BBS2 2006/10 過去ログ


悪夢 その31
ハジ 10/31(火) 00:06:10 No.20061031000610 削除
「羽生さんと僕の父とは昔からの知り合いだったそうです」
柴崎の相変わらず抑揚のない声がひどく物悲しげに聞こえるのは、私の錯覚でしょうか。
「父はひどい男で家に何日も帰らないこともあれば、酒に酔って僕のことはもちろん母や姉にも度々暴力をふるうような最低の人間でした。家族は全員父のことを憎んでいたと思います」
辛い話を聞いた私が憐れむような目を向けても、彼はあくまで淡々としたまま、しゃべるのをやめません。
「そんな父も羽生さんが来た時だけは優しく機嫌が良くなるので、僕たちはあの人のことを嫌いではありませんでした。よく遊んでもらったし、羽生さんは物知りでとても楽しい人だった」
総じて大人びた印象の彼が昔をひどく懐かしむ様子をみて、彼の抱えているものの大きさがわかるような気がしました。しかし、私はそれをおくびにも出さず
「そうか、付き合いは私より古いのか」
と、邪魔をしない程度に話を合わせました。彼が気安い同情など、望んでいないのはわかっていました。
「そうですね」
柴崎は軽い相槌だけで話題を変えました。必要以上に話を広げるつもりはないようです。
「父の暴力に怯えながらも、僕たち母子3人は身を寄せ合うように暮らしていました。今考えれば、それは幸せな時間だったかもしれない。でも、そのときの僕はそのことに気づいていなかった。幼かったんですね」
柴崎が自分のことを話すとき、彼は必ず責めるような口調になります。
私はそのことに気づいていましたが、そのときは自分のことで手一杯で手を差し伸べるどころか、彼の述懐に疑問を感じて口をはさんでしまう始末でした。
「ちょっと待ってくれ。羽生からは、君と話をするようになったのは中学を卒業して彼の主催する劇団に入ってからだと聞いているんだが……」
危うく聞き流すところを脳細胞を総動員して、記憶を整理します。確かに羽生はそう言っていました。
私の問いかけに、柴崎は自嘲気味に笑みを漏らしました。それは彼自身に対してではなく、彼の体に流れる血に向けられたものでした。
「それは父の職業に原因があるんだと思います。その――ヤクザでしたから。羽生さんはああ見えても学校の先生だし、父のような人間と知り合いと言うのは外聞的にもまずいでしょう」
柴崎はサバサバとした調子で説明しましたが、私には彼の傷口をえぐったような後味の悪さが残りました。
「話の腰を折ってすまなかったね。つづけてくれ」
柴崎の顔からは笑みが消え、また元の能面に戻っていました。
「それで父が実際どんな仕事をしていたかというと」
「うむ」
「女衒と言うらしいです。その――女の人をお店に斡旋したり、途中で逃げたりしないように躾けをする役目だとか」
今時の子から『女衒』などという、古臭い言葉を聞くとは思いませんでした。ずいぶん遠回しな言い方をしたのは、私に気を使ってのことでしょう。
「そういう役割というのはやっぱり同業の人からも馬鹿にされたり嫌われたりするみたいで――だから、父はいつも荒れてたんだと思います」
父親のことを憎んでいたと言いながらも、それを庇う姿勢はやはり親子の情愛の現われでしょう。しかし、それを指摘してやることが彼にとって意味のあることなのか、私には判断がつきません。
現に彼はそのことにさほど頓着せず、軽い調子でこう切り返したのです。
「あ、でも、このことを知ったのは父が殺された後のことで……」
「こ、殺された?」
私は聞き違いかと思って、聞き返していました。目の前の少年はあまりにもあっさりと肉親の死を語ったのです。
「はい、ナイフで一突き。汚いドブ川に浮かんでいたんだそうです」
柴崎は手刀を首に当て、舌を出しておどけて見せました。私は衝撃で、彼の行儀の悪さをたしなめることもできません。
「相手は誰か、わかったのかね」
「すぐ捕まりました。でも先生の知らない人ですよ。僕も会ったことないですけど」
「理由は……その殺した」
「父のことをずいぶん恨んでいたようです」
おそらく柴崎は不幸が多すぎて、感覚が麻痺してしまっているのでしょう。私に同じことが降りかかれば、とうてい耐えられそうにならないほどの。
そして彼に襲い掛かる災難は、怖ろしいことにまだ序盤に過ぎないのです。そのことを私はこの後、思い知らされます。
教育者として――
私は自分の無力を嘆かずにはいられません。
こういう境遇の子供とどうやって接したらいいか、どういう言葉を投げかければ良いのか、未だ明確な回答を持たないのです。
この子のことについて、ぜひ秋穂に尋ねてみたいと思いました。少なくとも、妻はこの少年と数年のつきあいがあるのです。反面、一度もそのことで相談がなかったのが複雑ですが。
私は心を静めて、柴崎を見ました。
「もう一度聞くけど、君のお父さんを……したのは羽生ではないんだよな」
「はい、間違いありません」
「じゃあ君のお父さんが亡くなったことと羽生には何の関係も――」
「父が死ぬ前にこういうことがあったんです」

柴崎は当時のことを粛々と語りはじめました。



別れた妻 27
七塚 10/30(月) 22:05:16 No.20061030220516 削除

 過去を振り返ることが嫌いだった。
 後ろ向きに生きていくことは何よりも耐えがたかった。
 かつて、時雄は確かにそんなタイプの人間だった。
 辛いときも、哀しいときも、そのままの状態で沈み込んでしまえば、救いようのないところまで堕ちていってしまいそうで怖かった。
 だから、もがいた。ひどい気分のときはもがいて、あがいて、どうにかして立ち直る。それがある時期までの時雄の生き方だった。
 現状を受け入れてしまえば、自分の弱さを認めることになりそうで、厭だった。どんなときも、負けたくはなかった。
 いつからだろう。そんな時雄の生き方に変化が訪れたのは。
 不意に訪れる哀しみに流され、沈み込むようになっていったのは。
 ―――千鶴と別れてからだ。
 青天の霹靂としか言いようのないあの離婚劇は、時雄から最愛の女だけでなく、男としての自信のようなものを確かに奪い去った。
 ときには傲慢とさえとられた時雄の自分自身を信じぬく気概は、あの事件をきっかけに失われ、かわりに己への不信感のようなものが芽生えた。
 本当の自分はこんなにも弱く脆い人間だったのだ、と。
 そもそも、時雄がいつもいつも自分を奮い立たせて生きてこれたのは、千鶴がいたからなのかもしれない。自分を貫きとおした結果、どんな酷い目に遭って、どんなに周囲から孤立したとしても、千鶴だけは傍にいてくれる。ずっと見守っていてくれる。かつて、時雄はたしかにそう信じていた。
 だから、千鶴が去っていってからの時雄はまったく別の人間になってしまった気がした。
 孤独―――。
 そして、時雄は過去ばかりを見つめる人間になった。どうしようもない後悔とやりきれなさに始終支配されている人間になった。

 そして今も―――
 時雄は終わってしまった過去に苛まれている。
 伊藤から聞かされた、自分と別れてからの千鶴の人生の断片。
 救いようのないその話は、時雄の心を打ち壊すだけの圧倒的な力を持っていた。
 理不尽に訪れたあの離婚のときも、それ以降の長い年月も、そしてつい最近再会し、あの恐ろしい告白を聞いた後でさえも、時雄は心のどこかで千鶴を信じる気持ちを捨てられなかった。憎しみや怒りや自分自身への不信感はあったとしても、だ。
 なぜそこまでの思い入れがあるのかと考えても分からない。心から愛していたからと言えばそれまでだ。あるいは、短い期間ではあったが、千鶴と暮らした幸せな年月の記憶を汚したくないという想いがあったのかもしれない。あの年月すらも幻だったとしたら、時雄の人生は本当に何もなくなってしまう。
 それが怖かった。
 伊藤は他人だ。当たり前の人生を歩んでいたら、時雄とも千鶴とも一生関わることがなかったであろう男。
 その男の目から見た、つい最近までの千鶴の姿は、時雄には信じがたいものだった。かつての千鶴からは想像も出来ない姿。
 だが、それは実際にあったことなのだ。
 一昨夜の告白で、千鶴はもっともひどい状態だったとき、木崎に助けられたといった。それをきっかけに、身も心も木崎に売り渡してしまった、と―――。
 それはつまり、木崎の望むような女になったということだったのか。伊藤の話に出てきた破廉恥な振る舞いさえ厭わないほどの女に。
 
(嫌よ嫌よも好きのうちってね。そういうプレイなんだよ。男が卑猥なことを女に強制して、女はいやがる素振りを見せながら従うことで、下半身を濡らす。本当にいやだったら、まともな神経をしていたら、そんな馬鹿げたことをやる女はいないよ)

 不意に伊藤の言葉が蘇る。目の前が真っ赤になって、時雄は慌てて道の端に車を停める。
 息をついて、呼吸を落ち着かせた。
 そんなことがあるはずはない。
 たとえ、言葉どおり、千鶴が木崎の奴隷になっていたとしても、そんな境遇に彼女が暗い楽しみをおぼえていたなんてことは、あるはずはない。
 心に湧いた疑念を必死に打ち消しながら、一方で時雄は自嘲している。
 いまだ千鶴を信じる心を捨て切れていない自分を哂っている。
 

 時雄は伊藤の話を最後まで聞くことは出来なかった。すでに神経はぎりぎりまで痛めつけられていて、気がおかしくなりそうだった。
 明らかに様子のおかしい時雄に伊藤は恐ろしげな顔をしていたが、とにかく木崎の住所だけは教えてくれた。
「それで、写真は・・・」
 それだけ聞いてさっさと靴を履きかけた時雄に、伊藤は玄関口でおそるおそる声をかけた。
「―――――!」
 ものも言わず、時雄は手にしていた写真をびりびりに破き捨て、伊藤の家から飛び出した。つい一時間前のことだ。
 そのまま時雄は自宅に向かった。木崎の家に直行はしなかった。すでに食わず寝ずの生活が長く続いていて、身体も心もぼろぼろである。このままの状態で木崎と対峙することは出来そうにもなかったし、その前に自分が何のために何を望んで動いているのか、またも時雄には見えなくなっていた。
 あるいは―――時雄は怖かったのかもしれない。木崎の家に行き、そこにいるかもしれない千鶴と直接向き合うことが・・・。

 自宅マンションの駐車場に車を停め、時雄は自室に向かった。
 とりあえずはもう何も考えないで、ただ身体を休めたかった。
 だが―――
 マンションの前に停まった車の中から、こちらをじっと窺っている男が目に入った。
 顔中アザだらけで、ところどころガーゼや絆創膏を貼っている。その下から時雄を見つめる、あの暗い目つき。
「木崎・・・・」
 時雄は思わず呟いていた。



別れた妻 26
七塚 10/29(日) 18:00:45 No.20061029180045 削除

「・・・あなたは」
 時雄はようやくのことで声を絞り出した。
「どうしてそのとき何もしなかったんですか? その女性―――紙屋さんは決して望んでやっている様子ではなかったんでしょう? 木崎に強制されて無理やりそんな・・・ことをやらされていたんでしょう? どうして」
 助けてやれなかったのか―――。
 語っているうちに、怒りと悲しみが降るように湧いてきて、言葉が詰まる。
 胸が詰まる。
 息が詰まる。 
「あんたもいい年なんだから分かるでしょ? 嫌よ嫌よも好きのうちってね。そういうプレイなんだよ。男が卑猥なことを女に強制して、女はいやがる素振りを見せながら従うことで、下半身を濡らす。本当にいやだったら、まともな神経をしていたら、そんな馬鹿げたことをやる女はいないよ。私が口を出す問題じゃない」
 わけ知り顔で伊藤は言う。
 時雄の脳裏に一昨日の木崎の顔が蘇る。
 木崎の言葉が蘇る。

(・・・女のほうも望んでやっているんですよ・・・)
(・・・そういうのが好きな女なんです・・・)

「まあ、そんなことがあってからだね、私と木崎さんとその・・紙屋さん・・・奥さんか、三人の付き合いが始まったのは。それからはたまに連絡を取り合って、三人で遊ぶことがあった。まあ、遊ぶといってもご想像通り、世間一般のおとなしいものじゃない。今から思えば木崎さんはたしかにまともじゃないね。女房を私のようなよく知りもしない男に抱かせて、自分はそれを見て悦んでるんだから。ときには写真なんか撮ったりしながら。とはいえ、奥さんはあれだけの美人だし、身体もよかった。私も夢中になっちゃってね」

(あいつは心の底から俺に惚れているのさ。だから俺の望むことなら、何でもしてくれる。ただ、それだけだ。理屈も何も関係ない)

「私もこの年になるまで色んな女を抱いたが、あれほどの極上品は他にはいなかったね。木崎さんに色々仕込まれていたっていうのもあるだろうが、まるで風俗嬢のように男を悦ばせるテクニックを知ってるんだ。普通の女なら決してやらないようなことでも、言えばなんでもやってくれた。あれは真性のM女だね。木崎さんもいい女をものにしたもんだ。まったく、男の玩具になるために生まれてきたような女だったよ」

(そのときから私は決して彼の言うことに逆らえない女になってしまったんです―――)

「普通なら虐待といえるようなことでも、マゾの女には最高の刺激なんだな。写真を撮られながら、夫以外の男に奉仕させられる奥さんのほうもまんざらでもない様子だったよ。ときには私と木崎さんの二人がかりで責められてヒイヒイ泣いていた。あの奥さん、顔もいいけど声もいいんだよな。汗びっしょりになりながらハメられてるときなんか、こっちもゾクゾクするほどいい声で啼くんだよ」

(千鶴もまんざらでもない様子だぜ。お前と別れてから、初めて本当の女の悦びってやつを知ったんだよ、あいつは。もちろん教えたのは俺だがな)
(女はいいな、どんなことも悦びに変えてしまう)

「まあ、そんなこんなで私も大いに楽しませてもらったし、世話にもなったからね。奥さんにあのバーを紹介したんだよ。オーナーと私は昔からの知り合いだからね。でも、あの店でもときどき客をとってるらしいね。前に会ったとき、木崎さんが言っていたよ。ほんと、イカれてるよなあ」

(あなたに軽蔑されるのが怖かったんです―――)

「・・・黙れ」
 突然、低い声でそう言った時雄に、伊藤はきょとんとした顔になった。その顔を時雄は睨みつけた。
 心が、身体が、バラバラになりそうだ。
「もういい・・・そんな話はもう聞きたくない。やめてくれ」
  



悪夢 その30
ハジ 10/28(土) 23:30:20 No.20061028233020 削除
柴崎トシキ。私立M高校一年。
息子・浩志の友人にして、妻・秋穂の元教え子。
膝の上に手を揃え、少し俯き加減で彼は座っていました。
私はお茶を入れるふりをして、彼の様子をうかがっています。先ほど感じた威圧感は薄れ、どこにでもいる普通の学生の姿がそこにはありました。
偶然出会った彼を家に上げるか迷いましたが、羽生というつてを失った今、息子のことを最もよく知る友人と直接話す機会を逃すわけにはいきません。私にしては珍しく強引に家に寄っていくようにすすめたのでした。
私は彼の前に湯呑みを置くと、その正面に腰をおちつけました。
柴崎は坊主頭をペコリと下げましたが、お茶に手をつける様子はありません。
ぎこちない間を嫌って、私のほうから話を切り出しました。
「御覧の通り立て込んでいてね。秋穂は留守なんだ。浩志は――」
私はテーブルから視線を上げ、彼の表情を探りました。
「ずっと帰っていない。そのことは羽生先生や、うちのからも聞いているよね」
柴崎がこくりと頷きました。
「今日は秋穂先生ではなくて……浩志のお父さんの方に話があって来ました」
「私に……」
突然のことに私は戸惑いました。もっとも息子のこと以外で、この少年と接点があるとは思えません。私を指名する理由だけが思い当たらないのです。
「浩志のことで来てくれたのだと思っていたんだが……ひょっとして違うのかな」
「いえ」
彼が簡潔な返事しかしないので、役割上どうしても私が聞き手になるようです。
「用件は浩志のことでいいんだね。私で良ければなんでも聞くよ」
「すいません。秋穂先生には合わす顔がないんです」
「どういうことだね?さっぱり話が見えないんだが」
それでも私は辛抱強く聞き続けました。我慢強さは長い教員生活で自然と培われたものです。
柴崎は無表情のまま、顔を上げると私の顔をゆっくりと見据えました。
「先生に嘘をついてしまったんです」
彼の言う嘘――それは一昨日から行方不明になっている浩志の所在のことに違いありません。
「まさか浩志は君のところに」
柴崎が力なく首肯すると、私は脱力のあまり椅子から転げ落ちそうになりました。
息子の居場所がわかった――ほんの一筋ですが、光明が見えました。
少なくとも、これでひとやまは越えたはずです。全て解決とはいきませんが、あとは浩志が戻ってきてから考えれば良いことです。
私は安堵のあまり放心してしまいました。しばらくは対面の柴崎の存在すら忘れていました。
正気に戻った私がまずやったことは、卓上の携帯電話に手を伸ばすことでした。手柄顔で秋穂に報告するためです。
その手がやんわりと押さえられた時も、私は興奮していて何が起こったのかわかりませんでした。まだ夢の途中だったのです。
「ごめんなさい。このことは、ここだけの話にしてください」
静かですが、迫力をたたえた声が聞こえました。しかも、それは有無を言わせぬ響きを帯びています。
「浩志には決して言わないでくれと頼まれているんです」
まともには視線を合わせていませんが、柴崎の目が底光りしたような気がしました。向かい合っていると、出会った時に感じた圧迫感が甦ってきます。
私はわざとらしく手首をさすりながらも、聞かずにはいられませんでした。
「息子は元気かね」
「はい」
「息子は君になんと言ってきたのかね」
「家に戻れないので、しばらく泊めてほしいと」
「帰れない理由は何か聞いたかい」
「言いたくないと言われました」
「そうか、ありがとう。ずいぶん迷惑をかけたね。君はやさしい子だな」
私が労うと、柴崎はしばらく考え込むようにして言いました。
「そうでもないです。誰にでもというわけではないですし……むこうはどうだかわからないけれど、僕は浩志のことを弟のように思っています。事情はいずれ話してくれるはずです」
はにかむように話す彼ををみて、この子は表情が乏しいのではなく表現が下手なだけだと気づきました。そして、こんな良い友達を持った息子が急にうらやましくなりました。
「なるほど。息子はこのことを知らないんだね。しかし、よく決心してくれたね」
彼は表情を変えず私ではない、どこかをみています。
「そろそろ限界だと思いました。これ以上浩志のことを庇えば、逆にあいつのためにならないような気がします。行方がわからなければ先生たちも必死に探すだろうし警察へも……」
「その通りだ。今からでも遅くない。君の家に行こう」
「少し待ってくれませんか」
私には彼の言いたいことがわかっていました。予想通りの声が返ってきます。
「浩志は反省しています。もう少し考える時間をあげて下さい」
仕方ありません。彼には我が家の逼迫した状況がわかっていないのです。
「さっき君も言った通り、もう猶予はないよ」
「でも」
「ここからは家族の問題だ。君には遠慮してほしい」
私が放った不用意な一言に柴崎の表情が険しくなりました。そして私に噛み付かんばかりに身を乗り出してきたのです。
「一日でいいんです。時間を下さい。責任を持って僕が浩志を説得します。自発的に家に戻れるようにしてやりたいんです」
少々威圧的ですが、それは彼なりの懇願でした。
その後も私は柴崎から息子の近況を聞き出しました。その居場所については頑としてしゃべろうとはしません。どうやら匿っているのは自宅ではないようです。
「君の浩志を想う気持ちはありがたいのだが、私にも親としての責任がある。はい、そうですかでは済まないんだよ」
柴崎は頭を下げたまま、黙っています。
「強情を張ると後悔するよ。なんなら警察に事情を話して、君のことを調べてもらってもいいんだよ」
脅かしてみても効果はありません。それどころか逆に彼の目ヂカラによって私が気圧される始末です。
結局、根負けした私は彼を信じることにしました。柴崎の息子を思いやる熱意にほだされたのです。
つい先ほど破綻した羽生とのうすっぺらな友情に疲れていた私にとって、それは感動に値するものでした。


玄関まで見送りに出た私に、これまでのことで多少気を許したのか、柴崎が話しかけてきました。
「羽生さんとは友達ですか」
一瞬答えに詰まりましたが、私は苦しいながらも笑顔を作りました。
「ああ、付き合いはかなり古いね」
少年の顔が曇りました。
「あの人には近づかないほうがいいです」
彼が返した言葉に私は驚きました。彼は羽生とは親しい間柄だと思っていたからです。
「深入りすると家族が不幸になります」
柴崎は靴の紐を通そうと屈んでいます。その背中は口とは違って非常に雄弁でした。なにかを必死に訴えかけているようです。
「どうして、そう思うんだね」
私は無言の圧力に促されるように思わず聞いてしまいました。
柴崎がむくりと身を起こしました。
「僕の家族がそうだからです」
その横顔に感傷らしきものが浮かんでいるのを、私はしっかりと目にとめました。



別れた妻 25
七塚 10/26(木) 19:39:57 No.20061026193957 削除

 伊藤と向かい合って、時雄はソファに腰を下ろした。
 眼前の伊藤は最初の印象どおり、適当に遊んで適当に老けてきた人生が透けて見えるような、たがのゆるんだ風貌をしていた。肩幅はがっちりとしているが、突き出した太鼓腹が見苦しい。
 こんな男が千鶴をいいように弄んでいたかと思うと、腹の底がかっと熱くなるようだが、とりあえずこの場では忘れるしかない。
 木崎と千鶴の所在を知ることが何よりも肝心だ。
「まずお聞きしたいのですが、あなたと木崎夫妻はそもそもどういう知り合いなのですか?」
 伊藤は上目遣いで探るように時雄を見た。
「どういうって・・・さっきも言ったけど、そんな深い付き合いでもない。ただ、行きつけの飲み屋で知り合って、ときどき連絡をとって遊ぶようになったってくらいかな。だいたいあんたは木崎夫妻というけど、私はあのひとが結婚していたのも知らなかったんだ」
 伊藤の言葉にはひっかかるものがあった。
「あなたは木崎さんとこの写真の女性が結婚されていることをご存じなかったのですか?」
 この写真の女性、と言ったとき、伊藤の顔がわずかに動揺した。
「私は聞いていないよ。最初に会ったとき――これは二年くらい前のことだが――そのひとは私に「紙屋千鶴です」と名乗っただけで、それ以上のことは何も言わなかった。木崎さんも結婚してるなんて言わなかった。もちろん最初からふたりがただならぬ関係だということは分かっていたが、結婚していたなんて初耳だ」
 これは―――どういうことなのだろうか。
 紙屋は千鶴の旧姓だ。時雄と別れて間もない頃なら、千鶴が旧姓を名乗っているのは当たり前だが、伊藤の話はつい二年前の話なのである。普通に考えれば、そのときはもう木崎と籍を入れていておかしくない。すでに籍を入れていたなら、わざわざ旧姓を名乗る理由が分からない。
 もちろん、その後に籍を入れたという可能性もあるが、そうだとしても、友人の伊藤でさえ知らないとはどういうことか。
 よくよく考えてみれば、千鶴が木崎と再婚しているという話は、千鶴の口から聞いただけである。木崎本人からもそんな話は聞いていない。もっとも、木崎とはあまり話を出来る状況ではなかったが。
 ふと心に生まれた動揺で時雄が黙っていると、伊藤が、
「あのふたりがまともじゃないということは分かっていたけど、まさか夫婦だったとはね。いよいよイカれたカップルだ」
 と呟いた。
「どういうことですか?」
「いや・・・あんな写真を見られているんじゃ説得力はないだろうが、私から見てもあのふたりはおかしかったよ。変態的っていうのかな。・・・ところであの写真、後で返して貰えるんだろうね。あんなのが出回ってると思ったら、おちおち表にも出られない」
 時雄はにこりともせず、「続きを聞かせてください」とだけ言った。伊藤は少しむっとしたようだったが、諦めたようにまた口を開いた。
「最初に彼らと会ったのはある飲み屋でね。私はそこの常連だったから、ちょくちょく行っていた。で、あるとき、ふと気づいたら、私と同じように、よく来る男女二人連れの女のほうがかなりの美人だということに気づいたんだな。男のほうは、木崎さんには悪いが、たいして風采のあがらない、貧相な感じだったから、面白い組み合わせだなと思っていた。
やがてその店に行って、そのカップルを見かけるたび、意識してそのほうを見るようになった。そうして見ていると、やっぱりおかしい。女のほうはおとなしめな顔で、化粧だってそんなにしていないのに、やたら派手というか、露出の多い服を着ている。そう若くもないのにね。で、店で並んで飲みながら、男のほうはやたらと女にちょっかいをかける。キスをしたり、尻をさすったり、ひどいときなんか胸元に手を入れたりしているんだな。女のほうはいかにも恥ずかしそうに形だけ抗っているようだが、結局は抵抗らしい抵抗もしないでなすがままになっている」
 そのときのことを思い出して語る伊藤の顔には、はっきりと好色な笑みが浮かんでいた。時雄は胸糞がわるくなった。
「そんな話はいい。とにかく、あなたはその店で木崎と知り合ったんですね」
「そう。木崎さんの狼藉があんまりひどいんで、店でもそろそろ話題になっていたころだったな。ちょうど小便に立ったとき、木崎さんがいたんだ。『あなたたちがあんまり派手にやってるもんで、店の者も客もびっくりしてますよ』って私から話しかけたんだ。私の言葉に木崎さんはただへらへら笑っていた。そのときから、店で会うと挨拶くらいするようになったんだ」
「・・・いつから本格的に親しくなったんですか?」
 時雄が問うと、伊藤はまた下卑た笑いを浮かべた。
「それが今から思い返せばとんだ笑い話でね。あれは冬の頃だったが、ふたりがまた連れ立ってやって来たんだ。たまたま店が混んでいて、私はひとりで飲んでたんだが、木崎さんが『こちらのテーブルにご一緒してよろしいですか』と聞いてきたから、いいよと答えた。そのとき、改めて真近から女を見たんだが、本当にいい女でね。でも、その日は黒いレザーコート一枚を羽織って、店に入っても脱ごうとしないんだ。私ともろくろく目を合わさず終始うつむいているし、寒いのに額にはうっすらと汗が浮かんでいた。どう見ても普通な様子じゃないんだね。
私は気になって、『どこか具合がわるいのですか?』と聞いた。それを聞くと、木崎さんはなぜか笑った。おかしくてたまらないという様子だった。女のほうはますます縮こまっている。私は何がなんだか分からないし、どうも馬鹿にされたふうだったから、不機嫌な顔をした。そしたら木崎さんが女の耳に何か囁いたんだ。女の様子は普通じゃなかったから、私はこの女は耳が聞こえにくいのだろうかなどと思った」
「・・・・・・」
「木崎さんに何か言われて、女のほうは小さくかぶりを振った。瞳が潤んでいて、それがなんとも蟲惑的に見えた。あの女はいつもそんな瞳をしていたね。困っているような、戸惑ったような、潤んだ瞳。それがまたなんともそそるんだよ」
 話に興がのってきたらしく、伊藤は身振り手振りも交えながらいやらしい口調で語る。
 伊藤の口に出した『あの女』という呼称自体、この男が千鶴に対して抱いていた感情を如実にあらわしていた。殴りつけたくなるほどの怒りを覚えながらも、時雄の脳裏には一昨日に見た千鶴の瞳がよぎっている。
 あのときも、千鶴の瞳は潤んでいた―――。
 時雄にとっては、その瞳の色は蟲惑というよりも、哀切の念を激しく呼び起こすものだったが。
 時雄の感傷など知るはずもなく、伊藤は滔々と話を続ける。
「木崎さんに再三何か言われて、女はしばらくそうして困っていたが、やがて私のほうを見た。背筋がぞっとするような艶っぽい目だった。それから女は顔を伏せて、静かにコートの前を開いた」
 思わせぶりな口調で言葉を切って、伊藤は時雄を見た。時雄は思わずその顔に罵声を浴びせてやりたくなったが、そうする前に伊藤が口に出した言葉のほうに衝撃を受けた。
「驚いたねえ。コートの下に女は何も着てなかった。真っ裸さ。ちょっと開いただけで、女はすぐに身体を隠してしまったが、おっぱいもあそこの毛もはっきり見えたよ」
 世の中には本当に変態っているものなんだな。
 そう言って、伊藤はまた下卑た笑みを浮かべた。





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悪夢 その29
ハジ 10/25(水) 21:15:25 No.20061025211525 削除
羽生は私の強い語気に気分を害したようでした。
「頭ごなしに怒鳴るのはやめていただきたいですな。こどもじゃあるまいし……」
受話器越しにブツブツと文句を言うのが聞こえてきます。
「そんな言い方をされたら、やる気が失せる。こっちだって無償でやっているのに」
と、妙に恩着せがましい言い方をしてきました。このまま黙っているわけにはいきません。
「はぐらかすな。誰が妻の素行調査など頼んだ?君には柴崎という生徒に浩志のことを聞いてくれるよう頼んだだけだ。怒っているのはこっちのほうなんだぞ」
私は自分でもびっくりするような大声を上げていました。往来を行き来する人がこちらをのぞいていきます。
しかし、羽生がそれに怯む様子は全くありません。
「なぜ私があなたの指図に従わなければならないんです?私には私のやり方がある。便利屋扱いするのはやめてほしいですな」
最早、羽生は倣岸さを隠そうともしません。
「浩志君の居所を突き止めるのなら、そもそもの家出の原因を探るのは当然でしょう。それなのに、あなたは肝心なことは何も言わない。だったら、こちらで調べるしかないじゃありませんか」
「それは、しかし……」
「そんなところへ奥さんが急に血相を変えて学校を飛び出していったんだ。何か、あったんじゃないかって勘ぐるのは普通でしょう」
秋穂の行動は気になりましたが、羽生が私を言いくるめようとして、その話を持ち出したのはあきらかです。私は妻のことを聞きたい衝動とも闘わなければなりません。
「だからといって黙って他人の妻をつけまわすことはないじゃないか。非常識だろう」
「理由を説明しても納得してくれないのですか。そう感情的になられては話もできませんよ」
「納得できるわけはないだろう。妻の後をつけて何をするつもりだった?」
「いやだなあ、少し頭を冷やしてください。いま我々が探しているのは誰です?息子の浩志君でしょう。本人から呼び出しがかかったという可能性だってあるでしょう。そうだったら万事めでたしじゃないですか」
羽生の一見正論に聞こえる、その内容に私は危うく丸め込まれそうになります。
しかし、彼の言動からずっと妻の様子を盗み見ていたことは確かです。私にはそれが許せないのです。
「せめて先に断っておいてくれれば」
「同じことですよ、事前に言ったところで許可してくれましたか」
「でも君の言いようを聞いていると、面白がっているようにみえる」
「僕は当事者ではありませんのでね。でも、その方が冷静に対処ができる。ご心配なく。下手は踏みませんよ」
「わかった。ならば今いる場所を教えてくれ、すぐにそちらに向かう。私のいないところでコソコソするのはやめてもらおう」
羽生は舌打ちを隠そうとして失敗しました。
「やめたほうがいい。木多先生はそういうのは向いていないでしょう。向こうに感づかれたら意味がない。ちゃんと後で報告しますから」
やはり――。羽生ははぐらかして、教えるつもりはないようです。
「――おっ、動きあり。秋穂先生が店に入りました。引き続き、監視態勢に入ります。よろしいですな」
「だ、駄目だ。とにかく、それ以上妻に近づくことは赦さん」
そうは言ったものの、迷いは隠し切れなかったようです。羽生の言葉がじわりと効いてきているのです。
「フン――そうですか。奥さんは今人と会っていますが、そのことに興味はないですか?」
先ほどまでとは違い、その口調はすっかり冷めたものになっていました。それは彼が持ち前の計算高さを取り戻したことに関係します。
でも、今の私はそんなことよりも、妻が誰かと会っているという事実に心を奪われていました。
「そんなことは後で直接妻に聞けば済むことだ」
「やはり気になるようですね。お相手は息子さんじゃありません。歳は……」
電話の声がささやきかけてきます。人の弱みにつけこもうというのです。
「いや、いい」
咄嗟にそう口走っていました。耳に生暖かい息を吹きかけられるような嫌悪感が甘い誘惑を上回りました。
「もう聞きたくない」
「…………」
私のはっきりとした拒絶に受話器の向こうは沈黙しました。羽生にとって、その返答は予想外だったようです。
私としてはこれ以上羽生に惑わされるのは御免でした。別に駆け引きを考えたとか、そういうことではありません。
「そのことを聞いてしまうと、君は私が妻の尾行を許可したと誤解するだろうからな」
きっぱりとそう言い切ると肩が軽くなりました。妻が会っている人間の正体は気になりますが、今は目の前の悪魔を追い払うのが先決です。
それを知ってか知らずか、羽生の声がさらに柔らかくなります。
「本当に聞かなくて良いんですか。奥さまがお会いになっている人物のことは気になりませんか」
「くどい」
「――そうですか。でも知りませんよ、どうなっても」
「構わん。どうせ場所を言う気はないのだろう。これ以上君に関わるつもりはない。すぐにそこを立ち去れ」
羽生はその後もしつこく揺さぶりをかけてきます。
「他にも耳寄りの情報があります」
「そこを離れないと本当に通報するぞ」
顔は見えなくても、羽生が歯軋りするのがわかりました。
本当はその先を聞きたくて仕方なかったのですが、なんとか耐え切りました。
羽生は諦めたのか、最後に小さく毒づいて電話を切りました。

