BBS2 2006/11 過去ログ


アダルトショップにて
美脚の虜 11/29(水) 00:30:13 No.20061129003013 削除
 老けたと思う。アダルトショップに何の抵抗も無く入れてしまう。若い頃はこうは行かなかった。後ろめたくて、どきどきして。このごろは余りどきどきはしなくなった。置いてあるものも大体見当がつくし、新製品を探す態度はコンビニを散策するのと大差が無い。
でも、コンビにとは値段が違う。人の足元をみる問い言うか、欲望で前後不覚になった客から暴利をむさぼるのか、小遣いで買うには少し痛い。
 それでも私は酒もタバコも博打もしない、奥さん一本槍だ。そんなわけで、妻のもこの買い物については「小遣いの内なら」と黙認されている。というより、買って帰るものはすべて奥様のためのものだから、少しは感謝されてもいいはずだ。
 ドアノブに「本日は貸切のため関係者以外立ち入り禁止」と札が下がっていた。
アダルトショップに貸切も無いだろう、誰かのいたずらに違いない、店の者に知らせてやろうと、札を持って中に入った。
 薄暗い店に入ると、一応何か面白いものはないかと見て回ってしまう。今欲しいのは「飛びっ子」ワイヤレスのバイブ。妻に着けて外出でもしたいけど、許してくれそうも無い。エナメルのブーツ、ボンテージの衣装。黒く光って魅力的だが、お値段も魅力的。手が出ない。それに、妻に着せようにもサイズが合いそうも無い。
この店は1階から店の中で地下に続く階段があるのだが、それも秘密っぽくて好きだ。
近いから何か音がする。階段の下はなにやら明るいのだ。
 階段を下りると、商品が隅に寄せられ、その中心にスポットが当たっていた。そしてそのスポットの中には、今しがた随喜の涙で見送った、ボンテージファッション、エナメルのハーフブラ、ミニスカート、ピンヒールブーツ、ガーターストッキングの女性が、全頭マスクをかけられ、なにかに跨っていた。
「ジョーバですよ。健康器具の。吸盤つきのディルドを鞍に取り付けてあるんです。」
よく見ると、女性は後ろ手にピンクの手錠をされ、荒馬に跨らさせられているのだ。
馬並みのものが彼女の中で踊っているのだろう。後ろにのけぞった拍子に彼女がボールギャグをかまされているのが解った。全頭マスクは口の部分が開いたタイプなのだ。
ハーフカップのブラからは乳首が覗く。先にクリップで錘、いやこれもバイブを付けられていた。
「ビデオを回しているのが旦那さんでね。」
私と同じ年格好の男が必死にビデオを回している。
「入ってきたまずかったですか」
「奥さん、この人間違えて入って来ちゃいましてね、でも私が悪いんです、札は下げたけど、鍵落としてなかったから。でも、奥さんもおんなじようなもんでしょう、見せたかったからこんなことしてるんでしょう。」
旦那が、カメラから目を離し
「どうぞ、何なら、どうぞ」と言う。
「どうぞって、何が」と私。
「嵌められてる所を撮りたいんじゃないですか」店長はそう言うと、人妻の方に向かい
ギャグを外してしまった。
「耳栓をしていてね、イヤホンで携帯電話でしゃべるんだよ」乗馬から降りるのに手を貸したやると、旦那の首から吊った携帯に「ひざまずいて、なめろ」と言った。
「さあ、さあ」とうながざれてファスナーを下ろすと、店長が女にローションを手渡す。
飲物のように口に含むと、薄っすらと見えるのだろうか、私のペニスにしゃぶりついてきた。
「バックだ」の声に後ろを向いて尻を差し上げた。
「ゴムないですか」
「ドバーっと出してやってください。注ぎ込んでやってください」
「でも」
「大丈夫ですから、ピル飲ませてますから」
止まらなくなった私は、後ろからガンガン突きまくった。

知らないうちに周りには人がいた。
しまった、札を外したのは私だ
 



人妻異装露出報告
美脚の虜 11/26(日) 22:16:56 No.20061126221656 削除
人妻異装露出報告缶ビールを1本飲み干して化粧を始める。余り特徴の無い顔なので、ファンデーションを塗りすぎるのか、アイラインが濃いのか化粧を終えると、自分が誰だかわからなくなる。

艶々と光る、パンティストッキングを太股まで下ろすと、その下は何も穿いていない、どころか、陰毛も剃りあげられ、ぽってりとした土手の間に小陰唇が覗いている。

ぺぺローションを口に含むと一本バイブにフェラチオの要領で塗りいたくっていく。

両脚を開いてバイブを膣口に押し込むとするりと中に入った。小陰唇を開いてクリトリスに卵型バイブをあてがうと、医療用のテープで止める。

パンストを腰の辺りまで引き上げると、オールスルーのセンターライン越しにバイブの電池の入った握りがペニスのように突き出す。卵バイブの電池ボックスを腰のゴムに挟む。乳首に吸入器で小さなゴムリングをはめると逆止弁のようになって、すぐに乳首が勃起した。白いレオタードに脚を通す。肩を入れるとサイズが小さいので引っ張られて股の部分が極端なハイレグになった。その上から長さを詰めて、まっすぐ立っているとき以外はお尻の先が見えてしまうグレーのプリーツスカートを履いた。これからまだヒールの高くて細い編み上げブーツを履かなければならない。ブーツのジッパーは上げた所で固定されていた。これらを全部脱いでバイブを外すのにどれ位時間がかかるのだろう。恐怖を感じる気持と、うねるようなわくわくする気持があった。

 胸元が淋しいので、首飾りをする。ペットショップで買った中型犬用の水色の首輪だ。手首にも猫の同じ色の首輪をはめる。ナス管をつけて手首を固定できるよう改造してある。

 赤々と塗った唇を開けて黒いゴムひもを通したウレタン性のゴルフの練習用ボールを咥える。その上から立体タイプのマスクをして自家製のボールギャグを隠す。

真赤なダウンのロングコートを着て姿見の前に立つと、長いストレートヘアーを金髪に染めた完全装備の私がいた。

 携帯が鳴る。イヤホンを繋いでポケットに入れる。ボールギャグで話が出来ないが、今夜は聞くだけ、命令を聞くだけだ。夜中なのにサングラスをしてドアを開ける。エレベーターで配達帰りのピザのデリバリボーイと一緒になる。不審人物に興味津々の様子だ。

車は黒いセダンで、運転手が別に居た。後部座席に座るといきなり二つのバイブのスイッチをONにされた。オキシライド電池になどしなければ良かった。力強い振動が私の中で跳ね回る。

 彼は携帯電話越しに「今日はこれからトイレに行ってからお買い物に行きましょう。それから映画をみて、公園を散歩でもしましょう」と言った。

 昨日着いたメールには「公衆便所で浣腸と強制排便。アダルトショップでボンテージファッションの試着。ピンク映画館で露出、痴漢をされて、公園に掲示板で集めたマニアの前で青姦、輪姦」と書かれていた。昼間配達されたヤマト宅急便には、バイブ、卵バイブ、新品の単3電池1パック、ローション、パンスト、レオタード、ミニスカートが入っていた。送り状の品名欄には「玩具」と書かれていた。

 彼の要求を拒めない。彼の悦びは私の歓びであり、彼は私を喜ばせるために自分が楽しいことを私にさせるからだ。なぜなら二人は夫婦だから。





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悪夢 その33
ハジ 11/8(水) 22:43:10 No.20061108224310 削除
「どうしたの、トシ?体の具合でも悪いの」
そう言って伸ばしてきた母の手を、柴崎トシキは無意識のうちに払い落としていた。
隣で茶碗を抱えていた姉がギョッとして、こちらを見ている。気まずさが漂った。
親に反抗したわけでも、何かが気に障ったわけでもない。ただ触れられるのが嫌だった。
トシキのなかで、誰かがささやきかける。

『あんなモノ』をさわった手で触れてほしくない。
『あんなモノ』を飲み込んだ口から出てくる言葉など聞きたくない。

「トシキ……?」
母の声が上擦っていた。はじめて見せる息子の癇癪に戸惑っているらしい。
そんな母をみてトシキは内心悔やんだが、謝るつもりはない。視線を合わさないよう顔を背けた。
「なーに、何を怒っているの」
気を取り直した母が機嫌を取るように微笑んでくる。何もなかったように、笑い返せればどんなに幸せだろう。
――誤魔化されるものか
トシキは昨日の母の姿を鮮明に憶えている。一部始終を見ていたのだから。
横から姉が心配した様子でのぞきこんでくる。トシキはそれからも目を逸らすしかなかった。
再び伸ばされてきた手がトシキの額に触れた。意表をつかれたトシキに逃げる隙はなく、ひんやりとした感触に身を硬くした。
「熱はないみたい……」
母が安心したように言う。その指先で今度はトシキの頬を摘む。息子の顔に残っていた飯粒はまもなく母の口の中へ消えた。
その匂いと柔らかさに、つい決心が挫けそうになる。母は何も変わっていない。
でも――
「変な子ね」
母はひとり納得した様子で食事に戻った。先ほどのことなど、もう忘れたように。
――ひとの気も知らないで
本来なら、楽しいはずの父抜きの食卓。暗い部屋を唯一照らすはずの太陽が届かない。自分のまわりにだけ薄い膜でも張っているようだ。
ただひとり疎外感を感じながら、トシキは仕方なく箸を動かした。
俯きながら、チラチラと母の様子を盗み見る。母が食べ物を咀嚼する様子をみて、また昨日のことが甦る。
母の輪郭がぼやけて消えた。口唇の色だけがぼうっと浮かび上がる。その紅は益々濃さを増し、さらに刺々しい姿へと変化していった。
その下にある小さな黒い隆起――
「すけべぼくろ」
確か、あの男はそう呼んでいた。



