613 削除

「今日は暑かったですね」
 Yシャツにアイロンをかけながら妻が言う声に、「そうだね」と生返事しながら、私はベランダの戸を開きました。生温かい夜風が、クーラーの効いた室内にのっそりと吹き込んできました。
 ベランダで煙草を取り出した私を見て、妻はため息をつきました。
「禁煙するんじゃなかったんですか?」
「少しづつ量は減らしてるよ」
 嘘です。
「朝顔が綺麗だな」
 マンションの小さなベランダには、妻が育てている花木が遠慮がちに置かれています。そのときは薄青の朝顔が形のいい花を咲かせていました。
「もうそろそろ、きちんと健康のことを考えてもいい歳ですよ」
 誤魔化されませんから、とでも言うように、妻は少しだけきつい目をして言いました。結婚した当初は遠慮して私の素行にはほとんど口を挟まなかった妻ですが、近頃はちょっと口うるさくなっていました。
「食事の後の一服は格別なんだ。――うん、分かってる。もうすぐやめるから」
「本当に約束してください」
「約束する」
 即答した私の言葉にあまり真実味を感じなかったのか、妻はまだきつい目をしていましたが、諦めたようにくるっと背を向けました。
「私はひとりぼっちになるのは厭ですよ」
 ぽつりとそんなことを呟いて部屋を出て行く妻の背中を紫煙越しに眺めながら、私は深く息をつきました。

 私の両親はまだ健在ですが、妻は幼いうちに両親と死別していました。彼女が小学校にあがってすぐの頃と聞いています。その後、ひとりになった妻は、古い旅館を経営する母方の叔父夫妻のもとに引き取られ、私と見合い結婚するまでの20数年、そこで暮らしていました。
 その間、大学に進学することも就職することもなく、ずっと叔父の旅館を手伝っていたそうで、妻の世間が狭いのもそんな過去に一因があるのでしょう。
 叔父の奥さんには格式高い旅館で働く者としての作法をだいぶ教え込まれたようで、妻の挙措やちょっとした言葉遣いなどにそれを感じることもありますが、それよりも、どちらかといえば無愛想な妻によく客商売が務まったものだと感心します。かつて冗談めかしてそのことを言ったとき、妻がちょっと暗い顔をして黙ってしまったので慌てたことがあるのですが、何かその当時に厭な記憶でもあるのかもしれません。私と結婚してから、妻はその叔父夫妻とさほど密な関わりを持っていませんでした。
 天涯孤独とは言わないまでも妻の身の上はそれに近いものがありました。もし私に死なれたら・・・と、不安に感じるのも無理からぬところかもしれません。

 しばらくして寝室へ行くと、妻はすでにベッドの中でした。明かりを消して私もベッドに横になると、妻は私を避けるように反対向きに寝返りをうちました。・・・まだ怒っていたようです。
 暗がりの中、私はそっと手を伸ばして妻の薄い肩を触りました。柔らかい皮膚の下、尖った骨の感触を掌に感じながら、ゆっくりとなぞるように妻の身体に手を這わせていきます。妻は身じろぎもせずに横たわったままでしたが、私の手が胸に触れると、わずかに身をすくめるような動作をしました。けれども、それ以上抗いはしませんでした。
 寝巻き越しに温かい乳房を掌に受けていると、妻の脈拍がかすかに感じられました。
「瑞希」
 名を呼ぶと、妻は少し気羞ずかしげに、ようやく私のほうへ向き直りました。その肢体をぐいっと引き寄せます。胸に胸を寄せると、妻の腕がおずおずと私の頸を抱きました。
 そのまま私は妻に口づけました。唇を合わせたまま、妻の耳に指を絡ませると、妻は閉じていた瞳を薄く開きました。
 ふるふると睫毛が揺れ、黒々と濡れたまなざしが私を見つめます。その表情に蟲惑されながら、私は顔を離し、今度は妻の頸筋に唇を這わせました。妻の肩が揺れ、私の背中を掴んだ手指に力がこもります。
 そのまま胸元まで唇を這わせた後、私はわずかに身体を離して妻の寝巻きの前を開いていきました。妻は頸を捻じ曲げて横を向き、瞳を閉じています。やがて開かれた妻の胸が、暗闇に仄白く浮かび上がりました。
 ゆっくりと覆いかぶさるように身体を倒して、私はその胸の頂きに口をつけます。
 小さな啼き声が暗い室内に静かに響きました。





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卒業 1
BJ 7/16(月) 06:31:04 No.20070716063104 削除

 私の好きな夏目漱石に、「門」という小説があります。

 「門」の主人公は宗助という男です。親友を裏切り、その妻であった御米と結ばれた彼は、その後もずっと罪の意識を背負いながら、御米とともに暮らしています。社会から切り離されたような、お互いにお互いしかいない夫婦の淋しい日常、哀しみに満ちたいたわりあいが描かれているあの作品を、私は時折思い出します。
 あの夫妻の淋しさ、それと裏返しの結びつきの強さは、彼らの背負う過去からきていることは疑い得ません。
 彼らの裏切り、彼らの罪が、二人を心身ともに結びつけ、或いは縛りつけているのです。
 ―――そう。
 あの濃密な関係の奥には、暗い秘密が潜んでいるのです。

「あなた、起きてください。もう朝ですよ」
 遠慮がちに揺り動かす手で、その朝、私は目覚めました。
 見ると、そこにはいつものように妻がいます。寝巻き姿の私と違い、すっかり普段着に着替えた格好で。
「もう朝か。昨夜はあまり寝た気がしないな」
 私が言うと、妻はちょっと瞳を逸らしました。あまり感情を表に出さない妻ですが、さすがに付き合いも深まった今は、微妙な表情の変化で彼女が何を考えているのか分かるようになっています。
 つまり、今、妻は恥ずかしがっているのです。
「それに腰も痛い。やっぱりこの年で無理はするものじゃないな。瑞希はどうだ?」
 瑞希というのは妻の名です。
「私は別に」
 小さな声で言葉少なに答え、妻は私に背を向けました。
「早く起きて顔を洗ってください。そんな顔をして行ったら、会社の女の子に笑われますよ」  
 後ろで一本にくくった長い髪が朝の光に揺れているのを見ながら、私は昨夜抱いた妻の身体の感触を思い出していました。

「今日は遅くなりますか?」
「いや、何も予定はないから、いつもの時間に帰れると思う」
「そうですか」
 人によっては素っ気無く思うだろう妻の受け答えは、昔からずっと変わらないものです。結婚した当初はそんな妻の態度によそよそしさを感じてもどかしく思ったものですが、今ではもう馴れてしまいました。
 私は玄関口に立って、ぼんやりと見送る妻の顔を見つめました。
 妻はちょっと動揺したように、視線を逸らします。長い時間ひとと見つめあっていられないのも、また昔からのことです。  
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」 
 私は妻の声に見送られ、外の世界へ歩き出しました。
 すでに初夏の暑さを滲ませた日差しが、駅へと急ぐ私の背中に突き刺さるようでした。


 その日は午後三時をまわった頃にようやく外回りから解放され、私はべとべととまとわりついてくる汗まみれのシャツを不快に思いながら、目についた喫茶店に避難しました。
 アイスコーヒーを注文し、ハンカチで汗を拭いつつ、クーラーの効いた店内にほっとした想いを味わいました。まったくその日は殺人的な暑さだったのです。
 あまり流行らない店なのか客のまばらな店内に、懐かしいビーチ・ボーイズのサーフィンUSAが流れています。あの陽気なコーラスを聴くと、ああまた今年も夏がやってきたんだなぁという気がします。
 やがて運ばれてきたアイスコーヒーの、水滴で濡れた涼しげなグラスを見つめながら、私はキャビンに火を点け、深く吸い込みます。
 そう、夏はやってくるのです。
 今年も。

 私は妻の顔を思い浮かべました。今年の夏休暇にはまた彼女を連れてどこかへ旅行にでもいくのだろうか、と他人事のように考えて、ふと暗いものが心の隙間に差し込むのを私は感じました。
 もちろん、妻を外へ遊びに連れて行くのが厭なわけではありません。それどころか、妻が生活に必要な場以外ほとんど出歩かないことを、私は気に病んでいました。妻はまだ三十半ばと若く、子育ての忙しさもないのに、彼女の日常は私と私との生活に終始していて、あまりにも閉じられてしまっているように感じられるのです。それこそ、「門」の御米のように。
 だから、出来るだけ妻を外へ連れ出してもっと楽しませてやりたい、人生の喜びを味あわせてやりたいというのは、私の望みでもあったのですが、それとは別に胸の奥で去年の夏の出来事が意識すまいとしても浮かび上がってきて、私を動揺させるのでした。

 それはあの奥飛騨の宿での出来事―――
 私たちの―――秘密。


 煙草を揉み消した私は、会社に戻るため、店を出て暑い日の光の下へゆっくりと歩き出ました。にわかに滲みだす額の汗をシャツの袖で拭いながら、ふと見上げると、ぽっかりとした入道雲が青い空に浮かんでいました。



悪夢 その57
ハジ 7/15(日) 22:54:09 No.20070715225409 削除

 その日、柴崎俊樹は眠れぬ夜を過ごしていた。
 よその家で熟睡を決め込むのは、虫が良すぎるのかもしれない。そう思いながら、何度も寝返りをうった。

 翔子の家を頼ったのは、これがはじめてだった。考えた末に浩志を連れて、ここを訪れた。
 突然あらわれた俊樹に彼女は驚いた様子だったが、特に関心はなさそうだった。黙って、この部屋に案内してくれた。
 あてがわれたのは、しばらく使われていない書斎のようだ。家具は一式揃っていたが、どれも埃をかぶっていた。
 
 寝床を確保したところで、浩志に家出の理由を聞いてみた。
 浩志も素直には答えない。二歳下の後輩の説得にはずいぶん、てこずらされた。
 浩志もここ最近はずいぶん大人びてきた。背も伸びたし、声変わりもした。言うことも、十分こましゃくれてきた。
庇護者のつもりだった俊樹にとって、弟のように思っている彼の成長は頼もしくもあったが、反面さびしさを感じさせるにも十分だった。最近はいつもこども扱いする俊樹に対する反発なのか、連絡を取ってこなくなっていた。
 俊樹に今までの不逞を責める気などない。どうしようもなくなった彼が最後に助けを求めてきた。それだけで充分だった。

浩志はソファで静かに寝息をたてていた。健康そうな寝顔は昔と変わらない。
 ここ数日、行動を供にするようになって、彼はいつも荒れていた。夜も眠れていないようだった。それが、今日は散々言い合いをして疲れたのか、今はすっかり寝入っている。
 額にかかった前髪をかきあげてやった。寝汗のせいか、少し髪の毛が湿っている。
 
 俊樹は自分の寝場所に戻っていった。浩志の寝姿が目の入る場所。
 眼を閉じたが、依然眠れなかった。それどころか、まぶたの裏に今日の出来事がまざまざと浮かび上がってきた。

 夕方ごろ、浩志の父親に会った。
茫洋とした、つかみどころのない男だった。羽生や亡くなった父親、いずれともちがうタイプの大人―――。
 何故か、彼に昔話をする破目になった。自分から、そんなことを話したのは、はじめてだった。可愛がっている後輩の父親とはいえ、初見の他人に。

 俺は誰かに聞いてもらいたかったのか。
 幼い時分のつらい話。
 ちがう。同情してもらったところで、いまからは抜け出せない。そんなことはとうにわかっている。

迷走しそうになる思考をおさえるために、俊樹は他のことを考えることにした。ぱっと浮かんだのは、浩志のもう一方の肉親だった。
 冷たい美貌に時折のぞかせる憂いの色。木多秋穂は俊樹にとっても、不思議な女性だった。大人、特に女性不信に陥っていた彼に興味をいだかせる稀有な存在。
 それを恋心かと問われれば、俊樹はすぐに否定する。ひょっとして彼女に母の面影を見ているのかもしれない。多少強引だが、そう思うことで自分を納得させていた。
もっとも、どちらかというと雰囲気は姉のエリカに近い。聡明で儚げな印象。
 浩志の親だからといって、親しくしたおぼえはないし、特に目をかけられたということもない。むしろ、向こうは厳しく接してきた。
 俊樹自身、素行に問題のあるほうだったから、その点に関しては仕方なかった。だからといって、彼女が他の生徒と扱いを変えることはなかった。あくまで、均等に距離を置いていたように写った。

 中学時代―――
 秋穂の姿を見かけると、声も掛けずに目で後を追う。単なる好意とはちがう。だが、あきらかに自分を惹きつけるなにかが彼女にはあった。
 静寂の中にある、わずかな血のたぎり。しかし、そんな平穏をこの男は平然と奪う。

「フーン。おまえ、ああいうのがタイプなわけ?」

 顔を見ずとも正体はわかっていた。あの日以来、俊樹にとり憑く疫病神。
 俊樹は声を無視して、通りすぎようとした。

「あんな冷血女のどこがいいのか―――まあ、いいや。じゃあ、おまえの筆おろしの相手はあれにしよう」

 俊樹は足をとめた。

「冗談はよせ」

 身長の伸びた俊樹の目の高さに羽生の顔がある。彼は顔をだらしなく崩していた。

「冗談じゃないよ。もう決めたから」
「――――――」

 俊樹は言い返そうとして、くちびるを噛んだ。こちらがむきになればなるほど、相手は面白がって、その気になる。放っておけば、案外すぐに興味を失うかもしれない。

「あ、そう。じゃあ、そうすれば」

 できるだけ、さりげなく俊樹は無関心を装った。羽生が後を追ってきた。
 妙な男だった。ひとの家庭を壊しておいて、親しげに近づいてくる。ある種、こどものような無邪気さを感じることもある。