たった数分とはいえ、羽生と渡り合った私はすっかりへとへとになっていました。
要するに、彼は私から頼まれたこと以外のことに関心があったということです。妻を尾行し、何かを探っていました。部外者の分際で、我が家の内情を必要以上に嗅ぎまわっていたのです。
妻が彼を危惧する理由がわかったような気がします。あの男は目の前に秘密があれば、後先考えずにそれを暴き出そうとするでしょう。結果として、私たち家族がどうなろうと彼は構わないし、自分の好奇心を満足させるためには他人の迷惑など厭わないに違いありません。それどころかあわよくば私たちの弱みを握ろうとしているのかもしれません。
私のほうも他人のことは言えた義理ではありません。妻が忌避する彼を使いこなして、浩志を取り戻そうとしていました。それは妻に対する夫としての意地であり、男としての懐の深さを示そうとする下心でした。そして何よりこの災いを転じて、一気に家長としての復権の好機にしたいという思惑があります。つい息子の無事を棚上げにしていた点は否めません。
冷静になって考えると、彼はそれほど良い友人だったというわけではありません。彼の傍若無人ぶりを面白がってはいましたが、信頼に足る人物かどうかを見極める機会はこれまでありませんでした。安易に友情という響きに縋ったというのが本音です。
向こうも案外、同じようなことを思っていたのではないでしょうか。こうして私たちの友情は実にあっけなく終わりを告げたのですから。

羽生を多少はやり込めて、ちっぽけな満足感を得ることには成功しましたが、そんなものはすぐに消え去ってしまいました。私は羽生から秋穂の居場所さえも聞き出すことができなかったのです。
いつになく落ち込んでしまいました。私は自分のことを冷静な人間だと思っていましたが、最近は感情をコントロールすることができなくなっています。そこには嫌でも老いというものを感じてしまいます。
ボーッとしている間に、足は自然に家の方に向いてしまったようです。気がつくと、自宅の門が見えていました。こんなときだというのに、帰巣本能は働くようです。
ふと気配を感じたので、振り向いていました。
そこにはまるで鏡のように、同じ格好をした男性がいました。体はむこうを向いたまま、首だけをまわしてこちらを見ています。
私のほうは気づきませんでしたが、どうやらすれ違ったようです。男性がゆっくりと向き直ります。
私たちは自然に向かい合っていました。
「――木多先生?浩志のお父さんすか……」
声は低く落ち着いていましたが、まだ若いようです。
「そうですが……」
いきなり息子のことを聞かれた私はつい動揺してしまいました。
少年といってもいいくらいの男は目を細めるように私をみつめます。
「柴崎と言います。浩志クンの友達っす」
少しきつすぎる眼の光に射すくめられて、しばらく私は動くことができませんでした。



別れた妻 24
七塚 10/23(月) 22:11:09 No.20061023221109 削除

 バーテンから聞いた男の名は伊藤牧人。この男が千鶴をあの店のオーナーに紹介したのだという。
 連夜の睡眠不足からくる生活の乱れがたたって、ふらふらの身体を引きずるように、時雄は翌日、伊藤の家を訪ねた。
 朝、出かけるとき、床に放り出したままの、あの写真が目に入った。見るも恐ろしいそれを時雄がポケットに突っ込んで出かけたのは、ある予感が頭をかすめたからである。
 この写真に千鶴と一緒に映っている男は、もしやその伊藤という男ではないか。千鶴に対する男の馴れ馴れしげな様子、また男がファインダー越しにカメラを構えているであろう木崎に送っている笑みは、この男が木崎と千鶴の生活に深く食い込んでいる証のように思えたのだ。

 時雄の予感は当たった。突然の見知らぬ男の訪問に、不機嫌そうな顔をして出てきた伊藤は、まさに写真のとおりの男だった。
 その顔を見た瞬間、凍るような戦慄が時雄の身体を貫いた。
「どなたですか?」
 固まっている時雄に、伊藤はうさんくさげな視線を向けた。
 時雄は震える声を抑え、自らの名を名乗った。
「あなたにお聞きしたいことがあります。あなたのご友人の木崎ご夫妻のことです」
 伊藤の太い眉がぴくりと動いた。
「木崎さんたちがどうかしたんですか?」
「事情があって、お二人に至急会わなければいけないのです。もしよろしければ、お話を聞かせていただきたいのですが」
「そんなことを言われても、あんたが何者かも分からないうちに勝手によそ様のことを話すわけにはいかんよ。だいたい、私だってそんなに親しく付き合っていたわけでもない」
「・・・・そうでしょうか」
 時雄は低い声で応えた。ポケットを探り、つかみ出したそれをゆっくりと伊藤の前に突きつけた。芝居がかったことをしていることは自覚していたが、自分を抑えられなかった。
「―――――」
 伊藤が絶句するのが、見えた。
「どこで、これを・・・」
「私の質問に答えてもらえますか」
「待て。中で話そう。入ってくれ」

 伊藤は広い家にひとりで住んでいた。中年の男の一人暮らしにしては整理整頓がゆきとどいている。
 客間に通されて、時雄ははっとした。
 間違いなかった。ここが写真に映っていた部屋だ。
 あのおぞましい撮影はこの部屋で行われたのだ。
 顔色の変わった時雄を、伊藤はじっと見つめていたが、
「あんたはいったい何者なんだ」
 と、おもむろに尋ねた。
「私のことなどどうでもいいでしょう」
「あんたの質問にだけ答えればいい、というのか。言っておくが、あの写真は木崎さんに頼まれたから、モデルになってやっただけだ。誰からも非難される覚えはない」
 伊藤は強い調子でそう言った後、急に不安げな表情になった。
「まさか、あんた、警察のひとじゃないよね」
「警察だと困るようなことがあるんですか」
 伊藤を睨みつけながら、時雄はそう切り返し、また首を振った。
「やめましょう。こっちも言っておきますが、私は警察ではないし、あなたに迷惑をかける気もない。ただ、あなたにお話を聞かせていただきたいだけです。協力してください」
 時雄の調子に気圧されて、伊藤はようやくうなずいた。



「不貞の代償」続編
管理人 10/21(土) 19:28:04 No.20061021192804 削除
いつも「妻物語」をご覧頂きありがとうございます。

「不貞の代償」作者・信定さんより続編のアドレスをメール頂きました。
都合により「妻物語」での続編のアップをご遠慮頂く形になりましたが、
続編は下記アドレスにてアップさておりますので、ぜひそちらをご覧頂けますようお願いいたします。

http://bbs.1oku.com/bbs/bbs.phtml?id=yoshio


管理人



別れた妻 23
七塚 10/21(土) 19:24:57 No.20061021192457 削除

 写真を掴んだ掌にじっとりと汗をかいている。心臓の刻む鼓動が異常なほどに早まっていくのを感じる。それでも時雄は写真から目を逸らすことが出来ない。過去にたしかに存在したその光景から、目を逸らせない。
 震える指先でまた写真をめくる。
 瞬時に視界に入る恐ろしい場面。
 その写真では、自分は相変わらず服を着たままの中年男が、裸の千鶴を両腕で抱えていた。ただ抱えているだけではない。千鶴の両膝を抱き広げ、その股の付け根に隠された秘所をカメラに向かってあますところなく晒して見せていた。無惨に開陳された生々しい女性器。その向こうに見える千鶴の顔は、細い手でしっかりと隠されている。かすかに見える朱い唇が歪んでいた。
 思わず声にならない声をあげて、時雄は写真を放り出した。
 あらゆる感情の奔流が時雄を襲い、虚ろになった内部を満たす。眩暈がする。吐き気がする。とてもじっとしていられない。時雄は飛び出すように部屋を出た。
 意図も目的もなく、夜の街を歩いた。歩いているうちにも気分は少しも静まらない。不快な感情が澱のように心に沈殿していくのを時雄は感じる。
 写真を見ると決めたときから、覚悟はしていたはずだ。しかし、なんという屈辱だろう。いったい、これは何の報いだ? 苦しんで、苦しんで、苦しんできた七年の、これは何の報いだ?
 不意に冷たい風がびゅっと時雄の身体を行き過ぎた。上着も羽織らないうちに出てきてしまったが、夜の空気は相当冷え込んでいる。ここ数日は特にだ。気がつけば身体がどうも熱っぽいようだ。ここ最近はろくに食べず、眠らずの日々だったから、身体が悲鳴をあげるのも無理はない。
 もう、自分は若くないのだ。
 時雄は夜空を見上げた。本当は無数に浮かんでいるはずの星は、まばらにしか見えない。秋の空気はいつもより澄んではいたが、それでもこの煩雑な都会の空を浄化することはない。
 夜空を見つめているうちに少しだけ冷静な気持ちを取り戻し、時雄は帰途に着いた。このままでは確実に風邪を引く。そうなれば、明日からの行動に差し障る。
(明日から、か・・・)
 いったい、自分は何をするというんだ?
 時雄は心の内で思う。あんな写真など見るのではなかった。千鶴の話だけで知っていた、彼女の過ごした七年。その一端を先ほど時雄は垣間見た。彼女のはまり込んだ泥沼の深さを、そのとき初めて時雄は自分の目で見たのだ。
 同時に、時雄の中で何かが崩れ去った。今までどんな状況であっても、自分の内側で大切に守り続けてきた場所。その聖域は無惨にも踏みしだかれた。これ以上ないほどに汚されてしまった。
 昨夜、千鶴に告白されたときよりも、今朝、彼女が出て行ったことに気づいたときよりも、もっと絶望的な気分の中に時雄はいた。

 ふらふらとした足取りでマンションまで戻り、自室の部屋に鍵を差し込んだ。扉を開くと、携帯が鳴っている音が聞こえた。
 散らばった写真のほうを見ないようにして、時雄はリビングに戻り、電話に出た。バーテンからだった。
「ついさっき身体が空いたんで、あんたに何度も電話をかけたんだが、やっと繋がった」
 バーテンはなじるようにそう言った後で、千鶴を店に紹介したというその男の名や住所などを時雄に教えた。
 礼を言い、電話を切った後で、時雄は声もなくベッドの上に座り込んだ。
 消えたと思っていた手がかりが、ようやく舞い込んできた。
 それは喜ぶべきことなのだろうか。この道を進んでいった先には、さらにひどい衝撃が待っているのではないだろうか。
 希望よりもむしろ恐怖を、そのときの時雄は感じていた。
 目的を見失いかけている。肝心なのは千鶴を救うことだ。自分のことなど、どうでもいい。そう思ってはいたが、現実ははかなかった。
 結局、一睡も出来ず、時雄はその夜を明かした。
 



別れた妻 22
七塚 10/21(土) 00:03:13 No.20061021000313 削除

「調べてみたんだが、いまはちょっと分からないな。あんたの連絡先を教えてくれ。そのひとのことが分かったら、すぐに連絡する」
 店の奥から戻ってきたバーテンは、相変わらずの仏頂面で時雄にそう告げた。
 さしあたって言うとおりにするしか、時雄には方法がなかった。
 その後は何を頼りに千鶴と木崎の居所を探せばいいのか分からないまま、いま時雄は自宅でバーテンからの連絡を待っている。
 いつまでたっても、バーテンからの連絡はない。騙されたかもしれないな、と思う。金を受け取った以上、義理は果たさなくてはならないと考える程度にバーテンが正直な男であったという保証などないのだから。
 所詮、自分に探偵の真似事など、無理な話であったのだ。
 諦めて、時雄は唯一連絡先の分かるかつてのサークル仲間に電話をかけた。久々に電話をかけてきて、いきなり木崎の住所を尋ねた時雄に、案の定、相手は疑念を抱いたようだった。曖昧に話をぼかしたが、結局のところ、相手はただ「知らない」との返事だった。
 八方塞がりだ。
 疲れと失望で何もかも投げ出したい気分だったが、千鶴のことを思えば簡単に放り出すことは出来なかった。いま千鶴がどんなふうにこの夜を過ごしているかを思えば、いくら疲れていようがやめることは出来ない。
 とはいえ現状を見れば悲観的になるのも無理はなく、万一、木崎と千鶴を見つけ出したところで、そこから先にどんな困難が待ち構えているか、想像も尽かないほどだ。だが、たとえどんな結末が待っていようとも、やれるだけのことはやらなければならない。ベストを尽くさなければならない。そうしなければ、自分はいつまでたっても、この七年の重みから抜け出すことは出来ない。
 そのためにはまず手がかりが必要だ。
 何かないか、と時雄は必死で頭を巡らす。昨夜の木崎や千鶴とのやりとりで何か手がかりになるようなものはなかったか。
 はっと思いついて、時雄は昨日着ていた背広のズボンを探る。
 あった。
 公園で木崎を殴り倒したとき、そばに落ちていた封筒だ。中身はおそらく写真。木崎が『客』であったサラリーマン風の男に見せていたものに相違ない。
 この写真に映っているのは、おそらく時雄にとって、もっとも見たくないものであるはずだった。同時に、千鶴にとっても、もっとも見られたくないものであるはずだった。見る人間が時雄とあっては、なおさら―――。
 これが木崎と千鶴の居所を知るための、いかほどの手がかりを含んでいるかは分からない。むしろまるで役に立たない可能性のほうが圧倒的に高い。
 ただ、時雄の心に深い傷をつけるだけで。
 しかし、現状では他に手がかりになりうるものは何もなかった。
 時雄は立ち上がった。冷蔵庫から昨夜のワインを取り出し、瓶に口をつけて残りを一息に飲んだ。
 睨むように封筒を見つめ、ゆっくりとその封を開いた。
 酔いのせいではなく、心臓のどくどくいう音が聞こえる。
 取り出した写真は数枚あった。
 その一番上にあった写真が時雄の目に入る。
 千鶴がいた。白いノースリーブのシャツに、ピンクのミニを穿いている。今の千鶴よりいくらか若い頃を写したもののように思えた。
 その隣には男がいた。意外なことに木崎ではない。背は低いが、肩幅の広いがっちりとした男だ。年は五十を過ぎた辺りか。濃い眉に厚い唇、だが決して男臭い顔ではなかった。へらへらと笑った表情のせいか、中年を過ぎても金と暇を持て余した遊び人のようにも見える。
 一方の千鶴も顔は笑っていたが、気のせいかその表情にはどこか怯えのようなものが窺えた。
 ふたりは並んで立っている。場所はどこかの室内だが、ホテルの一室のようではなかった。若々しい装いの千鶴に比して、年齢のずいぶん上らしい男のために、ふたりが並んだその写真には妙な違和感があった。
 厭な予感が確信に変わるのを感じながら、時雄はおそるおそる写真をめくる。次の写真を一瞥して、時雄は低く唸った。
 まったく同じ場所、同じ構図で撮られた写真だった。大きく違っているのはただひとつ。その写真の千鶴は全裸だった。隣の男に両腕を後ろで掴まれているらしく、千鶴は隠そうにも隠せない裸をカメラの前に晒していた。綺麗な形の胸も、白く滑らかな腹も、その下に茂る艶やかな陰毛も、すべて。
 写真の中の千鶴はまだ、笑っていた。その表情は時雄にはほとんど泣き笑いのように見えた。一方の男は前の写真よりも一段と楽しげな笑みを浮かべ、カメラに向かっておどけていた。 



別れた妻 21
七塚 10/20(金) 23:47:25 No.20061020234725 削除

 千鶴はきっと木崎のもとにいる。千鶴を救うためにも、いま直面している問題をすべて解決するためにも、木崎を見つけ出さなくてはならない。
 だが、木崎が現在どこで暮らしているか、時雄は知らない。
 可能性は低いが、かつての美術サークルの仲間に聞けば、知っている者がいるかもしれない。とはいえ、そもそも時雄自身がもはや彼らとの関わりを断ってしまっていた。連絡先の分かる者がいないではないが、もしその相手が時雄たちの間にあったいざこざを噂で聞いていて、現在では木崎が千鶴と再婚していることを知っていたとしたら。木崎の現住所を聞く時雄の意図を、きっといぶかしむことだろう。その場合、相手になんと説明すればよいのか、時雄には分からなかった。

 昨夜、あの乱闘の後で倒れた木崎はどうしただろう。自分から警察に行くような真似はすまい。喧嘩の原因を聞かれたら、自分もただではすまないからだ。そもそも満足に動けたかどうかすら怪しい。異変を聞きつけた第三者が、倒れている木崎を見つけ、救急車を呼んだ可能性はある。もしそんなことがあったとしたら、後になって事情を聞きに警察がやってくるかもしれない。そうなったとしても、木崎は真実を話さないだろう。暴漢に遭ったとでも言うかもしれない。たとえ木崎が真実を話したとして、警察が時雄のもとへやってくるような事態になったとしても、それはそれでいい。千鶴を木崎のもとから引き離す糸口がつかめる。勤め人としての時雄の経歴に傷がつき、最悪辞めることになるかもしれないが、そうなったらなったでかまわない。覚悟は出来ている。
 あれこれと考えたが、具体的な行動を思いつかないままに、時雄は千鶴の働くバーの前まで行った。結局のところ、さしあたっての手がかりはこの店しかない。今夜、千鶴がこの店に来る可能性は低いだろうと思いつつ、開店時間を待たずにバーの戸を叩いた。
 まだ店を開けてもいないのにやってきた客に、バーテンは驚いた顔をしたが、すぐにその客が昨夜店のホステスを連れ去った男だと気づいたらしかった。
「ちょっとあんた、昨夜のあれはどういうつもりだ」
 中年の体格のいいバーテンは、そう言って時雄を睨んだ。返事次第によってはただじゃおかないという風情だ。
「昨夜は申し訳ありませんでした」
 時雄は深々と頭を下げて謝罪しつつ、店内に千鶴がいないことを確認した。店にはこのバーテンの男しかいなかった。
「どうもご迷惑をおかけしました。これはお詫びです。少ないですが受け取ってください」
 財布から一万円札を二枚取り出し、バーテンの前に置く。いきなりの時雄の対応に、バーテンは目を白黒させた。
「何がなんだか分からんな。いったいあんたはどこの何者なんだ」
 時雄は非礼を詫びた後、改めて名を名乗った。
 不機嫌な顔をしたバーテンは、それでも万札に手を伸ばした。その後でまたじろっと時雄を睨んだ。
「で、何?」
「・・・は?」
「だから、あんた、あの女の何?」
「・・・親族です」
 返事に苦慮した時雄は、咄嗟にそう答えた。
 バーテンは疑わしい目つきで時雄を見た。
「親族だとしてもなんで、店の者に何の断りもなく連れていったわけ? 十代の小娘でもあるまいに」
「緊急の用事があったんです。とにかく気が焦っていて、無礼な真似をしてしまいました。本当に申し訳ありません」
「まったく・・・お客さんがびっくりしていたよ。それでもって今度は電話一本で、『店を辞める』なんて言い出すし」
「え・・・・」
 時雄は思わず驚きの声をあげた。
「なんだ、あんた知らないのか。さっき、あの子から電話があって『事情があって、店を辞めなければいけない』とまあいきなりこうきたのさ。昨夜のこともあるから、こっちも怒って怒鳴りつけたら平謝りするばかりで、最後には電話を切っちまった。いい迷惑だよ、ほんと」
「そうですか・・・」
 たった一日のうちに、千鶴はこの店を辞める決心をしたのだ。或いは木崎の意向かもしれない。どちらにしてもその意図は分かりきっている。時雄に後を追ってこさせないためだ。
「あの、こちらから彼女に連絡を取れないのでしょうか。住所や電話番号などは」
「うちもいいかげんな店でね。電話番号は分かるが、あの子がどこに住んでるかは知らないんだ。その電話もさっきかけたが、まるでつながらない」
 目の前が暗くなる想いで、時雄はバーテンの言葉を聞いた。さしあたっての手がかりが消えてしまった。
「あんたこそ、親族ならなぜ連絡が取れないんだ」
 逆にバーテンが聞いてきた。
「実は・・・あの子は私の妹なんですが、若い頃に家出しましてね。実家のほうとは絶縁状態なんですよ。それでいま、父親が病気で危篤状態になっているので、なんとか最期に一目だけでも会わせてやりたいと思い、わずかな手がかりからこの店で働いていることを知って訪ねてきたんですが、昨夜店から連れ出した後で、結局逃げられてしまったんです。私のほうとしても、なんとか連絡を取る手段を探しているんですが・・・」
 我ながら苦しい嘘だと時雄は思ったが、バーテンは存外簡単に信じたようだった。
「そうかい。ふん、なんとなく翳のある女だとは思っていたが、そんな事情があったとはね」
「あの、彼女はどういう経緯でこの店に?」
「オーナーの友人の紹介だよ。ホステスとしてはいささかトウがたっているが、あんたの妹さんはあのとおりの美人だしね。うちも人が少なかったから、渡りに舟だったわけ」
「その友人の方の連絡先は分かりますか? ぜひとも教えていただきたいのですが」
「分からないこともないが、そう言われても困るな。オーナーの友人というだけで、私個人の知り合いじゃないから、勝手に連絡先など教えられるはずもない」
 時雄は黙って財布を開き、また一万円札を取り出した。
「すみません。本当に困っているんです。どうか教えてください」
 バーテンは目の前に置かれた一万円札を見つめていたが、やがて辺りを窺うようにしてその金を懐にしまった。
「待ってな」
 声をひそめて短く言い、バーテンは店の奥へ消えて行った。



別れた妻 20
七塚 10/19(木) 19:16:31 No.20061019191631 削除

 しばらくの間、時雄は呆けたようにベッドの上に座っていた。
 頭がまるで働かない。
 コーヒーでも入れようとようやくベッドから出たが、思い直して服を着た。
 千鶴がどれくらい前にこの部屋から出て行ったのかは分からない。もしかしたら、まだその辺りにいるかもしれない。

 部屋を出ると、雨がぱらぱらと降っていた。玄関に置いた傘はそのまま残っていた。千鶴は雨が降る前に出て行ったのか。それとも雨に打たれるのもかまわず、そのまま歩いていったのか。
 急ぎマンションの階段を降り、駅への道を走った。
 駅についてからも、しばらく構内を捜して歩き回ったが、千鶴は見つからなかった。
 諦めて、駅の喫茶店に入る。モーニングセットを頼む気にもならず、コーヒーだけを注文した。
 運ばれてきたコーヒーを啜り、煙草を吹かすと、身体中がだるくなった。
 時雄はため息をつく。深い徒労感がじわじわとやってくるのを感じる。

 さっきは夢のように感じたが、昨夜、千鶴はたしかにあの部屋にいたのだ。彼女が過ごした苛酷な年月の話を、木崎との成り行きを、身を切り裂かれるような想いで自分は聞いた。
 最後には、もつれるように愛し合った―――。
 腕の中に抱えた千鶴の感触が、いまもまだ時雄には残っている。彼女の体温が、肢体の重みが、激しい息遣いが、どんな言葉よりも生々しい記憶となって時雄の中には残っている。
 だが、朝になり、時雄が目覚めたとき、部屋に千鶴の姿はなかった。誰もいない、独りきりの部屋があるだけだった。
 そして、それこそが時雄にとって、当たり前の日常の光景だった。だから、すべてが夢であったかのように感じたのだ―――と思う。
 なぜ千鶴は姿を消してしまったのか。
 去るにしても、なぜ時雄に一言もなかったのか。
 本当は分かっている。言えば引き止められるから、千鶴は何も言わなかったのだ。そして、時雄に引き止められるにもかかわらず、千鶴が帰らなければならない場所はひとつしかない。
 木崎のもとだ。
 その場所こそが、今の千鶴にとっての日常なのだ。
 時雄にとっては胸が苦しくなるような、現実だった。
 普通に考えれば、当然のことなのかもしれない。今は別の夫がいる身でありながら、かつて別れた夫の部屋で一夜を明かした。そのことのほうが世間的に見れば異常なのだろう。
 ふと、厭な考えが時雄の脳裏に浮かぶ。昨夜、千鶴がベッドの上で見せた激しい昂ぶり。あれは時雄を誘い、眠らせ、木崎のもとへ帰るための技巧ではなかったか。
 時雄は瞳を瞑り、その疑念を打ち消した。そこまで疑いたくはない。あの瞬間、千鶴が見せた情熱は、真剣な表情は本物だった。
 だからこそ、いま時雄の胸は沈んでいる。
 千鶴を救いたい。幸せにしてやりたい。一度はその夢に挫折してしまった自分だが、今度こそはその夢を本当にしたい。
 だが、一方でいまの自分にいったい何が出来るのだろうかという思いがある。七年前に別れた夫である自分が。
 そのことは千鶴もよく分かっていたはずだ。加えて彼女には時雄に対する重い罪の意識がある。
 結果、千鶴は時雄に何も告げず、ひっそりと出て行った。
 そのこと自体が時雄の想いに対する、千鶴の答えであったように思う。いや、きっとそうなのだろう。
 秋の雨に打たれるまま、ひとり悄然と歩いている千鶴の幻影が浮かび、いつまでも時雄の心をかき乱した。

 喫茶店を出ると、時刻はもう昼近かった。
 休日の駅前は混んでいる。意気揚々と街を行く若者たち、腕を組んだカップル、子連れの夫婦の幸せを絵に描いたような楽しげな表情。その間をすり抜けるように、時雄はひとり家路につく。
 いったいなんでこんなことになってしまったのか。
 苦い想いが時雄の胸を満たす。
 昨夜聞かされた千鶴の辛い話を思い返す。木崎に犯され、家庭を壊され、最愛の母親まで病魔に冒された。そのために身体まで売る破目になり、挙句の果てにはすべての元凶ともいえる木崎の奴隷状態になっている。
 時雄自身、自分が幸福な人間だとはとても思えないが、千鶴の場合は言語を絶するほどひどい。たいていの女なら一生かかっても経験しないような不幸が、わずか七年で千鶴の身に降りかかったのだ。
 なぜ、こんなことに―――。
 時雄の知っている千鶴は、ごくごく普通の女だった。何かを高望みするわけでもなく、現実的すぎるわけでもなく、ただそこにある普通の幸せで十分だと思っている、そんな女だった。
 そんな普通の女が、なぜここまで不幸にならなければいけないのか、時雄には分からなかった。
 くらっと眩暈を感じ、時雄は足を停めた。
 激しい感情が襲ってくる。それは悲哀ではなかった。わけの分からないほど強い怒りだった。
 木崎に対する怒り、自分と千鶴の運命に対する怒り―――。
 時雄は踵を返し、今来た道を戻り始めた。どう考えても、このまま終わることは出来なかった。
 





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別れた妻 19
七塚 10/18(水) 23:42:19 No.20061018234219 削除

 ベッドは譲ると言ったのだが、千鶴がどうしても自分がソファで寝ると言い張ったので、結局、時雄がベッドで寝ることになった。
「おやすみ」
 そう言って電気を消す前に、ちらりと見えた千鶴の潤んだ瞳が、いまこうして暗闇の中でも瞼に浮かんでいる。
 思えばふたりが一室で寝るのも、ずいぶん久しぶりのことだ。
 もう二度と、こんな機会は訪れないと思っていた―――。
 いまこの暗闇の中、すぐ傍にに千鶴が寝ているのだと思うだけで、時雄の胸は切なく疼く。まるで十代の少年のようだな、と時雄は力なく苦笑した。あれほど辛い思いをした後で、まだそんなことを考えている自分に、自分で驚く。
 想いはさらに過去へ飛び、初めて千鶴とともに朝を迎えた日のことを時雄は思い返した。いま思えば、あまりにも未熟な交わりだったが、ひとつになったときの喜びは今でもはっきりと覚えている。他人に話せば笑われるだろうが、あれは自分のはかない生涯の中で最高の日だった。
 翌朝目覚めて、明るい日の光の中、互いの顔を見あったとき、千鶴も恥ずかしがっていたが、時雄の照れようはそれ以上だった。あまり照れるので、しまいには千鶴のほうが吹きだしてしまったくらいだ。まったくもって、格好わるい男だった。あの頃も今も、そんな不器用なところはたいして変わっていない。
 他愛なくも幸福な思い出が次々と時雄の脳裏に蘇る。短い結婚生活だったが、楽しいこともたくさんあった。そんな思い出をひとつひとつ思い返しているうちに、やがて記憶は七年前のあの日に届いて、時雄の背筋を凍らせる。
 いや、千鶴の話を聞いた今では少し違う。本当に恐ろしいのは、千鶴が木崎と過ごしたその後の七年だった。
「起きていますか?」
 突然、呼びかけられて、時雄ははっとした。
「起きてるよ。酒は飲んだけれど、今夜は眠りがなかなかやって来ない」
「昔は、あなたはあまりお酒を飲むほうではなかったと思います」
 暗闇から千鶴の声が返ってくる。
「仕事の付き合いで段々と好きになったのさ」
 嘘である。本当は独りの夜を誤魔化すために、酒を飲み始めた。以前は行かなかったバーなどにも一人で行くようになり、そして千鶴と再会したのだ。
「私が家を出て行った後で・・・」
 そんなふうに言いかけて、暗闇からの声はとまった。
「何?」
「いえ・・・」
「気になるじゃないか」
「・・・私が出て行った後で、あなたがどんなふうに思って暮らしていたのかと思って・・・」
 消え入るような千鶴の声。
 時雄は思わず千鶴が寝ているであろうソファのほうに目をやった。しばらく考えた後で、口を開いた。
「最初は君を怨んだよ。ただただ君を憎んで、毎日を過ごしていた」
「・・・・・・」
「でもその後、凄く淋しくなった。淋しくてたまらなかった。仕事から帰ってきて、家のドアを開く前に、もしかしたら君が戻ってきてくれているんじゃないか、とバカなことばかり毎日考えた」
 呟くように時雄は言って、ごろりと寝返りを打った。
 闇の奥から、静かに千鶴の嗚咽が聞こえてきた。
「頼むから泣かないでほしい。そんなつもりで言ったんじゃないんだから」
 慌てて時雄は言った。だが千鶴は何も答えなかった。
 しばらくそうして時は流れた。
 不意に闇の中でごそごそと何かが動く音がした。
「千鶴?」
 振り返った時雄の視界に、薄闇の中でもはっきり白いと分かるものが入った。
 それが何なのかはもちろん、すぐに分かった。
 白いものはするりと時雄のベッドに入ってきた。
 駄目だ。いけない。
 そんなことをしてしまったら、今度こそ俺たちはどうにかなってしまう。またあの愛憎の渦に巻き込まれてしまう。
 そんな想いが言葉となって時雄の口から出かけた瞬間、千鶴の唇が時雄の口を塞いだ。
 冷たい肌の滑らかな感触が、ふっくらとした胸の優しい重みが、服の上からはっきり感じられた。
「ごめんなさい」
 耳元で千鶴の囁く声がした。
「もう軽蔑されてもかまわない―――」

 すべてを捨て去ったかのような千鶴の振る舞いに、結局、時雄も抗えなかった。抗えるはずもない。七年間ずっと焦がれていたのは、時雄のほうだったのだから。
 久々に触れた千鶴の肢体は、以前よりもずっと『女』を感じさせるものに変わっていた。時雄の愛撫に応える反応もまた、『女』そのものという感じだった。そんな千鶴に時雄は胸を刺されるような痛みを感じながらも、惹きつけられずにはいられなかった。
 夜目にも白くまるい乳房を撫で、背中に回した手で背肌をさすると、それだけで千鶴は忍び声をあげた。かくっと頸が折れ、倒れこんだ千鶴の唇から洩れる吐息が、時雄の胸をくすぐった。
 むしろおずおずと、時雄は千鶴の秘所へと手を這わせた。柔らかい繊毛を分け入って、さらに奥へと手を伸ばす。その箇所に触れた途端、千鶴は「あっ」と声をあげ、打たれたように全身をふるわせた。時雄も驚いていた。千鶴のそこは熱いほどたぎっていた。
 時雄がなんとか理性を保っていられたのも、そこまでだった。その後は千鶴の後を追うように、没我の底に沈んでいった。
 後から思い返しても、その夜の千鶴の昂ぶりようは激しかった。最初はそれでも表情を押し隠そうと忍苦して、息も絶え絶えになっていたが、次々と波のように打ち寄せるらしい悦びに、最後はほとんど泣き声になっていた。何度も何度も、果てしなく昇りつめる千鶴の反応は、完全に開花した女のそれだった。
 幾度となく求め合い、高め合った後で、時雄は吸い込まれるような眠りに落ちていった。頬にかすかにかかった千鶴の髪の艶やかな感触が、沈み込んでいく時雄の意識にいつまでも残っていた。