障子のむこう――
羽生と母が睨み合っていた。
上に羽生、下に母。それは両者の立場を暗示するような位置関係だった。
羽生はか細い手首を掴んで、母を組み敷いている。余裕の前者に対して、後者の表情には悔しげな様子がありありと見てとれた。
母は決して大きな方ではなかったように思う。でも、その頃のトシキにとって母は常に大きく絶対的な存在だった。それが男に力づくで、押さえつけられている。
その様をみて、トシキは心細くて泣きそうになった。そして、この瞬間に羽生に対する畏怖の念を植えつけられたといってもいい。
「どうしました?」
からかうように投げつけられた羽生の言葉は、なかなか残酷な響きを秘めていた。それは強者の一方的な死刑宣告にあたる。
母は面とむかっては反応しようとせず、横を向いた。羽生の顔を直視しようとはしない。
やがて、きつく握られたままの母の手から力が抜けた。
「早く済ませて下さい。子供が戻ってきます」
母が硬い表情でそれだけ言った。
母は投げやりな様子だった。それは抵抗を諦めて、少しでも傷を浅くしようという選択にちがいない。
羽生は母から手を離しつつ、含み笑いで応じた。
「済ます?……一体何をですか」
羽生にしてみれば、母のいかにも恵んでやる的な言い草が気に喰わなかったのだろう。このいびりは仕返しと取れなくもない。だが彼が持つ生来の粘性までをも隠し切ることはできなかった。
「それは私に早く抱いてください、と。そうお願いしているのですか」
更なる嘲りに、母はカッと赤く顔を染めた。しかし言い返しても無駄と思い直したのか、不貞腐れるように、またそっぽを向く。
母のそんな態度にも羽生が困る様子はない。
「ひとつ聞いてもいいですか」
羽生は右の人差し指を立てると、それを母の顔に近づけていく。母の目が不安げにそれを追った。
「何故あんな男と別れないんです?」
それがあいつ――父親のことを指しているのはわかった。
理解できないのは母親の反応だった。羽生が軽い調子で投げかけた疑問は、母を事の外うろたえさせた。
「な、なぜって……それはこ、子供が……だって」
「建前はどうでもいい。本当のことを言って下さいよ」
「だ、だから……」
羽生は静止していた指先を母の唇に近づけた。母は羽生の指から目が離せなくなっている。
指は軽く薄紅色の膨らみに触れると、その上を滑りはじめた。形を丁寧になぞっていく。
「離婚できないのは、子供たちの所為じゃない」
ごつい指が唇を割った。上唇を持ち上げてやると、白い歯がこぼれる。
「あなた自身がご主人から離れられないんだ」
羽生が言い切ると、母は大きく目を見開いた。
それは羽生に真実を言い当てられたからなのか、口腔内に指が侵入したことによるものなのか。
「ホ、ほれハ……ウウ……」
抵抗できない母をいいことに、羽生は口の中を掻きまわした。母の苦鳴が聞こえてくる。
「あなたは旦那の手管にメロメロだ。例え、それが数ヶ月に一度だったとしても……その間にどれだけお金のことで苦労しても、どんなにひどい暴力を受けたとしても――その濃密な時間のためなら、子供がどうなったって知ったことじゃあないんだ。ちがうか」
「ヂ、チガウ」
羽生が空いている左手で、母の胸をさすり出した。
母は肉づきのいい女だった。こんもりと盛り上がった乳房を無骨な手が撫でまわす。
「ホウッ……」
母がたまらず声を漏らした。
「あんたは子供にかこつけているが、ただ旦那の味が忘れられないだけだ。この男狂いが……」
羽生は存外に器用だった。片手で母のワンピースを胸元からくつろげていく。そして小山のような肉にかぶりついた。
「アアッ……」
母は返事のかわりに悲痛な声を上げた。それに応えるかのように羽生の愛撫はつづく。
服から肩が抜かれた。そこを起点に肌の上を羽生の頭が移動していく。母は頭を振ろうとしたが、男の指で口内を固定されているため、それもままならない。切なげに呻くだけだ。
そのうち羽生の指が音を鳴らしはじめた。母が吸っているのだ。
「そう、素直になるんだ」
母の胸から顔を上げた羽生は満足げに見入った。母の目が陶然と潤んできたのだ。
やがて母の目尻から涙が流れはじめると、羽生は突っ込んだままの指先で口をこじ開けた。そして舌先を突き出し顔を寄せていく。
互いのくちびるが重なり合った。口を塞がれた母は今度は遠慮なく、羽生をむさぼった。
自由になった右手を羽生は遊ばせてはおかない。ワンピースの裾を割り、下半身へと滑りこませていく。
母はビクッと身を震わせると、羽生の頭をかき抱いた。
母の豹変にトシキはただただ驚いていた。
母親の仮面を外した彼女は、『 女 』すぎるほと『 女 』だった。しかし当時のトシキにそれがわかるはずもない。母親は気が狂ったか、演技をしているのかと思った。
「あんたは自分に正直な女なんだ。奥さんは自由だ。私の言うとおりにすれば自由になれる」
キスを解いた羽生は再び母の胸に顔を埋めた。それを追うように彼の後頭部に母の指が絡まる。そして愛おしげに頭髪を掻き毟った。
母の二の腕がふるふると揺れていた。



「先に歯を磨いておいで」
いつまでも子ども扱いする姉に促され、トシキは洗面所に向かった。だが、途中で足を止める。
学校に行くのに、そろそろ家を出なくてはならない。いつもならトシキが姉に急かされている時間だが、今日の姉は全く準備ができていなかった。
息を殺してしばらく待っていると、姉が声を潜めて話はじめた。
「ねえ、お母さん。トシキ変じゃない。何かあった?」
「そうかしら」
母がのんきそうに答えた。少し芝居がかったようにも感じた。
「お母さん、あのね」
再び姉が切り出した。声に微妙な震えがある。
「羽生のおじさんと会うの、もうやめてくれない……かな」
あの、何事もはっきりとものを言う姉が言い淀んだ。まちがいない。敏感な姉は勘づいている。
「どういうこと?」
母の返事が一瞬遅れた。声に変化はない。どんな顔で話しているのだろう。
姉が勢い込んで、しゃべりはじめた。
「だって昨日のトシキ、おかしかったよ。部屋に閉じこもったまま、ごはんも食べないまま出てこなかったし……昨日おじさん来たんでしょ?だからトシキは――」
「お姉ちゃん」
母のたしなめるような声がした。
「羽生さんはお父さんのお友達なの。せっかく来てくれたのに帰れとは言えないでしょう。大丈夫よ、あなたが心配するようなことはないから。トシキのこともお母さん、ちゃんと見ておくから」
「…………」
沈黙がつづいた。
トシキが昨日見ていたことを教えたら、母はどんな顔をするだろうか。
姉はどう思うだろうか。なにか良い解決方法を思いつくだろうか。
想像するだけで、やめておいた。事実を知れば、姉はもっと苦しむ。母は出て行くかもしれない。
それ以上はさすがに言えないのか、知らないのか――姉は不承不承ながら引き退がったようだ。
「じゃ行くね」
「お姉ちゃん、ちょっと……」
部屋を出ようとした姉を今度は母が呼び止めた。
「昨日の件なんだけど――考えてみてくれた?」
遠慮気味に尋ねる母の声。なんのことだろう。
「ねえ、どうなの」
返事をしない姉に母が問いかける。
「急には――たった一晩で決めるなんて無理だよ」
声がかすれていた。はじめて耳にするような姉の沈んだ声。
「でもね、考えておくのよ。これはあなたにとって悪い話じゃ……」
「家族がバラバラになるのが、いいことなの」
姉の叫び声が聞こえた。
姉はかなり感情的になっていた。興奮しすぎて、母を詰るような感じになった。
それに対して母は何も言わない。あたりがしんと冷えた。
「い、行ってきます」
いたたまれなくなったトシキは姉を待たずに家を飛び出した。
ドアの隙間から泣き声が聞こえてきた。



別れた妻 34
七塚 11/8(水) 00:52:32 No.20061108005232 削除

 やがて、時雄は口を開いた。
「君の言いたいことは分かった。どれだけ理解できているのか心もとないけれど、君の気持ちも俺なりに分かったつもりだ。そのうえで言いたい。君はあまり何もかも背負い込もうとしすぎだよ」
 固く握り締められたままの千鶴の小さな拳を見つめながら、時雄は言った。
「さっき病室でお母さんが言っていたよ。何事も頑張りすぎはよくない、ほどほどが一番だとね。誰でも綺麗なだけじゃ生きていけない。エゴのためによくないことや醜いこともする。誰かを犠牲にすることもある。それが本当に生きているってことじゃないのか。たしかに俺は君が出て行ったとき、辛い思いをした。その後も、ここ最近もずっと辛かった」
「ごめんなさい」
「まあ、聞いて。辛かったのは君が好きだからだ。ずっと好きだったからだよ。でもその思いは俺のもので、君のものじゃない。木崎も木崎なりに君のことは愛していただろうが、それと君の思いとは関係ない。君は誰かに何かに縛られる必要はないんだ。すべてのことに矛盾なく辻褄を合わせるなんて、世界中のどんな奴にだって出来るはずはない。皆、違った人間なんだ。だから憎んだり、怒ったり、哀しいことが起きるんだけど。でもそのうえで、出来るかぎりで誰かと心を合わせて生きようとしている」
「そうだとしても・・・自分のしたことの責任は取らなければなりません」
「それはそうだろうけど・・・だけど、少なくとも今の俺にとっては、本当はそんなことは重要じゃない。罪滅ぼしなんて望んでいない。君にとってはまた違うんだろうけど、俺は」
 責任とか、過去とか、罪とか。
 裏切りだとか、後悔だとか。
 そんなことはもうどうでもいいじゃないか。
 俺はただ、好きなだけだ。君のことが好きで、ずっと一緒にいたいだけだ。
 本当はそう叫びたかった。だが、時雄は言わなかった。そんな言葉で片付けるには、千鶴の迷い込んだ深遠はあまりにも深すぎた。どんな言葉も今の千鶴には届かない。彼女のくぐり抜けてきた暗闇の一部を覗き見た時雄だから、なおさらそう思えた。
 