「なんだよ、ちがうのかよ。いつも、みてるからさ」
「別に。毎回生徒指導で呼び出されれば、気にもなるだろ」
「なんだ、そういうことか」

 ふたりのそばを反対方向から走ってきた生徒が駆け抜けていく。羽生のまわりから、親密な空気が消えた。
 しばらく経ってから、羽生の顔が再び柔和さを取り戻した。

「良かったよ。実はまだ、あの女の攻略法考えついていないんだよ」

 俊樹は聞き流すふりをして、ほくそ笑んだ。
 誰にでも、おまえの芸が通用すると思うな。俊樹は心の中でそう毒づいた。

「でもね―――トシ、どんな強い人間にも弱点というのはあるものなんだよ」

 羽生は動物的というか、妙に勘の鋭いところがある。このときも、俊樹は頭のなかを読まれたようで、内心びくりとした。

「弱いところを突けばひとなんて、いとも簡単に壊れるものさ―――おまえの親父やお袋のように」

 俊樹は一瞬自分の身が蒸発したかのような錯覚に陥った。瞬時に体を百八十度回転させると、羽生に正面から詰め寄っていた。突然の出来事に羽生は硬直した。
 羽生は驚きはしたものの、怖気づいてはいない。照れ隠しのような苦笑を浮かべて、俊樹の方を見返した。

「トシ―――俺を殺したいか」

 俊樹の頭のなかで、なにかのスイッチが入った。
 学年でも大きい部類に入る俊樹の体格はすでに羽生に劣らない。横幅こそ譲るものの、バネやスピードといったものも換算すれば、俊樹が格闘して負ける要素は見当たらない―――はずだった。

 俊樹のからだは動かない。すくんでいるのだ。
 この男には勝てない。幼少時の刷り込みが心身の奥深くに刻みこまれている。
 俊樹はすぐに諦めた。
 負け惜しみを言う気力もなく、先ほどとは別人のように、のろのろとしたスピードで踵を返した。
 俊樹の背中に羽生が声を投げかけてくる。

「俺をやっつけたければ、俺のそばにいろ。そして、はやく俺を超えろ」

 俊樹は返事をしなかった。



 俊樹を長い物思いから、引き戻したのは大きな物音だった。
 音のほうへ目をやると、浩志がソファから腕を投げ出していた。

「そんな格好じゃ、落ちてしまう」

 苦笑しながら浩志の寝相を直そうと近づいた瞬間、俊樹の目があるものをとらえた。それは浩志がずっと大事そうに抱えていた包み―――どうやら抱いたまま寝ていたらしい。
 俊樹はそれを拾おうとして、その先から光るものがのぞいていることに気づいた。

「デジカメ?」

 ちょうどレンズの部分が顔を出しているのだ。俊樹の手がごく自然にそれへ伸びた。



妻の入院 45
医薬情報担当 7/15(日) 20:47:11 No.20070715204711 削除
 ほぼ、付きっきりでした。
 いつも部屋にいます。
 妻が寝ている時に、そばで本を読んでいることもありますが、起きている間は、新婚の夫でもかくや、というほど熱心に妻にくっつき、話しかけています。
 妻の表情も、屈託のない笑みを浮かべ、この映像だけを見たら、男が白衣を着ていることを除けば、まるで仲の良い新婚夫婦といった感じに見えるはずです。
 妻の表情には、くり返される屈辱の「行為」への屈託はかけらもありません。
 二人の話の中身は、大半が、他愛のない思い出話でしたが、その時の「話」は違っていたのです。
「美穂ちゃんの、オッパイ、こんなに大きくなるなんてね」
 ケットの上から、さりげなく妻の胸に手を走らせています。
 もちろん、今は感じているわけではありませんから、妻は身じろぎをして、その手をかわします。
 それでも、笑顔のままで、けっして、その手を邪険に振り払ったりはしないのが、既に何度も「関係」してしまった事実と言うことでしょうか。
 あるいは、妻の心がこの男を完全に受け入れてしまったということでしょうか。
「もう、その話はやめて」
 やめて、と言いながら浮かんでいるのは、嫌悪の表情ではなく、むしろ、甘く切ない思い出話を語るテレのようにも見えます。
「だって、あの時、惜しいことをしたよなあ。やっぱりあの時は美穂ちゃんの方が早熟だったんだよ」
「お願い、やめて」
 いやいやをする表情には、恥じらいが漂っています。
「そんなことを言っても、さ、その後、オナニーを俺も覚えてね、あの時のことを思い出して、狂ったように毎日にしてたよ。あぁ、惜しいことをしたなあ」
「毎日って、そんな…」
「美穂ちゃん顔を見る度に、あの時の顔を思い出しちゃってさ。でも、あの時は、もう一度って言えなかったなあ、恥ずかしくて」」
 妻が、一瞬、顔を見返して、その後、突然恥ずかしさが突如、堰を切ったかのように、顔を伏せます。
「ああん、やめてよ、ね、この話は、もう、なし、ね、お願い」
 妻は頻りに話を打ち切りたがっていますが、その妻をなだめるかのように、ケットの下の脚を撫でつけ、ケットからでている左手を撫でつけて、話をやめません。
 妻が恥じらってそっぽを向くと、さりげなく、しかし確実に胸を狙って撫でつけ、その度に、妻は、男の方を向かざるを得ません。
 そこでの一方的な話を、妻が否定しない部分だけをつなぎ合わせても、私には衝撃的な内容でした。
 女の子は、男よりも早く成熟していきます。性的な知識だって、実は女の子の方が耳年増になるのが早い。
 都会では、事情が違いますが、こんな田舎では、男の子の精神的な成長は遅いものです。
 先に性の興味に目覚めた美穂は、その実験台として、小さい時からの幼なじみで、今でも何の疑問もなく一緒にお風呂に入る男の子に目をつけたのです。
  男の語る思い出は、妻の幼き日の「過ち」だったのです。



妻の入院 44
医薬情報担当 7/14(土) 19:38:20 No.20070714193820 削除
 映像では、一日に、何度も何度も、繰り返される淫猥な数々の行為が確認できました。
 まるで、オナニーを覚えたての中学生のような回数で、妻は毎日、快感を絞り出されていたのです。
 オンナというのは恐ろしいものです。
 イヤと言いながらも、次第に抵抗が薄れてきたのがはっきりとわかりました。
 排泄行為の時は、当然のように大きく脚を広げるように命じられますが、回を追うごとに、その排泄ポーズは、言われるまでもなく、足を広げるようになります。
 もちろん、当然のように、その度に、もっと広げるように促され、更に大きく広げる姿になっていました。
 私にすら見せたことのない姿をたっぷりと視姦されながら、妻の顔は紅潮するのが常でした。
 羞恥の行為は、そのまま、妻の官能につながるのか、限りない汚辱の「後始末」という名の玩弄にも、抵抗が次第に形ばかりのものになっていきました。
 確かに、ここまで来れば、既に何度されようと同じことかもしれません。
 だから、排泄行為の後を「きれいにする」と言う名目で触られて、そのまま感じてしまったとしても、それは妻のせいとばかりは言えないかもしれません。
 私の目から見ても、この男の、女体をまさぐるテクニックは、相当に熟達しているように思えます。
 それに、どんな男にであれ、余裕を持って触り続けられれば、それをこらえることなど、オンナには不可能なことのようにも思われます。
 ところが、朝、目覚めれば「寝ている間は分泌物が盛んだからね」と怪しげな名目で始まり、寝る前には、「さっぱりして寝ようか」と始まるのです。
 もちろん、妻がさんざんに快感を感じ、幾度ものオーガズムに登り続け、やがて息も絶え絶えになるほど快楽の神経を絞り尽くされなければ、延々と、終わりなく続けられる行為でした。
 いくら何でもと思います。
『何で美穂は、拒否しないんだ』
 確かに、始まりでは、恥ずかしがるのです。
 それも、これ以上ないほどの恥ずかしがり方で、拒否のセリフを幾度も口にはします。
 それなのに、決して、点滴が外された左手で、妖しげに伸びる手を邪魔したりしませんし、取りのけられるケットをつかんで、裸になることを拒否したりはしないのです。
 もちろん、ケットを剥がされ、手が伸びてくれば、言葉ではどれほど、恥ずかしがり、嫌がって見せても、妻の感じやすい秘唇は、あっという間にこれ以上ないほど濡れてしまいます。
 いえ、確認することなどできないのですが、妻の瞳は、ケットをはがされる、その瞬間から潤み始める気もしました。
 この男が「世話をしよう」と近寄ってくるだけで、妻の頬に赤みが差す場面が何度も見られます。
 既に何度もオーガズムまで見せている相手だというせいでしょうか。
 挨拶のように、いきなりキスされると拒みますが、一度感じてしまえば、キスも拒まなくなってしまっています。
 いえ、いつも私とのセックスでするように、感じ始めれば、自分から積極的に舌を絡めているとしか思えない動きすら見せるのです。
 さかんに、ピチャピチャという音を立てながら長いキスをしている以上、男の唾液は妻の芳香のする口中に、流れ込んでいるはずでした。
 それほどに長いキスが離れると、今度は、快感をこらえきれない声が、盛んに噴きこぼれてしまうのです。
 恥ずかしがっていたはずの声も、いつの間にか、甘い嬌声を思うがままに引き出されるようになり、私以外の男を拒否するはずの手は、キスする相手の背中を、愛おしげに撫でまわすようになってしまいました。
 まさに、それこそ男の思うがままに快感をコントロールされてしまうような状態です。
 真夏が、さっきから頻りに、脚を組み替え、内股になった腿の間に、両手を挟んで落ち着かない様子でした。
 息苦しいような、妻の幾度もの淫らなオーガズムの場面に、真夏も何かが伝染したように、息が早くなっていました。
 その度に、病院を出る時につけたのでしょう、看護師らしからぬ、なまめかしく反射するリップをつけた唇から、わずかなため息のような声が聞こえてきます。
 そして、そうなると、真夏の処女とさほど変わらぬ若い身体から発するフェロモンのような体臭が、余計に強くなってくるように感じるのです。
 もちろん、私のものは、勃起し続けていました。
 妻が、何度も他の男に逝かされるシーンを見続けながら、暴発してしまいそうなほどに怒張が大きくなり、私の中のオトコが、そのはけ口を求めていました。
 もちろん、自分の妻が他の男にいじられて、それを見た興奮を、真夏にぶつけるのは、いくら何でも失礼なことだとわかっています。
 ただ、真夏の匂いに包まれて、くらくらしてしまった自分を支えたいだけ、そう自分に言い訳しながら、真夏の肩に手を回してしまいました。
「ひっ」
 息を飲み込んだような反応で、身体を一瞬硬くします。
 もちろん、無理矢理どうにかしようなどというつもりもありませんから、拒否されるのかと、腕を硬くします。
 ためらい、とでも言うのでしょうか、ある時間だけ、真夏は身体を硬くした後で、急にぐんにゃりと、むしろ積極的に私の胸に寄りかかってきました。
 力が急に抜けてしまいます。
『ぐんにゃりと柔らかくなってしまった。この身体を支えなければ』
 そう、自分に言い訳しながら、あの大きな胸をすっぽりと掌の中に入れてしまったのです。
「あぁ」
 微かに、そんな声が漏れた気がします。
 ふと見ると、真夏の目は、先ほどから始まった、淫らな妻の姿にじっと注がれています。
 モチっとしながらも芯の硬さが残るような柔らかなオッパイの感触が、かえって私を冷静にさせたのかもしれません。
「ごめん」
 そういいながらも、オッパイを包み込んでいる左手をまさぐるように、ゆっくりと動かしていました。
 真夏は、それでも、何も言わず、ゆっくりと首を振っただけでした。
 オッパイの感触が、男を落ち着かせるというのは、どうやら本当らしいです。
 もちろん、先ほどからの映像が、あまりに、衝撃的だったせいかもしれません。 
 妻は、本当の意味で、この男に落とされてしまったのか、そう思わずにはいられなかったのです。
 それは、口実をつけて、やがて快感に負けてという展開と、まったく違ったものでした。
 今、妻は、この時の一度目のオーガズムに達しているところでした。
 しかし、同じような淫らな姿であっても、この時の淫猥な姿に、妻の愛を信じたがっている私の心が、しぼんでしまうしかありませんでした。
 始まりがいつもと違いすぎていたのです。



田舎の風景〜2〜
仮面仮名 7/14(土) 16:01:00 No.20070714160100 削除
ドンドンドンっっ
「すいません!」
ドンドンッ
「いるんでしょっ?」
ドンドンドンッ

私はインターフォンを押すことなく、ドアを叩き続けた。
「うるさいな・・誰ですか?」
出てきた男性は私の顔を見るなり、顔を蒼くして視線をそらした。
「誰?」
そして後ろから出てきた女性。それはあの映像に映っていた女性であった。
「あっ・・・・・・・」
その女性は言葉を失い、同じように視線を反らす。

 私は押し黙るこの夫婦に連れられてリビングへとやってきた。
「今日はうちにDVDが送られてきたんです。奥様映られてましたよね? どういうことなんですか?」
私は遠まわしになど言わず、単刀直入に疑問点をぶつけてみた。
すると男性はまるで床に頭を擦り付けるように私に土下座をしてみせたのだ。それを見て女性も横に並び土下座をする。
「すいません! 本当に申し訳ありません!」
「も・・申し訳ないって・・どういうことですか?」
男性は言葉を詰まらせながら話を始めた。