  
 翌朝―――。
 目覚める前から、時雄は厭な予感がしていたように思う。
 窓の外から、かすかな雨音が絶え間なく聞こえていた。
 千鶴はもういなかった。
 消えていた。
 昨夜、彼女がこの部屋にいたことが、すべて夢だったように。
 なぜか、そのときの時雄には感じられた。 



「不貞の代償25 」について。
管理人 10/18(水) 23:10:58 No.20061018231058 削除
いつも「妻物語」をご覧頂きありがとうございます。

連載頂いております「不貞の代償」ですが、本日25本目を投稿頂きました。
感想BBSでもいくつかのご指摘がありましたが、未成年を性の対象とする投稿を管理人としては掲載許可を出すことが出来ませんでした。

小説の上のことだから良いだろう?と思われる方もいらっしゃると思いますが、
実社会で未成年が犯罪に巻き込まれる事件もあり、当サイトとしましては今回の掲載を見送らせて頂くことといたしました。

作者・信定様、連載を楽しみにしておられた読者の方々にはお詫び申し上げます。


管理人



別れた妻 18
七塚 10/18(水) 03:15:48 No.20061018031548 削除

 時雄は冷蔵庫から安物のワインを取り出した。
 時刻はもう深夜三時を回っていて、明日は休日とはいえ、いまから飲み始めるには遅すぎる時間帯だったが、飲まずにはとてもいられなかった。
 それでいて、身体も心もひどく疲れている。
 手酌でグラスに酒を注ごうとしたら、千鶴が「私が注ぎます」と言った。時雄は無言でボトルを手渡した。
 こぽこぽ、とワインの音だけが室内に響く。
「君はいらないのか」
 千鶴は首を振った。
 そして、また沈黙。
 いったい―――自分は何をすべきなのか。
 何を語るべきなのか。
 何を想うべきなのか。
 そんな思念が川底の水泡のように、意味もなく時雄の頭に溢れていた。だが、その思念を真剣に考える余裕も気力もすでになかった。
 暗澹たる気分だけが、泥濘のように時雄の全身にまとわりついていた。
 眼前の千鶴は、かつて時雄の妻だった女は、ただ静かに座っている。その顔に過去を語っていた先ほどまでの張りつめた様子はなく、むしろ放心したような表情をしている。
 彼女もまた疲れきっているのだ。
 過去に、そして現在のこの瞬間に―――。

 千鶴の語ったことのすべてを、時雄が理解できたわけではなかった。いや、頭では分かっても、心がそれを受け入れることを拒否していた。
 七年前に千鶴が辿った苦しい道のりのことは分かる。夫であった自分がそのときの彼女に何も出来なかったことについては、改めてほぞを噛む思いだ。
 だが、たとえいかなる事情があったとしても、千鶴がある瞬間に木崎を受け入れたこと、そのことに間違いはなかったのだった。それから現在に至るまで、たしかに彼女の心の一部分は木崎に占められている。信じられないような途中の経過さえ抜けば、当たり前すぎるほど当たり前の事実。だが、その事実を実際に彼女の口から聞くことは、何にもまして時雄には耐えがたかった。
(馬鹿げた話だ・・・)
 ふっと時雄は内心で自分を哂った。七年前、自分の役回りは、誰よりも滑稽なものだった。そして最大の滑稽事は、七年後の今になっても、自分がすすんで最も滑稽な役を引き受けたことだった。哀れな道化師の役を。
 なぜだろう。なぜそれでも自分はやめられないのだろう。
 いま目の前にいる千鶴は、時雄の知っている千鶴ではない。いや、時雄が彼女のことを真に理解していたことなど、きっと一度もなかったのだろう。時雄は自身の望む女の姿を千鶴に見ていただけなのだ。
 ずっと、あまりにも長い間―――。
 だから、ふたりが夫婦でなくなったときでさえ、何ひとつ気づくことが出来なかった。
 千鶴はきっと知っていた。時雄が自分のことなど少しも分かっていないということを。面と向かってそう言ったとしても、きっと彼女は否定するだろうが。


「今日はもう寝よう。これからのことは明日考えよう」
 台所でグラスを片付けている千鶴の背中に、時雄はそう呼びかけた。
「・・・・・」
 千鶴は黙って振り返り、時雄を見つめた。翳りを帯びたその瞳が何を想っているのか、時雄には分からない。
「歯磨きは新品のが洗面所にある。ベッドは君が使ってくれていい。俺はソファで寝る」
 千鶴の唇がかすかに動いた。
「どうして・・・?」
 何に対しての「どうして?」なのか。やはり分からないまま、時雄は口を開いた。
「・・・今回、俺はわけも分からないまま、衝動的に動いてしまった。もしかしたら、いまの君には迷惑なことだったかもしれない」
「迷惑だなんて・・・。ただ・・・どうしてあなたがそこまでしてくれのかが分からなくて・・・。七年前から私こそ迷惑のかけどおしで・・・さっきの話でなおさらそのことが分かったでしょう。それなのになぜ・・・?」
 かすれたような千鶴の声だった。
「なぜなのか、俺にも分からない。ただ、あのときの俺は何も出来なかった。そのことで君も、俺も傷ついた。今も後悔してる。だから、今回のことは俺の問題でもあるんだ。俺はもう傷つきたくないし、君にも傷ついて欲しくないんだ。本当にそれだけなんだ」
 もう興奮で我を忘れるような真似はしたくなかった。出来うるかぎり穏やかに、時雄は自分の真情を伝えたかった。たとえ自分の見ていたものがすべて幻影だったとしても、いま眼前には彼女がいる。そのことだけは幻ではなかった。
 千鶴は黙って、床を見つめていた。



立場41
Retaliation 10/18(水) 00:40:13 No.20061018004013 削除
吉崎の携帯をテーブルに置き玄関に向かいました。後ろからはまだ吉崎が
何かを言っていましたが覚えていません。玄関で靴を履きもう一度振り向くと
理香が立っていました。理香は心配そうに私を見つめていましたが、私は理香に

私「俺の事は何も心配する必要はないよ。君は離婚する事だけを考えていれば良い」

そう言い残し外に出ました。

『溺れる者は藁をも掴む』

今の吉崎にこれほど似会う言葉はありません。私はこの時、初めて自分の事が
怖くなりました。吉崎の事を最初は憎み、そして哀れに思い、また憎み、最後は
罠にかかった動物を見るような優越感に浸っていました。

自宅に到着し玄関を開けると妻が待っていました。私の荷物を受け取ると妻は
自分の携帯を渡してきました。

私「いや、もういいよ。それより最後に『会いたい』と打ってくれないか」

驚く妻にこう言いました。

私「これであの男とメールをするのは最後でいい。だから最後のメールで
『会いたい』と打ってくれ。勿論、会うのは君じゃなく私だけだ」

あれは理香との奇妙な関係が始まって3ヶ月ぐらい経った時です。妻から携帯を
渡され吉崎からメールが着た事を教えられました。最初は「何故私に?」と思い
ましたが、妻なりの償いの一つの表れだったのでしょう。その頃の私はまだ妻の事を
許せていませんでした。
その吉崎からのメールを見て私は妻に「返信は必ずしろ、なんなら会ってもいいぞ」と
皮肉をこめて言いました。勿論妻が吉崎と会う事はありませんでした。それに妻は吉崎からメールが届くと必ず私に見せるようになりました。まさかこのメールが吉崎の唯一の希望になるとは思いませんでした。

私が妻に吉崎から着たメールを返せと言ったのは、単にその時の私がまだ妻の事を
信用していなかったからです。「もしやまた吉崎と?」などの不安もありましたが、結局
私が恐れていた様な事はなく、吉崎からメールが来ると私の言いつけ通り妻が返信し
その内容を私に見せる、という事が続きました。

次の日曜日、私はホテルのロビーにいました。辺りを見渡すと見覚えのある背中が
ありました。吉崎です。今の吉崎は妻にやっと会えるという喜びで一杯でしょう。
それがまさか私が現れるとは露にも思ってはいなかったでしょう。

私「待たせましたね」

今でもこの時の吉崎の表情の変わりようは覚えています。私を見た吉崎は声にも
ならないほどの驚きを見せていました。

私「声にならないですか?まぁそうでしょうね。やっと会えると思っていたのに会えずに
しかも来たのがその旦那だったんですから」

吉崎「ど、どうしてお前がここに・・・」

私「どうしてだと思います?」

吉崎「あの時に俺がメールの事を教えたからか?」

私「違いますよ。メールの事は以前から知っていましたよ。むしろ私が妻に
勧めたんですよ」

吉崎「う、嘘だ。嘘を付くなっ」

私「嘘じゃありませんよ。アナタが送って着たメールを妻から見せられたんですよ。
勿論妻は『携帯を変えて番号もアドレスも変更します』と言ってきたんですが、私が
それを止めてアナタとメールをさせてたんですよ。
現にメールが妻から送られてきた事は今まで一度もないでしょ?それにアナタは前々から「逢おう」と送って着ていたが妻はのらりくらりとそれをかわし会おうとはしなかった。全て知っていたんですよ。私は
しかし私から妻に『見せろ』なんて言った事は一度もありませんよ。まぁ信じたくなければそれでも構いませんが」

吉崎「そんな・・・じゃ洋子は俺の事は」

私「えぇ洋子はアナタに心など奪われていませんよ。信じられないのなら今妻に
電話してもらっても構いませんよ。しかし明日にはもう妻は携帯を変えるので番号も
アドレスも変更しますが、どうします?」

打ちひしがれる吉崎を見て「もうこの男は駄目だな」と判断した私は、吉崎に別れを告げ
ホテルを後にしました。吉崎とはもう二度と会う事はないでしょう。

その日から3日後に理香から「離婚が成立した」と連絡がありました。



不貞の代償24
信定 10/17(火) 22:11:19 No.20061017221119 削除
「参りましたね。手がありませんね」
応接室で資料を整理していた石橋がため息混じりで言う。
「うん、そうだな・・・」

生返事の沼田を横目で見て、石橋はプロジェクトより、奈津子の方
が気がかりだった。その後はどうなっているのか。強烈な劣等感か
ら、どうしても沼田に聞くことが出来ずにいる。沼田はあれっきり
何も話さないが、奈津子とはまだ不倫を続けているのだろうか。あ
の奈津子と関係を持ったことが未だに夢のように思える。

最近の佐伯の様子もおかしいことに気付いている。もしかしたら、
気付いたのかも知れない。まあ、それはどうでもいいし、いい気味
だと思う。

何考えているだ。お前の頭じゃ何も浮かばないだろうよ。などと思
い、珍しく眉間に皺を寄せて考え込んでいる沼田を見つめた。

ボーッとしていた石橋は、突然顔を上げた、沼田の、あまりの恐ろ
しげな顔に驚き、椅子から転げ落ちそうになった。

***********************************************************

あれからずっと、義雄とは一言も会話をしていない。本来休みだが、
休日も会社へ向かう。仕事が忙しい事もあるが、家には居たくない
のが本音である。そして帰りは遅い。従って、奈津子とは、顔を合
わせることが少なかった。

恵がいるときは、さすがに発覚を恐れるのか、「ああ」などと、返
事をするが、二人の時は会話など無い。別の男とネンゴロになった
妻とは、話したくないのも、顔を見たくないのも当然のことだ。今
すぐにでも、この家から追い出されても、おかしくない状況である。
それをしないのは、やはり恵のことがあるからだ。針のムシロに座
っているような気持ちであった。

部屋がもう余っていないので、寝室は一緒のままだが、元々ベッド
は別なので、疲れ果てて帰ってくる義雄は、奈津子へ一瞥も与えず、
背を向けてドロのように眠る。

さすがに恵も
「最近、お父さん忙しそうだね」
などと、顔色の悪い父親を心配する。夫婦間もギクシャクしている
事も気付いているはずだ。いつもなら、「大人げないなぁ」などと
言い、小馬鹿にしながら、恵が間に入ってくるのだが、今回は様子
が違うことを肌で感じているに違いない。

「平気だよ、僕は」
義雄は恵に笑顔を見せ、家を出るのである。そんな2人の会話に奈
津子は背を向け、肩を震わせる。普段は些細なことでも、話し合う
家庭なのに、恵も気をつかっているのか、奈津子に追求はしない。
このままで良いはずがない。このまま終わるはずもない。

そんな中、数日後、泣きながら奈津子に、ヒステリックに罵声を浴
びさせ、恵が家を飛び出していったのである。最悪の事態となった。

狼狽えた奈津子と義雄は必死で捜した。その時ばかりは、義雄も、
奈津子と言葉を交わさざるをえなかった。だが、結局行方が分から
ず、その日は家に帰ってこなかった。そして、一睡も出来なかった
朝、電話が入ったのである。

「私は全然平気だから」
疲れたような声で恵は言った。
「やっぱり、お母さんのことは、許せない」
最後に語尾を震わせ、そう言って電話が切れた。奈津子は涙ながら
に、義雄に告げたが、頭を抱え込んでいるだけだった。奈津子を詰
る気力さえなかった。

田倉とのことが、夫にばれ、ついには娘の恵にも発覚してしまった。
沼田が恵に教えたのは間違いない。その時の恵の心中を考えると、
胸が張り裂けそうだ。

だが、義雄に発覚した後も、憎い沼田の要求を拒むことは出来なか
ったのは、始めはビデオでの脅迫のせいであるが、一旦、沼田に体
を弄くられると、身にまとった固い殻があっという間に溶け落ちる、
背徳的な快感を得たいために変わっていった。

「亭主にバレてからの方が、腰の振りがいいぞ。締まり具合も良く
なっているし。なんでそんなに感じる?ん?」
胡座を組んだ上に、後ろから抱いて、事を終えた後、汗ばむ奈津子
の乳房を両手で抱え、なめらかな肩に唇を押し当て、沼田は言う。

「ほら、見てみろ、こんなにヌルヌルだ」
奈津子の中に白濁を吐きだし、少し萎れかかった一物を指で摘んで、
鼻先でブラブラさせて見せる。愛液で、まだペトペトに濡れている
のを、奈津子に見せつけるのである。

発覚した後、あまりに沼田から連絡がないので、携帯に沼田の電話
番号を表示させ、かけるのをすんでの所で留まったこともある。
長年連れ添った妻の不倫で、落ち込んでいる夫を尻目にである。

やっと電話があり、直ぐにでも飛んでいきたい気分であったが、そ
れとは裏腹に、キッパリと、別れを告げる言葉を発した自分に、少
し驚いていた。そして、ビデオのことを言われたのだ。渡りに船と
はこのとかもしれない。

その後も、渋々マンションへ来たような風を装ったが、沼田には全
てお見通しで、すぐさま、スカートの中に手を入れられ、既にグシ
ョグショに濡れた花弁を探り当てられ、揶揄され、すすり泣くが、
実は、これから沼田と肌を合わせることに、背筋をゾクゾクさせて
いたのである。



不貞の代償23
信定 10/16(月) 22:24:42 No.20061016222442 削除
広大な面積の土地の一角に、環境保全地域があり、そこの開発許可
さえおりれば、このプロジェクトは飛躍的な躍進を遂げる。画策す
る沼田は最終的には地域の実力者でもある、岩井代議士に直接会う
以外にないと思った。

若い頃は、知る人ぞ知る、政界の異端児と言われていた岩井は、7
0に近い年齢だと聞いている。結婚は一度もしていないが、若い頃
は、十指に余るほどの女性と、同時に付き合っていた、などと、ま
ことしやかに伝えられているが、真偽の程は定かではない。現在、
党内では若い新興勢力が幅を利かせ、比例代表区での名簿は上位で
はなく、当選と落選を繰り返してはいるが、政界、財界への影響力
は未だ強い。

ようやく、面談の約束を賜り、早速沼田は石橋を連れて会いに向か
った。あれ以来石橋は、沼田のいいなりになっている。奈津子と沼
田の深い繋がりを完膚なきまでに見せつけられた、悪夢のようなあ
の午後の出来事。沼田に抱かれ、甲高い声を上げていた奈津子。あ
の時以来、会社で石橋は沼田にいいように扱われている。いつか再
び、奈津子を抱くことが出来るかもしれない、という打算が、石橋
の脳裏から剥がれないからだ。

岩井代議士の家は、都心から郊外寄りにある、自然の多い、閑静な
地域に位置していた。そこはタイムスリップしたような、ばかでか
い屋敷であった。外門の立派な木の門をくぐると、飛び石の長いア
プローチの周りに、チロチロと流れる小さな小川と、手入れの行き
届いた広大な庭が広がっていた。重たそうな煉瓦造りの屋根を見上
げ、二人はため息を吐いた。

出てきた男は180p以上の上背があり、黒い背広の上からでも鍛
え上げられた体は想像できる。そして何よりハンサムであった。
「お約束をさせていただきました、○○建設の沼田と申します」
「伺っております。斉藤です」
貰った名刺で秘書であることが分かった。30チョイであろうか。
意外と若い秘書なので沼田は正直驚いた。

恐ろしく広い玄関から、薄暗く長い廊下の突き当たりの部屋に案内
された。秘書の斉藤、そして茶を運んできた、一言も口を開かない、
小柄な老婆しか、今のところ見てない。この老婆は岩井の妻では無
いと思うが。然らば、ご母堂か?高齢であることは間違いないが、
年齢不詳の老婆である。耳を澄ますが、何一つ物音が聞こえない。
この大きな家には3人しかいないのか。得体の知れない人物らに沼
田と石橋は緊張していた。

「なんか、不気味ですね」
シーンと静まりかえった部屋での、石橋の突然の声に、沼田はビク
ッとして茶をこぼしそうになった。
「急にでかい声出すなよ、石橋ぃ」
眉間に皺を寄せて、石橋を睨み付ける。
「すみません。でもさっきの婆さんの、足音聞こえました?」
沼田が、石橋の顔を見て、頭をブルブルと横に振っているとき、ド
アを叩く音がした。二人は慌てて立ち上がり背筋を伸ばし、姿勢を
正した。

「お待たせしまして申し訳ありませんなぁ」
石橋ほどでは無いにしても、老人のわりには思った以上に背が高い。
学生の頃は柔道をしていたと、プロフィールなどで見た。昔、県大
会で優勝をしているほどの実力者であり、怒り肩のがっしりした体
格をしている。声の張り、押しの効く顔や肌の艶などから、どう見
ても70の老人とは思えない。

のらりくらりと、鷹揚な態度の岩井からは、結局、色好い返事は何
一つ貰えなかった。本当に政治家という輩は、民間泣かせである。
公的に属さない人間は人と思っていないのか。話をしている最中は、
秘書の斉藤が岩井の後ろに、影のように息を潜めていた。しかし、
沼田はめげずに何度か足を運ぶことになる。

だが、政治資金と称し、ふんだくる割には、進展がない。何度足を
運んでも、沼田は無駄だと悟った。

将を射るには馬を射よ、と言うがごとく、沼田は秘書の斉藤に連絡
を取った。岩井は斉藤に、相当な信頼をおいていると思ったからだ。
数日後に何とか捕まり、会う約束を取付けた。

「斉藤さんに会ってどうするのです?」
足を運ぶ度、良い返事が貰えなく、石橋はいい加減ウンザリした表
情であった。
「とにかく、あの元気な爺さんの機嫌をとらにゃ、しょうがねえだ
ろう」
「あの地域を避けるわけにはいきませんかね」
「勿論、避けての開発は出来なくはないが、地図を見てみりゃ、わ
かるだろうが。保全地区さえ何とかなれば、交通の便が全く違うし
、それに、交渉が成功すれば、俺は一段上に上がれるだろうが。お
前も、おこぼれにあやかれるかもしれないぞ」

交渉にこれほど必死になる理由はそこにあったのである。こんなに
やる気を見せる沼田を見るのは初めてだ。受話器に向かって大声を
出している沼田を横目で見て、この変わり様はやはり奈津子のせい
だと思った。女一人でこれほど変わるのかと、自分を顧みて、暗澹
たる思いがこみ上げてきた。

あやかれるって、本当かよ。

格好いい方ぁ、素敵ぃ、などと水商売の女達の嬌声の中、斉藤は苦
笑いをしている。
「騒がしいところにお連れしてすみませんです」
「いやいや、楽しくさせて貰っています」
「大変つかぬ事をお伺いしますが、斉藤さんは先生のお子さんじゃ
ぁありませんよね」
「それは違いますよ」
ははは、と笑い、タバコを掴むと、ライターが3つ出た。そのうち
の一つの火を使うと、ずるーい、わたしのもー、やったー、などと
奇声が上がり、場が盛り上がる。

「若い頃、少し悪ぶっていましてね、喧嘩して血だるまになってい
るところを、先生に拾われたんですよ。そのまま先生のところでご
厄介になりました」
初めて会った時、陰のある雰囲気を感じたのはそのせいであった。
暴力団にもこんな男がいるかもしれない。殺し屋のイメージを斉藤
に重ね合わせ、沼田は背筋をゾクリとさせた。

その後も至れり尽くせりの接待に勤め、最後は高級ソープに案内し
た。勿論、沼田たちの予算は無いので、店の兄ちゃんが案内してく
れた喫茶店で、コーヒーを飲んで待つことになった。戻ってきた斉
藤は満足してくれたようでホッとする。

蛭のようにしつこい沼田に苦笑した斉藤は、仕方なさそうに最後に
言ったのである。

「確かに先生は、今まで多くの女性と色々ありました。私が知って
いるだけでも両手は下りません。もっとも、結婚していれば、新聞
紙がにぎわうでしょうが、あっちもこっちも独身ですので、スキャ
ンダルになんぞなりませんが。先生は私に耳打ちしましてね、沢山
の女を抱いて、ようやくご自分の好みの女性が分かったと言われま
した」

一旦話を止め、タバコを摘む。すかさず、沼田と石橋がライターを
差し出す。斉藤は小さく頭を下げ、旨そうに煙を吐いた。

「若い女が良いとね。それも、大人になりかけの少女の体に興味を
示されています」

沼田と石橋は息を呑んだ。吸い込んだ息の音が聞こえたくらいに。

「いやいや、そう驚かんでください。あくまで、先生のジャレごと
です。願望くらい口にしたって良いでしょう?」
斉藤は小さく笑った。

今度は二人の息を吐く音が聞こえた。

「昔は十代で結婚する女性が圧倒的に多かっただろう?と、先生は
そんなことをね。その年代の少女を抱いて育てることが、男にとっ
て最高の至福だろうと。もっとも今は、犯罪者扱いにされるでしょ
うが」



別れた妻 17
七塚 10/16(月) 06:56:47 No.20061016065647 削除

 自分がかつて最も愛した女―――。
 その女の坂道を転げ落ちていくような人生―――。
 時雄には辛すぎる話だった。もうやめてくれ、とさえ思った。
 だが、千鶴は語り続ける。何か得体の知れないものに衝き動かされてでもいるように。

「風俗のお店で働いているときには、いつも母のことを想っていました。母のためだ、母を救うために私は働いているのだと強く想っていなければ、私は私を支えられそうになかったんです。その一方で見知らぬ男性と肌を合わせているときには、いつもあなたの顔が浮かびました。あなたはいつも私の心も身体も大切にしてくれていた、愛してくれていた。それなのに私はあなたを裏切り、あげくの果てにこんなことをしている。そう思うと、あなたへの申し訳なさと自分への情けなさで気がおかしくなってしまいそうでした」
 実際、思い余った千鶴はいっときは自殺すら考えたという。
 だが、母親のことを思うと、それも出来なかった。
 ぎりぎりの状態まで千鶴は追い詰められていた。
「そんな頃でした。木崎がお店に現れたのです」
 木崎が『客』として自らの目の前に現れたとき、千鶴は驚愕し、そして憤った。
 現在の自分の境遇を知己に見られる恥ずかしさなどというものもなかった。ただただ、自分をこんな境遇まで堕とした男への憎しみがあった。
 もし、その日、木崎が『客』として千鶴を意のままにしようとしていたら、千鶴はその場で木崎を殺すか、自分が死ぬかぐらいのことをしたかもしれない。千鶴はそう語った。
「でも・・・木崎は私に何もしなかったんです」
 意外なことに木崎は、千鶴に憐れみの視線を向け、自分のしたことを詫びたのだった。木崎が千鶴を買った時間の間ずっと。
「もちろん、私は木崎の言葉を聞く耳を持っていませんでした。いまさら何を言ってるのだ、と思うだけで、彼を憎む心は消えませんでした」
 木崎はそれからもたびたび店に訪れた。訪れるたび、木崎は千鶴を指名し、ひたすら自分のしたことを謝罪し続けた。
 そんなことがずいぶん長く続いた。
 いつしか千鶴の心も変わっていった。
「最初は木崎の顔を見るのも厭でした。彼が私に対していくら謝っても、彼のしたことが消えるわけではありません。でも・・・その頃の私は日々の生活に、仕事に本当に疲れていました。たとえ厭な相手であっても、木崎が来ているときは、その間だけは私は嫌いな仕事から解放されることが出来たんです」
 やがて、千鶴は木崎の訪れを心待ちにするようになっていった。
「認めたくないことです。でも、本当のことだから・・・。その頃の私は本当にひどい精神状態でした。そしてそんな私に優しい言葉をかけてくれたのは木崎だけだったんです。自分でいやになるくらい、私も女だったんですね。表面的には木崎を憎もう憎もうと思っていても、いつしか彼に対して甘えの心が生まれていったんです」

 千鶴の変化を敏感に察知したのか、やがて木崎はひとつの提案をすることになる。
『君の今の境遇はすべて俺のせいだ。その罪滅ぼしとして、俺が君のお母さんの治療費を払う。だから、君はこの店をやめても大丈夫だ』
 千鶴はその言葉に何も応答せず、その日木崎は帰っていった。
「木崎の言葉が何を意味するのか、分かっていました。その提案を受け入れたら、どうなるのか、私にもよく分かってはいたんです。だから、この件に関しても、私は何一つ言い訳は出来ません」
 次に店を訪れたとき、木崎は再びその話を持ち出した。
 千鶴は―――その提案を受け入れた。
「その日、私は初めて自分の意思で木崎に抱かれました」
 そして千鶴は店をやめ、木崎のものとなった。

 千鶴の話はそこで終わった。
 時雄は―――打ちのめされていた。
 言いたい言葉はやまほどあった。
 だが、言うべき言葉が思いつかなかった。
 激しい虚脱感が時雄の全身を覆っていた。

「おかしいじゃないか・・・」
 苦しい沈黙の後で、時雄はようやく言葉を発した。絞り出すような声だった。
「君が木崎に救われたのは分かった。たとえ木崎にどんな思惑があったとしても、だ。その当時木崎は君を救った。これは間違いない。だが、なぜ今の君はその木崎の言いなりになって、他の男に身体を売るような真似をしている。絶対におかしい。納得できない」
 子供のように痛む頭を振りながら激しい言葉を投げつける時雄を、千鶴は憐れむような哀しむような瞳で見た。
「あなたに納得できないのは当たり前のことです。私にだって自分のしていることが分からない・・・。ひとつだけ言えるのは、木崎の提案を受け入れたとき、私は彼にすべてを売り渡してしまったんです。自分が追いつめた女に対する同情だけで、彼があんな提案をしたとは私だって思っていませんでした。でも、私はそれを受け入れてしまった。その頃、私はひどい境遇にいて、なんとしてもそこから逃れたかった。だから私は木崎の差し出した手を掴んでしまったんです。ひとりの女としての誇りも何もかも投げ出して」
 そのときから私は決して彼の言うことに逆らえない女になってしまったんです―――。
 千鶴はそう言った。
「何もかも投げ出して・・・か。その何もかもに、俺も、俺との思い出も含まれていたんだな」
 時雄は呟いた。絶望が身体中の血に溶けて、全身を駆け巡っているようだった。
「ごめんなさい・・・」
 すっと顔を伏せながら千鶴が言った言葉を、時雄はどこか遠い場所で聞いた。





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別れた妻 16
七塚 10/15(日) 18:50:00 No.20061015185000 削除

「俺と別れた後―――」
 ソファに沈み込みながら、時雄は独りごちるように言った。
「君はどうしていたんだ? 木崎とは・・・」
「木崎とは別れました。あなたという脅しの材料がなくなった後では、もう彼との関係を続ける意味はなくなっていました。その頃の私にとっては、彼はあなたとの関係を破綻させた憎むべき対象でしかありませんでした」
 その頃の私にとっては―――。
 今は違うということか。
 ならばなぜ、いつ木崎は千鶴にとって別の意味を持つ存在になったというのか。
「あなたと別れて、私は大桑にアパートを借りてひとりで暮らしていました。近くのスーパーでパートをしながら、細々と生活していたんです。後悔や慙愧の念は消えないけれど、こうなってしまった以上はもう誰も傷つけず、迷惑もかけずに静かに暮らしていきたいとそればかり願っていました。でもそんなある日、突然母の病気が発見されたんです。血液の悪い病気でした」
「お義母さんが・・・」
 千鶴の母親の久恵のことはもちろん、時雄も知っている。久恵は若い頃に夫と別れていて、千鶴と娘一人母一人の生活を送ってきた。それだけに千鶴のことをとても大切にしていて、彼女が時雄と結婚することになったときも、くれぐれも娘をよろしくと何度も頭を下げられたことをを覚えている。
 いつもにこにことしていて、仏様のように優しい人だった。
「全然知らなかった・・・」
「母の病気は手術などで治る類のものではないそうです。長期入院して薬物投与を続けながら、経過を見ていくしかない。母は今も入院しています」
 悲痛な声で千鶴は語った。
「当時、私はパニックになりました。あなたと別れて、このうえ母までいなくなってしまったら、私は本当に独りぼっちになってしまう。でも、私にはお金がありませんでした。パートの給料くらいでは母の治療費すら満足にまかなえません。私たち母子には頼りになる親戚もいませんでしたし」
「なぜ・・・俺に何も言ってくれなかった」
「あなたには言えなかった。絶対に。どんなことがあっても、あなたにはこれ以上迷惑はかけられなかった」
 きっぱりと言った千鶴の言葉に、時雄は絶句した。
「私はパートをやめて、お金になる風俗の店で働き始めました」
「・・・・・・」
「厭な仕事でした。あなたと結婚して幸せに暮らしていたころは、まさか自分がそういうお店で働くことになるとは思ってもいませんでした」
 千鶴は広げた自分の掌をじっと見つめていた。
 消せない過去を見るように。
「当時、私は人妻のソープ嬢という名目で売り出されていました。冗談みたいな話ですね」
 あなたと別れて間もなかった私が―――。
 千鶴は言った。
 時雄は声もなく、天を仰いだ。



不貞の代償22
信定 10/15(日) 18:41:19 No.20061015184119 削除
「これはどういうことなんだ!」
昼過ぎに突然帰宅した義雄は、買い物に出かけようとしていた奈津
子の足もとに、数枚の写真を投げつけた。始めてみせる夫の剣幕に
奈津子は血の気を失った。

そして、一瞬のうちに全てを悟った。

放心状態で拾った写真は、田倉の運転する車の、助手席に奈津子が
乗り、ホテルから出てくる写真だった。

「いつからだ・・どうして、何故・・・」
義雄の声は震えていた。崩れるように床にペタリと座り込んだ。

奈津子の目から大粒の涙がポロポロと溢れ出す。

既に切れた、田倉との不倫写真を夫に渡したのは沼田に違いない。
涙で濡れた顔を上げ、真実を告げようとしたが、やはり涙を拭って
いる夫を見て、全く意味のないことを悟った。これ以上夫には辛い
思いをさせたくはない。そして、これ以上の裏切りは話したくない。

発覚する方が圧倒的に確率が高いことは分かっていたはずだが、あ
わよくば、このまま知られずに、沼田と切れて、全てを闇に葬りた
かった。

田倉の立場を危惧したため、沼田との関係を断ることが出来なかっ
た。しかし、ちゃんと考えれば対策はあったかもしれない。沼田の
顔も姿も性格も嫌で、嫌悪感しかなかったが、慣れというのは恐ろ
しいもので、おぞましいことに、沼田と体を合わせることに、次第
に快感を覚え始めたのである。そのことが、別の方法を考えようと
もしなかった、最大の原因かも知れない。

次は何をされるのかと、期待感すら持つようになっていた。沼田の
マンションへ着く頃には、歩きづらくなるほどに、あそこが濡れて
しまう。それを確認した沼田は、案の定、そのことを揶揄する。最
近では、もっと沼田に虐めて欲しいがため、ショーツはわざと穿き
替えないでいる。快楽に咽び泣く自分を焦らしに焦らし、遂には己
の口から、沼田を欲しがる淫猥な言葉さえあげる始末であった。

「嘘だと言ってくれないのかい」
黙って泣いている奈津子に義雄はそう言った。
「あぁ・・・」
奈津子は喉が詰まって声が出せない。
「本当なんだね」
義雄は震えるような深いため息を吐き、頭を振った。