「・・・君がどうしてもそうしたいと言うなら、俺にはとめられない。ただ、俺にも君を助けさせてほしい。言っておくが、木崎には金を返す必要はない。君も俺もそのために十分すぎる代償は払っている。それは木崎にも言い、奴もそれを受け入れた。もうひとつ、久恵さんの治療費に関しては、俺にもその負担を分けてほしい」
「お気持ちはありがたいです。でもこれ以上あなたに迷惑は」
「迷惑なんかじゃない」
 時雄は強い調子で、千鶴の言葉を遮った。
「久恵さんは俺にとっても大切な人なんだ。役に立てて嬉しいとは思っても、迷惑だなんて思いはしない。それは君に対しても言えることだ。俺は今でも君が好きだ。君のためならなんでもしたいと本当に思っている。だけど、今の俺が何をしても、それがまた君を縛ってしまうことになると思う。俺が金の問題を肩代わりして、君が俺のもとへ戻ってきてくれたとしても、それでは木崎と同じことになってしまう。君は俺に対して負い目を感じ続け、また別の人形になってしまうと思う。そんなことは俺も望んでいないよ」
 千鶴は黙ってうつむいた。その細い頸を時雄は見ていた。
「だけど、どうであれ、俺は君にこれ以上不幸になってほしくない。だから」
 時雄は一瞬、ためらった。その先の言葉は、本当は口に出したくなかった。
 だが―――言わなければならない。
「君がこの先、普通の仕事をして普通に生活していけるだけの生活費を考えた範囲で、俺も久恵さんの治療費を分け合う。何度も言うが、これは俺からの気持ちで出すお金で、何も負い目を感じる必要はない。でも、いくらそう言ったところで君の気持ちは納得しないだろう。だから―――俺はもう君には会わないことにする。連絡も取らない」
 千鶴の瞳が驚きで大きく開かれた。悲痛な想いでそれを見つめながら、時雄は言葉を続ける。
「俺のために何かしなければならないなんて思わないでもいい。俺は木崎にはなりたくない。これ以上、金や自分の気持ちで君を縛りたくない。君が自分の意思で生きていこう、そうすることで立ち直ろうとしているなら、決してその邪魔をしたくない。だから・・・もう会わない」
 本当は厭だった。
 どんなことになっても、ほかの誰かを傷つけてでも、千鶴の傍にいたかった。ずっと一緒に生きていきたかった―――。
 けれど、せっかく前向きに生きようとしている千鶴を縛りたくないというのも本心だった。千鶴が自分の意思と心で生きていこうと決意したなら、それを引き止めるような真似はしたくなかった。そうしなければ千鶴の心が救われないなら―――。
 突然告げられた別れの言葉に、千鶴は呆然としていた。やがて、大きく開いたままの瞳から、涙が後から後から零れだした。千鶴の震えた唇が動き、何か言おうとしたが、言葉にならないまま、また閉じられた。
 願わくば―――と時雄は思う。今の別れの言葉を、己に与えられた罰のように千鶴が受け取らないで欲しいと思う。そんなつもりは微塵もない。本当に千鶴を愛している。だから、今は彼女から離れなくてはならない。

 そのまま二人は、何も言わずにいつまでもそこに座っていた。


 一組の元夫婦の事情などかまうはずもなく、時間は流れ、過ぎてゆく。
 千鶴と再会し、また別れたあの秋から、季節は変わって冬になり春になり夏になり、そしてまた秋になった。
 時雄は相変わらず独りだった。周囲の状況にも変化はない。ただ淡々と仕事に精を出しているだけだ。
 千鶴とはあれから一度も会っていない。言葉どおり、千鶴の口座に毎月相応の金額を振り込んでいるが、それを本当に千鶴が使ってくれているかどうかも分からない。そうしてくれればいい、と祈るような想いでいるだけだ。

 先日、久しぶりに久恵の見舞いに行った。久恵は相変わらず時雄と千鶴が今も夫婦でいると思い込んでいる。それが辛くて、あまり見舞いにも行けない。千鶴と会ってしまう可能性もある。本当はそんな偶然が訪れることを心の底で願っているのが自分でも分かるので、なおさら時雄は行かない。
 自分から会うことはしないが、もう二度と千鶴と会えないと決まったわけでもない。もし、千鶴が立ち直り、彼女から会いにきてくれたら、もう一度ただの男と女としてやり直すことが出来るかもしれない。そうならなくても、千鶴が幸せになってくれればそれでいい。一年前、あの辛い日々の中でもがき苦しんだ意味はそれで十分にある。

 その先日の見舞いの時、時雄は久恵から千鶴の描いた花の絵をひとつ分けてもらった。時雄の一番好きな花を。

 だから時雄の何もない部屋では、季節外れの一輪のヒナギクだけが、今もそっと咲いている。

                          <了>



別れた妻 33
七塚 11/8(水) 00:42:55 No.20061108004255 削除

「千鶴・・・いつから?」
 時雄の問いに、千鶴は人差し指を口元へ持っていっき、目で久恵のベッドを指した。久恵は安らかな眠りについていた。
 時雄は納得して立ち上がり、そっと病室の外へ出た。千鶴も着いてきて、静かに戸を閉めた。

 病院のすぐ傍にある喫茶店は、平日の昼間だというのに混んでいた。
 二人ともコーヒーだけを注文した。
 千鶴はじっと時雄を見て、細い声で言った。
「驚きました。どうしてここが分かったのですか?」
「木崎に聞いた」
 時雄の答えに、千鶴は瞳を少し見開いた。
「・・・また木崎に会ったのですか?」
「探したんだよ。結局は向こうから会いにきたんだがね。木崎も君を探していたんだ」
「そうですか・・・」
「なぜ出て行ったんだい?」
 その問いは、三日前の夜に時雄の部屋から姿を消したことと、木崎のもとを離れたことの両方の理由を聞いていた。
 千鶴は重ねた両手を擦りながら、しばらく黙っていた。
 次の言葉を待ちながら、時雄は店内のざわめきを聞いていた。七年ぶりに再会してからずっと非日常的な状況でしか会う機会がなかったが、こうして穏やかな昼下がりにありふれた喫茶店で千鶴と向かい合っていると、一瞬、昔に戻ったような錯覚に陥る。あるいは先ほどの久恵との会話が、時雄をそんな気にさせるのかもしれない。