 内容は、景子の今後をわかっていて門松家に紹介したこと。門松庄吉郎が、都会からやってきた若い人妻の景子に興味を持ち、わざわざ指名したこと。さらには経営が不振になるように門松家が裏で手を回していたことだった。
「そんな・・・・」
私は言葉を失うしかなかった。それでも男性は言葉を続ける。
 自分の所も経営不振で返済する目処すら立たなかったこと。妻を買い取るだけの収入がなかったこと。
そして景子を紹介し、私達の返済の目処が立たなくなれば紹介料として妻の返却を約束されたこと。
 この3年間私の経営状況は常に門松家に監視され、確実に返金できないとわかったつい2ヶ月前にこの女性は帰ってきたのだという。
「それじゃ奥さんの変わりに景子を差し出したようなもんじゃないですか!」
「おっしゃる通りです。すいません・・すいません・・・・」
男ながらに涙を見せながら何度も頭を下げる男性。もう言葉すら出てこない女性。
シーンと静まり返った空間で
「おっ・・おい。万里子」
「は・・はい」
万里子というのはこの女性の名前だ。思い返せば初めてこの女性の名前を聞いたような気がする。
夫に名前を呼ばれた万里子は椅子に座る私の前に膝を付くと、まさぐるように股間に手を伸ばしてきたのだ。
「なっ何をっ・・」
突然の出来事に私の身体は硬直した。
「景子さんを代わりに差し出してしまったことは本当に後悔してるんです。だから夫婦で話し合って・・」
「はっ・・話し合ってってなんですかっ!」
股間をまさぐられる感覚に私は情けないほど敏感に反応し、腰を前に突き出してしまいそうになる。
「一人身で寂しい間は万里子の・・万里子の口で満足してください。それがせめてもの罪滅ぼしで・・でっでもセックスだけは勘弁してください」
そう言って土下座を続ける。
「景子さんが戻ってくるまでの間好きな時で構いません。いつでもかまいませんから」
そんな旦那の声を耳で聞きながら万里子は私のイチモツを取り出すと何の躊躇もなく咥えこんできた。
「うっ・・」
ねっとりと包まれる暖かな感触。あきらかに景子のそれとは違う手馴れたものだった。それは担保妻として生活した時間が覚えさせたものなのかもしれない。
「そ・・そんなこと言われてもっ・・」
私はこの夫婦に同情したのではない。これからどんなことが景子に見に降りかかるかわからないが、私としてみれな「こんなことで手を打て」と言われたようなものに感じたのだ。
私にはこの夫婦の償いが逆に怒りを呼ぶものになってしまった。

 私は万里子を突き飛ばすと、乱暴に下半身だけの衣服を剥ぎ取っていたのだ。
「景子は・・景子は今頃・・・」
万里子に覆いかぶさるように私はそこへと狙いを定める。
「や・・やはり許してはくれませんか? お怒りはごもっとも・・口だけでは満足されないのでしたら・・うぅ・・」
男性は嗚咽を漏らすように私の行為を容認したのだった。
万里子も下から涙目で私を見上げながら、一度視線を合わせると顔を横に向け、一切の抵抗をしない。

「もう・・いいですよ・・経営が振るわなかったのは素人考えでこの町にやってきた自分達ですから・・」
 私は男や万里子の涙の謝罪と覚悟を見てほんの少しだけ冷静さを取り戻すと、万里子の身体から離れていった。
「でも・・」
男性としてみれば目の前で妻が犯されなかった安堵感もあるのだろう。しかし、それ以上に景子を差し出した罪悪感があるはずだ。
私の気が済むならどうぞ・・今にも言葉に出して言いそうな雰囲気であった。
「もういいです・・」

 私が帰ろうとした時、
「ホントにこれから大変だと思います・・万里子の口はいつでもいいんで・・」
そう言われた言葉が頭に残ったまま私は自分の家へと帰っていったのだった。



悪夢 その56
ハジ 7/14(土) 15:58:27 No.20070714155827 削除

 端が切れそうに尖ったディスクが挿入されると、数瞬の沈黙のあと、パソコン本体が不気味なうなり声とともに起動をはじめました。
 それから、さらに数秒。ディスプレイ上の表示に10がカウントされるころ、真っ暗だった画面が段々と薄くなり、ノイズのようなものが聞こえてきます。濁った音声はどうやら人のものらしく、徐々にクリアになっていきます。

「―――らしいよ」
「マジで―――かよ―――」

 画面の中が一瞬暗転してから、少しずつ光に照らされていきます。観づらい映像に目を凝らしていると、慣れてきたのか、網膜があたりの情景をとらえはじめました。
 濃い闇の中にうっそうと茂る樹木。足もとの花の咲かない草。視界は絶えず不安定に揺れており、登場人物たちの息が荒いことから、かなり高速で移動していることが予想されます。

「なあ、ホントにやる気かな」

 少年のものらしい声が聞こえてきました。疲れのためなのか、それは少しひび割れているように感じます。
別の声がそっけなく応じます。

「さあ……?もう、はじまってるかもよ」

 さりげなさを装いながらも、それは多分に期待と願望を含んだものでした。同時にそれは気の弱い友人を煽る意図もあったようですが、そうとは気づかず、最初の声が食い下がります。

「でも、そういうのって、やばくねえ?」
「嫌なら、みてるだけにすれば―――。俺はやるけどね」

 深刻な問いかけを軽くあしらわたのがショックだったのか、声の主は黙り込みました。すぐに、

「そうじゃないけど……」

 そう言い直しましたが、未練を残している様子はありありです。
 しばらく会話もなく、ふたりは呼吸をあわせるように、息を切らせます。ですが、すぐにまた、話はとりとめのない形で再開されるのです。

「でも、それって、やっぱり犯罪じゃ……」
「まあ、シャックのやつが言い出したことだから。大丈夫だよ、あいつの親父は―――」

「よう、来たな。遅いから、はじめるところだったよ」

 言いかけたところで、横合いから別の声が出迎えました。



 リーダー格の少年はカメラが照射する光の影響なのか、瞳を緑黄色に光らせながら、笑っていました。

「ちゃんと、カメラの電源オンにしてきた?」
「うん、それは大丈夫。でも意味わかんねー。意味って言えば、なに、あのメール?『無事、生け捕りました〜♪』って―――笑っちゃうんだけど」

 少年が腕を振ると、手元から赤い光が飛びました。どうやら、煙草を吸っていたらしい。

「いやあ、あんまりみつからないんで、俺キレかかってさあ。みつけたら、ボコボコにするかもとか思ったわけ。けど、それって、なんか興醒めじゃん。顔腫らした女となんてなあ」

物騒な話をあっけらかんと語る彼らに、私は別の意味で寒気をおぼえます。

「ふーん。で、カメラの意味は?」
「ドキュメンタリーぽくて、いいでしょ」

 私は胸がムカムカしてきました。これも彼らの言うところの効果なのでしょうか。
 画面ではなく隣からゴクリと喉を鳴らす音が聞こえてきました。生唾を飲んだのが羽生なのか、校長なのかは判然としません。
 そもそも、この映像を彼らふたりとともに鑑賞することになろうとは夢にも思いませんでした。誰がそんなことを想像できるでしょうか。
 パソコンを囲むように座る男三人の後ろの壁に妻の秋穂が力なくもたれかかっています。ディスプレーの光に照らし出される顔は青白く、しかもこちらをみていません。虚空をにらむ、その目が何を考えているのか、そのときの私には想像もできませんでした。

「イッツ、ショウタイム」

 シャックと呼ばれた少年が脇にどくと、見慣れた黒髪が目に飛び込んできました。妻です。
 画面の中の彼女がこれからどんな目に遭うのか。少なくとも、この場にいる人間にはわからない者はいないはずでした。



悪夢55
ハジ 7/14(土) 15:14:24 No.20070714151424 削除
「秋穂先生、ちょっと」

 羽生が半ば強引に秋穂の腕をとって部屋の隅、つまり私のいるところへやってきます。
 なにごとかと訝る私たちに向かって、羽生は声を潜めました。

「これ以上強情を張ると、私もかばえなくなる」

 疲労からか、羽生の目は若干血走っているようです。

「奥さんの裏切り行為(おそらくマスコミとのうんぬん)に校長は完全にご立腹だ。あなたの立場は非常に危うい」

 思わず目を見張った私に彼はさらに囁きかけます。

「事の真偽がどうであれ、このままでは、あなた自身も身の処し方を考えなければならなくなる。言っておくが、私の劇団に後ろ暗いところはない。ただし、痛くもない腹を探られてマスコミに面白おかしく書きたてられる影響というものも考えてもらいたい。教育現場に混乱を徒にもたらすのは組織の一員としてはまちがいなく悪だ」

 羽生は私にとも、妻にともとれるしゃべり方を続けます。私に彼女を説得するよう働きかけているようです。

「ジャーナリストになにを吹き込まれたのか、全て洗いざらい話して校長に対して忠誠を見せるんだ。そうすれば―――浩志くんのことは悪いようにはしない」

 さすがに勘の鈍い私にもぴんとくるものがありました。要するにこれ以上レイプ騒動については追及しないから、劇団おしばなのことも余計なことは一切しゃべるな、ということらしい。
 羽生はすべてしゃべり終えてしまったのか、鼻の穴をひくつかせながら、妻の回答を待っています。それに対して、彼女は素っ気ないほどまでに躊躇がありませんでした。

「何もお話することはありません」

 気を抜かれたかのような反応を示した羽生が憤怒の表情を浮かべるのに、それほど時間はかかりません。

「地獄におとしてやる。せいぜい、恥をかくがいい」

 捨て台詞を残して大股で傍を去る彼の後ろ姿―――その肩越しに校長の弓削が深くため息をつくのがみえました。





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田舎町の風景〜1〜
仮面仮名 7/14(土) 15:06:31 No.20070714150631 削除
 妻景子。30歳。出産経験はない。それは門松家から借りた金の返済に向け、働き続けることを決意した私達夫婦に子供を授かるだけの余裕がなかったのだ。夜の生活でも、避妊具をつけての性行為であった。
何もかもを我慢してこの田舎町での夢に頑張った日々が今すべて無駄になってしまったのだと私は頭を下げ、うなだれるだけ。
壁にはウエディングドレス姿の景子の写真が飾られている。頬を赤らめたような幸せそうな笑顔だ。

 景子が連れて行かれた翌日。ポストには透明なケースに入ったラベルのないDVDが一枚と、封筒に入った手紙が入っていた。
「旦那様へ
 景子奥様は昨日より門松庄吉郎様の所有物となりました。ただし、旦那様には景子奥様を買い取る権利が御座います。それまでの間、門松庄吉郎様の所有物になられるというだけの話で御座います。
 景子奥様はその間、門松家の家政婦としてお仕事に従事して頂きますのでご了承下さい。
 尚、景子奥様の様子を不定期でお知らせいたします。本日のDVDは景子奥様の新たな生活の場を紹介させて頂いた物です」

 妻の姿をテレビ越しにとは言え見ることが出来る。それは私にとって喜びでしかなかった。もちろんどんな内容なのかなどその時は考えなかった。

 ポストに入っていたDVD。私はそれをセットし、リビングのソファーに座った。この暑い夏の時期。訪れる観光客はほとんどいない。仕事のことなど考えていなかった。
画面が映ると、見覚えのある屋敷が現れる。門松家。こんな田舎町に相応しくない大きな洋館である。
「門松家。1922年より・・・」
若そうな女性の声。まるでホテルの館内案内ビデオのような作りで、アナウンスが流れている。門松家の紹介。正直私にはそんなものどうでも良いもの・・とは思わなかった。
門松家というものがどういうものなのか?私には知る必要があったからだ。そして若い女性のアナウンスはその話すトーンを変えることなく、内容が変化していく。
「門松家が人妻担保を始めたのは1992年から。2003年現在では7名の担保妻が在籍しております」
2003年?このDVDはその年に作られたものなのか。今現在で何名いるのかは想像も付かないが、その人数が増えていてもおかしくはない。
映像は洋館の外観を映したものから、内観へと変わっていく。
そこは大きなフロア。成金趣味なのか、壁に大きな自身の肖像画が飾られているあたり、映画などで見る怪しげな洋館を想像させずにはいられない。
そしてこれも映画で見るような螺旋の階段を登っていく。そしていくつもドアが並ぶそのうちの1部屋。カメラはそこに入ったようだった。
「ここが担保妻達が生活する部屋です。1人1部屋の個室が与えられ、不自由のない生活を送ることが出来ます」
私は正直ホッした。映った部屋は極普通の部屋だったからだ。人妻を担保にし、連れ去る。
伝統とは言え、常識では考えられないことだ。私も、そしておそらく景子も良からぬ想像をして昨日と言う日を迎えた。しかし、本当に家政婦、使用人として連れて行かれただけなのでは?と思ってしまうほどの内容だったからだ。
しかし、その考えは一瞬で覆る。それは映像の変化ではない。アナウンスが話す内容の変化だった。
「担保妻は、セックス妻、肉妻、穴妻、便所妻などとも呼ばれ来客者はこの部屋で担保妻達の試乗をすることが出来るのです」
「な・・なんだって?」
愕然とした。一瞬だけとは言え希望を持たされただけに、そのショックは大きくなった。
門松庄吉郎だけではない。来客にも・・。そして画面の映像には1人の人妻が登場する。

「この人・・は・・・」
見覚えるある女性だった。それは私に門松庄吉郎を紹介してくれたあの知人の妻。3年前のあの日にはもうすでに戻ってきたいたはずだった。
しかし、確かに見かけることの少ない女性ではあった。まさか・・。
映像はその女性を舐めるように映しながら、アナウンスが進んでいく。
「担保妻にはピルが与えられ、使用は個人の自由。しかし、全員がピルの服用を決心されるようです」
その女性は何かに怯える様にカメラの外へ視線を向けている。そして一度身体を硬直させると、穿いていたスカートを捲り上げていくのだ。
捲り上げられたその中には穿いておくべきもの、そしてあるべきものがなかった。
アナウンスの女性は恥ずかしげもなく、そしてトーンを変えることもなく続ける。
「担保妻達は初日にマン毛の剃毛を義務つけられ、綺麗になったオマンコをご覧になって頂くのです」
鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。私はこのDVDの続きを見ることもなく電源をOFFにすると飛び出すように外に出た。行き場所は私に門松庄吉郎を紹介したあの知人の家である。