「前から少し変だと思っていたけど、まさか本当だったなんて」
奈津子は両手で顔を覆っている。
「しかも、僕の上司だなんて、信じられないよ・・・」
自嘲的な笑みを浮かべる。しかし泣き顔だった。
「そんなことに一番縁遠い女性だと思っていたけど、分からないよ、
君が」

奈津子の胸にズシリと響いた。伴侶に対し、これ以上の裏切りはな
い。ある意味、殺人よりも衝撃は深いかもしれない。弁解の余地は
なかったが、沼田との事だけは隠したい。沼田の指示ではあるが、
石橋にも抱かれたことも。

「少し変だなと思っていたけど、そんな疑惑を、僕は心の中で必死
で否定していたんだ。絶対にない、有り得ない、とね。僕の愛した
女性だから」

体を折って慟哭する奈津子に、義雄は頭を抱え込んだ。

***********************************************************

観察していないとよく分からないが、時々、ボーッとしていること
がある。佐伯の机の上に、写真が入った封筒を置く瞬間は、さすが
に躊躇したが、佐伯が血相を変えて出て行った時は痛快だった。田
倉に詰め寄ったのだろうか?まあ、そんなことはどうでもいい。

田倉は部長室から出てこないので分からないが、良い状態ではない
ことは察知できる。石橋の背中をチラッと見る。このバカに関して
はどうでもいいし、どうにでもなる。最終目的は奈津子と佐伯の離
婚だ。

都心への便も比較的良い、ニュータウンの開発である、ビッグプロ
ジェクトが沼田のいるセクションで進行中だ。沼田と言えど、分譲
開発の下準備で忙殺される毎日であった。奈津子を抱きたいが、夜
遅くまでの残業でさすがにそれどころではない。

既に終わっていた田倉との不倫を佐伯にバラしてしまったが、発覚
しても、奈津子は自分と別れることは出来ないと確信している。何
故なら、奈津子と石橋が交わるシーンをビデオに撮ってあるし、自
分と奈津子のもちゃんと撮ってある。寝室に隠しカメラを設置して
あることは奈津子には教えていない。

初めてモニターで、女としている、自分の裸を見て、恐ろしく醜い
と思った。だが、でっぷりと突き出た腹の上に奈津子が乗って、腰
を動かしているシーンは、何度見てもゾクゾクする。結合部や、唇
や指でさんざん嬲り、赤みを帯び、濡れたような菊門を、ヒクヒク
させている部分もしっかりと映っている。出来る限りの、奈津子の
淫らな姿態を収めるため、カメラの位置を意識して、体位などを考
えていたのだ。

腰を降り続ける、自分の淫らな姿を見せることによって、奈津子は
自由に出来ると確信している。逆らったりしたら、佐伯に見せると
いって脅す。何なら娘に見せてもいい。

携帯に連絡すると、案の定、奈津子は断ってきた。全て精算したよ
うなキッパリとした口調だったが、ビデオの件を話すと、声色が変
り、狼狽した。ビッグプロジェクトの件で夜は遅くなるので、何と
か時間を作って、昼間に、シティホテルに呼び出したである。金が
かかるが仕方がない。

ホテルに設置してあるビデオデッキで、自分と交わっている映像を
見せ、泣きじゃくる奈津子をなだめすかし、ベッドに引き入れた。

服を一枚一枚脱がしながら、2週間ぶりの奈津子の体臭は、沼田を
快楽の坩堝へといざなった。夫以外の手により開発された人妻の体
は、悲しいかな沼田の愛撫に反応して、身悶えするのであった。

最後は沼田の指示どうり、沼田自身を握りしめ、己の体内へと導き
入れるのであった。

その後の佐伯との関係などを聞くと、シクシクと泣き出す、愛おし
い奈津子を強く抱きしめ、より結合を深めてやるのであった。



電車の中で
マッド八田 10/15(日) 01:21:06 No.20061015012106 削除
 私の妻の恭子はボーイッシュなタイプで、ほっそりした体つき、胸も尻も大きくはありませんが、顔は眉が濃く目がくっきりとして中性的な魅力があり、ちょっと女子マラソンのA選手に似ていてけっこう男の目を引くのです。
私が恭子にとくべつに強烈な欲情を抱くシーンがあります。それは恭子が他の男に犯されているところを想像する時です。ふつうの男なら、はげしい嫉妬や憎しみを抱くところでしょう。けれど私はそんな場面を頭に浮かべると、たまらない悦びを覚えてしまうのです。そんなシーンに自分を追い込むことで、はじめて恭子のセックスを充たしてやれるのです。
 そのうちに、恭子がいつも乗る電車でつづけて痴漢に狙われたことがありました。私はその話を恭子からきいた時、嫉妬と悦びが入り交じった奇妙な感情がこみ上げてきました。『その痴漢の現場に俺もいっしょに行こう。』と言って、次の日、恭子といっしょに電車に乗りました。恭子は、私がその痴漢を取り押さえてくれるのだと思ったことでしょう。けれど、私には別の企みがあったのです。
 電車の中で恭子が私に眼で合図をしました。途中の駅から乗った男が恭子に身体を寄せてきたようでした。やせて顔色の悪い中年の男です。私は何も気がつかないフリをしていました。男は混雑にまぎれてうまい具合に恭子のお尻に掌を当て、ソロリソロリと撫ではじめたようです。恭子は眼で私に訴えています。けれど私は知らん顔で男の動きや、とろけそうなイヤらしい表情をじっと見つめていました。やがて男は恭子のスカートとスリップを少しずつ引き上げ、ビキニショーツの脇から恭子の秘部に手を入れたようでした。私以外の男が触ってはならないトロリと濡れた女陰を、痴漢の指先がいじりまわしているのです。
 恭子は身体をもがいて逃げようとしますが、満員の人混みに押さえられて動くこともできないでいます。泣き出しそうに顔を真っ赤にして、私に何か言おうとしていますが、恥ずかしくて声が出せないようです。けれど、私はそれに気がつかないフリをして、男の指に弄ばれている恭子の表情と悶えぶりにたまらなく快感をそそられながら、じっくりと見つづけているだけでした。
 私の股間のものも最高に怒張しています。私はそれを剥き出して、スカートのめくれ上がった恭子のお尻に擦りつけてやりました。知らない男と私がいっしょに痴漢になって秘かに恭子を責めているのでした。その淫靡なシーンがますます私を昂奮させました。がまん汁が止めどなく滴って恭子のショーツを濡らしています。そのまま続けていたら、もう少しで私は恭子のお尻に射精液をぶっかけるところでした。
 もうちょっとというところで電車が駅に止まりました。私は黙って恭子の手を引いて電車を降り、そのまま駅を出てすぐそばのラブホに強引に恭子を連れ込みました。恭子は、
『あなた、なんで痴漢をつかまえてくれなかったのよ。どうしてこんなところに入ったのよ。』
と怒り狂っていましたが、私はそれを無視して抵抗する恭子を力ずくで全裸に剥ぎとり、ベッドに押し倒しました。電車の中で知らない男からされるままになっていた恭子の陰部は、心で嫌がっていたのとは裏腹に、すでに淫液でグッショリと濡れそぼっていたのです。私は、
『フフ、こんなに濡れてるじゃないか。』
と小さく嗤うと、恭子に覆いかぶさって一気に貫いてやりました。
 このまえ恭子の身体に触れたのがもう1か月以上前だったこともありますが、なによりさっきの電車の中でのことが私を火のように熱く燃え立たせました。
 それから2時間あまり、私と恭子はずっと繋がったままベッドの上をのたうちまわり、ソファーや浴室の中でもつれ合い絡みあって、サカリのついた野獣のように浅ましく恥ずかしい快楽の時間を過ごしたのです。
 その間じゅう、私がイメージしていたのはさっきの痴漢に犯されている恭子の姿でした。私の下で喘いでいるのはあの中年男に責めまくられている恭子なのでした。私はコトバで苛めてやりました。
『おい、さっきの痴漢にいじられて気持ち良かったんだろ……あの男の指でイキそうになったんだな……今もアイツに抱かれてるつもりでヨガッテいるんだろ…』
 恭子は頬を染めながら「違うわ」というように物憂げに首を振りましたが、私にはそれが、あまりの快感に堪えられずにイヤイヤをしているような淫らなしぐさに見えました。
恭子はいま、あの男に抱かれ黒マラで突きまくられているつもりで、すすり泣いているにちがいありません。そんな恭子の妖しい姿が、ますます私の欲情の炎を燃え立たせました。
 私はあの痴漢に変身して恭子を犯しつづけました。あの男が私の背中にかぶさり、私に乗り移って私を射精へと駆り立てるのです。私はあの男から情欲を受け取り、その情欲を恭子の中にぶち込んでいるのです……
 そんな悪夢のような幻影に溺れながら、私は3度、絶頂に登りつめました。恭子も2度目まで私といっしょにイキました。そのあとの恭子はひとりでイキっぱなしのありさまで、意識もモウロウとしていました。
さいごにふたりは正常位になり、恭子は両脚を高くもちあげてバタつかせ、それから私の腰に巻き付けました。私は恭子の両腕をバンザイさせて二の腕を舐め、脇の下の甘い肉臭を嗅ぎました。そしていっしょに野獣のように絶叫しながら登りつめて果てたあと、私も恭子もベッドに崩れ落ちたまましばらくのあいだ動くことができませんでした。



休日の午後
マッド八田 10/15(日) 00:37:44 No.20061015003744 削除
(管理人さま。その他BBSの方を削除してこちらに投稿し直しました。よろしくお願いします。「電車の中で」も削除してこちらに投稿し直したいのですがパスワードを忘れたので削除よろしくお願いします。)

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この前の休みの日のことだ。
家の中の片づけをしていた妻のフミ子が、
「くたびれたから腰を揉んで。」
と言った。
俺は、
『いいよ』
といって、座布団の上にフミ子をうつぶせに寝かせた。
そして腰や尻をマッサージし始めた。
フミ子は
「あー、気持ち良い〜〜」
といってじっと揉まれていた。
俺は揉みながら、久しぶりにじっくりとフミ子の腰やケツの曲線を眺めていた。
熟女になっているけれど、そんなに崩れていないし、若い頃よりかえってムッチリと豊満になっている。
触った感じもふっくらと柔らかくて弾むようだ。
そんなフミ子だから、けっこう男のスケベ心を刺激するらしい。
町の中でナンパされることがあるといっている。
電車やバスではよく痴漢に会うらしい。フミ子のムチムチのケツに触った痴漢のヤツはどんなに良い気分だったろうと思うと妬けてムカーッとなるのだ。
それから、ときどき無言電話がかかってきて、「ハァ・・ハァ・・」と変な声を出して、俺が出るとすぐに切れてしまう。
俺のカンでは、どうもそいつは隣の部屋に住んでいる源造というヤツらしい。丸刈りで色黒、ギョロ目で唇が厚く、いかにもスケベ親父といった感じだ。女ぐせが悪くて女房こどもと別居しているという噂だ。
源造は近所で小さな店をやっていて、フミ子はいつもそこで買い物している。
フミ子に無言電話のことを言っても
「あら、そう。」
と平気な顔をしている。隣の親父にそんな変な電話をかけられてるのに、恥ずかしがりもしない。
そんなわけで俺は少し前から源造とフミ子のことがちょっと気になっているのだ。
マッサージしながらそんなことを考えているうちに、俺はだんだんと気分が出てきて、チ♂ポが少しづつ勃ってきた。
こうなったら、もうこのままで終わるわけにはいかないぞ、と思った。
10分くらい揉んだところで、フミ子が
「あー、もういいわ、どうもありがとう。」
といって起きあがろうとした。
俺はフミ子の身体を押さえつけながら
『まだまだ、もう少し続きがあるよ。ついでにこっちの方も揉んでやろう。』
と言って、手をお股に滑り込ませた。
フミ子はびっくりして
「キャァ〜」
と小さな声をあげて、
「そんなとこ揉まないでもいいわよ、はい、もうお終い。」
と言ったが、俺は黙ってかまわずスカートの上からフミ子のデルタを揉み始めた。
フミ子は
「あ〜〜ん、もう止めなさいよ、まだ昼間じゃないの。」
といいながらも、べつだん抵抗するでもなく、俺が揉むのにまかせていた。
腰のマッサージでリラックスしてきて、フミ子もすこしづつその気になり始めた。
俺はますます調子に乗って、スカートの裾から手を入れて、パンティを少しズリ下ろしてじかにアソコに触った。
フミ子は
「いや〜〜ん、もうダメよ〜〜・・・」
と言ったが、その声はもうすっかり鼻にかかった、いつものアノ時の声になっていた。
フミ子のお股はカッと熱くなっていたが、まだ濡れてはいなかった。
俺が中指を割れ目に這わせると、フミ子は一応は恥ずかしそうに両脚をギュッと閉めて
「ねぇ〜〜、ほんとにヤリたいの?・・我慢できないの?・・そのかわり夜ゆっくりヤラセてあげるから〜・・ね?」
と囁いた。
俺は
『夜は夜さ。おまえのケツを揉んでるうちにどうしても今すぐヤリたくなったんだよ。』
と言って、中指でゆっくりとフミ子のオマ♀コを愛撫しはじめた。
はじめはグニャグニャだったビラビラや「栗とリス」が、しばらくすると充血してコリコリになった。
中指の力をすこし強くしてクリちゃんを転がしたり、ビラビラをやさしくこすってやった。
すると「ゥッ」と言ってフミ子がお股をピクッとさせた瞬間、オマ♀コがジュワーッという感じでいっぺんに濡れ濡れになった。
そして「ファ−−−ッ」と息を吐くと、それまでこわばっていた身体が柔らかくなって、両股がダラリと開いた。
俺はしばらくの間、中指を動かし続けてオマ♀コが淫液で洪水状態になっているのを確かめてから、パンティを全部脱がせた。
フミ子は
「ゥン〜・もう〜・・言い出したらきかないんだから〜」
と口では言いながらも、すっかりその気になって、嬉しそうな顔をして自分でスカートを脱ぎかけた。
俺は
『ああ、そのままでいいから、ベランダへ出ろよ。』
といった。
フミ子は
『んん〜〜 また変なこと考えて〜〜』
といいながらも、ここまできたらもう早くヤツてもらいたいので、いわれるままにベランダへ出た。
俺はフミ子を手すりにもたれて外を向くように立たせ、尻を突き出させた。
スカートをめくるとスッポンポンだ。
俺の部屋はマンションの3階なので、ベランダで後からファックしても外から気づかれない。
俺はズボンとパンツを脱ぎ、いきなりチ♂ポをバックからフミ子のオマ♀コに突き刺した。
その瞬間、フミ子は
「アァ〜〜ン」
と叫んで仰け反った。
俺はゆっくりと腰を振ってピストンしはじめた。
フミ子は
「こんなとこ人に見られたら、ワタシ恥ずかしくてもう外を歩けなくなるぅ〜〜」
なんて言いながら、だんだん気分を出してきて、そのうちに
「あなた〜、いつもより太くて硬くなってるみたい〜〜」
と嬉しそうな鼻声を出した。
俺は黙ったまま妻の腰を抱えてグイグイとピストンを強めた。
チ♂ポのウラ筋と「栗とリス」がちょうどいい具合に擦れ合って、俺もフミ子も何ともいえない良い気持ちだ。
フミ子はピストンに合わせて
「ァン・・ァン・・ァン・・ァン・・」
と小さな呻き声を上げるだけだった。
外からフミ子を見ても、まさか後ろからダンナにチ♂ポをハメられて交尾していると思うやつはいないだろう。俺たちは凄くヘンタイなことをやってるんだと思っただけでゾクゾクしてきた。
知ってるヤツじゃ困るけど、知らないヤツならちょっと見せてやりたいと思った。
そんなことを考えているうちに、俺はもうこのままフィニッシュまで上りつめてしまおうと思って、ピストンを全開にした。
ちょうどその時、隣のベランダに人が出てきた。
そして仕切りごしにこっちのベランダを覗き込み、フミ子を見て
【やあ、どもども、調子どう?・・今日はダンナは?・・フミちゃん、ひとり?】
と声をかけてきた。
それは隣の部屋の源造だった。他人の女房にフミちゃんなんて馴れ馴れしい口をきいて図々しい奴だと思ったが、なにしろこっちはベランダセックスの真最中だから顔を出して文句を言うわけにも行かない。
【さいきん新しいHビデオが手に入ったんで、これから見ようと思うんだけど、よかったらフミちゃんもこっちへ来て一緒に見ない?】
「あ・・あら・・いいえ・・いま・・ちょっと・・・」
フミ子は後ずさりして部屋の中へ逃げようとしたが、俺は二人がどんな話をするか聞きたかったのでフミ子を押し戻した。
【どうしたんだい? ダンナ、いるのか?】
「あ、はい・・いいえ・・・い・いないわ・・」
後ろから俺にグイグイ突かれながら源造にエロエロと話しかけられて、フミ子はしどろもどろになった。
【なんか変だぜ、ハァハァいって、赤い顔して・・】
源造がこっちのベランダを覗き込もうして身体を乗り出してきた。
俺はこれ以上はヤバイと思ったので、チ♂ポを抜いてふたりで急いで部屋に戻った。
フミ子と俺は素っ裸になって抱き合い、ベッドに転がり込んだ。
もう一度、前戯からやり直して本番行こうと思った。
ふたりは唇を吸い合い、舌を絡め合った。
妻の耳から首筋、脇の下と二の腕を舐めまくり、乳房を揉みながら乳首を吸ったり転がしたり・・・内股から足の指まで唇を這わせた。
そのときフミ子のケータイが鳴った。
源造の声が聞こえた。
【さっきはどうしたの、黙って中に入っちゃって・・・オレはフミちゃんの顔を見たら急に催しちゃってさ、いま、エロビデオ見ながらオナニーを始めたとこよ。・・・つきあってくれよな。】
フミ子はあわててケータイを切ろうとしたので、俺は
『切らないで、そのまま相手してやれ。』
といって、フミ子に源造とのテレホンセックスを続けさた。それをオカズにしてフミ子とのセックスをぐっと美味しくしようと思ったからだ。
俺はケータイに耳を近づけてフミ子と一緒に源造の声を聞いた。
【フミちゃんの可愛い唇でチ♂ポしゃぶってくれよ〜〜・・・アァ〜〜ッ・・気持ち良い〜〜・・
オレもフミちゃんのオマ♀コ舐めるぅ〜〜】
フミ子はわざとらしく
「いや〜〜」
といって耳をふさぐフリをしたが、俺は源造の言うように69になってオマ♀コとチ♂ポを舐め合った。
「栗とリス」とビラビラを舌先でなぞるようにくり返し舐めまわしてやった。
あんぐりと口を開いた割れ目の中が、生々しく濡れていた。
ケータイからまた源造の声がした。
【さあ、フミちゃん、大股を開けて・・デカチンをハメるぜ・・・ほら、入ってくぞ・・・アア、チンポがクリとビラビラを擦ってる・・・アア、すっかりハマッた〜〜・・・気持ち良いぜ・・・チ♂ポが子宮にブチ当たってる・・・フミちゃんも気持ち良いんだろ・・・】
俺もフミ子の内股を大きく左右に押し広げ、ビンビンにそそり立った肉棒を濡れ濡れの膣にズブズブと挿入してハメた。
俺はチ♂ポをゆっくり出し入れさせながら、このチャンスにフミ子と源造の関係をはっきりさせようと思った。
源造が仕掛けてきたテレフォンセックスにフミ子がどう反応するのだろうか。
『おまえも源造に声を聞かせて相手になってやれよ。』
俺がそう言うとフミ子はケータイに向かって、はじめはさもイヤイヤながらという感じで
「アァ・・アァ・・」
とわざとらしい声を出していたが、そのうちにだんだん気分が出てきて、
「ァア〜〜ン・・ァア〜〜ン・・ステキ〜〜」
なんて甘いうめき声をあげ始めた。
それから後も、源造がエロエロなわめき声を上げて、フミ子がそれにイヤらしい調子で応えているのが聞こえていた。
そのうち、フミ子はだんだんとテレホンセックスと現実との区別が付かなくなったようだった。
けれども俺は、それには構わずにフミ子と絡み合って、上になったり下になったり、ベッドの上を端から端まで転げ回った。前から、後から、横からとお互いの身体をぶつけ合った。
二人の股間がバンバンとぶつかる音や、繋がった部分のグッチョグッチョといういやらしい音が部屋中に響いていた。
フミ子はもう、俺じゃなくてケータイの向こうの源造と交尾しているつもりになっていた。
「・・源さんの・・・チ・・チ♂コ・・いつもよりスッゴ〜イ・・気持ちイイ〜〜
いっしょにイキた〜〜い・・・」
とぎれとぎれのウワ言をいいながら、とうとう本音を吐いたのだ。
それを聞いたとたん俺はカ−ッとなった。
フミ子の声は、いつも源造とヤッている本番そのままなんだ!
チクショウめ!
やっぱりフミ子は源造とマジで不倫しているんだ!
俺はフミ子の骨盤に思いっきり腰をぶっつけ、肉棒を根元までグリグリとねじ込んで子宮を突きまくり、激しく苛めてやった。
フミ子は何回も身体を仰け反らせながら呻き声をあげ、しまいには
「ヒーッヒーッ」
と悲鳴を上げながらヨガリ泣いていた。
フミ子の身体のあちこちでヒクヒクと細かい震えが起こってきた。フミ子は、早くイッテしまわないようにと、身体をよじって必死に堪えていた。イヤイヤするように顔を左右に振って悶えていた。
そのうちにフミ子は切なそうに腰を浮かせ、ぐるぐると回しはじめた。そろそろ絶頂に昇りつめる前のいつものサインなのだ。
そんなフミ子の乱れた姿を目にして、俺は後戻りのできない射精感を堪えられそうもなかった。
そのとき源造が、喘ぐようにイヤらしい叫び声をあげた。射精の合図だ。
【アァ〜〜ッ! もうダメだぁ〜〜 中出しイクぞ・・フミちゃん・・いっしょにイッてくれ!
イクッ! イクゥ〜〜〜ッ! ゥオォォ――――ッ!】
そのとたんフミ子は、重なっている俺を押しのけ、両脚を踏ん張って全身を弓なりに反らせ
「源さ〜〜ん! いっぱい出して―――っ! ックゥ―――ッ! ギャァァァ――――ッ!」
と吠えると、全身をガクガクガクッと烈しく痙攣させながらイッた。
いつも俺とヤッているときには見せたことのない凄まじい絶頂時の姿だった。メス獣の絶叫だった。
俺はボー然とした。
ケータイから源造の
【ハァッ・・ハァッ・・ハァッ・・】
という荒い息づかいが聞こえていた。
チクショウ!
たがいに名前を呼び合いながら、いっしょに快感を貪って昇天した不倫カップルめ!
俺はチ♂ポを引き抜くとフミ子に馬乗りになって激しく扱いた。
目の眩むような快楽の瞬間がきた!
灼けつくような痛痒い快感に貫かれて、俺は身をよじりながら射精した。
 ドッピューン!ドッピューン!ドッピューン!ドック・ドック・ドック・・・
ドロドロの白濁液が次々に飛び散って、フミ子の顔面を汚していった。
・・・・・
俺は、精液にまみれ満ち足りてうっとり目を閉じているフミ子の顔をぼんやり眺めていた。
チ♂ポの芯に残っている甘い疼きをゆっくりと楽しんでいた。
そのとき、俺の中で、何か奇妙な感覚がむっくりと頭をもたげた・・・
気がつくとそこには
『フミ子と源造の不倫をオカズにすれば、セックスがもっとフレッシュで楽しくなるんじゃないか・・』
と考えている俺がいた。
イカン、イカン!
そんな考えを振り払おうとして、俺は強く頭を振った。
しかし次の瞬間に、俺はもう
『こんどはふたりが本番ヤッテいるところを覗こうか、それとも源造を誘っていきなり3Pやろうか・・・』
と思っていたのだった。



不貞の代償21
信定 10/14(土) 18:16:46 No.20061014181646 削除
前に石橋と二人で行った、あの居酒屋の、隅の薄暗いカウンターを
陣取り、手招きをしている。どうやら沼田はここが気に入ったよう
だ。

田倉は小さく頭を下げた。年上で、しかも元上司ということもあり、
沼田はやはり苦手だ。奈津子の件で落ち込んでいることもあり、出
来れば勘弁願いたかった。

「お呼び立てして申し訳ありませんなぁ」
沼田は田倉のコップにビールを注ぎ、頭を下げる田倉に、とりあえ
ず乾杯、とグラスを当てた。

「何かお話があるとか」
沼田が詰まらない世間話などを始めたので、話を早めに切り上げた
い田倉は、やんわりと催促を促す。
「お、そうでした、そうでした。詰まらん話をしてる場合ではあり
ませんなぁ」
惚ける沼田に苦笑いをする。

「実は、少々困ったことがありまして、部長のお知恵を拝借願いた
いと思いましてね」
細い目を更に細くして、田倉を見る。本当は、早めに話を切り出し
たかったのは、沼田の方であった。
「ほう、どんなことでしょう」
勿体ぶって話す沼田の顔を見て、そっと息を吐いた。

沼田の話に田倉は驚きを隠せなかった。沼田が女性と付き合っている
と言う。しかも、どうやら不倫らしい。

不倫と聞き、直ぐさま、脳裏に奈津子の姿が思い浮かんだ。熱く込
み上げるもの全てが、胃に集中し、そしてキュッと痛む。突然の奈
津子のシャットアウトはどうしても解せない。田倉はこのことでず
っと尾を引いている。

「いやぁ、この年でお恥ずかしいのですが、向うも、亭主の目を盗
んで、毎日私に逢いに来る始末でしてな」
だみ声で、がははと笑い、喉を鳴らしビールを流し込んでいる。
「それはお熱いですね」
それほどまでに沼田に傾倒している人妻とは、どんな女だ。半分、
信じられない思いであった。

「相手は40前のババアと言ってもいい年齢なんですが、欲求不満
らしく、激しくて困りますわい」
体に似合わず、枝豆を丁寧に掌に出し、薄皮も器用に剥き、口の中
に放り込んでいる。その薄皮をつまみ上げ、きちんと元の皿に戻す、
沼田のブヨブヨした指を見て、田倉は目を背けた。

「私もこの通り太っていて、年齢的な問題もあって、どうも精力が
イマイチでしてな。立派な体格している部長は羨ましいですわ。さ
ぞかし女を泣かせていることでしょうなぁ」
元上司の沼田のことはよく知っている。昔から、話すことと言えば
下ネタばかりだ。相変わらずの下品な沼田に辟易する。

「私は付けてした方が良いと言っているのですが、彼女は避妊具を
使うのは嫌がりましてな。やはり、女も違うんでしょうなぁ。ふふ
ふ・・・それで仕方なしに安全の為、ピルを服用させておるんです
わ。妊娠でもしたら、そりゃぁ、大変なことになりますからなぁ」
ビールを飲み、うんざりする田倉の顔を横目で見て、ニンマリした
顔で、沼田の話はまだまだ続く。

「あ、そうそう、彼女には今年高校に入った娘がいるんです」
「ほう」
と、言いつつも、田倉の胸がざわつく。

「その娘がこりゃまた、絶世の美少女で驚きますわ」
テーブルにビールをこぼしてしまった田倉に、沼田はパンパンと手
を叩いて店の者を呼ぶ。沼田の叩いた手は、実に軽やかだった。

「まあ、いわゆる、その美少女を生んだ母親と出来ちゃいましてね」
沼田に礼を言ってから、卑下た笑いをする細い目から、顔を背けた。

「細心の注意を払っていましたが、どうやら、向うの亭主が疑って
いるみたいなんですわ」
「それは良くありませんね」
だが、沼田はさほど深刻そうではない。そして田倉は、この男の話
を、これ以上はもう聞きたくないと思っていた。

「実はですな、驚いたことに、彼女は私の前に、付き合っていた男
がいるらしいのですわ。大人しい顔してますが、女って分からんも
んですな。あっちのほうが思った以上に上手なので、問い詰めまし
たら、どうもその不倫相手の男に飼育されたらしいのですよ。亭主
そっちのけでね。女が言うには、亭主はあっちの方は、からきしダ
メらしくて」
田倉の顔が、次第に深刻になっていくのを見るとウキウキしてくる。
笑い出したい気分だ。

「彼女が前の男と別れた理由なんですがね。どうやら写真を撮られ
ていたらしく、それを彼女の家に送ってきたらしいのです。車でホ
テルに入るところで、ハッキリとは写っていなくて、2人の顔はぼ
やけているらしいのですが、当人は分かりますからなぁ。怯えた彼
女はそれっきり不倫の男とは逢わないようにしたんです。もっとも
男からは再三の呼び出しがあったらしいですが。そりゃぁ、そうで
すわな。人妻の体は蜜の味ですからなぁ」

言い終えて、がははと笑い、チラッと横を見る。蒼白になっている
田倉の顔に大満足だった。

「彼女は直ぐに破り捨ててしまったので、私はその写真は見ていま
せんがね。結局それっきり、誰が送ってきたのか分からないままで
して。どうも亭主ではなさそうだし。彼女は怯えてはいますが、今
は私がいますのでね、頼ってきます。さすがにこればっかりは、亭
主には頼めんからなぁ」
相づちを打つのさえ、田倉は忘れている。

よしよし、いいぞ田倉。その顔をもっと俺に見せろ。

「それで、私らが付き合い始めたきっかけですがね、ほら、前にお
話したことがあったと思うが、佐伯君の・・・」
そう言った瞬間、田倉は弾けるように振り返った。

「ん?ああ、佐伯君は部長の直属の部下でしたな」
沼田はそう言って口元を緩めた。
「そ、そうですが、佐伯君が何か・・・」
不安そうな田倉の顔に、沼田は更に口元を緩め、分厚い唇から黄色
い歯を見せていた。

そう、そうだ。なかなかいい顔だぞ、田倉。

「佐伯君に偶然会って、その時、金を借りた話をしたと思いました
が。奈津子、いや、奈津子さんに昼食をご馳走になったとき、恥ず
かしながら意気投合しましてな、例の写真の件もその時に。私が親
身になってアドバイスしたせいかもしれませんなぁ」

一旦そこで話を止め横を見る。ビールを握る、田倉の手が、微かに
震えている。立ち上がって、拍手喝采したい気分であった。

「まあなんと言うか、この年で恥ずかしながら、そのまま彼女の家
で、なにしてしまい、それ以来ずっと続いていまして。ご相談と言
うのは私と奈津子の件でしてね。なんせ、田倉さんのところの、で
すからなぁ。その女房との不倫なもので、如何したものか・・・」

実は写真を撮った人間も分かってまして、と、口に出したが、既に
田倉は沼田の話を聞いていなかった。

青くなった田倉の顔、最高だったな。ククク・・・最後は金も払わ
ず挨拶もせずに帰っていきやがった。余裕の無い奴の姿、初めて見
たぞ。まあいい。飲み代は俺のオゴリとしようじゃないか。あそこ
まで俺の思い通りになるとはな。安いもんだ。どうやら、奈津子の
ことは、奴は本気らしい。あー、いい気分だ。

さーて、次は佐伯の奴だな。テメエの女房を寝取られているのも知
らずに呑気なもんだ。疑っているのなら、奈津子に問いただせばい
いだろうが。奴はそんなことも出来ないのか。だらしのない男だな。

もっとも、奴には何の恨みもないが、奈津子を完全に俺の物にする
ためには、可哀相だが、やむを得まい。

それにしても、奈津子の体はいい。田倉が夢中になるのもわかる。
年の割には、艶のあるいい肌をしてるからな。始めは嫌がっていた
キスも、最近ではフンフン鼻を鳴らしながら、俺の口の中に積極的
に舌を入れてくるようになったし。しかし、よーく唾の出る女だ。

あー、吸いたくなったぞ。

ショックを受けていた田倉の表情に、高揚した気持ちを抑えること
が出来ず、自分のマンションで待たせいた奈津子が、遅いでのもう
帰らなければならないと言う口を吸い取り、玄関先で押し倒した。