「・・あなたと再会してから、私、考えたんです」
 突然、千鶴はそんなことを言った。先ほどの問いの答えではなかったが、時雄は黙って先を促した。
「あの夜、あなたと向かい合って、昔、あなたにしてしまったひどいことの話を聞いてもらって・・・、でもあなたは私を救いたいと言ってくれました。凄く嬉しかったです。でも・・・同時に恥ずかしくなりました。自分が恥ずかしくなりました」
 千鶴は身を震わせて、合わせた掌をぎゅっと握った。
「身勝手な私のせいで、あなたを傷つけて・・・ずっと傷つけて・・・。それなのに、あなたは変わらなくて・・・。そんなあなたを見ていたら、自分がどれだけ醜い人間だったか思い知って、いたたまれなくなりました。だから」
「・・意味が分からないよ。君はたしかに俺に何も告げず出て行った。そのことは今でも怒っているし、悔やんでもいる。でもそれからの君の人生は、色々な不幸な偶然と木崎のせいで大きく歪められてしまっただけだ。醜いとか、恥ずかしいとか、そんなふうに思う必要はない」
 時雄は慎重に言葉を選びながらそう言った。だが、千鶴は静かに首を振った。
「違うんです」
「何が違う?」
「・・人生は何をして生きたか、ではなく、どういう態度で生きたかが一番重要だという言葉があります。誰の言葉かは知りませんが、本当にそのとおりだと思います。そして私はその意味で最低な生き方をしてしまったんです。たしかにはじまりは不幸が重なった結果といえるかもしれません。でも、その後で、その不幸に流されてしまったのは紛れもなく私なんです。そして自分だけでなく、あなたの人生まで深く傷つけてしまった」
 そう語る千鶴の顔に、この前の涙はなかった。ただ、厳しい覚悟のようなものが、その瞳の奥に窺えた。
「私は傷つくのを恐れて、逃げ回ってばかりいた子供だったんです。昔からそうでした。あなたと会ってからも、あなたに頼りきりでずっと自分は安全なところにいたんです。覚えていますか? あなたが最初に私を好きだと言ってくれたときのことを。あのとき、私は本当に嬉しくて嬉しくて・・・でも、後になってふと思ったんです。私もずっとあなたのことを好きでしたけれど、もし、あなたからそう言ってくれなかったら、私からはきっと何も言えずにずっと長い間後悔しただろうなって。傷つくのが怖くて、拒絶されるのが怖くて、結局、私は自分からは何もせずに逃げてしまっただろうなってそう思ったんです」
 千鶴の長い髪がはらりと揺れた。
「あなたと結婚して、幸せを手に入れた私は相変わらず変われないままで、そしてあんなことになってしまいました。そのときも私は何も言えなかった。そのせいであなたをもっと辛い目に遭わせてしまいました」
「・・・・・・・」
「その後も色々なことがあって・・・、最終的に私は木崎に助けられ、そして彼の人形になりました。彼にすべてを委ねてしまいました。・・・自分がひどいことをしている自覚はありました。こんなことになって、あなたには本当にひどいことをしてしまったと思っていました。・・・厭なことから逃げ回ったあげく、私は二重にあなたを裏切ってしまったんです」
 消え入りそうなほど小さくなっていく千鶴の声が、ざわめく店内で時雄の頭の中にだけにまっすぐ響いた。
「自分のしてしまったことを真剣に考えれば考えるほど、恐ろしい後悔と罪悪感でいっぱいになりました。そんな辛さから逃れるために、私は人形のようになっていたんです。人間はすべてを誰かに委ねて、自分の心で思ったり考えたりすることも放棄して生きるほうが楽なんです。その意味で私だって木崎を利用していたんです。木崎の奴隷のように生きることで、私は自分の罪や失ってしまった幸福の重さから逃れようとしました。途中で木崎もそんな私のことを本当に奴隷として扱い始めましたが、私は抵抗しませんでした。辛い目や酷い目に遭わされれば遭わされるほど、自分がひどい状態になればなるほど、私は自分を誤魔化すことが出来ました。一時だけですけれど。その後でまたより重苦しい気持ちがやってきて、私はどんどん自虐的になっていきました」
 似ている―――。
 時雄はそう思った。千鶴の語る言葉は昨日の木崎の話とどこか似ている。千鶴は精神的負担から逃れるために、木崎は千鶴の愛を受けられないという現実から逃れるために、いよいよ深い暗闇へ堕ちていった。まったく違う目的のため、手に手を取り合って。
「そんな日々を続けていたなかで、あなたと再会しました。あなたは何も変わっていませんでした。昔と同じようにまっすぐで、私のひどい話もきちんと聞いてくれて・・・。私はそんなあなたが嬉しくて、同時に自分がいかに醜い生き方をしているかを改めて悟ったんです。そんな自分が厭で厭で、あなたへの申し訳なさでいっぱいで・・・そのとき、思ったんです。もう遅いけど、してしまったことは消えないけど、これからは自分で自分のことを考えて、すべてから逃げずに生きていこうって。辛いこと苦しいこと、醜い自分からも逃げずに生きていこうって。それ以外は、自分の罪滅ぼしを本当にすることにはならないって・・・」
 千鶴は顔をあげてまっすぐに時雄を見た。
「ごめんなさい。私の話はあなたにとっては、意味が分からないかもしれません。そんなことよりも、もっと他にすべきことがあるんじゃないかって思われるかもしれません。でも、これが私の正直な気持ちです。今度は逃げないで、自分の力で母を救いたい。今まで傷つけたあなたへの罪滅ぼしもしたい。木崎に対しても、今までお世話になったお金はきちんと返します」
 しっとりと潤んだ千鶴の瞳に、燃えるような激しさを時雄ははじめて見た。
 息を呑むような思いだった。



別れた妻 32
七塚 11/6(月) 20:07:12 No.20061106200712 削除

 翌日は月曜日だったが、時雄は仕事を休み、千鶴の母親が入院しているという病院へ向かった。
 病院の所在は木崎に聞いた。
 昨日の苦しかった木崎との対峙を、時雄は思い出す。

「お前が何をしようが、奪われた時間はもう戻ってこない。今さらその時間を返せとも言わない」

 両者ともに魂をすり減らすような時間の終わりに、時雄は木崎に対して言った。
「だが、これからも千鶴につきまとうことだけは絶対に許さない。お前が千鶴の母親のために使った金がどれくらいのものかは知らないが、お前はその代価を十分に支払わせたはずだ。これ以上、千鶴の人生を金で縛るな」
「・・・・・・」
「もし、またそんなことがあるようなら、どこにいてもお前を探し出して、今度こそ叩きのめす。絶対に」
 木崎は黙っていたが、その様子に昔のようなふてくされたところはなかった。憑きものが落ちたようなその姿は一回り小さくなったようだった。

「最後に聞きたい。千鶴の居場所の心当たりはあるか?」
「・・・お前のところにいないなら、あとはひとつしかない。母親のいる病院だ。この何年もの間、時間があれば千鶴はいつもそこに通っていた」
「場所は?」
 時雄の問いに、木崎は迷うことなく答えた。それからくるっと背を向けて玄関に向かった。
「じゃあな」
 振り返らないままに、木崎は言った。
「もう千鶴には会わない―――」

 病院の受付係にはある程度の真実を素直に告げた。自分が入院している紙屋久恵の娘の別れた夫であること、世話になった久恵の見舞いをしたいこと。幸い、受付係の女性はその説明を信じてくれたが、しばらくまじまじと時雄の顔を見て言った。
「あなた、ものすごく顔色がわるいですよ。帰りにうちの医院で検査されたほうがいいですよ」
 時雄は苦笑するしかなかった。あまりにも苛酷なこの数日のために、身も心も疲れきっていた。

「久恵さん、とてもいい方で私も大好きなんですけど、お年のせいか、最近はちょっと記憶が混乱していたりします。そのことを少し、心に留めておいてください」
 時雄を案内してくれた看護婦はそう言って、病室の戸を叩いた。
「久恵おばあちゃん」
 看護婦の呼びかけに、ベッドの上の老女が顔をあげた。
「ああ・・・時雄さん」
「お見舞いに来てくだすったんですよ」
 看護婦はそう言って、時雄を中へ誘い入れた。
「お久しぶりです」
「ほんに・・・」
 久々に会った久恵は、当然のことながら記憶の中の久恵より老い、身体も小さくなっていた。長年にわたる病床生活で、腕も足も折れそうなほど細い。だが、柔和なその表情、優しげな目元は以前のままだった。
「この人はね、私の娘の旦那さんなんですよ。とてもいい方よ。あの子もいいひとにもらわれて、私、本当に嬉しく思っているの」
 久恵は顔をほころばせ、看護婦に向けてそう言った。驚いた時雄がちらりとそのほうを見ると、看護婦は無言でうなずいてみせた。
「そうなの。よかったね、お婆ちゃん」 
「はい・・・」
 看護婦の言葉に、久恵はにこっと笑った。人の善意そのもののようなその笑みは、張りつめた時雄の心を優しく潤わせた。
 ―――この世で一番尊い笑顔だ。
 本当にそう思えた。
 看護婦は久恵に笑い返し、もう一度時雄を見て無言でうなずくと、「失礼します」と言って出て行った。

「千鶴はよくお義母さんに会いにくるのですか?」
 しばらく久恵の体調や容態についての話をしたあとで、時雄はそっと聞いてみた。『お義母さん』という昔の呼び名を使うことは時雄にとっては切なくもあったが、久恵の中では時雄はまだ変わらず千鶴の夫だった。
「それはしょっちゅう。時雄さんにも迷惑だからそんなに頻繁にじゃなくていいといつも言ってるんですけどね・・・あの子は優しいから・・・。それより私は孫の顔が早く見たいですねえ」
 久恵の言葉に時雄はなんと答えていいか分からなかった。記憶の混乱した久恵は、千鶴と話すときも、今でも娘の夫は時雄であると思いこんで話していたのだろうか。そんなとき、千鶴はなんと答えていたのだろう。母親に夫のこと、家庭のことを聞かれて、千鶴はどう答えていたのだろう。
 そんな場面を想像して、時雄の胸は痛んだ。

「そういえば、昨日もあの子は来ましたよ。この花を見舞いに持ってきてくれました」
 幸い、久恵はあっさり話を変えて、ベッドの横の台上を指差した。久恵は『花』と言ったが、実際はそれは縦長の画用紙に描かれた絵だった。花は金木犀、素朴なタッチと繊細な色使いは、明らかに記憶の中の千鶴のものだった。
「あの子はよくこんなふうな花の絵を持ってきてくれるんですよ。絵なら枯れないし、いつでも楽しめるからねえ。ほら、ここにたくさん」
 そう言って久恵は台の引き出しからクリアファイルを取り出した。受け取って開いてみると、そこには花、花、花。春夏秋冬を彩る花の数々が、季節ごとにきちんと整理されて並べられていた。
 暗鬱な日々を生きる中でも、千鶴は床に伏す母に贈るため、こうして何枚も何枚も美しい絵を描き続けていたのだ。眺めていると、自然に涙が出てきた。今までどんな辛い目にあっても涙は出なかったが、今度ばかりはたまらなかった。そもそものはじまり、時雄が千鶴という女性に惹かれるきっかけとなったのも、温かさに満ちた彼女の絵だった。そして今、眼前には千鶴の絵があふれている。千鶴があふれている。
 ぽろぽろと涙をこぼし、声もあげずに泣く時雄を、久恵は驚いたように見ていたが、やがてまた慈愛に満ちたあの笑みを浮かべた。
「どうも、時雄さんは疲れているようですね。何事も頑張りすぎはよくありませんよ、ほどほどが一番・・・。ほら、そこの椅子に座って、今日はしばらく休んでいかれたらどうですか」
 時雄は久恵に頭を下げ、彼女の言葉どおり病室の椅子に腰掛けた。涙をぬぐって、瞳を閉じる。
 これまでひどい日々の連続で心身ともにすり減らしてきたが、今日この瞬間だけでその甲斐はあったと思えた。それほど胸が熱くなっていた。
 そのまま、ゆっくり時雄は眠りに落ちた。久々の、何もかも包みこまれるような眠りへと。