田舎町の風景〜プロローグ〜
仮面仮名 7/14(土) 14:01:46 No.20070714140146 削除
 私達の住む田舎町は人口の約半分ほどの住民が観光関係の仕事に関わっている。冬になればスキーヤーが訪れ賑わいを見せるのだが、それ以外の時期は収入が落ちるのは仕方のないこと。冬場の書き入れ時にいかに収入を得るか。それがこの町のすべてと言ってもいいだろう。
私もそんな町に住む住人。しっかりと観光関係の仕事をしている。私がしているのはペンションの経営だ。私は日本有数の良質な雪質として有名なこの町に大きな夢と希望を持ってやってきた。
しかし、私のその夢と希望は一年目で打ち砕かれることになる。今問題になっている温暖化の現象は何年も前から私達の町に影響をもたらした。それは遅い初雪と、早い雪解け。
そんな異常気象はスキーヤー達の足を遠のけ、町全体の収入を減らしていった。
 夢や希望を持ってすべての財産をつぎ込んだ私に、この異常気象を乗り切れるだけの財はなくなっていた。
そんな時に、あるペンション経営の知り合いから1人の人物を紹介された。
「門松庄吉郎」
言ってみればこの町の地主であり、その発言力は町長よりも力を持つと言われる人物だった。60歳を過ぎた今でもその力は絶大で、この町のドンと言っていいだろう。
ここでは経営不振の者は、門松家に頭を下げ資金を援助して貰うというのが良くも悪くも伝統になっていた。それはもう何年も変わっていないものらしい。
私達のような収入が不安定な者に銀行もなかなか金など貸してくれないのだ。この伝統は生まれるべくして生まれたものなのかもしれない。
しかし、そんな門松家は快く援助してくれる足長おじさん的存在として知られているわけではない。3年という猶予を設けて金を貸してくれる代わりに掛ける担保は「妻」である。
もちろん法律で許される担保ではない。しかし、伝統となっているこの町では暗黙の了解であり、誰もが逆らえない絶大な力なのだ。

 門松家。そこには返済出来ずに連れて行かれた人妻が、すでに5名とも10名とも言われる。数が定かではないのは、ここに触れることを関係者が話すのはこの町のタブーであり、ルールだったからだ。
私は妻にこの話を切り出した。担保とされる本人。妻の承諾なしに門松に会う事は出来ない。当然断るだろう。そう思っていた。しかし妻もこの町に夢を持ってきた1人。
「死ぬ気で働いてさ。もう少し資金があればお客さんだって呼べるよ」
そう笑顔で応えたのだ。この町で成功しよう。そう語り合って約束した甘い夫婦の日のことを妻も忘れられなかったのだろう。

 そして3年・・
ペンション経営の初心である私たちに返済するだけの収入を得ることなど出来なかった。
返済日。門松家の家政婦なのか、老婆とも言える年齢の女性が2人やってきた。
「期日で御座います」
私たちは返済の期日を延ばして貰えないかと何度も頭を下げた。しかし聞き入れられることはなかった。
「では奥様を返済金としてお連れいたします」
妻はその場で膝を付き、泣き崩れた。
私は老婆2人に連れられる妻の後姿を見送るだけしか出来なかったのだ。それがこの町のルール・・・。

 連れて行かれた妻は? 取り戻すには1つの方法しかなかった。借りた金の1.25倍。つまり金利をつけて返済することで、妻を「買い取る」ことが出来るのだ。
今妻は私の妻ではなく、門松家の所有物となったのである。



妻の入院 43
医薬情報担当 7/13(金) 21:10:38 No.20070713211038 削除
 配線をしている間、一言もしゃべりませんでした。
 真夏は、テレビの正面の小さなラブソファで、身体を硬くしたまま、ピンと背筋を伸ばして座っています。
「さ、できた」
 さして、広くもないソファの端に座る真夏は、明らかに、私の「男」を意識しているような気がします。
 もちろん、こんな所に二人っきりでいるのに、意識をしないはずもないのですが、そのガチガチに緊張した様子は、まるで昨日のことなどなかったようです。
 真夏は、まだほとんど遣ったことのない美肉に私を受け入れ、分身を胎内深くに受けとめたのです。
 ぎこちない、それでいて、深いオーガズムに達っしながら、背中にしっかりとしがみついてきた、その手の感触を生々しく覚えています。
 途方もなく遠いことのように思えます。
 あの時は、自分から潜り込んでフェラまでしてくれたのに。
 しっかりと閉じられた唇と、柔らかに、白の、ザックリ編んだサマーセーターの胸を豊かに押し上げる膨らみを横目でチラリと見てしまいます。
 やや暗い照明のせいでしょうか。
 ついさっきまで、感謝こそあれ、感じるはずもなかった、ある「なまめかしさ」を突きつけられた気がします。
 改めて、この身体と昨夜つながってしまったのだと、私まで、なぜか緊張してしまいます。
 それを振り払うために、わざと事務的で、素っ気ない態度を取らなくてはなりませんでした。
「じゃ」
 連続再生を選ぶと、浅く腰掛けました。
 これで、全ての画像ファイルが連続して再生されるのです。
 私が東京に行っている間、妻は、どうなっていたのか。
 見たくもないと思いながらも、見なくてはという義務感で、見ようとしていました。
 いいえ、違います。
 画面に妻のベッドを見下ろす映像が映った瞬間、私の怒張には早くも力がみなぎり始めてしまったのです。
 妻がイタズラされているであろう画面をこれから見るというのに、怒りよりも先に、怒張を膨らませてしまう自分自身がわからなくなってしまうのです。
 じっくり見ようとすれば、とてもではないけれど、今晩のうちに見終わることなどできそうにありません。
 早送りしながら「その」場面を探すしかないと覚悟を決めて見始めたのですが、しかし、探すまでもないことでした。
 時間で言えば、病院を私が出て、数分といったくらいでしょう。
「あっ」
 小さな声が真夏の唇からこぼれます。
早送りのシーンの中で、誠が映った次の瞬間、妻のケットは取りのけられ、ヌード姿が映ったのです。
 早送り特有のカクカクした動きのまま妻の股間に、差し込み便器を入れているのは、誠です。
 妻はまたも、じっと、その幼なじみの男に見つめられながら排尿する屈辱を味わわされたのです。
 私でさえ、妻のそういう姿を直接見たことはありません。
 排泄行為は見るものでも、見せるものでもない。それは、ごく当たり前のことのように思ってきました。
 もちろん、そういう趣味を持っている人たちがいることも知っていますが、ごく普通の私には無関係なことだと、素朴に思っていたのです。
 ですから、見ようと思ったこともないのですが、人前での排尿を強いられる妻の姿に、サディスティックな喜びを感じていることに気がついてしまいます。
 同時に、我妻の「それ」を他の男に見られてしまったということに、マゾヒスティックな欲望を刺激されているのも確かだったのです。
 早送りのカクカクした画像の中で、羞恥に身をすくませながらも、それでも、しっかりと、金の奔流をほとばしらせる姿がわかります。
 その瞬間、うつろな目が天井を見上げ、その視線は画面を見つめる私の目と正面からぶつかってしまいます。
 この瞬間、妻が何を考え、何を感じながらいたのか、そのうつろな目からは、何も伝わりません。
 便器が取りのけられた所で、再生ボタンを押しました。
 とたんに、妻の苦しそうな声が聞こえてきます。
 タイミングが少しずれたのか「後始末」のシーンになっていたのです。
 妻の股間に、あの、隣の部屋で見ていた事が、そっくり再現されていました。
 あの時は、隣の部屋で盗み見るためにモニタの音を消していましたが、マイクは、相当小さな音まで拾っていることがわかります。
「ね、もう、いいわよ」
「だめだめ」
「だって、あん、ちょっと、もう、ってば」
「ほら、こういう細かいところが大事なんだよ」
「あん、だから、もう、いいってば」
「医者の言うことを聞かない患者さんはダメだよ」
「あう、だって、それ、エッチで」
「エッチってことはないだろ、これだって、一生懸命なんだぜ」
 一瞬、本気で怒ったような声を出されて、明らかに妻がひるみます。
「ご、ごめんさい」
「だったら、黙ってじっとしてる。ま、美穂ちゃんは、感じやすいから仕方ない部分もあるけどね。普通の患者さんなら平気なことも、美穂ちゃんはねえ」
「あん!それ、だめぇ」
「ね、ほら、普通の患者さんなら、こんな声出さないもの」
「まこちゃんの触り方がいけないのよ」
「他の患者さんなら、そんなことないんだよ」
「だって、触り方が」
「女性はさ、意識しない相手だと、感じたりしないけど、好きな男相手だと感じるでしょ?そういう事じゃないの」
「好きなって… だって、もう、結婚してるのよ」
「結婚と気持ちは関係ないだろ。それじゃあ、美穂ちゃんは、好きでもない男の指で、何でこんなに感じるの?今だって、ほら」
「あうう!あう!あう、そんな、だめ」
「美穂ちゃん、ほら、感じるでしょ。ウソ付いたらダメだよ。感じてるね」
「あぁ、もう」
 たまらないという風情で顔を横に向けてしまいますが、感じてないとは言いません。
「ほら、乳首だって」
「あん! そこ、関係ないのに」
「関係? 大ありだよ。美穂ちゃんが感じてるから、ここだって、こんなに硬くなってる」
「あう!ああ!」
 乳首を攻め立てられると、不思議なことに、左脚が、いつの間にか、ドンドン、広がっていくのです。
 まるで、もっと、そこを触って欲しいとでもねだるように。
 ふと、横を盗み見ると、真夏の目は画面に釘付けでした。
 紅潮した頬が、真夏も微かに興奮し始めたことを示していました。
 気がつくと、昨夜すっかり馴染んでしまった、若くて男性経験の少ない女の子特有の、甘い匂いが、私を包んでいたのです。
 妻の、乱れた姿を見たせいなのか、それともこの、甘い匂いに包まれているせいなのか。私の怒張は息苦しいほどに巨大化してしまいました。
すぐ隣では、若いメスが、頻りに脚を組み替えては、静かなため息に似た息づかいが確かに伝わってきます。
 エアコンの調節を間違えたのでしょうか。
 次第に、息苦しいような暑さに包まれていた気がします。



妻の入院 42
医薬情報担当 7/13(金) 21:09:42 No.20070713210942 削除
マナーモードにしっぱなしの携帯が振動し、着信を示す青いランプが光っていました。
 着信表示は井上さんからでした。
「相川さん?」
 秘めやかな声が、聞こえます。
「井上さん…」
「あの、大丈夫でしたか?今日は準夜勤で、今明けた所なんです」
 遠慮がちにかけてくれたのは、私を心配してのことでした。
 たった一晩、会っただけのこの人でさえ、心配して直接電話をかけてくれるのです。
 妻からは、そっけないメールが2通きただけでした。
 勤務が終わるやいなや、かけてくれたのでしょう。病院の駐車場に停めた、あの軽自動車の中からでした。
 迷いました。
 「切り札」を頼んで良いものかどうか。
 果たして、そこまで彼女を信じて良いものなのでしょうか。
 しかし、私が病院に行けば、警戒されるのはわかりきっています。
 いくらのんびりした田舎の病院でも、私があの非常口から「侵入」したことなど、とっくにわかっていると思わなければなりません。
 だとすると、あのレコーダを持ち出せるのは、ほとぼりが冷めた、相当先になってしまうはずでした。
 迷います。
 しかし、今ですら、既に、妻はフェラまでしてしまったのです。
 場所が違うとはいえ、男のエキスを一度は体内に許してしまった以上、このまま行けば、次は飲まされてもおかしくありません。
 事実、私が乱入しなければ、あの時、どうなっていたか。
 一生懸命、言うまいとした「飲ませて」という汚辱の言葉を、肉体の快感と引き替えに、とうとう口にしてしまったのです。
 夫以外の男の精子を、どれだけ誘導され、オーガズムと引き替えにされたとはいえ、、飲みたがるというのは、既に、妻の心のどこかが堕とされている証拠でした。
 そうなってしまっては、今日、いえ、今この瞬間にでも、犯されていておかしくないのです。
 事は一刻を争うのです。
「ほとぼりが冷める」のを待っていれば、取り返しの付かない事になるのは明らかでした。
 いえ、すでに、今の時点でも、取り返しの付かない状態かもしれません。
 しかし、今一度、自分の目で妻に何があったのか確かめねば、男として納得できそうもないのです。
 一度は身体を重ねた相手を、そして、あの純粋そうな目を信じてみるしかありません。
 信じられようと、信じられまいと、今の私にできるのは「信じること」だけしかないのです。
「頼みがある」
 そう切り出していた私は、ひょっとして、今、かろうじて信じられるかもしれないのは、この真夏だけなんだという事に、改めて気づかされたのです。