そのまま、己の性欲が尽きるまで人妻の肉体を堪能した。



別れた妻 15
七塚 10/14(土) 00:04:10 No.20061014000410 削除
 窓の外から電車の過ぎ行く音が聞こえた。時雄の住むマンションのすぐ近くには線路が走っている。もう終電は終わっているはずだから、回送電車か何かだろう。
 時雄は立ち上がって、少しだけ空いていた窓を閉めた。秋の空気が冷たかった。
「一本、吸っていいかね」
 千鶴はうなずいた。いままでどうしても打ち明けられなかった過去の話をしているうちに、千鶴はかえって冷静さを取り戻してきているようだった。いや、そうではない。話しているうちに、千鶴の顔から次第に表情が消え、声にも抑揚がなくなってきている。それだけだ。神経のほうはいっそうに張りつめているように思える。
 生気を失ったようなその表情を不安な想いで見つめながら、時雄は煙草を取り出した。火を点ける手が震えている。冷静さを欠いているのは、時雄のほうも同じことだった。
 だが、もう引き返すことは出来ない。引き返す気もない。
「君は木崎に脅された」
 呟くように言った自分の声が、ひどく酷薄なものに聞こえて時雄は心中で驚いていた。
「そして関係を強要された。そうなんだな」
「そうです」
「・・・それでも、どうしても俺には分からない。君がなぜそんな木崎の手管にやすやすと従ってしまったのか、納得できない。脅された時点で、君はただの被害者だった。木崎が俺にバラすのを恐れたと言うのなら、君から俺に打ち明けてくれればそれですんだ」
 時雄は煙草をもみ消した。
「何度も同じことを言ってすまない。済んだことを咎めても仕方ないとは分かっている。でもそう思わずにはいられない」
 言いながら、時雄は木崎が千鶴に言ったという言葉を思い返していた。
『あいつはひとの過ちを簡単に許せるような人間じゃないからな』
 そう―――なのか。
 木崎が自分をどういうふうに見ていたか。そんなことは問題じゃない。ただ、千鶴まで自分をそんなふうに思っていたかと想像することは苦痛だった。
「あなたのことを信じていなかったわけじゃない」
 時雄の心中を見透かしたように千鶴は言ったが、その後に自らの言葉を否定するように弱々しく首を振った。
「いえ・・・そうではありませんね。どう言い訳しようと、あなたに打ち明けられなかったのは、私が弱かったせい。あなたを信じ切れなかった私の弱さのせい。あなたに責任があるわけではありません」
「責任とかそんなのはどうでもいい」
 ただ哀しいだけだ。情けないだけだ。
 時雄は思った。
 だが、千鶴は語ることをやめなかった。
「私は弱かった。あなたのことを愛している、信じている。そう思ってはいても、心の底では真実を知ったあなたに捨てられることに怯えていたんです。あなたとの平穏な暮らしを失うことが何よりも怖かった―――」
 凍りついた瞳で、千鶴は時雄を見た。
「そして私はあなたを裏切った―――」

 最初は『あと一度』という話だった。
 あと一度、会ってくれるだけでいい。それで今までどおりの生活が還ってくる―――。
 月並みな悪魔の誘惑。
 そのあと一度が二度になり、三度になり、やがて破綻するまでの数ヶ月ずっと続いたこともまた、月並みな展開である。
 くだらない三流ドラマ。
 当たり前のように夫と顔を合わせ、何食わぬ顔で普段の自分を演じながら、他方では別の男の前で女の貌をすることを強要される日々。
 そんな二重生活が長くなればなるほど、千鶴の肢体にまとわりつく罪はその重さを増していった。
 不実、背信、裏切り―――。
 増えていく罪の重さが増せば増すほど、もう途中で放り出すことは出来なくなっていく。
 いくら疲れても、磨り減っても、止まることは出来ない。
 壊れるまでは。
 そして―――そのときは訪れた。

「あの日、出張が急に取りやめになって帰ってきたあなたに、すべてを見られて・・・私はもっとも危惧していたことが現実になったことを知りました。それでも―――私は心のどこかでほっとしていました。もうこんな綱渡りのような日々を送らなくて住む。そのことばかり思っていました」
 千鶴の大きな瞳がニ、三度瞬いた。
「本当に私はエゴイストですね。誰よりも辛いのは、傷つけられたのはあなたのほうなのに、私は自分のことばかり考えていた。最初はあなたとの生活を守りたい一心だったのに、その頃にはもう嘘をつき続けることに疲れきっていて、自分が楽になることばかり考えていたんです。それでいて、この期に及んでも私はまだ体裁を気にしていました。あなたに何があったんだと問い詰められて、私は何一つ語りませんでした。言い訳をするのは厭だった。真実を告げて、木崎の奴隷になっていたことをあなたに知られるのも厭だった。嘘をつくことにももう耐え切れなかった。結局―――私はもっとも卑怯なやり方で逃げてしまったんです」
 そう語る千鶴の声には、底知れぬ暗闇の響きがあった。



不貞の代償20
信定 10/13(金) 22:27:05 No.20061013222705 削除
田倉に開発された奈津子の体は、沼田の手によって開花し始めてい
た。田倉は若い頃バスケットボールで鍛え抜いた、強い肉体と力で、
奈津子との結合に重きを置き、力強く交わることを好んだ。体力、
精力共に自信のある田倉は、一回の情事で何度か放つ。夫では決し
て届くことのない位置にある急所を、田倉の逸物で嫌と言うほど教
えられ、本当の意味の挿入での快感を知った。

田倉は自分本位の性格も垣間見せ、奈津子を半分無視するかのよう
に、圧倒的な力で荒々しく出没運動を繰り返すこともあった。性交
時の殆どのが自分主体であり、奈津子の身体を使って本意をと遂げ
るやり方だった。しかし、夫しか知らない奈津子は、田倉の逞しい
男根に貫かれ、快楽のうねりの中で、男に支配される悦びに咽び泣
くのである。

田倉の激しい交わりに比べ、沼田はまったく違った。年齢的にも精
力の衰えを隠せない沼田は、体を合わせること以前に、奈津子の体
を愛撫することに心血を注ぐ。服は直ぐには脱がせず、少しずつ肌
を見せたところから、掌と指と唇、そして舌を使って丹念に愛撫し
ていくのである。奈津子にとって、全身が沼田の唾液で濡らされて
いくことに、吐き気を催す程の嫌悪感が、当初はあった。

そして、どんなに哀願されても、情事の前は決してシャワーを浴び
させない。その上で、奈津子の全身を隈無く舐めていくのである。
うなじから脇の下、脇腹、腰回り、太股、膨ら脛、そして足の指へ
と続き、その指は一本一本丹念にしゃぶる。そうしてまた、唇を押
し当てたまま上っていく。手の指も、分厚い唇にスッポリ咥えてい
くのである。

仰向けにさせた奈津子に膝を抱かせ、女の泉を押し開き、目でしっ
かり楽しんでから、むせ返るような性臭を放つ淫唇を、そして陰毛
までも唾液まみれにしていく。大陰唇を引っ張り、小陰唇を押し広
げ、アワビのような内部を唇と舌で味わい尽くし、膣口に舌を滑り
込ませ、愛液を吸う音を聞かせる。太く短い両腕を延ばし、乳房を
弄びながら、タラコ唇を蛭のようにピタリと押し当て、奈津子の体
が弓のように反り返り、弛緩するまで続けていくのである。

今度は俯せにさせ、絶頂を味わった女体の曲線美にため息を吐き、
ムッチリと盛り上がった剥き卵に生唾を呑み込む。その翳りを見せ
る深い切れ込みの、本能的に閉じようとする筋肉を、思い切り押し
開き、シャワーも使わせていない、ひっそりと息づく菊の蕾を露わ
にさせる。

女の体は様々な匂いを発散させる。手、足、脇の下、口、花弁、そ
して菊座は最たる箇所だ。沼田の最終目的はそこであった。奈津子
を初めて見たときから、思い切りそこを責めてみたいと思った。ピ
ッチリと閉じ合わさったそこは思った以上に綺麗な形をしている。
薄い墨をペタリと貼り付けたような、その周りのシワを伸ばしなが
ら丹念に舐めていく。

あまりの羞恥で身悶えする姿に興奮を抑えられない。そして、核心
を指で広げて、嗅いだ匂いを伝えると、髪を振って号泣する。更に
そこを舌先でこじる様にしてやる。ヒィ、ヒィと喉を鳴らす奈津子
の可愛い声を聞きながら、もっと開いて、舌先を窄め、そこをこじ
開けていく。括約筋が柔らかく開花したところで、舌腹で、ベロベ
ロと舐めてやる。シーツを握りしめ耐える、人妻の尻の中に顔を埋
めたまま、窒息してもかまわない、と思う時間である。

最近では更にそこでの快感を得ようとし、内部も舐めて欲しいがた
めに、排便のときのように、グッと力み、括約筋を押し開く事さえ
するようになったでのある。恐らく、無意識に行っているのだろう
が、沼田はそんな奈津子が愛おしかった。

その後、少し異形の分身をたっぷりしゃぶらせた後、仰向けになっ
た上に、奈津子を乗せ上げる。正常位では突き出た腹が邪魔をし、
深く交わることが出来ないので、奈津子の騎馬上位の体位で交わる
ことが多い。自分は疲れるので、奈津子に腰を使わせる。菊座で感
じるようになったことを揶揄し、だが、頬を染めながらでも腰を使
う、奈津子の小振りな胸を、ブヨブヨした指で柔らかく揉みほぐす
のである。

そうして、下から、艶々の体を見上げながら、しばらく性交に没頭
する。人の妻の膣で、分身をこね回される、この上ない至福の時で
ある。危うくなると、目を瞑り腰を捻り喘ぐ奈津子を、腹の上から
邪険に下ろしてしまう。ムッチリとした太股を両手で抱きかかえ、
たった今まで己を咥え込んでいた、溶かしたバターのように熱く潤
んでいるその部分を、再び舐めまくるのである。

次に明るい部屋の中、四つん這いにさせられ、再び菊座を責められ
る。ひとしきり舐められ後、今度は指先の挿入がある。最初は先っ
ぽだけ入れられ、括約筋を揉みほぐすように小刻みに動かす。やが
て指先が縫うように入ってくる。

ハゥ!っと、激しい息を吐く声を聞き、、ビクッと体を震わせる瞬
間が堪らない。強く押し戻す力に、沼田はだらしなく口を開き、強
い反発に逆らいながら、潜らせていく。指で得る、直腸内の襞の感
触は、非日常的であり、真の官能であると、沼田は思っている。指
を全部入れた後は、ゆっくりと動かし始め、人妻の腸内の構造を確
認するのである。

唇を震わせ、止めてくれるよう、泣きながら哀願する奈津子である
が、沼田はそれが嘘であることは分かっていた。

「違うだろ奥さん。本当はもっとウンチ穴をこうして欲しいんだろう」
既に、指は付け根まで入っているが、力を込め、更に深く入れてよ
うとする。
「ち、ちが・・あっ、あぁぁ!・・・」
奈津子は足の指を小さく丸め、息も絶え絶えに声を上げる。

「何が違うだ。マンコの中はこんなにヌルヌルしてるじゃないか。
あーあ、毛までべちょべちょにしやがって」
更に、膣の中に2本の指を揃えて挿入する。
「あうっ、だ、だめぇ・・ヒィ・・」
2穴の中で、予測不可能な指の動きに、奈津子は喉を鳴らし悶絶し
た。

そして、抜いたり、入れたりの、責めを、繰返し受け、奈津子は幾
度もオルガスムスを訴えるのである。

初めはそんなことは決して無いと、言い張っていた奈津子だったが、
舌で舐められるよりも、指を深く入れ、内部をまさぐられる方が感
じると、沼田のあまりしつこい問いかけに、奈津子は泣きながらそ
う答えたのである。

そんな訳で、勝ち誇った沼田は、何度か肛交に挑むが、やはり痛が
り、どうしても受け入れることが出来ず、まだ未遂に終わっている。
沼田は、いつかは、この可愛い人妻の直腸に、精液を注ぎ込みたい
と思っている。

ほぼ毎日奈津子を呼び出しては、熟した肉体を堪能しているのであ
る。カルチャーセンターに行くと、家族に嘘をつくよう指示したの
は言うまでもない。エアロビクスにしたのは、レオタード姿の奈津
子と交わるためであることも言うまでもない。

金がかかるのでホテルは使わず、自分のマンションへ呼びつけ、休
みの日などは殆ど一日中籠もっている。

そんな訳で、夫の義雄は疑惑を深めていくのは当然である。そのこ
とを言っても全く意に返さない沼田であった。会社でも嫌われ、友
人もいなく、結婚も出来ず、生涯独り身の人生への悲観などで、半
分自棄になっている。不倫が発覚しても守るべき対象もない。いっ
そ全てを精算し、奈津子と人生を共にしたいなどと、本気で考えて
いるのであった。





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不貞の代償19
信定 10/12(木) 22:38:13 No.20061012223813 削除
石橋から聞いた、田倉と奈津子の不倫の件で、人事にそのことをち
くって、田倉の排除を考えていた。しかし、写真で見た奈津子が自
分の好みのタイプであったのと、実際に奈津子の家にまで行き、実
物を見て考えは変わった。不倫の痕跡すら見せぬ、清楚な雰囲気の
奈津子に生唾を呑み込んだのである。更にその娘が驚くべき美少女
であることも引き金になった。こんな美少女を生んだ母親を我が物
にしたい。沼田はどす黒い欲望に支配されていった。

若い頃から太っていて背の低い、醜い顔をした沼田は、女性には全
く縁がなかった。今までも好きになった女性は何人もいるが、自分
を好きになってくれることなど、決して有り得ないと思っている沼
田は、声すらかけたことも無かった。

そして沼田は勉強に没頭したのだ。残った道はそれしかないと悟っ
たのである。念願の一流大学に合格し、この会社に入った。それで
も女には全く縁がなかった。人から疎まれる人生を歩み、心が歪ん
でいった沼田は、地位が上がるにつれ、セクハラまがいのことを平
気でするような男に成り下がったのである。

そして勉強が出来るという自負はあったが、真の実力の世界では全
く活かすことが出来ず、己の能力の無さを棚に上げ、出世していく
他人を妬むことしか出来ない人間になった。正に、上にへつらうこ
とのみで、課長となったのである。企業では往々にして、こういっ
た事実は平然と存在する。

そして、社会人になって覚えた、夜の世界にどっぷり浸る毎日を繰
り返していたのである。女は、金さえ出せば自分を愛していくれる
事を学んだのだ。

沼田は朝、家族が出払った頃を見計らい、奈津子の家に電話をした。
電話の向うで、驚愕しているであろう、奈津子の顔を想像し、ゾク
ゾクした。そして、ホテルに呼び出し、絶望に喘ぐ人妻を蹂躙し、
興奮で狂う自分に酔ったのである。

「偶然ね、買い物に出かけた先で、佐伯夫妻に会いましたよ」
社食で昼食を取っている田倉の前に、断りもなしに沼田が座る。顔
を上げる田倉に、
「佐伯君達は本当に仲が良いねぇ。それに、奥さんがあんなに可愛
い人だとは思わなかった」
「ほう、そうですか」
一瞬、泳いだ視線は沼田は見逃さない。動揺を隠せない田倉に、胸
の空く思いであった。
「奥さんともお話したが、いやぁ、あんな控え目で優しげな女性に
は、最近は、とんとお目にかかれませんな。佐伯君もあれでなかな
か隅に置けませんよ。あんな可愛い奥さんとなら毎・・・あいや失
礼。私もあんな女性を嫁にしたいもんですなぁ。ははは・・・」
顔色の変わる田倉を無視し、
「部長もご存じですかな?奈津子さん」
「奈津子さん、と言うのですか、いや、知りませんね」
目尻を微かにビクッと震わせた田倉が答える。
「そうですか、知りませんか。直属の部下なので、知っているか
と思いましたが」
僅かに顔をしかめる田倉を横目に続けた。

「実は私その時、財布を忘れてしまって、恥ずかしながら佐伯君に
借りたんですわ。奈津子さんが、直ぐにバッグから財布を出してく
れましてな。その後、仕事でたまたま、そっちへ行く用事があった
もんで、お金を返すのと、礼を言いがてら訪ねました。そしたら、
なんと、食事をご馳走になってしまいまして。家に上がり込んで。
あいや、昼時は失礼でしたな」
田倉が弾けるように顔を上げた。

「ん、何?あ、やはり、昼時はまずかったですかな?」
「あ、いや、そんなことはありまん」
とぼける沼田に、田倉は慌てた様子で言った。
「脅かさないでください。いきなり顔を上げたので、びっくりしま
した」

これほどまでに動揺するとは思っていなかった沼田は、実に痛快だ
った。奈津子が、未だに田倉を忘れられないでいることは知ってい
る。それ以上に田倉もそうだと再確認した。

交わっている最中、田倉の話をすると、膣の収縮に現れる。無意識
だろうがな。可愛い女だ。

田倉のために、そして、家族に知られないため、体を開くのだ。だ
からわざと田倉や佐伯の話をしながらするのである。言葉で嬲りな
がら、啜り泣く奈津子と交わることが常であった。叩きのめすため
には、まだまだ田倉には追い打ちをかけなくてはならない。

数週間後、沼田が田倉の部長室へ入ってきた。折り入って相談があ
るんだが、と、沼田は深刻そうな顔を見せた。小声で言う沼田の声
は秘書の下村沙也加の耳にも入る。いったい何の相談なのだろう。
他人事ながら気になった。

帰り際、自分を舐めるように見つめる沼田の視線を感じた。いやら
しい男の視線は慣れっこで、特別感情はない。それよりも動揺する
田倉の方が気がかりだった。

やはり田倉は、奈津子とはずっと逢っていないようだ。察すると、
会えない状態と言った方が良いのかもしれない。

理由は分からないが、正直なところホッとしている。将来の破綻は
目に見えているからだ。当の本人らも勿論だが、何より、夫の佐伯
係長、田倉部長の娘さんの万里亜ちゃん、その家族全員を不幸に陥
れるのだ。そんなことは本人達は分かってしていることだ。本人達
が苦しむのは仕方がない。

田倉の妻になりたいと願ったこともある。勿論今では諦めているが、
年下のボーイフレンドに抱かれながら、田倉のことを思い、淫らな
気分になることはしばしばある。未だ思いを寄せる田倉の表情をそ
っと伺った。



別れた妻 14
七塚 10/12(木) 18:17:14 No.20061012181714 削除

「・・・その日、すべてが終わった後で、木崎は今さらのように獣から人間の顔になって、泣きじゃくる私を慰めたり、『昔からずっと好きだったんだ』と言い訳を始めたりしました。私は頭の中が真っ白になっていて、ただただ明日あなたが帰ってきたとき、なんと言えばいいのかと、そればかり思っていました」
「何も言い繕う必要はなかった。嘘をつくことも謝ることもしなくてよかった。ただ事実そのままを教えてくれればよかったんだ」
 時雄は呻くように言った。もしそうしていたら―――という言葉はかろうじて飲み込んだ。
「事実を聞いて俺が君への態度を変えるとでも、思っていたのか。そんなに俺を信じられなかったのか」
 そう言って、時雄はため息をついた。
「・・・俺は残酷なことを言っているかい」
 千鶴はにこりと哀しく笑った。
「いえ。そうすれば―――よかったんですね。でも、私には出来なかったんです。あなたは木崎を昔からすごく嫌っていた。私はその木崎に」
 犯されたんです、と千鶴は言った。
 時雄は絶句した。

「呆然として人形のようになっている私に、木崎は再三言葉をかけましたが、私があまりに無反応なので、そのうち癇癪を起こしはじめました」

『今日俺との間にあったこと、旦那に言うのなら言え』
『俺は何も怖くない。失くすものがないからな』
『もし旦那にばれて失うものがあるとすれば、それはお前のほうだぞ』
 木崎はそんな月並みな捨てゼリフを残して、その日は去っていったのだという。
 そして一日、二日と日は経った。千鶴は悩んだ末、帰宅した時雄に結局何も告げることなく、木崎との出来事をひとり胸に閉まって洩らさなかった。
 時雄も妻の微妙な変化にまったく気づかなかった。
 千鶴の小心と時雄の迂闊さは、木崎のような人間にとっては格好の獲物だった。いくら日にちが過ぎても時雄からの反応がないことで、千鶴が時雄に何も告げなかったことを知った木崎は調子づいた。
 再び木崎からの電話がかかってきたとき、千鶴の心臓は凍りついた。その頃の千鶴にとって木崎は心の傷、憎むべき男以外の何者でもなかった。
 犯されてからの日々で溜まりに溜まったストレスを吐き出すように、千鶴は最初、泣きじゃくりながら電話口で木崎を激しくなじったらしい。木崎はそれを黙って聞いていたようだが、やがて
『旦那には何も言わなかったようだな』
 と、言った。
 図星を指されて千鶴は思わず絶句したという。
『それがいい。あいつはひとの過ちを簡単に許せるような人間じゃないからな。たとえどんな言い訳をしようが、俺に犯されたと聞いたら、お前は即刻その家から叩き出されるぞ』
 まさか、そうなりたくはないよなあ―――
 時雄の耳に木崎のあの厭らしい声が響いた。  



 



不貞の代償18
信定 10/11(水) 21:04:12 No.20061011210412 削除
「お、意外と早かったな」
と沼田は腕時計を覗き込む。
「どうだ、ババアの割りには、なかなか良い体しているだろう」
細い目を更に細くして、上唇を捲れ返し、ニヤリと笑う。が、目が
笑っていないことに気付き、石橋はまたしてもゾッとした。石橋は
息が上がっていることを知られたくないので、口を開かなかった。

それにしても、酷いことを言いやがる。

さて、と、掛け声を発し、沼田は両手で膝を叩き、イカのくん製を
口に咥えたまま立ち上がった。
「酒や食い物が足りなければ冷蔵庫を漁ってくれて結構だぞ。佐伯
の女房にいろいろ買わせてあるから」
奈津子がいる部屋に入る前、醜く相好を崩し、こちらを振り返った
沼田と目が合った。
「ま、ゆっくりしていてくれ」
真っ黄色の前歯を全部見せて笑う沼田から顔を背けた。

あんな言い方をするか!奈津子が聞いていたらどう思うだろう。わ
ざと聞かせるために言ったのかもしれない。

チラチラとドアに視線を送り、奈津子の体を思い出す。まるで夢の
ような出来事だった。瞼を閉じると、クライマックスで、背を丸め
るようにして、石橋の腰に自分の腰を押し当て、決して抜かせまい
と、淫らに律動させる、奈津子の腰の動きを思い出していた。陰毛
と陰毛の擦れる音が耳朶によみがえる。

石橋は目を見開いた。自分の息づかいが荒いことに気付いたからだ。
久しぶりに大量の精液を放出した後、キスを求めたが、顔を背けら
れ、ごめんなさい、と呟く奈津子に拒否された途端、急に、そこに
いることに強い罪悪感と恥ずかしさを感じ、逃げるように出てきて
しまった。出るときにチラッと後ろを振り向いたが、奈津子は脱が
された服を掻き集め、白い背を見せていた。

思考能力は殆ど停止していた。全てが現実の出来事とは思えなかっ
た。柿の種をカリカリとかみ砕きながら、奈津子がいる部屋のドア
を見つめていた。柿の種5粒と南京豆1つの割合がいい。皿にばら
まかれた柿の種に手を伸ばし、そんなことを思いながら、几帳面に
摘み上げる。やっぱりもう2、3粒南京豆を拾った方がいいな。ポ
リポリと咬みながら、最善の割合を発見した喜びを味わったところ
で気がついた。

俺は何をやっているんだ、こんなところで・・・

その時、微かに女の声が聞こえた。勿論奈津子の声だ。吐息のよう
な、または悲鳴のような声だ。水割りのグラスを口に付けていた石
橋はハッとしてドアを見た。耳を澄ましても、意外と中の音が聞こ
えないことが分かった。急にドアの中が気になり、そわそわし始め
る。中には奈津子と沼田がいる。何をしているのかも分かっている。
瞬く間に現実に引き戻された石橋は、居ても立ってもいられなくな
った。

散々躊躇した挙げ句、忍び足で沼田の消えたドアの前に向かう。そ
の前で誰もいないのに周りを見回し、恐る恐る耳をそっとドアに押
し付けた。

・・だめぇ・・・そこ・・・
途切れ途切れで奈津子の声が聞こえた。
・・四つん・・・高く・・・
沼田のガラガラ声も意外と聞き取りにくい。
・・ヒィ・・・
奈津子の喉を絞るような悲鳴が聞こえた。
・・もっとだ・・・おちょぼ・・・
・・あ・・・いやぁ・・・

沼田の奴、いったい何をやっているんだ!

石橋は息を止めて耳に集中した。その後は奈津子の、途切れ途切れ
の啜り泣くような、もしくは悲鳴のような声がしばらく続く。突然
ドンと音がしたので、腰を抜かしそうになった石橋は、慌ててソフ
ァーに戻った。

落ち着きを無くした石橋は、グラスにドボドボとウィスキーを入れ
る。目の焦点が合っていない。グラスから溢れたウィスキーでズボ
ンを濡らしていることに気付くのが遅れて、慌てて飛び退いた。

自分の時は声一つ上げなかったのに、沼田にはあんな声をあげてい
る。脅迫され無理矢理のはずなのに。顔に似合わず女を悦ばすテク
ニックがあるのか。でもこんなこと、犯罪じゃないか。石橋は頭を
抱え込んだ。

表沙汰にすることは、自分も共犯になることは間違いない。沼田も
石橋も今の生活基盤を失うことは絶望しかない。沼田はそこまで考
えて、奈津子を抱かせたのだろう。自分が表沙汰にすることなど、
出来るはずもないことは、初めから分かっていたのだ。老獪な沼田
は、自分を仲間に引き入れたのだ。そのことに、石橋は愕然と気付
く。

キッチンの横にある冷蔵を開けた。中は驚くほど綺麗に整頓されて
いた。食料も十分に保管してある。『前は酷かったが』と、室内が
整頓されていることを聞いたとき、沼田はそう言った。奈津子に掃
除婦のような真似をさせているにきまっている。

部屋の中を掃除し、キッチンに立ち、沼田のために料理する、奈津
子の姿を想像し、胸が苦しくなった。エプロンを着け、キッチンに
立つ奈津子の後ろ姿に欲情した沼田が、後ろから抱きつくこともあ
ったに違いない。

スカートを捲り上げ、ショーツを引き下ろし、奈津子の腰にへばり
つき、毛むくじゃらの、醜い下半身を押しつけて、勃起した薄汚い
それを、茹で卵のようなヒップの中に埋め込み、バックスタイルで
交わったとき、奈津子がそうしたと思われる、キッチンの台に両手
を突いて、石橋は強く目を瞑った。

自分の妄想に苛立ち、髪の毛を掻きむしった。いや、妄想なんかじ
ゃない!

あん・・あん・・あぁん・・あはぁん・・
再びドアに貼り付けた石橋の耳に、奈津子の舌足らずの悶え声が聞
こえた。大学時代思いを馳せた、あの奈津子の声とはとても思えな
かった。口を塞がれたような、くぐもる声もする。タラコのような
沼田の唇が、奈津子の唇を塞いでいる絵を想像し、叫びたい衝動に
駆られた。



別れた妻 13
七塚 10/11(水) 20:55:49 No.20061011205549 削除

 そして―――
 千鶴は昔語りを始めた。
 今まで決して彼女の口から語られることのなかった、あのときのことを。

「大学の美術サークルの同窓会がすべての始まりだったんです―――」

「同窓会のあった七年前のあの日、私はお友達の金谷エミさんと一緒に会場のお店に出かけることになっていました。覚えていますか?」
「覚えているよ。俺は仕事でいけなかったが、その話は君から聞いた」
 時雄が答えると、千鶴はこくりとうなずいた。
「そうでした。でも実際は違ったんです。私はその日、同窓会へ出席しなかったんです」
「なぜ・・・・」
「あの日、あなたがお仕事に出かけてからしばらくして、電話がかかってきたんです。木崎からでした」
 『木崎』の名前を聞いた瞬間、時雄の胸はざわめいた。
「木崎は同窓会を主催していた幹事の田村さんに聞いて、私たちの連絡先やあなたが当日欠席することなどを知ったらしいのです。そして、あなたがいないのなら、自分が代わりに会場まで送っていこうかと誘ってきました。私が『金谷さんといっしょに電車で行くことになっている』と断ると、『それなら二人まとめて車で送っていこう』、と言われました。それ以上断る理由もなくて、私はその申し出を受けてしまいました。それが間違いでした」
「・・・・・・・」
「木崎は予定の時刻より、かなり早めに私たちのあの家へやってきたのです。『金谷さんはまだ来ていません』と言うと、『それなら家の中で待たせてくれ』と言われました。あなたが大学時代から木崎を嫌っていたことは知っていましたし、私自身正直言って苦手なタイプでしたけれども、気の弱い私は面と向かってその申し出をはねつけることも出来ませんでした。結局、私は木崎を家にあげてしまったのです。そして」
 細く白い喉がこくっと動くのが見えた。
 千鶴がその先に何を言おうとしているのか、時雄はすでに分かっていた。
「木崎に襲われたのか・・・」
 呟いた声はかすれていた。
 千鶴は答えなかった。ただ、震えていた。
「私は馬鹿でした。油断があったんです。好きなひとではなかったし、学生時代に彼から自分がどう見られていたかも知っていましたけれど、その頃にはもう何年も時が経っていて、私はすでにあなたの妻でした。だから―――何も危険なことはないと、そう思っていたんです」
 千鶴はすっと瞳を閉じた。
「木崎に襲われて・・・犯されているときに、何度も何度も玄関のチャイムが鳴りました。あれは間違いなく金谷さんだったのでしょうけれども、そのときの私はなぜかあなたが助けに来てくれたと思いました。夢中になってあなたの名前を読んだことを覚えています」
「俺はそのとき出張で仙台にいた・・・」
 言わずともいいことを、時雄は言った。限りなく絶望的な声で。
「そうですね・・・」
 千鶴はうつむき、短くそう答えた。



不貞の代償17
信定 10/10(火) 21:02:15 No.20061010210215 削除
沼田に指示された奈津子は、驚く顔の石橋の腕を突然取って、強引
に別室へ誘い入れたのである。ドアが閉まる寸前、振り返ると、唇
を捲り返し、水割りを舐めながら、ニタッとした沼田の顔を見た。

「ベッドに寝てください」
二人っきりになると、顔を伏せたまま奈津子は言った。唖然として
突っ立ったままの石橋を、奈津子は突然正面から抱き締めた。アッ
と声を上げた石橋は、奈津子の身体を自然と両手で抱く形になる。
そのままベッドへと倒れ込んだ。奈津子の柔らかい体と、芳しい体
臭で頭がクラクラする。

ベッドの上で石橋は放心状態だった。そこに仰向けにさせられた上、
奈津子が、石橋の股の間に座ってズボンのベルトを解いている。奈
津子の白い指はチャックを下ろしていた。

「し、進藤・・さん・・・」
奈津子の信じられない行為に石橋は上擦った声を出す。そんな石橋
を奈津子はチラッと見上げ、か細い声で言う。
「ごめんなさい・・・」
奈津子の頬は赤く染まっている。

しかし、奈津子の手は石橋の物を掴みだしていた。石橋はアッと声
を上げ、腰をずらし上に逃げようとするが、すり寄った奈津子が、
既に興奮したそれを握り締めて離さない。

それを掴んだ奈津子の目が、少し見開いたのを見た。どういうこと
だ。大きさか?