 そして、目が覚めたとき、目の前には千鶴がいた。 



別れた妻 31
七塚 11/4(土) 22:46:30 No.20061104224630 削除

 木崎が初めて知った頃の千鶴は、新品の真綿のような女だった。清潔でふわふわとしていて、軽く力をこめれば簡単に引き裂けるようなはかない雰囲気が木崎の心を捉え、また時には薄汚れた自分との絶望的な距離を感じさせた。

 だが、それは昔の話である。
  
 金のために風俗に身を堕とし、見知らぬ男と寝ていた千鶴。
 挙句の果てにはまた金のために、自分を犯した男の所有物となった千鶴。
 そんな千鶴はどうしようもなく惨めな女であるはずだった。
 実際、木崎のものになってからの千鶴は、まるで抜け殻のようで、かつての面影をまったく失っていたのだ。
 だからこそ、木崎はそんな千鶴の中に唯一残っていた時雄への無垢な愛情が憎かった。
 その愛情は永遠に自分へ向けられることがないという事実が憎かった。 

 それからの木崎は千鶴を汚し、貶めることに異常な情熱を燃やした。思いつく限りの淫虐を千鶴にくわえた。

『お前は商売女だ。金を取って男と寝ていたんだ。それを忘れるなよ』

 そんな言葉を木崎は執拗に繰り返し、千鶴の心を嬲った。
 どんなにあがこうが、苦しもうが、もう二度と幸福な昔には帰れない、穢れのない姿には戻れない―――。
 絶えずそう言い聞かせ、彼女のもっとも深い心の傷にナイフを刺しこむことで、木崎は千鶴に自覚させようとした。今の自分は木崎に金で買われた身であること、二度と再び時雄の前には姿を出せない自分であることを。
 木崎が言うまでもなく、千鶴自身そのことは絶えず思っていたはずだ。どんなに辛い仕打ちにあわされても、ほとんど唯々諾々だった千鶴がそのときは悲痛な表情を隠せなかった。そんなとき、木崎は鋭い痛みとともに、自虐的な快感を覚えていた。
 千鶴を傷つけることは、木崎にとっては自傷行為にも近かった。そうと気づいていながら、やめることは出来ず、木崎はどんどんとその行為にのめりこんでいった。

「本当に救いようのない歳月だった・・・暗闇で滅茶苦茶に突っ走っているような・・・その結果がこれだ。千鶴は出て行った」
 木崎は苦渋の吐息を漏らした。
「最初は千鶴への復讐のつもりだった。俺がどんなに愛しても、決して俺を見ようとはしないあの女への復讐。だが、今思えばそうじゃなかったのかもな。諦めのわるい俺は、そうやって千鶴を汚すことで、いつかはあいつを本当に手に入れられると考えていたのかもしれない。間抜けな話さ。結局、千鶴はお前と再会してから、あっという間もなく俺から去っていった」
 木崎はそう言って、乾いた笑い声をたてた。
 時雄は黙ってそんな木崎を見ていた。
 やがて、言った。
「お前の話は―――それで終わりか?」
「・・・え?」
 聞き返した木崎の鼻面を、時雄は渾身の力で殴りつけた。
 腰掛けたソファごと、木崎は床に崩れ落ちた。
 時雄は立ち上がった。這いつくばった木崎を睨みつけた。
「ふざけるなよ・・・!」
 そう吐き捨てた。
「お前がどんな思いで、どんなことを考えて生きてきたのかなんて、俺にとってはどうでもいい。お前は俺と千鶴の人生を身勝手に捻じ曲げたんだ。千鶴の心を得たかっただと? 愛されたかっただと? いいかげんにしろよ、何様のつもりだ。千鶴はモノじゃない、生きて悩んで苦しんでいる人間なんだ。千鶴の心は千鶴のものだ、他の誰のものでもない」
 分かっている―――。
 誰かを愛しすぎた人間は木崎のようになる。愛する者を自分だけのものにしたくなる。独占欲に狂っては、檻の中に閉じ込めて、自由を奪って、自分に都合のいい姿だけを見せてほしいと願う。時雄にだってそういう部分はある。とりわけ千鶴に対しては――。
 だが、それは思春期の少年が夢見るような幻想だ。決して形にしてはならない熱病のような想いだ。
「お前が身勝手な理屈をどれだけこねようが、お前に誰かを傷つける権利はない。苦しむなら自分だけで苦しめよ。千鶴を巻き添えにするなよ。そんな、そんなくだらない理由でお前は千鶴の七年を」
 俺の七年を奪ったのか―――。
 時雄は血を吐くような想いでそう叫んだ。
 木崎はがっくりとうなだれたまま、何も言い返さなかった。

 やがて―――
 少しだけ落ち着きを取り戻した時雄は、低い声で聞いた。
「ひとつ聞かせろ。お前は千鶴と籍を入れているのか?」
「・・・いや。なぜだ?」
「千鶴がそう言った」
 時雄の言葉に、木崎ははっとした表情になった。その顔がゆっくりと歪み、木崎は馬鹿笑いを始めた。実に苦しげな笑みだった。
「ははは、こいつはおかしい。最初、俺はあいつを自分の力で幸せに出来たら、そのときにきちんと籍を入れようと思っていたんだ。それが―――俺の夢だった」
 木崎の目尻から涙が落ちた。
「まったく、どこまで俺を虚仮にすれば気がすむんだ、あの女は」
「お前に千鶴を責める資格はない」
 時雄は抑えた声でそれだけ口にした。

「なあ・・・」
 しばしの沈黙の後で、木崎はぼんやりと言った。
「千鶴は・・・お前のところへ戻るのか」
 時雄は宙を見つめた。自分の心と、今もどこにいるのか知れない千鶴の幻影を見つめた。
 そして、答えた。
「分からない。それは千鶴が決めることだ」  



悪夢 その32
ハジ 11/3(金) 22:50:32 No.20061103225032 削除
空を見上げているが、その目には何も写っていない。ガラス玉のような瞳を、ただ無感動に見開いている。
ボロボロの借家を囲う塀の上――そこが柴崎トシキの指定席だ。学校から帰ると、ここに座る。
真っ青な空やそこに浮き出た鮮やかな入道雲にも心踊ることはない。なにかを祝福するかのように白い鳥の群れが羽ばたいたところで、それは変わらない。関心がない。
楽しい過去も将来の夢もトシキには他人事だった。自分にあるのは煤けた日常。
それを思い出させるように患部が疼いた。熱を持ち出した頬を手の甲で拭う。
また、あいつに殴られた。思い返しただけで憂鬱になる。
酒臭い息、濁った目、汚い肌。連想するのはそんなものばかり。
その存在が絶えず、トシキを苦しめる。
――お父さん
そう呼ぶと、何故か殴られた。
仕方なく、
――あの
――すいません
他人行儀なコトバ。
結局、殴られる。何を言っても同じだとわかった。あいつはトシキのことを嫌いなのだ。
節くれだった拳の感触と、血の味。それが父に教えてもらったもの。それだけのつながり。
トシキもあいつのことを嫌いだ。
最近は仕事がないのか、昼に起き出して酒ばかり飲んでいる。近所をブラブラすることはあっても遠出はしない。だから、いつも家にいる。あいつが苦手なトシキにとって、この家の敷居は限りなく高い。
だからといって、外に遊びにいくこともできない。友達がいない。正確にはいなくなった。
低学年の頃は上手くやっていた。無邪気に皆に溶け込んでいた。
きっかけは、ひとつの出来事。
誤って友人に怪我をさせてしまった。相手の親が怒鳴り込んできた。それに対応したのが、父親だった。
赤ら顔のあいつをみると、相手は何も言わず立ち去った。噂はすぐに広まった。
一緒に遊んでいた友達の輪に入れなくなった。背後には大人たちの影がちらついた。父親の素性が知れたこと――それで全て納得がいった。
自分のせいではない。そう思っても悲しみや寂しさは癒せない。誰もトシキを救ってはくれない。
学校でさえ腫れ物のように扱われ、トシキは身の置き所を失った。辛いことだったが、現実を受け入れるしかなかった。幼いながらも、トシキにはそれがわかっていた。
登下校は姉と共にするようになっていた。最近はふさぎがちの母親より、この上の学校に通う姉といるほうが楽しい。
姉は底抜けに明るいというわけではなかったが、話していると心が暖かくなる、そんな人だった。
「いい、トシ?なにかあったら、お姉ちゃんに言うんだよ。お母さんにこれ以上心配かけたら駄目。わかるよね」
姉の言いつけをトシキは守った。下校時間がなかなか合わないため、帰りはどうしても別々になる。だから、ここで待つことにした。その日の出来事は真っ先に姉に報告するようにしていた。
塀によじ登って、かなりの時間が経ったはずだ。尻が痛くなってきた。気を紛らわそうと足もとに目をやった。剥きだしになった膝小僧から絆創膏が剥がれかかっている。宙に浮いた足がバタバタと泳いだ。
近頃の姉は帰りが遅い。母はそのことで気を揉んでいたが、トシキは心配していない。弟の目から見ても、姉はしっかり者だし、頼りがいもあった。それでも、こんな家に帰りたくないという気持ちは持っているはずだ。姉も自分と同じなのだ。
家の中から自分を呼ぶ声がした。母だ。
身体を揺らし反動をつけて跳び下りようとしたとき、
「何見てたんだ」
声とともに、フワッと風が舞った。
小太りの、見知った男が横にいた。確か、父の知り合いで――
体型の割りに身軽な男だった。軽く子供の身長ほどある塀に跳び乗ったらしい。
「何見てたんだ」
男はもう一度同じことを言った。
トシキは口をもぐもぐとさせて、すぐに返事をしなかった。それは子供なりに考えた処世術――返事が遅れれば叱られるだけで済むが、気に入らない答えの場合はぶたれる――そんな経験則から身につけた悲しい習性だった。
「虫」
時間をかけて、ようやく答えると、男はゲラゲラと大笑いした。
「面白いな、お前。普通そこは空のむこうとか、世間だろ」
ごつい芋虫のような指で髪をつかまれる。前後左右に振り回された。
バランス感覚を失って、あやうく塀から落ちそうになる。トシキは思わず叫んでいた。
「やめてよ、羽生のおじさん。痛い、痛いよ」
その声と同時に悪ふざけは止んだ。そろそろと顔をあげると、おじさんはタオルを広げて汗を拭いていた。
傍を通った近所の主婦が奇異の目を向ける。それはそうだろう。大のおとなが子供といっしょに塀によじ登って、並んで座っているのだ。
トシキが気恥ずかしさをおぼえている横で、羽生は小さく欠伸をした。