「これですか?」
 女の子らしい、その細い両手がブティックのブランドの紙袋を両手で差し出します。
 上に載せられた白いカーディガンは、おそらく病院で使っているものでしょう。
 私の頼みを聞いて、持ち出す苦労をしてくれたのです。
 物音がしないように隣を気にしながら、真夏にとっては、わけがわからない機械を言われるがままに持ち出してくるのは並大抵のことではなかったはずでした。
「ありがとう」
 賭に勝ちました。
 井上さんは、真夏は、私の味方だった。 
 たった一人の味方ができたことが、どれほど、私の心を温めてくれたことでしょう。
 そのホッとした気持ちが、5才以上も年下の女の子に、これほどまでに頭を下げさせたのです。
 営業用の最敬礼は、毎日のようにしてきましたが、これほど真摯な気持ちで頭が下がるのは初めてでした。
「あの、えぇっと、あの、別に、持ってきただけなんですから、そんなぁ、頭を上げてください」
 持ち出しただけと言っても、本来、妻のあの部屋は、他の看護師がそうやたらと出入りをしてはいけない場所にあるのです。
 その上、天井裏に隠したレコーダーを外して、そうとはばれないように持ち出してきたのです。
 相当な勇気と、知恵と努力が必要なはずでした。
 何よりも、私の言葉を信じてくれたということ、そのものが、今の私にとっては、まさに、干天の慈雨だったと言えるのです。
 足下に置かれたレコーダーは、確かに、大事なものでした。
 ただ「人を信じて良い、信じてくれた」という、このつながりは、思っても見ないほど私を勇気づけてくれたのです。

 妻が寝ていることを確認してからですから、真夏が病院を出てきたのは、既に、夜中を半ば過ぎての頃になっていました。
「どうだった?」
「え?」
「隣だよ」
「えっと、あの、今日は、奥様一人で、あの、えっと、いつもよりも、ずっと早くお休みになったようです」
「今日は、ってことは、いつもは…」
 黙ってうつむいて、しばしためらってから、真夏はわずかに頷きます。
 いつもは、誠が、妻の部屋に入り浸っているということでしょう。
 もちろん、今日は早かったということは、いつもなら「病室で遅くまで何かを」していたと言うことを真夏は告げているのです。
「そうか」
 私も、うつむくしかありませんでした。
 しかし、今は、このレコーダーを確認する方が先でした。
 これさえちゃんとしていれば、いくら何でも妻自身は認めざるを得なくなるはずです。
 妻がどんな気持ちでウソをついたのかはわかりませんが、妻にウソをつかれたことだけは、たとえようもないほどのショックでした。
 ひょっとして、妻が他人にオモチャにされたこと以上に、心の傷になった気もします。
「でも、どこで見ますか?」
 素朴な質問をされて、言葉に詰まります。
 義父の様子からすれば、家で確認することなどできそうもありません。
 普段、妻も私もテレビなどめったに見ないので、リビングにしか置いていないのです。
 義父は、たいていは、一日をそこで過ごしていました。
「私の部屋にお連れできると良いのですが」
 あの病院で働いている看護師は、たいていは、寮に入っています。
 真夏も例外ではなく、そんなところに行かれるはずもありませんでした。
かといって、カラオケボックスなどに行こうとしても、この町では24時間営業の店などありません。
 私は「今すぐに」確認したかったのです。
 選択肢は他にあったかもしれません。
 しかし、せっぱ詰まった私が、とっさに思いついたのは、そこしかありませんでした。
 それに、何より、これだけ頑張ってくれた真夏も、このレコーダーを見る資格があると思ったのです。
 資格があるのではありません。
 信じられる仲間として、一緒に見て欲しかった、それが正直なところだったでしょう。
 ところが、東京と違って「誰かとこっそり話をする」というのが難しいのです。
 ファミレスや、うかつなところに車を止めれば、すぐに翌日の噂になっているのが田舎の暮らしというものでした。
 うかつな場所は選べません。
 まして、テレビが置いてあるところ、といえば、やはり、思いつくのは「そこ」しかありません。
 深夜のバイパスをゆっくりと流すと、早くも看板が出ています。
 あと500メートル。
 私は、とうとう、井上さんに提案するしかありませんでした。
「井上さん、ヘンなことを言うようで申し訳ないけれど、昨日の所に行って良いですか?」
「え?」
「このレコーダーに何が映っているか、一緒に見ましょう。もちろん、無理にではないのですけれど」
わざと速度を緩めて、後ろのトラックをやり過ごしてから、真夏の返事も聞かないうちに、道路から左折していました。
 そう、つい、昨日の夜に来たばかりの、ラブホテルへと、乗り入れたのです。



妻の入院 41
医薬情報担当 7/11(水) 22:22:13 No.20070711222213 削除
「なんてことをしてくれたんだ。おまえというヤツは」
 まだ、ぼんやりした頭でもわかるほど、義父の顔は怒りにあふれていました。
「だから、おまえとの結婚を反対したんだ、まったく、美穂も、何でおまえを選んだんだか」
 半ば目を覚ました瞬間、目に入ったのは怒気を含んだ義父の顔でした。
 まだ、夢見ごごちの頭では、濁流のように流れてくる説教の大半は聞き流していましたが、ただ一つ理解できたことがあります。
 どうやら、私は病院への出入りが禁止されてしまったようです。
 患者本人が「何もない」といっている以上、私の立場は「勘違いして殴りかかって、正当防衛で取り押さえられた賊」ということでしょう。
 俺の顔で、警察のご厄介にならなかっただけ感謝しろとの「ありがたいお言葉」付きでした。
 もちろん、この耳で聞いたと言ってはみても、まともに取り合ってくれるわけもありません。
「誠君は、まだ卵といえども、医者だ。その医者のすることを誤解して、乱暴を働くとは。あげくは、でっち上げか。つくづく見下げ果てたヤツだ」
 おまけに、私は医者のおかげで食べさせてもらっている身のくせに、その医者を疑うとは誠に「なってない」、「社会人としてやっていけるのか」とけんもほろろです。
 この段階で持ち出して、あの男の狼藉を証明するすはずだったHDレコーダも持ち出せるはずもありません。
 今話してしまえば、それを取りに行くことどころか、存在そのものすら、どうなるのかわかりきっていました。
『義父も敵なんだよな』
 改めて意識せずにはいられません。
 私にできることは、頭が痛むからと、もう一度、義父に土下座して詫びてから、ようやく自分の部屋に戻ることだけでした。
 夫婦の寝室が、がらんとしています。
 数ヶ月前までは、いつも妻と二人、ささやかながらの幸せを噛みしめていた部屋に、虚ろな空気が満ちていました。
 さっき確かめました。
 あの後、妻からきたメールはたったの2通。
<誤解です。本当に何にもありませんでした。>
<大丈夫ですか? お医者様は、すぐに気づくから大丈夫だよと言ってらしたので、一応は安心しましたけれど。>
 たった、これだけでした。
 いつもどおりの、顔文字も、愛してるの一言もなく、たったこれだけ。
 このメールは何を意味しているのでしょう。
 無意識のうちに妻の番号を表示させていました。
 一瞬だけ親指は「掛ける」のボタンを押しかけてから、また、閉じてしまいました。
 何をしゃべればいいのか、思いつかなかったのです。
 ウソを非難しても、妻がそれを認めない限り、むなしくなるだけでした。
「美穂、…か」
 ベッドに半ば身体を投げ出して、無意識のうちに、ベッドボードの引き出しから、小さな箱を取りだしていました。
 お気に入りの写真が中に入っています。
 社内恋愛ということで、誰にも秘密だった恋人時代、二人で一度だけ鎌倉に行ったことがあります。
私が本社へ出張するのにあわせて、妻は学生時代の同級生達と東京に来たのです。
 学生時代の妻の友達は、厳しい家庭に育った妻を知っているだけに、口裏合わせに喜んで協力してくれました。
冬の材木座海岸など、サーファー以外は来る人もまばらですが、なぜか妻が気に入った、シーズンオフの「海の家」の前で撮った写真です。
 あわただしく、ささやかな「小旅行」。
 この後、二人は結ばれたのです。
 結婚してからも、このことだけは、昔気質の義父に言うこともできませんでしたが、ささやかな幸せを写したこの写真を、妻も、私も気に入ってしまったのです。
 だから、ベッドボードの引き出しに、小さな箱に入れたままの写真立てが、飾れる見込みのないまま、こうしてしまってあります。
 妻はどうだか知りませんが、私は、時折、思い出したようにこの写真を、こうやってぼーっと見つめることがあるのです。
 男のクセに感傷的すぎるかなと、自分でも少し恥ずかしいので、もちろん妻には内緒の、ひとり遊び。
 この間、こうやって取りだしたのは…
『そうだ、単身赴任を決めた時だっけ』
 どうしても、お父さんを残してはいけないと涙を浮かべながら言い切った妻に、愛しさと寂しさが募って、それ以上、何も言えなかった、あの晩でした。
 その日の夜、妻が寝付いてから、月明かりの下で、その写真を見ながらウィスキーをちびり、ちびりと舐めていたのを思い出しました。
 月明かりが薄く照らす妻の寝顔は、この世で最も大切なものだと思えました。
 あの時は、それでも、妻の事を、妻が私を愛していることを、つゆほども疑ることはありませんでした。
『どうしてなんだよ』
 妻が、私の目を見ながら、きっぱりと否定したことがショックでした。 
 小さな写真立ての中の、恋人時代の妻は、私の横で、背伸びをするようにして寄りかかっています。
 セミロングの髪は、夕陽を受けてなびいていました。
 ニコリとカメラに向かって微笑む美穂の笑顔が、その夕陽以上にまぶしい写真です。
『やっぱり、君は、僕のことを…』 
 写真立てを箱から取り出そうとして、ふと、小さく折りたたまれた紙が挟まれているのに気がつきました。
「愛しいダンナ様へ」
 妻の丸っこい字で、確かにそう書かれています。
 震える指で広げました。

  ごめんね。
  東京に行ったら、また、鎌倉に連れてってね。
  少しの間、寂しいけれど、離れても、ずっと好きだよ。
  いつか、きっと、あなたのそばに行くからね。
  でも、あなたったら、この写真のこと、きっと忘れちゃってるね。

 ハートマークがいくつも、文字と文字の間に書かれた、その手紙とも言えないほどの簡単なメモは、確かに、あの日に買った、ささやかな便せんに書かれていました。
 この写真を私が一人で眺めているなんて、妻は知らないはずです。
 だから、この手紙を私が見ることを、どこまで本気で考えていたのかわかりません。
『みほ』
 ポト ポト、ポト…
 便せんに黒い染みが次々と生まれます。
 哀しいのか、悔しいのか、怒りなのか。
 この世に身の置き所のなくなった男の、頬を伝った涙が、便せんに滴っていたのです。



妻の入院 40
医薬情報担当 7/10(火) 22:51:02 No.20070710225102 削除
 計算違いでした。
 病室にカギなど掛けられるとは思ってもみませんでした。
 もちろん、普通の病室ならそうなのでしょうが、この部屋は病院ご自慢の特別室です。
 広く、県下全域からお金持ちの皆さんが羨望の目で集まる部屋なのですから、カギくらいは付いていて当然だったのです。
 慎重にいきなりドアを開けるはずだった私は、自動ドアが反応しないのに慌てて、手でこじ開けようとしてしまったのです。
 間抜けなことに、慌てた私は、ドンドンと扉をいてしまったのです。
 中では、慌てて身動きする音がします。
 もはや、黙っていることもできませんでした。
「おい!中にいるんだろ、知っているんだ、開けろ!開けるんだ!」
「おぉ、ご主人ですか、ずいぶん早いお着きですね。まだ、表は開いていなかったはずですが」
「うるさい! 早く開けろ」
「しかし、今は処置中ですから、ご主人といえども」
「あ、あなた、あの、今は、あなた…」
「美穂! あけ…」
 妻に「開けろ」と叫びかけて、それが無理なことだと思い返します。
 もちろん、中では、先ほどの後始末を着々としている音がしました。
『どうすれば?』
 一瞬、ガラスをたたき割って、と考えて、割る道具を探そうとしたのです。
 その時、扉が目に入ったのです。
 頭に血が上っていました。
 ついさっき、自分が出てきた扉があるのを忘れていたのです。
 しかし、そこまでも、内側からロックされれば、万事休すです。
 思い出すと同時に、私は、肩から体当たりするように、続き部屋の扉から飛び込むと、そのままの勢いで小さな部屋を横切って、病室への扉を一気に開け放ちました。
「あなた!」
「ご主人、処置中です、出ていただかないと」
 妻の身体を遮るように誠君が立ちはだかります。
 ケットを左手で身体に懸命に巻き付けようとする妻の姿がその陰にあります。
 まるで、暴漢から姫を守るナイトのような構図に、もはや、話し合いなど頭から消し飛んでいました。
「何を! 最近の医者は、スケベなことをするのも処置というのか」
 白衣につかみかかります。
「ご主人、落ち着いて、誤解です。ほら、やめてください。ここは病院ですよ」
「そうだ、ここは病院だ、ラブホテルじゃない。そ、それに、なんで、スケベなん…、スケベなことを、俺の女房になさ… してるんだ!」
 間抜けなセリフのオンパレードでした。
 こんな時にも、白衣を相手にすると「なさる」といいかねない、自分のMR根性が情けないくなります。
 しかも、こんな間抜けなセリフすら、何度もつっかえ、言い間違えながらなのです。
 それでも腕の力は緩めません。
 白衣の表情が、見たこともないほど強張ります。
「ご、ご主人、違いますってば、どうしたんです。これ、朝の清拭、清拭なんですよ。ご主人が今日は来るというんで身体をきれいに、ごほっ」
 白衣が持ち上がり、首を締め付けるように持ち上げていました。
「てめぇ! 俺のいない間、好き勝手やってくれたな!」 
「そんな、誤解だって、ぐぁ!」
 つかみかかっていた右手を外して、満身の力とは言えませんが、誠君の、いえ、この、憎き妻の幼なじみの頬を打ち据えていました。
「きゃ!あなた!やめて!ほんとよ!何でもないの、誤解よ!」
 思わず、妻の方を向いてしまいます。
「何でもないだと?」
 まともに視線が妻の目と合います。
 私は、妻が今にも泣き出すのではないかと身構えます。
『あなたごめんなさい』
 そのセリフを思わず期待していたのです。
 いえ、期待ではなく、真面目な妻が、夫である私の目を見て、嘘など言えるはずがないと確信していたのです。
しかし、現実は違いました。
 一瞬だけ、下がりかけた妻の目は、再び、私の目をとらえます。
「そうです。何でもないんです。私が恥ずかしがるから、いろいろと誤解をされたかもしれないけど」
「何だとぉ!」
 妻がここまできっぱりと、この男をかばうとは計算違いでした。 
「そうですよ。誤解です。ね、美穂さんも、そう言ってるじゃないですか。誤解ですよ」
 いけしゃあしゃあとはこのことでしょう。
 妻の幼なじみは、そういいながら、妻の枕元に手を突きながら、ゆっくりと立ち上がったのです。
「誤解は仕方ないですから、ね、ご主人、先ず、そこに座りましょうか」
 目だけは、そのままに、頬に浮かべた作り笑いには、勝ち誇ったというより、なぜか、暗く、歪んだものが込められている気がしました。
 そして、確かに、どうぞ、とイスを差し出しながらうつむいた顔が、ニヤリとしたのです。
 本来は暴力とは無縁に生きてきた私です。
 他人の顔を殴った経験など、小学生のケンカ以来のことでした。
 しかし、それであっても、このニヤリとした顔を許すわけにはいきませんでした。
『俺をバカにしやがって。俺の美穂をオモチャにしやがって』
 自分でも、何を思っていたのか、果たして、もう一度本当に殴ろうとしていたのか、それすらも確信はありません。
「てめぇ!」
「やめてぇ!」
 怒声と悲鳴が交錯する中で、再び伸ばした右手が届くかどうか、という瞬間、バキっという音と、きな臭い匂いが鼻の裏でして、目の前が真っ暗になりました。
 身体を支える力がすーっと抜けていく中で、微かに思い出したのです。
 彼は身体を鍛えるために、ずっとボクシングジムに通っていたことを。
 勉強の邪魔になるあらゆる事を禁止した父親も、男の子が身体を鍛えることだけは必要だと思ったのでしょう。
 いわば、親に許された、唯一の彼の趣味だったと言っていいかもしれません。
 考えてみれば、私自身が、学生大会の決勝戦に差し入れを持って行ったことすらあったはずなのに、そんな都合の悪いことは、すっぽりと頭から飛んでいたのです。
 つくづくバカでした。
 それから、覚えているのは、消毒薬の匂いがする、ひんやりした床に頬が付く瞬間の心地よさと、どやどやと部屋に入ってくる、ぼやけていく視界に映るたくさんのナースシューズでした。