買った女からは「まあ、大きい」と言われたことはあるが、それは
あくまで、社交辞令であることは承知している。

そうして奈津子は、シャワーも浴びてない、握ったそれに、いきな
り唇を被せて来たのである。石橋はヒィと喉を鳴らし、腰を浮かせ
てしまう。

ペロペロと舐める奈津子の舌の動きに、石橋はうめき声を上げてい
た。睾丸から、裏筋に沿って、先端までくる。そのまま、根本を扱
きながら、唾液をたっぷり塗した唇を強く押し当て、亀頭の回りを
巡る。そして、先端から呑み込んでいく。田倉に教わった手順であ
る。これには沼田も声をうわずらせ悦んだ。奈津子の舌技に石橋は、
足の指を縮ませ、身悶えしていた。

奈津子はアッと声を上げた。石橋が不意に起きあがったのだ。
「進藤さんっ」
石橋は奈津子に挑みかかった。興奮が頂点に達したのである。殆ど
抵抗もしない奈津子の服を脱がせにいく。初めて抱擁した柔らかい
体と、石鹸の香りに等しい体臭、そして、奈津子には相応しくない、
ムッチリとした太股を露わにしたミニスカートに、石橋は生唾を呑
み込んだ。

慌てていてなかなか脱がすことが出来ない石橋は、服の上から荒々
しく胸を揉み、スカートを捲り上げる。。正に、掌にヒタッと吸い
付く、しっとりと汗ばむ奈津子の太股にますます興奮し、ショーツ
の中に手を入れると、そこは微かに濡れていた。

「優しくして下さい・・・」
顔を横に向け、頬を染め、唇を振るわせて言った。

「す、すみません」
消え入りそうな奈津子の声に、ズブリと入れていた指を慌てて抜い
たのである。

「あの、これ、お願いします」
その濡れた指を見つめ、奈津子の、生暖かい膣の感触に興奮してい
た石橋に、いつの間にかコンドームを手渡されていた。

装着した石橋は再び奈津子を抱き締め、今度はそこを優しく愛撫し
た。奈津子は唇を噛みしめ、じっと耐えるよう横を向いている。ブ
ラジャーを外すと、真っ白な乳房がポロリと現れた。小振りだが、
お椀型の綺麗な形をしている。乳輪は僅かに黒ずんでいるが、決し
て汚くはない。葡萄色の乳首はピンと尖って、欲情をそそる良い形
をしている。石橋は即座にそこにむしゃぶりついた。

ショーツの中に手を入れ花弁を愛撫し、乳首を口の中で転がしてい
るうち、余裕が出てきた。クリトリスも探り当てることも出来た。
今度は奈津子の全てを見ようと、体を下にズラしていったが、石橋
を抱く奈津子の両手に力が入った。恥ずかしいんだな、と思い、な
ぜか嬉しい気分になった。再び愛撫に没頭する。奈津子の手が、石
橋の髪を優しく撫でる。束の間の幸せを味わう。

そして、ショーツを下ろし、足首から抜き去る。ミニスカートは腰
まで捲ったままだ。その方が興奮するからだ。もはや、スカートの
役目は果たしていない。

繋がる時、奈津子はウッと声をあげた。ギュッと石橋を掴むような
、その締まりの良さに舌を巻いた。石橋は比較的余裕で腰を使い始
めるが、やはり、憧れの奈津子との交わることが出来たことで、あ
っという間に射精感を募らせるのであった。

運動を止めようとした時、奈津子が下から腰を動かし始めたのであ
る。奈津子は石橋の頭部を抱き締めていた。石橋は奈津子の白いう
なじに唇を押し当て、奈津子の行為に驚きながら、射精を必死で耐
えていた。腰を引こうとするが、奈津子が両足で石橋の腰を抱いて
いるので無理だった。

そして、「あ、あ・・」と情けない声をあげ、我慢に我慢を重ねた
石橋は、ドッと精液を吐き出したのである。奈津子のそこは初めて
挿入したときと同じようにキュッと締め付けてきた。石橋は腰から
根こそぎ何もかも持って行かれるような、天にも昇るような快感の
中で、奈津子が故意にそこを収縮させていることを知った。

精液を絞りきり、やがて気怠い感覚に身が包まれる。全体重をかけ
ないよう、注意しながら、良い香りを放つ、奈津子の小さめの耳を
しゃぶった。マシュマロのように耳朶が柔らかい。

おおよその見当はついた。石橋から聞いた、田倉と奈津子の不倫の
件で、沼田が奈津子を脅迫したに違いない。そして、奈津子と肉体
関係を迫ったのだ。沼田がここまで卑劣な男とは思わなかった。沼
田のような男に体を開いたわけだ・・・とすると、田倉との不倫は
紛れもない事実とうことだ。奈津子を妻に迎えた佐伯義雄に完全な
敗北感を味わった。そして、沼田にも先を超された。田倉にもか。
と言っても、石橋は脅迫まがいのことをするつもりもなかったのだ
が、あまりの悔しさに涙がにじむ。

沼田のこんな淫猥な命令にすんなり従っている。奈津子がここにい
るのも、沼田との関係が既に深いことを物語っていた。沼田と奈津
子の関係は相当進んでいる訳だ。

こうなったのも、自分の言動からだ。あまりな軽率な自分に悲しく
なった。



別れた妻 12
七塚 10/10(火) 20:19:55 No.20061010201955 削除

(いったい俺は何をやってるんだ)
 浴室を出た時雄はリビングのソファに腰を下ろしながら、ひとり自己嫌悪に陥っていた。
 千鶴はもう時雄の妻ではない。遠い昔に別れた女だ。
 だが、時雄は現在の彼女の夫である木崎を殴り倒し、あまつさえ彼女を店から連れ去って自宅へ連れてきた。ほとんど衝動的な行動だった。
 木崎の悪行を目にしたという事実を知らなければ、誰が見たって時雄のほうこそ異常な人間に思えることだろう。
 嫉妬に狂った元夫の蛮行―――。
 そうではない、とは時雄自身にも完全に言い切れない。だから余計に始末がわるい。
 過ぎ去った七年の月日は、あまりにも重かった。
 いつの間にか七年前よりもさらに深い泥沼へ入り込んでしまった自分を時雄は自覚した。
(そうじゃない。自分から飛び込んだのだ)
 千鶴を救いたいという熱い想いは真実だった。だが、そこに愛憎の根が絡みつくと、もう平静ではいられない。純粋な気持ちは失せ、どろどろしたエゴと後ろめたさが顔を出す。
 そんなつもりではなかったのに―――。
 ふと気配を感じて振り返ると、千鶴が立っていた。湯上りの身体に来たときの服を身に着けている。肩まである濡れた黒髪が艶やかだった。
 千鶴は赤く腫れた瞳を伏せながら、ゆっくりと近づいてきて時雄の正面に座った。
 気まずい雰囲気がふたりの間に流れた。
「さっきは・・・わるかった」
 時雄から、そう切り出した。
「ついイライラとしてあんなことを言ってしまった。すまない。本当に後悔している」
 千鶴は黙ってうつむいている。折れそうなほど細い頸がやけに弱々しく見えた。
「俺はこんな人間だ・・・カッとなると見境がなくなって、エゴが丸出しになってしまう。それがよく分かった。だから―――七年前、君に愛想尽かしされて出て行かれたのも、今となっては当たり前のことのように思う」
 うなだれた千鶴の肩がぴくりと動いた。
「だから過去のことはもういい。俺は―――現在の君を救いたい」
 迷いを振り切るように、時雄はきっぱりと言った。
「以前、俺が君に『幸せなのか』と尋ねたとき、君は『幸せだ』と答えた。あれは真実なのか? 俺にはとてもそうは思えない」
 千鶴は顔を上げた。腫れぼったい瞳が時雄を見た。
 朱い唇が震えるように動いた。
「その前に言わせてください。私があなたのもとを出て行ったのは、すべて私に責任があることです。あなたは何もわるくない。そんなふうには考えないで欲しい」
 胸の奥から絞り出すような声だった。
「わるいのは、本当にエゴイストだったのは私なんです」
「過去のことはもういい」
「よくはありません。ごめんなさい、私にこんなことを言う資格はないけど、あなたが仰ったように謝るのは卑怯だというのも分かるけれど、それでも私はあなたに謝らなくてはいけないんです。七年前も、その後も、そして今もあなたには迷惑ばかりかけてしまいました。本当にすみません」
 千鶴はそう言って、床に手をつき、深々と頭を下げた。
 時雄は何も言えなかった。黙って千鶴のそんな様子を見ているのも忍びなく、時雄は立ち上がって意味もなく窓際へ寄った。
 窓から見える街は―――いつもの夜の街だった。人間たちの織り成すどんな悲劇もどんな喜劇も飲み込んで、街はいつも変わらない。

「あのとき―――」

 背後から千鶴の声が聞こえた。
「私は嘘をつきました。あなたの仰るとおり、私は今、幸せではありません。七年前のあのときから、私が幸せだったことは一度としてありません。でも―――それでいいんです。悲劇のヒロインを気取っているわけではありませんが、今の私は堕ちるところまで堕ちてしまいました。それもこれもすべて私の心の弱さのせいです。私にはもう幸せになる資格も、あなたに助けてもらう資格もありません。本当にそう思っています」
 時雄は思わず振り向いた。千鶴は立ち上がってまっすぐに時雄を見ていた。長く見なかった凛とした瞳で。
「だけど・・・あなたと再会して、今の汚れてしまった自分を見られて・・・私は恥ずかしかったけれど、それ以上にとても嬉しかった。変わらないあなたと会えて嬉しかった。こんな気持ちは我がままだと分かっています。だけど、どんな形であれ、あなたの心の中にまだ私が残っていたことが嬉しかったんです。だから、さっきお風呂場であなたが仰ったことは、本当に心に突き刺さりました」
「あれは」
「いいんです。すべて真実のことですから。やっと分かりました。私があなたに何も語らなかったのは傷つくのが怖かったからです。嫌われても憎まれてもいい、ただこれ以上軽蔑されたくはなかった。堕ちるところまで堕ちて何をいまさらと思われるかもしれませんが、本当のことを話してあなたに軽蔑されるのが怖かったんです」
 千鶴の瞳に涙の珠がみるみるうちに盛りあがり、やがて溢れた。



別れた妻 11
七塚 10/9(月) 20:32:12 No.20061009203212 削除

 風呂に入ると、酷使した肢体が緩んだ。
 ひどい一日だった。
 時雄の人生における最初の大きな波乱が千鶴との離婚だったとしたら、今日は二度目の波乱だった。
 何のことはない、どちらも千鶴がらみだ。
 これから先、ふたりがどうなるかは分からない。今の時雄は千鶴とは赤の他人である。
 それでも彼女と関わることをやめられない。
 将来、自分が年をとり、過去のことを思い返すとき、自分はいったい千鶴のことをどのように思い返すのか。
 そんなことをふと時雄は考えた。それは痛みを伴う想像だった。
 不意にバスルームの戸が開いた。
 振り向くと、裸の千鶴が立っていた。
 時雄はなぜかどぎまぎした。見てはいけないものを見てしまった気がした。
「どうした?」
 やっと、それだけ言った。
「いえ・・・」
 何が「いえ・・・」なのか分からないが、千鶴はそれだけ言って、無言で浴室へ入ってきた。耳まで赤くなっていた。
 台の上にしゃがみこんで、千鶴はシャワーを使い始めた。
 その裸の背中を時雄はちらちらと眺めた。
 この前、再会したときは随分痩せたと思い、それはたしかにそうなのだが、いま時雄のほうを向いている千鶴の裸の尻は、昔と比べてずいぶん豊かになったと思う。昔はもっと少女めいた身体つきをしていた。
 そういえば、乳房もかなり大きくなったようだ。
 自分の知らないうちに―――
 時雄は木崎のことを考えた。そして自分が顔も知らないような、大勢の男たちのことを考えた。
 この七年のうちに千鶴の身体の上を通り過ぎたであろう、大勢の男たちのことを。
「―――出る」
 むくむくと湧き上がってきた不快な気持ちを振り払うように、時雄は短く言って、風呂から出ようとした。
「待ってください」
 千鶴が振り向いた。浴室の光に照らし出され、白い肌が光沢を放っている。細い上半身に、そこだけ豊かに張り出した乳房から滴り落ちる水の粒が、妙に生々しかった。
 時雄はぞくっとするような欲望と殺気に似た想いを同時に抱いた。
「・・・お背中を流します」
「いや、いい」
「でも・・・」
 すがるような瞳で見つめてくる千鶴の顔。
 その顔を見つめ返しながら、時雄は自分を抑えられなくなった。
「いいかげんにしてくれ。理由を問われても何一つ満足に答えられないからといって、今度は色仕掛けで俺を誤魔化そうとする気か」
 千鶴の大きな二重まぶたがいっそう大きく見開かれた。あまりのショックに呆然となっているように見えた。
「君も変わったな。客商売をやるうちに男扱いが巧くなったのか。そうやって男の前で身体を晒して気を惹けば、最後にはどうにか辻褄を合わせられるとでも思っているのか。馬鹿にするな」
「違います! 私はそんな」
「そんな女じゃないとでも言うのか。自分の今までやってきたことを考えてみろ。金をもらって、知らない男に言われるままに、股を開いてきたんだろう。昔の君からは想像も出来ない。今の君は身体も心も汚れきっている」
 一息にそれだけ言って、時雄は浴室から出て行った。
 ぴしゃりと締めた戸の向こうから、千鶴の号泣が聞こえる。
 時雄自身、自らの言葉に深く傷ついていた。傷つきながら、さらに傷口を広げるようなまねしか出来なかった。





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別れた妻 10
七塚 10/9(月) 20:29:41 No.20061009202941 削除
(申し訳ありません、管理人様。間違えて二重投稿になっているかもしれません。すでに10が投稿されている場合は削除してくださって結構です。よろしくお願いします)


 静かな調子に激情を孕んだ時雄の言葉に、千鶴はうつむいて視線を逸らし、じっと何かを考えているようだった。
 やがて、言った。
「・・・その前に傷の手当てをさせてください。薬箱はありますか」

 千鶴の細い指が、時雄の手首を掴んでいる。
 濡れタオルで傷ついた拳を拭いた後、千鶴は消毒液をひたしたガーゼを包帯で傷口に固定した。
「ほかに傷はありませんか?」
「唇を少し切ったくらいだ。あとはなんともない」
「そうですか・・・」
 千鶴の表情に何かためらうものがあった。
 時雄の胸が疼いた。
「木崎のことが気になるのか?」
 その言葉に千鶴は答えず、黙っていた。
「奴はまだ公園で寝てるかもしれないな。散々、顔を殴ってやったから」
 千鶴はうつむいて、まだ黙っている。
「奴のことが心配か?」
「・・・・・・」
「どうなんだ? 俺に気を遣わないでもいい」
 千鶴は無言のまま、血で汚れたタオルと衣服を持って立ち上がった。その手首を時雄はとらえた。
 はっとした瞳が時雄を見る。
「なぜ奴に言われるまま、他の男に身体を売った?」
 鬼気迫る顔で時雄は聞いた。
 千鶴の顔から血の気がひいた。もともと白い顔が、いっそう蒼褪めるのが見えた。
 しばらくの間、ふたりとも黙っていた。
 やがて、千鶴がぽつりと呟くように言った。
「すみません。手首を離してください。痛いです」
 時雄が手の力を緩めた。掌にじっとりと汗をかいている。千鶴の細い手首に赤く痕が残った。
 千鶴はゆっくりと時雄の前に正座した。
「ごめんなさい」
 千鶴は静かにそれだけ言った。
 時雄は何も答えずに天を仰いだ。
 やるせない気持ちでいっぱいだった。
 千鶴の瞳から、涙がすっと流れるのが見えた。
「どうしてそんなことになった?」
「・・・・・・」
「金のためか? 何かどうしても金が必要になったのか?」
「・・・・それは・・・そうではありません」
「ならばどうしてアイツの言いなりになる!」 
 時雄は思わず叫んでいた。
「七年前のあのときもそうだった。君はただ謝るばかりで、何ひとつ俺に教えてくれなかった。君はそれでいいかもしれない。だが、取り残される俺の気持ちにもなってみろ。言い訳でもなんでもいい。俺が七年間どんな気持ちで生きてきたのか、君には分かるか。たった今、どんな気持ちで君とこうして向かい合っているのか、君には分かっているのか」
 大声で言って、時雄は千鶴を睨みつけた。
 千鶴の大きな瞳に溢れた涙の粒が、みるみる大きくなっていくのが見えた。
「泣くのは卑怯だ」
「・・・・・」
「謝るのも卑怯だ」
「・・・・・」
 両手で顔を覆って、千鶴はしのび泣いている。
 自分の言葉が千鶴を追いつめているのは痛いほど分かってはいたが、それでも時雄は追いつめずにはいられなかった。
 ふうっと時雄はため息をついた。
「ちょっと風呂に入る。出てきたら、話を聞かせてくれ。今度こそ」
 それだけ言って、時雄は立ち上がった。
 千鶴は両手で顔を覆ったまま、動かなかった。



不貞の代償16
信定 10/9(月) 20:22:39 No.20061009202239 削除
「明日、私のマンションへ来なさい」
このところずっと、モンモンとしていた石橋に、例によって分厚い
唇から黄色い歯を見せ、ニヤニヤしながら、沼田が一方的に言い放
った。何のことかと聞くが、
「昼1時に」
有無をも言わせない口調で言う。見積書に負われ、パソコンに集中
していたとき、石橋の耳元でそう言ってから、短い腕を後ろで組み、
腹を突き出し、仰け反り気味に歩きながら、自分のデスクに向かっ
た。沼田の息で耳が腐ってしまう、とでも思ったか、石橋は舌打ち
して、耳を手で何度も払った。

結局、それっきり何の用事か訪ねても答えないので、次の日、仕方
なしに沼田のマンションへと向かった。

一級河川沿いにそびえ立つマンションを見上げ、息を飲んだ。ここ
へは一度も来たことはないが、迷うことなどあり得ない。世間一般
に名の知れた高級マンションだからだ。そしてなにより、そこが自
分の会社が建てたマンションだから。

石橋は初めは独身寮に入っていたが、流石に30も半場になると、
居づらくなり、アパートへと移った。そのアパートも会社が建てた
物件だが、そことこことは雲泥の差だ。

教えられたナンバーを入力し、豪華なエントランスに入り、吹き抜
けの天井を見上げながらエレベーターに乗った。あっという間に1
5階でドアが開いた。

通路からは河川敷が見える。最高の見晴らしだ。天気が良いので、
遙か彼方の高層ビル群も見える。ため息をつきながら沼田の住む部
屋へと向かった。

ドアからヌッと出てきた沼田の顔に少し後ずさりしながら、
「どうも」と口ごもる。
「やあ、良く来たね、さ、入って」
いやにご機嫌だ。なぜか、機嫌がいい時の沼田は特に虫酸が走る。
しかめた顔も気付かず、沼田は伸びをするように、自分より圧倒的
に背の高い、石橋の肩を抱くように導き入れた。

玄関に女物のヒールがあることに気づく。
「誰かお見えなんですか?」
靴を脱いで上がって来なさい、と言っている、全く似合わない、上
下揃いのスウェット姿の、沼田のでっぷりとした後ろ姿に、恐る恐
る声をかけた。
「ん?ああ、まあ、そうだ、君も知っている女でもある」
そんなことを言い、ふふふ、と口の中で薄気味悪い笑い方をする沼
田に、石橋はギョッとした。
「知っているって・・・」
「まあ、いいから入りたまえ」
石橋の問いを封じ込めながら沼田は、それがスリッパ、と言った。

中は思った以上に整理されていた。そのことを聞くと、
「うん、前は酷かったんだが」
と言い、この沼田からは想像もつかない、シックなソファーセット
に座るよう進めた。更に、リビングが思った以上に広いことに密か
に驚く。

部屋は3つで、一つは和室の、いわゆる3LDKだ。一人住まいに
は結構な広さだ。長年会社にいると、こんな奴でも、こんなマンシ
ョンに住めるようになるのか。やはり独り者だからだな。あと10
年で果たして自分も。などど、考え、目の前のブクブクに太った沼
田に、劣等感を持つ自分に、無性に腹が立った。

と言うと、誰かが整理整頓するのか?さっきのヒールの女か?自分
の知っている女と言われ想像したが、思い浮かぶはずもなく、体型
も顔も沼田に似た女を想像し、吹き出しそうになった。前を見ると、
同じように沼田もニタリと笑って、細い目でこっちを見ていたので、
慌てて普通の顔に戻したのである。

そして沼田は、突然パンパンと手を叩いたのである。ビクッとする
石橋の顔を満足そうな顔をする。

少しして、石橋を背にした、和室の戸が開く音がした。石橋は緊張
した。知っている女?会社の女子社員か?まさか、あんなに嫌われ
ている沼田が。ありあえない。

飲み物を運ぶ、カチャカチャと微かな音を立てながら、人が来る気
配を感じた。沼田を見ると、その人物を見ていた。見開いた細い目
の、笑っていない沼田の顔にゾッとした。石橋の体は緊張で硬直し、
振り向けない。

石橋の背後から、女の白い手が伸びてきて、テーブルにコーヒーカ
ップを置く。女の腕や手から察すると若い女ではない。女から漂う
仄かな甘い香りを感じた。

「どうぞ・・・」
と、息を吐くような小声の女を石橋は見上げた。

女は青ざめたような顔で、少し顔を伏せている。三十路は結構越え
ているようだ。沼田には全く不釣り合いなくらい、整った顔つきで
あった。

そして、白い女の顔は見覚えがあった。女が誰だが分かり、石橋の
顔は凍り付いた。

そんな石橋の視線を察して、身体にピタリと張り付いた、屈めば下
着が見えるほどの短いスカートを気にして引っ張る女は、チラッと
石橋を見た。女の視線と石橋の視線が合った。

口と目を見開いて驚いている石橋の表情に、女はギョッとした。ニ
ヤニヤしている沼田をチラッと見て、再び視線を石橋に向けたとき、
女の表情が変わった。

アッと口を押さえ、女は驚いた。
「え!?・・石橋・・さん」

あの頃の声と少しも変わっていない。
「し、進藤さん!」
石橋は思わず叫んでいた。

「どうしてここにっ」
と言った時、
「お互い見知っているどうしであるからして、話は早い」
石橋の声を遮るように言い、沼田は奈津子に向かって顎をしゃくっ
た。

奈津子は怯えた表情を浮かべたが、沼田が少し胸を張って、ジロリ
と奈津子を見やると、はい、と、小さく返事をして立ち上がった。

口と目を見開いたままの顔で、沼田を見る。沼田は立ち上がる奈津
子を目で追っている。そして、沼田の顔を見て、ゾクッとした。こ
の男が細い目を開いた時の顔は恐いと思った。

立ち上がった奈津子の、短いスカートから覗く、透き通るように白
い太股にドキッとした。

す、素肌だ。

石橋は慌てて沼田を見ると、唇をいっそう赤くして、真っ黄色の歯
を見せ、やはり沼田も同じところを見つめていた。

石橋は愕然と気付いた。

そうか、俺か・・俺のせいか・・・



別れた妻 9
七塚 10/8(日) 16:57:17 No.20061008165717 削除

 いきなり扉を開き飛び込んできた時雄に、店内にいた者は皆、驚いた顔をした。先ほどの乱闘で時雄の顔や身体のあちこちには血が付いている。
「あなた・・・・」
 千鶴もまた驚いた顔をして、ふらふらと立ち上がった。時雄はつかつかと歩いていき、その手首を強く引いた。
 そのまま有無を言わさず、店の外へ連れ出した。
「ちょっと待て、あんた!」
 誰かが叫ぶ声を背中で聞きながら、時雄は千鶴をぐいぐい引っ張って、夜の道を走った。

 環状線の電車に揺られながら、時雄は一言も口を聞かなかった。口を開けば、何かに負けてしまいそうだった。
 千鶴もまた何も言わない。連れ出された理由を問うこともしなかった。黙ったまま、すっとハンカチを取り出し、時雄に付いた血を拭った。
 電車を降りて、時雄が現在住んでいるマンションへ行った。
「入ってくれ」
 時雄は静かに言った。 
 千鶴は招かれるまま、リビングに入って座布団の上へ正座した。
「お部屋、綺麗にされているんですね」
 ぽつりとそう言った。
「物がないからな」 
 実際、この部屋にはほとんど物がない。掃除が面倒なので、必要最低限の物しか置かないのだ。自炊もほとんどしないので、キッチンも汚れてはいない。
 あまりにも簡素で生活感のない部屋。それはいかにも寂しい一人暮らしの中年男の現実を露呈しているようで、そんな生活の一端を千鶴に覗き見られたことが、こんな場合でも時雄は気恥ずかしかった。部屋を見つめる千鶴の顔も、心なしか痛ましげな表情に見えた。

「千鶴」
「はい」
「なぜ黙っている? なぜ何も聞かない?」
 時雄の言葉に、千鶴はなおも視線を合わせず、じっと床を見つめていたが、おもむろに、
「その怪我はどうしたんですか?」
と聞いた。
「これは・・・」
「木崎、ですか」
 千鶴の勘の鋭さに、時雄は舌を巻いた。
「木崎と会ったんですね・・・」
「ああ、そうだ」
 時雄が答えると、千鶴はまた黙り込んだ。
 目覚まし時計の秒針の音だけが、かちかちと響く。
「千鶴」
 また、名を呼んだ。
「はい」
「俺からも聞きたいことがある。答えてくれ」


  



不貞の代償15
信定 10/7(土) 20:43:04 No.20061007204304 削除
妻の様子が変だ。感じたのは2ヶ月ほど前からだ。そう考えると、
ずいぶん前も変だな、と思える時期もあった。

夜遅く帰宅することや、ましてや、夕食を作らない日は、皆無であ
ったが、頻繁に、夜遅くまで、出歩くようになったのである。そん
な日は店屋物になるわけだ。久しく音信不通だった、学生時代の友
人と会ったと言う。その後も頻繁に会っていると言っていた。相手
は働いているので、会うのは退社後、と言うことだそうだ。やや曖
昧な点もあったが、当初はさほど気にはしていなかった。やがて、
途絶えたからだ。

その後しばらくして、やや気持ちの沈んでいるような感じを受けた
が、突然、カルチャースクールに行きたいと言い出した。聞くとエ
アロビクスを始めたいと言う。友人と一緒にやりたいので、夜にす
ると言う。エアロビクスなど今までの妻からは考えられないが、気
分転換になるのであればと賛成した。

それから、帰りが遅くなることが多くなった。急いで帰ってくるせ
いか、シャワーで髪が濡れたままの時もある。少々疲れた顔で、申
し訳なさそうに帰って来る妻に、出来るだけ優しく接してやりたい
と思う。恵も学校でテニスクラブに入っていることもあり、食事は
各自で済ませるようになり、3人でテーブルを囲むことも少なくな
った。

休日も出かけることが多い。朝から出かけるときもある。大抵は、
自分の帰宅時には家にいるが、遅くなるときもある。スクールの人
たちとの付き合いもあるらしい。出かける妻の、短めのスカートに
ドキッとしたことがある。「変かなぁ」などと、スカートの裾を引
っ張る妻に、首を振って見せた。

帰宅した妻から、今までは、殆ど飲んだことのない、アルコールの
匂いがする時もある。
「ちょっと、飲んじゃった」
とはにかむ。強めの香水の香りに少し咽せた記憶もある。始めに異
質に思えたのは夜の夫婦生活だ。

元来妻は性行為にはそれほど積極的ではない。男性経験は自分が初
めてだ。恥ずかしながら自分も妻を知るまで童貞だった。男として
性には興味はあるのは当たり前だが、インターネットや週刊誌で見
るような、激しい性行為にそれほど大きな関心は持っていなかった。
妻も勿論そうだ。と思っている。

結婚当初は毎晩のように妻を抱いたが、射精も早いし、一度したら、
二度など考えられない。あまりの性欲の弱さに、少々情けない思い
であった。

大学時代にバイト先で知り合い、恋に落ちた。お互いの両親にも紹
介し合い、将来結婚も誓った。二人ともごく真面目な学生だった。
比較的厳格な家庭で育った妻からの要望で、結婚するまでは体の関
係は持ちたくないと、顔を赤くし申し出た。当然それには従った。

結婚してから毎晩のように求めたのは、その反動もある。あれほど
この日を待ちこがれていたにもかかわらず。結局、自分はセックス
には実に淡泊で、弱いことが分かったのだ。が、この十数年、妻も
その件では、不満らしいことは全く口にはしない。

もう一人子供が欲しかったが、なかなか出来なかったのである。病
院へ行って、自分の精子の数が少ないことが分かった時は、かなり
のショックを受けた。
「自然でいいと思うわ」
と言う、妻の笑顔に救われた。結婚して、恵を直ぐに身籠もってく
れた妻に感謝した。

私も妻も、妻がせいぜい三十路中ぐらいまでは、と思っていたが、
結局、二人目は出来なかった。だが、健やかに成長した娘との3人
の暮らしはこの上なく幸せだった。

新婚旅行先の異国で、船のナイトクルーズでロマンチックな気分に
なり、我々は実に開放的な気分になった。その夜妻にフェラチオを
求めた。恥ずかしがる新妻は、それでもなんとかしてくれたが、
それが最初で最後となったのだ。気持ちよさよりも、恥ずかしさが
先行し、その後は求めたことはないからだ。

その妻が、前夜、自分のペニスを頬張ったのだ。

「いいのかい?」と自分の言う声を聞いたか聞かずか、既に、包茎
の皮を指先でめくりかえし、敏感な中身の裏筋から先端まで舐め上
げられ、うわずった声を上げてしまった。先端をチロチロとくすぐ
る唇は、情熱的で、とても、今までの妻とは思えなかった。

上から唇を被せられたときは、まさに腰が浮き上がった。そして、
丸ごと全部、口に含んでしまったのだ。そのまま、睾丸を撫でなが
ら、口の中でねぶられたときは思わず声を上げていた。

咥えた込んだまま、体を反転させてきた。新婚当初そこを唇で愛撫
したことはあるが、やはりお互い恥ずかしさが先行し、その後はし
ていない。妻の性器の濃厚な香りが鼻腔を擽った。嗅いだことのな
い匂いだった。咽せるのをこらえ、妻の太股を抱え込んで、そこに
唇を押し当てていった。始めから濡れる妻のそこを、唇で感じたの
も初めての事だった。決して嫌な味でも、不快な匂いでもなかった。
妻の太股に顔を挟まれたのも、初めてだった。

次の朝、妻を見ると、普段通りだったが、自分は顔を合わせるのが
恥ずかしいくらいだった。その日を境に、妻との性行為が変化して
いった。ペニスを握ってきたり、上に乗って結合したり、というの
は恐らく、愛する者同士では当たり前のことかも知れないが、妻の
方が積極的になってきた、と言った方がいい。そんな妻の変貌に、
嬉しく、そして戸惑った。

ここ最近、疲れているような様子が見て取れる。何か悩んでいるよ
うでもある。話しかけても上の空の時も多い。そのことを聞くと、
今までのような明るい笑顔で、何でもないわ、と、直ぐに話題を変
えてしまう。娘が言っていたように、明らかに少し痩せてきた。

妻の居ないときに、風呂から上がって、下着を変えたいと思い、箪
笥の引出しを漁っていたとき、間違って妻の下着の引出しを開けて
しまった。

殆どが白やベージュであるが、奥の方に明るい色が目に入り、ドキ
ッとした。誰もいないにも関わらず、当たりを見回す。それは隠す
ように仕舞ってあるようにも思えた。手に取ってみると、手触りが
他の下着と全く違い、指先でスルスル滑る。なんの繊維で出来てい
るのだろう。そして、上下のセットらしく、下の方はV字の切れ込
みが鋭い。こんな下着見たことがない。そして、透けて見えること
にギョッとした。その色はピンクだった。そして、更に奥の方に、
黒、黄色の下着のセットがあった。どれも皆、ハイレッグで、透け
ていた。

頭の中に闇が広がっていく。



別れた妻 8
七塚 10/7(土) 00:37:25 No.20061007003725 削除

「・・・それとこれとは関係ない。お前のやってることは犯罪だ」
 時雄の言葉を、木崎は鼻で笑った。
「正義漢ぶるのはやめろ。お前がそんなにいきりたってるのは、相手が千鶴だからだろうが。もう七年も経つのに、いまだに寝取られた女房に未練たらたらとは笑わせる」
「話をすりかえるな」
「俺が犯罪者だというのなら、千鶴も同罪だぞ。これはあいつも同意の上でのことなんだからな」
「そんなはずはない。千鶴がそんなことを望むはずがない。お前が無理やり、千鶴に客をとらせて―――身体を売らせているんだ」
 時雄は言いながら、身を切り裂くような痛みを感じていた。自分で口に出した言葉に、自分で傷ついていた。
「なぜだ。なぜお前はここまで腐ったことが出来る」
「へっ」
 木崎はいかにも時雄を見下したような目をした。
「聞いたふうなことを言うんじゃねえよ。あいつがそう言っていたのか?これは自分が望んでやっていることじゃないとでも言っていたのか。えっ、どうなんだ?」
「聞かなくても分かる」
「何が分かるって言うんだ? お前は千鶴の何を知ってるって言うんだ? 何も知らなかったから、別れることになったんだろうが。あいつは心の底から俺に惚れているのさ。だから俺の望むことなら、何でもしてくれる。ただ、それだけだ。理屈も何も関係ない。俺が金に不自由していたら、それこそ売春だろうとなんだろうと今の千鶴は厭いやしない」
 木崎はそこまで言ってから、また下卑た顔つきで笑った。
「それに千鶴もまんざらでもない様子だぜ。お前と別れてから、初めて本当の女の悦びってやつを知ったんだよ、あいつは。もちろん教えたのは俺だがな。今じゃ毎度毎度、違う男に違うやり方で抱かれるのを、積極的に楽しんでいるようだぞ。女はいいな、どんなことも悦びに変えてしまう」
 にやにやと笑いながらそんなことを語る木崎は、時雄の理解を遥かに越えていた。薄汚いポルノ映画をみているときのような現実感のない感覚―――。
 くらくらと眩暈がする。
 視界が歪む。世界が変わる。
 