羽生はそれから頻繁に我が家を訪れるようになった。
これまではあいつと連れ立って来ていたのが、最近はやつの不在をねらうようにやってくるようになっていた。
そして一時ほど、塀の上のトシキにつきあうのだ。
自分の居場所を取られるようで、トシキは面白くなかった。しかし文句は言えなかった。逆らえない理由もあった。
あるとき、トシキのいないところで、羽生が母に封筒を渡すのを目にした。
「いつも、すみません」
母は神妙な面持ちでそれを受け取っていた。
金を借りているのだ。トシキはすぐに察した。
父は全く働かなくなっていた。仕事を干されたと言っていた。そのくせ散財はやめない。酒、ギャンブル、女。家計は当然火の車で、母はいつも金策に走り回っていた。
夫が極道ということで、親戚筋からは総スカンに近い状態だった。それでも他に頼るところもなく、泣きながら親類の家をまわった。最早、我が家の経済状況は日々の生活にさえ事欠くようになっていたのだ。
思い切ってパートに出たこともある。しかし、数日もするとあいつが現われ給料の前借りをしていく。そんな具合で結局は仕事が続かなかった。母は却ってその尻拭いに追われてしまうのだ。
頭を下げている母の姿は忍びなかった。自分まで情けない気分になる。
トシキにとって、母は世界の中心だった。大好きな姉に甘えるようになっていたが、母がいないと自分も姉も生きていけないことは知っていた。大事な存在なのは言うまでもない。
その母が冴えない風貌の男にペコペコしているのが許せなかった。できることなら、借りた金を叩きつけて追い返したかった。
羽生は何も言わず母を見下ろしている。笑っていたが、楽しそうではなかった。いつも大人の顔色をうかがっているトシキには、それがわかった。
それもこれもあいつが――
「坊主。お前、親父のこと嫌いだろ」
突然、羽生に言われたトシキは返答に窮した。それは虐待を受け続けてきた防衛本能ではなく、自分の考えていることを言い当てられた気がしたからだ。
羽生はあいつと違って、答えを急かさない。それでも返事に時間をかけたのは、正直に答えて、それがやつの耳に入ったときのことを考えたからだ。
「べ、別に……」
トシキはわざと曖昧な答え方をした。
羽生は察したのか、それ以上は追及せず別の質問をしてきた。
「お父ちゃんがいなくなったら、お前寂しいか」
このときの羽生は顔つきこそ柔和だったが、目は笑っていなかった。怖くなって、今度は答えなかった。
羽生は満足気に頷き、トシキの髪を掻きまわした。

そんなある日、いつものように姉を待っていると羽生がやってきた。そして当然のように家の塀に手をかけた。
トシキはそこに居座られるのが嫌だった。
「あの、お母さん……今日は……」
「ああ、知ってるよ。出掛けているんだろう。しばらく待たせてもらうから」
羽生は構わずトシキの横に陣取った。
しばらく無言が続いた。いつも、おしゃべりな羽生にしては珍しいことだった。
父に連れてこられていた頃は、羽生のことが好きだった。面白い話をしてくれたし、おみやげも持ってきてくれた。
でも最近の羽生は様子が違っていた。父のいない家に勝手に上がりこんで、母と話し込む。ずうずうしさが目についた。
一時間もしないうちに母が帰ってきた。
深刻そうな足取りで今にもへたり込みそうだったのが、羽生の姿を目にすると急いで駆け寄ってきた。
「す、すみません。お待たせして……」
沈痛な表情を浮かべて、母が消え入りそうな声を出した。
羽生は応えず、さっさと玄関へ向かった。母が慌てて後を追った。
母の様子が心配だったので、トシキも家に入ろうとした。母はそれを遮るように振り返った。
「大事な話なの。話が済むまで、表で遊んでいなさい」
トシキが不服そうな顔をすると男の大きな手が目の前に翳された。そこには千円札が二枚ほど握られていた。
「しばらく時間がかかるかもしれないから、これで遊んでおいで」
トシキは首を振って拒んだが、相手は無理やり押しつけてきた。
母の方をみたが、その陰鬱な横顔を隠すように玄関の戸がぴしゃりと閉められた。
しばらくは、その場に立ち尽くしていた。とても遊びにいく気にはならない。いつもの位置で姉を待つことも考えたが、それまで耐えられそうになかった。
やはり、お金を借りている相手から、おこづかいをもらうのは釈然としない。はっきり、そう言ってお金を返そうと思った。
生意気だと、父のように殴られるかもしれない。覚悟を決めて、入り口の戸に手をかける。
施錠されていた。それほど聞かれたくない話があるのだろうか。
「あなたたちは、お金の心配なんかしなくていいのよ」
それが口癖の母親だ。隠したところで、子供にだってばれてしまう。
庭先にまわりこんで、奥へ向かった。勝手口から入ろうとして、ここも戸が閉まっている事に気づいた。確か、植木の下に鍵があるはずだ。手で探ると感触があった。
中へ入った。広いが、古いつくりの家屋だった。ろくでなしの父の古い友人のものらしい。タダ同然の値段で借りていたから文句は言えない。
歩く度に家全体が軋む。別にやましいことはなかったが、何故か足音を忍ばせていた。居間の方から話し声が聞こえた。
「……養子縁組の件ですがね」
羽生の低い声だった。
「先方は大変乗り気でしてね」
養子?縁組?何のことだ。トシキは頭の中で反芻したが、意味がわからなかった。
「――さんのところはまるでお屋敷でねえ、部屋もたくさんあるんですよ」
それに対して母が何か言った。声が小さくて聞き取れない。聞き逃すまいと足が自然に前に出ていた。
「――まだ、あの子の気持ちも聞いておりませんし……」
おどおどした母の声が耳に入った。懸命に言い逃れをしている様子だ。
しかし、相手が悪い。羽生は母の弱々しげな反駁を笑いとばした。
「子供の気持ちねえ。それはあなた、親のエゴなんじゃないのかな。悪い話ではないはずですよ。こう言ってはなんですが、今のままではちゃんとした教育なんて望めないでしょう。これからは学費もどんどん重みますしね。その点、先方さんは教育に関してはしっかりとした考えをお持ちの方です。もちろんお礼に関しても……」
話が核心に近づいたところで、母が悲鳴のような声を上げた。
「お願いします。もう少しだけ待って下さい。お借りした分は必ず」
羽生がわざとらしく、ため息をついた。
「もう少し、もう少しって……一度もまともに返してくれたことないじゃないですか。私は別に自分の分を取り戻したくて、言ってるわけじゃありませんよ。お子さんに幸せな生活をさせたいというですね」
文句を言っているはずの羽生の声がひどく弾んでいることに気づいた。むしろ羽生は嬉しげにしゃべっている。
「弱りましたなあ。そう畏まらないで下さい。まるで私が脅しているようじゃありませんか。私はただ親切で言っているだけなのですが……」
羽生は巧みに声色を使い分けた。それだけで、母など竦み上がってしまう。
「迷惑だなんて、それはお互いさまです。私だって旦那さんには随分と世話になっているんです。それに――」
なお羽生は手を緩めなかった。さりげなく、しかも決定的な一言を浴びせたのだ。
「奥さんとも知らない仲じゃありませんしね」
知らず知らず進んでいた足が止まった。自分の意志とは別の何かが、自制をかけた。
「あれは……」
母の困ったような声が聞こえる。すぐそこにいるのに、障子が閉まっていて居間の様子がわからない。
「あれは――」
母は言いかけて、結局押し黙った。一体何を言おうとしたのか。
思わず聞き耳を立てていた。そんなつもりはなかったのだが、結果的に盗み聞きをしてしまっている。今更、名乗り出る勇気はなかった。
トシキが躊躇していると中から布ずれの音がした。母が後じさったのか、羽生がにじり寄ったのか。
「こ、困ります」
母の声が割れた。
「ご無沙汰だったのでしょう?すごい乱れ方でしたなあ、あのときは。しかし、あれだけ感じていただければ男冥利につきます」
返答はない。中の様子がわからないだけに不安が増していく。
母を助けに今すぐ踏み込むべきか。だが、それとは別に羽生が何を言うのかを聞いてみたかった。
子供ながらにも、母と羽生のあいだに何かあったことはわかる。トシキ自身もショックを受けたのだ。それでも……。
そんな想いをあざ笑うように、羽生はたたみかけた。
「さすが色事師として名を馳せた旦那さんが、精魂込めて仕込んだ身体だ。責め甲斐がありますなあ」
「やめてください。人を呼びます」
ようやく搾り出した声も、羽生にはあっさりとはねつけられた。
「勘違いしてはいけませんよ。あれしきのことで奥さんを征服したつもりはありません。どうです?借りた利子分だけでも、今お支払いになっては」
「嫌ッ」
金切り声とともに障子がたわんだ。中から、何かがぶつかったらしい。トシキはその音に驚いて、逃げてしまった。
しばらく争うような音が鳴り響いた。トシキは頭を抱えて震えていた。恐怖で母を助けにいくことなど、思いつかなかった。
物音が止んだ。
おそるおそるトシキは顔を上げた。静けさはつづいている。
ゆっくりと廊下を這い進んだ。障子が破れているのがみえた。何箇所かが裂け、穴が開いている。
トシキはそろそろと近づくと這ったまま、中を覗き込んだ。