管理組合の役員に共有された妻 126
エス 7/9(月) 22:25:46 No.20070709222546 削除
二人にからかわれたことに気づき、放心したようになっていたところに電話をしてきたのが高橋さんでした。
高橋さんはあのときの写真を返すと言う口実で、再び私たちの部屋を訪ねてきたのです。
そのことは、前の日にあなたにもお話したので、あなたも知っていましたよね。
それともあの日のことも、私が他人に抱かれたときの興奮が忘れられないあなたが、高橋さんに持ちかけた計画だったのでしょうか。
いまさら、どうでもいいですけど。

家に来たのは、高橋さんのほかに、中島さんというおデブの浪人生と、小川さんというバーコード頭のアニメオタクさんでした。
よくこんな人を探してきました、と拍手したいくらいでした。
妻を陵辱する相手としては、見た目が醜かったり貧相であればあるほど興奮するのでしょう?
「こんな男に妻が…」っていう心理ですね。
これでも最近ようやく、妻を寝取られたい男性の気持ちが少し理解できるようになったんですよ。

結局私はその二人に体を貸し、また高橋さんにその様子を撮影されたのです。
詳しく言わなくても、目の前で見ていたあなたは良くご存知ですよね。
私の乱れぶりは、いかがでしたか?
あなたのエム性を満足させることができましたか?

その日のうちにゆうたを連れて実家に帰ったことについては先に触れたとおりですが、翌日どこで調べたのか小川さんからメールが入っていました。
高橋さんが連れてきたバーコードさんの方です。
メールの中では、私は小川さんの恋人でした。

「昨日はどうして口でしかしてくれなかったの?」
「中島君のおチンチンは嬉しそうに入れたくせに…」
「僕は浮気した君をゆるさないよ…」
1時間おきにメールを送ってくる小川さんが怖くて仕方ありませんでした。

私は、小川さんを傷つけないように、やんわりと自分は小川さんの恋人ではないことを伝えるメールを返信しました。
しばらくすると、画像を添付されたメールが届きました。
携帯電話の画面いっぱいに、小川さんのおチンチンを咥えたまま、カメラ目線でピースサインをしている私がいました。

全然身に覚えのないポーズですが、昨日の異常なシチュエーションで撮られたものだということは、すぐわかりました。
あの時の私は、まるで催眠術にかかったように、無意識に高橋さんの指示通りのポーズをとっていたみたいです。

本文には、「僕の恋人チンポ大好き僕の恋人チンポ大好き僕の恋人チンポ大好き僕の恋人……」とびっしり書いてありました。
昨日の悪夢がよみがえりました。
小川さんの異常な精神世界に触れて、体の震えがいつまでも止まりませんでした。





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妻の入院 39
医薬情報担当 7/9(月) 21:36:02 No.20070709213602 削除
 けして感じてはならない快感に、妻の身体は乗っ取られようとしていました。
 誠君にとっては「幼なじみ」であっても、既に人妻なのです。
 それでもなおかつ、夫である私のいない間に、何度も、こうして弄んで来たのに違いないのです。
 妻が怒らないのが不思議というか、腹立たしくも感じます。
 しかし、私がとうとう勇気をさせなかったあの最初の日に、一度、オーガズムを感じさせられたら、オンナは受け入れてしまうものかもしれません。
 巧妙な方法ではありましたが、けっして、無理矢理ではありませんでした。
 そうである以上、何度も受け入れてしまった今となっては、やめさせるのは難しいのかもしれません。
 それに、私にとって、一番恐ろしいことがあります。
 身体を快感に乗っ取られると、オンナは心まで奪われることがあるのでしょうか?
 私が東京に行っている間に、こんな痴態を、毎日、何度も繰り返したにちがいないのです。
 こうやって、少しずつ、黒い快感を覚え込まされている妻の心は、夫である私から、まったく動いていないのでしょうか。
 黒い快感をすり込まれた人妻は、次第次第に、快感を与える人間の方へと…
『そんなはずはない。妻は、妻に限って』
 しかし、妻は、元々はこの誠君と付き合っていたのです。
 昨夜、井上さんから聞いた話が、私の自信を既に奪い取っていました。
『ひょっとして、おじゃま虫は、俺の方なんだろうか』
 彼の与える快感を受け入れたがゆえに、彼という存在を受け入れてしまうのか。
 あるいは「彼という存在だから、快感を受け入れてしまう」のか…
 私の頭の中で、私ではない誰かが、頻りに「存在だから」と叫んでいました。
 金縛りとはこういうことを言うのでしょうか。
 妻を助けなければと思っているはずなのに、ピクリとも動けません。
 そのくせ、私の両目は、モニタから一瞬も剥がれようとしません。私の両耳は、妻の恥ずかしい声を全て拾おうとしています。
 モニタの中で、見たこともないような色気を発しながら、懸命に快感と闘う妻の顔に、どす黒い欲望を呼び起こしてしまっていました。
『どうせ、今日が最後だ、少しくらいなら。今のうちにせいぜい…』
 どう言い訳しても、そう考えてしまった自分は、正常ではないと思います。
 しかし、他のオトコに操られながら、恥ずかしい言葉を言うまいと我慢する妻に、私自身の怒張が膨らみきっていたのです。
 決して認めたくはないけれど、誠君の良いように操られる妻の姿は、とても美しく、エロティシズムに満ちたものだったのです。
「ほら、美穂、言ってごらん、さ、僕の後にね。さ、言って。出してって」
「あぁ、恥ずかしい、あう、だめ、もう、あぁ、だ、出して、あん!」
 誠君の右手が、妻の左の膨らみをとらえています。
 乳首を指の付け根で挟むようにしながら、荒々しく揉んでいました。
 誠君の前屈みになったからだが邪魔で見えませんが、妻の左手は、相変わらず差し伸ばされたままで、不自由な身体ながら、懸命に動かしているように見えました。
「いっぱい出してって、さあ」
「あうぅ、あぁ、もう許して。 ああ!出して! いっぱい出して! お願い!出してください!」
「よし、よし、よく言えたね」
 誠君の頭が、妻の顔に重なります。
『キスを …受け入れて?』
 妻の左手は、誠君の身体を押しのけることもなく、相変わらず股間に伸びていました。
 誠君の両手は、二人が重なっている間も、休むことなく妻の快感を掘り起こしていたのです。
 胸を揉む手は、せわしなく動き続け、秘所に差し入れられた左手は、ややゆっくりと焦らす動きを続けていました。
「どこに?」
 長い、長いキスの後で、誠君のねっとりした質問が響きます。
 いえ「答え」など、初めから決まっているのですから、それは質問ですらなかったでしょう。
「どこに出そうか?ここ」
 妻の顔がいやいやと動きます。
 急に機敏になった拒否の動きに、妻の意志が色濃く出ている気がします。
 これほどになっても、セックスだけは嫌がってくれる妻に、なぜか、泣けそうになってしまいます。
「じゃあ、お口だね」
「あぁ、いやあ」
 先ほどとは違い、なぜか、甘やかな吐息とともに、吐き出された拒否の言葉です。
 これなら、男からすると、拒否といっても、半ば許されたも同然でした。
「どこに出すの?」
「いやあ、だめぇ、あぁ、はやく出してぇ、あう」
「美穂、ここに出して良いのかなあ?」
 大きく、誠君の左手が動いていました。二本の指が妻の中に入っているように見えます。
「ダメ!だめ、だめ、やめて」
「じゃあ、飲む?」
 もはや、飲むと言わない限り逝かせてもらいのは、妻にもわかりきったことのはずでした。
 それでも、これだけ抵抗した妻のことを愛しいと思いました。
「あぁ、許してぇ、あう、ああ、もう、あう、ああん、そんなぁ」
「ちゃんと言えば、逝かせてあげるよ」
「だめぇ、ああ、く、くるしくて、あぁ、もう、許してぇ、あぁ、おう、もう、お許しを… お願い、します、あう」
 妻の身体がオーガズムにのけぞりそうになる度に、その指が抜かれ、妻の辛そうな淫声が部屋に響きます。
「じゃあ、今日は、どこに出そうか」
 もう何度目かわからない、指の動きを再開しながら、ねっとりと尋ねます。
 まだ、若い誠君の言葉責めは、しつこい中年のサディストさながらに、妻を責めさいなんでいました。
 しかし、妻は、色っぽい悲鳴を上げつつも、懸命に、オンナの媚びの色を見せて耐えていました。
「あぁ、やめてぇ」
「ほら、美穂、どこに出す?もう、逝きたいんだろ?」
 妻が大きく、そして、何度も何度も頷きます。
「さ、どこに出すの?美穂の中?お口?」
「あぁ、だめぇ。あう!お口に、あぁ、お口に出して良いから、お願い、もう、あぁ」
「美穂、逝かせてあげるよ」
「ああぁ、あう!出して!お口に出してぇ、あうぅう、ああ、お願い、もう…」
「よしよし。逝っても良いよ、良い子だ、よく言えたね。さ、ほら、どうだ、こうして、逝かせてやる。どうだ、ほら、僕のを飲むんだよ」
「あ、あ、あ、あおぉぉお!ああ!逝っちゃう、ああう、出して、美穂のお口に、あぁ、飲みますから、あう、飲ませてぇ、あ、あ、あ、い、いく、いくぅ!」
 妻が、不自由な身体をのけぞらせます。
 男のエキスを、それも夫以外のエキスを飲むと誓いながら、とうとう、妻はいけないオーガズムを与えられたのです。
 もはや、限界でした。
いえ、本当は、とっくに妻を助けに行くべきだったのは当然だったのです。
 しかし、黒いオーガズムに達した妻にハッとした瞬間、妻に、また一つ汚辱を染みこませてしまったのかと、悔やんでも悔やみきれない後悔が心を引き裂きます。
 しかし、自分を責めるのは後です。
 こうなっている以上、もはや、証拠など必要ありません。
 今踏み込んで、後で、この証拠を突きつけて転院させれば良いだけなのです。
 決心した私は、それでも、慎重に小さな扉から出ると、一つ、大きく深呼吸して、対決に向かったのです。



管理組合の役員に共有された妻 125
エス 7/8(日) 21:27:28 No.20070708212728 削除
次の日、私は一人で鈴木さんのお見舞いに行きました。
私の理性はそれを否定しますが、もしかしたら、私を陵辱した男の一人が惨めにベッドで弱っていく姿を見届けたい、という残酷な本能がそうさせていたのかもしれません。

最初のころこそ遠慮がちだった鈴木さんは、すぐに持ち前のずうずうしさを取り戻し、まるで家族のように私にいろいろなことを命じました。
鈴木さんの態度に、「所詮、一度やった女」という見下した気持ちが透けて見えましたが、不思議と怒る気持ちになりませんでした。
鈴木さんは、私の反応を見ながら少しずつ性的な要求をしてきました。
私にはもともと逆らう気持ちもなく、初めからなるべく応えることに決めていたのでした。