「どのみち、お前は何も関係がないんだ。あくまでも正義漢気取りを貫くつもりなら、いいぜ、警察にでも訴えるなら訴えてみろ」

 木崎は完全に開き直っていた。
 時雄は怒りよりもむしろ呆然としている。
 世の中にこれほど醜い人間がいるとは思わなかった。
 反吐が出そうだ。
 時雄はもうこれ以上、木崎と話していたくなかった。今、したいことはたったひとつ。木崎をぶちのめすことだ。
 時雄が一歩前に出る。尋常ならぬ気配を感じたのか、木崎は後ずさりした。年の差、身長ともにほとんど変わらない二人だが、今まで荒れた生活を送ってきたのが目に見えるような木崎の貧弱な体躯を前に、時雄に恐怖はなかった。いや、最初からそんなものを感じる余裕のないくらい、時雄は昂ぶりきっていた。
「また殴る気か」
 木崎が低い声で言う。声が震えそうになるのを、意地で抑えているかのような声だった。
「ああそうだよ、クソ野郎」
「殴るなら殴れよ。千鶴は俺のもんだ」
「そんなことは関係ない。何度も言わせるな」
 時雄が飛びかかるのと、木崎がぱっと身をひるがえしたのはほぼ同時だった。
 木崎の肩を捕まえ、懇親の力で引き寄せながら、殴りつける。木崎はそのパンチをよろめきながらかわし、振り向きざまに時雄を蹴りつけた。腹に打撃を受けながらも、時雄はその足を受け止め、地面へ引きずり倒した。
 そのまま、馬乗りになり、何度も何度も顔面を殴りつけた。
 木崎の顔と時雄の拳が血にまみれる。
 なおもしばらく殴った後、時雄は木崎の上から離れた。急に激しく動きすぎて、息が辛い。拳もずきずきと痛んでいる。
 木崎は苦しそうに呻いている。鼻と切れた唇から、大量の血が流れ出ていた。
 気がつくと、公園の向こう側にいた人影がいなくなっていた。誰か、ひとを呼びにいったのかもしれない。
 鉛のような身体を引きずって、時雄は立ち上がった。
 ふと近くの地面に黄色い封筒が落ちているのが目についた。
 拾い上げてみると、中には写真が入っているようだ。おそらく、先ほど木崎がサラリーマン風の男に見せていた写真が入っているのだろう。
 その写真に映っているのは―――
 考えるだけでぞっとした。時雄はむしろ後ろめたさを感じながら、その封筒をポケットにしまいこんだ。
 いつの間にか腫れ上がったまぶたの下で、木崎が薄目を開けて時雄を見ていた。
 その瞳を時雄はまっすぐに睨みつけた。
 木崎の赤黒く染まった唇が動いたが、何も言葉にはならなかった。
 時雄も何も言えなかった。振り向きもせず、その場を立ち去った。

 倒れた木崎を残し、逃げるようにその場を去りながら、時雄の胸はやりきれない空しさで翳っていた。
(これで満足か)
 心の内で別の自分の声がする。 
(七年前のあの日から、ずっとお前はこのときが来ることを望んでいたんだろう?)
(あの殺しても飽き足りない木崎を、足腰が立たないくらいにやっつけてやることを)
 違う、ともう一人の時雄が弱々しい声で呟く。
 俺はそんなつもりじゃなかった。
 ただ、ただあの女のために―――

 そうだ、あの女だ。
 何に代えても俺はあの女を救わなくてはならない。

 痛む身体を叱咤して、時雄は走った。 
 



不貞の代償14
信定 10/5(木) 22:42:50 No.20061005224250 削除
田倉は深く落込んでいた。もう1ヶ月以上、奈津子と逢っていない。
携帯にようやく連絡とれても、取り付く島もない。
「もう、逢えません」
ごめんなさい、と小声で奈津子は言い、直ぐに切ってしまう。

家庭と田倉の板挟みで、相当悩んでいるのは知っている。そのこと
で何度か話し合ったが、結論など出やしない。田倉もこのままでは
いけないと思いつつも、自分の指導により、稚拙だった性技も卓越
し、ベッドの上で、淫らに姿態くねらす、つきたての餅のように柔
らかい、奈津子の体を手放すのは嫌だ。

お互い若くはない。この先どうすれば良いのかと自問自答はすれど、
結論など出やしない。エリートに多い、比較的自己中心的な考えの
田倉にとって、奈津子を呼び出し、交わること以外、考えられなか
ったし、また、ずっとそうしたい、そうなると思っていた。悩んで
いても、連絡すれば逢ってくれることに有頂天になっていた。

究極は、奈津子を妻にしたい。口には決して出さないが、本当は心
の隅ではいつもそう思っている。現実味のない夢のまた夢であるこ
とも知っていた。

佐伯の様子が少しおかしいと言っていた。そのようなことがあると
いけないので、奈津子とは昼に逢うことにしたのだ。少し前に、仕
事でその日は行けなくなり、夕方、奈津子から逢いたいと連絡を受
けた。奈津子からの連絡は初めてのことだった。

ホテルに入ったとたん、玄関先で跪き、待ちきれないといった様子
で、田倉のズボンのチャックを一気に引き下ろし、ペニスを引出し、
むしゃぶりついたのだ。フェラ顔を見られることを恥じらう奈津子
であったが、その時は、頬を膨らまし、目に涙を浮かべ、恨めしそ
うに見上げる奈津子であった。ズボンの中に手を入れ、睾丸までも
引き出し、唾液まみれにしていった。田倉は、奈津子の頭を抱き、
綺麗に整えた髪をクシャクシャにしてしまう。驚くほど上達した奈
津子の、唇や舌の動きに息を荒げていた。

興奮した田倉は、そのまま玄関先で奈津子を壁に押し付け、スカー
トを捲り上げる。股間に手を入れると、パンティは湿っていた。中
に手を入れ、直接触ると、抵抗無く指先をヌルッと飲み込んだ。片
足を持ち上げ、濡れた指を奈津子の口の中に含ませ、乱暴に唇を捏
ねながら、パンティの脇から入れ、一気に貫くと、外に聞こえるほ
どの、今までの奈津子とは思えない、大きな声で悶え始めた。

もう片方の足を抱え込むと、奈津子の体が宙に浮く。田楽刺しにし
たまま、両足を抱え、体勢を整える。奈津子の服は脱がせていない。
自分もチャックからペニスを出したまま。この姿が更なる興奮を誘
い、いわゆる、立ったままの駅弁スタイルで、奈津子の体を弾ませ
たのである。己の腰に、奈津子の豊満な尻をぶつけていく。

弾ませすぎ、ペニスが抜け落ちることも度々ある。再び、一気に貫
き、勢いを付けて弾ませる。ビタン、ビタンと、激しく肉のぶつか
り合う音を聞き、まるで、奈津子を折檻しているような錯覚に陥り、
どんどん興奮していく。そのまま田倉は、了解を得ず、人妻の体内
に大量の精液を注ぎ込んだのである。

その時のことを思い出し、息が荒くなっているのに気づき、誰もい
ない室内を慌てて見回した。

ドアをノックする音が聞こえる。返事をすると、下村沙也加が会議
の資料を持ってきた。沙也加は目を合わせない。と思うのは自分が
そう見るせいかもしれない。もしかしたら、奈津子との関係に気付
いているかもしれないと。始めの頃は、奈津子を食事に誘うときは、
何気に沙也加に報告していた。言いたかったのかも知れない。だが、
肉体関係ができてからは、言えるはずもなかった。やはり、不自然
に思うのは当たり前か。聡明な沙也香が察知しないはずがない。

資料を掴み、部長室を出る。ピカピカのフロアを歩き、キーボード
を叩いている佐伯を、さりげなく見る。奈津子とは逢っていないの
に、田倉は少し不思議な気がした。勿論、未だに不審を抱いたまま
なのはありえるが、拒絶している奈津子からは聞くことは出来ない。
田倉と仕事の話などをするときは、普段と変りはないように見受け
られる。従って、自分と奈津子の件は知られていないと判断できる。

会社の女には手を出さないなどと、自分自身に言い聞かせ、格好つ
けて、いかにも紳士気取りでいるが、直属の部下の妻を寝取って、
その部下と平然と仕事の話をし、よくよく平静でいられるものだと、
空恐ろしくさえ感じる。地獄に堕ちるかもな、などと本気で考えた
りもする。

日に一回は必ず彼女の携帯に電話をかける。殆どがシークレットモ
ードにしてあるらしく、出ない。前にもしばらく逢わない方がいい
のでは、と話し合った事もある。しかし、それからも呼び出しには
応じてくれたし、最後に抱いた日は特に別れ話は出なかった。

愛し合った後、ベッドの上で、あれほど唾液の交換をしたにもかか
わらず、吸い足りず、玄関先で濃厚なディープキスを演じ、ようや
く満足し、唇を離し、また逢ってくれますね、と言う自分に息を荒
くした彼女は、小さく頷いていた。

電話にも出ないようなやり方で、別れるのは彼女らしくない。妙だ
なと思いつつも、他にどうすることもできない。苦しくて胸がつぶ
されそうだった。



別れた妻 7
七塚 10/5(木) 19:11:29 No.20061005191129 削除

「もう少し人気のないところで話そう」
 サラリーマン風の男がそう言って、木崎と連れ立ってその場を離れた。
 時雄はその後を付けていった。
 目の前を行く二人は、近くにあった公園の中に消えていった。
 夜の公園は数人の若者と中年のカップルがいるだけだった。
 時雄は用心深く別の出入り口から公園へ入り、茂みに隠れながら二人に近づいていった。

「これは・・・たしかに」
「・・・間違いなくあの女・・・」
 切れ切れに二人の声がする。
 よく分からないが、サラリーマン風の男は木崎から渡されたものらしい写真に見入っていた。
 見つかる危険を冒して時雄はさらに近づいていった。
「金を払えば・・・・この写真のようなことが・・・」
「・・・・お好きなように・・・どんなプレイでも・・・」
「・・・信用しても・・・・」
「・・・・・半日で五万・・・・・」
 夜の闇からかすかに聞こえてくる声は、時雄にとってこれ以上なくおぞましい内容を語っていた。
 間違いない。
 木崎はバーに通い、千鶴と関わりをもった客に何気ない顔で売春を斡旋しているのだ。
 仮にも夫である木崎が、自分の妻をまるで商売女のように扱って金を稼ごうとしている。
 あまりにも異常な出来事に遭遇して、時雄の頭の中は真っ白になっていった。
 激情が蘇ったのは次の木崎の言葉を聞いてからだ。

「・・・女のほうも望んでやっているんですよ・・・」
「・・・そういうのが好きな女なんです・・・」

 時雄の中で何かがプツリと切れた。
 気がついたときには時雄は叫び声をあげて飛び出し、木崎を殴りつけていた。
 のけぞって地面に倒れた木崎が驚いた顔で時雄を見た。
「何をする!」
「うるさい!」
 時雄は倒れた木崎の腹をめちゃくちゃに蹴りつけた。
 突然の乱入者に肝を潰し、サラリーマン風の男は脱兎の如く逃げていった。
 そのほうには目もくれず、なおも数回木崎を蹴りつけた後で、時雄は荒い息をついてよろめいた。強く噛んだ唇から流れ出た血を手の甲で拭う。身体中の血液が沸騰しているかのように、どくどくと高鳴っている。
 木崎は怯えと苦痛の入り混じった顔で時雄を見つめていたが、
「お前・・・横村か?」
 と、かすれ声で言った。
 時雄は答えなかった。ただただ木崎の顔から視線を逸らさずに、その濁った瞳を睨んでいた。
「お前がなぜここにいる。なぜ俺を殴る・・・今の話を聞いていたのか」
「お前は」
 時雄は怒りに震える声を振り絞った。
「お前は人間じゃない。犬だ。腐れきった犬畜生だ」
 木崎はよろよろと立ち上がった。
 その顔には相変わらず怯えの色があったが、口元には厭らしい笑みを作っている。
「俺をつけてきたのか。それじゃあ千鶴があの店で働いていることも知っているわけだな」
 時雄に殴りつけられ、腫れ上がった唇が歪んだ。
「相変わらず情けない野郎だ。いい年して今でも七年前に別れた女房の尻を追っかけてるのか」
「なんだと・・・」
「千鶴はお前とはもう他人だろうが。あいつはもう何年も前から俺のものだ。俺たちふたりのことに口を出すな」





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立場40
Retaliation 10/5(木) 02:38:19 No.20061005023819 削除
夫婦のようにソファーに座る男と女、まるで夫ように女に飲み物を頼む男
そしてそれに従い妻のように飲み物を運ぶ女、しかし二人は夫婦でもなんでもない
ただの不倫の仲の二人、そして女の本当の夫は目の前に座り込んでる男です。

後で理香に聞いたところその時の私には恐怖を感じていたようでした。

さっきの言葉で随分ダメージを追った吉崎に私はさらに追い討ちをかけました。

私「随分アンタも変わり果てたな。1年前の妻と不倫をしていた時のアンタとは
まるで別人だ。正直あの時のアンタに対して俺は男として負けたと思ってたよ。
まぁ実際に妻を寝取られたしな。
だが蓋を開けてみたらどうだ?妻は俺を選んだ。そして理香も、アンタには誰が居る?
アンタは体だけしか奪えなかったが、俺は違う、心まで奪った。どうだ悔しいか?
アンタも不倫してた時に俺の事を馬鹿にしてたんだろ?
『女房を寝取られた間抜けな亭主だ』って、それが今では立場が逆転したようだな」

興奮しきっていた私は時間を忘れていました。ふと我に返り時計を見ると12時を
過ぎていました。

身支度を整える為に傷心しきった吉崎をリビングに残し寝室に戻りました。私の後を
追うように理香が寝室に入ってきました。着替えながら横目で理香を見ましたが申し訳なさそうな顔をしながら、無言でこちらを見ていました。

私「俺を・・・利用したんだな」

理香「ち、違うのこれは・・・」

私「別に怒っていないよ。でも利用したのは本当だろ?」

理香「・・・ゴメンなさい」

理香に利用されたとわかった時、私は今までの理香の言動が全て嘘に思えていました。

私「なら今まで俺に言ってきた言葉も全ては俺を利用する為か?」

理香「こんな事をして信じてもらえないと思うけど、アナタに言ってきた言葉は
全て本当よ。勿論気持も」

着替えた私は再び理香と一緒にリビングに向かいました。そこにはさき程と同じ
格好の吉崎がいました。

もうこれ以上は吉崎に対して何も言う事はありませんでしたが、帰る前に一言
挨拶をしようと思いました。こんな状況でもここの家主は吉崎ですから。

私「先程は言いすぎました。申し訳ない。私はこれで失礼します」

いくら理香が離婚を望んでいても、やはりこれは夫婦の問題なので私には何も言う
権利はありません。後は理香に任せることにしました。
そう思い玄関に向かおうとした時、後ろから吉崎が言いました。

吉崎「さっきお前は、俺には体だけしか奪えなかった、と言ったな?」

その言葉を聞き吉崎の方を振り返りました。

吉崎「どうやら理香は本当に離婚を望んでるようだな。ならお望みどおり
離婚してやるよ」

そう理香の方に向かい言い終えると今度はまた私の方に向き直り不敵な笑みを
浮かべながら喋りだしました。

吉崎「お前は気付いていないだけだ。俺はお前の女房、洋子の心を奪ったさ
その証拠に今でも俺と洋子は連絡を取り合ってるよ。どうやら気付いてなかった
みたいだな。ほらっ」

そう言って吉崎は私に自分の携帯を放り投げてきました。

吉崎「俺が洋子の心まで奪えてないなら、お前にあんな事までした後まで俺と
連絡を取り合わないだろ?ショックだろ?まさか自分の女房が不倫相手の俺とまだ
連絡を取り合っていたんだしな」

開かれた携帯の画面には今日着信したであろう私の妻からのメールがありました。
携帯を見つめる私に対し勝ち誇ったような吉崎の笑い声が聞こえてきました。



別れた妻 6
七塚 10/5(木) 00:24:04 No.20061005002404 削除

 木崎は雑居ビルの中へ入っていった。
 行き先はもちろん、千鶴のいるバーだろう。
 時雄はビルの手前の道路で立ちすくんでいた。
 まだ胸がどくどくと高鳴っている。
 濡れ雑巾で心臓を鷲づかみにされたような衝撃だった。

 千鶴を間に挟んでいざこざのあった大学時代から数年後、また同じく千鶴を間に挟んで起こったあの出来事の際、時雄は木崎に久々に再会した。それからもすでに七年が経つ。
 両者の立場はあの七年前から完全に入れ替わっている。
 今では木崎が千鶴の夫なのだ。
 頭では分かっていたが、実際に木崎の姿を目にすると、その事実がひどく耐え難いものに思えた。

 七年前。
 久々に再会したときも、木崎は変わらず厭な奴だった。
 自分が寝取った女の夫である時雄に対して、一見すまなそうにし、口では謝罪しながらも、内心では時雄のことを見下していることが見え見えの態度が我慢ならなかった。
 それに加えて、木崎はこの期に及んでも時雄に対して先輩面を崩さなかった。
 話し合いのため、差し向かいで話していたとき、激昂した時雄が木崎の名を呼び捨てにしたことがあった。
「てめえ、誰に向かって話してる。俺は先輩だぞ」
 木崎は顔を真っ赤にして怒った。学生時代そのままの、子供じみた口調で。
 それを見て、時雄は気が抜けた。空しさすら感じた。
 自分はなんというつまらない男を相手にしているのだろう。 
 ひとの妻を寝取っておいて、この男は相手に対する誠意を見せるどころか、まだ大学時代の先輩後輩などという形式にこだわっている。
 くだらなすぎて、吐き気がした。怒鳴る気力すら萎えてしまった。

 時雄はバーの入り口が見える裏路地に立ち尽くしたまま、そんな過去の記憶を回想していた。
 木崎に関しては厭な記憶しかない。
 この七年間、千鶴のことを思い出すことはよくあっても、木崎については滅多になかった。
 木崎の存在は時雄にとってあまりにも忌まわしい記憶だった。無意識のうちに心が彼を思い返すことを拒否していたのだろう。

 時雄はポケットから煙草を取り出し、火を点けた。このところ、あからさまに喫煙量が増えている。
(それにしても・・・)
 木崎はなぜ千鶴―――妻がホステスをしているバーなどへ行ったのだろう。
 そもそも、三十半ばを過ぎた妻にホステスなどをやらせている男の神経が分からない。よほど家計が逼迫しているのだろうか。木崎自身はどうなのだ。きちんとした職で働いているのか。
 考えれば考えるほど、苛々した。
 ふっと時雄は自嘲の笑みを浮かべた。
 いったい自分は何をしているのか。寝取られた女房と寝取った男を前にして、あれこれと想像を巡らしながら暗い路地に突っ立っている元夫。どこの間抜けだ?そいつは。
 煙草を踏み消す。もう帰ろう。
 すべては―――終わったことだ。

 そのときだった。
 バーの入り口のドアが開いて、サラリーマン風の男が出てきた。 そして、そのすぐ後に今度は木崎が出てきた。入店してから、ものの三十分も経っていない。
 時雄は思わず、近くの家の駐車場の影に身をひそめた。
 サラリーマン風の男が目の前を通り過ぎかける。
「待ってください」
 木崎の声がした。
 サラリーマン風の男はそのまま行こうとしたが、何度も呼びかけられて振り向いた。面食らった様子だった。
「私ですか」
「そうです、そうです」
 木崎の声。
「何か用ですか?」
 サラリーマン風の男は警戒した様子で、それでもその場に足をとめた。明らかにふたりは旧知の仲ではない。
「ちょっとお話があります。いえ、わるい話じゃありませんし、危ない話でもありません」
 木崎の口調はまさに悪徳商人のそれだった。どこの世界にそんな口上で安心する人間がいるだろう。
 時雄のいる場所からは木崎の姿は見えない。
「コレですよ、コレ。女の話です」
「そんな話に用はない」
「つれないなー、話だけでも聞いてくださいよ。ナニ、女といっても見知らぬ女じゃない。あなたがさっきあのバーで話していた女です。ほら、ホステスにしてはちょっと年増だが、なかなか美形のあの女」
 時雄は思わず息を呑んだ。
 木崎は明らかに千鶴のことを言っている。
「あの女に興味はありませんか?」
 木崎の突拍子もない言葉にサラリーマン風の男は、なんと答えたものかしばし迷っている様子だったが、
「あんた、あの店のものなのか?」
 と小さな声で聞いた。
「違います。でも個人的にあの女とは懇意でしてね。あなたがお望みなら、いつでも逢瀬の機会をご用意しますよ」
(いったい、こいつは何を言ってるんだ?)
 時雄は呆然となった。  



不貞の代償13
信定 10/4(水) 22:17:24 No.20061004221724 削除
郊外に建てた数十件の戸建ても完売し、久々に滞りなく業務が終了
したことに、担当課長の沼田は大変機嫌が良かった。
「石橋君、祝杯を挙げたいんだが、君が段取りをしてくれないか」
などど言う。そんな言葉を沼田の口から聞くのは記憶にない。石橋
はギョッとして振り向くと、突き出た腹を抱え、ご機嫌な顔でフロ
アを歩き回り、顔をしかめられていることにも気付かず、パソコン
の画面を見ている女子社員の脇で、一緒になって覗き込み、一人で
うんうん、と言って頷いている。

結局、来たのは沼田と石橋の二人のみで、他の男子社員は何かと理
由を付けて断っていたが、女子社員は端から露骨に嫌な顔をしてい
た。沼田も自分も嫌われているし、初めから予想していたことでは
あった。あんなに上機嫌だったが、打って変わって不機嫌な沼田の
相手をする羽目になったのである。一番安い居酒屋で、二人の陰気
な中年は、一番隅の薄暗いカウンターに押しやられ、並んで座るこ
とになった。

沼田の話はどこそこのソープランドの女がいいとか、キャバクラの
女は低俗だ、などと、女の話ばかりであったが、酔うほどにウダウ
ダと会社の愚痴をこぼし始めた。

「昔俺の部下だった、俺より年下の田倉の野郎が部長で、なんで俺
がまだ課長なんだ。な、おかしいだろう?な、石橋ぃ」
語尾を伸ばしながら、石橋に絡み、沼田はタラコのような唇を尖ら
せ、ビールをがぶ飲みしている。誰がどう見ても有能な田倉の昇進
は順当でうなずけるのだが、沼田はそうは思わないらしい。そんな
考えしか出来ないことが、無能たる所以かもしれない、と石橋は思
うのである。

突然田倉の話が出て、石橋は酔いが吹っ飛んだ。怒りが込み上げて
きた。ビールジョッキをテーブルに叩付けるように置いた音で、上
にはへつらい、下には威張り、小心物の沼田は、一瞬怯えた表情に
なったが、自分のことでは無いらしいことが分かったので、ホッと
する。

「どうしたんだ?なんか気に障ったのかい?」
急に猫なで声になる沼田である。
「いえ、部長の話が出たんで・・・」
と、言いよどむ石橋に、目ざとく反応する。
「ないだい、田倉がどうしたって?」
ん?と、小さな目を見開き、好奇心いっぱいの顔を見せる。
「何でもありませんよ」
石橋は、げその唐揚げにかぶりつき、この馬鹿に言っても仕方がな
いだろうが、などど、心中で思い、素っ気なく答えた。
「水くさいな。俺と君の間柄じゃないか」
どんな間柄だよ。さしずめ、嫌われブラザーズか。そんなことを思
い、鼻で笑った石橋は、チラッと横を見ると、体ごとこちらに向け、
ニッと笑っている沼田の丸い大きな顔があった。

その後何軒か付き合うことになり、ケチの沼田としては珍しく、最
後は女のいる店に連れて行った。こういう事に関しては異様に嗅覚
が働く沼田に、田倉について言いよどんでいた石橋は、しつこく食
い下がられ、相当酔っていたこともあり、結局は田倉と奈津子の件
を話してしまったのである。

「こりゃぁ、驚きだな」
ついには、尾行して撮った写真まで見せてしまう石橋である。沼田
は顔では驚いた表情を浮かべていたが、うっそー、すっごぉい、な
どとキャーキャー言っている女の尻を撫で回し、心の中でほくそ笑
んでいた。

女の子達に太股を撫でられながら、せがまれる石橋は、鼻の下を伸
ばし、得意げに写真を見せていた。そこには田倉が運転する車の助
手席に奈津子が写っていた。その車が、ホテルから出てきたときの
連射写真であった。

「石橋君、このことは誰にも言っていないだろうね」
自分のことを、部長と呼ばせて悦に浸り、つんと顎を上げ言う沼田
に、女の子と笑い合って写真を見ていた石橋が、顔を上げ頷いた。

「うん、それでいい。でないと田倉君が困るからな。彼は会社にと
って必要な有能な人材だ。内密に頼むよ」
などと、居丈高に言う。やっぱ部長さんは偉いんだ、他の社員のこ
ともちゃんと考えているんだね、部長さんは大変だね、などど無責
任な女達に褒められ、タラコのような赤い唇をデレデレと崩す顔を
見て、石橋はこの男のことが益々嫌いになった。

自分が誘った飲み会に、誰も参加しなかった事で、気分を害してい
たことなどすっかり忘れ、実にいい気分で一人住まいのマンション
にたどり着いた沼田は、石橋からくすねた奈津子の写真を取り出し
た。なかなかいい女じゃないか。

しかし、佐伯はてめえの直属じゃねえか。部下の女房に手を出すか
な。節操の無い野郎だ。恐ろしい男だな、田倉は。

でも沼田の唇は捲れあがっていた。勿論、笑っている顔だ。

佐伯みたいな貧弱な奴に、どうしてこんなこんな嫁さんが貰えるん
だ。大学を出て証券会社でOLをして、1年ほどで奴と結婚したら
しいが。あの青びょうたんが、若い頃の奈津子とヤリまくったって
訳か。ふん。高校か中学の女の子の子供が一人いるって言ってたな。
1回は間違いなく中出ししたって訳だ。奈津子に似てるのかな。な
どと考えていた沼田は、しかし、かなりいい気分なのである。

どんとベッドに大の字なり、ズボンから、既に勃起している、薄黒
いペニスを引き出していた。体に似合った太いペニスである。先端
から少し、くの字に曲がっている、グロテスクな一物だ。ペニスを
握っていない手で、奈津子の顔のアップの写真を摘む。

あの間抜け野郎、頭に来ていろいろ調べたらしい。昔惚れていた事
もペラペラしゃべりやがって、本当に馬鹿な奴だ。ま、しかし、そ
の馬鹿のお陰で、俺にもツキが回ってきたようだ。細い目は奈津子
の顔写真を見つめていた。

あいつ、奈津子の写真を引き伸ばしたんだな。だが、ほんと、年食
ってる割には結構可愛い顔してるぞ。こんな人妻が田倉とズボズボ
やりまくってたのか。もっとも佐伯もつまらん男だしな。チンボも
小さそうだし。田倉のチンボに狂ったって訳だな。

沼田は慌てて、ワイシャツを捲り上げ、風船のように膨らんだ、薄
汚い毛むくじゃらの腹を出した。へその周りに、蟻が群がっている
ような、びっりと毛の生えた、薄汚い腹だ。その上に久々に勢いが
ある、白濁を噴射させた。



別れた妻 5
七塚 10/4(水) 18:53:30 No.20061004185330 削除

 千鶴と再会した次の週の金曜の夜、時雄はまたあのバーのほうへ足を向けた。
 もう会わないほうがお互いにとっていいと分かってはいても、そうせずにはいられなかったのだ。
 たとえ千鶴が言った「幸せです」の一言が真実であろうと、なかろうと、時雄の存在は今の彼女にとっては重荷でしかなかろう。
 それならば、自分にとって今の千鶴はどういう存在なのか――。
 それもはっきりとは分からない。
 彼女は時雄にとって、真剣に愛した最初で最後の女だった。
 同時に、どんな事情があるにせよ、時雄を手ひどく裏切り、彼の人生を狂わせた女だった。
 出会って、やがて結婚して。千鶴と暮らした数年間は、切ない幸福の幻影と、やりきれない空しさとなって、時雄の脳裏に刻み込まれていた。 
 あの頃、仕事にかまけていたとはいえ、時雄の気持ちが千鶴から離れたことは一度もなかった。それだけは自信を持って言える。
 もともと美術に関心のあった時雄は、望んでいたデザイン系の仕事に就くことが出来て有頂天だった。仕事が面白くて面白くて、仕方なかった。早く一人前になって、誰からも認められる男になりたいという希望に燃えていた。
 誰からも―――いや、そうではない。誰よりも何よりも、千鶴に認めて欲しかった。彼女にとって、誇れるような夫でありたかった。
 千鶴を幸せにしたかった。幸せにする自信もあった。
 だが―――その夢は破れた。
 あの悪夢の日以降、時雄は荒れた。自分を裏切った千鶴が憎くて憎くて仕方なかった。
 最も愛し、最も信頼していた人間に裏切られる―――。
 言葉にすれば簡単に表現できるそんな事実が、これほど辛いものだとは思わなかった。
 時雄は千鶴を責めた。千鶴は泣いて謝るばかりで一切言い訳はしなかったが、たとえ言い訳したとしても、当時の時雄にそれを聞く余裕はなかっただろう。その頃、彼は完全にパニック状態だった。
 千鶴は離婚を望んだ。
 時雄は最初、それを拒否した。とんでもない、と思った。なぜ、自分は何もしていないのに、と思うと、怒りばかりがむくむくと湧いてきて、時雄はますます荒れた。
 しかし、その一方で、時雄の中のもう一人の人間は、冷たい現実を受け入れ始めていた。
 たとえ、このままの状態を続けていたところで、事態は悪くなる一方だ。
 そう思えるくらい、時雄は疲れ果てていたのかもしれない。
 それからの数週間は、幸福というものは実に呆気なく崩れていくものだということを確認するような日々だった。

 やがて、二人は別れた。

 しばらくは呆然と日を送った。
 仕事を終え、家に帰ってもそこに妻はいない。あるのは空虚な暗闇と、やりきれない喪失感。
 それが唯一の現実だった。とても信じられない、信じたくない現実だった。
 あえて心に鍵をかけて思い出さないようにはしていたが、やはり想うことはいなくなった千鶴のことばかりだった。
 千鶴のことを想うたび、激しい憎しみと、そしてそれを上回る思慕の念が蘇った。
 あの日、あのとき、自分の傍らで笑っていた千鶴の幻影が、瞳に焼きついて離れない。
 なぜ、どうしてこうなってしまったのか。
 思い出はやがて後悔へと変わり、憎しみは自責の念へと変わっていった。
 そんなふうに思う自分がもどかしく、また不思議でもあった。
 今なら分かる。
 あの頃、千鶴に出て行かれた時雄は寂しかった。どうしようもなく寂しかったのだ。
 

 千鶴がホステスを勤めるバーのあるビルの手前に来たとき、時雄は前を歩く男に目をとめた。
 見覚えがある、というレベルではない。
 老けてはいるが、見間違えるはずもないあの顔。
 じわっと脇に厭な汗をかいた。
 木崎だ。 
 



別れた妻 4
七塚 10/3(火) 23:47:03 No.20061003234703 削除
 時雄は大学の美術サークルで千鶴と知り合った。時雄が大学の三回生となった春のことだ。
 新入生歓迎コンパのとき、恥ずかしそうに自己紹介をする千鶴を見て、可愛い子が入ってきたなと思ったものの、それ以上の感想を最初は持たなかった。
 印象が変わったのは、彼女の絵を見てからだった。
 千鶴の絵は花や動物や周囲の風景といった日常の風景を描くだけで、特に奇をてらったところもなく、地味といえば地味な画風だった。しかし、そうした日常の小さなものにそそぐ視線の温かさが感じられ、見ているだけで心が和むような絵であった。自己主張ばかり激しくて内容のない絵から抜け出せないでいた時雄には、千鶴の素朴で温かみのある絵は新鮮だった。

 当時、千鶴のことを狙っていると噂された男が、サークルの中にいた。時雄にとっては先輩に当たる人間だった。
 その先輩は木崎という男だった。
 時雄は木崎が苦手だった。はっきりいって嫌いなタイプだった。
 木崎はアートかぶれの人間にありがちな、何に対しても斜に構える男だった。誰でも、何にでも批判的であれば優位に立てると思い込んでいるような木崎の人間性が、時雄にはひどく子供っぽいものに思えて厭だった。
 その木崎が千鶴を狙っていると聞いて、時雄は不安になった。
 千鶴は見るからに押しが弱そうな女だった。木崎のようなタイプの男が強引に迫れば、好き嫌いにかかわらず押しきられてしまいそうだと思った。
 木崎が千鶴に話しかけている姿を部室で見かけるたび、時雄の胸は騒いだ。出来ることならそばに行って、二人の会話に割って入りたいくらいだった。実際、時雄は何度もそうして木崎から白い目で見られた。
 その頃にはすっかり千鶴のことが好きになっていたのだ。彼女を誰にも渡したくないと時雄は思った。
 だから、時雄の告白に千鶴が「私も好きでした」と言ってくれたときは、天にも昇るような気持ちだった。
 一方で鳶に油揚げを攫われた形になった木崎からは、千鶴ともどもことあるごとに嫌味を言われた。攫った男が後輩だったことも、木崎のプライドを刺激したのだろう。部室で千鶴と話しているだけで、
「いちゃついてんじゃねえよ」
 と言われたようなときには、本当に殴ってやろうかと思うくらいに腹が立ったものだ。 
 大学の美術サークルでの四年間は、千鶴と出会った場所でもあり、時雄の人生の中でも幸福な思い出のひとつだったが、唯一、木崎のことだけが厭な記憶である。
 何ぞ知らん、まさかその「厭な記憶」が壁にかけられた肖像画の人物が抜け出してくるように、再び時雄の人生の前に現れようとは。