別れた妻 30
七塚 11/2(木) 22:04:38 No.20061102220438 削除

 千鶴と暮らし始めて数年の間は、木崎は幸せだった。
 もちろん、傍らの千鶴は、かつて木崎が死ぬほど恋焦がれた女とは違っていた。昔の千鶴ははにかむようにしながらもよく笑う女だったが、その頃はむしろ生気のない、人形めいた女と化していた。苛酷な生活の果てに、感情をどこかに置き去りにしてしまったかのようだった。かつて確かに抱いていた木崎への激しい憎しみさえも。
 だが、それは木崎にとっては都合がよかった。ようやく手中に収めた千鶴は自分に対してひたすら従順だったが、それは愛情ゆえではない。木崎が肩代わりして払っている母親の治療費ゆえだ。そのくらいのことも分からないほど、木崎は愚かではない。しかしそうであっても、とにかく憎まれることさえなければ、いつかは本当に千鶴の愛を手に入れられる日が来るかもしれない。木崎はそう考えた。
 だから、木崎は千鶴に尽くした。徹底的に。金で千鶴を縛っているだけだ、と考えるのは自分でも苦痛だったが、その気持ちを表す手段も木崎にとっては金しかなかった。
 木崎は千鶴に金をかけた。美しい服を買い与え、常に美しく着飾らせた。そうすることで、一時の悲惨な生活で生彩を欠いていた千鶴の美貌が蘇ってくるのが、木崎には嬉しかった。相変わらず生気を欠いた千鶴の表情が、かえって異様な美を形作っていた。
 その頃の千鶴はまさに人形だったといっていい。木崎の欲望を満足させ、妄想を昂進させる着せ替え人形のような存在だった。
 だが、それから約一年後のある日。木崎の蜜月は急に終わりを告げた。

 その当時、自分のいないときに、千鶴がどこかによく出かけているようだと木崎は気づいていた。それまではそんなことはなかったので、木崎は不安になって千鶴を問い詰めた。いつも無表情だった千鶴の顔に、さっと動揺が走るのを木崎は見た。

 
「俺は千鶴を問い詰めた。あいつからようやく話を聞いて、仰天したぜ。千鶴はどこへ行っていたと思う? ここだよ、お前が住んでいるこのマンションの前だ。もう一箇所ある。昔、お前と暮らしていた家だ。その家はともかく、千鶴がどうやってお前がここに住んでいることを知ったのは、俺には分からない。だが、あいつはよくここに来ていた。お前のいない時間を見計らってな。あの向かいの喫茶店で、ぼんやりこのマンションを眺めていたんだ」
 木崎は自嘲気味に鼻を鳴らしながら、そう言った。
 時雄は驚いていた。千鶴が昔、このマンションの前によく来ていた? 時雄が暮らしていると知りながら、わざわざ時雄のいない時間にやってきて、千鶴はどんな想いでこの建物を眺めていたのだろう。それから何年も経った一昨夜、初めてこの時雄の部屋に足を踏み入れたとき、千鶴はどんな想いでいたのだろう。
「俺も千鶴の話が本当かどうか、確かめるため、ここに来たことがある。だから、俺は今日ここへ来れたのさ。あのとき、一度来ていたからな」


 そうしてマンションの表札にたしかに時雄の名があることを確認した木崎は、深い絶望に陥った。
 千鶴と暮らすことで手に入れたと思っていた、理想的な生活が音を立てて崩れていくようだった。
 ようやくモノにして、今度こそ掌中の珠を慈しむように愛していこうと誓った女。
 その女の心の中には、まだあの憎い男がいた!
 なんということだろう。
 会える望みもなく、会っても憎まれるだけだと知りながら、かつて愛した男の住んでいる部屋をぼんやりと眺めている千鶴。その姿に、かつて血を燃えたぎらせるような想いで千鶴と時雄のいるアパートを見つめていた自分が、木崎の中でオーバーラップした。 
 ある意味、木崎は誰よりもそのときの千鶴の心情を理解出来る男だった。だからこそ、木崎は怒りと憎しみで我を忘れた。
 木崎が千鶴を決して忘れられなかったように、千鶴もまたあの男のことを忘れられないのだ。そう思うと、いつかは千鶴の愛を受けられると夢見ていた自分が、たまらなく惨めになった。なんという道化者だったのだ、自分は!
 千鶴の心はあの男を去らない。木崎は決して千鶴から愛されることはない。
 それならばいっそ、傷つけてやる。傷つけて、傷つけて、二度と元には戻れないくらい、徹底的に堕としてやる。
 憎悪の虜となった木崎の心は、今度はそんな妄執に取り憑かれた。





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別れた妻 29
七塚 11/1(水) 20:27:38 No.20061101202738 削除

 そして―――あの運命の日がやってきた。
 木崎は千鶴を犯した。
 あまつさえ、その事実を脅迫の種に使い、千鶴に関係を迫った。

 あの時期の千鶴の怯えた瞳は忘れられない。千鶴は世の中に存在するぎらついた悪意を知らずに育ってきたような女だった。かつては母親が、やがては時雄が、千鶴の強力な庇護者となり、世間の波風から徹底的に守ってきたからだ。
 そんなふうに育ってきた女がいきなり強烈な暴力に晒され、肉欲の捌け口となった。
 砂漠にいきなり放り出されたハツカネズミのように、千鶴はただ怯えていた。
 まるで鬼か化け物でも見るように自分を見つめる千鶴に、木崎自身も困惑を覚えていた。もともとはこんなふうにしたかったわけではない。掌中の珠を守るように千鶴を愛したかったのは木崎とて同じことだった。
 困惑はやがて激しい憎しみへ変わった。子供は欲しいものが手に入らないと、逆にそのものを憎むようになる。いくら望んでも手に入らないから憎いのだ。そして、木崎は子供だった。
 夫に真実を告げられない千鶴の弱さを盾にとり、木崎は千鶴の肢体を弄んだ。
 本当に欲しいのは千鶴の心。
 だが、それは永遠に叶うことはない望みである。
 もう戻れはしない。戻ることは二度とこの女を抱けなくなることである。
 そうする気にはなれなかった。何があっても。
 矛盾する愛憎と破滅への恐怖が、いよいよ木崎を狂気に駆り立てた。

 しかし、強制的に結ばせた関係はすぐに破綻した。時雄に不倫の現場を見られたのだ。
 木崎は怯えていた。この期に及んでは、さすがに千鶴も不倫の発端がレイプであったことを夫に告白するだろう。そうなれば―――いよいよ木崎は何もかも失うことになる。
 だが、千鶴は時雄に何も言わなかった。ただ、離婚の意思を示しただけだった。
 同時に千鶴と木崎との関係も終わった。
『あなたを恨んでいます。一生、恨みます』
 そう告げられた。
 それまで怯え一辺倒だった千鶴の目に、木崎ははじめて燃えるような怒りを見た。いくつになっても少女めいた雰囲気を持ち、無垢な小動物のようだった千鶴が、そのときはじめて生々しい憎悪の感情を爆発させたのだ。
 木崎は衝撃とともに、そんな千鶴を見つめた。

 やがて、本当に千鶴は時雄と離婚した。
 してやったり、とは思わなかった。どうせ時雄と別れても、千鶴が木崎のもとに戻ることはない。それどころか、一生、自分は憎悪の対象のままだ。
 なぜか、そのことが木崎の心を深く沈ませた。狂おしいほどに。

 ところが、運命のいたずらが起こる。千鶴のたったひとりの家族である母親が重い病に倒れ、千鶴はその治療費を捻出するためにソープに身を沈めたのだ。
 偶然、木崎はそのことを知った。ひどくショックだった。転がり落ちるような千鶴の不幸がショックだったのだ。言うまでもなく、そのひきがねを引いたのは木崎自身であるが、同時に木崎は千鶴のことを深く愛してもいた。狂気じみた愛憎の末に、滅茶苦茶に傷つけておきながら、いまだに身勝手な愛情を抱いていた。