最初は、この前のように裸を見せてほしい、といわれました。
個室とはいえ、さすがにいつ誰が入ってくるかわからない病室で服を脱ぐことはためらわれましたので、おなかまでスカートをめくり、パンティを見せました。
後ろを向いてほしい、と言われればそれに従いました。
そのままスカートをもとに戻してしゃがんだり、ブラウスのボタンを少しだけはずして、「パンチラ」や「ブラチラ」も見せました。

そのうち「奥さんのせいで、こんなになっちゃったよ。責任とって手で抜いてよ。」
と言われました。
私は、看護士が入院男性の性処理を手で施すこともある、という鈴木さんの薀蓄を聞きながら、再び鈴木さんを射精に導いたのです。

別の日にはおっぱいを吸わせてほしい、と言われました。
少しだけ落ち込んでいるように見えた鈴木さんに、私は勝手に「死にゆく男性の母体回帰」を連想し、涙を流してしまいました。
鈴木さんは、一瞬びっくりしたような顔をしましたが、素直にブラジャーをはずした私の乳房に顔をうずめ、乳首を口に含みました。
私は胸を鈴木さんにあずけたまま、また射精の手伝いをさせられたのです。
イきそうになると鈴木さんは、私の胸から顔を離しました。
そして、私は口を使って鈴木さんの性処理をさせられたのでした。

こうして、1週間の間毎日鈴木さんの世話をしているうちに、鈴木さんはあっさりと退院してしまいました。
「もともと検査入院だから。おかげさまで、どこも異常なかったよ。」
そう言われても、私には何がなんだかわからず、
「おめでとうございます。」と引きつった笑顔で言うのが精一杯でした。



妻の入院 38
医薬情報担当 7/8(日) 16:55:23 No.20070708165523 削除
「ほら、こんなにしたのは、美穂ちゃんが悪いんだよ。こんなにエッチだから」
「あう、そんな、だって、そんな風に触るんだもの」
「けっこう大きいだろ? また、直接触る? 今日は明るいけどさ」
「いや!お願いよ、そんなことさせないで。彼に申し訳ないもの」
「だって、ほら、大きいって言ってくれただろ」
 画面に、誠君の後頭部が映ります。妻の顔を覗き込んでいるのでしょう。
 誠君の視線に耐えられないように、横を向いてしまいますが、左手は、わずかに動きながら、はだけた白衣の間から出てきません。
「おっと、なかなかだね。知らなかったよ、美穂ちゃんがこんなにテクニシャンだなんて。昨日のフェラも上手だったし。どう、ご主人にもやってあげるの?」
「そんなこと」
「どう?あの人と比べて。僕のも小さくないだろ。今日は全部飲んでもらうからね」
「あぁ、聞かないで、あぁ、お願い、そんなことできないの、あぁ、もう、やめて」
『飲んでって、妻はフェラをしてしまったのか』
 それが昨日といわれて、胸がチクチクと痛みます。
 もし、井上さんと寄り道をしなければ、妻の唇は、私のもの以外をくわえることなどなかったかもしれないのです。
 自業自得とはこのことかもしれません。
 情報を取るという名目で、あの、若くて新鮮な女体に溺れた自分を責めるのに夢中になって、ついつい行動が遅れました。
「じゃあ、こうしようか、僕が逝くか、美穂ちゃんが逝くか。美穂ちゃんが先に逝っちゃったら、その後、僕のを昨日みたいにお口でするんだよ。もちろん飲めるよね」
「そんなあ、いやあ」
 嫌がるけれども、その声は少しも嫌がっていないように感じます。 
 それにしても、妻はフェラが苦手で、まして、飲むのも嫌がります。私のものすらめったに飲んでくれません。
『簡単に、飲ませるなんて言いやがって』
 腹立ち半分に思います。残りの半分は、知らずに、妻の舌の感触を思い出そうとしていたのです。
「僕が先に逝っちゃったら、今日はここまでにしようね」
「もう、こんなことは」
「いいだろ?簡単だもの。美穂ちゃんがフェラを嫌なら、手で出してくれれば良いだけ」
「だめぇ、できない」
 甘え声の拒否の一方では、左手は相変わらず、はだけた白衣の中に差し込まれています。
 妻の柔らかな手が、ズボン越しに誠君の怒張をまさぐっているはずでした。
 話しぶりだと、とっくにその怒張は文字通り、硬く張りつめているはずです。
「さ、はじまり、はじまりぃ〜」
「あう、だめ、あう、そんな、ずるい」
「ずるい?」
「だって、あの、だって」
「あぁ、僕のは服越しだってこと? 何なら、僕の、取り出そうか?」
「違う!そうじゃない。直接はダメなのぉ、出さないで。私ばっかり、そんな直接…」
「だめだめ、美穂ちゃんは、あえて、服越しを選んでいるんだからね。僕は選ばないだけだよ。ほら、美穂ちゃん、急がないと、もうこうなってる」
「あぁ、あう、ダメだってばぁ〜」
 妻が不自由な身体を身じろぎさせて上半身をくねらせます。
 手首が邪魔で見えませんが、その指は確実に妻の秘唇をとらえているようです。
 出し入れする動きからすれば、指が既に入っているのかもしれません。
「あぁ、だめえ」
 口ではいやがってはいても、既に誠君の仕掛けたゲームに乗って、妻は左手を懸命に動かしていました。
 いえ、ゲームではなくても、妻の左手は、私以外の怒張の感触から離れられなくなっているのかもしれません。
 妻は、私の目の前で、私以外の男の怒張を服越しにとはいえ、不自由な身体で愛撫しているのです。
 昨日も、こうして触られながら、誠君を愛撫し、あげくにはフェラまでしたのなら、妻は、もう、私以外の怒張の感触を覚えてしまっているはずでした。
 処女でもないのですから、手で、口で覚えた感触を、わが身の内に入れることを想像しないわけはありません。
「ほら、美穂ちゃん、ちゃんと、出してっていわないと、なかなか出ないよ、昨日勉強したでしょ。ほら言ってごらんよ。出してって。そうしたら、早く出しちゃうかもよ」
「言えるわけ、あう、あぁあ、もう、ない。ああ」
「ほら、言ってくれたら、きっと、大サービスで出しちゃうと思うなあ。でも、言ってくれなければ、服の上からだもの、あと1時間は大丈夫」
「そんな…」
「ほら、言ってごらん。それとも、俺のをまた、フェラしたい?それなら言わなくても良いけど」
「だって、あう、もう、あうダメ、お願い、そんなにしたら」
「ほら、美穂ちゃんも限界だろ?早く言わないと。どうする、フェラする?」
 いやいやをする妻に、たたみかけるように「出して」と言え、と強要するのです。
 困惑の表情を浮かべ、懸命にいやいやと首を振りますが、そのくせ、少しも嫌そうには感じませんでした。
 メスの媚びというべきなのか、懸命に首を振る妻の目は閉じられていても、刻一刻と胎内に募る快感に頭の中を占領されつつあるのがよくわかります。
 誠君のやっていることは、許すべきことではありません。
 しかし、許せない、という怒りとともに、快感にわが身を乗っ取られようとしているメスの顔を「美しい」と感じてしまったのです。
『もう少しだけ、もう少しだけ見ていたい』
 自分でも愚かな選択をしていると思いながらも、身体が動こうとしませんでした。



管理組合の役員に共有された妻 124
エス 7/8(日) 14:36:16 No.20070708143616 削除

新年会から3日後、田中さんから電話がありました。
鈴木さんが入院したので一緒にお見舞いに行こうと言うのです。
「この前ハッスルしすぎたのが原因みたいですよ」
と、まるで私を咎めるように田中さんは言いました。
「それに、もう親戚みたいなもんなんだから」と、ぞっとするようなことも言われましたが、断ることもできず行くことになりました。

待ち合わせた喫茶店で田中さんから、実は鈴木さんの病気がもともと治る見込みがないこと、このまま衰弱して寝たきりになってしまう可能性が高いことを聞かされました。
自分の周りの人が、しかも50代でそんな重い病気にかかるなんて、とても信じられませんでした。
鈴木さんの奥さんは鈴木さんがリストラ退社した時に家を出て、今は別居中なのだということも、その時に知りました。
そして、鈴木さんが入院しても奥さんは一度も顔を出さないようだ、とも聞かされました。

私がそんな話に弱いことは、あなたが一番良く知っていると思います。
もしかしたら、あなたが手引きしたのではないかと後で疑ったこともありましたが、それは邪推でしたね。
でも、私の心のどこかに、私の恥ずかしい姿を知る人が一人いなくなるかもしれない、という思いがあったことも否定できません。
私はそんな風に考えてしまう自分を軽蔑し、出来る限りのことをしてあげようと思ったのでした。

病院の個室で鈴木さんは元気そうでした。
お見舞いに持ってきたりんごの皮をむいていると、さきほど田中さんが鈴木さんに渡していた紙袋の中身が見えました。
無修正の女性器の写真が目に留まりました。

袋の中身を見ていた私に気づき、鈴木さんが気まずそうに目をそらしました。
一瞬でカーッと顔が赤くなるのがわかりました。
病気とは言っても、鈴木さんが性的には全く問題がなく、むしろ普通の人よりも精力的であることについては、あなたにも異論はないことと思います。
健康な男性が、女性の裸を見たがるのは当然なのでしょうが、もしかしたらあのときの私の写真ではないかと思い、動揺してしまったのです。

今思えば、あなたも良く知っている通り、あれ以来毎日のように私の写真がネットでばら撒かれ、全国のいやらしい男性の目に晒されていたのですから、もしそれが私の写真だったとしても、今更狼狽することもなかったのですが。

私は取り繕うように「何かお手伝いすることがあったら言って下さいね」と言っていました。



妻の入院
医薬情報担当 7/7(土) 22:17:08 No.20070707221708 削除
 早くも暑さを感じさせる朝でした。
 まだ6時前。
 農作業をする人たちはとっくにでかけていますが、さすがにこの時間は、通勤客はいません。
 さっき、町外れで、井上さんの軽が去っていくのを見送ってから、ふと、山を背に振り仰ぐと、高々と病院の建物が見えました。
 あの一番上の階に、妻がいるはずです。
 おそらくまだ眠っているのでしょう。
 規則正しく「朝」が始まる病室の、明かりはまだ一つも付いていません。
 ため息をついてから、歩き始めます。
 ふと思い出して、いつも尻ポケットに入れている携帯を取り出しました。
メール着信のランプが、点滅していました。
 小さな赤いランプがチカチカとしているのは、おそらく、昨夜以来メールも電話も入れていない私へ、妻からのものでしょう。
 愛する妻からのメールのはずですが、なぜか、その赤い点滅に禍々しさを感じてしまって、しばし開くことができません。
 恐る恐る広げた画面には、妻からのメールが5通入っていました。
 歩調をいくぶん速めながら、その全てを、読むこともなく、一つ、また一つと消してしまいます。
 全てのメッセージを、ダイナマイトの起爆装置を押すようなためらいと、覚悟で消し去り終わった時には、もうすぐ、目の前に病院の駐車場がありました。
 駐車場のパイプ囲いを、身をかがめて通り抜けると、そのまま、迷うことなく横切って、向かったのは非常階段でした。
 我ながらバカなことをやっていると思います。
 しかし、あの非常階段から侵入した時の妻の痴態がちらついてしまうと、ここから入ることしか考えられなくなったのです。
 面会時間まで待つのなどまっぴらごめんです。
 非常口は、いまだに開いていました。
 のんびりした田舎のことですから、点検など年に一度もすればいい方なのでしょう。
 まして、24時間、人が動いている病院に侵入するものなど考えられないので、いい加減なのだと思います。
 その、いかにも田舎ののんびり加減のおかげで、無事、侵入を果たした私は、この間の出来事をなぞるように、あの控えの間に忍び込みます。
 まだ、妻が寝ていれば、先にレコーダーを外してしまおうと思ったのです。
 とてもではありませんが、夜まで待つことなどできないと思いました。
 しかし、同時にそれは、半ば確信的に妻の痴態を見ることになるという覚悟と、認めたくないけれども、ある種の期待があったのは確かでした。
 期待とは裏腹に、妻の病室の明かりは煌々と付いていました。
 この続き部屋に入る前、病室の入り口にある曇りガラスの窓からは、煌々と灯りが漏れていて、それと知ることができたのです。
 部屋の扉をそっと閉めている間にも、隣の声は聞こえてきました。
「ね、ね、お願い、こんなこと、ダメなの。もう自分でできるってば」
「何度言っても、わからない患者さんだなあ。こういうところの始末は、きちんとする必要があるって、何度も言ってきたろ。まだ、お風呂に入れてあげらんないんだし」
「だって、まこちゃんに頼むと、それだけじゃすまないんだもの」
「ははは、それは、美穂ちゃんがエッチなだけじゃん」
「もう! 言わないでよ。ほんとは、嫌なんだから。こんなこと」
「だって、もう、すっかり、ここ、知っちゃったからね。ご主人よりも、きっと、よく見てるよ。こんな風に感じるところ」
「あん! もう、イタズラしないでぇ。だめぇ、あぁ」
 既に、恋人同士の睦言のような、そんな雰囲気がありありと出ています。
 猛烈な嫉妬心と腹立たしさに、肩が震えだし、止めようとしても止まりません。
『俺のいない間に、どれだけ乳くりあったんだ』
 しかし、考えてみるとチャンスです。
『この会話の中に、何か、二人の関係を知る手がかりがあるはずだ』
 そう自分に言い訳をしながら、聞き耳だけを立てている私がいました。
「ほら、ここ。こっちも」
「あん、だめ、あう、もう、やめてったら。ねぇ、今日は主人が来るのよ」
「だけど、ご主人からのメールが届かないんだろ?もう、今頃、どっかで浮気でもしてるんじゃないの」
 ドキリとしました。
「そんなはずないもの。一人暮らしだから、ちゃんと食べてるの… あん! もう!」
「はは、大丈夫、大丈夫」
「真剣に考え事をしてるんだから」
「そんなの後にしたら。ま、今日は来たとしても、まだ、病院には着いてないし、第一、面会時間まで2時間以上ある」
「きゃ、むぐぅ」
 妻の口が急にふさがれたような音がします。
一瞬の静かな時間がありました。
 そして、しばらくの沈黙の後で、また、誠君の声が先ほどと変わらぬ調子で響きます。
「それに、今日はご主人がいるから、今じゃないとできないだろ?」
「そんなコトしなくて、あん!いいの、ね、もう、しないで。主人の顔が見られない」
「だって、昨日だって、一昨日だって。昨日なんて、あんなに連続して美穂ちゃんが逝けるなんて思わなかったよ。まるで…」
「いやいや! ダメ、言わないで」
「もし、いやなら、僕からご主人にお詫びしておこうか?良いんだよ。僕は。むしろ、そうなった方が…」
「お願い! 言わないでで! あう、ダメ、ダメぇ」
「大丈夫、美穂ちゃんが嫌がる事なんてするはずないだろ」
「あん!だって、今も、嫌なのに」
「あれ、嫌なの? だって、こんなになってるよ。本当に嫌ならこうなるはず無いよ。昨日だって。気持ち良かったろ? ほら、僕の。これ、こうなってる」
 震える手が、モニタのスイッチを無意識のうちに入れていました。
 目の前に浮かんでくるのは、思った通り、あの痛々しいまでのヌードを見下ろす映像です。 
「約束だろ、今日は、これ、美穂ちゃんがちゃんと見る番だって」
「そんな、約束、して、ない」
「あれ、昨日のこと忘れちゃった?どうしても嫌、なんていうから、10分我慢したらそれだけにしてあげるって約束をしたのに」
「だめえ、言わないで」
 妻の声に甘えが含まれている気がしました。
「だけど、もっとして、言ったのは美穂ちゃんだよ」
「だって、あれは、あんな風にされたら…」
「苦しくなったんだろ?それは美穂ちゃんがエッチな証拠。とにかく、触ってあげるから、昨日は暗くしちゃったからさ」
「だって、恥ずかしくて、主人の以外は、見たことなんて」
「そう、だけど、結構上手だったよ。美穂ちゃんの舌遣い」
「やめてぇ、言わないで、お願い」
「だから、今日は美穂ちゃんが僕のを見る約束だものね」
 既に点滴のチューブは取れています。
 自由になっている妻の左手を、誠君は、自らの股間に持って行きます。
 白衣をはだけた中に差し込まれる妻の手は、いやあという声とは裏腹に、誠君の手が離れても、いっこうに離れはしませんでした。
「ほら、硬くなってるだろ?あの頃は、こんな風になったら、恥ずかしくて隠してたんだ」
「私だって、あの頃はこんなの知らなかったもの。あぁ、もう、ね、お願いよ」
「今日こそ、美穂ちゃんにじっくり見てもらうよ」
「あぁ、そんなことできない」
 妻の声は、泣きそうな色を帯びていましたが、モニタに映るその目は、既にメスの光を放っていた気がしました。