 千鶴と木崎はいつ再会し、いつから秘密の関係を持つようになったのだろう。
 はっきりしたところは分からない。だが思い当たるのは、あの悪夢の日の数ヶ月前に美術サークルの同窓会があったのだった。
 仕事で出張に行っていた時雄は出席していない。千鶴だけが行った。
 翌日、自宅へ帰ってきた時雄を出迎えた千鶴の様子には、特に変わったところはなかったように思う。
 いや、後からそう考えているだけで、実際は違ったのかもしれない。時雄は仕事にかまけて家庭を顧みる余裕のない迂闊な夫だったから、妻の些細な変化や心の動揺を察することも出来なかったのかもしれない。 
 千鶴はたとえ悩みがあっても、容易にそれを口に出すタイプではない。むしろ潰れるまで抱え込んでしまう女だ。
 あの頃、千鶴と木崎の間に何があったのかは、今でも分からない。
 だが、もしも千鶴が何か葛藤を抱えていて、自分に対してSOSのサインを送っていたとしたら―――
 そのサインに自分が気づくことすら出来ずにいたとしたら―――
 いくら後悔しても足りない。



不貞の代償12
信定 10/3(火) 22:59:36 No.20061003225936 削除
「最近、お母さん綺麗になったと思わない?ね、お父さん」
久々に早く帰ってきた義雄と、3人揃っての夕食は久しぶりだ。キ
ッチンに立つ奈津子に聞こえないように、恵は小声でそう言った。

「ん?あぁ」
義雄は奈津子の後ろ姿を見つめている。
「なーに、その気のない返事は」
恵は唇を尖らせる。恵を見る、義雄のにこやかな目がほんの少し、
下方に動く。

「何の話をしているの?」
振り返った奈津子の視線とまともに合い、義雄は目をしばたたせ、
慌てて視線を外した。奈津子の表情に一瞬翳りが浮かんだ。
「お母さんのこと話してたの」
「なーに?それ」
恵の声は聞こえていた。奈津子は動揺を隠しながら平静を装い、テ
ーブルに腰を下ろす時、チラッと義雄を見た。義雄は恵に視線を送
り、唇に無理矢理のような小さな笑みのみ浮かべ、黙々とビールを
飲んでいる。

夫を裏切る二重生活に加え、よく観察しないと分からないが、近頃
少し元気の無い夫に、奈津子は強く心を痛めていた。恵は感じてい
ないと思うが、肌を合わせる妻だからこそ感じるのだ。田倉とのこ
とが発覚したわけでは無いと思う。自分の行動に不自然さがあるせ
いか。

逞しい男の体の味を知った、快楽を求め愛欲に狂うこの身体が、今、
別れることなど出来るはずもない。田倉ともベッドの中で話し合う
ことはあるが、
「この状態であなたが良ければ、私はいい」
田倉は言う。そして再び荒々しく貫かれると、好き、好きっと悶え
ながら、田倉の頭を抱きかかえ、貪欲に快楽を貪るのである。夫と
では決して得られない、背徳的な悦楽を求めていく時間である。

そして今は、愛している夫を裏切り、夫以外の男に、この身を捧げ
る行為こそが、より一層、快楽を得られることを覚えた。

もしかしたら、疑っているのかもしれない。ずっと昼に逢っていた
が、仕事の都合上、その日は田倉は抜け出せなかった。田倉の身体
を味わえると思っていた、この身体の疼きが抑えられず、連絡して
無理を言った。その夜、田倉と激しく交わった。夫と恵には、久々
に会う友人と食事をする、と嘘を言った。田倉に逢いたいがために、
家族には嘘ばかりついている。

「最近お母さん綺麗になったって、話してたの、ね、お父さん」
「ああ、うん」
義雄がチラッと奈津子に視線を送る。恵が大口を開けて、ご飯を頬
張る。芸能人にでも、恵クラスの美少女はそうはいない。そんな美
少女が、かみ砕いたおかずを舌の上に見せ、大口をあけているのだ。
クラスにも何人か恵に思いを寄せている男子生徒がいるはずだ。こ
んな恵を見たら卒倒するかもしれない。しかし両親の前ではこのと
おりだ。

「まあ、そんなことを」
何も知らない無邪気な娘に、笑おうとする自分の顔が引きつってい
る気がする。
「本当かしら?」
などと言い、恵が唇の端に米粒を一つ付けているのを指さし、引き
つった顔を悟られないよう誤魔化したりする。
「ヘヤースタイルも今風に段を入れるようになったしさ、お化粧
もすっごく上手になったし、なんか、前より少し痩せたみたいだし
・・・・」
「はい、はい、わかりました。どうもありがとう」
恵の話がまだまだ続きそうなので、奈津子は遮るように言って、義
雄にニッコリと微笑み、無理矢理困ったような顔を見せた。気のせ
いかもしれないが、ぎごちなく笑う義雄に再び心が痛む。
「まだまだ女を捨ててないね、お母さん」
恵はそう宣言して、粗方米粒が無くなった口の中に、マヨネーズを
たっぷり乗せたレタスの束を詰め込んだ。そのまましゃべり出すの
で何を言っているのか分からない。恵に注意する奈津子は別のこと
を考えていた。

ヘアースタイルも、化粧も、田倉のためだった。体重も少し落ちて
スリムになってきたのも、田倉とのセックスの、いわゆる汗まみれ
の運動の成果である。ウエストが細くなり、腰の括れが深くなって
きたのは、田倉を咥え込み、フラダンスのように、腰を捻り回して
いる成果なのだ。

そして夫には隠しているが、購入するときはかなり恥ずかしい思い
をした、セクシーなインナーも揃えている。それを初めて身につけ、
田倉に見せる時はすごく恥ずかしかった。

その姿のまま、ベッド脇に立って、見せて欲しいと言われ、大きな
手で腰を掴み、太股を撫で、前を向かせ、後ろを向かせ、体を回転
させ、インナーの上から愛撫され、濡れた薄い布を引きずり下ろし、
半尻にさせ、そこを開き、最も恥ずかしい部分を覗き込まれ、陰唇
を広げ、指を入れられ、内部を掻き乱され、立っていられなくなり、
啜り泣き、抱きしめられる。

次からはもっとセクシーなショーツにしたい、などと思うようにな
った。今まで身につける機会の無かった、鋭くV字に切れ上がるシ
ョーツから、何本かはみ出している陰毛を見つけられた時は、あま
りの恥ずかしさで田倉の胸で泣きじゃくった。

無理矢理浴室に連れて行かれ、見るだけで恥ずかしい椅子に座らさ
れ、股を大きく開くよう指示された。赤くした顔を両手で覆い、カ
ミソリを持つ田倉の手で、整えて貰ったこともあった。その後、太
股を抱きかかえられ、唇で長い時間そこを愛撫して貰い、官能を深
め、狭い湯船の中で後ろから抱きかかえられ、交わったこともあっ
た。自宅の浴室に入るたび思い出しては息苦しさを覚える。

自分の生活の全てが田倉中心に動いていることに愕然と気付いた。
その夜、寝息を立てる夫の背中を見つめ、声上げず泣いていた。

この人を、もう裏切りたくない・・・



別れた妻 3
七塚 10/2(月) 22:31:57 No.20061002223157 削除
 顔を上げた千鶴は何かを言おうとして言葉にならない様子だった。
 その叙情的な瞳から一筋の涙が伝い落ちるのを、時雄は見た。
「ごめんなさい」
 しかし、結局千鶴の口から出た言葉はそれだけだった。
「ごめんなさい、か・・・」
 時雄は呟くように言い、唇を強く噛み締めた。
 いつの間にか、七年の歳月を飛び越えて、あの日あのとき感じた様々な感情が胸に呼び起こされてきたようだった。
 目の前の千鶴は顔をうつむけて、しのび泣いている。
 その様子を見つめる自らの胸に去来する激しい愛憎の念が、今でも強くこの女に結びついていることを時雄は痛みとともに自覚した。
「・・・もういいよ」
 時雄は短く言った。
「そのかわりといっては何だが、これだけは聞かせて欲しい。君の、正直な気持ちを」
 千鶴が顔をあげた。
「君は今、幸せなのか?」
 涙で潤んだ瞳が、驚いたように見開かれた。
「・・・それは」
 戸惑ったような千鶴の声。
 いくら正直な気持ちを聞かせて欲しい、と言われたところで、千鶴ならそれよりもむしろ時雄の気持ちを傷つけない答えを選ぶかもしれない。時雄の知っている千鶴はそういう女だった。
 だからこそ、いま彼女は迷っている。どう答えるのが一番よいのかが分からなくて。分かるはずなどない。時雄自身にも自分の気持ちが分からなかった。


 時雄はその夜、どこをどういうふうに自宅まで帰ったのか覚えていない。
 夜の風が冷たかったことだけは覚えている。
 季節はもう確かに秋なのだ。
 せっかくの休日だったが、何もする気になれなかった。朝食を作る気にすらなれなくて、コーヒーだけですませた。
 煙草を咥えると、胃がきりきりと痛んだ。
 紫煙の向こうに昨夜の千鶴の面影がよぎる。

「幸せ―――です」

 最後に彼女の口から出た一言。その一言がいつまでも、時雄の耳から離れなかった。
  





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不貞の代償11
信定 10/2(月) 22:07:21 No.20061002220721 削除
この電車は揺れがひどいので、好きではない。と言うより嫌悪して
いる。以前酔った帰り、この電車の中で足がもつれて倒れたことが
あるのだ。その時漏れ聞こえた幾つかの失笑が忘れられない。その
時、下手に手をついて手首に捻挫したこと、床に顔面をしたたかに
打ち付け、頬に青タンを作ったのである。利き腕を痛めたので、1
週間ペンが持てず社内でも失笑を買った、曰く付きの電車であるが、
乗らないわけにはいかない。

そんな苦々しい思いを胸に、人垣の間で、吊革に掴まって揺れてい
る、女の横顔を垣間見る。僅かに俯いて、憂いを帯びた横顔だ。自
分より3つ年下なので、38才になるはずだ。でもそれよりずっと
若やいで見える。当然今は人妻だろう。何人か子供を産んで、幸せ
な家庭を築いているに違いない。今でも淑やかさは失われていない。
昔から比べるとやや肉が付いたが、かえって凹凸がクッキリし、若
い頃にはなかった妖艶さを醸し出している。そう、艶があるのだ。

田倉とかは分からないが、本当にあのホテルにいたのだろうか?そ
れはどうしても考えられなかった。考えたくなかった。石橋が知る
限りでは、決してそんな女性ではないからだ。年数は経過したが、
あの人の考え方が変わるはずがない。そうだろう?石橋は小さく頭
を振った。憂いを帯びた横顔は、暗い車窓の、前方のやや下を見つ
めているようだ。彼女は今何を考えているのだろうか。

降りた女の後を追った。流石にこの時間は人影がない。見つかると
いけないので。かなり後から女を追うことになる。やや暗い閑静な
住宅街を女は足早に歩く。10分ほど歩いて、ようやく女の家が分
かった。比較的真新しい、こぢんまりとした戸建ての家だ。やがて
ゆっくりと近づき、その家を見上げた。『佐伯義雄 奈津子 恵』
ポストに張ってある表札にそう書いてあった。

石橋は愕然とした。小柄な佐伯の青白い顔を思い浮かべた。佐伯と
は大学も同じで、同期の入社だ。昇進もほぼ同じで、しかも今は同
じフロアにいる。仕事の件でたまに会話もする。そんな訳で石橋は
多少は意識していたが、会社の同僚というくらいで、私生活までは
お互い接してはいない。佐伯が結婚していることは知っていたが、
住んでいる場所は知らなかった。佐伯は奈津子と結婚していた。そ
の事実に石橋は驚きと同時に、言いしれぬ寂寥感と、敗北感と感じ
ていた。さっきまで飲み屋で一緒だった、はにかむように笑ってい
た佐伯の顔を思い浮かべ、石橋は目尻にうっすらと涙を溜めていた。

***********************************************************

進藤奈津子を知ったのは、大学3年の時だ。その頃は、環境科学な
どのゼミに通うほど、将来への大志を持っていた若者であった。石
橋の受けていたゼミは、他校でも有名で、その講師は、しばしば他
の講堂をかりて講演していた。石橋もゼミの仲間と出来るだけ行く
ようにしていた。そこに奈津子が女性数人とで来ていたのだ。彼女
たちを毎回見かけるため、石橋の仲間の一人が声をかけたのだ。お
互い勉学に励む真面目な学生で、ナンパなどと言うことではなく、
様々な問題に対し、議論をする、いわばサークルのような関係であ
った。当時の奈津子は、際だった美人ではないが、大学生にはとて
も見えない、小柄で童顔の可愛らしい学生だった。初めはさほど気
にしていなかったが、話をするごと、奈津子は優しく思いやりのあ
る女性であることが分かってきた。石橋の胸の内で、奈津子の存在
が大きくなっていった。そしてゼミは、奈津子に会いたいがための
目的に変わっていった。石橋達は大学のゼミに奈津子達を呼んだり
もした。尻込みする彼女たちだが、特に石橋が先頭に立って、半ば
強引に誘うのであった。

そして石橋は奈津子に交際を申し込んだ。女性と付き合ったことの
ない石橋は、生まれて初めての告白だった。何日も悩み、苦悩した
末の告白だった。そしてあっさりと断られたのである。申し訳なさ
そうに言ってはいたが、きっぱりと断られたのだ。後で分かったこ
とだが、石橋は奈津子の好みではなかったらしい。むしろ嫌いなタ
イプであった、のような噂も聞いたのである。奈津子がそんなこと
を口にする女性ではないと思うが、女性に免疫が無い分、絶望は大
きかった。

佐伯と大学が同じと言っても、特に親しかったわけではない。一度
同じクラスになったこともあったが、妙に坊ちゃん坊ちゃんして、
口数が少なく、暗そうな奴だなと思い、あんまり友達にはなりたく
ないな、などと当初は思っていた。

そして偶然にも同じ会社に入り、初めはお互い各地域を転々として
いたが、数年前に、なんと今や同地区に配属になったのである。
「やあ、また君と一緒だね」
人懐っこい顔で、佐伯が声をかけてきた。相変わらず貧弱な体で、
軟弱い顔をしてるな。なにが、君だよ、このボンボンが。などと、
歯牙にもかけなかった。その時は、当然であるが、佐伯は奈津子と
同じ屋根の下で生活を共にしていたわけである。子供まで作って。

結婚して何年だよ。指を折って数えるが、両手では足りないことに、
十本の指を折った後に気づき、次に、今まで何回やったんだ、と、
馬鹿なことを真剣に考えれば考えるほど、キリキリと胃が痛んだ。
石橋のショックは計り知れなかった。

暗い道をうなだれて戻る石橋はハッとと思い出した。ホテルから逃
げるようにして去った奈津子と、後から出てきた田倉の姿である。
田倉は佐伯義雄の直属の上司だ。石橋の頭の中で田倉と奈津子が繋
がった。

***********************************************************

午後1時過ぎに田倉が外出した。それを見た石橋は腰をあげた。
「課長、見積りを貰いに××工務店に行ってきます」
直属の上司の沼田課長にそう告げた。

沼田は頭の禿げ上がった、でっぷりと太った男だ。唇が分厚く、タ
ラコのように赤い。常に顔は脂ぎっていて、酒を飲むと女子社員の
身体にそれとなく触れ、セクハラまがいも平気で行なう、まさに中
年のクソオヤジである。石橋は上司の沼田が大嫌いであった。部下
に平然と責任を押し付け、上司には太鼓持ちのようにヘコヘコする、
最低の上司の鏡のような男であった。石橋は自分のことは棚に上げ、
50を過ぎても、だから未だに独身なんだ。などと陰口を叩いてい
る。

見積りを貰いに行くのは嘘ではないが、目的は田倉の尾行だ。あの
時、田倉を見かけたのは夜だったので、退社時に何度か尾行を続け
たが、この1ヶ月は徒労に終わった。田倉を観察していないと分か
らないことだが、昼に、不定期に数時間外出する日があることが、
やがて分かった。他の社員からみれば、仕事の線上のことだと思う
だろう。まさかと思ったが、昼にこうして尾行することにしたので
ある。

石橋は会社の車に飛び乗って、田倉が運転する、社名の書いていな
い車を追った。10分ほどして、太い通りから脇の細い道に入り、
田倉の車が止まった。石橋はドキドキしながら顔を伏せ、そのまま
通り過ぎ、その先の曲がったところで止まった。しばらくすると、
田倉の車が通りすぎていった。田倉の隣に人が乗っていた。かなり
後ろから目を懲らして見ると、明らかに女だった。やはり奈津子な
のか。

案の定、その車がラブホテルの中に消えた。さすがに中までは入れ
ないので、石橋はホテルの出口が見える位置に車を止めて待った。
時間が恐ろしく長く感じる。腕時計を何度も見るが、全く進んでい
ない。張り込み刑事の心境が分かった気がした。

1時間半ほど経過した時、車が出てきた。身を伏せて、慌ててカメ
ラを構えた。息苦しさもあったが、この際見つかっても構わないと、
半分投げやりの気持ちもあったので、意外と大胆に構えられた。

田倉の隣に乗っていたのは、奈津子だった。二人とも前方を見つめ
ていた。自分には気づかなかったと思う。1時間以上行った情事の
後の奈津子は、何を思っているのだろう。そして、屈み込むほどの
痛みが、ミゾオチに差し込んだ。



別れた妻 2
七塚 10/1(日) 21:49:31 No.20061001214931 削除

「あなたはどうなんですか?」
千鶴がぽつりと言った。
「どういう意味?」
「再婚のことです」
「まさか。していないよ」
「どうして?」
「どうしてって。この年だし、仕事が忙しいし、なかなか女性と知り合う機会もないよ」
「そんなことないと思うわ。時雄さんはハンサムだし」
時雄の胸が疼いた。
(『時雄さん』か)
そう呼ばれたのは久しぶり―――七年ぶりだ。
「僕はハンサムなんかじゃない。金持ちでもない。おまけに女房を他の男に奪われるような、情けない男だ」
「・・・・・」
千鶴の顔が哀しげに曇った。
「・・・すまない。僕は相変わらずだ。過去のことは忘れるなんて言っておいて、僕にはとても出来そうにない」
「当然だわ。あなたには私を責める資格がある」
「・・・・・・」
時雄は思い返す。
あの日のことは忘れられない。あのとき目にした光景は胸の中に今も生々しい傷跡を残し、折につけてじくじくと痛んでいる。

雨の日だった。
商談相手の都合で急に出張が取りやめになり、雨の降りしきる中、時雄は夜遅くになって自宅へ帰ったのだ。
鍵を開け、玄関へ入ってすぐに異変に気づいた。
見たことのない男物の靴がそこにあったのだ。
そのとき感じた戦慄は、今でもはっきりと覚えている。
静かな家は雨の音以外、何も聞こえなかった。
音を立てないように時雄はゆっくりと廊下を進み、汗ばんだ手で寝室の戸を開けた。
そこで目にしたものは、今でも夢の中に時々出てくる。
ベッドの上に二人がいた。
千鶴と、そしてもう一人の男。最悪なことに、その男は時雄のよく知っている男だった。
二人は裸でシーツにくるまっていた。
そして―――夫婦は終わった。

「あのとき、君は何も語らなかった。何も言い訳をしなかった。ただ『ごめんなさい』『離婚してください』と言うばかりだった。僕は君を憎んだ。怒りのあまり殴りさえした。それでも君は何も言わなかった。最後には何もかもどうでもよくなって、離婚に同意した」
時雄は一気にそう語ってから、ほうっとため息をついた。
「正直に言うよ。今でも時々そのことを悔やんでいる」
「あなたには本当に悪いことをしてしまいました」
気がつくと、千鶴の瞳が潤んでいた。
「・・・いや、たしかに僕はあの頃いい夫じゃなかった。仕事にかまけて夫らしいことはは何ひとつ・・・。だから今でもずっと後悔しているんだろう」
「あなたはいい夫でした。それは私が誰よりもよく知っています」
千鶴は小さな、しかしはっきりした声でそう言った後、上目遣いに時雄を見た。
「ごめんなさい。それならなぜあんなことになったんだと仰りたくなったでしょう」
「いや・・・」
一瞬否定しかけた時雄だったが、ふと黙ってグラスを見つめた。
「そうだな、正直に言ってそう思った」
「ごめんなさい」
「謝らなくてもいい。ただ・・・理由を教えてくれないか。そうでなければ、僕はいつまでも先に進めそうにない」
千鶴は瞳を伏せ、また哀しい顔をした。
形のいい額の下で、長い睫が震えていた。
やがて―――千鶴は顔をあげた。



別れた妻 1
七塚 10/1(日) 21:47:36 No.20061001214736 削除

秋の日だった。
通山の大通りから少し外れた雑居ビルの二階にそのバーはあった。初めて入ったそのバーのカウンターで横村時雄が飲んでいると、ふと横からホステスの視線を感じた。
年のころは三十半ばくらいか。細面の顔、大きすぎるくらいの瞳が時雄の顔を見つめていた。
見間違えるはずもない。
「千鶴・・・・」
思わず呟いていた。
別れた妻、千鶴がそこにいた。
実に七年ぶりの再会だった。

「こうしていても、何から話していいか分からないが・・・まず言おう。今夜は久々に会えて嬉しかった」
「そう言ってもらえると、ほっとします」
時雄の言葉に、千鶴は顔をうつむきがちにしたまま小さく答えた。
その言葉の意味は、時雄にはもちろん分かる。
「・・・昔のことは忘れよう。さっきも言ったとおり、今夜は久々に君と会えて嬉しかったんだ。出来れば別れるときも、楽しい気持ちで別れたい」
すっと顔を上げて、千鶴は時雄を見つめた。昔と変わらず、いや昔よりもさらにほっそりと痩せている。
(少しやつれたか・・・)
時雄は思う。千鶴は時雄の心を読んだかのように、恥ずかしげにまた瞳を伏せた。
「だいぶ年をとったでしょう。恥ずかしい」
「お互い様だ。老け方なら僕のほうがひどい」
「あなたは昔と変わらない。いえ、昔よりも活き活きとして見えるわ。きっと充実した生活を送っていらっしゃるのね」
千鶴の言う「昔」が、二人が夫婦だった頃を指しているように聞こえ、時雄はとっさに何も言葉を返せなかった。

「今日は本当に驚いたわ。まさかこんなところで再会するなんて」
千鶴は相変わらず酒が強くなく、少し飲んだだけでほんのり赤くなっている。
「僕のほうこそ。まさか」
君がホステスをやっているなんて―――と言いかけて、時雄は黙った。少なくとも時雄の知っている千鶴は、およそ水商売とは生涯縁のなさそうな女だった。
千鶴はすべて察したように、
「いろいろあったんです」
と言った。
それは、そうなのだろう。でなければ、三十も半ばを過ぎた女が、こんな裏ぶれたバーでホステスなどやっているわけはない。
「ひとつ聞いていいかな?」
「どうぞ」
「君は再婚しているのか?」
少しのためらいの後、千鶴はうなずいた。
「・・・そうか。相手はやっぱり木崎なのか?」
昔のことは忘れよう、と自分から言っておきながら、時雄はやはり聞かずにはおれなかった。
千鶴はまたうなずいた。
「そうか・・・」
「ごめんなさい」
「謝る必要はない」
そう言いながらやはり、時雄は胸を切り裂かれるような痛みを感じていた。



不貞の代償10
信定 10/1(日) 18:22:15 No.20061001182215 削除
石橋は会社の連中と飲んだ帰り、無性に女が抱きたくなった。この
男ほど顔の表情に乏しい人間はとんと見ない。人はまずおおよそ顔
で判断されるが、付き合って見ると相反することは多い。しかし石
橋の場合、表情に乏しく、暗そうな顔と性格はほぼ一致している。
これほど顔と人間性が合致する人間は類を見ない。

中学、高校と水泳部に所属していたので、外観からも分かるが、そ
れなりに鍛えられたは肉体は持っている。今でも時々室内プールへ
は泳ぎに行く。もっとも今は健康の為と言うより、女の水着姿見た
さに行くのだが。少々遠くても、立派な設備のプールの方が、いい
女のいる確率は大きいのでそうしている。勿論、一日300円の市
営プールだ。176pの身長でなかなかりっぱな肉体を持っている
にも関わらず、その後ろ姿すら、貧相に見えてしまうから不思議だ。

5年前、短大を卒業して入社してきた女性がいた。可愛らしい新入
社員は、石橋の部下として働くことになった。

新入社員なので当然のことであるが、仕事は石橋の指示に、笑顔で
ハキハキと応えてこなしていた。名の知れた上場企業に採用された
新入社員は皆、意欲や志のエネルギーを強く発散している。

彼女も例外ではない。そして石橋は彼女の笑顔が自分に向けられた
好意と勘違いした。

石橋から何度か食事を誘われ、初めのうちは理由をつけ、やんわり
と断り続けていたが、たびたびの上司の誘いを無下に断るのも失礼
と思い、行くこともあった。その後も何度か食事に誘われることに
なる。

他にも部下がいるにもかかわらず、必ず自分と二人だけなので、お
かしいと思っていたら、ある日、食事の後、ホテルに誘われたのだ。
当然ことわり、その場を走るようにして去った。

彼女に付き合っている男がいることも知った。その後、石橋は彼女
の退社間際に多くの仕事を与えたり、また、用事があるので帰りた
いと言う彼女に、小言を言っていた、などと、真相は定かではない
が、そんな噂が流れた。

その後、彼女が退職したのは、石橋の陰湿な虐めのせいだと噂が立
ち、それ以来、社員の間での石橋への評価は地に落ちた。

今回は、同フロアで働いている一人が、移転になることの送別会な
ので、例外なく、全員にお誘いのチラシが回ってきた。会費の半分
は会社持ちということもあり、酒は嫌いな方ではない石橋も行くこ
とにしたが、やはり殆ど話し相手もいなく、何となく居づらく、自
ら早めに切り上げてきたのであった。好みの女子社員の私服姿に密
かに欲情し、ホテトルの電話番号を回した。

化粧のきつい若い女は、金を受け取ると、さっさと出て行った。後
に残った石橋は、今の女の体を思い浮かべ、タバコをふかしていた。
声一つ上げない可愛げのない女だったが、若いだけあって体はまあ
まあだった。へへへ、と一人で笑い、服を着る。金はかかるが、し
ょうがない。性欲は押さえられない。40才を超えているが、独り
身でもあり、まぁ、金の不自由はない。石橋はすっきりした気分で
ホテルを出た。

石橋が使ったのは、何軒かあるホテルの中でも一番安いホテルだ。
本当はホテルに金はかけたくないが、ソープランドの女を抱くより
、ホテトル嬢の方が生々しいと思えるので、そうしている。キャバ
クラなどは、口べたのせいもあり、女と話をするのが面倒なので行
かない。手っ取り早く女を抱けるシステムを利用している。

ホテルを出ると、外は暗かった。腕時計を見ると、9時を過ぎてい
た。シーンと静まりかえったホテル街は誰も歩いていない。休憩¥
○、○○○などとと書かれたピカピカに磨かれた看板が、街灯でキ
ラキラ光っている。

さて、ビールでも買って家で飲むか、と呟き、伸びをしていると、
前方の高級そうなシティホテルから一人の女が出てきた。と言うよ
り、前方に忽然と女が現れたといったほうが良い。ホテルの前なの
で、そこから出てきたと思ったのだ。

石橋は何気に目をやると、女もこちらを見て、慌てて顔を伏せ、足
早に去っていった。若い女ではない。年齢は食っているようだ。そ
して石橋の脳裏にチカッと光を感じた。一瞬ではあったが、女の横
顔に微かな記憶があった。女の走り去った曲がり角を見つめて、そ
の記憶を蘇らそうとした時、女が出てきたと思われるホテルから、
背の高い男が出てくるが見えた。アッと、危うく声を出しそうにな
り、口を押さえ、慌てて路地に身を潜めた。

セクションは違うが、なんと、同じのフロアの上司の田倉だった。
田倉もこんなホテルを利用するのか。などど思いニヤリとした。
ん?相手はさっきの女か?一人で出て来た不自然な行動に石橋は首
をかしげた。こそこそしなければならない相手ってことか?ふん、
なかなかやるなぁ。まさか、人妻。不倫でもしているのかな。など
と考えた。

実際は知らないが、田倉の女遍歴の噂だけは聞いている。女子社員
にモテ、仕事も実際出来る男なので、意外に大きな噂にはならない
。田倉なら許せるということか。ふん、俺には関係ない。所詮田倉
には適うはずもない。言えることは、田倉の下半身は節操がないと
いうことじゃねえか。自分を棚に上げ、鼻をフンと鳴らした。

田倉は年増の女が好みなのか、やはりさっきの女は人妻かもな。し
かし、こんなところに出入りするような女には見えなかったぞ。そ
う、品があるんだ。田倉かどうか分からんが、あそこから出てきた
と言うことは、くそ、やっぱり一発やられた後かよ。などと、勝手
に考え、田倉の小さくなる後ろ姿を見つめていた。人間の頭脳とい
うのはどういう仕組みなのか、突然、鋭い閃光が脳裏に走り、再び
アッと声を上げそうになった。

さっきの女が誰だったかを思い出したのである。石橋の思い出した
女は、こんなホテルとは全く無縁であるからして、思い出すのに時
間がかかったのだ。別のところであれば、直ぐに思い出すに決まっ
ている。

石橋は急いで女の後を追った。路地を走った。うわっと声を上げ、
途中落ちていた空き缶を踏んづけて転びそうになった。前方を見据
えるが女は見えない。石橋は大通りに出た。息があがっている。人
通りが多くなる。左右を見回すが何処にも見えない。とりあえず駅
の方へと走った。

こんなに走ったのは久しぶりだ。これほど必死になったことは記憶
にない。運動のため室内プールへ通ってはいるが、学生の頃のよう
に本格的には泳がない。むしろ、女の水着を見たいがため、座って
いる方が多い。とても運動をしているとは言えず、中年になり、贅
肉も付き、腹も突き出てきた。40過ぎの中年は走るのはやはりき
つい。

女の姿を見つけた時は、あまりの懐かしさに胸が震えた。



立場39
Retaliation 10/1(日) 03:05:59 No.20061001030559 削除
床に座りこみ、うな倒れる男、その男に冷たい眼差しを向ける女、そしてその女を見つめる男、リビングに沈黙が流れました。
そしてその沈黙を破り言葉を発したのは理香でした。

理香「見てたんでしょ?私と〇〇さんのしてた事を、ならわかるでしょ?私が本当に感じてた事も、演技じゃないって事も」

吉崎「・・・」

理香「もうアナタとはこんな事は出来ないし、したくもないわ。触れられるのでさえ嫌だと思ってる。もう私達は終わったのよ。だから離婚しましょ」

ここでやっと私はこの状況が理解出来ました。理香が吉崎と離婚する為に私は利用されたのです。理香がこんな事をする女だとは思っていなかった私は驚きました。その間も理香は吉崎に何かを言っていましたがあまり覚えていません。しかし吉崎が体を震わせ何かを呟いていたのは覚えています。

その吉崎が突然起き上がり私の所に来ました。そして私の胸元を掴み自分の方へ引き寄せました。理香は私と吉崎を離そうと「やめてっ」と言いながら引き離そうとしていますが吉崎の力は強く私を離す事はありません。吉崎の顔は頬はこけ目の下には隈が出来、顔色もあまりよくありません。今にも吉崎は私を殴ろうとしたような緊迫した状況の中、私はある事を思い出していました。

実は私は吉崎の事を一度見に行った事がありました。あれは興信所の結果を聞き終え家に戻る前です。何故か私の足は吉崎の会社に向かっていました。会社の近くで吉崎が出てくるのを待ちました。私がそこの到着して30分程たった時、やっと写真に妻と一緒に写る男が現れました。第一印象で吉崎に対して感じた事は、仕事はバリバリこなすやり手の男、そしてモテそうな大人の男と感じました。「あぁ負けた」と純粋に思いました。

しかし今の吉崎にはその面影すらありません。可哀想とすら同情してしまいそうです。

吉崎「何故ここまでする。俺を馬鹿にして満足かっ・・・壊しやがって、俺の全てを奪いやがってっ」

何を言ってるんだこの男は、そう思うと何故か面白く感じられます。気付いた時には吉崎の手首を掴み自分から引き離していました。

私「壊した?俺が?壊したのはお前自身だろ。自分で壊したんじゃないか、そうだろ?お前と洋子が不倫などしなきゃ俺と理香がこんな関係になる事はなかった。お前にわかるか?信頼しきった相手に裏切られたと知った時のショックの大きさが、今お前が感じている事の非ではないぞ。全てが壊されるんだ、昨日まで一緒に笑っていた事が全て嘘に感じるほどにな」

近くにあった水を一気に飲み干し、乾いた喉を潤すとまた私は話し始めていました。

「それにお前は以前も不倫をしていたらしいな。理香から聞いたよ。それに懲りずまた不倫をした。そして今こうなった。どうだ?それでも俺が壊したのか?お前は何も悪くないのか?まさかお前も寝取った人妻の亭主にここまでされるとは思ってなかったみたいだな。どうだ?少しは俺や理香の気持がわかったか?」

興奮しきった私はまだまだ吉崎に言いたい事がありました。
しかし異常な喉の渇きを感じ理香に頼み飲みの物を頼みました。まるで誰が家人かわからない状態です。



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