 木崎は千鶴の勤めるソープに通った。
 千鶴はすでに昔の千鶴ではなかった。畳み掛けるような不幸の果てに、千鶴がかつて持っていた無垢な色は消え去り、かわりにどこか凄惨な空気を身にまとっていた。
 客としてやってきた木崎に、千鶴は激しい拒否反応を示した。当たり前だ。その瞳に映る燃えるような憎悪は消える気配すらなかった。木崎は木崎でここまで千鶴を堕としてしまったことに対する後悔と懺悔の念を抱いていた。少なくともそのときまでは。
 拒まれても、拒まれても、木崎はその店に通った。
 会うたびに口も聞かず、何もせずだったが、千鶴が次第にぼろぼろになっていくのは目に見えて分かった。母親のためとはいえ、それまで生きてきた世界とあまりにもかけ離れたところに放り込まれたのだ。かつての千鶴を知っているものからすれば、よく気がおかしくならなかったものだと思う。

 ゆっくりと崩壊していくような日々を過ごす中で、千鶴の木崎への対応も変わっていった。商売女らしい媚びを見せるようになったわけでもなく、相変わらず口もきかなかったが、いつ来ても指一本触れず、ひたすら懺悔し続ける木崎に、千鶴はどこか気を許すようになっていくようだった。

 孤独な人間ほど隙のあるものはいない。そのときの千鶴は本当に独りだった。木崎にすら心を許さずにはいられないほどに。
 千鶴の心が徐々に自分を受け入れつつあることに気づいた木崎は、予想外の展開に内心で狂喜した。これでやっと、対等の関係で千鶴と向き合うことが出来るようになったと思ったのだ。それは大学時代からの木崎の宿願だった。

 やがて、木崎はかねてから考えていた提案を口にする。母親の治療費を自分が肩代わりすること。そのかわり―――とは言わなかったが、木崎の言下の意図には千鶴だって気づいていたはずだ。だから、木崎はむしろおずおずとその提案を言った。
 その日、千鶴は何も言わなかった。だが、何を馬鹿なことを、と言ってその提案を撥ねつけることもしなかった。
 木崎の心は躍った。
 次にその店に行ったとき、ついに木崎は望みのものを手にする。千鶴が自分から身を任せてきたのだ。それが返事だった。

 ようやく、この女を本当に手に入れた!

 木崎はそう確信した。
最高の気分だった。



別れた妻 28
七塚 11/1(水) 15:47:46 No.20061101154746 削除

 不意の木崎の出現に、時雄は驚くよりもショックを受けた。あれほど苦しい思いをして探していた人間が、自分からのこのこ現れたのだ。
 一昨夜、時雄に殴りつけられた木崎は、痛々しい顔の傷以外にも相当のダメージを受けているらしく、よろめくように車から降りた。その姿を見つめる時雄の心はむしろ呆然としている。
 時雄が何か言おうと口を開く前に、木崎は言った。
「千鶴はここにいるのか?」
 どういう―――ことだ?
 不可解な顔をした時雄の反応に、木崎はひとりで納得したようだった。
「そうか、いないのか」
「・・・千鶴はお前のところに戻っていないのか?」
 ゆっくりと時雄は木崎に近づいていく。木崎の目に警戒心と怯えのようなものが見えた。その木崎の肩を時雄は掴む。
「どうなんだ!」
「いない、俺のところにはいない」
「じゃあ、どこにいるんだ」
「知らない。俺はてっきりお前のところだと思っていた。だから来たんだ」
 時雄は木崎の肩を掴んだまま、しばらくその顔を睨みつけた。
 木崎も精一杯の虚勢を張って、時雄の顔を睨み返す。
 そのまましばらく対峙していた。
「とりあえず、俺の部屋に来い。そこで話を聞かせろ」
 やがて、時雄は言った。

「本当に・・・いないようだな」
 木崎の呟きを無視して、時雄は煙草に火を点ける。
 煙を吐き出しつつ、問う。
「いつから千鶴はいなくなった?」
「昨日からだ。・・・お前にやられたこの怪我のせいで、俺はその前の夜から家でずっと寝ていた。いつまで待っても千鶴も戻ってこなかったんでな。千鶴はここにいたんだろ?」
「・・・・・・」
「それは本人から聞いた」
 木崎は唇の端で薄く笑った。
「あいつを抱いたんだろ?」
「・・・・千鶴は翌朝早く、知らないうちに出て行った。やはり、その後一度お前のもとへ帰ったんだな」
 木崎の言葉をまたも無視し、時雄は話を続けた。
「そうだ。朝帰りしておきながら、ご丁寧に俺の怪我の手当てをして、また出て行きやがった。昨夜も戻らない。それで俺はまたお前のところへ行ったのかと思ったんだ」
「出て行くときに引き止めなかったのか」
「ふん。何があったのか知らないが、俺の話なんて聞きやしない。ただただ泣いてわめいて、『このままではいられない』、『お世話になったお金は返す』の一点張りだ。それに引き止めようにも、俺のほうは怪我でろくに動けやしなかったからな」
「・・・・・・」
「いったい俺が今までいくらあいつに金を遣ったか・・・それを元の亭主に会うやいなや、あっさり俺を捨てていきやがった。まったく、たいした女だよ」
「・・・お互いさまだろ。いったい、この七年でお前は千鶴に何をした? レイプしたあげくに、金で縛って、言いように玩具にしていたんだろう」
 凄いほど怒気を孕んだ声で、時雄は言った。
「お前が千鶴の人生を壊したんだ。俺の人生もな」
 木崎は一瞬怯んだようだったが、すぐに持ち前の皮肉な笑みを浮かべた。
「たしかにそうかもな・・・だが、俺だって別に幸せだったわけじゃない。ずっと、長い間」
「知るか」
 時雄は短く吐き捨てた。
「俺は大学時代ずっと、あいつのことが好きだった。それはお前も知っているだろう?」
 時雄の言葉を今度は木崎が無視して、話を続けた。
「だが、お前がいた。お前もまた千鶴のことが好きで、なんとかモノにしようとしていることは、すぐ分かったぜ。内心焦ったよ。お前には、お前にだけは勝てる気がしなかったからな」
 いつも尊大な口調でしか、時雄に向かい合わなかった木崎が、なぜかそのときは様子が違っていた。そんな木崎に時雄は戸惑いを覚えた。
「そして筋書き通りに、千鶴はお前のものになった。あのときは、口惜しくてたまらなかった。逆恨みとは分かっていても、千鶴も、千鶴を奪っていったお前のことも、憎くてしょうがなかった」

 木崎の千鶴への思い入れも、時雄と同じく凄まじいものがあった。
 同じサークルにいる以上、いやでも時雄と千鶴が、恋人となった千鶴の姿が目に入る。それが苦痛で仕方ない。ならばさっさとサークルをやめればいいのだが、木崎はそれもしなかった。あくまで千鶴に執着していた。
 だが、そのときはまだ千鶴を時雄から奪い取ってやろうとは考えていなかったという。
「最初に千鶴がお前のものになったと聞いたとき、ああ、やっぱりなと思った。俺はもともとお前を恐れていたんだ。俺には、お前が別の次元にいる人間のように思えた。絵の才能も男としても、とてもかなわないと思っていた」
 だが、屈折した木崎は内に秘めた思いを口に出すことはなく、むしろ傲慢な調子で時雄に接した。時雄が年下だったことも、木崎のプライドを刺激したようだ。
 とはいえ、時雄から千鶴を奪うことは出来そうにない。二人は誰が見ても似合いのカップルだった。
 だからといって、千鶴を忘れられもしない。
 あるときなどは千鶴のあとをつけて、時雄のアパートの部屋に入るのを見とどけ、それから朝までそのアパートを外から眺めていた。
「暗すぎて笑えるだろ? あの頃はとても正気じゃなかったな」
 自嘲の笑みを浮かべながら、木崎は回想した。

 やがて、木崎にとっては暗い思い出となった大学時代が終わった。
 一時は美術関係の職につくことを志した木崎はしかし、平凡なサラリーマンとなり、平凡な毎日を送っていた。恋に敗れ、夢に敗れた木崎は新しい何かをみつけることも出来ず、ただ鬱々としていた。
 そんなときである。大学の美術サークルの同窓会の話が持ち上がった。
 その知らせを聞いたときはもちろん断ろうと思っていた。しかし、そのとき電話してきたかつての仲間の話を聞いて、木崎は顔色を変えた。
 大学時代の苦い思い出の象徴ともいえるあの男。今では千鶴と結婚したあの横村時雄が、かつて木崎も志望していたデザイン系の会社に就職しているという。
 時雄は木崎の手に出来なかった夢も、恋もすべて手に入れたのだ。
 電話を切った後も、その日はショックでずっと寝つかれなかった。
 敗北感、喪失感、そして嫉妬の念が木崎の中でどろどろと渦巻き、身を焼いた。
 千鶴の顔が浮かぶ。大学時代、時雄も千鶴もシャイな性格なので、人の目のあるところでは決してべたべたしなかったが、ふとした瞬間に千鶴が時雄を見つめていることに気づくことがあった。その顔に浮かんでいる幸福さと愛しさの表情は、まさに恋する女のそれだった。
 いったい何度、苦い想いでそんな千鶴の表情を木崎は見つめたことだろう。
 友人からの電話で、絵に描いたような二人の近況を聞いたとき、木崎の脳裏に浮かんだのは、まさにそのときの千鶴の表情だった。
 あの女は今もまだ時雄の傍らで、そんな幸せな表情を浮かべているのだろう。
 その様子を思い浮かべると、木崎は気がおかしくなりそうだった。いや、すでにおかしくなっていたのかもしれない。そのときにはもう、木崎の頭にうっすらとあの同窓会の夜の計画が具体的な形を取りつつあったのだから。


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