管理組合の役員に共有された妻 123
エス 7/7(土) 17:02:55 No.20070707170255 削除

あなたへ

毎日メールをいただいていますが、お返事するのは初めてですね。
メールではなく手紙が届いたことに、驚いていることでしょう。

ゆうたのこと、ご心配だと思いますが、大丈夫、元気でやっています。
あなたも、一人で何とかやっているみたいですね。

正直に言えば、私の中で気持ちの整理がついたわけではありません。
でも、いつまでも今のままでいるわけにもいかなくなったのです。
お察しのとおり、おなかに赤ちゃんが出来ました。
あなたにどうしてほしい、と言うつもりはありません。
実家は居心地がいいし、両親もずっと私たちにいてほしそうにしています。
それに、孫がもう一人増えることを、すごく喜んでくれているのです。

私は、あなたのことを全然わかっていませんでした。
だから、新年会のことはあなたに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
もともと私が蒔いた種だし、一度だけのことと、あなたが我慢してくれていると思ったからです。
私よりも、あなたのほうがずっとつらい思いをしていると思っていたのです。
だって、自分の奥さんが他人に抱かれているのを見て喜ぶ人がいるなんて想像したこともなかったから。

あの時のこと、高橋さんがインターネットで流していたこと、ご存知ですよね。
高橋さんから見せられたとき、すごくショックでした。
でも、もっとショックだったのは、あなたが他人の振りをして何度もコメントを入れていたことです。
後で高橋さんにそう言われても、私にはとても信じられませんでした。
二度目のことは、そんなさなかに起こったのです。
あなたは、私が犯されるのを、黙って見ていましたね。

いいえ、むしろ興奮しながら見ていたのです。
目隠しが途中ではずれていて、何度もあなたと目が合いました。
それなのに、あなたはまるで私が何も見えていないかのように、あのおぞましい光景を傍観していました。
それほど興奮していたのですね。

私はその日のうちにゆうたをつれて実家に戻りました。
何と言ってゆうたに説明したのか、どうやって車に乗ったのか、家の戸締りをして出たか、何も思い出せません。
気がつくと、実家にいたのです。

翌日からは、一人になれる時間が多かったので、だんだん落ち着きを取り戻しました。
あなたのこともいろいろ考えました。
2度目のことは、あきらかにレイプでした。
あなたは、私が感じてしまったから、そうではないと言うかもしれませんが、それは間違いです。
でも、いまさらあなたにわかってもらおうとも思いませんし、もうどちらでもよくなってしまいました。



管理組合の役員に共有された妻 122
エス 7/4(水) 23:24:30 No.20070704232430 削除
 妻は、実家の両親には私が地方転勤になったと言っていたようでした。
いままで大きなトラブルもなかった私たち夫婦のことですから、娘の言うことをいちいち疑うこともなく、また、もともと親子の仲が良く、頻繁に行き来していた上に孫と一緒に暮らせることになったのですから、嬉しさのあまりそれ以上深く考えなかったのでしょう。
こうして、妻と息子はしばらく妻の実家で暮らすことになりました。
 息子の小学校のことが気になっていましたが、3学期の間は車で送り迎えをし、4月からは実家の近くの小学校に転校させたそうです。
息子にとっても、もともと「おじいちゃんとおばあちゃんの家」で、夏休みや正月でなくても度々遊びに来ているわけですから、近所になじみのお友達がいないわけでもありません。
それに子供のことですからすぐに新しい生活にも慣れて、毎日元気に遊びまわっているそうです。
そして妻は特段に変わった様子もなく、独身時代のように何もせず買い物に行ったりお友達と会ったり、ブラブラしている、と義母は楽しそうに愚痴るのでした。
 結局、息子と妻の近況はすべてこの義母から聞きだしました。
一度私が、あまりにもしつこく妻のことを聞きすぎたため、
 「たまにはあなたのところに行っているんだから、それくらい聞いているでしょう?」
と言われたときは、一瞬頭の中が真っ白になりましたが、義母に悟られないように必死にごまかしました。
 義母の話によれば、実家に落ち着いて2週間ほどたったころから、妻は度々「私の単身赴任先」に泊りがけででかけているようです。
義母も、私を単身赴任させていることに多少の引け目を感じているのでしょうか、「本当は、もっと頻繁に行かなきゃならないのにねえ…」と言い訳をするように言うのでした。
ただ、妻が一向に息子を連れて行こうとしないことについては違和感を感じていたようですが、もともと物事にこだわらない義母ですから、その話も一度きりで終わってしまいました。
 『妻が外泊している…』
もちろん妻が私のところに戻ってきたことなど一度もありません。
妻はいったいどこに行っているのでしょうか・・・。
誰にもぶつけられない疑問を抱え、私は毎日のように妻にメールをしましたが、返事は一度もありません。
結局、「息子と話したい」という口実で毎日妻の実家に電話をして、それとなく近況を探るしかないのでした。
 何度か妻を電話口に呼び出そうとしたのですが、妻は決して電話口に出ようとしません。
いつも、『今、手が離せないから後で電話する』とか『メールで連絡をとっているから特に話すこともない』などと義母から伝えられるだけでした。
妻から逃げ出してしまった負い目のある私は、妻の話に合わせるしかなく、義母に対しても大して気にしていない振りを続けていました。
義母が不審に思うようになるといけないので、そのうち、電話口に妻を呼び出すことは完全にあきらめてしまいました。
こうして3ヶ月が過ぎたある日、妻から長い手紙が届いたのです。





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悪夢 その54
ハジ 7/2(月) 00:06:21 No.20070702000621 削除

 まさに鶴の一声といったところでしょうか。

「どちらにしても、その怪しげなディスクの中身をあらためなければなるまい」

 校長の弓削の一言で、大勢は決したのでした。
 当然、妻の秋穂は、DVDの持ち主である息子のプライバシーの問題を持ち出しましたが、

「中学生に人権など必要ない」

 一方的過ぎる言い分の前に退けられました。
 一連のやりとりから、この弓削という男の教育者としての一面を垣間見ることができます。
 何年か前にすぐそばの高校で、ひとりの生徒が麻薬中毒者として警察に逮捕される事件が起こりました。少年は薬を自ら嗜好するだけではなく他人にもどうやら売りさばいていたようで、顧客の中に後輩である中学生がいるという噂が広まり、地域一体が騒然となりました。
 そのとき、全校一斉検査を主張したのが当時の弓削でした。不用意な発言はこどもたちの人権を無視するものとして当然バッシングを浴びたのですが、皮肉なことに後に他校の生徒からの情報で生徒のひとりがドラッグを所持していたことが判明。検査の結果、陽性が示され、ある意味彼の正しさが証明されるということもありました。

「それに木多先生。あなたのほうにも多少問題があるのではないのかね」

 突然、攻撃の矛先が自分に向けられたとき、さすがに秋穂も不快さを隠そうとはしませんでした。

「どういうことでしょうか。おっしゃっている意味がよくわかりませんが」

 妻の強い語気にも、平然として弓削は薄笑いを浮かべます。

「事実かどうかは別にして、こんな噂が立つこと自体、あなたに隙があるということではないのですかな」
「…………」

 あまりの無礼の物言いに、いかに冷静な妻も言葉を失ったにちがいありません。その証拠に小刻みに肩が震えているようにみえました。
 そんなことには一切構わず、さらに弓削は言い募ります。

「だから、妙なジャーナリストなんぞが近寄ってくるんだ」
「ジャーナリスト?」

 鸚鵡返しに問う私をみて、羽生が「しまった」という顔をしました。

「何を隠す必要がある。この二人は正真正銘の夫婦なのだろう?」

 夫婦なのだから、当然そのようなことは話し合われているにちがいない。そう片づけた弓削は私のほうを一顧だにしません。
 そう。確かに普通の夫婦なら、仕事上の悩みも打ち明けているのかもしれません。だが、うちは正常な家庭とはちがうのです。
 私が説明を求めるように目を向けると、黙っていた羽生が仕方なさそうに口を開きました。

「秋穂先生にマスコミらしき人間が接触したという情報があります」

 驚いた私は妻に目を転じました。しかし、彼女は弓削のほうを見たまま、目を合わせようともしません。

「なぜ、彼女に。いったい、どういうつもりで?」

 私はたまらず聞いていました。マスコミと耳にして、頭をとっさにスキャンダルという文字がよぎったのです。
 寡黙な妻はうつむき気味に一度だけ瞬きをして綺麗なまつ毛を揺らしましたが、すぐに視線を戻します。
 返事をしない彼女に、さきに苛立ったのは羽生でした。

「どうして秋穂先生に狙いをつけたのかはわかりませんが―――学校というより、“おしばな”のことを嗅ぎまわっているようなのです」

 “おしばな”というのは、羽生が主催している例の劇団のことです。
 参加資格は十代の若者で、別にS中出身者でなくても構いません。主にダンスと創作劇に中心に年に数回の公演も行なっています。
 やる気のなかった不良少年がはじめて打ち込めるものを見つけた等、美談ばかりがもてはやされていますが、実は少し不明朗な点もあります。その潤沢な活動資金はすべて寄付から成っていると言われていますが、その詳細についてはあきらかにはなっていません。一説によると、かなりの大物がバックアップを請け負っているということなのですが、その善意の第三者は自らの名を決して明かそうとはしないのです。

 そんなことより、羽生が同僚の秋穂を見張っていた理由がわかりました。校長や羽生の苦々しい態度から察すると、彼女がその素性もわからないジャーナリストに、学校に不利益なことを口走ることを警戒したのでしょう。監視の理由としては十分納得できます。
 問題はどうして秋穂が協力者に選ばれたのか、です。劇団の活動内容にもっとも詳しいとはいえ、深く入り込んでいる羽生に聞くわけにはいかなかったとはいえ、それほど活動に熱心でもない彼女に何故白羽の矢が立ったのか。そのあたりのことは弓削や羽生もつかんではいないのではないでしょうか。

気がつくと、秋穂が私のほうをみていました。彼女の顔を正面からみるのは、随分しばらくぶりのような気がします。
 まっすぐに伸び顔をほぼ左右均等に分けた鼻筋が、つくりものめいた美しさをうかがわせます。

「私はその方に直接お会いしたわけではありません。ただ、知り合いを通じて話を聞いただけです」
「だから、それがなんなのか、こっちはそれが知りたいんだよ」

 羽生が苛立たしげに近くの壁を叩きます。秋穂はそれに動じるふうもなく、ほどんと体温を感じさせない唇をわずかに開きました。

「お答えするわけには参りません」

 そして、その後はお決まりの沈黙を通します。
 羽生は舌打ちを洩らし、視線を窓際に送ります。私には、それが校長と目配せを交わしたようにみえました。

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